M&Aトラブルの類型及び現状!
近時、中小企業のM&Aにおいて、M&Aトラブルが増加しており、M&A総合法律事務所に対して、M&Aトラブルに関するお問い合わせも増加しています。
これは、近時における事業承継M&Aの増加や、多くのプレイヤーがM&Aビジネスに参入していることや、M&Aマーケットの拡大に伴い、素人の買主がM&Aに参入していること、その結果として、M&Aの失敗が増加していることなどが理由であると思われます。
M&Aは、財務・会計・税務・法務の総合格闘技と言われるほど、さまざまな専門的知識と広範な知識、かつ多様な経験が必要となりますが、その結果、M&Aの失敗やM&Aトラブルの増加は必然であり、このようにM&Aの増加が続くのであれば、今後も、M&Aの失敗やM&Aトラブルは増加し続けるものと思われます。
当事務所がM&A業務を開始した10年以上前の時期は、M&Aトラブルに関する裁判例というものはほとんど存在しなかったのですが、近時は、M&Aトラブルに関する裁判例が、法律雑誌を賑わしています。
近時では、弁護士人口も増加し、就職できなかった弁護士が、消費者金融の過払い金でヒトヤマ当てたところであり、現在においては、そのような弁護士が、未払い残業代バブルに気を取られていますが、そのような弁護士の中には、M&Aトラブルのバブル化を期待しているものも少なからず存在し、弁護士法人M&A総合法律事務所にも、弁護士業界関係者からも、M&Aトラブルに関するセミナーの開催や執筆の依頼が多く寄せられているところです。
また、M&Aトラブルは、M&Aの当事者だけの問題ではなく、M&AアドバイザーやM&A仲介会社がM&Aトラブルに巻き込まれ、裁判に巻き込まれることも多くなっています。
この記事では、弁護士法人M&A総合法律事務所において、実際に相談を受けたり実際に経験・対応したM&Aトラブルについて、まとめ、M&A当事者やM&Aアドバイザーが、これらのM&Aトラブルに巻き込まれないためにはどうしたらよいか、このようなM&Aトラブルに巻き込まれた場合どうすればよいか、について検討し、これによって、M&A当事者やM&Aアドバイザーが、今後、幅広く、事業承継M&Aに取り組むことができれば、それは弁護士法人M&A総合法律事務所としても非常に幸いです。
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M&Aにおける名義株主トラブル
まずは、名義株主トラブルです。平成2年商法改正以前は、株式会社設立のため7名の株主が必要であったこともあり、また、取引先や金融機関などとの関係、又は法令など(金融商品取引法や開示規制や結核事由に該当する株主や外国人持株規制など)の関係で、名前を表に出せない又は出したくない株主がいる場合、いわゆる名義株主の問題(実質株主が他人の名義を借りて株式会社の株主になること。
判例上、出資金の拠出者である実質株主が株主権を有するものとされ、名義株主は実質株主の意向に反して株主権を行使してはならないものとされている)も、この中小企業に多くなっています。
すなわち、従前、多数の株主が存在していた場合であっても、オーナー経営者が、会社管理の煩雑さから、勝手に株主名簿を書き換え、株主の名義を自分に集約させてしまったようなケースも多くあるのです。
そのような場合、M&Aを契機に、実質株主や真実の株主が表に出てくることとなります。すなわち、名義株主に、株式譲渡代金という大金が入ってきたのであり、実質株主や真実の株主としては、自分の株式に相当する株式譲渡代金は、入手したいと思って当然と思われます。
M&Aが行われたことを知った実質株主や真実の株主が、売主に対して、訴訟提起し、損害賠償請求をした事例や、対象会社に対して、株主の地位の確認を求めた事例もまま存在します。
そのような事例において、多くのケースでは、名義株主覚書(名義株主に実質株主の指示に基づき株主権を行使することや名義書換請求を行うことを義務付ける覚書)が締結されていることはそれほど多くはないものの、その株主が、真実、出資金を拠出した実質株主である否か、真実の株主であるのか否かが問題となることが多く、実質株主や真実の株主がそれを証明できた場合、名義株主や対象会社は、その株主を株主と認め、損害賠償をすることが必要になります。
なお、この株主権については、時効にかかることはないため、何らかの対応をしない限り、永久に問題が解消することはなく、実質株主や真実の株主としては、いつまでたっても、名義株主や対象会社に対して、損害賠償請求を行うことができるのです。
