M&A契約における価格調整条項とは?仕組み・実務上の注意点を解説

M&A(企業の合併・買収)では、最終的な買収価格をどのように決定するかが重要なポイントになります。もっとも、M&A契約の締結時点では、対象会社の財務状況や運転資本などの数値が確定していない場合も多く、契約時に決めた価格と実際の企業価値との間に差が生じる可能性があります。
このような場合に備えて、M&A契約では「価格調整条項」が設けられることがあります。価格調整条項とは、クロージング(取引の実行)時点の財務状況などを基準に、最終的な買収価格を調整するための条項をいいます。そして、価格調整を行う際には、対象会社の財務情報や運転資本の状況など、価格算定の基礎となる情報を確認する必要があります。これらの情報は、実務上「価格調査情報」と呼ばれることがあります。
価格調整条項は、M&A取引における価格の公平性を確保するために重要な役割を果たしますが、その仕組みや内容はやや専門的であり、M&Aの専門家以外にとっては分かりにくい部分も少なくありません。また、条項の定め方によっては、クロージング後に当事者間で紛争が生じるケースもあります。
そこで本記事では、M&A契約における価格調整条項(価格調査情報)とは何かについて、基本的な仕組みから代表的な方式、条項の内容、実務上の注意点までを分かりやすく解説します。
M&A契約における価格調整条項とは
M&A契約における価格調整条項とは、クロージング時点の対象会社の財務状況などを基準として、最終的な買収価格を調整するための条項をいいます。M&Aでは、契約締結からクロージングまで一定の期間が設けられることが一般的であり、その間に対象会社の財務状況が変動する可能性があります。このような変動を踏まえて、取引価格を合理的に調整する仕組みとして設けられるのが価格調整条項です。
M&A取引では、企業価値評価に基づいておおよその買収価格が決定されますが、その評価は過去の財務情報や一定の前提条件をもとに算定されることが多く、クロージング時点の実際の財務状況と完全に一致するとは限りません。例えば、契約締結後に運転資本が増減したり、新たな債務が発生したりすることによって、対象会社の純資産の状況が変化することがあります。価格調整条項は、このような財務状況の変化を取引価格に反映させるための仕組みとして機能します。
また、価格調整条項は、売主と買主の双方にとって公平な価格決定を実現するという役割も持っています。例えば、クロージング時点で対象会社の財務状況が契約締結時に想定していたよりも良好であれば買収価格が増額される場合がありますし、逆に財務状況が悪化していれば価格が減額される場合もあります。このように、実際の財務状況に応じて価格を調整することで、当事者間のバランスを保つことができます。
さらに、価格調整を行うためには、対象会社の財務情報や運転資本の状況、有利子負債の額など、価格算定の基礎となる情報を確認する必要があります。これらの情報は実務上「価格調査情報」と呼ばれることがあり、価格調整条項の運用において重要な役割を果たします。すなわち、価格調整条項が価格調整のルールを定めるものであるのに対し、価格調査情報はそのルールに基づいて実際に価格を算定するための基礎データという位置付けになります。
このように、価格調整条項はM&A契約における価格決定の仕組みを支える重要な条項の一つです。もっとも、条項の定め方が不明確である場合には、クロージング後に価格算定の方法や対象項目をめぐって当事者間で争いが生じることもあります。そのため、価格調整条項を理解する際には、その基本的な仕組みだけでなく、どのような方式が用いられるのか、どのような内容を契約で定める必要があるのかといった点についても把握しておくことが重要になります。
価格調整条項が設けられる理由
M&A取引では、対象会社の企業価値を評価したうえで買収価格が決定されます。しかし、企業価値評価は通常、過去の財務情報や一定の前提条件をもとに算定されるものであり、契約締結時点で最終的な財務数値が確定しているとは限りません。そのため、契約締結時に想定していた財務状況と、クロージング時点の実際の財務状況との間に差が生じる可能性があります。このような差を取引価格に適切に反映させるために設けられるのが価格調整条項です。
また、価格調整条項は、クロージングまでの間に生じる財務状況の変化を踏まえ、売主と買主の双方にとって合理的かつ公平な価格決定を実現するという役割も持っています。このような観点から、多くのM&A契約では価格調整条項が設けられています。以下では、価格調整条項が設けられる主な理由について説明します。
最終対価を適正に確定
