ルシアンHDとM&A仲介業者による大規模詐欺事件について

2024年5月、衝撃的なニュースが飛び込んできました。

事業の経営状況が悪化している複数の中小企業に対してM&Aを行い、相次いで売り手企業を倒産させ、さらに売り手企業の経営者・役員らに多額の負債を残したとする詐欺事件の情報です。

これら一連の事件はルシアンホールディングスという投資会社が中小企業を買収して詐欺を働いたとされますが、複数のM&A仲介業者によるバックアップ状態だったのではないかとされています。

今回は、ルシアンホールディングスとM&A仲介業者による大規模な詐欺事件の概要、具体的な詐欺の手口、どうしてM&A仲介業者が詐欺を後押しする状態だったのか、M&Aの際に詐欺に遭わないために意識すべきポイントについて詳しく解説します。

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ルシアンHDとM&A仲介の悪質なタッグ

まずは朝日新聞および東京新聞によって報道された内容をもとに、ルシアンホールディングスによる詐欺と疑われる事件の概要と具体的な手口などを詳しく解説します。

詐欺事件の概要

朝日新聞および東京新聞によれば、投資会社のルシアンホールディングスが、M&Aの名目で中小企業を中心とした大規模な詐欺と疑われる行為を行っていたとされています。

明らかになっているだけでも37社が被害に遭っており、被害総額はなんと10億円以上とされています。ルシアンホールディングスによるこれらの詐欺行為は2021年ごろから行われていたとされています。

事件の中心人物は資金を持ち逃げしたまま現在連絡が取れない状況のため、詐欺が行われていたと言い切れる状況ではありません。

しかし、被害の件数と報告内容から、意図的な詐欺であった可能性は極めて高いといえるでしょう。

具体的な詐欺の手口

ルシアンホールディングスはM&A仲介業者を通じて、業績が振るわない中小企業に接触をしていました。

そして、中小企業に対して、「事業再生が得意」「事業や雇用は守る」「社長を借金の保証人から外す」などといいM&Aを成立させ買収していきました。

ルシアンホールディングスによる買収後には全体での資金管理という名目の元、買収された中小企業から資金を集め続けました。

結局従業員の雇用が守られることはなく、役員による給与の立替まで行われていたといいます。

集められた資金は全体で管理されることはなく、なんとルシアンホールディングスの代表個人のものとなっていたとされています。

具体的な被害状況

朝日新聞デジタルによれば、あきらかになっている被害は以下の通りです。

買収された会社のうち、11社が営業停止、5社が倒産しています。

また、給与の立替など資金繰りを支え続けた役員らの現金の回収は絶望的な状況となっています。

併せて、売り手中小企業のオーナーには、返済不可能な額にまで膨れ上がった債務保証が残っているといいます。

上記以外にも給与の未払いなどが多く発生し、被害総額は10億円以上といわれています。

実際の被害事例をご紹介

ここでは、実際に起こったM&A仲介による被害の事例について、朝日新聞デジタルの内容をもとにご紹介します。

閉店に追い込まれた老舗洋菓子店

1973年創業の老舗洋菓子店は、コロナ禍で借金が発生し売却を検討しました。

M&A仲介業者を通して会社Aと1,000万円で売却契約を結びましたが、引継ぎ後に数々の問題が発生しました。

会社Aの代表らが店長会議に出席せず、個人保証の解除も約束の期限を過ぎても進まず、不安要素が増加しました。

さらにケーキ工房の職人が次々退職し、売り上げが大幅に減少しました。

最終的には従業員の給与も支払えなくなり、事業引継ぎから8か月後の12月に営業終了となりました。会社AとのM&Aは完全に失敗に終わりました。

M&A直後から大量資金流出、そして倒産、M&A仲介の罠

東京都の老舗設計会社は、真が処名の影響で大口仕事が減り負債が膨らんでいたことから、M&A仲介業者から紹介された会社Bへ売却しました。

売却直後から、会社Bが現預金を管理するといい複数回送金指示を受けました。さらに、別会社の給与支払いに充てるという理由から、会社B以外への送金指示もありました。

それが続き9,000万円あまりのマイナスとなり、会社Bへの不信感が募り、送金を拒否しました。

社員へ支払う給与も尽きてしまい、会社Bの代表に資金返済を訴えると逆切れされてしまいました。

これに対し、M&A仲介業者は一切の責任は負えないとして老舗設計会社は倒産し泣き寝入りに終わりました。

トラブル多発の会社共同代表がいつの間にか負わされた多額の保証債務

会社Cは、M&A仲介業者を通じて数多くの中小企業を買収してきましたが、給与遅延等のトラブルを頻発させていました。

丸の内から土浦市に拠点を移したのち、共同代表のY氏が朝日新聞の取材に応えてくれました。大学中退後にさまざまな仕事を経て、2021年にM&Aに関与するようになりました。Y氏自身は、はじめは高収入を期待していました。

