M&A仲介会社が訴訟を提起された共同不法行為について|表明保証違反による訴訟も紹介

M&Aでは、M&A仲介会社を通じた取引もよく実施されています。M&Aの実施にあたり有用なM&A仲介会社ですが、取引にてトラブルが発生し、M&A会社に対して訴訟が提起されるケースもあります。実際、「不法行為の幇助」を理由として、あるM&A仲介会社に損害賠償を求めた訴訟が提起されました。
そこで今回は、M&A仲介会社が訴訟を提起された「不法行為の幇助」や訴訟に発展した経緯について、分かりやすく解説します。M&Aに関する訴訟リスクとして、M&Aの表明保証違反や株主、従業員との訴訟リスクについてもまとめました。
記事の後半では、M&A仲介会社を通じたM&Aでよくあるトラブル、M&A仲介会社を選ぶときのポイントも解説しているので、M&A仲介会社の利用をお考えの経営者様は、ぜひ参考にしてください。
※本記事は、Webの公開情報のみに基づいて作成しています。
M&A訴訟のパターン
M&Aでは、売り手・買い手・M&A仲介会社・従業員など多くの関係者が関与するため、契約上のトラブルや期待値の不一致が原因で訴訟に発展することがあります。M&A訴訟にはいくつかの典型的なパターンがあり、適切な対策を講じることでリスクを最小限に抑えることが可能です。
以下では、M&Aにおける代表的な訴訟パターンを解説します。
M&A仲介会社の共同不法行為による訴訟
M&A仲介会社は、売り手と買い手をマッチングし、取引を円滑に進める役割を担います。しかし、仲介会社が買い手・売り手のいずれかに不利な情報を隠蔽したり、不正な取引を推奨したりした場合、共同不法行為の責任を問われることがあります。
表明保証違反による訴訟
M&A契約では、売り手が買い手に対し、自社の財務状況・契約関係・知的財産などに関する表明保証を行います。しかし、契約締結後に表明保証に虚偽や誤解を招く内容があった場合、買い手は損害賠償請求や契約解除を求めることが可能です。
表明保証とは、契約当事者が契約対象に関する事実や法律関係について、ある時点でその真実性や正確性を表明し保証することです。英米法の「Representations and Warranties」が由来で、日本でもアメリカのM&A契約実務を基に一般的に使用されています。
表明保証条項が活用される典型例として、M&A契約時に売主が対象会社の財務状況の真実性を保証し、後にその内容と異なる事実が発覚した場合があります。この場合、買主は表明保証違反を理由に、株式譲渡価格の差額分の損害賠償請求訴訟を提起できます。
表明保証に基づく損害賠償請求は、買主が表明保証事項と異なる事実を発見した場合に必ず認められるわけではありません。損害賠償請求が常に可能であれば、事前のデューデリジェンスを省略し、M&A後に損失を填補することを考えるかもしれません。
しかし、実際には損害賠償請求が制限されるケースもあります。その事例は、後ほど詳しく紹介します。
不当な株価設定による訴訟
M&A(企業の合併・買収)では、売り手企業の株価が適正に評価されるかどうかが、買収価格の決定に大きな影響を与えます。しかし、不当に高い(または低い)株価が設定された場合、買い手・売り手・株主間で紛争が発生し、訴訟に発展するケースがあります。
従業員の待遇変更による訴訟
M&Aによって企業が統合された際、従業員の給与・福利厚生が変更されることが原因で訴訟が発生する場合があります。特に、買収後の人事制度や労働環境の変更が不当とされるケースが増えています。
M&A仲介会社を介したM&Aでよくあるトラブル
M&A仲介会社を通じたM&Aでは、様々なトラブルが発生しています。つづいては、M&A仲介会社を介したM&Aで、よく発生するトラブルをご紹介します。M&A仲介会社の利用を検討する際、ぜひ参考にしてください。
当初の説明と事実が異なる
事実関係に相違があるなかで、M&Aが成立してしまうケースです。たとえば自社が買手企業の場合、M&A仲介会社を通じて、売手企業の情報が提供されることがあります。
