M&Aの表明保証とは?表明保証違反時の責任・解除・損害賠償を詳しく解説

M&Aトラブルにお困りではありませんか?

M&Aを完了した後に、「契約の内容と実際の状況が異なっているのではないか」と不安を感じたことはありませんか?

買収後に想定外の債務や未開示のリスクが見つかることは、決して珍しいことではありません。こうした状況で問題となるのが「表明保証違反」です。

M&A契約書には、売主と買主の双方が契約締結時の事実関係について一定の事項を真実であると保証する「表明保証条項(Representations and Warranties clause)」が定められています。これは、取引の信頼性を担保する中核的な仕組みであり、仮に契約後に表明内容と異なる事実が判明した場合には、売主が法的責任を負う可能性があります。

「虚偽の説明をするつもりはなかった」「相手方も知っていたはずだ」といった主張があっても、契約上は違反と評価されるケースも少なくありません。とりわけ中小企業M&Aでは、情報開示の精度が十分でないまま契約が締結されることも多く、表明保証条項の理解不足がトラブルの要因となっています。

このページでは、M&A契約における表明保証とは何か、違反が発生した場合にどのような責任が生じるのか、そして違反が疑われる場合にどのように対応すべきかを、法的実務の観点から整理して解説します。

\表明保証違反でお困りの方へ/

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Contents
  1. 表明保証とは?M&Aでの基本的な位置づけ
    1. 表明保証条項の意味と目的
    2. 表明保証の対象となる事項
    3. 表明保証条項の法的性質
  2. 表明保証条項の機能と実務での役割
    1. デューデリジェンスを補完する機能
    2. リスク分担・交渉の基準としての役割
    3. 契約後トラブル防止の効果
  3. 表明保証違反とは?成立要件を整理
    1. 【客観的要件】表明内容と事実の不一致
    2. 【主観的要件】故意・過失の要否
    3. 立証責任の所在と判断基準
    4. 要件のまとめ
  4. 表明保証違反が発生した場合の効果
    1. 損害賠償請求の範囲と上限設定
    2. その他の効果(補償請求・期限利益喪失など)
  5. 表明保証条項を設定する際の注意点(売主・買主別)
    1. 売主側の注意点
    2. 買主側の注意点
  6. 表明保証違反の典型例・裁判事例
    1. 典型例
    2. 表明保証違反の裁判事例
    3. 裁判例の傾向と実務への影響
  7. 表明保証違反が発覚した際の対応ステップ
    1. 第1段階:違反の疑いを確認し、事実関係を整理する
    2. 第2段階:クレーム通知(Claim Notice)の送付
    3. 第3段階:双方協議による調査・損害額の算定
    4. 第4段階:補償・損害賠償・和解手続の実行
    5. 弁護士に相談すべきタイミング
  8. よくある質問
  9. 表明保証に関して不安を感じたら専門家へ早めの相談を
    1. 表明保証違反を含むM&A関連トラブルでお困りならご相談を
    2. 一度応諾してしまっても巻き返しは可能か?

表明保証とは?M&Aでの基本的な位置づけ

M&A契約において「表明保証」は、最も重要な条項の一つです。この条項は、契約当事者が取引の前提としている事実関係を明確にし、その正確性を保証する仕組みを定めるものです。具体的には、売主が「契約締結時点において、一定の事実が真実かつ正確である」と表明し、それが事実と異なる場合には法的責任を負う、という性質を持ちます。

M&Aは企業全体や事業の譲渡を伴う大規模な取引であり、買主がすべての情報を完全に把握することは現実的に困難です。財務諸表、税務申告、取引契約、知的財産、労務管理など、企業活動のあらゆる側面を短期間で精査するには限界があります。そのため、契約上の安全装置として「表明保証条項」が設けられ、買主が入手できなかった情報リスクを一定の範囲で契約によりコントロールする仕組みが構築されています。

表明保証条項の意味と目的

表明保証条項の基本的な目的は、①情報の非対称性を補うこと、②リスク分担を明確にすること、の二点にあります。

まず、情報の非対称性の是正です。M&Aでは、売主が対象会社の内部情報を圧倒的に多く保有しています。買主はデューデリジェンスを実施しても、すべてのリスクを把握できるわけではありません。そこで、売主が「特定の事実が真実である」と表明し、それが虚偽であった場合に責任を負う旨を契約上で明記することで、情報格差を埋め、買主が安心して取引を行える環境を整備します。

