M&A買主から損害を請求された場合の対応策!
M&A買主から損害を請求された場合
M&Aトラブルで最も多いものは表明保証条項違反の損害賠償請求
M&Aトラブルにはいろいろなものがあります。
ただ、最も多いのは、M&A買収した後、買主が「買収対象会社が聞かされていた内容と異なる!」として、売主に対して「表明保証」違反の補償請求・損害賠償請求をするものです。
表明保証条項違反の損害賠償請求とは
例えば、株式譲渡契約書の中で、売主が、対象会社について、「財務諸表が完全かつ正確であり,一般に承認された会計原則に従って作成されたこと」との「表明保証」をすることが一般的ですが、その売主が粉飾決算をしていた場合、「表明保証」違反となり、買主は売主に対して、「表明保証」違反に基づく補償請求・損害賠償請求をすることができます。
「表明保証」は、英米法上の概念であり、「表明保証」された事項に誤りがあることによって生じる損害を補償するというものであり、M&Aの際には、売主が売却対象会社に特段問題が無いことを「表明保証」しますので、いわば瑕疵担保責任のようなものです。したがって、「表明保証」をすると、その表示に誤りがあれば、すなわち売却対象会社に問題があれば、売主は買主に対して補償責任・損害賠償請求を負うこととなります。
表明保証をする内容についてはいろいろなものがありますが、表明保証した内容と真実とが異なっていたら責任を負うのですから、売主としては、表明保証の内容については、しっかり確認し、真実と相違しているのなら、買主候補企業に対して、その旨をしっかり伝え、表明保証の内容を修正してもらわないといけないのです。
にもかかわらず、「これを伝えたらM&Aしてもらえないのではないか」「これを伝えたらM&A価格を減額されてしまうのではないか」「これを伝えたらバカにされるのではないか」などなど、売主としては、あれこれ心配し、買主候補企業にその旨を伝えず、買主候補企業が「買収対象会社は何も問題のないしっかりした会社だ」と信じてM&Aを行った場合、M&Aの後、「買収対象会社が聞かされていた内容と異なる!」として、「表明保証」違反の補償請求・損害賠償請求の問題が生ずるのです。
表明保証条項違反の損害賠償請求から逃れるための秘策?
では、売主はこの表明保証条項違反の損害賠償請求から逃れることはできないのでしょうか。
買主候補企業が作成したM&Aの契約書には、表明保証条項が非常にたくさん規定されており、売却対象会社があたかも完璧な会社でないといけないかのような印象を受けます。更に、買主候補企業に対して、表明保証条項の修正を依頼すると、執拗にその理由を聞かれたり嫌な顔をされたり、なかなか表明保証条項の修正を言い出せません。
あるいは、表明保証条項それ自体、非常に細かいことを何ページにも渡って規定していますので、多くの売主のオーナー経営者様は斜め読みしかしていないのではないでしょうか。
表明保証条項違反の損害賠償請求に関する近時の判例
しかし、近時、売主の主観的事情(故意・重過失など)によっては、表明保証条項違反であると認定せず、また、買主が表明保証条項違反の存在について故意又は重過失えあれば、売主の責任が免除されるという裁判例が出現しています。
東京地裁平成18年1月17日(判例時報1920号136頁)では、売主が決算操作をしていた事実を買主に知らせなかった件について、概要、表明保証事項に違反している事実について買主が故意又は重過失の場合は、売主はその補償を負わないとしていますし、大阪地裁平成23年7月25日判決(判例時報2137号79頁以下)は、概要、専門家がデューデリジェンス(DD)の過程で、売主の説明を受けて、資料を確認すれば、リスクの可能性を認識しえたことに鑑み、売主が表明保証条項違反に基づく損害賠償責任を負わないものとしています。
このように、買主が売主の粉飾決算その他の問題点を知っていた場合や、知らなくても調査をすれば容易に粉飾決算その他の問題点を知りえたような場合には、表明保証条項違反とは認定されず、損害賠償請求はできないことになります。
すなわち、買主としても、表明保証条項違反があるのでといって、兎に角、買収対象会社をM&A買収してしまって、後日、問題が判明すれば損害賠償をして、実質的に安く買い叩けばいいやという考え方は通用しなくなっているのです。
売主にとっては、買主に対して、開示しなかった事項が存在したとしても、「諸般の事情を総合して、買主がその事項を認識しえた」のであれば、表明保証条項違反の損害賠償責任を負わなくてもよい可能性が存在するのです。
他方、買主候補企業としては、「諸般の事情を総合して、買主がその事項を認識しえた」と言われてしまわないよう、M&Aの際のデューデリジェンス(DD)はこれまで以上にしっかりと行う必要がありますし、売主の説明を少し聞いただけで、売却対象会社の問題点を把握することができる専門家をそろえておかないと、安易にM&Aをすることがリスクになってきたのです。
表明保証条項違反の損害賠償請求に関する近時の判例の効力を排除する契約書の規定は有効か?
近時散見されるのは、表明保証条項違反の有効性について、「諸般の事情を総合して、買主がその事項を認識しえた」かどうかに係わらず、表明保証条項違反であることに相違ない旨の規定を、M&A契約書の中に盛り込み、これにより上記の裁判例の適用を回避しようとする契約書が存在します。
例えば、M&A契約書に「売主の表明保証の効果は、買主の主観によってその効力に何らの影響を受けないものとする。」といった規定を加え、買主の主観的事情が売主の表明保証責任の効力に影響を与えないよう明記するのです。
しかし、上記判例の観点からは、そもそもこの規定自体、本当に有効なのか、無効なのではないかとも評価することができ、この点は、現在のところ、判例などは存在せず、なんとも評価することはできません。
やはり、買主候補企業としては、「諸般の事情を総合して、買主がその事項を認識しえた」と言われてしまわないよう、M&Aの際のデューデリジェンス(DD)はこれまで以上にしっかりと行う必要があるということかと思われます。