M&Aにおける損害賠償請求の要件とは?表明保証の目的や内容についても解説

M&Aでは、多額の資金が必要になるため、取引後に予期せぬトラブルによって損害賠償請求が発生することも少なくありません。

特に、買主側と売主側の当事者間で行われる表明保証条項の違反は、損害賠償請求の発展する多くの原因です。そのため、トラブルを防ぐためにも表明保証条項の内容は重要です。

そこで今回は、M&Aにおける損害賠償請求の要件や表明保証の目的や内容について解説していきます。

M&Aを行う上でのトラブルを回避するためにも、この記事を最後まで読んで参考にしてください。

Contents
  1. M&Aにおける損害賠償請求の概要
  2. M&Aで損害賠償請求が発生する主な原因とは
    1. 表明保証条項の違反
    2. 契約違反
    3. デューデリジェンスに対する協力遵守条項の違反
    4. 買収後に税務や労務・財務リスクが顕在化した
  3. 損害賠償請求の一般的な流れ
    1. 問題の発覚
    2. 内部調査と証拠の収集
    3. 相手会社への通知
    4. 協議・示談交渉
    5. 法的措置の検討
    6. 損害賠償の履行
  4. M&Aで損害を被るリスクを防ぐ方法
    1. 売主側が損害賠償請求のリスクを防ぐ方法
    2. 買主側が損害を被るリスクを防ぐ方法
  5. M&Aにおける損害賠償請求の多くは表明保証条項の違反が原因
  6. 表明保証条項とは
  7. 表明保証条項の必要性
    1. 情報格差のリスクを解消する
    2. デューデリジェンスでは見抜けないリスクもある
    3. 契約後のトラブルの備えになる
    4. 契約後の紛争防止になる
  8. 表明保証条項の目的
    1. 事実の保証・透明性の確保
    2. 買主側のリスクヘッジ
    3. リスクの分担と交渉の基盤作り
  9. 表明保証条項に記載される内容
  10. 表明保証条項に違反があった場合
  11. 表明保証条項が問題となる例
  12. 表明保証条項を制定するときの注意点
    1. 売主側の場合
    2. 買主側の場合
  13. M&Aにおける損害賠償請求の裁判例
    1. 買主側の主観について判示した裁判例
    2. 売主側の主観について判示した裁判例
  14. まとめ

M&Aにおける損害賠償請求の概要

M&Aは、会社の成長や事業再編の際に活用される手段です。M&Aでは多額の資金が必要となるため、契約の不履行や虚偽の情報提供などによって損害賠償請求に発展することも少なくありません。

M&Aにおける損害賠償請求は、取引の際に決められた契約を違反したり、法的義務を果たさなかったりした場合に、損害を受けた側が損害賠償を請求する法的手続きのことです。

一般的には、民法上の「不法行為責任」や「債務不履行責任」が根拠となります。M&A契約書で規定された内容に違反した場合も契約責任に基づいて請求されます。

M&Aで損害賠償請求が発生する主な原因とは

M&Aで損害賠償請求が発生する原因は、主に以下のとおりです。

・表明保証条項の違反

・契約違反

・デューデリジェンスに対する協力遵守条項の違反

・買収後に税務や労務・財務リスクが顕在化した

それぞれ詳しく解説します。

表明保証条項の違反

M&Aでは売主側が表明保証を行います。表明保証とは、自社の経営状態や財務内容などに関する内容が正確であることを表明し、その内容を保証することです。M&Aの契約が成立させる情報として重要な要素となっています。

表明保証の内容に虚偽があったり、不正確だったりした場合は、買主側が損害賠償を請求できます。

以下のようなケースが主な例として挙げられます。

・実際の売り上げや利益よりも多く記載していた

・公開していない債務や訴訟リスクがあった

・税務や法務などのリスクが開示されていなかった

M&Aにおける損害賠償請求の多くは表明保証違反が原因です。表明保証条項の詳しい内容については後述します。

契約違反

M&Aでは、会社を買収したあとの一定期間は売主側に対して「秘密保持義務」や「競業避止義務」などの義務が課される可能性があります。売主側が競業事業を立ち上げたり、顧客情報を持ち出したりすることを防ぐことが目的です。