次に、リスク分担の明確化という側面があります。表明保証条項は、契約締結時に想定し得なかった潜在的リスクに対する責任の所在を定めるものです。違反が発覚した場合には、損害賠償や契約解除などの救済手段を行使することができ、契約当事者間の責任関係を事前に明確化する役割を果たします。

このように、表明保証は単なる契約上の「お約束事」ではなく、M&A取引全体の信頼性を支える法的基盤といえます。

表明保証の対象となる事項

表明保証の対象は契約内容によって異なりますが、一般的には以下のような重要な事項が列挙されます。

  • 財務諸表の正確性(貸借対照表・損益計算書等)
  • 税務申告の適法性および未払税金の不存在
  • 訴訟・紛争・行政調査の有無
  • 労働契約および社会保険の適正な運用
  • 知的財産権の所有・利用権限
  • 主要契約の履行状況
  • 環境法規・許認可の遵守

これらの事項は、企業の経営実態を左右する基礎情報であり、買主が投資判断を行う上で不可欠な要素です。したがって、表明保証は単なる契約の添付条項ではなく、企業価値評価とリスク分析の前提条件として位置づけられています。

表明保証条項の法的性質

法的観点から見ると、表明保証条項は民法上の一般的な債務不履行とは異なり、「契約締結時点の事実の正確性」に関する独立した責任を定めるものです。

実務では、表明内容が客観的に虚偽であれば、売主の故意・過失の有無にかかわらず責任が問われ得る(厳格責任)と整理されます。もっとも、契約文言の設計によっては責任範囲を修正できるため、表明範囲の限定(knowledge qualifier)や重大性の組込み、開示資料(Disclosure Schedule)による例外の特定といった手法が用いられます。

あわせて、将来の行為・状態の約束は原則としてコベナンツ(誓約)の領域で取り扱う点も区別しておく必要があります。

このため、表明保証条項は契約交渉において最も慎重な検討が必要な部分の一つです。売主にとっては「知らなかった事実」でも責任を問われる可能性があるため、表明範囲を限定する「売主の知る限り(to the best of the Seller’s knowledge)」という修正が用いられることもあります。一方、買主側としては、できるだけ広範囲の保証を確保し、将来の損害回収を担保する形で交渉を進めるのが実務的対応です。

このように、表明保証とは単なる契約文言ではなく、M&A契約全体の構造を支える「信頼の前提条項」です。適切な範囲設定と文言調整を行うことにより、契約後の紛争防止とリスク管理を両立させることができます。次章では、こうした表明保証条項がM&A実務でどのように機能するのか、その具体的役割について詳しく見ていきます。

表明保証条項の機能と実務での役割

M&A契約書における表明保証条項は、単に法的な形式を整えるための規定ではありません。その実務的な意味は極めて大きく、契約交渉・デューデリジェンス・リスク管理など、M&Aの全過程に関わる根幹的な仕組みとして機能します。

ここでは、表明保証条項が果たす主な役割を、実務の観点から整理します。

デューデリジェンスを補完する機能

M&A取引では、買主が対象会社の状況を調査する「デューデリジェンス(Due Diligence)」が行われます。しかし、どれほど綿密に調査を行っても、すべてのリスクを完全に把握することは不可能です。調査の範囲には限界があり、特に中小企業M&Aでは資料の不足や開示体制の不備が生じやすいのが実情です。

そのため、買主は契約上の安全装置として「表明保証条項」を設定し、売主が一定の事実を保証する形をとります。これにより、デューデリジェンスでは把握できなかったリスクが契約上でカバーされることになります。

たとえば、「過去3年間、重大な訴訟や行政処分を受けていない」といった表明を受けることで、買主は開示情報に誤りがあった場合、契約に基づいて損害賠償を求めることが可能になります。

このように、表明保証はデューデリジェンスを「補完する機能」を果たしており、契約締結後に発覚する潜在的リスクへの対応手段として不可欠な条項となっています。

リスク分担・交渉の基準としての役割

表明保証条項は、買主と売主の間で「どの範囲まで責任を負うか」というリスク分担の基準としても重要です。契約交渉の段階では、売主は可能な限り保証範囲を限定し、買主はできるだけ広範囲な保証を求めるという利害対立が生じます。

例えば、「売主が把握していない簿外債務についても責任を負うのか」や、「誤りが軽微な場合でも違反と評価されるのか」など、文言ひとつで法的効果が大きく変わります。そのため、表明保証条項は契約交渉における重要な争点の一つであり、その文言には、両当事者のリスク許容度と交渉力のバランスが如実に反映されます。