他方、少数株主としては、知らない間に自分の株を売却されてしまったという実質株主や真実の株主であることも多く、そのような場合は、ご自身が出資金を拠出した証拠(例えば預金通帳など)はないか、銀行から取り寄せることはできないか、証拠集めをして、泣き寝入りする前に、会社に対して株式を高値で売却することを志向することとなります。
M&Aにおける敵対的少数株主トラブル
次に、敵対的少数株主トラブルです。平成2年商法改正以前は、株式会社設立のため7名の株主が必要であったこともあり、また、事業承継M&Aの対象となる会社は、戦後間も無く創業されていることも多く、少なくとも昭和に創業されており、すでに、一代や二代、相続が発生していることも多くなっています。
当初は、創業者1名で創業したにも拘らず、創業者が亡くなり、ご子息3-4人兄弟が事業承継し、現在においては、そのご子息である孫の代が経営していることも多いのです。
その場合、対象会社は3-4つのファミリーが経営権を争う、株主が2-30人いる株主関係が非常に複雑な会社となっていることも多く存在します。創業者は経営能力が高かったかもしれないのですが、ご子息もそのご子息も、経営能力が高い人ばかり排出するなどということはなく、また、「両雄並び立たず」であるから、長男がそれ以外の兄弟を追い出すなど、ファミリー間で反目していることは多く存在します。
しかし、このような場合、いざ、M&Aを行おうとすると、困難が立ちはだかるのです。
M&Aの買主としては、対象会社の経営に対する支配権を確立したいため、株式の100%の買収を希望することが多くなっています。
したがって、M&Aにおいて、敵対的少数株主が存在するような対象会社を買収したいとする買主候補は、なかなか出現しない。
そこで、売主としては、事業承継M&Aの買主候補会社が出現するようにするため、敵対的少数株主から株式を買い集めることが必要となるのです。
少数株主が親しい親族や関係者であれば、オーナー経営者が話しさえすればその保有する株式を売却してくれることもあると思われます。
しかし、少数株主からの株式の買い取りは、相対交渉となるため、必ずしも、スムーズには進まず、また、少数株主に、事業承継M&Aの話が存在することを察知された場合、少数株主から、足元を見られて高い金額を吹っ掛けられることもあるのです。
また、オーナー経営者としては、そのような敵対的少数株主については、スクイーズアウト(少数株主排除)の方法で、株式を強制買取する方法もあるのですが、この場合、いずれも、反対株主には、株式買取請求権が与えられるため、株式買取価格決定申立を提起され、裁判に巻き込まれる可能性が高いのです。
他方、社長から、株式の買い取りの申し出が来ている会社であれば、その会社は、M&Aの準備をしている可能性が高く、長年塩漬けにされていた株式が、適正価格以上で売却できる可能性があることから、少数株主としては、その時は、タイミングを逃さずに高値での株式売却を志向することとなります。
M&Aにおける従業員問題
M&Aを行った場合、対象会社のオーナーが変更になるのであり、従業員としては、旧オーナーがいなくなることで、対象会社に対する忠誠心や業務に対するモラールが低下することが多く、M&A後に、退職する従業員も増加し、対象会社の事業の運営がスムーズに進まなくなることも多くなっています、また、M&A後に、重要な従業員が、必ずしも、買主の言うことを聞かず、M&A後、対象会社の業績が悪化することも多くなっています。
また、労働法制は非常に広範かつ複雑であり、かつ裁判例も多々存在することから、中小企業においては、従業員の管理を完璧に行うことができていないことが一般的であり、どの会社にも未払残業代は存在する状況となっています。そのような会社において、M&A後、従業員が、対象会社を退職し、対象会社に対して、未払残業代を請求してくることが非常に多くなっています。
M&AにおけるCOC条項トラブル(チェンジ・オブ・コントロール条項トラブル)
対象会社の取引契約や賃貸借契約には、いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)が規定されており、対象会社の株主や代表取締役が変更になるなどの対象会社の支配権が移動となる場合、取引先や賃貸人の事前承諾や事後届出が必要とされることが多く、特に、事前承諾を得ずにM&Aを実行し、対象会社の株主や代表取締役が変更になった場合、それがその取引契約や賃貸借契約の解除原因となることが多くなっています。
