敵対的買収とは?意味、仕組み、メリット・デメリット、防衛策も解説
敵対的買収(英語:Hostile Take Over)とは、企業買収の実施に際して、買収の対象となる企業の経営者や従業員などから同意を取り付けることなく行われる形態を意味する言葉です。
日本では敵対的買収の事例は少ないものの、国内需要の限界が指摘される昨今、グローバル・マーケットでの生存競争で勝ち残るための選択肢の1つとして敵対的買収が検討されることもあるため、企業経営者としては把握しておくべき重要な言葉といえます。
そこで本記事では、敵対的買収の概要や仕組み、敵対的買収を行うことで生じるメリット・デメリット、敵対的買収に対する防衛策などを中心に幅広く解説します。
敵対的買収とは
冒頭でもお伝えしたとおり、敵対的買収とは、企業買収の形態のうち、買収の対象となる企業の経営者や従業員などから同意を取り付けることなく行われる買収のことで、別名「敵対的TOB」とも呼ばれています。
敵対的買収における買収側は、対象企業の経営権を支配できる議決権を取得すべく、総株主の議決権の過半数(51%以上)の取得を目指すのが一般的です。
また、日本の金融商品取引法の定めにより、有価証券報告書を提出する義務のある企業の株式に対して、「市場外」または「市場内・市場外の組み合わせ」等による買付けを通じて株券等所有割合が3分の1を超える(34%以上となる)場合は、原則として株式公開買付け(TOB:Take Over Bid)の形式で実施しなければなりません。そのため、敵対的買収における買収側は、TOBの手法を用いて買収を仕掛けるケースが多いものの、市場内における取得のみで議決権の過半数を取得するケースも少なからず見られます。
なお、敵対的買収における買収側は、以下の2種類に大別されます。
買収者の種類 | 概要 |
フィナンシャル・バイヤー |
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ストラテジック・バイヤー |
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レコフの調査によると、2021年における買収や出資拡大のための敵対的TOB(株式公開買い付けなど)が10月までに9件と、年間最多だった2006年の7件を上回っており、金融機関が対象となる異例のケースも見られていることから、これまで長らくタブー視されてきた敵対的買収への抵抗感が薄まりつつある状況です。
敵対的買収が増加する背景には、まず「2019年末からの新型コロナウイルス感染症の流行による災難や危機的状況(通称、コロナ禍)」が挙げられます。コロナ禍により、上場企業では、保有する現金やすぐに現金化できる債券などを増やす動きが目立っています。こうした理由で潤沢な資金を持つ上場企業では、同業他社や他地域の企業を買収しようという発想が生まれやすいほか、資金の有効活用を求める株主からの圧力を受けやすく、敵対的買収の実施につながっている状況です。
また、東京証券取引所による2022年4月の市場再編や企業統治指針の強化を受けて、企業同士の株の持ち合い解消などが促されているほか、少子高齢化やデジタル化の加速により企業再編が進んでいる側面も、敵対的買収の件数増加を後押ししていると考えられています。実際にレコフの調査によると、2021年度における友好的買収を含めたM&A件数は4,280件を記録しており、2019年の4,088件を上回り、過去最多を記録しました。
参考:時事通信社「敵対的買収、なぜ増加? 豊富な資金、株の持ち合い減少―ニュースQ&A」
レコフ「グラフで見るM&A動向」
敵対的買収の目的
敵対的買収の主な目的は、以下のとおりです。
- 買収対象企業の経営権の取得、経営の影響力の増加
- 買収対象企業の転売による利益の獲得
もともと企業の株式を一定以上保有している株主は、保有割合に応じてさまざまな権利を得られます。例えば、発行済みの株式の所有割合が3分の1以上の株主は単独での株主総会の特別決議に対する拒否権が手に入り、所有割合が50%を越える株主は株主総会の普通決議を単独で可決できます。
さらに、所有割合が3分の2以上の株主は、株主総会の特別決議を単独で可決する権限を手に入れ、企業の決議事項の中でも特に重要な承認事項の決定を行えます。この重要な承認事項の具体例には、会社役員の解任などの経営陣の変更・株式や新株予約権の発行・企業の基盤となる要素の変更(例:重要な事業の譲渡)などが挙げられます。
敵対的買収と友好的買収の違い
友好的買収とは、敵対的買収の対義語であり、買収側が企業買収を行う旨を買収対象企業に知らせている場合の買収方法のことで、別名「フレンドリーテイクオーバー(英語:Friendly Take Over)」とも呼ばれています。買収側からすると、買収対象企業に事前に知らせていることから買収に対する同意を得やすく、不信感なくM&Aを進められる点がメリットです。
友好的買収によって、買収側は買収対象企業の技術や人材を得られる一方で、買収対象企業は買収側の基盤などを得られます。そのほか、友好的買収では、企業買収の成立および成立後の統合作業(PMI:Post Merger Integration)に向けて買収対象企業のサポートを得られるなど、さまざまなメリットが期待できます。
敵対的買収の方法
本章では、敵対的買収の方法を、買収側の視点に立って解説します。