また、表明保証は交渉過程で「契約上の信頼関係」を形成する役割も果たします。誠実な情報開示を行い、合理的な範囲で保証を提供することは、結果として取引の円滑化にもつながります。

つまり、表明保証条項は単なる法的拘束のための文言ではなく、双方の信頼を担保する“契約上の倫理的基盤”でもあるのです。

契約後トラブル防止の効果

表明保証条項を適切に設けることで、契約後の紛争防止にも大きな効果があります。

取引完了後に新たなリスクが発覚した場合、買主は感情的な交渉や訴訟に踏み切る前に、まず契約条項に基づいて冷静に権利行使を検討することが可能です。

契約書上に「表明保証違反時の責任追及方法」や「損害賠償の範囲・上限」が明記されていれば、紛争の発生自体を抑制し、仮に発生したとしても解決までのプロセスが明確になります。

実際のM&A実務では、表明保証の内容が明確であればあるほど、トラブルの発生率が低い傾向にあります。

これは、双方が契約締結時にリスクを正確に理解し、将来の不確実性を織り込んだうえで取引を成立させているためです。逆に、曖昧な条項のまま契約を締結すると、後日「どの範囲が保証対象だったのか」が争点となり、長期的な紛争に発展するリスクが高まります。

したがって、表明保証条項の設計は、事後的なトラブル防止の最重要ポイントといえます。適切な範囲を設定し、条項間の整合性を確認する作業は、法律専門家によるレビューを必須とすべき部分です。

このように、表明保証条項はM&A取引における「契約実務の安全弁」として、デューデリジェンス・リスク分担・トラブル予防のすべてに関与しています。形式的な文言にとどまらず、取引の信頼性と透明性を担保する制度的装置として位置づけられている点を理解することが重要です。

表明保証違反とは?成立要件を整理

M&A契約において「表明保証違反」とは、売主または買主が契約書に記載した表明内容のうち、事実と異なる事項が存在した場合を指します。

表明保証条項は、契約締結時点における事実を基準にして真実性を保証するものであり、契約後にその内容が虚偽または不実であったと判明すれば、違反として法律上の責任が生じます。

ただし、すべての誤りが自動的に「違反」と認定されるわけではありません。表明保証違反として法的責任を追及するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。

【客観的要件】表明内容と事実の不一致

まず最も基本的な要件が、「客観的要件」と呼ばれる要素です。これは、契約上の表明内容が事実と異なっていることを意味します。

例えば、契約書で「本会社には未払の税金が存在しない」と表明していたにもかかわらず、買収後に過年度の法人税の未納が判明した場合には、表明内容と実際の事実に齟齬があり、違反が成立します。

この客観的要件は、表明した事実が虚偽または不実であることの証明を買主側が行う必要があります。買主が「違反」を主張する際には、対象となる事実の正確な内容、契約書上の表明の文言、そしてそれが不一致であることを明確に立証しなければなりません。

裁判例においても、客観的事実の相違があれば、原則として売主の故意・過失の有無を問わず違反が成立すると解されています。この点で、表明保証違反は一般的な債務不履行よりも厳格な責任構造を持つといえます。

【主観的要件】故意・過失の要否

次に検討すべきは「主観的要件」です。すなわち、売主が虚偽の事実を故意または過失によって表明したかどうか、という点です。

日本の裁判実務では、表明保証違反に関して故意や過失を必ずしも要件とせず、「善意無過失であっても責任を負う」とする立場が有力です。これは、表明保証が“契約上の事実保証”であり、売主の主観的認識とは無関係に、客観的に虚偽であれば違反が成立するという考え方に基づきます。

もっとも、条項の文言や契約交渉の経緯によっては、「売主が知り得なかった事項については責任を負わない」旨の限定が設けられる場合もあります。

 このため、契約書作成の段階で、

 ・「知る限り(to the best of the Seller’s knowledge)」という表現を採用するか

 ・「重大な虚偽または不実の場合に限る」といった限定を付すか

 といった文言交渉が実務上極めて重要になります。

主観的要件に関する判断は、契約書の表現、交渉記録、開示資料の範囲など、複合的な事情を踏まえて行われます。したがって、違反の成否を判断する際には、「条項の文言」と「事実関係の証拠」が双方から慎重に検討されることになります。

