M&Aの失敗の原因(売主編)について!
M&Aの失敗の原因(売主編)
一般的に知られるM&Aとは、企業の合併と吸収のことをいいます。即ち、合併により複数の会社が一つになったり、企業の買収により会社が統合したりすることです。
特に中小企業などの小規模の会社は、事業の継承のための後継者の問題を抱えている所が多くあります。
また、経営者の高齢化問題を抱えている企業も多いです。
M&Aはこれらの企業の事業承継問題、経営者の高齢化問題の解決策として成功イメージが強いですが、実際は7割が失敗に終わっているといわれています。
今回はこのM&Aが失敗する時の要因や、失敗しないための対応策について、売却側に絞って詳しく解説していきます。
M&Aの失敗の原因はM&Aのメリットが得られないこと!
M&Aというと企業買収のようなイメージが強いですが、実際には売却側にもいろいろなメリットがあります。
以下は、M&Aによる売却側の代表的なメリットです。
- 企業の事業継承の問題を解決できる。
- 売上の向上や取引先の拡大やコストダウンなどを図ることができる。
- キャピタルゲインを得ることができる。
- 会社を廃業するよりも税制面の優遇などの利益を得ることができる。
- 従業員の雇用が安定をする。
- 借入金などの連帯保証から解放される。
このように、M&Aが行われると売却側にも様々なメリットがありますが、現実には失敗することも多々あります。
ここからは、何故M&Aが失敗が多いのかについて考えていきたいと思います。
M&Aの「売り手側」の失敗の原因
中小企業の代表者の内半分くらいの代表者が、自分の代で廃業するのでなくどこかに事業を継承したいと考えています。
そのため、M&Aによる会社の売却も一つの方法ではありますが、実際には事業継承はなかなか難しいものです。
その原因は、利益がでていなかったり、代表者がワンマンだったり、債務超過であったり、中小企業によくある経営管理がずさんだったりするこが挙げられます。
M&Aによる事業継承を考えるのならば、買ってもらえるようなビジネスを作り上げておくことが重要です。
情報の出し惜しみや社内に抱えている問題を隠したりすることなく、買い手側が安心して買えるような状態にしておくことはM&Aを失敗しないためにはとても大切なのです。
以下は、M&Aが失敗する代表的なパターンになります。
株券や株主名簿が未整備
M&Aは、株式譲渡や株式交換などが行われるのが一般的です。
そのため、株券や株主名簿が未整備であった場合は、売却側の株券の所在がわからないことがよくあります。
このようなケースでは、M&Aが成約しても株式を譲渡する時につまずいてしまう可能性があるのです。
また、未整備により手続きが遅れてしまったため、M&Aが破談になってしまう場合もあります。
特に売却側が中小企業である場合は、経営者の記憶ベースでしか株式の実態がわかってないこともあります。
このようなことを防ぐためにも、売却側はM&Aが行われる前にきちんと調査をして、株券や株主名簿を整備しておく必要があるのです。
また、直近3年分の株主総会議事録や、同じく直近3ヶ月分の取締役会議議事録などは最低でも保管をしておく必要があります。
M&Aの情報が外部に漏れた
M&Aには、売却側の企業の経営が危ないのではというマイナスイメージを持っている人もいます。
そのため、取引先の会社などにM&Aを検討している情報が漏れてしまった場合は、場合によっては売却を考えている会社の経営が危ないのではと思われる可能性があります。
また、自社の社員に情報が漏れた場合も、自分の会社が危ないと思われるかもしれません。
そして、そのことにより、社員の離職が進んでいく可能性もあるのです。
M&Aを進めていくのに注意すべきことは、一部の人のみで検討して他の人には情報が漏れないようにすることです。
念のため、M&Aの買収先やM&Aのアドバイザーとも秘密保持契約を結んでおくとよいでしょう。
簿外債務がある
簿外債務とは、貸借対照表に記載されずに表に出ていない債務のことをいいます。
この簿外債務には会計操作などによる悪意のある債務だけでなく、保証などの悪意のない債務もあります。
しかし、M&Aの買い手にとって簿外債務は、悪意があってもなくても莫大なリスクになる可能性が秘めています。
そのため、M&Aの買い手側は、優先的に簿外債務の調査をすることも数多くあるのです。
簿外債務の存在は、最悪M&A破談することもあります。