もしも買収側と買収対象企業が敵対的な関係にある場合、買収側は友好的買収およびM&A(例:合併・会社分割・事業譲渡)などの手法を選ぶことなく、買収対象企業の株式の50%超を買い集めようとするのが一般的です。
このときに買収側が用いる手法は、基本的に株式公開買付けです。もしも買収側が株式公開買付けを行わない場合は市場取引を行う必要がありますが、市場取引では実施に伴い株価が上昇していく可能性が高いことから、より大量の資金が求められます。
また、買収側としては、公開買付けを行う際、その前段階として、株式市場で対象会社の株式をある程度買い集め、株主名簿閲覧請求権・取締役会議事録閲覧請求権・株主総会招集権・株主提案権・帳簿閲覧請求権など、会社法上、少数株主に付与される権利を得ておくのが一般的です。
株式公開買付けが成功し、買収側が買収対象企業の株式の50%超を保有すると、株主総会で議決権(例:役員の選任権)を行使できます。その後、買収側は、この議決権を用いながら、買収対象企業と協力しつつ事業展開を進めていくのが一般的です。
敵対的買収の実施前に講じる防衛策
ここからは、敵対的買収の対象となる企業が講じることのできる買収防衛策の概要を解説します。まず取り上げるのは、敵対的買収の実施前に講じることが有効的であると考えられている5つの買収防衛策です。
ポイズンピル(ライツプラン)
ポイズンピル(英語:Poison Pill)とは、買収側の買収対象企業における持株比率が一定の水準を超えた場合に、買収対象企業が自社の既存株主に対して条件付きの新株予約権を発行することで、買収側の持株比率を下げる行為で、別名「ライツプラン(英語:Rights Plan)」とも呼ばれています。
ポイズンピルを行う際は、自社の株主に新株予約権を発行しますが、買収側に対しては株式ではなく金銭を交付することで、買収側の持株比率を低下させられます。
なお、新株予約権とは、株式会社に対して行使することで、その株式会社の株式の交付を受けられる権利のことです。新株予約権証券の所有者からすると、新株予約権を行使し、一定の行使価格を払い込むことで、「会社に新株を発行させる」または「会社自身が保有する株式を取得する」ことが可能です。新株予約権の代表的な種類としては、「ストックオプション」「社外向け発行」「無償割当」「有利発行」などが挙げられます。
ゴールデンパラシュート
ゴールデンパラシュート(英語:Golden Parachute)とは、企業買収により買収対象企業の経営陣が解任されたり、権限を減らされたりした場合に、極めて多額の退職金等を支払う契約を締結し、多額の現金の流出を招くことで、企業買収のコストを引き上げ、買収側との交渉材料として活用するという対抗措置のことです。
ゴールデンパラシュートを日本語に直訳すると「金の落下傘」となりますが、これは買収側に乗っ取られた企業から脱出する手段としてお金を落下傘に見立てた表現です。また、同様の仕組みで従業員を対象とする買収防衛策は、「ティンパラシュート(錫の落下傘)」と呼ばれています。
基本的に、買収側による敵対的買収が成功すると、役員は一新されます。そこで、買収対象企業側では、自社の役員の退職金を引き上げておくことで、買収側の買収意欲を低下させ、立場を不利にさせられる効果が期待できるのです。
プット・オプション
プットオプション(英語:Put Options)とは、ある商品を将来のある期日までに、その時の市場価格に関係なく、あらかじめ決められた特定の価格(権利行使価格)で売る権利のことです。
投資家からすると、投資を行う企業の商品を将来的に売却する予定があるものの、価格が下落するおそれがあるという場合に、プットオプションを購入しておきます。そして、投資家は、商品の売買時の市場価格が行使価格よりも低下した場合にプットオプションの権利を行使することで、市場価格よりも高く売ることが可能です。
上記とは反対に、売買時の市場価格が行使価格よりも高くなった場合、投資家はプットオプションの権利を放棄するのが一般的です。なぜなら、市場価格で売る方が、行使価格よりも高く売れるためです。
買収防衛策としてプットオプションを用いる場合、敵対的買収が行われる前に、株主に対してすべての株式の買い取りを請求できる権利を与えておきつつ、債権者に対しては一括弁済を請求する権利を与えておきます。
これにより、買収側では、プットオプションに伴う株主や債権者の請求に対して、巨額の資金がかかるため、買収対象企業からすると買収の抑止力として働く効果が期待できます。
黄金株
黄金株(英語:Golden Share)とは、株主総会決議事項または取締役会決議事項について拒否権を持つ株式のことで、別名「拒否権付種類株式」とも呼ばれています。
黄金株にどのような決議事項について拒否権を持たせるのかは、あらかじめ定めることができ、例えば、取締役の選任や解任・取締役の報酬の決定・会社組織の変更・事業の譲渡・合併など、さまざまな決議事項について拒否権を持つよう設計することが可能です。
発行会社となる買収対象企業に友好的な株主に黄金株を持たせることで、敵対的買収に対する防衛策として活用できます。
ただし、黄金株には、企業価値の向上が期待でき、過半数の株主が賛成する買収提案であっても、経営者の恣意的判断で否決することが可能であるため、株主平等の原則・一株一議決権の原則を害する面もあります。また、黄金株は、友好的な株主が保有していれば敵対的買収の防衛策として働くものの、これとは反対に買収側が黄金株を取得するリスクも存在するため注意が必要です。
