中小企業M&Aトラブルの原因と類型!

弁護士法人M&A総合法律事務所には、日々、M&Aトラブルに関する相談が寄せられており、2年ほど前から、M&Aトラブルに関する相談は増加し続けています。

2年ほど前と言えば、M&Aがブーム化し、M&Aに経験が薄くかつM&Aに素人の買主やM&A仲介業者や関係者が非常に多く発生してきた時期であり、この傾向が、M&Aトラブルの増加に拍車をかけているものと思われます。

弁護士法人M&A総合法律事務所は、M&Aの買主からの相談も、M&Aの売主からの相談も、M&Aの仲介業者からの相談も、いずれも頻繁に受けており、数多くのM&A裁判を担当しています。

その観点から全体を見ると、近時のM&Aトラブルには一定のパターンが強くなっているように思われます。

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M&Aが失敗するとトラブルになる!

M&Aにおいて、M&Aの買主がM&Aが失敗だったと感じた場合は、ほぼ何らかのトラブルが発生すると言って良いでしょう。

と言いますのは、M&Aの買主において、M&Aの失敗により発生した損害は、受容し難い問題であるのに対して、M&A取引において、M&Aの買主が、M&Aの相手方又はM&A仲介業者や関係者に対して、責任追及する方法は、いかようにでも主張を構成することが可能だからです。

M&Aの失敗とは?

では、M&Aの失敗とはどういう状況のことを言うのでしょうか。

やはり、典型的には、M&Aの買主にとって、買収した対象会社が、想定した収益を上げないことが、M&Aの失敗ということとなるでしょう。その想定した収益が、M&Aの買主が自分勝手に想定した場合であっても、M&Aの買主は、それをM&Aの失敗と感じるでしょう。

M&Aの買主としては、少なくない買収価格をかけて、対象会社を買収しています。M&Aの買主が、その買収価格を提示して、対象会社を買収したからには、それなりの理由があり、当然、対象会社がその買収価格に見合った収益を上げることを前提としています。

M&Aで買収した対象会社が、損失を出した場合や、想定に見合わない収益しか上げることができなかった場合(想定に見合わない収益しか上げることができそうにない場合)、M&Aの買主にとって、それは、直ちに、M&Aの失敗という感覚になるのです。

M&Aの失敗の原因とは?

しかし、近時、M&Aがブームになり、M&Aにおいては、少ない売り物に、多数の買主が群がり、対象会社の買収価格を吊り上げ、買主の不注意を誘い、買主の見込みを甘くさせ、買主が「高値掴み」をする傾向にあり、半面、M&Aの売主としても、M&Aブームに乗り、アーリーリタイアした経営者仲間が続出するのを見て、自社を本来の価値以上に高く売却しようとして、過剰に売却価格を吊り上げ、買主の不注意を誘い、買主の見込みを甘くさせ、さらに買主が「高値掴み」をする傾向にあります。

そして、それを後押しするかのように、営業能力に長けたM&A仲介業者が、高額のM&A仲介手数料欲しさに、言葉巧みに対象会社にそれなりの企業価値があるかのようにプレゼンテーションをして、買主候補者を競わせ、対象会社の買収価格を吊り上げ、買主の不注意を誘い、買主の見込みを甘くさせ、その結果、買主が「高値掴み」をする傾向の素地を作ります。

他方、M&Aブームに乗り、M&Aに経験が薄くかつM&Aに素人の買主やM&A仲介業者や関係者が非常に多くなっており、その結果、買主は不注意にも、M&Aに対する見込みが甘くなり、「高値掴み」をする傾向にあります。

M&Aの買主のM&Aに対する見込みが甘くなる原因は?

