M&Aでの違法建築への対処法!

自社所有の建築物が違反建築物として行政の指導を受けたという話を耳にすることがあります。コンプライアンス対策に万全を期しているはずの企業で、なぜこのような事態が発生するのでしょうか。この記事では、企業所有の建築物が違反指導を受けることなる原因を明らかにするとともに、その後の対処法について解説します。

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建築基準法違反とは何か

自社所有の建築物が、なぜ違反建築物として行政からの指導を受けることになるのでしょうか。その要因を考えるために、まず、どういった状態のものが違反建築物に該当するのかを押さえておきましょう。

検査済証を取得しなければ原則建物は使用できない

防火指定のない地域(法22条地域)における10平方メートル以下の増築を除き、建築物を建てようとすれば、事前に建築確認申請が必要です。この建築確認申請書に添付した図面どおりの建築物を建て、工事完成後に検査済証を取得したものが、建築基準法に適合した建築物です。建築物は検査済証がなければ、原則的に使用することはできません。

このルールから逸脱した建築物は、建築基準法違反として取り扱われます。具体的には、次のようなものが該当します。

  • 建築確認申請を行わずに工事に着手した
  • 建築確認申請書と異なる建築物を建てた
  • 完了検査を受検しないまま建物を使用した
  • 用途変更をしたことにより都市計画制限に適合しなくなった
  • 防火壁など、本来建物に必要な機能を撤去した

これらは、いずれも明白な違反であり、事実が発覚すれば行政から厳しい指導や是正命令を受けることになります。

既存不適格建築物は違反ではない

違反建築物と混同しやすいのが既存不適格建築物です。既存不適格建築物とは、建築工事を着手した後に、法律や都市計画制限の変更があり、結果として不適格になったものをいいます。しかし、不適格といっても、けっして違反ではなく、法には適合しているのです。その根拠は、建築基準法の次の条文に示されています。

第3条第2項(抜粋)  この法律又は条例の規定の施行の際、現に存する建築物が規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物に対しては、当該規定は、適用しない。

これにより、不適格な部分の規定が適用されないために、適法な建築物として存在しているのです。

違反建築物が発生するメカニズムを知ろう

近年は、違反建築物の発生が大幅に減少しています。その最も大きな理由として、違反建築物に対しては金融機関が融資をしないということが挙げられます。このため、違反として摘発されるのは、自己資金で建てられる小規模な増築によるものが中心になっています。

小規模な増築であれば、問題はそれほど深刻ではないと考える方もいるでしょう。たしかに、離れにミニハウスを建てたというような違反であれば、それを撤去すれば違反が解消されます。しかし現実には、小規模な増築をすることで、大規模な違反に発展することがあるのです。そのあたりの事情を解説していきましょう。

増築をすれば現行法規に適合させる義務が発生する

既存不適格建築物は、先述したように、「当該規定は適用しない」ことによって、適法建築物として存続し得るのですが、この「適用しない」という規定を解除する規定があることを失念してはいけません。これが次に示す条文です。

第3条第3項(抜粋) 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、適用しない。

(中略)

第3号 工事の着手がこの法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の後である増築、改築、移転、大規模の修繕又は大規模の模様替に係る建築物又はその敷地

増築等を行った場合、第2項の「当該規定は適用しない」という規定を第3項で「適用しない」としています。つまり、現行法規にすべて適合させる義務が発生するのです。

たとえば、戦前(昭和20年以前)から建つ古い住宅で考えてみましょう。建築基準法は昭和25年に施行された法律ですから、現行法規に適合していなくても既存不適格建築物として取り扱われます。

この建物に5平方メートルの浴室を増築したとしましょう。防火指定がなければ10平方メートル以下の増築ですから、建築確認申請は不要です。しかし、増築をしたことによって、元の建物に対しても現行法規が適用されるため、建物の構造をすべて現行法規に合わせる必要があります。また建ぺい率を既にオーバーしていた場合には、増築したことによって、現行の指定建ぺい率以下になるよう建物の一部解体しなければいけないことになります。

このように、たとえ小規模の増築であっても、増築したことによって建物全体に影響を及ぼすことになるのです。

用途変更で違反になることがある

違反になるのは、増築などの建築行為をした場合に限りません。たとえば、事務所だった建物を印刷工場に用途変更したとしましょう。工場への用途変更は、建築行為をしなければ建築確認申請は不要です。

