M&Aのリスクとは?買い手企業と売り手企業のリスクを詳しく解説

M&A(企業の合併・買収)は、事業拡大や後継者問題の解決など、企業にとって大きな成長機会をもたらす経営戦略です。しかし、その裏には数多くのリスクが潜んでおり、法的な備えを怠れば、期待した成果を得られないばかりか、深刻な損失を被る事態にもなりかねません。
実際にM&Aが失敗に終わるケースを分析すると、その多くはリスクの法的な性質を正しく理解せず、十分な準備をしないまま手続きを進めてしまったことに起因します。
本記事では、M&Aを専門とする弁護士の視点から、M&Aに伴う代表的なリスクを「買い手」「売り手」双方の立場から整理し、法務の観点を中心に、失敗を回避するための具体的な対策と注意点を詳しく解説します。
M&Aの一般的リスク
M&Aのリスクには、買い手側または売り手側に特有のリスクの他に、双方が共通して念頭に置いておくべき一般的なリスクがあります。
ここでは、M&Aの一般的なリスクである「手段の目的化」「情報漏洩の危険」「不適切な価格設定」について解説します。
手段の目的化
M&Aはあくまで経営課題の解決や成長戦略を実現するための「手段」です。
しかし、交渉を進めるうちに「M&Aを成立させること」自体が目的となってしまい、本来の戦略から判断がぶれてしまうケースが少なくありません。
買収後にどのようなシナジーを生み出し、企業価値を向上させるのかという具体的なビジョンが曖昧なままでは、統合プロセス(PMI)も円滑に進まず、M&Aは失敗に終わる可能性が高まります 。
M&Aはあくまで経営戦略を実現するための「手段」であることを常に意識し、明確な目的と成功基準を設定することが不可欠です。
情報漏洩の危険
M&Aの交渉過程では、企業の財務情報、技術、顧客リストといった極めて重要な機密情報が扱われます。
これらの情報が外部に漏洩した場合、対外的・対内的に大きな悪影響をもたらしかねません。
〈情報漏洩がもたらすリスク〉
対外的リスク | ・売り手企業が金融機関にM&Aの計画を知られれば、融資を得るのが難しくなる結果、資金繰りが悪化する危険がある。
・取引先に知られてしまうと、「売却を考えている会社」と危険視され、取引を減らされたり打ち切られたりするおそれがある。 |
対内的リスク | ・売り手側の従業員に対して説明する前に売却の事実だけを知られてしまうと、M&A後の将来への不安やモチベーションの喪失から、退職により人材を失う危険がある。
・売り手の有能な人材を欠いた場合、買い手側から買取価格を下げられたり、M&Aそのものが破談になったりするおそれがある。 |
情報漏洩は、売り手と買い手の双方にとって損害賠償リスクにつながります。
交渉開始時に網羅的な内容の秘密保持契約(NDA)を締結することはもちろん 、情報アクセス権限を必要最小限のメンバーに限定し、情報管理を徹底する体制構築が不可欠です。
不適切な価格設定
買い手にとっては「高値づかみ」、売り手にとっては「安値売却」となる不適切な価格設定は、M&Aにおける典型的な失敗例です。
特に買い手側は、競争環境下での焦りから、対象企業の価値を過大評価し、投資回収が困難な価格で買収してしまうリスクがあります。
M&Aの価格設定の主な考え方には、市場で成立している価格を基礎にする「マーケット・アプローチ」、譲渡会社が将来生み出す収益に着目する「インカム・アプローチ」、現在の譲渡会社の企業価値をもとにする「コスト・アプローチ」の3種類があり、さらに類似会社比準法やDCF法、簿価純資産法などの細かい計算方法に分かれています。
これらの専門的な計算方法のメリット・デメリットを踏まえたうえで、最適な手法を選択してM&Aの価格を算出することが重要です。
買い手企業におけるM&Aのリスク
M&Aの買い手は資金を投じる立場であるため、以下にあげるような特有のリスクが多く存在します。
簿外負債・偶発債務のリスク
貸借対照表に計上されていない簿外債務や、現時点では発生していないものの将来的に債務となりうる偶発債務は、M&Aの買い手企業にとって最も警戒すべきリスクの一つです。
具体的には、未払いの残業代、退職給付引当金の不足、訴訟による損害賠償義務、債務保証などが挙げられます。
これらのリスクを回避するためには、財務デューデリジェンスだけでなく、法務・労務デューデリジェンスを通じた多角的な調査が不可欠です。
リスクが発見された場合には、買収価格の減額交渉や契約書における表明保証・補償条項で手当する必要があります。
申告漏れや脱税などの税務リスク
