ユニゾの破綻から見えるLBOを利用したM&Aの危険性

一般的にM&Aが原因で破綻する場合は、多額の資金を借り入れてM&Aをやり過ぎることにより金融債務の負担が膨らんで返済が不可能に至るケースが思い浮かびます。 

しかし、このような破綻とは異なり、TOBを契機として防衛のためにMBO(Management Buyout、経営者による買収)やEBO(Employee Buyout、従業員による買収)という形で自社を買収することにより破綻してしまうケースも多くあります。 

今回取り上げるのは、上場企業であったユニゾホールディングスが破綻した例です。 

ユニゾはTOBに対抗するためにEBOを成立させて従業員が主体となる形で会社を買収しましたが、この際にファンドから多額の資金を調達するためにLBO(Leveraged Buyout)の枠組みを用いています。 このLBOが、後にユニゾを破綻に至らせることになる危険性を有していました。 

この記事では、ユニゾの例を通してLBOを利用してM&Aを行うことの危険性を中心に解説していきます。  なお、この記事はすべてインターネット上で得ることができる情報をもとにして作成しています。 

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ユニゾが破綻に至った経緯

ユニゾは優良企業であったにもかかわらず、敵対的TOBに対する防衛のためにEBOを行ったことをきっかけとして破綻してしまいます。 

ここでは、ユニゾが破綻に至った経緯についてくわしく解説します。  

ユニゾの沿革

ユニゾホールディングスの沿革は次のようになっています。 

1959年9月  大商不動産株式会社(ユニゾホールディングスの前身)を設立 
1966年5月  泉州物産株式会社及び八千代興業株式会社と3社で合併 
1972年6月  常和興産株式会社に商号を変更 
1973年6月  常和ビルサービス株式会社を設立 
1974年3月  八千代興産株式会社を設立 
1977年5月  株式会社サン・ホテルを設立(ビジネスホテル事業を開始) 
1977年9月  常和ビルディング株式会社を設立 
2004年3月  常和アセット・マネジメント株式会社を会社分割により新設 
株式会社サン・ホテル及び常和ビルディング株式会社と3社合併し、常和ホールディングス株式会社に社名を変更 
常和不動産株式会社、常和建物株式会社、常和ホテルズ株式会社、常和ゴルフ株式会社を設立 
2005年2月  常和ビル開発株式会社を設立 
2009年6月  東京証券取引所市場第二部に株式上場 
2011年2月  東京証券取引所市場第一部銘柄に指定 
2011年10月  子会社の再編を行う 
2013年11月  Jowa Real Estate One, LLC設立。 
2014年12月  Jowa Real Estate Two, LLC、Jowa Holdings NY, LLC設立。 
2015年7月  常和ホールディングス株式会社をユニゾホールディングス株式会社に商号変更 
常和不動産株式会社をユニゾ不動産株式会社に、常和ホテル株式会社をユニゾホテル株式会社に、常和ビルサービス株式会社をユニゾファシリティーズ株式会社に商号変更 
Jowa Holdings NY, LLCをUNIZO Holdings U.S., LLCに、Jowa Real Estate One, LLCをUNIZO Real Estate One, LLCに、Jowa Real Estate Two, LLCをUNIZO Real Estate Two, LLCに商号変更 
2020年4月  株式会社チトセア投資が新たに親会社となる 
2020年6月  東京証券取引所市場第一部上場廃止 
2023年4月  民事再生法の適用を申請 

ユニゾはオフィスビル事業やホテル事業を主力とする不動産会社で、2019年3月期決算では、連結売上高560億円、経常利益117億円を計上しています。 

また、多数のオフィスビルや倉庫を保有する他、ホテルを20店舗展開するなど、多くの資産を保有する良好な経営状況でした。 

 しかし、チトセア投資による買収から3年で破綻してしまいました。 

 TOB開始直前の状態

2019年7月にユニゾに対してのTOBが発表されます 

その直前の2019年6月末時点の状態では、株価1,844円、時価総額631億円、PBR0.58倍、実質PBR0.25倍(不動産含み益も考慮)となっていました。 

PBR(Price Book-value Ratio)は、株価純資産倍率ともいい、1株当り純資産で株価を除して求めます。 

 PBRが低いということは、企業の価値に対して株価が割安であることを示しています。 

ユニゾの場合は、毎年堅調な利益を上げ続け、多額の資産を保有していながらも極端に低いPBRであったため、TOBの対象として注目されることになります。 

激しいTOB合戦と釣り上げられる買付価格

最初にユニゾに対するTOBを表明したのは、旅行大手のエイチ・アイ・エスでした。 

2019年7月10日、1株3,100円の買付価格をもってTOBが開始されます。 

しかし、同年8月6日にユニゾの取締役会は反対を表明し、8月16日にはアメリカの投資ファンドであるフォートレス・インベストメント・グループをホワイトナイトとして4,000円の買付価格でTOBを行うとする対抗策が発表されます。 