契約違反があったときは、買主側に経済的な損失が発生する可能性があるため、損害賠償請求の原因となってしまいます。

デューデリジェンスに対する協力遵守条項の違反

M&Aでは買主側が相手会社に対してデューデリジェンスを行います。デューデリジェンスとは、相手会社について詳細な調査や分析を行うことです。主に、企業価値や会社のリスクを評価します。

M&Aにおいてデューデリジェンスは、重要なプロセスとなるため、売主側は正確な情報提供や必要資料の開示などに協力する義務があります。

しかし、売主側が意図的に誤った情報提供をしたり、必要資料の開示に対して不完全な資料を提供したりした場合に、買主側が損害を被る可能性があります。このような場合には損害賠償請求が発生します。

買収後に税務や労務・財務リスクが顕在化した

M&Aの契約が成立し、会社を買収したあとに問題が顕在化した場合にも損害賠償請求が発生する可能性があります。

相手会社の特許や商標に瑕疵があったり、従業員の残業代を未払いしていたりして問題があった場合、事前に情報の開示をしていなければ、損害賠償請求の対象になります。

ブログカード記載

損害賠償請求の一般的な流れ

M&Aにおける損害賠償請求は、単に「契約違反があったから請求すればよい」という単純なものではありません。事実関係の整理から法的手続き、実際の支払いまでには、いくつもの段階と判断が必要になります。

流れは、主に以下のとおりです。

・問題の発覚

・内部調査と証拠の収集

・相手への通知

・協議・示談交渉

・法的措置の検討

・損害賠償の履行

それぞれ詳しく解説します。

問題の発覚

M&Aでは、契約締結後に問題が発覚することがあります。よくある例としては、主に以下とおりです。

・買収後に重大な未払債務が発覚した

・提示されていた財務の数値と実際の収支が大きく異なっている

・訴訟案件が隠されていた

これらのような問題は、買収後のPMI(統合作業)や内部監査・第三者からの指摘など、さまざまなルートで明らかになります。特に表明保証条項とズレがある場合は、損害賠償請求の前提が整い始めます。

実際に、契約後に問題が発覚した場合は、どのような契約に違反しているのか、虚偽の表明が本当にあったのかなど、まずは事実を洗い出しましょう。

内部調査と証拠の収集

問題が発覚した場合、すぐに損害賠償請求をするのではなく、まずは事実関係を整理して証拠の収集が重要です。

調査すべき内容は、主に以下のとおりです。

・M&A契約書

・表明保証条項

・デューデリジェンスの報告書

・財務資料・会計記録

・弁護士など専門家の意見書

どの表明保証条項に違反しているのか、損害がどの程度発生するのかなどを客観的に確認していきます。

一般的には、この段階で弁護士や会計士などの専門家と連携し、損害額の試算や契約上の責任範囲の分析を行います。調査が不十分だった場合、その後の交渉や法的措置で不利になるため、丁寧かつ慎重な対応が必要です。

相手会社への通知

事実関係がある程度把握できたら相手会社に対して通知を送ります。通知方法としては書

面での損害賠償請求通知や表明保証違反通知・内容証明郵便の送付などが一般的です。

また、通知を送るときには、記載しておくとよい内容がいくつかあります。それは、主に以下のとおりです。

・どの契約条項に違反があったか

・どのようない実関係に基づいているか

・現時点での損害額の試算やその根拠

・交渉や競技を求める旨と期限の明示

M&A契約では通常、一定期間内に通知しなければ、損害賠償請求できないという通知義務が定められています。この期間を過ぎると権利を失う可能性があります。

通知の内容に曖昧な表現や遅れがあると、相手に反論の余地を与えてしまうリスクがあるため、通知内容の正確性が重要です。

通知を受けた相手会社は、損害賠償請求に応じて交渉に入るか、場合によっては相手会社が請求を否認することもあります。

協議・示談交渉

通知を受けた相手会社が対応を認めるかによって、協議・示談交渉のフェーズに進みます。

双方の主張には隔たりがあるケースが多く、実際には弁護士を交えた交渉が行われます。損害額の妥当性や契約条項の解釈、過失の有無などが争点となり、賠償金額や支払方法・今後の対応策などを合意できるかがポイントです。