立証責任の所在と判断基準

表明保証違反の有無を判断するうえで、立証責任の所在も重要な論点です。原則として、違反を主張する買主側に立証責任があるとされています。

買主は、①契約上の表明の存在、②事実との齟齬、③それによる損害の発生、これらを具体的に証明しなければなりません。

一方、売主側が「自らは故意・過失がなかった」「買主も同様の事実を認識していた」と主張する場合には、その反証責任が売主に移ります。つまり、買主が違反の存在を示したうえで、売主が「免責される事情」を示すことで争点が整理される構造です。

また、違反の「重大性(materiality)」が契約解除や損害賠償の範囲を左右することがあります。たとえ軽微な誤りであっても、契約全体の信頼関係に影響を与える場合は重大な違反と判断されることもあります。

この点については、後述の「違反が発生した場合の効果」でさらに詳しく解説します。

要件のまとめ

表明保証違反が成立するための典型的な構成は、以下の三要素に整理できます。

要件区分 内容 補足
客観的要件 表明内容と事実が異なること 故意・過失の有無を問わないのが原則
主観的要件 売主の認識や注意義務違反の有無 契約文言により修正可能
損害発生 不一致により買主に不利益が生じたこと 損害賠償請求の前提

これらを満たす場合、買主は契約上の救済措置を求めることが可能となります。

表明保証条項の違反は、M&A契約全体の信頼を揺るがす事態であり、実務上は慎重かつ証拠に基づいた判断が求められます。

表明保証違反が発生した場合の効果

M&A契約における表明保証違反が確認された場合、契約上の責任は極めて重大です。

違反が成立すると、買主は契約書に定められた救済手段を行使でき、その内容によっては損害賠償請求、契約解除、補償請求など、取引関係全体を左右する結果をもたらします。

ここでは、主な法的効果と実務的な対応を整理します。

損害賠償請求の範囲と上限設定

表明保証違反が生じた場合、最も一般的な救済手段が損害賠償請求です。買主は、契約書上の表明内容が虚偽であったことにより被った損害を、原則として売主に請求することができます。

損害の範囲

損害の範囲は、「契約が適正に履行されていた場合に得られたであろう経済的状態」との差額によって評価されます。

例えば、表明保証違反によって買収対象企業の実際の価値が下落していた場合、その差額分を損害として算定します。また、未開示の訴訟リスクや税務負担が後に発生した場合には、その金額も損害額に含まれるのが一般的です。

上限設定

売主の責任を無制限とするとM&A自体が成立しにくくなるため、多くの契約では上限額(Cap)や免責額(Basket)を設けます。水準は取引規模、業種、リスク評価、開示状況等によって大きく異なります。

免責額(Basket)は少額請求の抑制を目的に設計され、累積型(deductible)や初ドル型(first-dollar)などの方式が用いられます。各設定は、補償条項全体(期間、手続、除外事由)との整合性を踏まえて交渉により決定します。

実務上の留意点

損害賠償請求を行う際は、単に違反を主張するだけでは足りません。

損害の発生と金額の因果関係を明確に立証する必要があります。買主側は、財務資料や専門家意見書などを基礎に、「違反がなければ支出しなかった費用」や「企業価値の減少額」を具体的に示すことが求められます。

契約解除が認められる条件

表明保証違反の内容が重大な場合、買主は契約の解除を主張できることがあります。もっとも、解除が認められるためには、単なる事実の不一致にとどまらず、契約の根幹を揺るがす程度の重大性が必要です。

重大性(Materiality)の判断基準

重大性は、違反が契約目的に与える影響の程度によって判断されます。

例えば、対象会社の財務状態に大きな影響を及ぼす簿外債務の存在、主要な事業ライセンスの欠如、または経営継続に支障をきたすような重大な不実表示が典型です。一方、軽微な誤記や会計上の小さな誤差などは、通常、解除事由には該当しません。

是正不能・救済不能の要件

また、違反内容が是正不能または救済不能であることも、解除の重要な要件です。

たとえば、虚偽の財務情報に基づいて契約が締結され、その後の是正が不可能な場合には、買主が契約を継続する合理的理由を失うため、解除が認められる余地があります。一方で、修正可能な軽微な誤りについては、まず補償や協議による是正措置が優先されます。

実務上のプロセス

実務では、表明保証違反を理由に契約解除を行う前に、

 ①通知(Claim Notice)によって相手方に違反を告げ、
②合理的な協議期間を設け、
③是正措置または損害補填の提案がなされない場合に解除を検討する。

という段階的手続きを踏むことが一般的です。

このプロセスを経ずに一方的に契約解除を行うと、逆に解除自体が無効と判断される可能性があるため注意が必要です。

その他の効果(補償請求・期限利益喪失など)

