M&A買主がM&A譲渡代金の一部を払ってくれない場合!M&A譲渡代金残金請求方法!

M&A買主がM&A譲渡代金の一部を支払ってくれないことは非常に多い

M&Aトラブルにはいろいろなものがあります。

特に多いM&Aトラブルに、M&A買主がM&A譲渡代金の一部を支払ってくれない」というものがあります。

M&A譲渡代金の一部が不払いとはどういう状態なのか??

M&Aの取引において、M&A譲渡代金が、全額一括払いであった場合、すなわち、M&Aの際に全額を一括で払ってしまうのですから、M&A譲渡代金の一部の不払いが発生するなどということはありません。

M&A譲渡代金を分割払いにして、M&Aの後に、例えば、1ヶ月後とか、半年後とか、1年後などに、M&A譲渡代金の残額を支払うという契約になっている場合、そのM&A譲渡代金の残額について、頻繁に、不払いが生ずるのです。

なぜ、M&A譲渡代金を分割払いにするかといえば、買主に資金力が不足し、M&A譲渡代金を一括で支払えないので、分割払いにするケースです。

また、M&Aにおいて、M&A買主が、M&A代金を、節税の観点から、①株式譲渡代金と②退職慰労金とに分けて支払う契約になっている場合、買主から売主の社長に対してしばらく会社に残ってほしいという話があり、②退職慰労金の支払いは、最終的に会社を退職してから払いたい、という話があることがあり、これも実質的には、M&A譲渡代金の分割払いであり、この②の退職慰労金に不払いが発生することが非常に多いのです。

M&A買主は、何故、M&A譲渡代金の一部を支払ってくれないのか??

M&Aにおいて、M&Aでなくても、M&A譲渡代金の一部を払わなかったら、トラブルになるに決まっているのに、何故、M&A買主は、M&A譲渡代金の一部を支払わないのでしょうか。

よくあるケースは、M&A実行後、買主が対象会社を経営し始めてみたら、対象会社において、想定外の事実が存在しており、例えば、収益力が低いことや業績が悪化していることが判明したり、未払残業代や訴訟紛争その他の潜在債務が存在することが判明したりして、M&A買主が、M&A譲渡代金が高すぎた、売主に騙された、と考えたケースです。

例えば、M&A契約書で「表明保証」された事項に誤りがある場合、売主は買主に対して補償責任・損害賠償責任を負うこととなり、M&A買主は売主に対して、補償責任・損害賠償請求を請求できますので、この補償責任・損害賠償請求と、M&A譲渡代金や退職慰労金とを相殺し、結果として、M&A譲渡代金の一部の不払いが正当化されることとなります。

M&A買主がM&A譲渡代金の一部を不払いする場合、特段の根拠はないことが多い!!

しかし、特に注意すべきなのは、売主に、特段、表明保障違反などなく、売主が買主に対して補償責任・損害賠償責任を負うなどということはないにもかかわらず、買主が、特段の根拠なく、M&A譲渡代金の一部を不払いすることの方が多いという事実に注意しなければいけません。

すなわち、M&Aの構造上、1社の売主に対して、複数社の買主が競争して、M&Aにより、対象会社を買収するわけですので、M&A買主はM&AにおいてM&A譲渡代金を高くしがちであり、割高な価格で、M&Aをしてしまう傾向があるのです。そうでなくても、M&A譲渡価格は、少額であっても億単位にはなり、M&A買主にとって大きな負担であり、1円でも減額することができればそれに越したことがないのです。

ですので、M&A実行後は、もう複数社の競争などということはありませんので、M&A譲渡価格が割高であったことにハッと気づき、事後的に、何とかして、M&A譲渡価格の減額をしようとするのです。

その場合に多く使用されるのは、表明保証条項違反です。

ほんとうに表明保証条項違反があるのであれば、売主は買主に対して補償責任・損害賠償責任を負うのですから、M&A譲渡代金の一部を不払いにされてもやむをえません。

しかし、実際には、表明保証条項違反とまでは言えないケースが大半なのです。

表明保証条項違反を証明するためには、相当な証拠が必要です

そもそも、対象会社の経営が悪化しているとしても、それが売主の責任なのか、M&A買主が対象会社の経営を引き継いだのにうまく経営できなかったのが原因ではないのか、あるいは単に景気が悪化しているのか、何が原因なのかは全く分かりません。

対象会社に未払残業代や訴訟紛争があったとしても、それだけ重大な事実であれば、M&A買主は、M&Aの前にデューデリジェンスを行って調査していなければいけないことですし、デューデリジェンスをして調査していたのであれば当然に知っていたはずの事実なのです。もし知らなかったのであれば、それは、M&A買主が雇った会計士や弁護士の能力が低かったということで、やはりM&A買主の責任なのです。

すなわち、M&A買主としては、特段の証拠もなく、特段の表明保証条項違反があるとも言い切れない状態下において、M&A買主としては、M&A譲渡代金が割高と感じており何とか減額させたい、ちょうどそこに、対象会社の経営が悪化しているとか、対象会社に未払残業代や訴訟紛争があるなどということで、それにかこつけて、M&A譲渡代金をなし崩し的に減額してしまおうという誘惑が現れるのです。

M&A買主がM&A譲渡代金の一部を不払いする場合、特段の根拠はないことが多いのです。

M&A買主からのM&A譲渡代金の減額要求から逃れるための方策は?