この段階で合意に至れば、裁判などを経ずにトラブルを解決でき、費用や時間を抑えることができます。示談書を作成する際は、再発防止や将来の責任追及放棄の文言にも注意を払いましょう。

法的措置の検討

協議での解決ができなかった場合は、訴訟や仲裁などの法的手続きを進めます。

主な法的手続きは、主に以下のとおりです。

・民事訴訟

・仲裁

・調停

民事訴訟は最も一般的な法的手段です。地方裁判所に提起して行います。M&A

契約に仲裁条項がある場合は、仲裁機関に申し立てましょう。

交渉で解決に至らない場合は、裁判・仲裁などの法的手続きに移行するか否かの判断を行います。

この段階では、法的責任の有無や請求額の妥当性、相手の資力・態度などを考慮し、訴訟リスク・コスト・期間などを総合的に比較する必要があります。

M&A契約には、「東京地方裁判所を専属管轄とする」といった管轄合意条項や、「日本商事仲裁協会による仲裁で解決する」といった仲裁合意条項が含まれている場合もあります。どの手段が最善か、専門家の助言をもとに慎重に決定すべきです。

損害賠償の履行

示談や裁判・仲裁などを経て、賠償義務が確定すれば、損害賠償の履行フェーズに入ります。

支払方法(分割・一括)や支払期限・保証の有無などは、合意内容または判決内容に基づいて実行されます。支払いが履行されない場合は、強制執行などの法的手段に移行する可能性もあります。

また、将来的な損害が追加で発生することが予想される場合には、補償契約などを活用することもあります。ここまで来てようやくM&Aにおける損害賠償請求が完結します。

M&Aで損害を被るリスクを防ぐ方法

M&Aでは契約後に損害賠償請求へと発展するケースも珍しくありません。特に「表明保証違反」や「重要な情報の非開示」が原因でトラブルになることが多く、売主側と買主側のそれぞれが事前に適切な対策をとることが重要です。

ここからは、M&Aにおける損害賠償請求のリスクを防ぐための具体的な方法を売主側と買主側に分けて解説します。

実務に即した対応をとることで、契約後のトラブルを未然に回避し、スムーズな事業承継や投資回収に繋げられるでしょう。

売主側が損害賠償請求のリスクを防ぐ方法

売主側が損害賠償請求のリスクを防ぐ方法は主に以下のとおりです。

・表明保証の内容を精査・限定する

・情報開示を徹底する

・弁護士や会計士と契約内容を慎重にチェック

それぞれ詳しく解説します。

表明保証の内容を精査・限定する

売主側がM&Aにおける損害賠償請求を防ぐ上で、最も重要なのが「表明保証条項」の内容を精査し、不要なリスクを避けることです。

表明保証とは、売主が契約時点で自社の財務や法務・労務などに関して正確な情報を保証する条項です。しかし、あいまいな記述や過度な保証は、後々の損害賠償請求の原因となる可能性があります。

例えば「すべての取引先との契約は有効である」などの曖昧な表現は避け、実際に確認できる内容に限定することがポイントです。契約前には、M&Aに精通した弁護士のチェックを受けながら、表明保証の文言を具体化・限定しておくことがリスクヘッジに繋がります。

情報開示を徹底する

M&Aでは、情報開示が不十分だった場合に「表明保証違反」とみなされ、買主から損害賠償請求を受けるリスクが高まります。

特に、簿外債務や潜在的な訴訟リスク・税務問題など、将来トラブルになり得る情報は隠さず開示することが重要です。そのために有効なのが、開示内容を網羅的にまとめた「ディスクロージャーレター(開示書簡)」の作成です。

売主側は、対象会社の全情報を洗い出し、買主側が納得するレベルで透明性のある開示を行うことで、後々の責任追及を未然に防ぐことができます。これはM&Aにおける損害賠償請求リスクを大幅に下げる強力な手段です。

