敵対的買収とは?仕組みや買収防衛策、具体的な事例まで詳細解説

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敵対的買収とは、企業買収の実施に際して、買収の対象となる企業の経営者や従業員などから同意を取り付けることなく行われる形態を意味する言葉です。

日本では敵対的買収の事例は少ないものの、国内需要の限界が指摘される昨今、グローバル・マーケットでの生存競争で勝ち残るための選択肢の1つとして敵対的買収が検討されることもあります。そのため、企業経営者としては敵対的買収という言葉の意味を把握しておくべきと言えます。

そこで、本記事では、敵対的買収の概要や仕組み、メリット・デメリット、敵対的買収に対する防衛策、さらには具体的な事例まで幅広く解説します。

敵対的買収とは

敵対的買収とは、企業買収の形態のうち、買収の対象となる企業の経営者や従業員などから同意を取り付けることなく行われる買収のことを言います。これは、別名「敵対的TOB」とも呼ばれています。

敵対的買収における買収側は、対象企業の経営権を支配できる議決権を取得しようとします。一般的には、総株主の議決権の過半数(51%以上)の取得を目指します。

なお、有価証券報告書を提出する義務のある企業の株式に対して、「市場外」または「市場内・市場外の組み合わせ」等による買付けをする場合で、株券等所有割合が3分の1を超える(34%以上となる)ときは、原則として株式公開買付け(TOB)の形式で実施しなければなりません。

そのため、敵対的買収における買収側は、TOBの手法を用いて買収を仕掛けるケースが多くなっています。他方、市場内における取得のみで議決権の過半数を取得するケースも少なからず見られます。

敵対的買収における買収側とは

敵対的買収における買収側は、以下の2種類に大別されます。

買収者の種類 概要
フィナンシャル・バイヤー
  • 自社と買収対象企業との間に事業上の関連がなく、単純に買収対象企業の解散価値や株価の割安度合いなどに注目して投資を行う買収者のこと。
  • フィナンシャル・バイヤーの主な目的は、企業の株式の少数を保有し企業経営に関する提言をしたり、株式の多数を持つことで経営に直接参加したりして、その株式から高いリターンを得ること。
ストラテジック・バイヤー
  • 自社の事業戦略上必要な企業に対して買収をおこなう買収者のこと。
  • ストラテジック・バイヤーの主な目的は、買収者の経営指導効果や事業のシナジー効果などにより、投資価値の拡大につなげること。

敵対的買収は増加傾向にある

レコフの調査によると、2021年における買収や出資拡大のための敵対的TOB(株式公開買い付けなど)が10月までに9件となっています。これは、年間最多だった2006年の7件を上回っています。そして、金融機関が対象となる異例のケースも見られていることからすると、これまでの敵対的買収への抵抗感が薄まりつつある状況です。

敵対的買収が増加したのは、いくつかの要因に基づきます。

1つ目の要因は、2019年末から発生したコロナ禍による経済的な影響です。

コロナ禍により、上場企業では、保有する現金やすぐに現金化できる債券などを増やす動きが目立っています。そして、潤沢な資金を持つ上場企業は、同業他社や他地域の企業を買収しようという発想が生まれやすく、また、資金の有効活用を求める株主からの圧力も受けやすいです。このような要因が敵対的買収の実施につながっているのです。

2つ目の要因として、東京証券取引所が2022年4月に市場再編や企業統治指針を強化したことがあげられます。

これを受けて、企業同士の株の持ち合い解消などが促されているほか、少子高齢化やデジタル化の加速により企業再編が進んでいます。したがって、この要因も敵対的買収の件数増加を後押ししていると考えられます。実際にレコフの調査によると、2021年度における友好的買収を含めたM&A件数は4,280件を記録しており、2019年の4,088件を上回り、過去最多を記録しました。

敵対的買収の目的

敵対的買収の主な目的は、以下のとおりです。

  • 買収対象企業の経営権の取得、経営の影響力の増加
  • 買収対象企業の転売による利益の獲得

株主は、企業の株式を一定以上保有している場合、保有割合に応じてさまざまな権利を得られます。

例えば、発行済み株式総数のうち3分の1以上を保有する株主は、単独での株主総会の特別決議に対する拒否権が手に入ります。また、保有する株式が発行済み株式総数の50%を越える場合には、株主総会の普通決議を単独で可決できます。

さらに、3分の2以上の株式を保有する株主は、株主総会の特別決議を単独で可決する権限を有します。これにより、企業の決議事項の中でも特に重要な承認事項の決定を行えます。具体的には、会社役員の解任などの経営陣の変更、株式や新株予約権の発行、企業の基盤となる要素の変更(例:重要な事業の譲渡)などを決定することができます。

