日本製造(旧MJG)の資金目当てのM&A

日本製造(旧MJG)の資金目当てのM&Aの概要

2024年10月、朝日新聞デジタルで、資金目当てのM&Aに関するスクープ記事が出されました。短期間に多くの中小企業を買収した手法(資金目当てのM&A)が疑問視されたケースについて、取締役会の動画ファイルや議事録、内部資料、代表者を含む役員や子会社幹部などの証言をもとに検証がされました。

本記事では、日本製造(旧MJG)が実施したとして疑惑が持たれている「資金目当てのM&A」について、朝日新聞デジタルが報道した内容を要約してお伝えします。

2023年7月26日、日本経済新聞に「株式会社 日本製造」として中小製造業の再編を掲げる広告が掲載されました。これは日本の技術力を継承し、中小企業の買収を通じて新たな成長を目指すものです。日本製造(旧MJG)は、7月1日にMJGから社名変更された会社で、2017年からM&A事業を進め、22年には10社、23年には16社の買収を行うなど、近年買収ペースが加速。現在、傘下には32社が含まれます。

代表の田邑元基氏は、工業高校卒業後に大手企業で経験を積み、2009年に自ら会社を設立。その後、M&Aに注力し日本製造(旧MJG)を設立しました。経営強化のため、昨年には上場を見据え、取締役会や監査役の設置に加え、日本M&Aセンターの創業者で名誉会長の「分林保弘氏」や元KDDI役員の「千本倖生氏」などの外部有識者を役員に迎えました。

日本製造(旧MJG)は、買収した企業から得た資金をM&A資金や運転資金として使用。2022年7月から2023年9月の間で約24億円を調達し、15.6億円をM&Aに、7.5億円を自社と子会社の資金に充てました。一部では買収企業から月々数十万円の「本社費」を徴収するなど、資金目当てのM&Aを実施したとして疑惑が持たれています。

2023年9月末には子会社36社の借入総額が149億円に達し、現預金は29億円と資金不足の様相。日本製造(旧MJG)本体の現金残高も減少しており、収益改善が急務とされる中、今後の経営再建が求められる状況が見られました。

田邑氏の解任と復帰

朝日新聞が入手した日本製造(旧MJG)の取締役会(2023年11月実施)の議事録と録音によると、同社では買収先からの資金集金が契約書なしに指示されることが多く、これらは「前受け金」として処理され、監査法人から説明を求められていました。

また、買収に際して約束された、多額の将来退職金も問題視されました。取締役からは「コーポレートガバナンスが欠如している」「M&Aが資金繰りの手段になっている(資金目当てのM&Aを行っている)」などと非難の声が上がりましたが、田邑氏は「会社のために必要な行動」と反論。一部役員は田邑氏の独断経営に対して疑念を抱き、羽切副社長が経営の引き継ぎを提案。最終的に田邑氏の解任が全会一致で決議され、羽切氏が代表取締役に選任されました。しかし、田邑氏は株式の過半数を握る立場を利用し、解任を「クーデター」とし、経営権の奪還に動き出しました。

これに対して、日本製造(旧MJG)では、羽切副社長や専務らが中心となり、解任された田邑氏への責任追及を決定しました。2023年11月には田邑氏に対する不正調査を進め、子会社や取引先に彼の指示に従わないよう警告書を送付。また、タワーマンションなど資産の明け渡しも要求されました。内部資料によれば、日本製造(旧MJG)は田邑氏の東京・浜松町のタワマン購入に2億円の融資を行い、高級車やゴルフ会員権なども保有していたことが明らかになっています。

田邑氏は解任から8日後に「現状に関するご説明」を子会社やM&A仲介会社に送り、解任は「新参者によるクーデター」であり、資金目当てのM&A実施をはじめとする不正の指摘は事実無根と主張。支配株主として経営陣を一新し、代表復帰を宣言しました。東京地裁に臨時株主総会の招集許可を申し立て、2024年2月に承認されると、その株主総会で代表職に復帰しました。日本製造(旧MJG)側は田邑氏に対し議決権行使を禁じる仮処分を求めましたが、却下されました。田邑氏はタワーマンションや高級車の利用を「業務目的」とし、経費の私的流用を否定。株主総会後、役員4人は辞任し、取締役会および監査役制度が廃止されましたが、その後に買収先との問題が浮上しました。

田邑氏の復帰後に発覚した問題

田邑氏が代表に復帰した直後、日本製造(旧MJG)は3月下旬に銀行口座の差し押さえを受ける事態に陥りました。差し押さえたのは、昨年9月に日本製造(旧MJG)が買収した兵庫県の機械製造会社です。株式譲渡契約で買収額2.5億円のうち2億円を退職金として支払うと約束していたものの、実際の支払いは5千万円に留まっていました。その後、同社からの追加送金要求と資金返済の問題が発生し、口座差し押さえに至っています。日本製造(旧MJG)では資金繰りが厳しく、数社が離脱。労働組合も結成され、田邑氏に団体交渉が申し入れられるなど、経営難が表面化していました。