弁護士や会計士と契約内容を慎重にチェック

売主側がM&Aでの損害賠償請求リスクを回避するには、契約書の内容を専門家と共に慎重にチェックする必要があります。特に中小企業のオーナーは、法務や会計の専門知識が

不足しているケースが多く、表面的な理解で契約を進めると、後々トラブルに発展する可能性があります。

財務データに関する保証内容や環境・労務・コンプライアンス関連の表明、免責条項の有無など細かい部分まで確認が必要です。

弁護士や公認会計士のサポートを得ながら、契約書全体を精査し、自身にとって過度なリスクが含まれていないかを丁寧に見極めることが損害賠償請求を防ぐ鍵となるでしょう。

買主側が損害を被るリスクを防ぐ方法

買主側が損害を被るリスクを防ぐ方法は主に以下のとおりです。

・デューデリジェンスを徹底する

・表明保証条項に具体性を持たせる

・エスクローや補償契約を活用する

それぞれ詳しく解説します。

デューデリジェンスを徹底する

買主にとって、M&A取引で後から損害賠償請求を行う事態を避けるには、契約前の「デューデリジェンス」を徹底的に行うことが最も重要です。

デューデリジェンスとは、対象企業の財務・法務・税務・人事などに関する実態を詳細に調査するプロセスであり、ここでの見落としが将来的な損害に直結します。

特に、中小企業では簿外債務や未開示の契約リスクが隠れていることもあるため、複数の専門家による多面的な調査が必要です。しっかりと事前調査を行うことで、後のトラブルを防ぎ、M&Aにおける損害賠償請求のリスクを最小限に抑えることができます。

表明保証条項に具体性を持たせる

買主側は、表明保証条項において曖昧な文言を避け、できる限り具体的な記述を求めるべきです。

例えば、「重大な訴訟は存在しない」という曖昧な表現ではなく、「○○年○月○日時点で、当社に対する訴訟・行政調査は存在しない」といった限定的な保証にすることで、後の責任追及が明確になります。

また、特定の重要事項については別途「特約条項」や「補償条項」として明記するのも有効です。このように、契約書の内容に具体性を持たせることで、万が一の損害発生時にも根拠をもとに損害賠償請求がしやすくなり、M&Aの安全性が高まります。

エスクローや補償契約を活用する

買主側として、M&A契約後に損害が発生した場合でも確実に補償が受けられる体制を整えておくことが重要です。そのための手段として有効なのが「エスクロー口座の設置」や「表明保証保険」の活用です。

エスクローとは、売却代金の一部を第三者(信託口座)に一定期間預ける仕組みで、表明保証違反が発覚した際にそこから損害分を補填できます。

また、表明保証保険を利用すれば、売主側が賠償に応じられない場合でも、保険会社から損害額が支払われるため、リスクの分散が可能です。

こうした制度を契約に組み込むことで、M&Aにおける損害賠償請求の実効性を確保しながら、安全な取引を実現できます。

M&Aにおける損害賠償請求の多くは表明保証条項の違反が原因

先述したように、M&Aで損害賠償請求が発生する多くの原因は、表明保証条項の違反によるものです。

買収後に事情が変わって、最初に説明した内容と異なってしまう場合や説明不足によって損害賠償請求行われるケースもあります。

様々な理由をつけて表明保証条項に違反していると損害賠償請求をされるケースもあります。M&A後のトラブルを防ぐためにも表明保証条項の内容はしっかり理解しておきましょう。