対象企業に過去の申告漏れや脱税が発覚した場合、買収後に買い手が追徴課税や重加算税といった予期せぬ税務負担を負う可能性があります。重加算税の税率は35%と非常に高く、買い手企業にとっては大きな負担です。
特に注意すべき税務リスクとして、海外子会社との取引価格が適正でない場合の移転価格税制による多額の追徴課税リスクがあります。
また、過去のM&Aや組織再編において税制適格要件を満たしていない場合の組織再編税制の問題、課税・非課税の判断誤りによる消費税の追徴リスク、海外への支払いに関する源泉税の徴収漏れなども見逃せません。
税務調査は通常5年間遡及される可能性があるため、過去5年分の税務申告書を詳細にレビューする必要があります。
税務デューデリジェンスを実施し、過去の税務申告が適正に行われているかを確認することが不可欠です。
粉飾決算のリスク
売り手が企業価値を高く見せるために意図的に財務諸表を操作(粉飾)していた場合、買い手は価値のない企業を高く買ってしまうことになります。
また、M&A後の粉飾決算発覚により企業イメージが傷つけられ、業績に影響する危険も軽視できません。
粉飾決算のリスクに備えるためには、財務デューデリジェンスを通じて会計処理の妥当性を慎重に検証し、少しでも疑義があれば徹底的に確認する姿勢が求められます。
また、単に財務諸表を分析するだけでなく、取引先へのインタビューや実地棚卸への立会いなど、実態調査が必要になることもあるでしょう。
粉飾の手口は巧妙化しています。代表的な手口をあげるので確認してください。
- 期末直前の押し込み販売や架空売上の計上による売上の前倒し計上
- グループ会社間での利益操作を行う関連当事者取引
- 実態のない商流を作り出して売上を水増しする循環取引
資金不足によるリスク
M&Aには買収費用の他に、専門家報酬、納税費用など多額の費用がかかりますが、資金が不足するとM&Aを実行できません。
また、M&Aに多大な資金をつぎ込んだために買収後の事業資金が不足するというリスクもあります。
以下の項目には特に注意が必要です。
- 事業拡大に伴う売掛金・在庫の増加による運転資金の増加
- 老朽化した設備の更新や統合に伴うシステム投資などの設備投資
- 事業再編に伴う一時的なリストラクチャリング費用
- 統合作業に必要なコンサルティング費用や人件費などのPMI費用
一般に、自社の資金のみでM&A費用を支払うのは困難であるため、外部からの資金調達を行うのが通例です。
資金調達の方法としては、増資(株主割当増資、公募増資、第三者割当増資)と融資(主に金融機関からの借り入れ)があります。
資金不足のリスクに備えるためには、日頃から信頼性の高い経営を行うとともに、金融機関と良好な関係を築くようにすることが重要です。
また、M&Aの実施にあたっては、最適な資金調達手法を専門家に相談することも効果的です。
株主の真正性に関するリスク
対象会社の株主名簿に記載されている株主が真の株主でない場合や売り手株主の権利関係が複雑な場合、M&Aの効力が覆され、契約が無効となるリスクがあります。
このような株主の真正性のリスクを回避するため、以下の項目をしっかりチェックしましょう。
- 名義株や株券の不発行による株主名簿と実質株主の相違
- 定款上の譲渡制限や株主間契約による株式譲渡制限
- 買収後のスクイーズアウトを困難にする少数株主の存在
- 相続手続きが未了で権利関係が不明確な株式
取引が打ち切られるリスク
M&Aがきっかけで「オーナーが築いていた取引先との個人的な信頼関係が失われる」「担当者や契約条件の変更が取引先に悪印象を与える」といった取引関係の悪化を招くリスクがあります。
特にリスクが大きいのは、売り手企業の契約にCOC(チェンジオブコントロール)条項がある場合です。
売り手企業の契約にCOC条項があると、M&Aによって株主が変わり、会社の支配権が移動したことを理由に、重要な取引先が契約を解除することがあるのです。
取引先を失わないようにするためには、「M&A後にも取引を継続できるように契約書で誓約させる」「クロージングの条件として取引を継続できることを求める」などの対策が必要になります。
許認可を承継できないリスク
売り手企業が許認可を必要とする事業を営んでいる場合があります。M&Aの手法が事業譲渡の場合は許認可が承継できず、新規取得が必要となることも少なくありません。
M&A後に許認可を承継できなければ、再取得するまでの時間が丸ごと損失となります。
許認可の承継可否について監督官庁に確認するとともに、法務デューデリジェンスにより、売り手側がどのような許認可を保有しているか、M&A後に承継できるか、どのような手続きが必要となるかといった点を調査する必要があります。