表明保証違反によって、損害賠償や契約解除以外にも様々な効果が発生します。

補償請求(Indemnification)

契約上、表明保証違反が発覚した場合に、売主が買主に対して直接的に金銭補償を行う旨を定めるケースがあります。

この補償は、損害賠償と異なり「違反発生=支払義務発生」となる場合が多く、手続きが簡便で紛争リスクを低減できるという特徴があります。

期限の利益喪失

違反の性質によっては、売主が契約上の「期限の利益」を失うことがあります。

たとえば、残代金の分割払いなどを合意していた場合でも、違反が確認されれば即時支払い義務が発生する条項を設けることがあります。

このような条項は、買主の保護を強化する一方で、売主にとってはリスクとなるため、慎重な文言調整が求められます。

信頼関係の破壊的影響

表明保証違反が発覚した時点で、当事者間の信頼関係は大きく損なわれます。

特にM&A後に経営統合を進めている最中であれば、その影響は経営判断や従業員関係にも及ぶことが少なくありません。

したがって、法的効果のみに注目するのではなく、企業経営上の影響を最小限に抑える観点からの対処が不可欠です。

このように、表明保証違反が確認された場合には、損害賠償、補償請求、契約解除といった法的手段が段階的に適用されることになります。いずれの場合も、契約書の文言・事実関係・交渉経緯を総合的に分析し、どの手段を選択するかを慎重に判断する必要があります。

表明保証条項を設定する際の注意点(売主・買主別)

表明保証条項を設定する際に注意すべきポイントを、契約当事者それぞれの立場に分けて解説します。

売主側の注意点

売主側としては、以下の2つに注意しましょう。

明確な情報開示を実施する

明確な情報開示は、表明保証条項に違反かあるかどうかを判断する際に重要なポイントとされています。近年、表明保証違反を争って裁判に発展する事例は増加傾向にあります。さまざまな意味に解釈できるような文言で表明保証条項を作成してしまうと、裁判を行う際に意図していたものとは異なる意味で捉えられてしまい、補償義務や損害賠償義務を求められるリスクが高まります。こうしたリスクを回避するためにも、明確な情報開示を行うことが望ましいです。

虚偽の申告を行わない

M&A取引における売主側は、契約を進めるうえで自社が不利な状況に陥るような情報を公表する必要性に迫られるケースもあります。しかし、こうした情報を隠してしまうと、表明保証条項違反による損害賠償で甚大な損失を被ってしまうリスクが生じます。たとえ公表を避けたいと思うような情報であっても、虚偽の申告を行わずに表明保証条項に正しく記載するようにしましょう。

買主側の注意点

買主側としては、以下の3つに注意しましょう。

デューデリジェンスを徹底する

表明保証条項の作成に際して、デューデリジェンスは非常に重要な役割を担います。徹底的にデューデリジェンスを行わないと、売主側が公表したくない情報が表面化しないケースも少なくありません。将来的に問題となるトラブルを避けるためにも、たとえ多くの資金や時間を費やすことになるとしても、徹底的に調査することが大切です。

サンドバッキング条項を記載する

サンドバッキング条項を設定しておけば、発覚した問題をそのままの状態にして契約を締結したとしても、買主側は後から損害賠償請求を行えます。契約前に買主側が表明保証事項に違反があると分かっており、後に経済的な損失が発生してしまった場合に備えて、サンドバッキング条項を設定し、損害賠償請求を行えるようにしておくことも大切です。

その他

買主側としては、最終的に表明保証条項の項目が減ることになったとしても、M&Aの最終契約書に表明保証条項を極力多く盛り込んでおくことが好ましいです。また、売主側が不自然な形で表明保証条項にこだわるような場合は、売主に対して特にその点についてインタビューを実施するなど、状況を深掘りして対象会社の問題点を追及する姿勢が必要とされます。

表明保証違反の典型例・裁判事例

表明保証違反は、M&Aの現場で最も頻繁に発生するトラブルのひとつです。特に中小企業M&Aやグループ内再編では、情報開示体制の不備や認識のずれにより、契約締結時点では想定していなかったリスクが後から判明することがあります。

以下では、実務でよく問題となる典型例と、それに関連する裁判例の傾向を整理します。

典型例

簿外債務や訴訟リスクの未開示

最も多いのが、買収後に簿外債務や訴訟リスクが判明するケースです。

売主が「債務はすべて財務諸表に反映されている」と表明していたにもかかわらず、実際には未払残業代、リース債務、顧客との係争などが存在していた場合、表明保証違反が成立する可能性が高いといえます。