黄金株は、種類株式を活用することで特定の第三者に発行できますが、このときには定款の変更が求められることから、株主総会の特別決議を経る必要があります。
チェンジオブコントロール(COC)条項
チェンジ・オブ・コントロール(COC:Change of Control)条項とは、M&Aの実施に伴い企業の支配権(コントロール)の変動等が生じるようなケースにおいて、その支配権の変動が契約の解除事由となる条項のことです。
例えば、対象企業の取引上重要な契約にこの条項が存在する場合、M&Aによる支配権移動により契約が解除されることで、企業価値が毀損されるリスクがある。そのため、M&Aのプロセスでは、例えば、株式譲渡に伴う株主の変更や旧経営陣の辞任に伴う役員の変更などに関して、早期のタイミングで買収対象企業にとって重要な取引先との契約について、チェンジ・オブ・コントロール条項の有無を確認するのが一般的です。
そこで、買収対象企業が締結した契約の中に、COC条項が盛り込まれた契約があることが発覚した場合、取引先に対して解除権を行使しない旨の同意を取得することを、クロージングの前提条件や誓約事項などの形式でM&A契約に規定することでリスクの軽減を図ることになります。
買収対象企業が取引先との契約の中でCOC条項を盛り込んでおくことで、たとえ買収側が買収対象企業の株式を買い占めて経営権を奪い取ったとしても、取引先が契約を破棄すれば、本来得られるリソースを得られなくなります。これにより、買収側にとって敵対的買収の魅力度が低くなり、防衛策として機能するという仕組みです。
敵対的買収の実施後に講じる防衛策
続いて取り上げるのは、敵対的買収の実施前に講じることが有効的であると考えられている6つの買収防衛策です。
ホワイトナイト
ホワイトナイト(英語:White Knight)とは、買収対象企業が、新たな友好的な買収者(ホワイトナイト)を見つけて従来の買収側に対抗し、買収もしくは合併してもらうことです。
もちろん新たな買収者からすると、予定外のM&Aを行うことになるため、買収対象企業からは、ある程度有利な条件(例:新株を取得できる権利など)が提示されるケースがほとんどです。
また、買収対象企業にとっても、自社を売却するという覚悟が必要であるうえに、身売りの意思表示を公にすることで、さらに競合する新たな買収者を誘引する可能性も否定できないことから、ホワイトナイトは苦肉の策だといえるものの、従来の買収側である敵対的な企業に買収されるよりも、友好的な企業に買収されてその傘下になることを選択する方が望ましいと考えるのが自然です。
実際に2006年には、ドン・キホーテから敵対的買収を仕掛けられたオリジン東秀がイオンに要請し、ホワイトナイトを引き受けてもらった事例があります。
焦土作戦(スコーチド・アース・ディフェンス)
焦土作戦(英語:Scorched Earth Operation)とは、買収対象企業が、自社の重要な資産や事業部門を手放すことで、買収側にとっての成果を事前に減少させて、魅力を失わせる方法のことです。焦土作戦の名称は、侵入してきた外敵に武器や食料を与えないよう、事前に領土を焼き尽くす軍事上の戦術名に由来しています。
王冠の宝石を外し、王冠の価値を減らすことに由来する買収防衛策「クラウンジュエル」も、焦土作戦の一形態です。実際に2005年2月~4月におけるライブドア対フジサンケイグループのニッポン放送株争奪戦では、ライブドアがニッポン放送株を過半数取得する前に、フジテレビジョン株などをフジサンケイグループ内外の企業に譲渡することが検討されました。
なお、買収対象企業が自社の重要な資産や事業部門などを適正価格で売却すれば、その企業は売却した資産に見合う対価を受領することから、企業価値は低下しないため、買収側に対する十分な対抗措置として機能しません。とはいえ、買収対象企業が自社の重要な資産や事業部門などを廉価で売却すれば、株主や監査役による行為差し止めや株主代表訴訟のリスクが伴います。
パックマン・ディフェンス
パックマン・ディフェンス(英語:Pac-Man Defense)とは、買収対象企業が買収側に対して、逆に買収をしかけることで防衛する方法のことです。現在の日本では、買収対象企業が買収側の株式の4分の1を取得すると、買収側が保有する株式の議決権は失われるため、それを利用した買収防衛策です。このことから、買収対象企業に財務的な余裕がある場合に、用いられることの多い買収防衛策です。
パックマン・ディフェンスの名称は、1980年にナムコが発表し、同社が日本で(バリー=ミッドウェイがアメリカ合衆国で)発売したテレビゲームおよび、同ゲームにおけるキャラクターに由来しています。同ゲーム中でプレイヤーが操作するパックマンは、普段はモンスターに追われているものの、パワーエサを食べると逆にモンスターを食べることが可能です。そのため、敵対的買収者をモンスター、被買収企業をパックマンに見立て、敵対的買収者に対してある時点から逆に買収をしかける買収対象企業の防御方法を、パックマン・ディフェンスと呼んでいるのです。
買収対象企業が買収側を買収すれば、買収側の企業の取締役を解任し、敵対的買収を事前に防ぐことが可能です。そのため、パックマン・ディフェンスは、レバレッジド・バイアウトなどのように、金融機関を媒介にして「小が大を食う」形式の敵対的買収が仕掛けられた場合には効果的な対抗策となり得ます。