M&Aの失敗は、買主のM&Aの見込みが甘いことが原因ですが、何が原因で、買主のM&Aの見込みが甘くなるのでしょうか。

もちろん、M&Aの買主が、M&Aについて素人であったとか、M&Aの対象会社の業種について知見が浅かったとか、M&Aに際して十分に対象会社を調査しなかったとか、M&Aに際してM&A仲介業者に言葉巧みに乗せられてしまったとか、いろいろありますが、最終的な原因は、M&Aの買主が正確な判断をすることができずに、「高値掴み」してしまったことに原因があることは明らかです。

M&Aの失敗により多額の損失を被った買主の経営者やオーナーの対応

しかし、M&Aの買主としては、特にオーナー企業の買主の場合、いくらM&Aの失敗の原因が自分にあると言われても納得することはありません。M&Aの失敗による多額の損失を甘受するほど器が大きい経営者はいないのです。むしろ、経営者であればあるほど、オーナーであればあるほど、M&Aに失敗して損失を抱えたのであれば、そのM&Aの損失をリカバーすることが至上命題となります。

M&Aの失敗による多額の損失をリカバーする方法として、たいていの経営者やオーナーがまず考えることは、M&Aの売主やM&A仲介業者や関係者に損失を補填させるということであるということです。

M&Aの買主の経営者やオーナーとしては、自分は正しかったということを前提に行動しますし、多額の損失を甘受することはしませんので、M&Aの失敗による多額の損失をリカバーするため手段を選んでいられないのです。

M&Aの失敗の責任をM&Aの相手方又はM&A仲介業者や関係者に求める

M&Aの買主の経営者やオーナーは、M&Aの失敗の責任を、M&Aの相手方又はM&A仲介業者や関係者に求める必要があるのです。

M&Aの相手方又はM&A仲介業者は、買主の会社の外部者ですので、簡単に責任追及することはできませんので、たいていの買主の会社では、まずは、M&Aの担当者である役員や従業員の個人の責任を追及し、その役員や従業員を左遷したり解雇したり冷遇したりして我慢することもあります。

しかし、M&Aの失敗により多額の損失が発生した場合には、M&Aの買主の経営者やオーナーとしては、それだけで我慢するわけにはゆきません。また、そのM&Aに経営者やオーナー自身がコミットしていたことも多く、ここはやはり、自分の責任で、なんとしてでも、その損失を回復しなければいけないのです。

M&Aの失敗の責任をM&Aの相手方又はM&A仲介業者に求める方法

では、M&Aの買主の経営者やオーナーとしては、M&Aの失敗の責任を、M&Aの相手方又はM&A仲介業者に、どのような方法で求めればよいのでしょうか。

弁護士法人M&A総合法律事務所として、M&Aの買主にアドバイスする方法としては、以下のようなものがあります。

M&Aの買主の経営者やオーナーとしては、M&Aが失敗したと気づいた場合は、まずは、それ以上の企業価値や資金の流出は完全に停止させる必要があります。

すなわち、これ以上の企業価値や資金の流出を停止させる方法としては、①M&Aの株式譲渡代金が分割払いになっているような場合、その残額の支払いを完全に停止すればよいのです。また、②M&Aに伴って対象会社から売主または旧オーナーが退職する場合、役員退職慰労金の支払いが完了していないのであれば、その役員退職慰労金の支払いを完全に停止すればよいのです。

また、③M&Aに伴って売主または旧オーナーが対象会社の顧問として、対象会社の業務の引継ぎを行う場合、その顧問料の支払いを完全に停止すればよいのです。また、④M&Aに伴って売主または旧オーナーなどに、対象会社の業務の一部を委託するような場合、その業務委託料の支払い完全に停止すればよいのです。

また、⑤M&Aに伴って売主または旧オーナーなどから商品や原材料を仕入れる場合、仕入れ代金を支払わず、売主または旧オーナーなどに商品や原材料を納入する場合、当初の約束通りの価格では納入せず、値上げを要求すればよいのです。

不動産や知的財産権を賃借している場合、賃借料を払わず、不動産や知的財産権を賃貸している場合、賃貸料の値上げを要求すればよいのです。また、⑥売主または旧オーナーがM&A前に対象会社の役員をしていた場合、対象会社に在職中の公私混同や経営判断のミスなどの責任追及をして、対象会社から損害の補填を要求すればよいのです。