表明保証|株式譲渡契約書を逐条解説!│弁護士法人M&A総合法律事務所

株式譲渡契約書の逐条解説 表明保証の機能と効果 弁護士法人M&A総合法律事務所のM&A契約書類のフォーマットはメガバンクや大手M&A会社においても、頻繁に使…

表明保証条項とは

表明保証条項とは、M&Aの契約時点における一定の事実や状況を「事実である」と表明することです。表明した内容が事実と異なる場合は、責任を負わなければなりません。

表明保証条項は、M&A契約をする上でリスクや情報の格差を補うために非常に重要な役割を果たしています。

表明保証条項の必要性

M&Aでは、高額で複雑な取引が行われます。そのため、買主側と売主側の間に信頼とリスク管理が必要です。

必要性については、主に以下の理由が挙げられます。

・情報格差のリスクを解消する

・デューデリジェンスでは見抜けないリスクもある

・契約後のトラブルの備えになる

・契約後の紛争防止になる

それぞれ詳しく解説します。

情報格差のリスクを解消する

M&Aでは、買主側よりも売主側の方が多くの内部情報を持っています。買主側は売主側の情報にアクセスできないため、情報の格差が生じます。

この情報格差は買主側の大きなリスクになるため、表明保証条項によって売主側の情報が正確であることを保証する必要があります。これにより、買主側が明確な判断材料を得られます。

デューデリジェンスでは見抜けないリスクもある

M&Aを行うときに買主側は、デューデリジェンスを実施します。しかし、時間や資料などの制約があるため、すべてのリスクを調査するのは困難です。

表明保証条項によって、デューデリジェンスだけでは把握できないリスクも発見でき、契約上の責任追及もできます。

契約後のトラブルの備えになる

M&Aは契約後のトラブルも少なくありません。実際に、税務トラブルや簿外債務などが問題となるケースもあります。

このような場合でも表明保証条項を根拠に損害賠償の請求ができます。

契約後の紛争防止になる

表明保証条項で事前に明記しておくことで、もし紛争が起きた場合でも契約をもとに責任追求ができます。これにより、実務上の訴訟や交渉コストを抑えられる効果があります。

表明保証条項の目的

表明保証条項は事実の確認だけでなく、M&A全体通してのリスクマネジメントや信頼性確保のための条項です。

主な目的は以下のとおりです。

・事実の保証・透明性の確保

・買主側のリスクヘッジ

・リスクの分担と交渉の基盤作り

それぞれ詳しく解説します。

事実の保証・透明性の確保

表明保証条項は売主側に対して、会社の財務状況や法的リスクなどの重要事項の事実を明確にします。事実を保証させることで、買主側は安心して意思決定ができます。

買主側のリスクヘッジ

万が一、買収後に問題が発覚したとしても、表明保証の違反があれば、契約違反となり法的に責任追求できます。

表明保証条項によって買主側は、予期せぬ損害に対して備えられます。

リスクの分担と交渉の基盤作り

表明保証条項は、売主側と買主側のリスクの分担と交渉材料としての役割を果たします。

どこまで保証するのか、どのような事項を除外するのかなど重要な交渉ポイントの基盤を作ることができます。

表明保証条項に記載される内容

表明保証条項の内容は契約ごとに異なりますが、M&Aでは主に以下の内容を記載します。

・会社の基本情報

・財務情報

・法令遵守

・訴訟・紛争

・契約関係

・知的財産権

・従業員

これら以外にも、契約の内容によって記載される項目は変わってきます。M&Aでは、契約後に表明保証の違反が発覚するケースも少なくありません。

そのため、契約のなかに保証期間を明記しておくことも重要です。

表明保証条項に違反があった場合

表明保証条項に違反すると「債務不履行責任」が成立し、損害賠償請求の対象になります。

買主側が損害を被った場合は、契約に基づき損害賠償請求が可能です。

ただし、損害賠償請求をするためには、違反の存在や損害の発生・因果関係の立証が必要です。

M&A契約には損害賠償の上限や請求期間などが設けられていることが多いため、これらの条項によって内容は変わってきます。

表明保証条項が問題となる例

M&Aの取引では、表明保証条項の違反があとから発覚して損害賠償のトラブルになるケースは少なくありません。

問題となる典型例を以下の表にまとめました。

ケース 内容 損害の内容例
隠れ債務 簿外債務が発覚 賠償金支払・修正税額支払
訴訟リスク 提訴が発覚 和解金・弁護士費用
財務不正 売上の水増し 株価の過大評価
許認可取消 許認可が期限切れ 事業停止

 