ただし、パックマン・ディフェンスは、パワーエサにあたる買収資金を費やしてまでディフェンスを行う点で、既存株主の理解が得られるのかという点に問題があります。特に買収側がほとんど実体のない上場企業(いわゆる、箱企業)を隠れ蓑にした買収ファンドなどであった場合、敵対的買収の防衛策を講じる際に多額の費用がかかるものの、得られるものがほとんどないケースが多いです。
マネジメント・バイアウト
マネジメント・バイアウト(MBO:Management Buyout)とは、経営陣自らが、企業の株式・事業などをその所有者から買収することです。なお、経営陣ではなく従業員が株式を譲り受けるような場合をEBO(Employee Buyout)、経営陣と従業員が共同で株式を譲り受ける場合をMEBO(Management and Employee Buyout)と呼びます。
もともと経営陣が所有する資金は限られているケースが多いため、とりわけ小規模な会社が対象となる場合を除いては、外部の投資ファンドや金融機関等からの資金調達によりMBO資金が調達されるケースが多いです。
なお、MBOを行う主な目的は、以下のとおりです。
- ノンコア事業を独立させ、新たな資本のもとで経営陣に自由裁量を拡大させた経営を行うこと
- オーナー企業において経営陣に事業承継し、後継者問題を解決するとともに、経営能力を有する人物による経営を確保すること
- 上場企業を非公開化すること
買収対象企業では、MBOを用いて株式を非公開にすることで、敵対的買収を阻止できます。
第三者割当増資
第三者割当増資(英語:Rights Offering)とは、新たに株式を発行することを通じて資金を調達する、新株発行増資と呼ばれる手法の1つです。第三者割当増資は、特定の第三者を対象に有償で新株を発行する行為であり、公募増資や株主割当と区別されます。上場企業の場合、第三者割当増資は経営再建や割当先との関係強化などを目的に行われ、通常、取締役会の議決によって実施できるため、海外に比べて日本企業の利用機会が多い傾向にあります。
第三者割当増資を敵対的買収の防衛策として用いる場合、買収対象企業の新株を友好企業や取引先企業に引き受けてもらうことで、既存の株主の影響力が弱まるため、買収側の影響力が弱まる一方で、新株を取得した友好企業などの影響力が強まるため、敵対的買収の抑止力として働きます。
第三者割当増資は、第三者への有利発行にならない限り、授権株式数の範囲内であれば取締役会の決議で割り当てを行えます。しかし、買収側は、これに対してその発行を「著しく不公正な発行」であるとして、発行差止を裁判所に求めるのが常套手段です(会社法210条、247条)。もともと第三者割当増資は、株主総会における決議を避けていることから、経営陣の自己保身に過ぎないと見られやすく、裁判所が「著しく不公正な発行」として、差し止めを認めるケースが多いです。
増配
多くの企業は利益の中から自社の株主への還元策として定期的に配当を出しますが、業績改善・株主重視策・敵対的買収の防衛策として配当を増やすことがあり、これを増配と呼んでいます。増配を発表した企業は有望企業として注目されることが多く、その企業の株式が投資家から積極的に買われる傾向があります。
増配を行うと財務戦略明確化のメッセージとなるため、株価の引上げにつながることから、買収対象企業では買収防衛策として活用できます。増配など株主から支持を得られることを実行すると、既存の株式の魅力が高まり、株価が上昇する可能性があります。その結果、株主が買収側による株式公開買付けに応じる可能性を低下させることが期待できるうえ、株価の上昇により買収を行いにくくなる効果も期待できます。
その一方、増配を行うと内部留保が減少し、投資の自由が制限されるおそれがある点はデメリットです。
敵対的買収の対象になりやすい企業の特徴
本章では、敵対的買収の対象になりやすい企業に見られる主な特徴を5つピックアップし解説します。
企業価値に対して豊富なキャッシュを持つ
キャッシュフローが大きいにも関わらず、これに企業全体の価値(業績)が伴っていないという企業は、敵対的買収の対象になりやすい典型例です。
なぜなら、手元に現金が多く残っているはずなのに企業価値が低いという会社は、得られた現金の投下先に問題がある場合が多いためです。例えば、「本業は順調であるにも関わらず、利益が得られない新事業に多額の投資を行っている」「経営陣等の報酬額が高すぎる」「無駄な設備投資が多い」などの特徴に該当する企業が、このパターンに当てはまります。
こうした企業では、株主・従業員にも経営陣の刷新を求める層が少なからず存在することから、敵対的買収に対する反発が相対的に小さい場合が多く、いわゆるハゲタカファンドによる敵対的買収の対象になりやすいタイプであるともいえます。
健全な経営を続けている
健全な経営を心がけている企業も、敵対的買収の対象になりやすいです。なぜなら、抱える負債が少ない企業では、自社の利益を株主の配当に直結させやすいためです。とりわけ配当・転売益を目的とする敵対的買収の場合、経営が不安定な企業の買収は大きなリスクが伴います。
株価が割安であり、持ち合い比率が低い