しかし、M&A仲介会社のなかには、自社の利益を優先するあまり、M&A成立に有利な情報のみを提供するケースが存在します。M&A成立後に事実関係の相違が発覚した場合、トラブルに発展するのは必然といえるでしょう。
実際には、事実関係の相違があるなかで成立したM&Aであるにもかかわらず、成約したことを理由に仲介手数料の支払いを強いられたケースもあるようです。
M&A仲介会社が重大な問題を伝えなかった
「M&A仲介会社が重大な問題を伝えなかった」というのも、M&A仲介会社を通じたM&Aでよくあるトラブルです。悪質なケースでは、売手企業は事実を伝えたものの、M&A仲介会社が買手企業に対して、情報を提供しなかった事例も存在します。
たとえば売手企業が資金ショート寸前である場合、何も対策を講じなければ、倒産するリスクは高いといえるでしょう。リスクが高い状態であるにもかかわらず、M&Aの成立を優先し、こういった事実を伝えないM&A仲介会社もいます。実際にM&Aが成立したあと、売手企業が資金ショートして破産した事例もあります。
このようにM&Aを成立させたいがために、事実を隠すM&A仲介会社も存在しているようです。
当初の説明と事実が異なっていたり、M&A仲介会社が重大な問題を伝えなかったりしたことで訴訟に発展するケースについて、詳しくは次章「M&Aの表明保証に関する訴訟リスク」にて事例を交えて解説しています。
着手金を支払ったものの話が進まない
M&A仲介におけるトラブルの一例として、着手金を支払ったものの話が進まないケースがあります。M&Aは相手企業がすぐに見つかるとは限らず、交渉に時間を要することが多いですが、中には着手金目当てで高額な査定を提示する仲介会社も存在します。
売り手企業の経営者が査定結果の高額さに喜び、そのまま依頼してしまうこともありますが、適正価格ではない査定の場合、買収先が見つかりにくいのが現実です。
また、料金体系によっては依頼時点で着手金が発生し、結果的に成果が得られないまま費用が無駄になるリスクもあります。
実際、適正な査定が行われていないことが後から別の仲介会社への相談で判明するケースも見られます。そのため、M&A仲介会社を利用する際は、1社だけでなく複数の会社に相談し、査定結果を比較することが重要です。適切なパートナー選びが、成功の鍵となります。
項目が不透明な手数料を請求された
M&A仲介会社が請求する手数料に法的な規定はなく、企業が自由に項目を設定できます。そのため、項目が不透明な手数料を請求された事例も存在します。
よくあるケースとしては、情報の開示に関する手数料などです。買手企業が情報開示を要求した際、開示するための費用として、高額な手数料を請求されることがあります。悪質なものでは、提供された情報を確認したところ、買手企業が最初に提示した条件を売手企業が全く満たしていないにもかかわらず、M&Aを進めようとしていたケースもあるようです。
事実が発覚しクレームを入れた際に、手数料を返還してもらえるとよいですが、必ずしも応じてもらえるとは限りません。M&A仲介会社には、成功報酬型をはじめ、着手金や中間金が発生するなど、さまざまな料金形態があります。トラブルを防止するには、料金形態をよく理解したうえで依頼しましょう。
売手企業の経営者によってM&A後に資金を使い込まれる
M&A成立後に売手企業の代表者が、会社の資金を使い込むケースもよくあるトラブルです。とくにクレジットカードなどは利用されやすく、莫大な金額を使い込まれた事例も存在します。なかには使い込んだ売手企業の代表者が、海外逃亡したことから、不正使用されたクレジットカードの代金を買手企業が負担したケースもあるようです。
海外逃亡されるようなケースでは、横領されたお金を回収するのも困難です。M&A仲介会社を通じたM&Aでは、M&A仲介会社が成約を急ぐあまり、M&A後の規定を疎かにするケースも存在します。交渉を進める際には、通帳や銀行カードなどの重要なものの引き渡し方法や時期について、明確に取り決めておきましょう。