また、⑦M&Aにおける開示書類や開示情報や口頭での説明について、誤っている箇所や認識違いの箇所、はたまたは自分に不都合な箇所があれば、M&Aに際して、対象会社の経営について嘘をついた、ということで、M&A契約書の表明保証や遵守条項の違反の責任を追及すればよいのです。

はたまた、売主または旧オーナーなどに資力が十分でないと考える場合、⑧M&A仲介業者による開示書類や開示情報や口頭での説明について、対象会社の経営について、虚偽の説明をした誤った説明をした、ということで、損害賠償責任を追及すればよいのです。

これにより、M&Aの買主は、売主または旧オーナーやM&A仲介業者から、M&Aの買収価格や、M&A仲介手数料を回収し、M&Aの失敗による多額の損失の補填を図ることができるのです。

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M&A代金・株式譲渡代金・退職慰労金・顧問料・業務委託料等の不払いトラブル

弁護士法人M&A総合法律事務所がM&Aの売主からご相談を受けるM&Aトラブルの中でも、まず、あらゆるものの先に、この株式譲渡代金・退職慰労金・顧問料・業務委託料等の不払いトラブルが発生するというのが印象です。

M&Aにおいて、売主に対する株式譲渡代金を分割払いにする場合や、旧オーナーに対する役員退職慰労金を後払いにする場合や、当面、売主または旧オーナーに対して、顧問料や業務委託料などを支払う場合、さらには、売主または旧オーナーの役員退職慰労金でなく平取締役や売主または旧オーナーの配偶者の役員退職慰労金や役員報酬など、そのような、後払いの要素のあるM&Aの買収代金がある場合、これらが払ってもらえる可能性は高くありません。

そのような場合、買主としては、売主や旧オーナーに対して、株式譲渡代金・退職慰労金・顧問料・業務委託料等の支払いを拒否する根拠として用いられることが多いのが、後述の表明保証条項違反に基づく補償請求・損害賠償請求や役員の善管注意義務違反に基づく役員責任追及です。

買主としては、M&Aに不満があれば、何らかの理由をつけて、表明保証条項違反だと言えば、株式譲渡代金・役員退職慰労金・顧問料・業務委託料等の支払いを拒めてしまうのです。

買主としては、対象会社の社内を徹底調査し、売主の表明保証条項違反を探すのです。

買主としては、何らかの理由をつけて、表明保証条項違反だと言うことができなかったとしても、対象会社の社内を徹底調査すれば、虚偽の説明や誤った説明とまではいかなくても、何らか、売主や旧オーナーの口頭での説明と違っている点を発見することは困難ではないでしょう。

買主の経営者やオーナーは、その結果発見された事項をもって、兎に角、売主や旧オーナーの表明保証条項違反を主張し、損失を主張し、株式譲渡代金・退職慰労金・顧問料・業務委託料等との相殺を主張すれば、簡単に、株式譲渡代金・退職慰労金・顧問料・業務委託料等の支払いを拒むことができるのです。

買主の経営者やオーナーとしては、納得がゆく結果が得られるまで、売主や旧オーナーに対するそれらの支払いを停止すれば、売主としては、裁判をしない限り、妥協せざるを得ず、泣き寝入りになってしまうのです。

また、売主や旧オーナーとしては、過去、対象会社において、公私混同や不正行為をしたことが皆無とは言えず、公私混同や不正行為とまではいかなくても、経営ミスをして会社に損害を与えたことが皆無とは言えず、買主の経営者やオーナーが、対象会社の過去を徹底調査し、次々と、役員責任を追及してくるような事態が避けたいと思ってしまいます。

売主や旧オーナーとしても、裁判を行うにしても、1-2年は掛かるでしょうし、それなりの弁護士費用も掛かります。それだけのエネルギーを注いでも、裁判というものは、絶対に勝てるというものではありません。特に、M&A裁判の経験の薄い弁護士は、明確に見込みを伝えてくれることはないでしょう。