M&A契約では、基本合意や最終契約の締結時点で買収価格の目安が定められることが一般的ですが、その価格はあくまで一定の前提に基づいて算定されたものです。例えば、契約締結時点の貸借対照表や財務データを基礎として価格が算定されている場合、クロージングまでの間に対象会社の資産や負債の状況が変化することがあります。価格調整条項は、このような変化を反映させ、最終的な買収価格をより実態に近いものとして確定させる役割を果たします。
クロージング前後の価格変動リスクを調整
M&Aでは、契約締結からクロージングまで一定の期間が空くことが一般的です。この期間中にも、対象会社の事業活動は継続して行われるため、売上や費用の発生、運転資本の増減、新たな債務の発生などにより財務状況が変化することがあります。もし契約締結時の価格をそのまま固定してしまうと、この期間中の財務状況の変化によって、売主または買主のいずれかが不利益を受ける可能性があります。価格調整条項は、このような価格変動リスクを当事者間で適切に分担する仕組みとして機能します。
当事者間の公平を確保
価格調整条項は、売主と買主の双方にとって公平な価格決定を実現するという観点からも重要な役割を果たします。例えば、クロージング時点で対象会社の運転資本が契約時に想定していた水準よりも多い場合には、対象会社の企業価値が高まっていると評価できるため、買収価格が増額されることがあります。反対に、運転資本が減少していたり、負債が増加していたりする場合には、買収価格が減額されることがあります。このように、実際の財務状況に応じて価格を調整することで、取引の公平性を確保することができます。
価格調整の代表的な方式
M&A契約における価格調整条項では、どのような方法で最終的な買収価格を確定するかを定める必要があります。価格調整の方法にはいくつかの方式があり、どの方式を採用するかによって、価格調整のタイミングや算定方法、当事者が負担するリスクの内容などが異なります。
実務上、価格調整の方式としてよく用いられるものとして、コンプリーション・アカウント方式、ロックボックス方式、アーンアウト方式などがあります。それぞれの方式には特徴があり、取引の内容や当事者間の交渉状況によって採用される方式が決まることが一般的です。
以下では、M&A契約において用いられる代表的な価格調整の方式について、それぞれの特徴を説明します。
コンプリーション・アカウント方式
コンプリーション・アカウント方式とは、クロージング時点の対象会社の財務状況を基準として最終的な買収価格を調整する方式です。M&A契約の締結時には、通常、直近の財務諸表などをもとに暫定的な買収価格が定められますが、クロージング時点の実際の財務状況を確認したうえで、その数値に基づいて最終的な価格を確定させる仕組みとなっています。
この方式では、クロージング後に対象会社の財務状況を反映した財務諸表(コンプリーション・アカウント)を作成し、その内容をもとに価格調整を行うことが一般的です。具体的には、クロージング時点の純資産額、運転資本、有利子負債などの数値を確認し、契約で定めた基準値との差額に応じて買収価格を増額または減額する方法が採られます。
コンプリーション・アカウント方式の特徴は、クロージング時点の実際の財務状況を基準として価格を調整する点にあります。そのため、契約締結からクロージングまでの間に対象会社の財務状況が変化した場合でも、その変化を最終的な買収価格に反映させることができます。こうした点から、対象会社の事業活動が継続している取引や、クロージングまでの期間が比較的長い取引において採用されることが多い方式です。
もっとも、この方式では、クロージング後に財務数値を確定させる必要があるため、価格調整の結果が確定するまで一定の時間がかかることがあります。また、どの項目を調整対象とするか、どの会計基準に基づいて数値を算定するかといった点について当事者間で見解が分かれる場合には、価格調整をめぐって紛争が生じる可能性もあります。そのため、コンプリーション・アカウント方式を採用する場合には、価格調整の対象項目や算定方法を契約でできるだけ明確に定めておくことが重要になります。
ロックボックス方式
ロックボックス方式とは、一定の基準日(ロックボックス日)時点の財務状況を基準として買収価格を確定させる方式です。この方式では、契約締結時点で既に確定している財務諸表などをもとに企業価値を評価し、その数値に基づいて最終的な買収価格を決定します。したがって、コンプリーション・アカウント方式のようにクロージング後に財務数値を再計算して価格を調整する仕組みは通常採用されません。
ロックボックス方式の特徴は、契約締結時点で最終的な買収価格が確定する点にあります。これにより、クロージング後に価格調整を行う必要がなくなるため、取引後の価格確定手続が簡素化されるというメリットがあります。また、買主にとっても、買収価格が早い段階で確定するため、資金計画を立てやすいという利点があります。