訴訟トラブルを踏まえたM&A仲介会社の実情について
M&A仲介会社は、日本にも無数に存在しています。この章では、M&A仲介会社の実情について見ていきましょう。
M&Aの仲介に関する法律はない
M&A仲介会社は、不動産業者や派遣事業者のような業法は存在しません。つまり、利用者を保護する規定が十分でないということです。会社設立の規定も明確に定められていないため、設立自体も容易にできます。
たとえば派遣会社の場合には、さまざまな厳しい規定があり、そのひとつに「派遣労働者100人ごとに1人の派遣元責任者を選任しなければならない」というものがあります。
この派遣元責任者には、選任条件が定められており、講習の受講や3年以上の労務管理経験が必要です。また、不動産会社の場合、事務所には従業員5人ごとに1人、宅地建物取引主任者を配置しなければなりません。宅地建物取引主任者は国家資格となり、取得には2年以上の実務経験が必要です。
一方でM&A仲介会社の設立には必要な要件がほとんどなく、スキルのない者や経験が浅い者、ひいては反社会的な者でも設立できます。そのため、実績が乏しく信頼性に欠ける会社や、反社会的と疑わしい会社なども存在します。
売手と買手双方の代理をするケースも多い
M&A仲介会社は、M&Aにおいて中立の立場が基本となるため、買手企業と売手企業、双方の代理をするのがほとんどです。しかしながら、M&Aの成立を優先するのみで、顧客の利益を追及しないM&A仲介会社も存在します。
M&A仲介会社の場合、双方の情報を把握しているため、情報の操作が容易です。たとえばM&Aを成立させたいがために、売手企業に対して適正とはいえない価格まで妥協させ、とにかく売却させようとした事例もあります。
また、アドバイスに関しても企業の利益より、M&Aの成立が優先されていることも少なくありません。よくあるケースとしては、M&Aを早く成立させるために、本来であれば可能なはずのリスクヘッジを実施しないなどです。
このようにM&A仲介会社は、必ずしも企業の利益を追及してくれるわけではありません。自社の利益のみを追及するM&A仲介会社も存在しているため、アドバイスを受けたとしても、本当に自社の利益になるか検証することが大切です。
なお、M&Aにおける仲介については、利益相反の観点から問題視する意見があります。実際、2020年に大臣のひとりがブログにて問題を提起したこともあり、今後の動向が注目されます。
訴訟紛争に発展する事案も多く存在する
M&A仲介会社を通じたM&Aについては、本記事の事例のように、訴訟紛争に発展する事案も少なくありません。たとえば、守秘義務を守らないM&A仲介会社も存在します。実際、経営幹部のみしかM&Aのことを知らないはずなのに、いつの間にか従業員のほとんどが知っていたという事例もあります。
一般的に機密情報や個人情報の守秘義務は、現代社会においてビジネスの基本ともいえるものです。しかしながら、M&A仲介会社には免許や業法が存在せず、こういった基本をおさえていない会社も存在します。
そのほか、「問題のある会社を買収することになった」「不利な条件で会社を売却させられた」など、M&A仲介会社を通じたM&Aのトラブルは後を絶ちません。訴訟紛争に発展するケースも少なくないため、M&A仲介会社を選ぶ際は、実績なども踏まえたうえで慎重に検討しましょう。
訴訟トラブル回避のためのM&A仲介会社を見極めるポイント
M&A仲介会社は、以下のポイントをおさえて選ぶのがおすすめです。
- 実績が豊富であるか
- 自社の希望に合った案件を取り扱っているか
- 明確な料金形態であるか
上記の情報は、M&A仲介会社のホームページなどで確認できます。情報が掲載されていない場合や、不透明だと感じるときは一度立ち止まり、信頼できる会社かどうか再考しましょう。ホームページの情報だけでは不安なときは、口コミなどを参考にするのもおすすめです。実際に利用した方の評判を知ることで、リスクに備えることができます。