取引契約や賃貸借契約が実際に解除されてしまったら、対象事業の事業価値を著しく毀損する可能性があり、また、実際に解除されなかったとしても、いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)に基づく解除権を背景に、取引先や賃貸人から多額の契約更新料を要求されたり、多額の保証金の差し入れを求められたり、これを契機に、取引条件や賃料の変更(取引条件の悪化や賃料の増額)を要求されることもああります。
M&Aにおける表明保証条項違反トラブル
M&Aトラブルの中では、この表明保証に関連するM&Aトラブルが最も多いというのが印象です。
表明保証とは、株式譲渡契約書などのM&A契約書に規定される主要な条項であり、M&Aの当事者が相手方に対して、一定の事項が真実であり正確であることを表明し、表明したことを保証する条項です。
M&Aに際しては、買主は、対象会社に対して、デューデリジェンス(DD)を行うものの、デューデリジェンス(DD)による対象会社の事実関係の調査・把握には限界があり、必ずしも全てのリスクが明らかになることはなく、特に、事業承継M&Aの対象会社である中小企業・零細企業では、十分な管理がなされていないことも多く、十分なデューデリジェンス(DD)が困難であり、買主としては、売主に、表明保証をさせることにより、想定しないリスクが存在しないことを確約されることとなります。
そして、売主としては、表明保証に明示された事項については、それが虚偽であった場合は、契約書上、売主の損害賠償責任・補償責任が発生することになり、結果として、買主が、想定しないリスクを回避することができるのです。
そうであるからこそ、表明保証条項違反が存在した場合、買主としては、満を持して、表明保証条項違反による補償請求・損害賠償請求を行うのであり、M&Aトラブルが発生するのです。
例えば、対象会社の従業員に未払残業代が存在しないとの表明保証は存在していないでしょうか。労働法制は非常に広範にわたり、かつ裁判例も多々存在することから、中小企業においては、従業員の管理を完璧に行うことができていないことが一般的であり、どの会社にも未払残業代は存在するとおもわれます。
また、M&Aが完了した場合、対象会社のオーナーが変更になるのであり、従業員としては、旧オーナーがいなくなることで、対象会社に対する忠誠心や業務に対するモラールが低下することが多く、退職する従業員も増加し、それを契機に、対象会社に対して未払残業代の請求が行われることが多くなっています。
対象会社に未払残業代の請求がなされ、対象会社がその従業員に対して未払残業代を支払うと、その次は、買主としては、対象会社に、旧オーナーに対して、満を持して、表明保証条項違反による補償請求・損害賠償請求を行うこととなります。M&Aトラブルの連鎖です。
これが未払残業代ならまだよいのですが、従業員が退職し、重要取引先を持って逃げたとか、販売したソフトウェアにバグがあることが判明したとか、重要店舗の賃貸人から賃貸借契約を解除されてしまったとか、更新料を請求されたとか、賃料を値上げされてしまったとか、金融機関から政策融資の返済を求められたとか、対象会社の保有する在庫の多くが陳腐化した不良在庫であったとか、想定外の多額の前受金が存在したとか、対象会社の重要な工場設備が故障しており、その補修には多額の費用が掛かるとか、対象会社の決算書には過去既に回収してしまった多額の売掛金が引き続き計上されたままだったとか、対象会社の決算書に多額の仕入額が計上されていないとか、対象会社の企業価値に重大な悪影響を及ぼす表明保証条項違反があった場合は、M&Aトラブルも大きくなってしまいます。
買主としては、このような表明保証条項違反が発見された場合、そのままでは多額の損失を被ってしまい、そのM&Aが失敗に終わってしまうのであるから、否応なく、売主に対して、表明保証条項違反に基づく補償請求・損害賠償請求を行うこととなります。
実際のケースでは、買主が、旧オーナーを呼び出し、半ば監禁し、詰問し、損害を賠償するまで帰さないなどし、恐怖を覚えた旧オーナーは、株式譲渡代金を一部でも返還せざるを得ないのです。旧オーナーが、顧問として、引き続き、対象会社に出勤していた場合は、気まずくなり出勤できなくなります。ただ、旧オーナーにも、それなりの負い目があるのか、実際に、株式譲渡代金の一部を返還してしまうこともあります。