もともと業績の割に株価が安い企業では、比較的短期スパンでの株価上昇が狙えます。また、買収するために必要な資金も少なく済むことから、敵対的買収の対象になりやすいと考えられています。
上記に加えて、株式の持ち合い株率が低いという企業であれば、敵対的買収のターゲットになる可能性がさらに高まります。なぜなら、持ち合い比率が低い企業の場合、主要取引先・メインバンクによる敵対的買収への対抗力が弱い傾向にあり、敵対底買収の失敗リスクが小さくなるためです。
ユニークかつ強固な収益源を持つ
独自性が強い(他社が真似しにくい)事業やコンテンツなどを有している企業、資産価値の高い特許を保有している企業なども、敵対的買収のターゲットになりやすいです。
他社に真似されにくい事業・コンテンツ・特許がある企業は、それだけ市場において大きな優位性を確保できる可能性が高く、買収側からすると追加コストなしで、高い収益を上げられる可能性が高いためです。
例えば、異業種への参入の足がかりとして敵対的買収の実施を検討する企業からすると、収益のバックボーンが強固な企業を敵対的買収のターゲットとして選んだ方が、事業の成功可能性が高まります。
そのため、ユニークかつ強固な収益源を持っていて、なおかつ株価が安い・取引先連合による株式の持ち合いも進んでいない企業は、敵対的買収の格好のターゲットだといえます。
敵対的買収に無防備
これは当然のことですが、敵対的買収に対して無防備な企業は、敵対的買収のターゲットになりやすいです。もともと敵対的買収を行う側は、買収対象企業のあらゆる財務諸表を確認し、発行済株式の詳細に関しても丹念に調査を行うのが一般的です。
そのため、特に短期間で急成長した後に、十分な準備もせずに株式上場するような企業では、「想定外の企業から自社を乗っ取られるリスクがある」ことに注意しておきましょう。
対的買収と株価の変動について
本章では、買収側と買収対象企業における株価の変動に関して解説します。
敵対的買収が行われる場合、買収側では株価が上がるケースが多いです。これは、敵対的買収の成功によって、今後の事業拡大などに対して期待が高まるためです。とはいえ、近年では敵対的買収に際して買収側の株価が下がる事例も報告されており、この背景としては買収防衛策の活用が関係しています。
また、敵対的買収が行われると、買収対象企業の株価も上昇する可能性が高いです。これは、株式公開買付けによる影響であると考えられていますが、敵対的買収が終了すると防衛策などによって買収対象企業の株価が低下するケースも見られます。
以上をまとめると、敵対的買収の実施に際して、買収側と買収対象企業の双方で株価が上昇するケースが多いといえるものの、敵対的買収の内容・買収側の戦略・買収防衛策などの影響により、結果が変動するケースもあります。
敵対的買収のメリット
ここからは、敵対的買収を行う際に買収側で生じるメリット・デメリットを順番に解説します。まず取り上げるのは、敵対的買収によって生じる可能性がある代表的な7つのメリットです。
買収に合意が不要
1つ目のメリットは、企業買収の実施に際して合意が不要である点です。
友好的買収を実施する場合、買収対象企業との関係の中で、妥協点を探しながら交渉を進める必要があります。そのため、買収側の都合だけでなく買収対象企業の意見も受け入れながら、譲歩すべき条件を譲歩していかなければ、交渉がまとまらないおそれがあります。また、企業買収成功後の経営に関しても、すべてが買収側の思い通りになるわけではなく、買収対象企業の意向も汲むことが求められます。
これに対して、敵対的買収を行う場合、買収対象企業との合意形成などを一切考慮する必要がないことから、交渉するための手間・時間のロスなどが生じません。
企業改革を速やかに実施できる
一般的に、企業の平均寿命は四半世紀に満たないと考えられています。そして、昨今の市場動向を見ると、AIをはじめとする新技術が産業構造を大きく変えています。とりわけ人間の情報処理速度を上回る解析技術とインターネットの通信速度が向上することで、新規産業が誕生しやすくなっており、市場の流動性が高まっている状況です。
こうした流れの中で、多くの企業では、組織変革が生命線を握る最重要課題として掲げています。とはいえ、現実には組織の規模が大きくなるほど内部コミュニケーションが複雑化して決断が遅くなる傾向があるように、長年培われてきた組織文化を一新することは決して容易ではありません。
しかし、敵対的買収が成功すると、買収側では買収対象企業の経営陣を刷新できます。もしも買収対象企業の業績不振の原因がトップ層の時代遅れにあるならば、意思決定の主体が一新されることで、V字回復に成功する可能性があります。こうしたメリットは、買収対象企業の既存の株主にとっても魅力的です。
株主に対して企業のあり方を問える
敵対的買収では株式の買付け額を市場価格よりも高く設定するのが通例であるため、買収対象企業の株主からすると、保有株式を高値で売却する機会が得られます。「株式を保有し続けるのか、それとも売って利益を得るのか」という判断には、株主の価値観が反映されることになります。
敵対的買収において買収対象企業の株主が「株を売る」という行為は、利益を獲得するだけでなく敵対的買収に対する同意の意味も含まれます。そのため、敵対的買収は、株主全体に会社のあり方を問うことにつながるのです。
買収計画を立てやすい