なお、「裁判記録の閲覧」も有効な手段です。すべての記録を閲覧できるとは限りませんが、利用を検討しているM&A仲介会社が、訴訟を起こされていないかを確認できます。
M&A訴訟の事例
本章では、M&A訴訟の代表的な事例を紹介します。
M&A仲介会社が訴訟を提起された事例
M&Aにおいて、利用に様々なメリットのあるM&A仲介会社ですが、M&A仲介会社を通じたM&Aでトラブルも発生しています。実際にM&A仲介会社「ペアキャピタル」が、売手企業の株主より、訴訟を提起されました。
この章では、P社が訴えられた事例と譲受会社に関する問題について、事例をもとに解説します。
譲渡会社の代表者がM&A仲介会社に対して訴訟を提起
P社は株式譲渡契約によるM&Aを仲介しましたが、譲受会社が詐欺や着服の疑いで代表者が逮捕される事態が発生しました。
この譲受会社は複数のM&Aを手掛ける医療コンサル企業です。一方、譲渡会社の代表者(株主)はM&A契約の解消を求めるとともに、P社に対して「譲受会社の不法行為を仲介会社の社員が幇助した」として損害賠償訴訟を起こしました。
P社は訴訟内容を精査し、適切に対応する方針を公表しています。また、仲介担当者が譲受会社の詐欺意図を事前に把握していた可能性も取り沙汰されており、仲介会社の責任が問われる展開になる可能性があります。
譲受会社は買収先に対して欺罔行為・着服をはたらいた疑いがもたれている
P社が仲介したM&Aで譲受会社の代表者らが詐欺や横領の疑いで逮捕されました。この譲受会社は複数の法人を買収しており、2021年7月には滋賀県大津市の医療法人をM&A仲介会社を通じて取得しました。
しかし、買収後に医療法人から預かった1億円を買収費用に充てたとして、業務上横領の疑いで同年11月に逮捕されています。さらに、東京都北区の薬局経営会社から1億円を着服した容疑で再逮捕され、大阪市淀川区の医療法人からも融資担保の名目で5,000万円を騙し取った疑いがあり、詐欺容疑も追加されています。警察はその他の法人からの詐取についても捜査を進めています。
今回の訴訟では、M&A仲介会社による不法行為の幇助が争点になると見られています。ただし、トラブルの具体的な経緯や代表者らが起訴されるかどうかなど詳細は明らかになっていません。
買収後に取得した資金を買収費用に使用することが問題視されていますが、これが違法行為とされる理由は不明確です。ソフトバンクが行っているLBOが合法とされる一方で、今回のケースが違法とされる点には議論の余地がありそうです。この件は、法解釈や適用範囲を巡る問題として、今後の報道に注目が集まっています。
表明保証責任についてM&Aの契約書と異なる要件を定立した訴訟の例
ここからは、アルコ事件(東京地判平成18年1月17日 判タ1230号206頁)を紹介します。この事件は、表明保証の限界を理解する上で重要な判例です。
訴訟提起の概要
原告Xは、消費者金融会社Aの企業買収を検討し、Aの全株式を取得するためにデューデリジェンスを実施した後、被告YらとAの全株式譲渡契約を締結しました。この契約には、YらがXに提供したAの財務諸表が正確であると表明し、その内容を保証する旨の規定が含まれていました。
しかし、買収後に発覚したのは、Aが保有する和解債権に関する処理の問題でした。具体的には、元本の入金があったにもかかわらず、それを貸借対照表上で利息として計上し、元本部分に対する貸倒引当金を計上していなかったのです。これにより、Aの資産が本来よりも水増しされ、帳簿上の評価が実態よりも高く見える状況が作られていました。
Aの株式は簿価純資産法で評価されていたため、この誤った計上により、株式の評価額も実際より高く算定されていました。Xは、Yらがこの不正な処理に関する情報を開示しなかったことが表明保証義務違反に該当すると主張。不当に資産計上された利息充当額などとして、3億529万円余りの損害賠償を求める訴訟を起こしました。
判決文から検討する訴訟リスク回避のポイント