ただ、実際の問題の所在は、買主が、デューデリジェンスを怠ったことに問題があり、半面、旧オーナーは、何も聞かれなかったので特段言わなかっただけであり、言おうとしても言う機会を逃した程度であることも多く、買主の帰責性が大きい場合も多いと思われます。また、買主が被った多額の損失の多くは、買主が、M&A実行後に、対象会社の従業員や取引先を適切に手当てしなかったのが原因であることも少なくないのです。
また、平成18年1月17日の東京地方裁判所判決平成16年(ワ)第8241号(アルコ事件)では、表明保証条項違反につき、売主がデューデリジェンスに資料を開示していたことに関連して、買主が悪意又は重過失がある場合、表明保証条項違反に基づく補償請求・損害賠償請求が認められない可能性があることを判示しつつ、売主が表明保証条項違反の事実を故意に秘匿したとして、売主の表明保証条項違反の責任を認めています。
すなわち、売主が表明保証をしたとしても、買主が表明保証条項違反の事実を認識していたり、認識可能性があったのに重大な過失により認識していなかった場合には、買主は、売主に対して、表明保証条項違反の補償請求・損害賠償請求を行うことができないのです。
また、売主は、デューデリジェンスに資料を開示していたとしても、表明保証条項違反の事実を故意に秘匿した場合は、表明保証条項違反の責任を免れないのです。
ですので、会社から補償請求・損害賠償請求を行われそうになっている旧オーナーがいる場合、負い目を感じずに、冷静に状況を分析していたく必要があるかと思われます。
裁判が提起されたり、半ば監禁されたりしそうになっても、安易に妥協するのではなく、冷静に状況を分析して対応する必要があると思われます。
M&Aにおける株式譲渡代金不払いトラブル・役員退職慰労金不払いトラブル
M&Aにおいて、売主に対する株式譲渡代金を分割払いにする場合や、旧オーナーに対する退職慰労金を後払いにする場合や、当面、顧問料を支払う場合や、売主から担保提供をして頂くとか、株式譲渡代金を一定期間エスクロー口座に預かってもらうなどの対応がなされることもある。
ところで、M&Aはたいてい失敗すると言われる。M&Aの買主は、M&Aの完了後、遅かれ早かれ、そのM&Aが失敗だったと気づくこととなる。そのような場合、そのM&Aの失敗の原因は、自分の見通しの甘さや検討の不足などにあったとして反省するのではなく、その対象会社の旧オーナーである売主に責任があるとして責任転嫁しがちである。M&Aでは買主も中小企業であることも多く、中小企業のワンマン経営者が、M&Aの失敗を自分のミスであると自認することは少ない。
そのような場合、買主としては、売主である旧オーナーに対して、何らかの方法で、損失を補償させようとするが、その時に多用されるのが、前述の表明保証条項違反に基づく補償請求・損害賠償請求である。買主としては、対象会社の社内を徹底調査し、売主の表明保証条項違反を探すのである。
買主としては、その結果発見された事項をもって、兎に角、売主の表明保証条項違反を主張し、損失の補償を迫ることがまま行われる。
この点、売主に対する株式譲渡代金を分割払いになっている場合や、旧オーナーに対する退職慰労金が後払いになっている場合や、顧問料をまだ支払っていない場合や、売主から担保提供をして頂いている場合、株式譲渡代金を一定期間エスロー口座に預かってもらっている場合などは、この表明保証条項違反に基づく補償請求・損害賠償請求は容易である。売主に対するそれらの支払いを停止すればよいだけであるからである。
買主としては、納得がゆく結果が得られるまで、売主に対するそれらの支払いを停止すれば、売主としては、老後資金などの資金需要に対応するため、妥協せざるを得ない。
他方、皆様税理士先生のお客様で、M&Aにおいて、株式譲渡代金などを、なかなか支払ってもらえないお客様がおられた場合、買主のそのような行為の不当性に屈することなく、泣き寝入りする前に、是非、弁護士法人M&A総合法律事務所にご相談いただきたい。
M&Aにおける役員の責任追及トラブル
前述のとおり、M&Aはたいてい失敗すると言われます。M&Aの買主は、M&Aの完了後、遅かれ早かれ、そのM&Aが失敗だったと気づくこととなると思われます。
M&Aの買主の社長は、実際にM&Aに失敗した場合、そのM&Aの失敗の原因は、自分の見通しの甘さや検討の不足などにあったとして反省するのではなく、その対象会社の旧オーナーである売主に責任があるとして責任転嫁する傾向があります。
