M&A仲介会社が訴訟を提起された共同不法行為について解説

M&Aでは、M&A仲介会社を通じた取引もよく実施されています。M&Aの実施にあたり有用なM&A仲介会社ですが、取引にてトラブルが発生し、M&A会社に対して訴訟が提起されるケースもあります。実際、「不法行為の幇助」を理由として、あるM&A仲介会社に損害賠償を求めた訴訟が提起されました。 

そこで今回は、M&A仲介会社が訴訟を提起された「不法行為の幇助」や訴訟に発展した経緯について、分かりやすく解説します。記事の後半では、M&A仲介会社を通じたM&Aでよくあるトラブル、M&A仲介会社を選ぶときのポイントも解説しているので、M&A仲介会社の利用をお考えの経営者様は、ぜひ参考にしてください。 

※本記事は、Webの公開情報のみに基づいて作成しています。 

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そもそもM&A仲介会社とは?

M&A仲介会社は、M&Aの仲介業務をおこなう会社です。売手(譲渡)会社と買手(譲受)会社の間に入り、M&Aの仲介・助言をおこない、M&Aの成立をサポートします。 

具体的な仲介業務は、市場調査や企業評価から、相手先の発掘や交渉・契約、M&Aスケジュールの管理などです。契約自体は「アドバイザリー契約」または、「業務委託契約」などとなります。 

M&A仲介会社を利用するメリットとしては、大きく以下の2点が挙げられます。  

M&Aのサポートを受けられる
・相手方の発掘・選定・見極めをしてくれる 

M&A仲介会社に依頼することで、スムーズにM&Aを進めることが可能です。 

M&A仲介会社が訴訟を提起された事例

M&Aにおいて、利用にメリットのあるM&A仲介会社ですが、M&A仲介会社を通じたM&Aでトラブルも発生しています。実際にM&A仲介会社「ペアキャピタル」が、売手企業の株主より、訴訟を提起されました。 

この章では、P社が訴えられた事例と譲受会社に関する問題について、事例をもとに解説します。 

譲渡会社の代表者がM&A仲介会社に対して訴訟を提起

P社は、株式譲渡契約によるM&Aの仲介をおこないました。このM&Aの譲受会社は、複数の法人のM&Aを実施している医療コンサルタントをおこなう企業です。しかし、この譲受会社は詐欺や着服などを働いた疑いがあるとのことで、代表者らが逮捕されました。 

一方、M&Aの相手方であった譲渡会社の代表者(株主)は、M&A契約の解消とともに、M&Aを仲介したP社に対して訴訟を提起しました。訴状の内容としては、「譲受会社の不法行為をM&A仲介会社の社員が幇助した」ことを理由とし、損害賠償を求めているものです。 

訴訟を提起されたP社は、ことの顛末を自社HPの「お知らせ」にて公表しており、請求された内容を精査したうえで、適切に対処するとしています。なお、M&A仲介会社の担当者は、譲受会社の代表者が詐欺しようとしていたことを知っていた可能性があるとのうわさもあり、そうだとしたら、M&A仲介会社の責任も免れないと思われ、今後の進展から目が離せません。 

譲受会社は買収先に対して欺罔行為・着服をはたらいた疑いがもたれている

P社が仲介したM&Aの譲受会社は、複数の買収をおこなっていましたが、詐欺や着服をはたらいていたと報じられました。警察の調べによると、譲受会社の代表者らは、2021年の7月から8月にかけて、医療法人と薬局経営会社を買収しており、詐欺や着服を繰り返した疑いがあるとのことです。 

2021年7月、譲受会社の代表者らは、経営陣の高齢化で事業の譲渡を検討している滋賀県大津市の医療法人を、M&A仲介会社を通じて買収しました。しかし報道によると買収後に、この医療法人から預かった1億円を買収の費用に充てたとのことで、2021年11月28日に業務上横領の疑いで逮捕されています。 