では、売主は、このM&A買主からのM&A譲渡代金の減額の要求から逃れることはできないのでしょうか。

まず、そもそも、M&A譲渡代金が分割払いとされたら、M&Aの時から常に注しなければいけません。

買主が、M&A実行後、対象会社の経営に関与するようになれば、対象会社の中の事実関係について、何を根拠に、どのような事実を指摘して、M&A譲渡代金の減額を言ってくるか予想がつきません。

M&A買主からそのような難癖をつけられる可能性をゼロにしておく必要があるのです。

すくなくとも、そのような証拠を対象会社に残してはいけません。

表明保証条項違反を主張されないように、M&A前において、対象会社について、特に不都合な事実は、隠し事はせず、M&A買主に対してしっかり伝える必要があります。正確に言うとしっかり伝えるところまでは必要はなく、事実関係が分かるように伝えておく必要はあります。そして、M&A買主がそのようなことは聞いていないと「言った!言わない!」の争いにならないように、しっかり、書面化しておくか録音しておく必要があります。

録音は無断録音で全く問題ありません。録音でありさえすれば完全な証拠能力があります。

違法収集証拠という議論は、刑事事件において、警察や検察がやってはいけないことであり、民間がやることは全く問題ありません。

また、M&A買主とのやりとりは、口頭や電話で済ますことなく、メールやLINEでやり取りし、後日、M&A買主に対して、証拠を突き付けることができるようにしておく必要があります。

ほとんど責任はないような事案なのに、M&A買主が巧妙で、口頭や電話でのみのコミュニケーションだったため、文字として証拠が一切存在せず、なかなか勝てないことがあります。

また、M&A実行後、M&A買主に対して、随時、M&A譲渡代金の残額はしっかり払ってもらえるかということを確認する必要があります。

M&A譲渡代金に含まれていたのかいなかったのかの議論も重要!!

また、M&A譲渡代金がどのような経緯でどのような根拠で決定されたのかも重要です。

すなわち、M&A譲渡代金が、M&A買主が、対象会社に未払残業代や訴訟紛争が存在することを認識し、その前提で株式価値評価を行い、その結果決定されたのであれば、M&A買主としては、売主に対して、M&A譲渡代金を減額する根拠を持ち合わせていないということとなります。

また、M&A契約書において容認されている又は禁止されていないことが原因で、対象会社に損害が発生しているということなら、ケースバイケースですが、M&A譲渡代金はそれを前提としているとも考えられ、M&A買主としては、売主に対して、M&A譲渡代金を減額する根拠を持ち合わせていないということとなりそうです。

また、M&A契約書などに何も書かれていなくても、前述のメールやLINEその他書面やメモなどに、そのようなことが容認されている又は禁止されていないというような場合においては、やはり、M&A買主としては、売主に対して、M&A譲渡代金を減額する根拠を持ち合わせていないということとなることが多いでしょう。

M&A買主が理由を示さずM&A譲渡代金を払わない場合が特に問題!!

しかし、M&A買主が理由を示さずM&A譲渡代金を払わない場合が特に多く、このような場合が特に問題です。

なし崩し的に、M&A譲渡代金の減額を押し付けようとしているのです。

しかし、このような場合こそ、M&A買主に対しては、書面での回答を求めたり、訴訟提起して適切な理由の説明を求め、M&A譲渡代金を不払いする根拠がないことを主張する必要があります。

売主に多少やましいところがある場合はどうすればよいか?!

では、売主に多少やましいところがある場合はどうすればよいでしょうか。

すなわち、売主が、M&A買主に対して、事実を少し隠して買収させてしまったとか、経営が悪化していることを説明しなかったとか、未払残業代や訴訟紛争についてしっかり説明はしていなかった場合などです。

しかし、売主としては、M&A買主から聞かれなかったことについて回答する義務はなく、反対に、M&A買主としては、M&Aという重要取引を行うのですからしっかりデューデリジェンスを実施して、事実関係を確認し質問する義務もあり、売主に責任がある場合は多くないのです。

M&A買主が、対象会社に問題はないと勝手に思い込み、勝手にM&Aを進めて、勝手にM&A譲渡代金を提示してきたケースがほとんどではないでしょうか。そして、M&A買主が、特に要望していなかったことを、勝手に、事後的に、当然の前提化のように要望し始めたことがほとんどではないでしょうか。

それでもM&A買主がM&A譲渡代金を不払いする場合は、専門の弁護士に相談!!

しかし、M&A買主としても、必死です。

M&A買主にとっても、M&Aは重大案件であり、M&A譲渡代金が割高で、結局、そのM&Aが失敗だということになれば、当然、そのM&Aの担当者のクビは飛びますし、経営責任を問われかねません。ぜひとも、M&A譲渡代金の減額を勝ち取る必要があるのです。

ですので、M&A買主としては、M&A実行後の売主に対して優位な地位を濫用し、特段の根拠もないのに、M&A譲渡代金の減額を押し通そうとするのです。

しかし、特段の根拠もないのであれば、それに屈してはいけません。

ただ、ここには、表明保証条項違反に該当するか否か、表明保証条項違反に該当しなくても、売主にM&A取引において当然守るべき義務の違反があるのか、売主が重要な事実を隠したのか、売主がその損害の原因なのか、M&A譲渡代金がどのような経緯でどのような根拠で決定されたのか、などなど、考慮すべき事由が非常に多く存在します。

やはり、ここは、M&Aトラブルの専門の弁護士に相談し、解決策を検討してもらうことが重要かと思われます。

弁護士法人M&A総合法律事務所では、M&Aに関するM&A譲渡代金その他の訴訟紛争に関するご相談を非常に多く承っています。