もっとも、ロックボックス方式では、ロックボックス日からクロージングまでの期間に対象会社の財務状況が変化した場合でも、原則として買収価格は変更されません。そのため、この期間中に対象会社の資産が流出したり、通常の事業活動の範囲を超える支出が行われたりすると、買主が不利益を受ける可能性があります。このような事態を防ぐため、ロックボックス方式を採用する場合には、ロックボックス日以降に対象会社から価値が流出することを禁止する条項(リーケージ条項)を設けることが一般的です。
このように、ロックボックス方式は価格確定の手続を簡素化できるという利点がある一方で、ロックボックス日からクロージングまでの期間における対象会社の財務管理が重要となります。そのため、対象会社の財務状況が比較的安定している取引や、売主と買主の信頼関係が一定程度確保されている取引において採用されることが多い方式です。
アーンアウト方式
アーンアウト方式とは、クロージング後の対象会社の業績などに応じて、追加的な対価を支払う仕組みを設ける方式です。この方式では、契約締結時点またはクロージング時点で一定の買収価格が支払われますが、その後の一定期間における売上高や利益などの業績指標があらかじめ定めた基準を満たした場合には、追加の対価が売主に支払われることになります。
アーンアウト方式の特徴は、将来の業績を買収価格に反映させることができる点にあります。例えば、対象会社の成長可能性が高いと考えられる場合でも、その将来の業績を契約締結時点で正確に評価することは容易ではありません。このような場合にアーンアウト方式を採用することで、将来の業績に応じて追加対価を支払う仕組みを設けることができ、売主と買主の双方が価格に関するリスクを分担することが可能になります。
もっとも、アーンアウト方式では、クロージング後の対象会社の経営状況や業績評価の方法をめぐって当事者間で争いが生じる可能性があります。例えば、どの指標を業績評価の基準とするのか、どのような会計処理を前提として数値を算定するのか、またクロージング後の経営方針が業績にどのような影響を与えたのかといった点が問題となることがあります。そのため、アーンアウト方式を採用する場合には、評価期間や業績指標、算定方法などを契約でできるだけ具体的に定めておくことが重要になります。
価格調整条項の基本的な内容
価格調整条項を設ける場合には、どのような基準に基づいて価格を調整するのか、またどのような手続によって最終的な価格を確定させるのかといった点を契約で定める必要があります。価格調整の方式によって具体的な内容は異なりますが、一般的には、価格調整の基準となる日、調整の対象となる財務項目、価格の算定方法、価格算定のための情報の確認手続などについて規定されることがあります。
価格調整条項の内容が不明確である場合には、クロージング後に価格算定の方法や調整対象項目をめぐって当事者間で争いが生じる可能性があります。そのため、価格調整条項を定める際には、どのような項目をどのような基準で調整するのかをできるだけ具体的に規定しておくことが重要になります。以下では、価格調整条項において一般的に定められる主な内容について説明します。
基準日の定め方
価格調整条項では、どの時点の財務状況を基準として価格調整を行うのかを定める必要があります。この基準となる日を基準日といいます。一般的には、クロージング日やクロージング日の直前日などが基準日として設定されることが多く、コンプリーション・アカウント方式ではこの基準日時点の財務状況をもとに価格調整が行われます。
基準日の定め方は、価格調整の結果に直接影響する重要な要素です。例えば、基準日をクロージング日とする場合には、クロージングまでの間に生じた財務状況の変化が価格調整に反映されることになります。一方で、基準日をそれ以前の日とする場合には、その後に生じた財務状況の変化が価格調整の対象とならない場合もあります。
そのため、基準日をどの時点とするのかについては、取引の内容や対象会社の事業状況などを踏まえて慎重に検討する必要があります。また、基準日とクロージング日との関係を明確にしておくことによって、価格調整の対象となる期間を明確にすることができます。
調整対象項目の内容
価格調整条項では、どの財務項目を調整対象とするのかを定めることも重要になります。価格調整の対象となる項目としては、純資産額、運転資本、有利子負債などが用いられることが多く、契約においてどの項目を基準として価格を調整するのかが規定されます。
例えば、運転資本を基準として価格調整を行う場合には、契約で想定している運転資本の水準を定めておき、クロージング時点の運転資本がその水準を上回っている場合には買収価格を増額し、下回っている場合には減額するという方法が採られることがあります。また、有利子負債の額を基準として価格調整を行う場合には、クロージング時点の負債額に応じて価格を調整する仕組みが設けられることがあります。