9月中旬、東京・新橋で中小企業の労働組合が経営側と団体交渉を行いました。この企業は資金繰りが厳しく、給与支払いの遅延が懸念され、従業員20人が8月に労組を結成しています。労組は日本製造(旧MJG)への5億円の返済(昨年5月の株式譲渡の直前に振り込まれた資金)を要求しました。そのような資金を振り込んだきっかけは、M&A仲介会社として業界最大手の「日本M&Aセンター」の担当者を通じてもたらされた、ある提案でした。

静岡県にある自動車関連機械製造のその企業は、EV化の影響で注文が減少し、売上が年数億円まで縮小。取引銀行から経営改善を求められ、M&Aが検討されることになりました。経営陣は地元銀行から日本M&Aセンターを紹介され、昨年4月に日本製造(旧MJG)の田邑氏が訪問、グループ加入で新規案件が得られると提案され契約を急がされました。4月中に1.5億円で基本合意と正式契約が結ばれ、財務資料の準備に追われる中、企業の命運を左右する提案が示されました。

日本M&Aセンターの担当者は、田邑氏の要請として、買収資金が不足しているため保険を解約して5億円を日本製造(旧MJG)に貸し付けるよう求めました。地元銀行担当者も同席し、「1億円程度は手元に残し、残りを貸すように」と提案されたといいます。経営陣は5月9日に5億円を振り込み、その翌日に株式代金が支払われると理解し了承しました。契約準備に忙殺され、深く検討できないまま、年1%の金利で2025年9月を返済期限とする貸借契約書が交わされました。

日本製造(旧MJG)の総勘定元帳によると、5月9日に買収先企業から日本製造(旧MJG)の口座に5億円が入金され、翌日に株式代金約1.5億円、日本M&Aセンターへ約5千万円、会計事務所へ約900万円が支払われましたが、この買収費用はすべて買収対象企業の資金から賄われました。M&A後、静岡の企業はわずか数百万円の受注に留まり、資金繰りが悪化しています。金融機関から新規融資も拒まれ、さらに日本製造(旧MJG)に2千万円を短期貸し付けしたものの未返済額が残っています。困窮した従業員は8月に労組を結成し、田邑氏に団体交渉を求めましたが、交渉に姿を見せませんでした。

「資金目当てのM&A」の疑惑が持たれる手法でM&Aを繰り返した日本製造(旧MJG)

日本製造(旧MJG)には買収先企業からの資金を活用し、その買収費用や仲介手数料に充てていたとされる取引が他にも存在します。例えば、愛知県の鉄工所では、買収日に6千万円が日本製造(旧MJG)に送金され、売り手への株式代金と仲介手数料として支払われました。

同様に、千葉県の鋼管会社からは7.8億円を得て株式代金や手数料を支払いましたが、日本製造(旧MJG)は資金繰りに苦労し、さらなる買収先からの資金を当てにしていたといいます。これにより買収先の内部留保が減少し、成長投資が難しくなる一方、M&A仲介会社は成約ごとに多額の報酬を得ており、日本製造(旧MJG)の4~10月の勘定元帳によると日本M&Aセンターに約3億円、他のM&A仲介会社にも多額の支払いが行われていることが確認されました。

M&A仲介会社「日本M&Aセンター」の「資金目当てのM&A」に関する説明

日本M&Aセンターホールディングスの三宅卓社長は、日本製造(旧MJG)の「資金目当てのM&A」に関し「当初は志に誤りはなかったが、途中から資金目当てのM&Aに偏ってしまった」と説明しています。売却会社の現預金を株式代金や手数料に使う手法については「大手ファンドでも使われるが、資金力、金融ノウハウ、志がそろう場合に限られるべき」と述べ、日本製造(旧MJG)の場合はそれが欠けていたと指摘しました。

日本M&Aセンターでは、昨年11月に千葉の鋼管会社の買収で発生した問題を受け、今年1月から買い手の財務調査を強化し、現預金を買収資金に充てる手法を原則禁止しました。三宅社長は「M&A仲介会社は成約だけでなく、真の成功を目指すべき」と話し、日本M&Aセンターの改革を進める一方で、日本製造(旧MJG)には引き続き新たなM&A案件が持ち込まれていると話しています。