一般的に、敵対的買収では株式公開買付けによって株式の取得を行うため、買付け期間・買い取り株数・1株あたりの価格などを公告します。つまり、公告時に買収のための期間や必要なコストなどをすべて計算できるため、買収側にとって買収計画が立てやすいです。
買収側と買収対象企業の利害関係を解消できる
買収側と買収対象企業が対立している場合、敵対的買収により買収側が買収対象企業の経営権を取得することで、利害関係を速やかに解消できます。「パワープレーであり、本質的な解決には至らない」と考える意見もあるものの、泥沼化した攻防戦で消耗を続けるよりも、買収側と買収対象企業が同じ方向を向いて前に進んだ方が望ましい場合もあります。
シナジー効果の獲得により経営を効率化できる
シナジー効果とは、複数のものが協力した場合に生じる相乗効果のことです。敵対的買収を行うと、買収側と買収対象企業の事業との間で、シナジー効果の獲得が見込まれます。
ここで得られるシナジー効果の具体例を挙げると、コストダウンにつながるコストシナジーや、売上アップに繋がる売上シナジーなどです。
経営資源を吸収できる
敵対的買収における買収側では、買収対象企業の経営権を取得できます。敵対的買収で経営権を握ると、経営戦略を実行できるだけでなく、経営資源(例:従業員・知的財産・不動産など)を獲得できます。
上記のような経営資源を効果的に活用することで、買収側ではさらに大きな成長を見込めます。近年では、買収対象企業を支配するという目的よりも、買収対象企業が持っている権利・ノウハウなどを入手する目的で、敵対的買収を行う企業も見られます。
敵対的買収のデメリット
続いて、敵対的買収の実施に際して、買収側で発生し問題となりやすい代表的なデメリットを3つピックアップし解説します。
買収に失敗するおそれがある
敵対的買収は、防衛策の存在により失敗する確率が高いうえに、買収対象企業から協力を得られないため、デューデリジェンス(DD)(DD:Due Diligence)を実施できないのが一般的です。デューデリジェンス(DD)とは、企業買収において、買収対象会社の調査を行う手続きのことです。財務・法務・事業・税務・人事・IT・環境・知的財産・不動産・顧客・技術・人権などの面から、買収対象企業の情報を確かめて内容を精査し、買収にふさわしい企業かどうかを検証します。
デューデリジェンス(DD)を行う主なメリットは、以下のとおりです。
- 経営統合に向けた準備を行える
- 企業価値評価を正確に行える
- 買収対象企業の情報を収集できる
- 企業買収に伴うリスクを把握できる
上記の中でも、デューデリジェンス(DD)を実施する大きなメリットは、買収対象企業が抱えるリスクを把握できる点です。企業買収を終えてしまうと契約内容は変更できませんが、企業買収を終える前に問題点を把握できれば、問題点を踏まえた契約内容に設定できるため、企業買収を自社にとって有利な条件で進められる可能性があります。
しかし、敵対的買収では基本的にデューデリジェンス(DD)は実施できないため、上記で取り上げたメリットの獲得は期待できません。
シナジー効果を享受できない可能性がある
たとえ敵対的買収が成功したとしても、その後の経営統合がうまくいかなかったり、買収対象企業の力を最大限に引き出せなかったりすると、シナジー効果を享受できないおそれがあります。また、敵対的買収によって独自の技術やノウハウを獲得したとしても、買収の影響によって従業員が退職してしまえば、その後の事業運営に活用できなくなります。
ブランドイメージの低下リスクが伴う
敵対的買収を行うと、買収側が買収対象企業のブランドイメージを壊してしまうおそれがあります。具体的にいうと、敵対的買収の結果として、取引先や顧客の買収対象企業に対するブランドのイメージが低下すれば、取引が減少したり、取引そのものがなくなったりする可能性があるのです。
また、買収対象企業における優秀な人材が流出したり、従業員との関係性が構築できなかったりすることで、会社内部の組織体制が不安視されて、ブランドイメージが低下するリスクもあります。
とはいえ、上記は友好的買収でも生じる可能性のあるデメリットであり、慎重なブランディング戦略によってマネージするなどの対策を講じることで対応することは可能です。
敵対的買収の成功事例
本章では、数ある敵対的買収の成功事例の中から、近年話題になった3件をピックアップし紹介します。
SBIホールディングスによる新生銀行への敵対的買収事例
2021年9月、SBIホールディングスは、新生銀行に対して株式公開買付けを行うと発表しました。これに対して、新生銀行が「株主の利益を損ねる」などとして強く反発したことから、敵対的買収に発展しています。
買収側は、SBI証券・住信SBIネット銀行・SBI損保など、金融商品および関連するサービス・情報の提供等を行う「金融サービス事業」のほか、国内外のIT・バイオ・環境・エネルギーおよび金融関連のベンチャー企業などへの投資・資産運用に関連するサービスの提供等を行う「アセットマネジメント事業」、医薬品・健康食品・化粧品等におけるグローバルな展開を行う「バイオ・ヘルスケア&メディカルインフォマティクス事業」を主要事業と位置付け、事業を展開している企業です。
一方の買収対象企業は、東京都中央区に本店を置く普通銀行です。傘下にクレジットカードのアプラス、消費者金融の新生パーソナルローン(シンキ)、新生フィナンシャル(新生銀行カードローン レイク)などを所有しています。