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敵対的買収と友好的買収の違い

敵対的買収の対義語として、友好的買収という言葉があります。

友好的買収とは、買収側が企業買収を行う旨を買収対象企業に知らせている場合の買収方法のことで、「フレンドリーテイクオーバーとも呼ばれています。

友好的買収の場合、買収側からすると、買収対象企業に事前に知らせていることから買収に対する同意を得やすく、不信感なくM&Aを進められる点がメリットです。

友好的買収によって、買収側は買収対象企業の技術や人材を得られる一方で、買収対象企業は買収側の基盤などを得られます。そのほか、友好的買収では、企業買収の成立および成立後の統合作業(PMI)に向けて買収対象企業のサポートを得られるなど、さまざまなメリットが期待できます。

主な敵対的買収の方法とは

買収側は、敵対的買収の方法として、株式公開買い付けを選択することが多いです。

買収側と買収対象企業が敵対的な関係にある場合、買収側は買収対象企業の株式の50%以上の株式を買い集めようとするのが一般的です。友好的買収およびM&A(例:合併・会社分割・事業譲渡)などの手法を選ぶことはまれと言えます。

買収側が株式公開買付けを行わない場合は市場取引を行う必要があります。もっとも、市場取引では実施に伴い株価が上昇していく可能性が高いことから、より大量の資金が求められます。

また、買収側としては、公開買付けを行う際、その前段階として、株式市場で対象会社の株式をある程度買い集め、株主名簿閲覧請求権・取締役会議事録閲覧請求権・株主総会招集権・株主提案権・帳簿閲覧請求権など、会社法上、少数株主に付与される権利を得ておくのが一般的です。

株式公開買付けが成功し、買収側が買収対象企業の株式総数の50%以上を保有すると、株主総会で議決権を行使できます。その後、買収側は、一般的に、この議決権を用いながら、買収対象企業と協力しつつ事業展開を進めていくことになります。

敵対的買収に対する買収防衛策とは

以下では、敵対的買収の対象となる企業が講じることのできる買収防衛策の概要を解説します。

敵対的買収に対する買収防衛策(事前の防衛策)

買収防衛策のうち、敵対的買収の実施前に講じることが有効的だと考えられているものとして、以下のようなものがあります。

  • ポイズンピル(ライツプラン):買収側の買収対象企業における持株比率が一定の水準を超えた場合に、買収対象企業が自社の既存株主に対して条件付きの新株予約権を発行すること。
  • ゴールデンパラシュート:企業買収により買収対象企業の経営陣が解任または権限を減らされた場合に、極めて多額の退職金等を支払う契約を締結し、多額の現金の流出を招くことで、企業買収のコストを引き上げ、買収側との交渉材料として活用するという対抗措置のこと。
  • プット・オプション:ある商品を将来のある期日までに、あらかじめ決められた特定の価格(権利行使価格)で売る権利のこと。
  • 黄金株:株主総会決議事項または取締役会決議事項について拒否権を持つ株式のこと。
  • チェンジオブコントロール(COC)条項:M&Aの実施に伴い企業の支配権(コントロール)の変動等が生じるようなケースにおいて、その支配権の変動が契約の解除事由となる条項のこと。

敵対的買収に対する買収防衛策(事後の防衛策)

買収防衛策のうち、敵対的買収の実施後に講じることが有効的だと考えられているものも存在します。

  • ホワイトナイト:買収対象企業が、新たな友好的な買収者(ホワイトナイト)を見つけて従来の買収側に対抗し、買収もしくは合併してもらうこと。
  • 焦土作戦(スコーチド・アース・ディフェンス):買収対象企業が重要な資産や事業部門を手放すことで、買収側にとっての成果を事前に減少させて、魅力を失わせる方法。
  • パックマン・ディフェンス:買収対象企業が買収側に対して、逆に買収をしかけることで防衛する方法。買収対象企業に財務的な余裕がある場合に、用いられることの多い買収防衛策。
  • マネジメント・バイアウト:経営陣自らが、企業の株式・事業などをその所有者から買収すること。経営陣ではなく従業員が株式を譲り受けるような場合をEBO(Employee Buyout)、経営陣と従業員が共同で株式を譲り受ける場合をMEBO(Management and Employee Buyout)と呼ぶ。
  • 第三者割当増資:新たに株式を発行することを通じて資金を調達する、新株発行増資と呼ばれる手法の1つ。なお、買収側は、「著しく不公正な発行」にあたるとして、発行の差止を請求することができます(会社法210条、247条)。
  • 増配:企業が株主に還元するために出す配当のうち、業績改善・株主重視策・敵対的買収の防衛策として配当を増やすこと。