裁判所は判決において、Xが契約締結時にAの財務諸表に関する表明保証義務違反の事実を知らなかったと認定しました。また、Xの立場が「善意かつ無重過失」であると判断し、Yの表明保証義務違反を認めてXの損害賠償請求を支持しました。
この判断は、表明保証違反が認められるためには買主が「善意かつ無重過失」であることが必要とする考えを示しています。裁判所は、DD(デューデリジェンス)を含む交渉過程全体を踏まえ、この要件を満たしているかどうかを判断しました。
「善意かつ無重過失」の要件の取り扱い
ただし、この「善意かつ無重過失」の要件は契約書に明記されておらず、契約段階では問題とされていなかったにもかかわらず、裁判では必要条件として扱われた点に注意が必要です。
アルコ事件では、Xが善意かつ無重過失であったため損害賠償請求が認められました。一方で、もし買主が悪意または重過失であると判断された場合、賠償額が制限される可能性があることも示唆されています。つまり、契約段階での表明保証条項がそのまま適用されるわけではない場合があることを意味します。
さらに、アルコ事件特有の判断であり、表明保証義務違反において必ずしも善意かつ無重過失が求められるわけではないと解釈する余地もあります。しかし、裁判になれば売主がこの事件を根拠に買主の過失を主張する可能性は十分に考えられます。
M&Aにおいて、事後的に損害賠償請求で対応する方針を取る場合でも、DDを怠らないことが重要です。DDを適切に実施することで、後の裁判リスクを回避し、取引後の問題を未然に防ぐことができます。仮に訴訟になれば、裁判費用や時間的コストがかかるため、事前の調査とリスク回避策を講じることが、最終的には大きな負担軽減につながります。
参考:裁判所「件名 損害賠償等請求事件(東京地方裁判所 平成16年(ワ)第8241号 平成18年1月17日判決 一部認容)」
M&Aにおいて譲渡側企業の株主が訴訟を提起した事例
M&Aにおける株主との訴訟リスクを把握する上で役立つ情報として、「ジュピターテレコム事件(最高裁平成28年7月1日決定)」について簡単に紹介します。
訴訟提起の概要
JASDAQ上場企業の対象会社は、議決権の70%以上を保有する2社が非上場化を目的に、公開買付けと全部取得条項付種類株式によるキャッシュアウトを実施しました。株主に交付する取得価格は市場株価法やDCF法で算定され、1株123,000円と設定されました。しかし、少数株主がこの価格を不当に低いとし、「公正な価格」の決定を求めて申し立てました。
第一審では、公正な価格を「取得日での株式価値」と「取引後に期待される増加価値のうち既存株主が享受すべき部分」の合算とする従来の基準を適用したほか、市場全体の株価上昇を考慮し、回帰分析により補正した価格を公正と判断し、公開買付価格を上回る価格を認定しました。この判断は原審でも支持されましたが、会社側などが最高裁に抗告しています。
決定の要旨
本件の取引では、多数株主と少数株主の利益相反を避けるため、第三者委員会や専門家の意見を活用し、公正な手続きを経て公開買付けが行われました。また、公開買付価格と同額で未応募株主の株式を取得することが明示されており、市場価格変動も反映された価格とされました。そのため、裁判所は特段の事情がない限り、公開買付価格を公正な価格と認め、価格補正を行うべきではないと判断しました。本件では予期しない変動は認められず、裁判所は原決定を破棄し、公開買付価格を「公正な価格」としました。
注意点
MBOや完全子会社化のキャッシュアウトで問題となるのは、少数株主に交付する対価の適正性です。通常、第三者算定機関による株式価値算定書を基に価格が設定されますが、少数株主が納得しない場合、「取得価格決定の申立て」により価格の公正性を争えます。
これまで、裁判所が会社設定の価格を変更する条件として、利益相反を避ける適正な手続の履行や市場全体の株価上昇を考慮した補正が必要かについて判断が分かれていました。本決定では、適正な手続が実施され、予期しない市場変動がない限り、会社設定の価格を取得価格とするべきと明確に示されました。