SBIホールディングスによる敵対的買収の主な目的は、新生銀行を連結子会社とするに足る議決権比率を取得し、SBIホールディングスグループと新生銀行グループの事業上の提携を構築・強化することにありました。
結果として、SBIホールディングスによる新生銀行に対する株式公開買付けは2021年12月10日に終了し、SBIホールディングスにおける新生銀行株の保有比率は買い付け上限としていた47・77%に達したと発表されています。その後、SBIホールディングスは新生銀行に役員を送り込むなどして連結子会社化する方針を取る一方で、新生銀行はSBIホールディングスの傘下として再出発を図っています。
参考:朝日新聞デジタル「SBI、新生銀行に対するTOB終了 保有比率は48%近くに到達か」2021年12月10日
フリージア・マクロスによるソレキアへの敵対的買収事例
2017年6月、フリージア・マクロスの会長「佐々木ベジ氏」が、ソレキアに対して株式公開買付けを行うと発表しました。これに対して、同年3月、ソレキアが同社の取締役会において佐々木ベジ氏の株式公開買付けに対する反対意見を表明したことで、敵対的買収に発展しています。
買収側は、東京都千代田区に本社を置く、産業機械製造および土木試験機製造の機械製造企業であり、グループとして製造から供給までを一貫して行う「製造供給事業」(プラスティック押出機、土木試験機、ATM筐体、シールド基盤製造等)、「住宅関連事業」(木造住宅保守・メンテナンス事業、スウェーデン・ログハウス、スウェーデン家具等)、「投資・流通サービス事業」(建築資材、PC周辺機器、PCパーツ他)の3つを事業の柱としています。
一方の買収対象企業は、東京都大田区を拠点に、テクノロジー・プロダクツ事業、ICTソリューション事業、サービス・インテグレーション事業、インフラサービス事業などを展開している企業です。
フリージア・マクロスによる敵対的買収の主な目的は、ソレキアに対して株式保有によるROE(Return on Equity :株主資本利益率)経営の支援策を提案するために影響力を高めることです。
フリージア・マクロスによるソレキアへの公開買付けの発表に際して、ソレキアから買収防衛策「ホワイトナイト」の打診を受けた富士通は、フリージア・マクロス(および佐々木ベジ氏)との公開買付け合戦に参加することを表明します。当初は、佐々木ベジ氏が1株2,800円で株式を買い付ける一方、富士通は1株3,500円総額25億7,000万円での株式公開買付けを発表しました。
その後、上記2社による熾烈な争いが繰り返され、最終的には富士通が定めた5月22日の買付け期間終了日に、富士通による株式公開買付けが不成立で終了してしまいます。その結果、佐々木ベジ氏は、ソレキアの株式(議決権)39.64%を手に入れ、筆頭株主となりました。また、その後の2021年4月、フリージア・マクロスおよび佐々木ベジ氏はソレキアの株式を追加取得し、議決権比率を50.49%まで高めています。
参考:佐々木ベジ「公開買付け届出書」平成29年3月
フリージア・マクロス「変更報告書NO.10」令和3年5月12日
ロワイドによる大戸屋ホールディングスへの敵対的買収事例
2020年7月、コロワイドは、大戸屋ホールディングスに対して、株式公開買付けを開始しました。同年4月、コロワイドは大戸屋ホールディングスに対して「取締役12名選任の件」とする株主提案を行っていましたが、この株主提案に対して大戸屋ホールディングスが反対の意見を表明したことで、同年7月のコロワイドによる大戸屋ホールディングスへの敵対的買収に至っています。
買収側は、神奈川県横浜市西区に本社を置く、外食産業を中心に展開する複数の事業会社を統括する持株会社で、かねてより大戸屋ホールディングスの筆頭株主でした。対する買収対象企業は、大戸屋および海外で飲食店事業を行う他の事業会社の運営を行う持株会社です。また、大戸屋は、和食を中心とする外食チェーンストアを運営する企業であり、家庭料理を意識した和定食などを提供する「大戸屋ごはん処」の全国チェーン展開などを行っています。
コロワイドによる敵対的買収の主な理由は、「買収対象企業の業績回復を早期に実現し、なおかつ買収側と買収対象企業の協業の成果を買収対象企業の事業再建に優先的に配分することの買収側における合理性を担保するうえで、買収対象企業における収益改善が買収側の連結会計上の収益向上に寄与するとの観点が求められることから、株式公開買付けを通じた買収側による買収対象企業の連結子会社化が必要である」と発表されています。
その後の同年8月、コロワイドは、本件株式公開買付けを確実に成立させることが極めて重要であるとして、株式公開買付けの条件を変更することを公表しています。具体的には、公開買付け期間を8月25日から9月8日に延長し、買付予定株式数の下限を1,872,392株から1,510,138株に変更しました。
そして同年9月、本件株式公開買付けが成立し、コロワイドは本件株式公開買付けを通じて大戸屋ホールディングスの株式を新たに2,000,371株取得し、議決権割合にして46.77%を取得することになりました。結果として、コロワイドは、大戸屋ホールディングスの子会社化に成功しています。
参考:大戸屋ホールディングス「大戸屋ホールディングス」2020年7月20日
コロワイド「公開買付報告書」2020年9月9日
敵対的買収の失敗事例