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敵対的買収の対象になりやすい企業の特徴

敵対的買収の対象になりやすい企業には以下のような特徴があります。

  • 企業価値に対して豊富なキャッシュを持つ
  • 負債が少なく、健全な経営を続けている
  • 株価が割安であり、持ち合い比率が低い
  • ユニークかつ強固な収益源を持つ
  • 敵対的買収に無防備

このような企業については、共通して、買収するメリットがあり、かつ、買収のハードルが低いため、敵対的買収の対象となりやすいと考えられます。

敵対的買収と株価の変動について

敵対的買収が行われる場合、買収側では株価が上がるケースが多いです。これは、敵対的買収の成功によって、今後の事業拡大などに対して期待が高まるためです。

もっとも、近年では敵対的買収に際して買収側の株価が下がる事例も報告されています。その背景として買収防衛策の活用が関係しています。

他方、敵対的買収が行われると、買収対象企業の株価も上昇する可能性が高いです。これは、株式公開買付けによる影響であると考えられています。なお、敵対的買収が終了すると防衛策などによって買収対象企業の株価が低下するケースも見られます。

したがって、敵対的買収の実施に際して、買収側と買収対象企業の双方で株価が上昇するケースが多いといえるものの、敵対的買収の内容・買収側の戦略・買収防衛策などの影響により、結果が変動するケースもあります。

敵対的買収のメリット

敵対的買収のメリットとしては、以下のものが考えられます。

  • 買収に際して同意が不要である。
  • 企業改革を速やかに実地できる。
  • 株主に対して企業の在り方を問える。
  • 買収計画を立てやすい。
  • 買収対象企業との間の利害関係を解消できる。
  • シナジー効果の獲得により経営を効率化できる。
  • 経営資源を吸収できる。

企業改革を速やかに実地できる

この中で、特に、企業改革を速やかに実地できる点は大きなメリットであると言えます。

一般的に、企業の平均寿命は四半世紀に満たないと考えられています。そして、昨今では、AIをはじめとする新技術が産業構造を大きく変えています。人間の情報処理速度を上回る解析技術とインターネットの通信速度が向上することで、新規産業が誕生しやすくなっており、市場の流動性が高まっている状況です。

こうした流れの中で多くの企業では、組織変革が生命線を握る最重要課題として掲げられています。長年培われてきた組織文化を一新することは決して容易ではありません。

しかし、敵対的買収が成功すると、買収側は買収対象企業の経営陣を刷新することができ、買収対象企業の業績回復を期待できるのです。

株主に対して企業のあり方を問える

また、株主に対して企業のあり方を問えることも重要です。

敵対的買収では株式の買付け額を市場価格よりも高く設定するのが通例であるため、買収対象企業の株主からすると、保有株式を高値で売却する機会が得られます。株式を売却するか否かの判断には、株主の価値観が反映されることになります。

また、株式を売却する行為には、敵対的買収に対する同意の意味も含まれるため、敵対的買収は、株主全体に会社のあり方を問うことにつながると言えます。

敵対的買収のデメリット

敵対的買収のデメリットとしては、以下の3つが考えられます。

買収に失敗するおそれがある

敵対的買収は、防衛策の存在により失敗する確率が高いうえに、買収対象企業から協力を得られないため、デューデリジェンス(DD)を実施できないのが一般的です。

デューデリジェンス(DD)とは、企業買収において、買収対象会社の調査を行う手続きのことです。財務・法務・事業・税務・人事・IT・環境・知的財産・不動産・顧客・技術・人権などの面から、買収対象企業の情報を確かめて内容を精査し、買収にふさわしい企業かどうかを検証します。

デューデリジェンス(DD)を行う主なメリットは、以下のとおりです。

  • 経営統合に向けた準備を行える
  • 企業価値評価を正確に行える
  • 買収対象企業の情報を収集できる
  • 企業買収に伴うリスクを把握できる

しかし、敵対的買収では基本的にデューデリジェンス(DD)は実施できないため、上記で取り上げたメリットの獲得は期待できません。

シナジー効果を享受できない可能性がある

たとえ敵対的買収が成功したとしても、その後の経営統合がうまくいかなかったり、買収対象企業の力を最大限に引き出せなかったりすると、シナジー効果を享受できないおそれがあります。