以下にあげる項目の承継可否は特に注意が必要です。
- 建設業における経営業務管理責任者の要件
- 人材派遣業における派遣元責任者の要件
- 運送業における運行管理者の要件
- 製造業における各種製造許可
IT・セキュリティに関するリスク
近年、ITシステムの重要性が増す中で、ITデューデリジェンスの重要性も高まっています。
対象企業のシステムが老朽化しており買収後に多額の追加投資が必要になったり、個人情報の管理体制に不備があり情報漏洩のリスクを抱えていたり、サイバーセキュリティ対策が脆弱であったりするケースです。
これらのリスクは、事業継続に深刻な影響を与える可能性があるため、専門家による調査が推奨されます。
PMI(統合プロセス)が失敗するリスク
M&Aの成否を分ける大きな要因が、買収後のPMI(統合プロセス)です。
異なる企業文化や人事制度、ITシステムを性急に統合しようとすると、従業員の混乱や反発を招き、キーパーソンの離職や業務効率の低下につながるリスクがあります。そのために統合が失敗すれば、M&Aに期待したシナジー効果は発揮できません。
PMIの失敗をもたらす主な要因をあげますのでチェックしてください。
- どこまで統合するのか、独立性をどの程度維持するのかが曖昧
- 従業員への説明不足による不安の増大
- 価値観や仕事の進め方の違いによる企業文化の衝突
- 統合に反対する経営幹部や技術者の退職
PMIの失敗リスクを下げるためには、デューデリジェンスの段階からPMIを視野に入れ、人事・システム統合の計画を慎重に策定することがカギです。
PMIの経験がある人材を集め、必要に応じて外部の専門家に依頼することも必要でしょう。
労務トラブルが顕在化するリスク
未払い残業代や社会保険の未加入などがM&A後に表面化すると、企業のイメージを損なうだけでなく、労働基準監督官から是正勧告を受ける可能性もあります。
また、潜在的にトラブルを抱えた従業員は十分な活躍を期待できなくなるという点で、M&Aの効果を阻害する要因にもなりかねません。
さらに、未払い残業代等は、簿外債務として財務面で会社経営に予期せぬ悪影響を与えるおそれがあります。
このようなリスクを避けるためには、デューデリジェンスや従業員インタビューを通じて、労働関連法規の遵守状況や潜在的な労務問題を精査する必要があります。
以下の項目は見落としがちですので要注意です。
- サービス残業の常態化やみなし労働時間制の不適切な運用といった労働時間管理の不備
- パワハラ、セクハラ等の潜在的な訴訟リスクとなるハラスメント問題
- 労使協定の内容や団体交渉の状況など労働組合との関係
- 在留資格の適切性や技能実習生の処遇など外国人労働者の雇用に関する問題
売り手企業におけるM&Aのリスク
M&Aは、売り手にとっても事業承継や創業者利益の確定といったメリットがある一方で、慎重な対応が求められるリスクが存在します。
損害賠償のリスク
M&A後のトラブルから、損害賠償が必要になるリスクがあります。例えば、伝えなかった簿外債務や偶発債務が事後に明らかになった場合などです。
このような場面では、責任の所在をめぐって買い手と紛争になることもありますし、最悪の場合はM&Aで売却することによって得られた利益以上の賠償義務を負うおそれもあります。
したがって売り手としては、デューデリジェンスに誠実に対応し、簿外債務の有無や損害賠償に発展しそうなトラブルなどのリスク事項を包み隠さず開示することが重要です。
また、事後に損害賠償請求をされるリスクを低減するために、表明保証保険に加入することも有効です。
顧客喪失のリスク
M&Aは、売り手企業の顧客に不安を与える傾向があります。
なぜなら、M&Aが行われると、従来のサービスや保証が維持されるのか、不利な条件変更があるのではないかなど、既存の顧客は強い不安を覚えるからです。
M&Aに大部分のエネルギーを奪われて顧客への配慮が疎かになると、商品やサービスの品質を維持することができなくなり、顧客離れにつながるリスクが大きくなります。
また、買い手側の企業を良く思わなかったり、売り手側企業の経営状態に疑念を抱かれたりして、顧客離れが進むおそれも無視できません。
競合する他社が、M&Aを顧客争奪の機会と捉えて、攻勢を仕掛けてくるおそれもあります。
顧客喪失の危険に対処するには、既存顧客との信頼関係の維持・構築を重視し、適切な時期にM&Aについて伝え、コミュニケーションを十分に図るようにすることが大切です。
M&Aを成功させるためのリスクマネジメント