また、事後的な市場動向による価格補正を認めると、株主が市場下落時には価格を維持し、上昇時には利益を得るという不公平な状況を招くため、補正を行わない本決定の方向性は合理的といえます。本決定は、手続の公正性を担保し、取引条件の予測可能性を重視するこれまでの最高裁の判断を踏襲しており、実務においても重要な指針となります。
M&Aにおいて譲渡側の従業員が訴訟を提起した事例
次に、M&Aにおける従業員との訴訟リスクを把握する上で役立つ情報として、「阪神バス転籍事件(神戸地裁尼崎支部平成26年4月22日判決)」について簡単に紹介します。
訴訟提起の概要
原告である従業員は、身体障害に配慮した労働契約を会社と締結していました。しかし、会社が分割を行う際、労働契約承継法に基づく手続きを経ずに労働契約を合意解除し、承継会社と配慮条件のない新たな契約を結びました。その結果、従業員は以前の配慮を受けられなくなり、従前の労働契約と同等の地位を有することの確認を求めて訴訟を提起しました。
決定の要旨
労働契約承継法は、会社分割時に従業員が希望すれば従前の労働契約がそのまま承継されることを保障しています。
同法の通知義務は従業員の同意があっても免除されず、本件会社が行った手続きによる労働条件の不利益変更は法の趣旨を潜脱し、公序良俗に反して無効とされました。その結果、従業員には従前の労働条件がそのまま承継されると判示されました。
注意点
会社分割は、会社の権利義務を承継会社に移転する手続きであり、事業部門の切り出しなどに利用されます。この際、従業員の保護を目的として労働契約承継法が適用され、通知や協議の努力義務、従業員の異議申出による労働契約の承継が定められています。また、平成12年商法改正附則第5条でも従業員との個別協議が義務付けられています。
本判決では、会社分割における労働契約承継法の手続きが厳格に適用され、従業員の同意があったとしても手続の省略や迂回が認められないと判示されました。過去の判例(最高裁平成22年7月12日判決)でも、個別協議が不十分な場合には承継の効力が否定される可能性が示されています。
そのため、会社分割を実施する際は、労働契約承継法に基づき、従業員や労働組合との協議、通知、理解を得るための手続を適切に行うことが求められます。こうした対応が不十分であれば、承継の効力に影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
M&A仲介会社との間でトラブルや訴訟が発生したら弁護士へ相談するのがおすすめ
もし、M&A仲介会社との間でトラブルが発生したら、弁護士へ相談するのがおすすめです。仮にM&Aが成立した後であっても、本記事で紹介した事例のように訴訟を提起することで、損害賠償を請求できる可能性があります。
また、虚偽の情報によってM&Aが実施された場合には、詐欺罪の成立もあり得ます。M&A仲介会社を通じたM&Aで、不条理な損害を被ったり、不信感を覚えたりした際は、早めに弁護士への相談を検討しましょう。
M&Aにおけるトラブルや訴訟リスクのまとめ
M&A仲介会社は、M&Aを実施するにあたり、有効な手段のひとつです。M&Aの専門家からのサポートが受けられるため、M&Aを円滑に進められます。
一方でM&A仲介には規制する法律がなく、悪質なM&A仲介会社や自社の利益のみを追及するM&A仲介会社も存在します。実際、M&A仲介会社を通じたM&Aでは、トラブルが発生するケースも多く、訴訟紛争に発展する事案も少なくありません。
また、M&Aでは多くのリスクが契約で調整されるため、裁判に発展しないことが一般的ですが、株主や従業員など個人が不利益を受ける場合、訴訟となることもあります。そのため、事前の準備や関連する重要な判例を理解しておくことが、問題の予防や訴訟対応において重要です。
M&A仲介会社を利用する際は、実績や料金形態をホームページなどで確認し、信頼できる会社を選びましょう。もし、トラブルに巻き込まれたときは、弁護士に相談するのがおすすめです。