新会社を設立したX氏とともにY氏は共同代表になり、複数の会社を買収していきました。

しかし、X氏により多額の保証債務を負わされ、ずさんな経営実態に巻き込まれてしまいました。最終的には3億円もの保証債務を負ってしまったそうです。

多方面への支払いが滞り数百件の支払い督促の着信履歴

会社Dの共同代表をしていたY氏は同じく共同代表の中心だったX氏とともに2021~2022年の間にM&Aで10社以上を買収していました。

買収先の会社へは「お金は本部が預かる」として多額の資金を調達していました。

しかし、買収後には資金繰りが厳しくなり、資金を持つ次の会社を買収し、資金を調達して、資金繰りが再び厳しくなり、の繰り返しでした。

給与、資金返済、家賃、仕入れ先代金、税金、社会保険料などあらゆる支払いが滞り、Y氏はX氏から「支払いをどれだけ延ばせるか」を考えるよう指示され続けました。

そして、Y氏のスマートフォンには買収先企業のみならず多方面から1日数百件もの支払い督促の電話がかかるようになりました。

最終的に、X氏からは自己破産するよう申し出があり、支払うと言われた年間数百万の報酬も払われずX氏との連絡は途絶えてしまったといいます。

地獄に突き落とされた創業者と責任ゼロのM&A仲介業者

老舗中小企業の創業者だったX氏は、コロナ禍に赤字に陥り、2億円越えの負債を抱えてしまっていました。

そのときにM&A仲介業者に紹介され、個人保証や担保の解除、従業員の雇用が約束され会社Eと契約を交わしました。

しかし会社Eの担当者は「解除する」と言いながら、一向に個人保証や担保を解除してくれませんでした。仲介業者も心配はいらないと言い続けていました。

結局、そのまま倒産してしまいました。

仲介業者に相談すると、弁護士を紹介してくれましたが着手金が300万円で、既に創業者の口座が凍結されていたため支払いは不可能でした。

創業者は、会社Eを紹介したM&A仲介業者に何も責任もないのかと強く訴えています。

M&A仲介業者も詐欺に加担したのか?

ルシアンホールディングスと売り手企業のM&A成立においては、M&A仲介業者の存在があります。

実は、M&A仲介業者も詐欺被害を拡大させた一端を担っているのではないかとされています。

M&A仲介業者が売り手中小企業に接触し、ルシアンホールディングスとのM&Aを勧める営業活動を行っていました。

このときに、仲介業者がM&A成立を急がせる行為や銀行へ相談をさせない行為などを行ったとの報道もあります。

そして、M&Aが成立して、ルシアンホールディングスと売り手中小企業の双方から仲介手数料が支払われると、仲介業者の関与は終了となるようです。

つまり、ルシアンホールディングスは定期的に買収することで多額の資金を獲得でき、仲介業者もルシアンホールディングスと売り手中小企業から多額の成功報酬を獲得できるため、双方にとってメリットが享受できる関係だったといえるでしょう。

どうして仲介業者が詐欺に加担したのか?

ここでは、どうしてM&A仲介業者が今回の詐欺事件に関与したのかを、M&A仲介業者や業界の特徴を踏まえながら解説します。

買い手企業に対する完全な信用調査は不可能

まず、問題として挙げられるのが、買い手企業の信用調査が非常に困難だという点です。つまり、ルシアンホールディングスの買収目的が、詐欺を図るためなのか本当に中小企業の再生を手助けするためなのかの判別が困難だということです。

一般的にM&A仲介業者は、ブラックリストを確認するなどして買い手企業に対する信用調査を実施します。

しかし、信用調査を実施したからといって、信用できない会社だと確実に言い切れることはほぼありません。

売り手を紹介すると高額な手数料が入る

企業のM&Aが成立すると、M&A仲介業者には成功報酬と呼ばれる多額の仲介手数料が入ります。

基本的に成功報酬は売り手と買い手の双方が支払うこととなっており、売買金額の1~5%程度が相場となっています。また、場合によっては最低報酬額として500~2,500万円程度の額が設定されている場合もあります。