また、この代表者らはM&A仲介会社を通じて買収した東京都北区の薬局経営会社からも、約1億円の着服をおこなったとされており、業務上横領容疑で再逮捕されたとのことです。

加えて代表者らは2021年8月、大阪市淀川区の医療法人から、融資の担保名目で5000万円を騙し取った疑いもあるとのことで、詐欺容疑でも逮捕されています。譲受会社の代表者らは、ほかの法人からも詐取を働きだまし取った疑いがあるとして、現在も警察が調べを進めています。 

なお、今回の訴訟では、M&A仲介における不法行為の幇助が争点になりそうです。ただトラブルの具体的な経緯などは報じられていないため、現在のところ、詳細までは分かっていません。譲受会社の代表らも逮捕されたものの、起訴されるかどうかなども不明です。

買収後に、この医療法人から預かった1億円を買収の費用に充てたとしても、その時点では、買収後ですから、譲受会社の代表者が、その医療法人の資金を別段に使用しても問題ないはずであり、具体的に何が問題なのかよくわかりません。  

また、買収した会社の資金を買収に使用することが問題なのであれば、ソフトバンクの孫さんは、借金をしてM&Aを行い、M&A対象会社の資金でその借金を返すというLBOを次々と行っており、M&A代金をもM&A対象会社に負わせているのであり、ソフトバンクの孫さんは問題なく、この件の譲受会社の代表者は問題であるとすることの意味はよく分かりません。 

そのようなことを言うと、ソフトバンクの孫さんもM&A後にその会社を破綻させてしまったら逮捕されてしまうのかもしれません。この辺りは、今後の報道に注目しましょう。 

M&A仲介会社を介したM&Aでよくあるトラブル

M&A仲介会社を通じたM&Aでは、ほかにもさまざまなトラブルが発生しています。つづいては、M&A仲介会社を介したM&Aで、よく発生するトラブルをご紹介します。M&A仲介会社の利用を検討する際、ぜひ参考にしてください。 

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当初の説明と事実が異なる

事実関係に相違があるなかで、M&Aが成立してしまうケースです。たとえば自社が買手企業の場合、M&A仲介会社を通じて、売手企業の情報が提供されることがあります。

しかし、M&A仲介会社のなかには、自社の利益を優先するあまり、M&A成立に有利な情報のみを提供するケースが存在します。M&A成立後に事実関係の相違が発覚した場合、トラブルに発展するのは必然といえるでしょう。 

実際には、事実関係の相違があるなかで成立したM&Aであるにもかかわらず、成約したことを理由に仲介手数料の支払いを強いられたケースもあるようです。 

M&A仲介会社が重大な問題を伝えなかった

M&A仲介会社が重大な問題を伝えなかった」というのも、M&A仲介会社を通じたM&Aでよくあるトラブルです。悪質なケースでは、売手企業は事実を伝えたものの、M&A仲介会社が買手企業に対して、情報を提供しなかった事例も存在します。 

たとえば売手企業が資金ショート寸前である場合、何も対策を講じなければ、倒産するリスクは高いといえるでしょう。リスクが高い状態であるにもかかわらず、M&Aの成立を優先し、こういった事実を伝えないM&A仲介会社もいます。実際にM&Aが成立したあと、売手企業が資金ショートして破産した事例もあります。 

このようにM&Aを成立させたいがために、事実を隠すM&A仲介会社も存在しているようです。 

着手金を支払ったものの話が進まない

着手金を支払ったものの、話が進まないということもよくあるトラブルです。M&Aでは、すぐに相手先企業が見つかるとは限りません。交渉までに時間を要することがありますが、なかには着手金目当てで、強引な手法を用いるM&A仲介会社も存在するようです。 

