表明保証保険とは?M&Aの表明保証違反リスクに備えて加入すべき?

表明保証保険は、M&Aを行う際の表明保証違反のリスクに備えて加入する保険です。

元々、海外のM&A市場で多く取り扱われており、日本ではあまり馴染みがありませんでした。

しかし、2020年12月に日本でも中小企業向けの保険商品が発売されたことをきっかけに、日本でも注目を集めるようになりました。

近年は、日本のM&Aの増加に伴い、表明保証保険を利用する企業が増えています。

この記事では、M&A取引における表明保証保険について説明します。

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M&Aにおける表明保証保険とは

ここからは、表明保証保険の概要や仕組みについて説明します。

表明保証保険とは、買収後に表明保証違反が発覚した際に生じた損失補償をする保険です。

M&A取引においては、表明保証保険に加入することで、万が一、売り手の表明保証違反によって買い手が損害を被った場合、それを保険金でカバーできるため、経済的負担を低減することができます。

表明保証とは?

表明保証とは、契約当事者の一方が、他当事者に対して、一定時点において一定の事項が真実であることを表明し、表明した内容を保証することです。

M&A取引においては、買収の対象企業の財務状況や法令違反の有無等の情報について、真実かつ正確であることを、売り手が買い手に表明し、保証することを言います。

M&Aを行う際、買い手は、相手方が表明した内容をもとに、対象企業の買収を実行するか、買収金額が適正かどうか等を判断します。

その上で、譲渡契約を締結し、クロージング(M&Aの最終的な手続きの完了)を行います。

そのため、買い手は、事前にデューデリジェンス(DD)(買収監査)によって、対象企業の財務状況や法令違反の有無、法務、労務等に関する調査を行い、対象企業の問題点等を洗い出します。

しかし実務上、デューデリジェンス(DD)によって、全ての事実を把握することは、時間やコスト的に難しく限界があります。

問題無く適正価格で買収できたと思ったら、実はデューデリジェンス(DD)で洗い出せなかった税金の支払い漏れや、隠れた負債等の存在が発覚することがあります。

そうなると、買い手はその負債を引き継ぐことになり、損害を被ることになるのです。

そのため、M&A取引においては、表明した事実が真実かつ正確であることを担保する表明保証が必要になります。

譲渡契約書には、「開示されていない債務が存在しないこと」や、「重要な契約が買収後も継続されること」や、「財務諸表が適正に作成されたものであること」や、「買い手が把握してない訴訟を提起されていないこと」や、「デューデリジェンス(DD)で開示された事実に虚偽がないこと」等、表明した内容が真実であることを売り手が保証する表明保証条項が規定されます。

また、表明保証違反が発覚した場合は、契約を解除できる契約解除条項や、相手方に補償請求できる補償条項も規定されるのが一般的です。

ただ、表明保証を行っていても、売り手の表明保証違反による損害が膨大で補償された金額で補填できなかったり、補償請求額が膨大で売り手の負担が大きくなるというリスクがあります。

表明保証保険に加入しておくと、そのようなリスクを低減することができます。

表明保証保険の仕組み

表明保証保険の仕組みは、通常の保険と同様で、契約当事者が保険会社と保険契約を締結し、保険料を支払います。

一般的に、表明保証保険の補償限度額は、対象企業価値の約10~20%程に設定されることが多く、保険料は保証限度額の1~3%程度です。

表明保証保険に加入すると、相手方の表明保証違反により契約当事者が損害を被った場合に、補償範囲内で損害を補填されます。

表明保証保険の買い手のメリット

表明保証保険の買い手のメリットを紹介します。

M&Aのリスクを減らせる

表明保証保険に加入することで、売り手の表明保証違反による損害リスクを低減できます。

例えば、対象企業に税金の未払いがあり、そのことがデューデリジェンス(DD)で発覚せず、買収後に発覚した場合、買い手はその債務を引き継ぐため、経済的な損害を被ることになります。