これまで見てきた多様なリスクを管理し、M&Aを成功させるためには、以下にあげるような体系的なリスクマネジメントが不可欠です。
M&Aの目的を明確にする
M&Aには、「シナジー効果を実現する」「経営の規模を大きくし規模の利益を得る」「事業の多角化を目指す」「進んだ技術やコンテンツを獲得する」などの多様な目的が考えられます。
リスクマネジメントの出発点は、「何のためにこのM&Aを行うのか」という目的を明確にすることです。目的が明確であれば、許容できるリスクの範囲や、優先すべき交渉条件が自ずと定まるからです。
もし目的が曖昧なまま取り組めば、目的実現のために最適なM&A案件を見つけ出すことが困難になるため、M&Aは失敗に終わるリスクが高くなります
目的とリスクに応じたスキーム(手法)の選択
M&Aには株式譲渡、事業譲渡、合併など様々なスキームがあり、それぞれ引き継ぐ権利義務の範囲や法務・税務上のリスクが異なります。
例えば、会社全体を承継してよいのであれば、株式譲渡で買収を行うことも考えられます。
一方で、債務やリスクをできるだけ引き継ぎたくない場合には、事業譲渡で限定的にM&Aを行うことも考慮すべきです。
目的とリスクを勘案し、最適なスキームを弁護士等の専門家と検討しましょう。
入念なデューデリジェンス(DD)の実施
デューデリジェンス(DD)は、M&Aにおけるリスク発見にとって最も重要なプロセスです 。
売り手企業から提供される情報は限られているため、財務・税務・法務・人事・ITなど多角的な観点から専門家による調査を行い、潜在的なリスクを洗い出してください。
デューデリジェンスで指摘された問題点やリスクをもとに、クロージングまでに売り手企業側に対処してもらったり、将来的に問題が発生した場合に備えて契約条項に反映させたりすることができます。
デューデリジェンスで集めた情報は、M&Aにふさわしい対象企業かを判断する材料にするだけでなく、企業価値の評価に反映させ、買収価格を修正することにも利用します。
M&Aのリスク対策にとって入念なデューデリジェンスは必要不可欠だといえるでしょう。
契約条項によるリスク配分
M&Aの最終契約書に盛り込まれることの多い条項で、特に注意を要するものには、表明保証条項、誓約条項、補償条項などがあります。これらの条項を活用してリスクを適切に配分することが重要です。
表明保証条項
契約当事者間で、一定の事項の真実性・正確性を表明し、保証する条項です。表明保証条項は、責任の分担を明らかにし、損害賠償の範囲を定めることにもつながるため、きわめて重要性の高い条項だといえるでしょう。
デューデリジェンスで明らかになったリスクや課題は、漏れなく表明保証条項に反映させる必要があります。
特に以下の項目は欠かさず盛り込むようにしてください。
- 契約を締結し履行する権限があるか
- 事業のための許認可等を適切に取得しているか
- 計算書類が正確であるか
- 簿外債務や偶発債務がないか
- 未払い賃金がないか
- 係争中の訴訟や潜在的な紛争がないか
- 反社会的勢力と関係していないか
誓約条項
誓約条項では、主に契約締結からクロージング前後までに売り手が遵守すべき義務(事業の通常運営など)を定めます。
クロージングまでの義務の一例としては、非公開会社の株式譲渡のために必要となる承認手続きを行うことや、デューデリジェンスで判明した問題点に対処することなどがあります。COC条項がある場合に、M&A後も取引を継続できるように誓約することも重要です。
クロージング後の義務としては、売り手企業が競業避止義務を負うことなどが挙げられます
補償条項
補償条項は、表明保証が真実・正確でなかったり、契約上の義務に違反したりした場合に、生じた損害を賠償することを定める条項です。
表明保証違反などがあった場合に、売り手が買い手の損害を補償する条件(上限額、期間など)を定めます。
クロージング前からの周到なPMI
別個の組織として存在していた複数の企業を有機的に結びつけ、シナジー効果を生じさせ、会社の業績に反映させていくには、M&Aのクロージング前の段階から周到なPMI(統合プロセス)を行うことが重要です。
PMIを成功させるためのポイントをあげるので参考にしてください。
100日プランの策定・実行
最初の100日間で実施すべき施策を明確にする「100日プラン」を策定して実行しましょう。100日プランでは、短期的に実現可能な成果(Quick Win)を設定し、従業員への説明会や個別面談を実施するなど、統合推進体制を確立することが重要です。
統合レベルの明確化