M&Aでは買主も中小企業であることも多く、中小企業のワンマン経営者が、M&Aの失敗を自分のミスであると自認することは少ないのです。
そのような場合、買主としては、売主である旧オーナーに対して、何らかの方法で、損失を補償させようとすることとなりますが、中小企業のM&Aにおいて、株式譲渡契約書は必ずしもしっかり作成されておらず、表明保証条項違反や遵守条項違反などの責任追及は困難であることも多くなっています。
そのような場合、買主は、対象会社の社内を徹底調査し、旧オーナーの不正行為を探し出し、役員の善管注意義務違反などの責任追及を行い、対象会社からその旧オーナーに対して損害賠償請求を行うことがしばしば行われるようです。
過去、対象会社においては、旧オーナーとしても対象会社のオーナーなのであるから、会社との間で私的流用などはあり、また、不注意で会社に対して損失を与えてしまったことや、甘い見込みで経営を行い会社に対して損失を与えてしまったことは数多くあるものと思われます。しかし、従前、対象会社は旧オーナーが所有権を有していたのだから、そこまで問題視すべき事項ではなかったのです。
また、買主としても、M&Aの時点の対象会社の企業価値を調査して、株式譲渡価格を決定して、M&Aを実行したのですから、過去、旧オーナーが不正行為をしたとしても、私的流用をしていたとしても、会社に損失を与えてしまっていたとしても、現在価値で買収しているのですから、全く損失はないはずなのですが、買主の社長は、それでも敢えて、旧オーナーに対して、損害賠償請求を行うのです。
旧オーナーとしては、確かに、会社に損害を与えたことはあるわけであり、法制度上も、旧オーナーに対して損害賠償請求できるとされているのだからとは思うも、やはり、全く釈然としない気持ちとなります。
旧オーナーもその他の関係者も、M&Aに際しては、全員、そのことについては、容認していたというのが、真実だと思われますが、それでも、買主の社長は、旧オーナーに対して、損害賠償請求する正当な理由があるのかと思うこともままあります。
ですので、会社を売却したオーナー社長で、M&Aの後、売却した対象会社から役員の責任を追及されている旧オーナー、又はそれを理由に、不当に役員や顧問を解任されてしまった旧オーナーの皆様は、買主の社長が自分の責任を旧オーナーに転嫁しようとしていることを理解して、泣き寝入りすることなく、冷静に状況を分析して対応して頂くことが良いと思います。
M&AにおけるM&A後の競業トラブル
M&Aが無事完了したとしても、M&Aにより、旧オーナー経営者が退任し、買主が新オーナー経営者として、対象会社を経営することとなるのですが、その対象会社は、もともと、旧オーナー経営者が創業し、ノウハウを構築し、顧客との関係性を構築してきたのであり、その対象会社の経営のことを最もよく知っているのは、旧オーナー経営者です。
ですので、その旧オーナー経営者が、対象会社と同じ事業を行う会社を立ち上げ、同じ事業を開始することがあります。また、旧オーナー経営者自身ではなくても、旧オーナー経営者が関与しつつ、対象会社の元従業員などが、対象会社の取引先や下請先など協働し、対象会社と同じような事業を開始することがあります。
事業承継M&Aの対象会社は中小企業・零細企業であり、その事業運営に関する主たるノウハウやネットワークは、オーナー経営者である売主個人に帰属していることが多くなっています。
また、買主は、事業承継M&Aに伴い、クロージングに際して、旧オーナー経営者から、事業運営に関するノウハウやネットワークの引き継ぎを受けるものであるものの、仮に、旧オーナー経営者が、事業承継M&Aのクロージング後、対象会社の事業と同じ事業を立ち上げた場合、対象会社の強力な競争相手となるのみならず、重要なノウハウやネットワークなどは旧オーナー経営者に帰属していることから、旧オーナー経営者が退任したたそちらのほうに行ってしまうことも多いとおもわれます。
また、旧オーナー経営者が対象会社の事業と同じ事業を立ち上げた場合や、立ち上げることを考えていた場合、買主は、旧オーナー経営者から、対象会社の事業運営について、十分な引き継ぎを受けることは期待できず、対象会社の企業価値は大きく毀損し、買主の想定する株式譲渡価格の前提が崩れることとなります。
そこで、事業承継M&Aにおける株式譲渡契約書においては、旧オーナー経営者の競業避止義務を規定することが一般的となっています。