また、敵対的買収によって独自の技術やノウハウを獲得したとしても、買収の影響によって従業員が退職してしまえば、その後の事業運営に活用できなくなります。

ブランドイメージの低下リスクが伴う

敵対的買収を行うと、買収側が買収対象企業のブランドイメージを壊してしまうおそれがあります。その結果、取引が減少したり、取引そのものがなくなったりする可能性があるのです。

このブランドイメージは、買収対象企業における優秀な人材が流出する、従業員との関係性が構築できなかったりするなどで、会社内部の組織体制が不安視されて、低下するリスクがあります。なお、慎重なブランディング戦略によって対策を講じることにより対応することは可能です。

敵対的買収の成功事例

敵対的買収に関する事例はいくつかあります。今回は、そのうち3件の成功事例を紹介します。

SBIホールディングスによる新生銀行への敵対的買収事例

2021年9月、SBIホールディングスは、新生銀行に対して株式公開買付けを行うと発表したところ、新生銀行が「株主の利益を損ねる」などとして強く反発したため、敵対的買収に発展しました。

  • 買収側:SBIホールディングス(金融サービス事業、アセットマネジメント事業、バイオ・ヘルスケア&メディカルインフォマティクス事業などを主要事業とする。)
  • 買収対象企業:新生銀行(銀行業を主要事業とする。傘下にはクレジットカード会社、消費者金融、フィナンシャル企業などがある。)

今回の敵対的買収の主な目的は、新生銀行を連結子会社とするに足る議決権比率を取得し、SBIホールディングスグループと新生銀行グループの事業上の提携を構築・強化することにありました。

SBIホールディングスによる新生銀行に対する株式公開買付けは2021年12月10日に終了し、SBIホールディングスにおける新生銀行株の保有比率は買い付け上限としていた47・77%に達したと発表されています。

その後、SBIホールディングスは新生銀行に役員を送り込むなどして連結子会社化する方針を取る一方で、新生銀行はSBIホールディングスの傘下として再出発を図っています。

フリージア・マクロスによるソレキアへの敵対的買収事例

2017年6月、フリージア・マクロスがソレキアに対して株式公開買付けを行うと発表したところ、同年3月、ソレキアが同社の取締役会において上記株式公開買付けに反対する意見を表明したことで、敵対的買収に発展しました。

  • 買収側:フリージア・マクロス(産業機械製造・土木試験機製造の機械製造企業。製造供給事業、住宅関連事業、投資・流通サービス事業の3つを事業の柱とする。)
  • 買収対象企業:ソレキア(テクノロジー・プロダクツ事業、ICTソリューション事業、サービス・インテグレーション事業、インフラサービス事業などを展開している。)

今回の敵対的買収の主な目的は、ソレキアに対して株式保有によるROE(Return on Equity :株主資本利益率)経営の支援策を提案するために影響力を高めることです。

フリージア・マクロスが公開買付けを発表すると、ソレキアから買収防衛策「ホワイトナイト」の打診を受けた富士通は、この公開買付けに対抗することを表明します。当初は、佐々木ベジ氏(フリージア・マクロスの会長)が1株2,800円で株式を買い付ける一方、富士通は1株3,500円総額25億7,000万円での株式公開買付けを発表しました。

最終的には、富士通が定めた5月22日の買付け期間終了日に、富士通による株式公開買付けが不成立となり、他方、佐々木ベジ氏は、ソレキアの株式(議決権)39.64%を手に入れ、筆頭株主となりました。

2021年4月以降、フリージア・マクロスおよび佐々木ベジ氏はソレキアの株式を追加取得し、議決権比率を50.49%まで高めています。

ロワイドによる大戸屋ホールディングスへの敵対的買収事例

2020年4月、コロワイドは大戸屋ホールディングスに対して「取締役12名選任の件」とする株主提案を行ったところ、大戸屋ホールディングスが反対の意見を表明したことで、同年7月のコロワイドによる大戸屋ホールディングスへの敵対的買収に至っています。

  • 買収側:コロワイド(外食産業を中心に展開する複数の事業会社を統括する持株会社。大戸屋ホールディングスの筆頭株主。)
  • 買収対象企業:大戸屋ホールディングス(和食を中心とする外食チェーンストアを運営する企業および、海外で飲食店事業を行う事業会社を運営する持株会社。)

今回の敵対的買収は、買収対象企業の業績回復を早期に実現し、両企業の協業の成果を買収対象企業の事業再建に優先的に配分するために、買収対象企業における収益改善が買収側の連結会計上の収益向上に寄与するとの理由からなされています。

2020年8月、コロワイドは、本件株式公開買付けを確実に成立させることが極めて重要であるとして、公開買付け期間を8月25日から9月8日に延長し、買付予定株式数の下限を1,872,392株から1,510,138株に変更しました。