このような場合、買い手は保険会社に補償請求し、損害を補ってもえます。

ただ、表明保証保険で満額補償されるわけでなく、あくまで補償の範囲内に留まる点には注意が必要です。

M&Aの手続きで良好な関係を維持できる

表明保証保険に加入することで、売り手と買い手が良好な関係を維持しながら、M&Aの手続きを進めることができます。

何故なら、表明保証違反により損害を被った場合、買い手は保険会社に補償請求するため、売り手に直接請求する必要がないからです。

元々売り手と買い手が親しく、関係が良好であっても、買い手からの補償請求によって関係性が悪化することが想定されます。

加入しておくことで、このような事態をなるべく回避できるというメリットがあります。

補償請求の手間がかからない

表明保証保険に加入すると、買い手の補償請求の手間を低減することができます。

表明保証違反があった場合、買い手は売り手に直接補償請求をする必要があるため、時間や労力がかかります。

もし売り手側が補償請求を拒否した場合は、法的手続きの必要が生じる等、費用がかかる可能性もあります。

また、売り手が海外の企業であった場合は、多大な労力や費用がかかることが予想できます。

このような手間を省けるのも、表明保証保険に加入するメリットの1つです。

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表明保証保険の売り手のメリット

表明保証保険は、基本的には買い手のリスクに備えるものですが、売り手にもいくつかのメリットがあります。

損害補償のリスクを免れる

通常、表明保証違反で買い手に損害が生じた場合、買い手から補償請求されます。

買い手が表明保証保険に加入していると、その損害を保険会社がカバーしてくれるため、売り手は補償請求を免れる可能性があります。

勿論、保証額を上回る分は請求される可能性がありますが、それでも売り手の経済的負担を大きく軽減できると考えられます。

ただ、先述したように、表明保証保険に加入しても満額補償されるわけではないので、譲渡契約書の補償請求条項には、上限を設けることが売り手にとっては重要です。

そのあたりの交渉については、弁護士に依頼し、サポートしてもらう必要があります。

エスクロー設定を回避できる

表明保証保険に加入することで、エクスローの設定を回避できます。

エスクローとは、売り手と買い手の間に金融機関を介して、特定の条件のもとで譲渡金額を決済する仕組みのことを言います。

買い手が金融機関等の第三者に譲渡金を入金し、買い手が定めた条件が満たされた場合に、売り手に譲渡金が支払われる仕組みで、表明保証違反に備えてエスクロー設定を行う必要がありました。

しかし、表明保証保険に加入することで、エクスロー設定を行う必要がなくなるので、売り手はよりスムーズに対価を得ることができます。

表明保証保険の注意点

ここからは、表明保証保険の注意点を説明します。

表明保証違反の内容によっては適用されない

クロージング後に生じた事象によっては、表明保証保険の補償の対象外になる場合があります。

保険会社から保険金が支払われるのは、あくまで、保険期間中に保険の対象とする表明保証違反に起因して被保険者が損害を被った場合に限ります。例えば以下のような場合です。

  • 「本譲渡契約が、締結済みの重要な契約の解除事由にならないこと」を表明保証していたにも関わらず、クロージング後に重要な契約の解除が発生し、想定収益が著しく減少した場合。
  • 「対象会社が当事者となる訴訟等は一切存在せず、訴訟提起される恐れもない」と表明保証していたにも関わらず、クロージング後に従来から紛争のあった取引先と訴訟になり買主が訴訟費用を負担することとなった場合

一方、以下のいずれかに該当する場合は補償の対象外となります。

  • 売り手が表明保証した事項以外の事象により損害が生じた場合
  • クロージング前から被保険者が認識していた、もしくは予想できた事象に基づいて損害が生じた場合
  • 売り手が年金や退職金等の積立を怠っていたことにより損害が生じた場合
  • 被保険者またはその関係者の故意・重過失・法令違反により損害が生じた場合
  • 売り手がアスベストの混入した商品を取り扱っていた等環境汚染をしていたことにより損害が生じた場合
  • 地震・噴火・津波・戦争・核物質等の危険物に起因して損害が生じた場合
  • 表明保証違反の内容について、デューデリジェンス(DD)が行われていなかったと保険会社が判断した場合