しかし、この建物の敷地が、工場が建築できない住居系の用途地域だった場合、用途違反として、たちまち行政から違反指導を受けることになります。

また用途変更をすることで、容積率違反になることがあります。容積率は「延べ面積÷敷地面積」によって算出されますが、駐車場や駐輪場は、容積率を算定する際の延べ面積から除外することができます。

このため、1階のピロティ部分を駐車場として申請した建築物が指定容積率ぎりぎりだった場合、後に駐車場を一般の部屋に用途変更をすると、容積率オーバーとなり、違反指導を受けることになります。

リノベーションで違反になることがある

病院や物販店舗等の特殊建築物で500平方メートルを超える建築物は、窓や機械による排煙設備が必要ですが、100平方以内の排煙区画を設けることで、排煙設備が免除されることがあります。

リノベーションによって、排煙区画を形成している壁や防火戸を撤去してしまうと、排煙規定に違反することになります。排煙の規定は、万が一の火災発生時に避難をスムーズに行うために重要な機能であることから、行政ばかりでなく、消防署からも厳しい指導を受けることになります。

なぜ違反は発覚するのか

違反は行政のパトロールで発覚するわけではありません。そもそも都市圏においては、建築確認申請の90%以上は民間の確認検査機関によって処理されているため、役所の職員が工事現場を見ても、その場で違反かどうかの判断はできません。また、近年の違反建築物の発生件数の低下により、違反指導をする職員の数は大幅に削減されています。このため、行政には効率の悪い違反パトロールをする余力はありません。

違反が発覚する最も大きい要因は、近所からの通報です。同じ地域に住む人達は、自分の敷地にどれだけの規模の建物が建てられるのかを熟知していますから、通報によって多くの違反が発覚します。

また物販店舗、劇場、工場、倉庫などの一定規模以上の建物は、定期的に所轄の消防署の査察が入ることがあります。この査察の際に、建築確認申請と異なる事実が発覚すれば、ただちに行政に報告され、やがて違反指導をうけるという流れになります、

ちなみに建築確認申請は、一定規模以上のものはすべて消防署の同意が必要なため、所轄の消防署は建築確認申請書の控えを所持しています。このため、現場と申請の違いを照合することができるのです。

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違反発覚後の対処法について

コンプライアンスを重視している企業においても、計らずも違反建築物を所有することがあります。たとえば、組織が大きくなったことから、地方の工場や倉庫などに目が行き届かなかったということがあります。さらには、M&Aによって買収した企業が違反建築物を所有していたということもあり得るのです。

ここでは、違反が発覚し行政指導を受けた場合、どのように対処すればいいのかについて解説をしていきます。

小規模な増築でも違反の影響は大きい

企業は資産管理の観点から、所有する建築物を把握しているのが一般的です。ところが、自転車置き場や掃除用具収納庫などの小規模建築物については、工場や倉庫を管理している現地の社員の裁量で設置してしまうことがあります。

この際に建築確認申請をすれば、法的な問題が明らかになるのですが、申請書には法人印が必要になるため、ついこの手続きを怠ったままで、工事を着手することがあります。しかし、小規模な増築は、ときとして大きな問題に発展することがあるのです。

たとえば、次のようなケースをみていきましょう。

従来、鉄骨造平屋建ての倉庫Aと倉庫Bが別棟で建っていたのですが、倉庫Bで受け取った荷物を倉庫Aに収納する際に、雨風を避けるために渡り廊下を設置したとします。渡り廊下自体は、20平方メートル程度の小規模なものですが、これが大きな違反を生み出すことになります。

この敷地が防火指定のない、いわゆる「法22条地域」であれば、床面積が1,500平方メートル以下の倉庫については、建物の防火性能は求められません。そうした事情もあって、わざわざ別棟として倉庫を建てて、1棟の面積を1,000平方メートルと800平方メートルにしたのですが、これを渡り廊下で接続すると事情が変わってきます。

