特別利害関係人の取締役会決議からの排除!
決議事項について自社または相手方会社と何らかの利害関係を有している取締役は、取締役会に参加することが出来ません。このように、利害関係が理由で決議から排除される取締役を「特別利害関係人」と呼びます。
特別利害関係人が参加できない決議事項とは、具体的にどのようなものが該当するのでしょうか。また、取締役会非設置会社・そもそも取締役が少数ないし1名である会社等は、決議事項をどのように扱えばよいのでしょうか。
これらの疑問を解決できるよう、本記事では特別利害関係人の定義や制限内容について解説します。
特別利害関係人とは
ある決議事項において、個人的または社内外の利害関係を有する取締役を「特別利害関係人」と称します。そもそも取締役は、善管注意義務(会社法第330条・民法第644条)・忠実義務(会社法第355条)を会社に対して負いますが、特別の利害を有する状態では誠実履行の見込みがありません。
そこで「特別利害関係人」については、取締役会での議決参加・意見陳述・議事進行を担うことの一切が認められず、退席を促されたときは応じなければならないとされています。
特別利害関係人が存在する場合の議事進行
特別利害関係人も議事の招集通知を受け取って同席することは認められますが、定款や規則で規定されていても議長になることはできません。もし「当該取締役を議長とする」等の定めがある場合は、別途議長を決める必要があります。
また、取締役会で特別利害関係人を排除したときは、議事録への当該取締役氏名の記載が義務付けられています(会社法施行規則101条3項5号)。
【具体例】特別利害関係人が参加できない決議事項
特別利害関係人が参加できない決議事項として代表的な例は、下記①~④となります。
①競業または利益相反取引
ある取締役が自己または第三者の利益のために会社と同業を行うことを「競業取引」と呼び、会社から借入または退職慰労金を受給する等の行為を「利益相反取引」と呼びます。
競業取引・利益相反取引のいずれにおいても、当事者である取締役は決議機関の承認を得なければなりません(会社法第356条1項・第365条)。決議の際、当該取締役は「特別利害関係人」として参加できません。
本例に当てはまる代表的な事例は「グループ会社間の取引」です。
【例】特別の利害が生じる「グループ会社間の取引」の例
・代表取締役が同一人物XであるA社とB社のあいだで取引する場合
→XはAB両社で特別利害関係人に該当
・Yが取締役を務めるC社・Yが代表取締役を務めるD社のあいだで取引する場合
→YはCD両社で特別利害関係人に該当
②譲渡制限株式の譲渡
特別の利害が生じる例として次に典型的なのが、取締役が自社の譲渡制限株式の取引をしようとする状況です。
譲渡制限株式を譲渡するにあたり、株主は会社の承認を得なければなりません。株式に譲渡制限をかけた発行会社が取締役会設置会社である場合、承認の決議機関は定款の定めがない限り取締役会です(会社法139条1項)。
この譲渡承認決議において、譲渡者または譲受者がその会社の取締役である場合、当該取締役は「特別利害関係人」として排除されます。
【例】特別の利害が生じる「譲渡制限株式の取引」
・取締役Aから同社取締役Bへ、会社経営からの勇退を目的として譲渡制限株式を移転させようとする場合
→A・Bともに特別利害関係を有するため、議決参加不可
③第三者割当で取締役を引受人とする場合
特別の利害が生じる3番目の例として、第三者割当で取締役が株式を引き受けようとする状況が挙げられます。割当承認にあたっては、取締役会設置会社において取締役会が決議機関となるものの、株式引受人となる取締役は参加できません。
では、取締役メンバーの大半もしくは全員が引受人となる場合はどうなるのでしょうか。
「これではまったく決議がとれないのではないか」と思われますが、そうではありません。決議をとる際は、割当全体をまとめるのではなく引受人毎となるためです。
【例】特別の利害が生じる「譲渡制限株式の取引」
- 取締役A・B・C・Dの4人が全員で第三者割当による増資を行おうとする場合
→4人とも1回ずつ抜けるかたちで参加者3人での承認を計4回とれば、全員が引受人となることが出来ます。
④取締役の責任の一部免除
取締役に任務懈怠が認められる状況において、定款に定めがあれば、取締役会の決定により責任を免除することが出来ます。(会社法426条1項)この際、責任の免除を受けようとする取締役は、当然「特別利害関係人」として決議に参加できません。