特に労務関連の債務は、経営者自身が「小規模だから大丈夫」と考えていることも多く、開示漏れが生じやすい領域です。こうした簿外債務は、M&A後に突然請求が届く形で顕在化し、想定外の費用負担をもたらします。契約書上で「簿外債務が存在しない」と明示的に保証していた場合、善意であっても責任を免れることは難しいのが実務上の取扱いです。

財務情報の虚偽表示

次に多いのが、財務情報に関する虚偽表示です。

M&A契約では、直近数期分の財務諸表や経営指標を基に企業価値を算定するのが一般的です。この数値が意図的に改ざんされていたり、会計処理が不適切であったりした場合、表明保証違反が直ちに成立します。

財務情報の不実は企業価値評価に直結し、違反の成否および補償範囲の中心的争点となります。財務諸表の適正性に関する表明が置かれている場合、会計処理の不適切さや重要な虚偽表示が認められると違反評価に傾きやすい一方、契約文言(重大性、知見限定、開示例外)や因果関係の有無によって、認定範囲や損害算定が左右されます。

知的財産・IT関連の表明不備

近年では、知的財産やIT関連分野の表明保証違反も増加しています。特にソフトウェア開発企業やITベンチャーのM&Aでは、ソースコードの権利帰属、ライセンス管理、オープンソース使用の有無などが争点となります。

例えば、「自社が使用しているシステムの知的財産権をすべて保有している」と表明していた場合でも、実際には一部が外部委託先や元従業員の著作物であったと判明するケースがあります。こうした状況では、契約書上の表明内容と実態が食い違うため、表明保証違反が成立しうることになります。

また、サイバーセキュリティ関連では、「過去に情報漏えい事故が発生していない」との表明に対して、後にシステムの不正アクセス履歴が確認された場合、虚偽の表明とみなされる可能性があります。このようなリスクは、業種を問わず企業価値に重大な影響を及ぼすため、近年のM&A実務では表明保証条項において最も厳格な管理が求められています。

表明保証違反の裁判事例

東京地判平成18年1月17日判タ1230号206頁

 まずは、「東京地判平成18年1月17日判タ1230号206頁」を取り上げます。

事案

原告Xは、被告YらからA社の株式全てを取得しました。その後、Yは、Aの有する和解債権について、債務者からの弁済金を元本から利息への充当に切り替えました(以下、「本件処理」と言います)。しかし、Yが同額の元本についての貸倒引当金の計上をしていなかったことが判明しました。なお、Xは、契約締結段階で、Aについてデューデリジェンスを実施していました。Xは、Yらに対し、本件処理が表明保証違反にあたると主張して損害賠償請求しました。Yらは、Xが本件処理について悪意または重過失であり、表明保証責任を負わないと反論しました。

主な論点

売主はどのような場合に表明保証違反の責任を免れることができるのか。

解説

裁判所は、Yらの表明保証違反を認定したうえで、株式譲渡契約締結時において当該違反につきXが悪意であったことを否定しました。そして、判旨は、買主が、契約締結時において、売主の表明保証違反について重過失がある場合は、悪意の場合と同視できるため、売主は表明保証違反による責任を免れると解する余地があるとしています。

東京地判平成23年4月19日金判1372号57頁

次に、「東京地判平成23年4月19日金判1372号57頁」について取り上げます。

事案

原告Xは、被告YからYの子会社Bの発行済株式のすべてを譲受しました。Yは、Xに対し、この株式譲渡に先立ち、Bの事業や経営に重大な悪影響を及ぼす可能性のある債務不履行が発生しているとの通知を受領していないこと等を「重要な点において」正確であることを表明保証しました。Xはこの株式譲渡の後、Bの製造した機械に係る売買契約について債務不履行が生じていたために、この売買契約は解除しています。Xは、この売買契約について債務不履行が生じていたことをYは告知しなかったなど、事実と異なる説明をしたことで本件表明保証に違反したことを理由に、損害賠償を求めました。

