M&Aトラブル事例:M&A買収した会社が経営悪化していることを説明しなかった場合!
M&A買収した対象会社が経営悪化していることを説明しなかった場合
M&A買収した対象会社が経営悪化していることを説明しなかった場合、買主企業には何かとりうる策があるのでしょうか。
買収した対象会社が経営悪化していることを説明しなかった場合には、例えば、買主企業が対象会社株式を購入した直後に、突如対象会社が会社更生手続や民事再生手続の申立てを行い、当該手続の開始決定がなされ、その結果、株式の100%減資(既存の株主全員を株主から除外して新たに株主を募る手続をいいます)が行われた、買主企業が株式を取り上げられてしまうような事態が生じることが想定されます。そして、このような場合には、買主企業としてはせっかく買収した株式を失うことになり、甚大な損失を蒙ることになります。それでは、このような場合、買主企業は、売主企業に対して何らかの責任を問えるのでしょうか。
この点、大阪地判平成4年9月17日判タ832号146頁では、買収会社が対象会社の株式を取得した後、すぐに対象会社が会社更生手続を申立ててしまったという事案において、「本件売買契約・・・は対等な企業間における交渉であって、買主企業にかかる資本参加を行うか否かについては買主企業において完全に選択の自由を有していたものである。してみれば、売主企業において、対象会社の資産状況につきことさらに虚偽の事実を告げてはならないという意味での消極的な義務を負うことは格別、・・・積極的な開示義務を負うことは認めることができない。」との判断を下しました。
これによれば、売主企業は、買主企業に対し、(虚偽の情報を伝えるのは違法だが)対象会社が経営悪化していることについてまであえて説明する義務はなく、買収企業側が、自己の責任で対象会社の状況について十分にデューデリジェンス(DD)を行って、対象会社の状況について把握する必要があるのであり、売主企業が殊更に買主企業に対して虚偽の情報を伝えていたような事情がない限り、買主企業は、売主企業に対し、対象会社の経営状況が悪化していたことの説明を受けなかったことにより蒙った損失について、補償又は賠償を請求することはできない、ということが言えるでしょう。
すなわち、裁判所は、売主は、ことさらに虚偽の事実を告げてはならないという義務を負っていますが、売主において不利益な事実等についても正確に開示しなければならない義務があるとまではいえないと判断をしていることになります。
財務状況についてことさらに相手方から虚偽の事実を申告され、対象会社が経営悪化していることが分からなかった場合には、損害賠償請求ができるということにはなりますが、デューデリジェンス(DD)をしっかりしていさえすれば容易に判明したような場合は、買主を救済する必要はないというのが裁判所の判断ですので、売主の悪質性がどの程度大きいかが重要になってきます。買主企業としては、やはり、M&Aにおいては、しっかり、デューデリジェンス(DD)を行っておかなければならないということとなるものと思われます。
参考:大阪地判平成4年9月17日抜粋
・・・(原告の)主張は、その内容が甚だ曖昧ではあるが、要するに、被告〇〇が本件売買契約の売主であり、かつ、〇〇の代表取締役として〇〇株式会社を含む売主側を事実上代表してその渉にあたったことを理由に、被告〇〇につき、〇〇の株式の価値(実質的には〇〇の純資産価値の実態)を正確に開示説明する信義則上の義務があった旨を主張するものと解され、また、被告〇〇については、本件売買契約の売主で、かつ実質的には被告〇〇が支配する会社であったことを理由に、被告〇〇と同様の責任を負うべき旨を主張するものと解される。なお、被告〇〇については、本件売買契約につき形式的にも実質的にも売主である旨の主張はなく、被告〇〇につき売主としての信義則上の開示説明義務を負うとすることは主張自体失当というべきである。そこで、以下、被告〇〇及び被告〇〇について、原告の右主張の当否を検討する。
前記認定経過によれば、本件売買契約は、実質的には〇〇に対する原告の資本参加を企図して行われたもので、当時それぞれ〇〇と原告の代表者であった被告〇〇と〇〇との間でその交渉が行われたものであるが、右は対等な企業間における交渉であって、原告がかかる資本参加を行うか否かについては原告において完全に選択の自由を有していたものである。してみれば、被告〇〇において、〇〇の資産状況につき殊更に虚偽の事実を告げてはならないという意味での消極的な義務を負うことは格別、原告の主張するような積極的な開示説明義務を負うものと認めることはできない。したがって、被告〇〇が本件売買契約当時被告〇〇の経営支配する会社であったか否かにつき判断するまでもなく、原告の右主張は理由がない。 |