そして同年9月、本件株式公開買付けが成立し、コロワイドは本件株式公開買付けを通じて大戸屋ホールディングスの株式を新たに2,000,371株取得し、議決権割合にして46.77%を取得することになりました。

結果として、コロワイドは、大戸屋ホールディングスの子会社化に成功しています。

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敵対的買収の失敗事例

最後に、数ある敵対的買収の失敗事例の中から、近年話題になった3件をピックアップし紹介します。

スティール・パートナーズによるブルドックソースへの敵対的買収事例

2007年5月、スティール・パートナーズは、ブルドックソースに対して、ブルドックソースの株式すべての取得を目指し株式公開買付けを開始しました。これに対して、ブルドックソースは、株主共同の利益の毀損につながる可能性があるとして、スティール・パートナーズの株式公開買付けに反対の意見を表明したことで、敵対的買収に発展しています。

  • 買収側:スティール・パートナーズ(アメリカ合衆国に本拠地を置く、アクティビスト・ヘッジファンドの1つの総称。)
  • 買収対象企業:ブルドックソース(日本の調味料メーカー、ソース・その他調味料の製造・販売事業を展開。)

なお、ブルドックソースに対する株式公開買付けの実施に関して、スティール・パートナーズは明確な目的を明らかにしていません。

ブルドックソースは、スティール・パートナーズ以外の株主のみが行使できる新株予約権を株主に対して交付しました。そして、スティール・パートナーズに対しては新株予約権を行使できない代わりに金銭を交付するという、ポイズンピル(ライツプラン)の買収防衛策を用いています。

結果として、スティール・パートナーズでは、ブルドックソースに関する目標の議決権を達成できず、敵対的買収に失敗しています。

アスリード・キャピタルによる富士興産への敵対的買収

2021年4月、アスリード・キャピタルは、富士興産に対して、富士興産の株式すべての取得を目指し株式公開買付けを開始したところ、富士興産は株主の利益の最大化を妨げるものとして反対意見を表明し、敵対的買収に発展しています。

  • 買収側:アスリード・キャピタル(シンガポールを拠点とする投資会社。)
  • 買収対象企業:富士興産(アスファルト・油脂類の販売事業を展開する企業。2001年に石油精製部門から撤退し、現在ではENEOSグループから燃料油やアスファルトなどの製品を調達。)

2021年5月、富士興産は買収防衛策として、新株予約権の無償割当の発動を公表し、6月の定時株主総会で株主に対して真意を問うために議案として提出しました。この議案が承認・可決されたことで、アスリード・キャピタルは株式公開買付けを撤回し、敵対的買収に失敗しています。

コクヨによるぺんてるへの敵対的買収

2019年11月、コクヨは、ぺんてるに対して、ぺんてるの発行済株式総数の過半数の取得を目指し株式公開買付けを開始しました。これに対して、ぺんてるは、一方的かつ強圧的な当社の子会社化であるとして、反対意見を表明したことで、敵対的買収に発展しています。

  • 買収側:コクヨ(文房具・オフィス家具・事務機器を製造・販売する企業。株主として三井住友銀行の資本が入っている。主なブランドは書翰箋(便箋)・カドケシ(消しゴム)・Campus(ノート)・ドットライナー(テープのり)・プリット(スティックのり)など。)
  • 買収対象企業:ぺんてる(大手文具メーカー。主な取扱商品はサインペン・筆ペン・ボールペン・消しゴム・シャープペンシル・シャープペンシル替芯・修正テープなどの筆記器具・絵具・マーカーなどの画材など。)

コクヨはぺんてるの筆頭株主のファンドを子会社化したことで、ぺんてるの議決権37.45%を保有することになりました。そこで、さらにぺんてるの株式を買い進め、子会社化する目的で本件株式公開買い付けを開始しています。

ぺんてるはプラスに対して、ホワイトナイトとしてぺんてるの株式の買い取りを依頼します。そして、プラスがホワイトナイトとしてぺんてるの株式取得を進めたことで、結果的にコクヨはぺんてるの議決権の過半数を取得できずに、敵対的買収に失敗しています。

まとめ

敵対的買収とは、企業買収の形態のうち、買収の対象となる企業の経営者や従業員などから同意を取り付けることなく行われる買収のことです。

敵対的買収の方法としては、株式公開買い付けが一般的です。また、買収防衛策は、事前と事後に分けることができます。

敵対的買収には良い面も悪い面もあります。これを行う場合には、事前によく検討した上で、準備をするとよいでしょう。

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