主な論点

どのような場合に、売主から開示された情報が重要な点で正確であったと言えるか。

本件において、Yから開示された情報が重要な点で正確であったと言えるか。

解説

論点1について、裁判所は、「買主が株式譲渡契約を実行するか否かを的確に判断するために必要となる客観的情報」が正確に提供されていたか否かという観点から判断すべきとしています。論点2については、当該機械の性能が要求に対して大幅に未達状態にあることの情報開示および、Xは現地調査を行い、当該機械の一部についてはある取引先からの解除が確実である旨の連絡を受けていたこと等により、当該売買契約に係る将来的な危険を予想できたとして、Yは表明保証の対象となる事項について重要な点で不実の情報を開示し、あるいは情報を開示しなかったという事実は認められないと結論付けています。結論として、Yは、Xに対し当該表明保証に基づく責任を負いませんでした。

裁判例の傾向と実務への影響

裁判例を概観すると、表明保証違反が認められるか否かは、①契約文言の明確さ、②開示義務の履行状況、③違反の重大性、の3点を基準に判断される傾向があります。

  • 文言の明確さ:曖昧な表現よりも、「存在しない」「完了している」といった明確な保証文言の場合、違反が認められやすい。
  • 開示義務の履行:売主が事前に開示資料で情報を提供していた場合、その範囲は免責されることがある。
  • 重大性の判断:契約目的や取引金額に対する影響の程度によって、違反の評価が変動する。

実務的には、これらの要素を踏まえて条項を設計し、Disclosure Schedule(開示資料)で例外事実を特定すると、その範囲は原則として表明保証の違反から除外されます。すなわち、具体的事実の開示により、当該事項は表明の射程から外れる設計が可能です。

紛争予防の観点では、表明文言の明確化、開示の精緻化、補償条項(Cap・Basket・期間)の整合的設計が相互に機能することが重要です。

表明保証違反が発覚した際の対応ステップ

表明保証違反は、M&A契約の信頼関係を根本から揺るがす重大な事象です。

発覚した際には、感情的な反応ではなく、法的手続に則った段階的な対応を行うことが重要です。対応を誤ると、違反の追及が困難になるだけでなく、逆に契約違反を主張されるリスクも生じます。

第1段階:違反の疑いを確認し、事実関係を整理する

まず行うべきは、「本当に表明保証違反が生じているのか」を冷静に確認することです。

違反の有無を判断するには、契約書の文言、開示資料、財務書類、やり取りの記録などを突き合わせ、表明された内容と実際の事実の間に不一致があるかを検証します。

この段階で重要なのは、「事実関係の客観的整理」です。

例えば、簿外債務が見つかった場合でも、契約書上で「開示資料に記載された債務を除く」とされていれば、売主は免責される可能性があります。一方で、文言上の限定がない場合には、違反として追及できる余地があります。

実務では、弁護士・公認会計士などの専門家が資料を精査し、違反の成立可能性を一次的に評価(Legal Review)することが一般的です。この時点で曖昧なまま交渉を始めることは避けるべきです。

第2段階:クレーム通知(Claim Notice)の送付

違反の可能性が高いと判断された場合には、速やかに「クレーム通知(Claim Notice)」を発出します。通知は契約の通知条項(Notice)に従うことが原則であり、許容される手段(郵送、クーリエ、書面交付、電子メール等)、宛先、効力発生日は契約での合意内容に依拠します。

多くの契約では期限(例:知得後◯日以内)や方式が定められており、これに反すると請求が制限されることがあるため厳守が必要です。

重要な通知については、後日の証拠化の観点から内容証明郵便等の手段を推奨しますが、最終的な許容手段は契約条項に従います。通知書には、該当条項の引用、具体的事実、発覚経緯、損害(またはそのおそれ)の概要、協議・補償の要請等を明確に記載します。

第3段階:双方協議による調査・損害額の算定

通知後は、双方で協議の場を設け、事実確認と損害額の算定を進めます。この段階では、感情的な対立を避け、客観的な資料と専門家の意見をもとに冷静に交渉することが求められます。

損害額算定においては、

  • 財務諸表の修正後の企業価値との差額
  • 実際に発生した債務支払額
  • 将来発生が見込まれる損害の見積り

などを総合的に評価します。

また、売主側にとっても、根拠なく「違反」を認めることはリスクがあります。誤認を防ぐため、専門家が中立的な立場で損害額を検討するケースもあります。協議の結果、金銭補償・契約修正・その他救済措置が合意されれば、紛争を未然に防ぐことができます。

第4段階:補償・損害賠償・和解手続の実行

協議で解決に至らない場合は、契約書に基づき正式な請求手続を進めます。

多くの契約書では、「協議で解決しない場合、仲裁または管轄裁判所に申し立てる」と定められています。訴訟や仲裁に移行する前に、法的請求書(Letter of Claim)を送付し、再度の交渉を促すことも少なくありません。