簿外債務があるということは一般的にリスク管理能力が低いとみなされ、経営者や会社の信用を著しく失う原因となります。
売却側の企業は、悪意がなかったとしても簿外債務は持つべきではないのです。
従業員が納得しない
M&Aが行われるということは経営権が変わることであり、そのことにより社風が変わることや労働環境が変わることを意味します。
このような変化は、従業員の不満や反発を起こす可能性もあるのです。
M&Aにより賃金や勤務先などの労働環境がよくなることもありますが、反対に悪くなることもあります。
従業員が納得しなければ売却側の企業だけでなく、買い手側の企業も不幸にしてM&Aが失敗に終わる可能性もあります。
そのため、売却側の経営者は、従業員に納得してもらえるようにM&Aの経緯やメリットを丁寧に説明する必要があるのです。
M&A交渉で不誠実な態度や過剰な要求をした
M&Aの交渉は企業間のやりとりですが、実際に交渉を行うのは人対人です。
一般的には売却側よりも買い手側の方が、規模が大きいことや買収資金を出す側であることにより、不誠実な態度や過剰な要求をしてくることが多いでしょう。
しかし、売却側の方も希望する条件が満たされないことにより情報の提供を渋ったり、M&Aの直前に条件変更を持ちかけたりすることがあります。
このような、交渉で不誠実な態度や過剰な要求は、M&Aの破談につながっていくことが考えられます。
また、M&Aが成約したとしても、後々の経営統合がスムーズに進まない可能性もあるのです。
M&Aの成約前には別々の組織であったとしても成立後には同じ組織になる可能性もあるため、不誠実な態度や過剰な要求は避けた方がよいでしょう。
M&A後に大きく業績が悪化する
M&Aは話があってから3ヶ月程度で成立することもあれば、1年以上時間がかかってします場合もあります。
この期間に売却側の業績が大きく悪化してしまうと、買い手側にはメリットが無くなってしまうのでM&Aがうまくいかない可能性があります。
少しでも高く売るために、売却側は業績が悪化しないように注意をする必要があるのです。
M&Aの成約直前での合理性のない条件変更
売却側は、M&Aによりできるだけ多くの資金を得ることが目的になります。
一方、売却側もできるだけコストをかけずにM&Aを成立させたいものです。
M&Aを成立させるためには、このような両社の思惑の違いを埋め合わせるために交渉を続けていかなければなりません。
しかし、成立直前で売却側がもっと高く買ってくれる企業が現れそうなので売却価格を引き上げて欲しいなどの合理性のない条件変更を申し出た場合などは、M&Aが失敗する可能性があります。
少しでも高く売りたい気持ちはわかりますが、直前の条件変更は後々にも影響を与えますので避けた方がよいでしょう。
M&A売却価格について一切の妥協をしなかった
M&Aは、一般的に資金を出すことにより買い手側の方が売却側よりも優位に事を運ぶことが多いです。
そのため、売却側は多少の妥協をすることにより、M&Aが成立することも多々あります。
しかし、中には希望金額にちょっとだけ届かなかった場合や、M&A成立後の買い手側の企業方針が一部納得がいかなかったことによりM&Aの成立を拒否する売却側企業もあります。
売却側も買い手側もお互いにかもしれませんが多少の妥協なしにはM&Aはうまくいきませんので、妥協点についてもあらかじめ考えておく必要があるのです。
M&A売却側の株主の意思統一が図れていなかった
いくら売却側の経営者や役員がM&Aに対して前向きな状態であったとしても、株主の意思を図らないままにM&Aの交渉を進めていった場合は途中で頓挫してしまう可能性があります。
M&Aの交渉前に株主の意思を図っておけば、例え意思が不統一だったとしても大きな問題になることはありません。
しかし、交渉の途中で株主との意思統一が図れていないことが判明した場合は、買い手側の企業に迷惑をかけることになり場合によっては大きな問題になりかねません。
そのため、売却側企業は、株主の意思統一をなるべく早いタイミングで行っておく必要があるのです。
また、株式譲渡によるM&Aの交渉をしていた場合、株主が多いため買取ができなかったり、株主が買取を拒否する場合もあります。
このような場合は株式譲渡を実現できないためM&Aが失敗してしまう可能性がありますので、M&Aの検討を始めた時に株式の整備を行っておく必要があるのです。
M&A契約書のチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)に抵触した