どの項目を調整対象とするかによって価格調整の結果が大きく変わる可能性があるため、調整対象項目の内容や定義を契約で明確にしておくことが重要になります。また、各項目の算定方法についても、どの会計基準に基づいて数値を算定するのかなどを定めておくことが望ましいといえます。
算定方法の具体化
価格調整条項では、調整対象となる財務項目をどのような方法で算定するのかを定めることも重要になります。価格調整は通常、契約で定めた基準値とクロージング時点の実際の数値との差額に基づいて行われるため、どのような方法で数値を算定するのかが明確でなければ、当事者間で見解の相違が生じる可能性があります。
例えば、運転資本を基準として価格調整を行う場合には、運転資本に含まれる具体的な項目や計算方法を契約で定めておくことが一般的です。また、財務数値を算定する際にどの会計基準を用いるのか、過去の財務諸表と同一の会計処理を採用するのかといった点についても明確にしておく必要があります。
算定方法が曖昧なままでは、クロージング後に価格算定の結果をめぐって紛争が生じる可能性があります。そのため、価格調整条項では、算定方法や計算式をできるだけ具体的に定め、どのように価格が調整されるのかを当事者間で共有しておくことが重要になります。
情報提供義務の範囲
価格調整を行うためには、対象会社の財務状況に関する情報を確認する必要があります。そのため、価格調整条項では、売主または対象会社が買主に対してどのような情報を提供する義務を負うのかを定めることが一般的です。例えば、クロージング後に作成される財務諸表や運転資本の内訳、負債の状況などの資料を買主に提供する義務が規定されることがあります。
また、買主がこれらの情報を確認し、必要に応じて内容について質問や確認を行うことができる手続を設ける場合もあります。このような情報提供の仕組みが整備されていないと、価格算定の基礎となる数値を十分に検証することができず、後に当事者間で争いが生じる可能性があります。
そのため、価格調整条項では、どのような情報をどの時点までに提供するのか、買主がどの程度まで情報を確認できるのかといった点について、あらかじめ契約で定めておくことが重要になります。
異議申立手続の流れ
価格調整のための財務数値が算定された場合でも、その内容について当事者間で見解が一致しないことがあります。そのため、価格調整条項では、算定された数値に対して異議を申し立てることができる手続を定めることが一般的です。
例えば、売主または対象会社が作成した財務資料を買主に提示し、買主が一定期間内にその内容を確認したうえで、異議がある場合には具体的な理由を示して通知するという手続が設けられることがあります。このような異議申立手続を設けておくことで、価格算定の内容について当事者間で協議を行い、問題点を整理することが可能になります。
また、異議申立の期限を定めておくことも重要です。期限が明確に定められていない場合には、いつまで異議を申し立てることができるのかが不明確となり、価格確定の時期が遅れるおそれがあります。そのため、価格調整条項では、異議申立の方法や期限について具体的に定めておくことが望ましいといえます。
専門家決定の位置付け
異議申立手続を経ても当事者間で価格算定について合意に至らない場合には、第三者である専門家の判断によって最終的な数値を確定させる仕組みが設けられることがあります。このような仕組みは、一般に専門家決定と呼ばれます。
専門家決定では、公認会計士や監査法人などの専門家が当事者から提出された資料をもとに価格算定の内容を検討し、その判断に基づいて最終的な数値を決定します。この方法を採用することにより、当事者間の見解が対立している場合でも、専門的な知見に基づいて価格を確定させることが可能になります。
また、専門家決定を契約で定めておくことにより、裁判などの紛争解決手続に進む前に問題を解決できる可能性が高まります。そのため、価格調整条項では、どのような場合に専門家決定を利用するのか、専門家をどのように選任するのかといった点について、あらかじめ契約で定めておくことが一般的です。
価格調査情報とは何か
価格調整条項に基づいて買収価格を調整するためには、対象会社の財務状況に関する具体的な情報を確認する必要があります。このように、価格調整の基礎となる財務情報や資料は、実務上「価格調査情報」と呼ばれることがあります。価格調査情報は、価格調整条項で定められた算定方法に従って最終的な買収価格を決定するための基礎資料として重要な役割を果たします。