このように仲介業者に支払われる高い成功報酬が原因で、成功報酬欲しさに仲介業者が関係したトラブルが発生しています。

M&A仲介業界には高収入惹かれて転職した人が多い

成功報酬の高さに触れましたが、それに伴いM&A仲介業者は高収入なことで知られています。そのためか、高い収入に憧れを抱く人が集まりやすい傾向にあるようです。

もちろんM&A仲介業者の全員が該当するわけではありません。M&Aを通して売り手企業と買い手企業のためになりたいと考えている方はたくさんいます。

しかし、高収入に憧れを抱いている人が集まりやすい場所であることも把握しておきましょう。

M&A後にトラブルが発生しても法的責任は発生しない

実はM&A成立後に何らかのトラブルが発生したとしても、M&A仲介業者に対して大きな法的責任は発生しません。これは、詐欺師が入り込みやすい環境を作り出している原因ともいえるでしょう。

M&A成立後に何らかのトラブルが発生したとしても、仲介業者が多額の賠償責任を問われるようなことはありません。仮にM&A仲介業者の故意もしくは過失による損害であっても、賠償額は成功報酬の額を超えないものとなっています。

つまり、仲介業者がどのような悪質な行為を行ったとしても、損害によりマイナスになることはなく、最悪でもプラマイゼロの状況にしかならないということです。

このような規則に対しては議論もなされていますが、現状は法的責任が発生しないため、M&A仲介業者の利用を検討している場合には、必ず肝に銘じておきましょう。

朝日新聞デジタルによるM&A仲介業者への取材内容からわかる範囲では、本事件についても仲介業者は売り手企業に対して補償はしていないようです。

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詐欺に遭わないようにするにはどうすべき?

M&Aを成功させるために、どのようなことを意識しながらM&Aを成立させるべきなのでしょうか。ここでは抑えておきたいポイントについて3つご紹介します。

M&Aが手段から目的に変化していないかを意識する

そもそもM&Aの目的が明確に固まっていない場合、これらのような詐欺に遭ってしまうことがあります。まずは、M&Aを検討する理由、最終的に目指す姿はどのようなものでしょうか。しっかりと考えてみましょう。

多くの場合、売り手側には資金調達、事業の再構築、市場からの撤退といった目的があります。そしてその目的を達成するための手段のひとつとしてM&Aがあります。

しかしながら、M&Aを進めるには、さまざまな準備や綿密な話し合いが必要であり、売り手側にとって、それらが負担になることがあります。

結果として、次第に「早くM&Aを成立させたい」といった感情が強くなり、当初の目的を達成するための手段だったM&Aが、目的へ変化してしまうことがあります。

M&Aの成立はあくまでも目的を達成するための手段です。目的を達成できる状態かどうかをしっかりと見極めながら進めることを忘れないでください。

仲介業者の目的と売り手の目的は違い大きく異なることを理解する

M&A仲介業者の目的と売り手の目的自体が異なっていることをしっかりと理解しておきましょう。

そもそもM&A仲介業者の目的は、売り手の悩みや課題を解決させることが目的ではありません。買い手と売り手のマッチングを成功させ、M&A成立による仲介手数料を手に入れることが目的です。

そのため、M&A仲介業者にとって、売り手が悪質な買い手とマッチングしM&Aをすることとなっても特に影響がありません。

仲介業者と売り手の目的は異なっていることを認識し、仲介業者の言葉を客観的にとらえることが大切です。

また、「M&Aが成功しそうにない」と感じる場合には、その状態ではM&Aを成立させないと決断することが求められます。

M&Aの議論は複数人で進める

M&Aに限った話ではないですが、大きな決断をする際に自分一人で相手と議論を進めることは、客観性を見失い詐欺に引っかかりやすくなるため危険です。

そのため、M&A仲介業者とM&A成立について議論を進める際には、複数人で相談するようにしましょう。

とはいえ、M&Aを検討していることは誰にでも話せることではありません。信頼のおけるご家族、セカンドオピニオンの業者、知見のある弁護士、事業承継・引継ぎ支援センターなどから意見をもらうとよいでしょう。

限られた人にはなりますが、仲介業者以外の第三者に相談することは、詐欺に遭わないための重要なプロセスとなります。

M&Aの成功のために、上記で挙げたような方との議論しながら進めていくことを強く推奨します。

まとめ

M&Aを検討している場合には、「M&Aを成立させる」ではなく、「本来の目的を達成するためにM&Aを成功させる」ことを念頭において検討を進めるようにしましょう。

また、M&Aを検討している方、M&A仲介業者に関する相談や困りごと、さらにM&A仲介業者の訴訟をお考えの方は、ぜひお気軽に弁護士法人M&A総合事務所弊所までご連絡ください。

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