結局エイチ・アイ・エスによるTOBは、株式の市場価格が買付価格を上回る状態が続いていたため応募者がなく成立せず、エイチ・アイ・エスは撤退します。 

その後、ユニゾは一転してフォートレスによるTOBに対しても反対を発表し、従業員主体で設立したチトセア投資によるEBOを対抗策として打ち出します。 

フォートレスはこれに対抗して買付価格を引き上げることを繰り返します。 

さらに、米投資ファンドのブラックストーンなどがTOBを提案して来たこともあり、参加者の間で買付価格が釣り上げられる事態となりました。 

EBOによる決着

最終的に、チトセア投資は一株6,000円の買付価格を提示し、ユニゾの争奪戦は上場企業で初めてのEBOが成立することで決着します。 

株式の取得総額は約2,050億円で、2020年6月18日にユニゾは上場を廃止します。 

この結果からは、表面的にはユニゾが敵対的TOBから会社を守ることに成功したように見えます。 

しかし、2,000億円を超える巨額の資金をファンドからLBOのスキームで調達したことが、後の破綻につながることになります。 

LBOによる資金調達の重い負担

ユニゾをEBOで買収したのはチトセア投資ですが、買収資金を従業員から調達できたわけではありません。 

チトセア投資が資金調達した方法はLBOの枠組みによります。 

LBOとは、買収対象企業の資産に着目してファンドなどから資金を借り入れる手法であり、最終的には買収対象の企業が資金を返済することになります。 

一般的なLBOの流れは次のようになります。 

 譲受企業が出資してSPCを設立する。 

②SPCは買収資金をファンドや金融機関などから調達する。この際の担保は譲渡企業(買収対象)の資産やキャッシュフローとなる。 

③SPCが譲渡企業の全株式を取得して買収する。 

④SPCと譲渡企業が合併する。この際、SPCが消滅会社となり、存続する譲渡企業がSPCの借入金債務を承継する。 

譲渡企業が買収資金を返済しながら経営を続ける 

このように、LBOを利用すると、最終的には買収された企業が買収資金を支出することになります。 

ユニゾの場合を見てみると、SPCであるチトセア投資を設立し、チトセア投資が米投資ファンドのローンスターから2,060億円(借入金1,510億円、優先株550億円)の資金を調達します。 

その後、チトセア投資がユニゾを買収して親会社となりますが、典型的なLBOとは異なりチトセア投資とユニゾとの合併は行われませんでした。 

その代わり、ユニゾからチトセア投資には2,000億円超の貸付と、500億円超の配当が行われています。 

チトセア投資はこれらを原資としてローンスターに返済を行っています。 

このようにして、ローンスターはユニゾの既存債権者に先んじて債権の回収を可能にしていました。 

なお、ローンスターからチトセア投資に対する資金供給には2つの選択肢がありました。 

一つは、半年後にローンスターとの協業体制を維持する道であり、もう一つは資金を完済して独立する道でした。 

チトセア投資はユニゾの独立を守ることを目的としていたため、半年で返済することを選びます。 

また、優先株については無配期間である180日を超過すると年利20%を支払う義務があるとともに、その償還には約80%のプレミアムを乗せる必要があったので、チトセア投資は半年で優先株にプレミアムを付けて償還せざるを得ませんでした。 

ユニゾ及びチトセア投資は、敵対的TOBから防衛するための代償として、短い返済期間で非常に高い利率でLBOによる資金調達を行ったことがわかります。 

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巨額の資産の流出

ユニゾからは2,500億円超の資産が流出していますが、2021年3月期の有価証券報告書を見ると現預金と販売用不動産が急激に減少していることが目立ちます。 

現預金は前年度の約1,635億円から約412億円へと1,220億円を超える減少となり、販売用不動産については1436億円余りをすべて売却しています。 

これらによってユニゾは自社の買収資金をまかないますが、収益の柱であるオフィスビル等の不動産を失っているとともに、4分の1ほどに減少した現預金で資金繰りが厳しくなっていることが見て取れます。 

一方で社債はこれまで通りに返済を続けなくてはいけないため、一連のTOBとLBOを利用したEBOの流れによってユニゾの財務状況は急激に悪化したことになります。 

さらに、コロナ禍によりホテル事業も収益を上げることができなくなり、ユニゾの経営は危機に直面しました。 

民事再生法の適用申請

2022年になると、ユニゾは経営再建のスポンサーを探し始めます。 

この時点では、私的整理を前提としてスポンサーを選定する協議を重ねていますが、結局どの候補とも交渉は成立しませんでした。 

そして2023年に入ると、5月100億円の社債償還を前にして原資が用意できない事態に陥ります。 

こうして、償還期限が目前に迫る同年4月26日、ユニゾは東京地裁に民事再生法の適用を申請しました。 

また同じ日に、NSSK(日本産業推進機構)とのスポンサー支援で基本合意をしています。 

破綻の後

ユニゾは破綻後の5月に債権者集会を開きますが、その中でスポンサー選定に対する異議が表明されたため選定のやり直しをすることになります。 

7月になるとNSSKとのスポンサー基本合意は解除され、9月に行われた2次入札の結果、国内事業のスポンサー候補として米投資ファンドのKKRに優先交渉権が与えられました。 