しかし、旧オーナー経営者の競業避止義務違反であるとして、旧オーナー経営者の責任を問えるかというと、必ずしも容易ではないのが実情です。すなわち、このような旧オーナー経営者の競業行為は、いろいろな形態で行われる可能性があるため、本来、競業避止義務としては、あらゆる場合を想定した規定を記載しておかなければいけなかったのです。
典型的には、競業行為をする者が、自ら又は会社を設立して、対象会社の事業と同じ事業を行うものの、そのような明らかな競業行為をする者は多くはいません。まず、競業行為をする者が、自ら前面に出て競業行為をするのではなく、他の者に競業行為をさせ、裏から操ったり、ライバル企業を支援したり、対象会社の事業と全く同じ事業は行わないものの、非常に類似した事業を行うなど、さまざまな形で競業行為が行われます。やはり、旧オーナー経営者が競業行為を行う場合は、外部に協力者がいる場合が多く、それは、対象会社のライバル企業や、取引先や、下請け先などであることも多いのです。
そのような会社が、対象会社の収益性の高さに嫉妬し、事業承継M&Aが行われた機会に、対象会社のノウハウやネットがワークを流用し、対象会社の損失を厭わず、対象会社の事業と同じ事業を開始するのです。そのような場合、オーナー経営者としては、対象会社の事業の重要なノウハウや顧客情報などを持ち出し、また対象会社における重要な技術情報などを抹消し、対象会社の企業価値を積極的に毀損するとともに、ライバル企業に利益を供与するのです。オーナー経営者が、対象会社を退職後、ライセンサーに転職し、ライセンス契約を解除して、対象会社の事業と同じ事業を開始することなどもあります。
そのような場合、旧オーナー経営者の競業避止義務違反であることを立証することが容易ではなく、なかなか法的手段を講じることができません。
他方、会社を売却したオーナー経営者で、M&Aの後、競業行為をしていると思しきケースにつきましては、いまのところ証拠がなくても真実はいずれ明らかになる!ということに相違ありませんので、粘り強く、かつ、泣き寝入りすることなく、旧オーナー経営者の競業避止義務違反に対応してゆく必要があります。
M&AにおけるM&A後の顧客の離反問題
M&Aが完了し、取引先との取引契約を承継したからと言って、取引先との取引が、従前と同様の水準で継続できるとは限りません。
取引先は、常に有利な取引相手を探しており、有利な取引相手を発見したらすぐに取引先を変更するし、旧オーナー経営者と関係の深い取引先であればあるほど、M&Aによりオーナー経営者が変更になった後まで、取引が継続されるかは分かりません。
旧オーナー経営者が、M&A後、自分で同じ事業を始めてしまい、対象会社の取引先が旧オーナーに取引先を変更し、対象会社との取引を取り止めてしまう可能性もあります。旧オーナー経営者でなくとも、対象会社の役員や従業員、その取引先の担当者などが、対象会社を退職し、同じ事業を始めて取引先を取って行ってしまうこともあるし、対象会社の役員や従業員などが取引先を同業他社に紹介してしまい、手数料を貰っていることもあります。
また、買主が、M&A後に、速やかに、取引先のフォローをしなかったため、将来の取引に懸念を感じた取引先が取引を取り止めてしまうこともあります。
特に重要な取引先が、このような事由で、対象会社と取引を取り止めてしまう場合、対象会社の企業価値を著しく害するものとして、買主としては、大きな損害となってしまいます。
M&Aにおける粉飾決算問題
M&Aに際しては、買主は、対象会社に対して、デューデリジェンス(DD)を行うものの、デューデリジェンス(DD)による対象会社の事実関係の調査・把握には限界があり、必ずしも全てのリスクが明らかになることはありません。
対象会社の決算書についても、デューデリジェンス(DD)だけでは、粉飾決算は明らかにならないこともあります。
また、そもそも、中小企業の決算書に関する会計基準は比較的柔軟であり、大企業であれば粉飾決算と言える場合であっても、中小企業については粉飾決算とまでは言えないケースも多く、ほとんどがそうだと思います。
また、税務署としては、必ずしも、会計基準に従った決算書でなくても、税金が不当に減額になるような決算でなければ、特段指摘することもありませんので、中小企業としても、そのような決算書になっていることも多いのです。
中小企業において、退職給付債務が適切に計上されていないことは普通であるし、減価償却費も必ずしも計上されていないことも多く、また、資産価値の無くなった有価証券やゴルフ会員権もそのまま計上されていることも多くなっています。