「資金目当てのM&A」に関する役員らの証言

朝日新聞では、田邑氏の解任劇が起きた昨秋の取締役会に出た役員らに話を聞き、支配株主として復権を果たした代表にも取材を申し込んでいます。

第二電電(現KDDI)などを創業した連続起業家として知られる千本氏は、旧友である日本M&Aセンターの分林氏の推薦で、日本製造(旧MJG)の社外取締役に就任しました。しかし、田邑氏が取締役会の承認を経ずにM&Aや借り入れを進めたため、昨年11月の取締役会で田邑氏が代表を解任され、千本氏ら4人の社外取締役も翌日辞任しました。

取締役会では、業績不振の買収先から資金を引き出し、それをM&A資金に充てる手法(資金目当てのM&A)が問題視され、千本氏は「買収先の資金を流用するやり方は、企業成長を阻害する不正な経営だ」と非難しました。さらに、日本製造(旧MJG)が買収前に現預金を引き出し、それを買収資金や仲介報酬に充てた事例が確認されると、千本氏は「不適切であり得ない」と強く批判し、コンプライアンスに疑問を呈しました。

分林氏は、日本製造(旧MJG)の拡大方針に興味を持ち、社外取締役に就任しました。しかし、同社の経営が買収先企業の統合や支援を行わず、資金目当てのM&Aを進める状況に疑念を抱きました。買収先から資金を引き出し、それを買収資金や仲介手数料に充てる手法について、分林氏は「絶対にやってはならないこと」と厳しく批判しています。また、日本製造(旧MJG)が自転車操業に陥り資金繰りのためにM&Aを繰り返しているとし、「M&A仲介会社がこうした手法を取ることは極めて例外的」との見解を示しました。分林氏は日本M&Aセンターが長年正しい行動を取ってきたと信じつつも、業界ルールの厳格化の必要性を強調しています。

田邑氏へのインタビュー

田邑氏は9月24日の朝日新聞のインタビューで、コロナ禍で融資返済が必要となりM&A仲介会社からの提案が増えたことが、22年にM&Aが急増した要因と説明しています。

22~23年に子会社から日本製造(旧MJG)に送られた多額の資金について、田邑氏は「前受金」であり借用書は不要と主張しています。監査法人からは送金の処理に関する疑問も提示されていましたが、田邑氏は「会計士の指導で処理した」と釈明。朝日新聞により借入金が株式譲渡の前日などに送金されていたことを指摘されると、「必要な書類にサインしたが、記憶になかった」と述べ、適切な処理が必要であると述べました。

田邑氏は買収先からの送金について、二つの理由を挙げました。一つは、子会社の余剰金を一括管理する「キャッシュ・マネジメント」で、経営者保証を引き継ぐ田邑氏が資金の無駄遣いを防ぐための対策と説明しています。もう一つは、現預金を買収や手数料に充てることで、取引金融機関やM&A仲介会社の了承を得ており、銀行からの借り入れを避けて短期間でのM&A実現が目的だとしています。

しかし、別の会社の買収に使うのは適切でないとし、そうしたことはしていないと強調しました。財務担当者は、過去1年3カ月で買収先から24億円を引き出し、うち16億円をM&Aに使用したと報告し、現預金は6,800万円しかないと指摘しましたが、田邑氏は「お金に名前はついていない」とし、借入金や子会社への送金実績を挙げて否定しています。また、グループ全体の収益維持率が高いと主張し、不調な子会社を批判しました。

田邑氏は、赤字の会社が経営指導を無視するため、責任を負いながらも清算せざるを得ない状況が発生していると訴え、債務リスクの責任は自身にあると主張しています。一方、自身の解任については、他の役員の不正経理や子会社への不適切な返金を追及した結果「クーデターにかけられた」とし、その「乗っ取り計画」に社外役員も関与していたと述べましたが、名指しされた役員は田邑氏の主張を否定しています。

また、田邑氏は最近購入した不動産の一部は投資目的であり、東京・浜松町のタワーマンションは「会社に何かあった場合に備えた資産」、フェラーリとBMWの購入は会計士や知人の勧めによるものであると述べています。日本製造から離脱する企業については「業績が悪い企業のみが離脱を求めている」とし、赤字が続く場合には清算する方針を示しました。

田邑氏は解任騒動を経た現在もM&Aを継続しており、新規案件の紹介も増加しているとのことです。

以上、日本製造(旧MJG)による資金目当てのM&Aのスクープ記事を要約してお伝えしました。

今回のニュースのように、今後も資金目当てのM&Aを行おうとする企業が出てくる可能性は否定できません。また、M&A仲介会社が資金目当てのM&A案件を提案してくる可能性もあるでしょう。「M&A仲介会社や買収側企業に資金目当てのM&A実施を誘引されていないか?」など、M&Aの実施検討にあたって不安なことや不明点があれば、お気軽に「弁護士法人M&A総合法律事務所」にご相談ください。