売主や旧オーナーも、M&Aのプロセスの中で、対象会社を高く売り抜けようとして、対象会社の業績について、虚偽の説明や誤った説明とまではいかなくても、相当に盛った口頭での説明をしています。その程度の虚偽の説明や誤った説明や盛った口頭での説明程度で、売主や旧オーナーの役員責任が追及されるほどの法的根拠にはなりえないものがほとんどであるにも係らず、売主や旧オーナーとしては、そのような説明をした負い目もあり、裁判に打って出ることもできません。売主や旧オーナーとしては、売主や旧オーナーの役員責任が追及されるほどの法的根拠にはなりえないにも係らず、不確実性の中、長期間の裁判を戦う自信はなく、その結果、売主や旧オーナーは、泣き寝入りすることとなります。世間的には、売主や旧オーナーが泣き寝入りしている事例が多く存在するのです。

M&A表明保証違反トラブルとは?

では、表明保証条項違反トラブルとは何でしょうか。

表明保証とは、株式譲渡契約書などのM&A契約書に規定される主要な条項であり、M&Aの当事者が相手方に対して、一定の事項が真実であり正確であることを表明し、表明したことを保証する条項です。

M&Aに際しては、買主は、対象会社に対して、デューデリジェンス(DD)を行うものの、デューデリジェンス(DD)による対象会社の事実関係の調査・把握には限界があり、必ずしも全てのリスクが明らかになることはなく、特に、対象会社が中小企業・零細企業の場合、対象会社において、十分な管理がなされていないことも多く、十分なデューデリジェンス(DD)が困難であり、買主としては、売主に、表明保証をさせることにより、想定しないリスクが存在しないことを確約してもらうこととなります。

そして、売主としては、表明保証に明示された事項については、それが虚偽であった場合は、契約書上、売主の損害賠償責任・補償責任が発生することになり、結果として、買主が、想定しないリスクを回避することができるというもの、これが表明保証です。

そうであるからこそ、買主としては、表明保証条項違反が存在した場合、満を持して、売主や旧オーナーに対して、表明保証条項違反による補償請求・損害賠償請求を行うのであり、M&Aトラブルが発生するのです。

表明保証条項違反として、実務上、多いのは、例えば、対象会社の従業員に未払残業代が存在しないとの表明保証の違反です。労働法制は非常に広範にわたり、かつ裁判例も多々存在することから、中小企業・零細企業においては、従業員の管理を完璧に行うことができていないことが一般的であり、どの中小企業・零細企業にも従業員の未払残業代は存在するのです。

表明保証条項違反トラブルの原因が、従業員の未払残業代の存在ならまだよいものの、従業員が退職し、重要取引先を持って逃げたとか、販売したソフトウェアにバグがあることが判明したとか、重要店舗の賃貸人から賃貸借契約を解除されてしまったとか、更新料を請求されたとか、賃料を値上げされてしまったとか、金融機関から融資の返済を求められたとか、対象会社の保有する在庫の多くが陳腐化した不良在庫であったとか、想定外の多額の前受金が存在したとか、対象会社の重要な工場設備が故障しており、その補修には多額の費用が掛かるとか、対象会社の決算書には過去既に回収してしまった多額の売掛金が引き続き計上されたままだったとか、対象会社の企業価値に重大な悪影響を及ぼす表明保証条項違反があった場合は、M&Aトラブルに直結します。

そうでなくても、M&Aが失敗したのであれば、たいてい、売主や旧オーナーの口頭での説明において、多少なりとも虚偽の説明や誤った説明があったのであり、他方、株式譲渡契約書などに、表明保証条項として、完全開示条項(重要な情報についてはすべて開示した旨の表明保証の条項)は存在しているであろうことから、買主の経営者やオーナーとしては、個別の表明保証条項違反が存在しなくても、たいていの場合は、売主や旧オーナーに対して、何らかの表明保証条項違反は主張できてしまうのです。