チェンジ・オブ・コントロール条項とは、取引先との商取引の契約書において、M&Aによる経営権の移動があった場合の対応について記載された条項のことです。
この条項に抵触した場合は、M&A成立後に事業をスムーズに進めることができなくなる可能性があるのです。
例えば、M&Aにより売却側から買い手側に経営権が移動することにより、売却側とその取引先や顧客との間で交わされている契約がその内容によっては破棄されてしまいます。
その結果、売却側の取引先や顧客を失うことになり、経営に大きなダメージが残りM&Aが失敗に終わることもあるのです。
このことを防ぐためには、売却側の企業は現在締結している契約書をM&Aの交渉前や交渉中にきちんと確認しておく必要があります。
コンプライアンス上に問題があった
コンプライアンスとは法令を遵守することですが、そもそも売却側企業にコンプライアンス上の問題があるような事象を抱えていた場合はM&Aが失敗に終わります。
コンプライアンス上の問題がある場合は訴訟や行政処分の対象になり、信用を失うだけでなく取引先や顧客も失ってしまいます。
買い手側にも迷惑をかけてしまうことになりますので、M&Aの交渉前にコンプライアンスに違反しているようなことは無いのか確認しておき確実にコンプライアンスに遵守する必要があるのです。
M&A過程においてすべての情報を提示せず隠していた
簿外債務や給料未払いなどの売却側にとって都合の悪い事項は、自社の評価が下がるために隠して起きたいと考えるかもしれません。
しかし、虚偽の情報は、M&A成立後に必ず明らかになることですし、場合によっては訴訟にまで発展することがあるでしょう。
後々のトラブルを避けるためにも、売却側企業にとって都合の悪いことも含めたすべての情報を開示する必要があるのです。
M&A買い手側の企業の選択を間違った
元々は従業員や取引先のためになるようにM&Aを進めたいと思ってたとしても、ついつい目先の利益に走ってしまうケースです。
本来は買い手企業の経営者の考え方や経営理念をしっかりと確認して、自社の従業員や取引先のことを考えて守ってくれる先を選らばなければなりません。
しかし、最終的には買い手側の選択基準を譲渡価格だけで判断してしまい、結局M&Aが失敗に終わります。
このような失敗を防ぐためには、あらかじめ候補者のイメージや条件を絞っておき本来の目的が達成できるような買い手を選ぶことが大切です。
M&Aできちんとした契約書を作成していない
M&Aに関する契約書に記載されている内容が曖昧で何が書かれているかわからない場合などは、後々にトラブルにまで発展してしまうケースがあります。
特に事業譲渡によるM&Aの場合は、何を譲渡するのかをきちんと記載していなければいけません。
契約書がきちんとしていないため裁判にまで発展してしまう可能性もありますので、自社を守るためにもきちんとした契約書を作成することが大切です。
M&A買い手側の高圧的な条件に乗ってしまった
買い手側はM&A資金の出し側のため、どうしても買収して上げれば売却側にとってメリットがあるというような態度で交渉してくる場合があります。
このように買い手側の態度が高圧的であった場合は、売却側の従業員の離反や反発などが起こる可能性が高いためM&Aがうまくいきません。
相手が高圧的な条件の提示をしてきた場合は、絶対に乗ってしまってはいけないのです。
まとめ
M&Aを成功させるためには、このような失敗事例から学ぶことが大切です。
もちろん成功事例を研究するのも大事ですが、失敗事例からはリスクへの対策を考えることができます。
売却側企業がM&Aを成功させるためには、これまで見てきたように調査や確認を徹底して行うことや、買い手に対して不誠実な対応を行なわないことなどが挙げられます。
他にも、何のためにM&Aを行うかの目的を明確化することや、従業員や取引先や株主などに対して意思統一を図っておく必要があります。
しかし、実際にM&Aの交渉を行うことになった場合には、M&Aの価格設定や、相手方の経営方針やM&A後の戦略など素人にはなかなか難しい問題も山積みです。
M&Aを失敗するパターンのほとんどが、専門家に頼らずに自社内で解決しようと考えることにあります。
このような問題を解決するのには、M&Aの専門家であるM&Aの仲介会社に依頼することが重要です。
但し、M&Aの仲介会社の中にはひどい所もありますので、きちんとした仲介会社を選ぶことがとても大切なのです。