価格調査情報として扱われる内容は取引によって異なりますが、一般的には対象会社の財務諸表、運転資本の内訳、有利子負債の状況、資産や負債の詳細な明細などが含まれます。これらの情報を確認することによって、クロージング時点の財務状況を把握し、契約で定められた基準に従って価格調整を行うことが可能になります。
価格調整条項をめぐる実務上の注意点
価格調整条項は、M&A契約において最終的な買収価格を合理的に確定させるための重要な条項ですが、その内容が不明確である場合には、クロージング後に当事者間で紛争が生じる原因となることがあります。特に、価格調整の基準となる財務数値や算定方法について認識の違いがある場合には、価格調整の結果をめぐって対立が生じる可能性があります。そのため、価格調整条項を設ける際には、実務上問題となりやすい点を踏まえて条項を設計することが重要になります。
会計基準を明確に定める重要性
価格調整では、対象会社の財務数値をどのような基準に基づいて算定するのかが重要になります。例えば、日本基準、IFRS、米国会計基準など、どの会計基準を前提として数値を算定するのかによって、同じ取引であっても数値の結果が異なる可能性があります。
また、対象会社がこれまで採用してきた会計処理の方法と異なる基準で数値を算定する場合には、価格算定の結果が大きく変わることもあります。そのため、価格調整条項では、どの会計基準を前提として財務数値を算定するのか、また従来の会計処理をどの程度維持するのかといった点を明確に定めておくことが重要になります。
定義規定を具体化する必要性
価格調整条項では、純資産、運転資本、有利子負債などの財務項目が調整対象として用いられることが多くありますが、これらの用語の意味が曖昧である場合には、どの項目を含めるのかをめぐって当事者間で見解の相違が生じる可能性があります。
例えば、運転資本の算定において、どの資産や負債を含めるのか、引当金や未払費用をどのように扱うのかといった点について、契約で明確に定めていない場合には、価格算定の結果に影響を与えることがあります。そのため、価格調整条項では、調整対象となる各項目の定義をできるだけ具体的に規定しておくことが望ましいといえます。
数値操作リスクへの対応
価格調整の対象となる財務数値は、クロージング前後の対象会社の財務状況に基づいて算定されます。そのため、場合によっては、価格調整の結果に影響を与えることを目的として財務数値が操作されるリスクが指摘されることもあります。
例えば、クロージング直前に費用の計上時期を変更したり、売上の計上を調整したりすることによって、運転資本や利益の数値に影響を与える可能性があります。このような問題を防ぐためには、クロージングまでの期間における対象会社の事業運営について一定の制約を設けることや、通常の事業活動の範囲内で経営を行うことを契約で定めておくことが有効とされています。
紛争防止のための条項設計
価格調整条項をめぐる紛争は、価格算定の方法や調整対象項目の解釈をめぐって生じることが多くあります。そのため、契約を締結する段階で、価格調整の方法や手続をできるだけ具体的に定めておくことが重要になります。
例えば、価格算定の方法、情報提供の手続、異議申立の期限、専門家決定の利用方法などについて契約で明確に規定しておくことにより、クロージング後に問題が生じた場合でも、当事者間で一定のルールに基づいて解決を図ることが可能になります。このように、価格調整条項の内容を具体化しておくことは、紛争を未然に防ぐうえでも重要な意味を持ちます。
M&A契約における価格調整条項のまとめ
M&A契約における価格調整条項は、クロージング時点の財務状況などを基準として最終的な買収価格を調整するための重要な条項です。企業価値評価は契約締結時点の情報をもとに行われることが多いため、クロージングまでの間に生じた財務状況の変化を取引価格に反映させる仕組みとして、価格調整条項が設けられることがあります。
価格調整の方式としては、クロージング時点の財務数値をもとに価格を調整するコンプリーション・アカウント方式、一定の基準日時点の財務状況をもとに価格を確定するロックボックス方式、将来の業績に応じて追加対価を支払うアーンアウト方式などが代表的なものとして挙げられます。取引の内容や対象会社の状況によって、どの方式が適切であるかは異なるため、それぞれの特徴を理解したうえで方式を選択することが重要になります。
また、価格調整条項を設ける際には、調整対象項目の定義、算定方法、会計基準、情報提供の手続などをできるだけ明確に定めておくことが重要です。これらの点が曖昧である場合には、クロージング後に価格算定をめぐって当事者間で紛争が生じる可能性があります。
M&A取引では、買収価格は取引全体の経済条件を左右する重要な要素の一つです。そのため、価格調整条項の仕組みや実務上のポイントを理解したうえで契約内容を検討することが、取引を円滑に進めるうえでも重要といえるでしょう。