このように、対象外となる事項は意外と多く、上記の事項により生じた損害については補償されず、案件によっては、重要な事項が対象外となります。

つまり、表明保証保険があっても、事前のデューデリジェンス(DD)でリスクを洗い出すことが非常に重要であり慎重に行う必要があります。

デューデリジェンス(DD)においては専門的な知識が必要なので、売り手と買い手だけで行うことは絶対に避けるべきであり、必ず詳しい弁護士に依頼する必要があります。

日本語対応していない場合がある

表明保証保険は、元々海外企業とのM&A取引を対象としていたため、保険証券が英語の場合があり、審査も英語で行われる商品があります。

日本国内の取引であれば、和訳する手間や労力等がかかってしまうので、加入の際は、日本語に対応した商品か確認する必要があります。

このような場合も、英語に対応できる弁護士に依頼しておくと、スムーズに手続きを進めることができます。

費用がかかる

表明保証保険に加入すると、保証限度額の1~3%程度の保険料を保険会社に支払う必要があります。

例えば、保証限度額が1億円であれば、約100~300万円程度の保険料が発生します。

表明保証保険加入の流れ

表明保証保険の加入までのおおまかな流れを説明します。

保険会社へ概算見積書の作成を依頼

まず、保険会社に、保険料や保証内容や補償期間等が記載された概算見積書の作成を依頼します。

保険会社によって条件が異なるため、まずは複数の保険会社から見積もりを取り寄せて、比較検討するのが良いです。

また、概算見積書を依頼するにあたって、保険会社と秘密保持契約を締結します。

引受審査の申し込み

保険会社が決まったら、引受審査の申し込みを行います。

この際、保険会社が引受審査をするのに弁護士を選任するため、かかる弁護士費用等に関する内容等が記載された経費契約を締結します。

なお、引受審査にかかる弁護士費用等は申込者が負担することになります。

引受審査の開始

保険会社の引受審査が開始します。

この際、譲渡契約書やデューデリジェンス(DD)・レポートや各種資料等、M&A取引に関する情報を保険会社に渡します。

また、申込者や保険会社やアドバイザー等を交えた電話面談やヒアリングが行われ、M&A取引について精査されます。

保険契約の締結

引受審査が終了すると、保険金額や補償期間等の条件を保険会社から提示され、問題無ければ、保険契約を締結します。

そして、被保険者は、保険会社に保険料を支払い、補償期間が開始します。

なお、表明保証の内容は、M&Aの案件毎に異なるため、表明保証保険の約款もその内容に合わせて作成します。

また、慎重に精査されるため、保険契約の締結までの約3~4週間ほどかかります。

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M&Aで表明保証保険には加入すべき?

表明保証保険の加入すべきかどうかはケースバイケースです。

取引規模によっては多額の損害を生じる可能性があるので、取引金額が大きい場合や、売り手に支払い能力が無い場合等は、表明保証保険に加入しておくと安全です。

先述したように、表明保証保険に加入すると、買い手・売り手ともに損害を被るリスクを減らせたり、良好な関係を維持しながら円滑にM&Aを進められる等のメリットがある一方、保険料等のコストがかかったり、補償対象にならないケースがある等、注意すべき点もあります。

補償条件や売り手側の信憑性や支払い能力等を考慮し、慎重に検討する必要があり、また加入にあたっては専門的な知識が必要となります。

まとめ

表明保証保険は、買い手・売り手ともに様々なメリットがある保険です。

ただ先述したように、満額補償されなかったり、補償対象外の事項がある等、注意すべき点が多いのも事実です。

M&Aに精通した弁護士に相談することで、表明保証保険の加入も含め、取引を安全かつスムーズに進めるための適切なアドバイスやサポートを受けることができます。

M&Aには、幅広い知識とスキルが必要となります。

双方ともに満足できる取引を行うためにも、まずは実績のある弁護士に相談することをお勧めします。