不良在庫もそのまま計上されていたり、原材料の仕入れについても、必ずしも適時に計上されていなかったりします。また、不動産についても、バブルのころに購入したのであれば、大幅な含み損を抱えていると思われるし、戦後まもなく購入したのであれば大幅な含み益を抱えていると思われます。
中小企業については、決算書を見ているだけでは、その実態を把握することはできません。M&Aに慣れた公認会計士や税理士を指名して、事前に、対象会社の財務デューデリジェンスを実施するしかありません。
M&AにおけるM&A後の経営不振問題
M&Aの後、対象会社の業績は落ち込むことが多くなっています。
売主としては、M&Aにおいて、対象会社を少しでも高く売却したいため、M&Aの直前の年度においては、駆け込みで、売上を上げ、仕入れを減らし、経費を節減し、設備投資を減らし、従業員の給与を最大限絞るなどし、決算書をきれいにし、最大限、企業価値を高めてからM&Aを実施することが多いのです。
旧オーナー経営者としては、対象会社を売却するに際して、従業員に特別ボーナスを出したり、特別昇給を確約したり、することも多くなっています。また、取引先に頼んで、商品を押し込んだため、M&A直後は、商品が全く売れないとか、設備投資を全くしていなかったため、M&A後において、生産設備が陳腐化し、M&A後早々、多額の修繕を行わなければならないことも多くなっています。
やはり、M&Aに際して、M&Aに慣れた専門家を指名し、事前に、対象会社のデューデリジェンス(DD)を綿密に行うことは必須と思われます。
M&AにおけるM&A仲介料トラブル
M&A仲介業者のM&A仲介料が高いとのことで、M&Aの当事者がM&A仲介業者のM&A仲介料の支払いを拒むトラブルは後を絶ちませんが、それは、素人のM&A仲介業者が急増している今日においては、クライアントであるM&Aの当事者のM&A仲介業者のサービスに対する満足度も低下していることの表れとも思われます。
ただ、ここで述べたいのは、これではなく、M&Aの売主が、対象会社にM&A仲介料を支払わせることによるトラブルです。
M&Aの売主としては、M&A仲介料を支払わなくてよいものなら支払いたくないところです。
そこで、M&Aの売主としては、売却対象となる対象会社において、M&A仲介業者と業務委託契約書を締結し、対象会社がM&A仲介業者にM&A仲介料を支払うこととなっていることがあります。
勿論、対象会社は、M&Aの完了とともに、買主が買収し、買主の完全子会社となります。ここで、買主は買主で、M&A仲介業者に対してM&A仲介料を支払い、対象会社は対象会社で、M&A仲介業者に対してM&A仲介料を支払うという状況が生まれます。
しかし、この対象会社がM&A仲介業者に対して支払うM&A仲介料は、本来は、売主が支払うべきものですし、M&A仲介業者としては、売主と買主を仲介し、M&Aを成立させたのであり、M&Aの株式譲渡代金を受領したのは売主ですので、このM&Aにより利益を得たのは売主と買主であり、対象会社は単に商品であったのであり、売主がM&A仲介料を支払うべきなのであり、対象会社がM&A仲介料を支払ういわれはないはずです。
しかし、売主が、対象会社とM&A仲介業者との間で業務委託契約を締結させたため、対象会社がM&A仲介業者にM&A仲介料を支払うこととなったという事例は非常に多く発生しています。
M&A仲介料は、一般的に、売買価格の5%程度とされることが多く、対象会社の株式譲渡価格が5億円の場合は、M&A仲介料は2500万円であり、M&A仲介業者は、この2500万円を、売主及び買主の双方から貰うこととなります。
もし、売主ではなく、対象会社が、このM&A仲介料を支払ったのなら、買主は、自社でも2500万円のM&A仲介料を支払い、完全子会社の対象会社でも2500万円のM&A仲介料を支払うこととなり、買主が瓦多額の資金が流出することとなります。このような場合、売主と買主の間で、この対象会社の支払ったM&A仲介料2500万円の負担を巡って、トラブルが発生します。
また、それよりも問題を深刻化するのは、対象会社とM&A仲介業者が業務委託契約を締結することにより、売主とM&A仲介業者との間に契約関係が発生しないため、売主からM&A仲介業者のコントロールができなくなるという問題があり、売主がM&A仲介業者に不満があったとしても、M&A仲介業者に対して、損害賠償請求などできなくなってしまうし、M&A後のM&AトラブルにおいてM&A仲介業者の協力を得られなくなってしまいます。