実際のケースでは、買主が、旧オーナーを呼び出し、虚偽の説明や誤った説明を責め、半ば監禁し、詰問し、損害を賠償するまで帰さないなどし、恐怖を覚えた旧オーナーは、株式譲渡代金を一部でも返還せざるを得ない場合や、旧オーナーが、顧問として、引き続き、対象会社に出勤していた場合は、気まずくなり出勤できなくなる場合、旧オーナーにも、虚偽の説明や誤った説明または相当に盛った口頭での説明について、負い目があるのか、実際に、株式譲渡代金の一部を返還してしまうケースも多く見受けられます。

ただ、実際の問題の所在は、買主が、デューデリジェンス(DD)を怠ったことに問題があることも多く、買主の帰責性が大きい場合も多いと思われますし、買主が被った多額の損失の多くは、買主が、M&A実行後に、対象会社を適切に経営しなかったことが理由であることも少なくないのです。

しかし、M&Aの後、買主は、売主や旧オーナーに対して、この表明保証条項違反の損害賠償責任を追及することができ、その損害賠償請求権と、株式譲渡代金・退職慰労金・顧問料・業務委託料等との相殺も主張できてしまうのです。

M&A対象会社の旧役員の責任追及トラブル

では、旧役員の責任追及トラブルとは何でしょうか。

会社法においては、会社の役員に対して、会社の経営について、善管注意義務を負わせ、不適切な経営を行い、会社に損害が発生した場合、会社は役員個人に対して、善管注意義務違反の損害賠償責任を追及することができるのみならず、会社の株主は会社を代表して、役員個人に対して、善管注意義務違反の損害賠償責任を追及することができる株主代表訴訟の制度も定められています。

M&Aの後、買主は対象会社の親会社になり対象会社に役員を派遣することとなるのだから、その役員が対象会社を経営して、対象会社をして、売主または旧オーナーに対して、その善管注意義務違反の損害賠償責任を追及させることができるようになってしまうのです。

ですので、M&Aが失敗に終わった場合、買主の経営者やオーナーは、対象会社の社内を徹底調査し、売主や旧オーナーの公私混同や不正行為を探し出し、役員の善管注意義務違反などの責任追及を行い、対象会社からその売主や旧オーナーに対して損害賠償請求を行うことがしばしば行われるのです。

売主や旧オーナーとしては、もともと自分の会社であった対象会社が、M&Aで売却したとたん、敵になり、自分に対して、善管注意義務違反の損害賠償責任を追及してくるのですから、たまったものではありません。

売主や旧オーナーとしては、買主は、対象会社に対してデューデリジェンス(DD)を行い、その結果を前提として、M&Aを行い、対象会社を買収したのですから、M&A以前のことについて、買主が売主や旧オーナーの善管注意義務違反の損害賠償責任を追及することはおかしいのではないかと思えますが、会社法の制度上、そのようなことはなく、対象会社は、M&Aより前のことについても、役員に対する善管注意義務違反の損害賠償責任を追及できてしまうのです。

売主や旧オーナーとしては、中小企業・零細企業のオーナーだったのであるから、対象会社において、公私混同や不正行為などはあり、また、そうでなくとも、不注意で会社に対して損失を与えてしまったことや、甘い見込みで経営を行い会社に対して損失を与えてしまったことはあることが通常なのです。しかし、従前、対象会社は旧オーナーが所有権を有していたのだから、そこまで問題視すべき事項ではなかったのです。

ただ、M&Aの後、買主は、売主や旧オーナーに対して、この役員に対する善管注意義務違反の損害賠償責任を追及することができ、その損害賠償請求権と、株式譲渡代金・退職慰労金・顧問料・業務委託料等との相殺も主張できてしまうのです。

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M&A仲介トラブル

M&Aの失敗により多額の損失が発生したM&Aの買主の経営者やオーナーは、売主や旧オーナーか、M&A仲介業者か、いずれの方が、損失補填させ易いかを考え、損失補填を要求します。