完全統合、部分統合、独立運営のいずれを選択するか、統合する領域と維持する領域を明確にし、段階的統合計画を策定する必要があります。
コミュニケーション戦略の策定・実行
売り手と買い手の企業文化や従業員の価値観が異なることを前提に、統合ビジョンの共有、定期的な進捗報告、双方向のフィードバック体制の構築、成功事例の共有などを行います。
適切な人材マネジメント
キーパーソンのリテンション(引き留め)施策、適材適所の人員配置、研修・教育プログラムの実施、公平な評価制度の構築が求められます。
PMI全体のモニタリング体制
KPI(目標達成に向けたプロセスを評価するための具体的な数値指標)の設定と測定、定期的な効果検証、問題の早期発見と対処、計画の柔軟な見直しなどを行います。
敵対的買収のリスクマネジメント
通常のM&A(友好的買収)とは異なり、経営陣の同意を得ずに、市場で株式を買い集めるなどして経営権を奪う「敵対的買収」もリスクとして認識しておく必要があります。
敵対的買収を仕掛けられた場合、経営の不安定化、株価の乱高下、従業員や取引先の動揺といった深刻な影響が想定されます。
平時から導入できる敵対的買収の防衛策として代表的なものを確認しておきましょう。
ライツプラン(ポイズンピル)
買収者が一定の株式を取得した場合に、他の株主が有利な価格で新株を取得できる新株予約権を発行し、買収者の持株比率を低下(希薄化)させる手法です。
買収者は新株予約権を行使できないので持ち株比率を高めることができず、結果として買収できなくなるという仕組みです。
黄金株
会社の合併や取締役の選解任といった重要事項に対し、拒否権を持つ特殊な種類株式を、安定株主に保有してもらう手法です。
黄金株を経営者自身や友好関係にある株主が保有すれば、敵対的買収者が現れても、役員の選解任や合併、会社分割などが行えないため買収を阻止できます。
クラウン・ジュエル
買収の危険がある場合に、会社にとって最も価値のある資産や事業部門を手放すことで会社の価値を下げ、買収側の意欲を削ぐことで会社を守る手法です。
ただし、意図的に会社の価値を下げる手法であるため、たとえ買収防衛のためであっても、取締役としての責任を追求されるリスクがあることには注意が必要です。
ゴールデン・パラシュート
ゴールデン・パラシュートは、役員の退職金を高額に設定しておく手法です。
ゴールデン・パラシュートが採用されていると、解任される役員に支払われる退職金が高額になるため、会社から多額の資金が流出し、買収コストが増大します。
これにより、買収によるメリットが低下するために買収意欲が低下するという仕組みです。
COC(チェンジオブコントロール)条項
買収される会社にとって重要な契約にCOC条項が盛り込まれていると、M&Aが原因で会社の支配権に変動が生じたときに、取引先企業は契約を解除できます。
COC条項があることで、敵対的買収者が会社の支配権を獲得した場合でも、取引先が契約を解除することで被買収会社の価値が下がるリスクが生じるため、買収の魅力が下がることになります。
マネジメント・バイアウト
マネジメント・バイアウトは、経営陣が会社の株式を取得することを意味します。
マネジメント・バイアウト後に株式の非公開化を行えば、敵対的買収者は株式を買い集めることができず、買収を諦めざるを得なくなります。
第三者割当増資
第三者割当増資は、買収の危険が生じた場合に、友好関係にある企業に新株を引き受けてもらう方法です。
第三者割当増資により、既存株主の持ち株比率は下がり、友好企業の持ち株比率は上がるので、敵対的買収を抑制する効果があります。
ホワイトナイト
ホワイトナイトは、敵対的買収の危険がある場合に、それに対抗して、自社にとって友好的な関係にある者に買収してもらう手法です。
経営陣の意向をある程度尊重した形で経営権を維持できる点が大きな特徴です。
以上のような敵対的買収の防衛策は、導入や発動に際して法的な要件が厳格に定められており、厳しい経営判断が問われます。検討する際はM&Aに詳しい弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
まとめ
M&Aは、企業に飛躍的な成長をもたらす強力な選択肢である一方、本記事で解説したように、買い手・売り手双方に多様なリスクが存在します 。
M&Aのプロセス全体を通じて、法的な観点からリスクを十分に理解し、徹底したデューデリジェンス、精緻な契約交渉、周到なPMIなどを行えばリスクを最小化することは可能です。
M&Aをご検討の際は、リスクマネジメントの経験が豊富な弁護士や公認会計士のご活用をおすすめします。