内容によっては、表面上で見えにくくデューデリジェンスでも把握しきれないこともあるため、実務上のリスク管理が重要です。

表明保証条項を制定するときの注意点

ここからは、表明保証条項を制定するときの注意点について解説します。売主側と買主側それぞれの立場で分けて解説して行きます。

売主側の場合

売主側がM&A契約において表明保証条項を定めるときは、リスクを回避するための工夫が必要です。具体的には、保証の範囲などの表現を明確にして想定外の責任追及を避けましょう。

また、開示書面を活用して特定の事実を例外として明記することで、表明保証違反とされるリスクを抑制できます。さらに、表明保証の責任期間や賠償額に上限を設けることも重要です。責任期間は1〜2年に限定するなどの方法が一般的となっています。

表明保証条項の内容は、売主側の将来のリスクに大きく影響するため、専門家にサポートしてもらって慎重に決定していきましょう。

買主側の場合

買主側の場合は、将来的なリスクを見逃さないように具体的な保証を求める必要があります。財務状況や法令遵守・契約関係などについて詳細な表明保証を盛り込むことで今後のトラブルの可能性を未然に防ぐことができます。

また、デューデリジェンスで把握した事実や条項内容の整合性を確認し、開示漏れなどがないかもチェックしましょう。売主側が責任の限定を主張するときは、表明保証保険を活用することで円滑な取引と補償も確保できます。

表明保証に違反したときの損害賠償請求や是正措置などの対応も契約に明記しておくと実効性のある権利行使ができます。

表明保証条項は買主側の保護手段として重要になるため、十分な検討が必要です。

M&Aにおける損害賠償請求の裁判例

ここからは、M&Aにおける損害賠償請求の裁判例を2つ紹介します。

・買主側の主観について判示した裁判例

・売主側の主観について判示した裁判例

上記の裁判例についてそれぞれ詳しく解説します。

買主側の主観について判示した裁判例

東京地裁平成18年1月17日判決

上記の事案は、売主側の表明保証違反について買主側の悪意か過失であるかが問題となっています。

対象会社は決算期の赤字を回避するために、債務者からの弁済金を元本ではなく利息に充てるようにしました。しかし、同額の元本について貸倒引当金の計上をしませんでした。買主側は、処理に対して表明保証に違反していると主張して損害賠償を請求しました。

売主側は、買主側が知らなかったことが重大な過失にあたる場合は、表明保証責任を免れると反論しました。

結果は、買主側に重大な過失はないとして売主らの補償義務が認められました。表明保証条項の違反を争うときには、買主側の主観も考慮される可能性があることがわかる裁判例となっています。

売主側の主観について判示した裁判例

東京地裁平成25年11月19日判決

上記の事案は、買主側が相手会社の完全子会社と株主交換を行い、吸収合併しました。その会社に対して、旧完全子会社の従業員の自殺について、遺族が損害賠償の請求をしました。

結果として、会社と遺族の間で2,000万円の解決金を支払う形で訴訟上の和解となっています。

表明保証条項では、「売主の知る限り」「売主の知りうる限り」と言った限定表現をすることがあります。売主側は上記の事実関係を知っていたのかどうかが争点となり、問題となりました。

買主側は、表明保証違反だと主張しました。しかし、売主側は表明保証の対象になるのは「デューデリジェンスの要求に応じて開示した資料などの事実関係に限定される」と反論しました。

しかし、売主側が会社の経営に深く関与していたことから、事実関係を知らなかったとは言えないと売主側の反論を否定し、表明保証に違反していると判断しました。

まとめ

今回は、M&Aにおける損害賠償請求の要件や表明保証の内容について解説しました。

M&Aで損害賠償請求される原因の多くは、表明保証条項の違反です。表明保証条項は事実の確認だけでなく、リスクヘッジなどの目的もあります。

表明保証条項に記載する内容は、詳細に盛り込んだり、具体的な表現にしたりすることが重要です。表現によっては、どこまで対応すべきか曖昧になってしまうこともあるため、責任期間が賠償額を具体的に示しておくとよいでしょう。

M&A後のトラブルを防ぐためにも、表明保証条項の内容を決定するときは、専門家にサポートを依頼しましょう。