渡り廊下を設置したことで、倉庫Aと倉庫Bは一棟の建築物と見なされるために、全体で1,820平方メートルの倉庫としての規制を受けることになります。

倉庫の面積が1,500平方メートルを超えると、単なる鉄骨造ではなく、構造部材を一定耐火被覆した準耐火建築物とする必要があるのです。また、規定により準耐火建築物とした建築物は500平方メートル以内ごとに防火区画をする必要があります。

このため、この建物の違反が発覚すると、次のような指導を受けることになります。

  • 柱、梁、外壁などの構造部歳を耐火性能のあるものにする
  • 500平方以内ごとに防火壁及び防火戸で区画する

倉庫に保管している製品の性質上、どうしても雨風を避けたい場合、渡り廊下を撤去することができませんから、これらの是正を行うという選択肢しか残されていないことになります。

違反指導の対処法

違反に係る事情聴取の通知が届いた場合、指定の日時に役所を訪ねることになります。この場合、建築主として会社の担当者が指導を受けることになります。専門的な知識を要する事柄であることから、建築士や行政書士等をアドバイザーとして同席させることは可能です。

ただし行政指導や処分に係るやりとりは法律行為になりますから、会社関係者がまったく出席をしない場合、代理人を務められるのは弁護士のみです。

違反の是正は早急に行うことが理想ですが、事例のようなケースだと数千万円規模の費用が必要であることから、予算的な理由で一度に全部の是正ができないことについては、一定行政の理解を得ることは可能です。

ただし、最終的な是正までの道筋を明確に示す必要があります。たとえば、是正に3,000万円を要する場合、年間に1,000万円の予算しか組めないのであれば、3年間の是正計画案を提示して、それを了解してもらうという流れになります。

是正計画には、指導を受けている建物を解体する計画を盛り込むことも可能です。ただし建て替え計画に対する信ぴょう性と数年後に実現するという担保性が必要になります。いわゆる「絵に描いた餅」の是正計画は認められません。

是正するまで違反の事実は残る

是正計画書を提出したとしても、それで違反が免除されたことにはなりません。是正計画書に対して、受理印を押すなどの正式なレスポンスがあるわけでもありません。役所の性格上、「正式に違反を容認する」といった処分をすることができないからです。

役所の立場としては「指導中」という現在進行形を維持するための担保として、是正計画書を預かったにすぎません。

しかも指導中の物件は、完全に適法にならない限り永遠に関係書類が保管されたままになります。外部に公表されることは基本的にはありませんが、文書が存在している限りは、情報公開請求によって白日にさらされる可能性がゼロとは言い切れません。

行政から違反指導を受けるということは、コンプライアンスに抵触する企業というレッテルを貼られたことを意味します。大変不名誉なことであり、会社の信用にもかかわることですから、一日も早い違反解消に努めなければいけません。

おわりに~企業はどのように違反是正を進めればいいのか

違反建築物に対して、行政が、「ここまで是正すれば後は容認する」ということを口にすることは、けっしてありません。法の公平の原則から公務員は法律を逸脱する指導ができないからです。

一方で、企業側としてもコンプライアンスの観点からただちに是正したい意思があっても、工事費用を捻出しないことにはどうにもなりません。そのことは、行政も理解を示してくれます。

過去、違反建築物で行政代執行まで至った事例を見ると、まるで是正の意思を示さなかったものが対象になっています。あるいは、是正の意思は示したものの、まったく是正をしなかったものも同様です。

つまり、現実的な是正案を示し、それを確実に是正する姿勢を示すことが重要だということです。ただし、「5年後に完全に是正する」といったような、根拠のない大言壮語的な是正案は認められません。予算を理由に是正が困難だと弁明しているのであれば、必ず段階的で根拠のある是正案を提示して、確実に実行させる必要があります。

違反建築物の指導は、①口頭指導 ②勧告 ③命令 ④行政代執行の段階で進められます。

「命令」が出されると、公報で建物所有者の氏名が公表されます。「行政代執行」に至れば、ローカルテレビ局や新聞の地方版で報じられます。

しかし「口頭指導」で収まっている限り、違反の事実を積極的に周囲に知らせることはありません。是正案を提示して、その計画どおりに進めることで「指導に従っている案件」として扱われます。したがって、行政と協議をしたうえで、提示した是正案どおりに段階的に是正をしていくことで、コンプライアンス上の問題が軽減し、経営上のリスクも回避できるということになるのです。

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