海外事業についてもスポンサーが必要ですが、こちらについてはいくつかの候補はあるもののまだ決定はされていないようです。 

このようにしてユニゾは、破綻の後はスポンサーのもとで再建を目指しています。 

ユニゾが破綻した原因

ユニゾが破綻した原因はいくつか考えられますが、その中で最大の原因はLBOによってM&A資金を調達したことと考えられます。 

 その他に考えられる副次的原因は以下のとおりです。 

  • コロナ禍による収益低下
  • メインバンクを持たなかったこと
  • 低株価でTOBを招いたこと 

 ここではユニゾが破綻した原因についてそれぞれ解説します。 

最大の原因はLBOによるM&A資金調達

ユニゾが破綻した最大の原因は、買収資金の調達のためにLBOの仕組みを利用したことでした。 

正確に表現すればファンドから資金調達をしたのは買収主体であるチトセア投資ですが、LBOの枠組みでは買収される企業が最終的に債務を負担することになるため、実態としてはユニゾが自己を買収するために資産の多くを費やしたことになります。 

ユニゾの株式取得総額は2,000億円を超える規模であり、これだけの多額の資産がユニゾから流出することになった結果、財務状況が著しく悪化することになってしまいました。 

さらに注意しなければならないのは、LBOによってファンドから資金調達したことで極端な高利での借入れとなったことです。 

ユニゾのケースでは、2,000億円超の巨額の資金を調達するためにファンドに対して数百億円を支払う結果となっており、最終的にユニゾは2,500億円を超える資産を失うこととなります。 

LBOは、買収対象の資産やキャッシュフローを担保として借入れを行うものであり、その債務は最終的に買収対象企業が負うことになります。 

また、LBOでファンドから資金調達すると法外な高利を要求されることにもなり得ます。 

さらに、敵対的TOBによる争奪戦が繰り広げられると買付価格が高騰し、それだけ借入額も大きくなります。 

ユニゾの場合はこれらが重なり、財務状況が危機に陥った結果として破綻してしまいました。 

LBOは買収対象の企業に高利で多額の債務を負わせる手法であり、最悪の場合には倒産する危険性があることをよく認識しておく必要があります。 

副次的原因①コロナ禍による収益低下

新型コロナウイルスの感染が世界的に広まったことも、ユニゾを破綻させた原因の一つと言えます。 

ユニゾはホテル事業を主力の一つとしていましたが、コロナ禍で人々の行動は制限され旅行等の需要も減ったため、ホテル事業の収益が低下し業績不振に陥ります。 

これにより資金繰りが悪化し、ユニゾは破綻を避けることが困難になってしまいました。 

副次的原因②メインバンクを持たなかったこと

ユニゾはみずほ銀行系の不動産会社でしたが、みずほ銀行とは次第に関係を弱くする方策を採っています。 

その一つが増資で、ユニゾは公募増資を繰り返すことでみずほグループの持株比率の希釈化を進めています。 

また、融資の借入先の金融機関を多数に分散することでみずほ銀行への依存を弱めることもしています。 

さらに、2015年からは社債も発行して資金調達方法の多様化を図っています。 

最終的に、2020年7月にはみずほ銀行からの融資を完済しており、関係を解消することになっています。 

このようにして、ユニゾはみずほ銀行というメインバンクを持たなくなったため、資金が必要なときに銀行からの十分な援助を得ることができずに破綻してしまいました。 

副次的原因③低株価でTOBを招いたこと

ユニゾのケースでは、業績や資産に対して株価がかなり低い水準であったことがTOBを招く原因となっていました。 

株価が低迷していた原因については、増資を繰り返していたことが一因と考えられます。 

2016年3月期から2019年3月期までの資本金・発行済株式総数・株価は以下のようになっています。 

  2016年  2017年  2018年  2019年 
資本金 (百万円)  13,522  20,516  26,163  32,062 
発行済株式総数 (株)  19,833,000  23,770,700  28,520,700  34,220,700 
最高株価 (円)  6,490  6,160  3,275  2,762 
最低株価 (円)  3,380  2,444  2,447  1,865 

これを見ると、4年間で資本金と発行済株式総数が大きく増加している反面、株価は半分未満になってしまったことがわかります。 

また、株主構成も大きく変化しており、個人株主や外国人株主の比率が大きく増えていることもあり安定株主比率が低くなっています。 

このように、増資をしすぎてTOBを招いたこともユニゾの破綻の一因といえます。 

まとめ

この記事では、ユニゾが破綻した経緯を通じてLBOによるM&Aの危険性について検討してきました。 

LBOについては、少ない自己資金でも大規模な買収が可能になる点や投資効率が高い点などがメリットとして挙げられることがありますが、買収される企業が債務を負い、買収費用を返済しながら経営することを求められるという大きなデメリットがあります。 

そのため、LBOでM&Aを行うと企業の破綻につながる危険性があることを十分に認識しておくことが重要です。 

M&Aを行う際にはアドバイザリー等の専門家を交えて慎重に検討することをおすすめします。 

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