なお、補償条項が設けられている場合は、契約書に従って定められた支払方法(一定金額の補填、エスクロー口座からの支払いなど)により対応します。このような措置は、長期化する訴訟を避け、早期解決を図るうえで有効です。

弁護士に相談すべきタイミング

表明保証違反が疑われた段階で、早期に弁護士へ相談することが極めて重要です。

違反の成立や損害の範囲は、契約条項の文言や証拠の収集状況によって大きく左右されます。とりわけ通知期限を過ぎてしまうと、請求が不可能となるおそれがあるため、「疑いがある」と感じた時点で専門家に相談することが推奨されます。

弁護士は、通知書の文面作成、証拠整理、交渉代理、訴訟・仲裁対応など、全段階において法的リスクを最小化するサポートを行います。企業法務部が存在しない中小企業の場合には、専門のM&A法務に精通した法律事務所への依頼が望ましいといえます。

このように、表明保証違反が発覚した際には、 ①事実確認 → ②通知 → ③協議 → ④補償・和解という段階的プロセスを踏むことが原則です。
早期の専門家関与によって、損害を最小限に抑え、企業の経営基盤を安定させることが可能となります。

よくある質問

Q.「情報開示の正確性」に関する表明がある場合、どの程度の説明の齟齬が問題になりますか?
A.交渉・デューデリジェンスの説明と提出資料に齟齬や省略があると、契約上の「情報開示の正確性」との関係で争いになります。どの程度が問題となるかは個別の文言・事実関係で判断されます。

Q.M&A実行後に生じた事由でも表明保証違反になりますか?
A.基準時との関係が問題になります。契約の定め方や事実経過によりますが、実行日前から存在していたか否かが一つの検討ポイントになります。

Q.主要取引先から取引停止を受けました。表明保証違反に当たりますか?
A.売主の説明内容に起因するのか、買主の事後対応に起因するのか等、原因の切り分けが必要です。事案により評価が分かれます。

Q.クロージング後に業績が悪化したら表明保証違反となりますか?
A.直ちに違反と評価されるとは限りません。財務に関する表明との因果関係や、契約の文言等を踏まえて判断されます。

表明保証に関して不安を感じたら専門家へ早めの相談を

M&A契約における表明保証条項は、取引の信頼を支える最も重要な契約要素の一つです。この条項が適切に機能していれば、買主・売主の双方にとって予期せぬリスクを回避し、健全な取引関係を維持することが可能です。しかし、表明保証違反が発覚すると、契約上の地位・責任・金銭的負担のいずれにも深刻な影響が及びます。

表明保証違反は主に ① 簿外債務の存在、② 財務情報の虚偽、③ 開示義務の不履行、④ 知的財産権の不備といった形で顕在化します。

発覚した場合は、冷静な事実確認と適正な手続きをもって対応することが肝心です。とくに、契約書に定められた通知期限や補償手続を逸すると、本来請求できるはずの権利を失うことがあります。逆に、事実関係を慎重に整理し、契約文言と照らし合わせながら行動すれば、損害の回収や適切な和解に至る可能性も十分にあります。

表明保証違反への対応は、法律知識だけでなく、M&A実務・会計・税務の理解も不可欠です。そのため、M&A取引に精通した弁護士に早期に相談し、通知文案の作成、損害算定、交渉戦略の策定などを一体的に進めることが望まれます。

M&Aは、企業の成長や事業承継にとって重要な経営判断です。一度のトラブルでその意義を損なわないためにも、表明保証条項を正しく理解し、違反が疑われる場合には迅速に専門家の助力を得ることが最善策です。

表明保証違反を含むM&A関連トラブルでお困りならご相談を

弁護士法人M&A総合法律事務所では、表明保証違反を含むM&A関連紛争への対応実績を多数有しており、契約段階からトラブル対応まで一貫したサポートを提供しています。契約後に不安を感じた場合は、早めに専門家へ相談することで、最適な解決策を導き出すことが可能です。

一度応諾してしまっても巻き返しは可能か?

当事務所に相談をいただく際に、すでに表明保証条項違反を認めてしまったり、補償請求・損害賠償請求に部分的に応じている方が多くいらっしゃいます。

そのような状況でも、巻き返しをすることは十分可能です。表明保証条項違反の補償請求・損害賠償請求をされた場合は、お早めにご相談することをお勧めします。

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