売手企業がM&Aを実施する際、M&A仲介会社が企業査定をおこなうことがあります。売手企業の経営者様のなかには、予想以上に査定結果が高額だと嬉しくなり、つい勢いでそのまま依頼する方もいるでしょう。しかし、M&Aコンサルティング料金は、企業によって料金設定が異なり、依頼した時点で着手金が発生する場合があります。  

依頼した時点で料金が発生する料金形態のM&A仲介会社のなかには、依頼してもらうために、相場より高めの査定をつける会社も存在するようです。

当然ながら、適正価格でない企業が買収される可能性は低く、なかなか相手先は見つからないでしょう。実際、相手先が一向に見つからないため、別のM&A仲介会社に相談したところ、適正な査定がおこなわれていなかったことが発覚した事例もあります。 

会社の売却でM&A仲介会社を利用する際は、1社だけでなく、複数社に相談してみることが大切です。 

項目が不透明な手数料を請求された

M&A仲介会社が請求する手数料に法的な規定はなく、企業が自由に項目を設定できます。そのため、項目が不透明な手数料を請求された事例も存在します。 

よくあるケースとしては、情報の開示に関する手数料などです。買手企業が情報開示を要求した際、開示するための費用として、高額な手数料を請求されることがあります。悪質なものでは、提供された情報を確認したところ、買手企業が最初に提示した条件を売手企業が全く満たしていないにもかかわらず、M&Aを進めようとしていたケースもあるようです。  

事実が発覚しクレームを入れた際に、手数料を返還してもらえるとよいですが、必ずしも応じてもらえるとは限りません。M&A仲介会社には、成功報酬型をはじめ、着手金や中間金が発生するなど、さまざまな料金形態があります。トラブルを防止するには、料金形態をよく理解したうえで依頼しましょう。 

売手企業の経営者によってM&A後に資金を使い込まれ

M&A成立後に売手企業の代表者が、会社の資金を使い込むケースもよくあるトラブルです。とくにクレジットカードなどは利用されやすく、莫大な金額を使い込まれた事例も存在します。なかには使い込んだ売手企業の代表者が、海外逃亡したことから、不正使用されたクレジットカードの代金を買手企業が負担したケースもあるようです。 

海外逃亡されるようなケースでは、横領されたお金を回収するのも困難です。M&A仲介会社を通じたM&Aでは、M&A仲介会社が成約を急ぐあまり、M&A後の規定を疎かにするケースも存在します。交渉を進める際には、通帳や銀行カードなどの重要なものの引き渡し方法や時期について、明確に取り決めておきましょう。 

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M&A仲介会社の実情について

M&A仲介会社は、日本にも無数に存在しています。この章では、M&A仲介会社の実情について見ていきましょう。 

M&Aの仲介に関する法律はない

M&A仲介会社は、不動産業者や派遣事業者のような業法は存在しません。つまり、利用者を保護する規定が十分でないということです。会社設立の規定も明確に定められていないため、設立自体も容易にできます。 

たとえば派遣会社の場合には、さまざまな厳しい規定があり、そのひとつに「派遣労働者100人ごとに1人の派遣元責任者を選任しなければならない」というものがあります。

この派遣元責任者には、選任条件が定められており、講習の受講や3年以上の労務管理経験が必要です。また、不動産会社の場合、事務所には従業員5人ごとに1人、宅地建物取引主任者を配置しなければなりません。宅地建物取引主任者は国家資格となり、取得には2年以上の実務経験が必要です。  

一方でM&A仲介会社の設立には必要な要件がほとんどなく、スキルのない者や経験が浅い者、ひいては反社会的な者でも設立できます。そのため、実績が乏しく信頼性に欠ける会社や、反社会的と疑わしい会社なども存在します。 

売手と買手双方の代理をするケースも多い

M&A仲介会社は、M&Aにおいて中立の立場が基本となるため、買手企業と売手企業、双方の代理をするのがほとんどです。しかしながら、M&Aの成立を優先するのみで、顧客の利益を追及しないM&A仲介会社も存在します。 