本例でも例④で挙げた第三者割当のように、責任免除の決議は取締役毎に行うことが出来ます。つまり、取締役全員が定款の定めによる責任免除を受けようとする場合、人数分の承認を開いて各回で特別利害関係人が抜けるかたちで開催します。
取締役全員が特別利害関係人の場合はどうすればよいのか
ある取引または株式譲渡において、取締役全員が特別利害関係人となった場合、どう扱うべきでしょうか。結論を述べると、方法として2つ考えられます。
【方法①】「職務代行者」を選任する
法的に用意されているのは、裁判所に申立を行って「職務代行者」の選任を受け、当該特別利害関係人の代わりに取締役会を開いてもらう方法です(会社法346条2項)。
問題は、職務代行者の選任にあたって審理等を経なければならない点です。時間や手間がかかり、会社にとって機動性のある手段とは言えません。
【方法②】新しく取締役を選任する
もうひとつの法的に有効な手段として、株主総会を開いて新しく取締役を選任する方法が考えられます。ただし、取締役を新任する何らかの動機がなかったり、現在トップを務める取締役以外に有望な候補者がいなかったりする企業では、あまり現実的な手段とは言えません。
そこで、別のテクニックを使う場合もあります。
【方法②】議案の分割・みなし承認の利用
あくまでも一種の抜け道となるものの、たとえ一時的でも取締役を任せられそうな人物がいない場合において、以下のような方法が考えられます。
議案の分割
取締役グループと議案を2つ以上に分割し、それぞれ特別利害関係人以外の取締役で承認を取る方法です。
みなし承認の利用
譲渡制限株式の譲渡においては、一定期間の通知がなかった場合に会社が承認したものとする「みなし承認」が存在します。
たとえば、譲渡承認請求があったときは2週間以内(定款で期間の定めがある場合を除く)に認否決定を請求者に通知しなければ、指定された譲受人への譲渡を会社が認めたと見なされるのです。
これを利用し、取締役間での譲渡等について「通知しなかった」という体をあえてとれば、取締役会を開けない状況でも目的を達成することが出来ます。
特別利害関係人でも株主総会は参加可能
特別利害関係人は参加を制限されるのは取締役会のみで、株主総会には参加が認められています。
株主総会とは「会社の所有者」という視点で開催されるものであり、自己の利益を追求するために議決権を行使するのが当然と考えられます。会社に対して誠実であるべきとされる義務は株主にはなく、取締役の個人的・利己的判断も反映させられるのです。
【参加できない例外】自己株式の取得にかかる決議
ただし、株主総会の議題のうち「自己株式の取得にかかるもの」については、特別な利害を有する取締役の参加は認められません。株主間の資本投下機会の公平性が失われることになり、不適切と考えられるからです。
具体的には、以下のような議題が挙げられます。
- 譲渡制限株式を保有する取締役からの譲渡承認に対し、拒否して会社が買い取ることを認めるような決議(会社法140条3項)
- 自己株式を株主との合意で取得しようとするとき、株主の一員である当該取締役だけを対象にするような決議(会社法160条4項)
- 定款に基づき、会社から相続等で株主となった取締役に対し、その株式の売渡請求をする際の決議。(会社法175条2項)
取締役会非設置会社での譲渡承認はどうなる
自己株式の取得・譲渡の決議機関が株主総会となる「取締役会非設置会社」では、利害関係を有する取締役も株主総会へ全面的に参加することが出来ます。
ただし、当該取締役により著しく不当な決議がなされた場合には決議取消事由となる(831条1項3号)ため、注意しなければなりません。
まとめ
特別利害関係人とは「ある決議事項において利害関係を有する取締役」を指し、本議案に関して取締役会に参加することの出来ない立場を指します。
特別な利害が生じるとされる代表例として、以下のような状況を紹介しました。
【特別な利害が生じる例】
- 競業または利益相反取引
- 譲渡制限株式の譲渡
- 第三者割当で取締役を引受人とする場合
- 取締役の責任の一部免除
特別利害関係人でも、株主総会が決議機関であれば参加が認められます。ただし、上記例中にもある「利益相反取引」「譲渡制限株式の譲渡承認」などのシーンでは、原則上参加できません。
中小企業の現状を考えると、取締役が少数かつ全員が特別な利害を有する状況が発生しやすいと考えられます。コンプライアンスに抵触しないよう会社経営のかじ取りを進めるために、万一のときは専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。