M&A仲介業者としては、M&Aの買主の経営者やオーナーから損失補填を要求される理由の多くは、アドバイザーとしてのアドバイスが不適切だった、仲介業者として適切な情報を提供しなかった、というM&A仲介業者の業務委託契約の善管注意義務違反を根拠とする場合が多くなっています。M&Aが失敗したのですから、M&A仲介業者に何らかの義務違反があったというのは明らかでしょうから、M&A仲介業者に業務委託契約の善管注意義務違反に基づく損害賠償請求をする理由はたいてい存在します。

M&A仲介業者は、いずれも、利益第一主義の営業マン主体のM&A仲介業者や、M&Aの経験や能力不足の素人のM&A仲介業者であり、いずれも、このような姿勢を突かれると痛いところなのです。M&A仲介手数料はいずれもかなりの巨額であり、M&A仲介業者がその価格に応じた働きをしていないことは明らかでもあります。

M&Aの当事者がM&A仲介業者のM&A仲介手数料の支払いを拒むトラブルやM&A仲介手数料は後を絶たないが、それは、利益第一主義のM&A仲介業者や素人のM&A仲介業者が急増している今日においては、クライアントであるM&Aの買主のM&A仲介業者のサービスに対する満足度も低下しているであろうから、ある程度やむを得ないかと思われまる。

また、M&A仲介業者の主たる業務は、M&Aの売主と買主の間のコミュニケーションです。ですので、対象会社について、買主に対して、開示書類を渡したり、開示情報を提供したり、口頭での説明を行ったり、するのはM&A仲介業者なのです。

M&A仲介業者も巨額のM&A仲介手数料が欲しいわけですので、対象会社について、M&Aが成約するよう、M&Aがより高額で成約するよう、虚偽の説明をした誤った説明とまではいかなくても、何らか、盛った口頭での説明を行ってしまうことは普通にあります。

買主としては、対象会社の社内を徹底調査しさえすれば、M&A仲介業者の口頭での説明と違っている点を発見することは容易であり、M&Aの後、買主は、M&A仲介業者に対して、この業務委託契約の善管注意義務違反の損害賠償責任を追及することができてしまうのです。

だからこそ、M&A仲介業者は、M&Aが成約すると、買主に対して、直ちにM&A仲介手数料を請求し、M&Aの買主にM&A仲介手数料を支払わせるのです。そうなると、M&Aの買主も、M&A仲介業者に対して、損害賠償請求権との相殺を主張し、支払いを拒むということができません。

これに対して、M&Aの売主や旧オーナーの株式譲渡代金・退職慰労金・顧問料・業務委託料等は、分割払いや後払いになっているケースが多く、M&Aの買主としては、M&Aの売主や旧オーナーに対して、損害賠償請求権との相殺を主張し、支払いを拒むことが非常に容易なのです。

ですのでたいていのM&Aの買主は、責任追及の対象として、M&A仲介業者ではなく、M&Aの売主や旧オーナーを選択します。戦国時代の「城攻め」と同じで、自分の手元にある資金の支払いを拒むことは容易ですが、相手方のところにある資金を取り上げることは必ずしも容易ではないのです。

まとめ

前述のとおり、近時、M&Aがブーム化し、M&Aに経験が薄くかつM&Aに素人の買主やM&A仲介業者や関係者が非常に多く発生してきた時期であり、買主の「高値掴み」の傾向が著しくなっており、M&Aトラブルは、今後ますます増加し、消費税引き上げやオリンピック特需の終焉によりアベノミクスが踊り場に達し、国内景気に陰りが見られたりすると、一気に急増するものと思われ、M&Aに関与される税理士先生に置かれましては、より慎重な、M&A対応に留意頂くことが好ましい局面に至っているものと思われます。

他方、皆様税理士先生のお客様で、M&Aの結果にご不満なお客様がおられた場合、M&Aトラブルに巻き込まれてしまったお客様がおられた場合など、是非、弁護士法人M&A総合法律事務所にご相談いただけましたら幸いです。

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