M&A仲介会社の場合、双方の情報を把握しているため、情報の操作が容易です。たとえばM&Aを成立させたいがために、売手企業に対して適正とはいえない価格まで妥協させ、とにかく売却させようとした事例もあります。 

また、アドバイスに関しても企業の利益より、M&Aの成立が優先されていることも少なくありません。よくあるケースとしては、M&Aを早く成立させるために、本来であれば可能なはずのリスクヘッジを実施しないなどです。 

このようにM&A仲介会社は、必ずしも企業の利益を追及してくれるわけではありません。自社の利益のみを追及するM&A仲介会社も存在しているため、アドバイスを受けたとしても、本当に自社の利益になるか検証することが大切です。 

なお、M&Aにおける仲介については、利益相反の観点から問題視する意見があります。実際、2020年に大臣のひとりがブログにて問題を提起したこともあり、今後の動向が注目されます。 

訴訟紛争に発展する事案も多く存在する

M&A仲介会社を通じたM&Aについては、本記事の事例のように、訴訟紛争に発展する事案も少なくありません。たとえば、守秘義務を守らないM&A仲介会社も存在します。実際、経営幹部のみしかM&Aのことを知らないはずなのに、いつの間にか従業員のほとんどが知っていたという事例もあります。 

一般的に機密情報や個人情報の守秘義務は、現代社会においてビジネスの基本ともいえるものです。しかしながら、M&A仲介会社には免許や業法が存在せず、こういった基本をおさえていない会社も存在します。 

そのほか、「問題のある会社を買収することになった」「不利な条件で会社を売却させられた」など、M&A仲介会社を通じたM&Aのトラブルは後を絶ちません。訴訟紛争に発展するケースも少なくないため、M&A仲介会社を選ぶ際は、実績なども踏まえたうえで慎重に検討しましょう。 

M&A仲介会社を見極めるポイント

M&A仲介会社は、以下のポイントをおさえて選ぶのがおすすめです。 

・実績が豊富であるか
・自社の希望に合った案件を取り扱っているか
・明確な料金形態であるか 

上記の情報は、M&A仲介会社のホームページなどで確認できます。情報が掲載されていない場合や、不透明だと感じるときは一度立ち止まり、信頼できる会社かどうか再考しましょう。ホームページの情報だけでは不安なときは、口コミなどを参考にするのもおすすめです。実際に利用した方の評判を知ることで、リスクに備えることができます。 

なお、「裁判記録の閲覧」も有効な手段です。すべての記録を閲覧できるとは限りませんが、利用を検討しているM&A仲介会社が、訴訟を起こされていないかを確認できます。 

M&A仲介会社との間でトラブルが発生したら弁護士へ相談するのがおすすめ

もし、M&A仲介会社との間でトラブルが発生したら、弁護士へ相談するのがおすすめです。仮にM&Aが成立したあとであっても、本記事で紹介した事例のように訴訟を提起することで、損害賠償を請求できる可能性があります。  

また、虚偽の情報によってM&Aが実施された場合には、詐欺罪の成立もあり得ます。M&A仲介会社を通じたM&Aで、不条理な損害を被ったり、不信感を覚えたりした際は、早めに弁護士への相談を検討しましょう。  

まとめ

M&A仲介会社は、M&Aを実施するにあたり、有効な手段のひとつです。M&Aの専門家からのサポートが受けられるため、M&Aを円滑に進められます。 

一方でM&A仲介には規制する法律がなく、悪質なM&A仲介会社や自社の利益のみを追及するM&A仲介会社も存在します。実際、M&A仲介会社を通じたM&Aでは、トラブルが発生するケースも多く、訴訟紛争に発展する事案も少なくありません。 

M&A仲介会社を利用する際は、実績や料金形態をホームページなどで確認し、信頼できる会社を選びましょう。もし、トラブルに巻き込まれたときは、弁護士に相談するのがおすすめです。 

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