最後に、数ある敵対的買収の失敗事例の中から、近年話題になった3件をピックアップし紹介します。
スティール・パートナーズによるブルドックソースへの敵対的買収事例
2007年5月、スティール・パートナーズは、ブルドックソースに対して、ブルドックソースの株式すべての取得を目指し株式公開買付けを開始しました。これに対して、ブルドックソースは、株主共同の利益の毀損につながる可能性があるとして、スティール・パートナーズの株式公開買付けに反対の意見を表明したことで、敵対的買収に発展しています。
買収側は、アメリカ合衆国に本拠地を置く、アクティビスト・ヘッジファンドの1つの総称です。対する買収対象企業は、東京都中央区に本社を置く調味料メーカーであり、東京都中央区に本社を置き、ソース・その他調味料の製造・販売を手掛けています。
なお、ブルドックソースに対する株式公開買付けの実施に関して、スティール・パートナーズは明確な目的を明らかにしていません。
結果として、ブルドックソースは、スティール・パートナーズ以外の株主のみが行使できる新株予約権を株主に対して交付する一方で、スティール・パートナーズに対しては新株予約権を行使できない代わりに金銭を交付するという、ポイズンピル(ライツプラン)の買収防衛策を用いています。その結果、スティール・パートナーズでは、ブルドックソースに関する目標の議決権を達成できず、敵対的買収に失敗しています。
参考:ブルドックソース「当社定時株主総会特別決議に基づく新株予約権無償割当てに関するお知らせ 」平成19年6月24日
アスリード・キャピタルによる富士興産への敵対的買収
2021年4月、アスリード・キャピタルは、富士興産に対して、富士興産の株式すべての取得を目指し株式公開買付けを開始しました。これに対して、富士興産は株主の利益の最大化を妨げるものとして反対意見を表明したことで、敵対的買収に発展しています。
買収側は、シンガポールを拠点とする投資会社です。一方の買収対象企業は、アスファルトや油脂類の販売を手掛ける企業であり、2001年に石油精製部門から撤退し、現在ではENEOSグループから燃料油やアスファルトなどの製品を調達しています。
同年5月、富士興産は買収防衛策として、新株予約権の無償割当の発動を公表し、6月の定時株主総会で株主に対して真意を問うために議案として提出しました。この議案が承認・可決されたことで、アスリード・キャピタルは株式公開買付けを撤回し、敵対的買収に失敗しています。
参考:富士興産「アスリード・ストラテジック・バリュー・ファンド及びアスリード・グロース・インパクト・ファンドによる当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(反対)及び株主意思確認を当社第91回定時株主総会で行うことのお知らせ」2021年5月28日
富士興産「買収防衛策に基づく新株予約権の無償割当て及び新株予約権の無償割当てに係る基準日設定に関するお知らせ」
富士興産「アスリード・ストラテジック・バリュー・ファンド及びアスリード・グロース・インパクト・ファンドによる当社株式に対する公開買付けの撤回に関するお知らせ」2021年8月24日
コクヨによるぺんてるへの敵対的買収
2019年11月、コクヨは、ぺんてるに対して、ぺんてるの発行済株式総数の過半数の取得を目指し株式公開買付けを開始しました。これに対して、ぺんてるは、一方的かつ強圧的な当社の子会社化であるとして、反対意見を表明したことで、敵対的買収に発展しています。
買収側は、大阪市に本社を置く、文房具・オフィス家具・事務機器を製造・販売する企業です。買収側は独立系の企業であるものの、株主として三井住友銀行の資本が入っており、主なブランドとして書翰箋(便箋)・カドケシ(消しゴム)・Campus(ノート)・ドットライナー(テープのり)・プリット(スティックのり)を有しています。
これに対して、買収対象企業は、東京都中央区に本社を置く大手文具メーカーであり、主な取扱商品としてサインペン・筆ペン・ボールペン・消しゴム・シャープペンシル・シャープペンシル替芯・修正テープなどの筆記器具・絵具・マーカーなどの画材などを有しています。
もともとぺんてるは非上場会社ですが、コクヨはぺんてるの筆頭株主であるファンドを子会社化したことで、ぺんてるの議決権37.45%を保有しており、実質的にはぺんてるの筆頭株主でした。そこで、コクヨはぺんてるの株式をさらに買い進め、子会社化する目的で本件株式公開買い付けを開始しています。
しかし、ぺんてるはブラスに対して、ホワイトナイトとしてぺんてるの株式の買い取りを依頼します。そして、プラスがホワイトナイトとしてぺんてるの株式取得を進めたことで、結果的にコクヨはぺんてるの議決権の過半数を取得できずに、敵対的買収に失敗しています。
参考:ぺんてる「コクヨ株式会社による、「ぺんてる株式会社の株式の買付け方針に関するお知らせ」等に関する当社見解」2019年11月15日
コクヨ「ぺんてる株式会社の株式の買付け方針に関するお知らせ 」2019年11月15日
ぺんてる「ぺんてる株式会社の株式の買受けの結果に関するお知らせ」2019年12月13日
まとめ
敵対的買収とは、企業買収の形態のうち、買収の対象となる企業の経営者や従業員などから同意を取り付けることなく行われる買収のことです。敵対的買収と友好的買収の大きな違いは、「対象企業の経営陣や株主から合意を得ているかどうか」という点にあります。