M&Aトラブル事例 財務状況について虚偽の説明を受けた場合

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▶ 株式譲渡契約を解消する場合の要件と効果

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会社を買収した後になって、買収前に受けていた財務状況の説明が虚偽であり、対象会社が実質的に破綻状態にあったことが判明し、愕然としておられる買主の方は少なくありません。

虚偽の説明を理由に責任を追及するには、売主がどこまでの事実を説明する義務を負っていたのかを整理する必要があり、この点を誤ると、本来認められるはずの請求が認められなくなる危険があります。

本記事では、M&Aで買収した会社が実質的に破綻状態であった場合について説明いたします。

M&Aした会社が破綻状態

M&Aで売主から会社の株式を購入したところ、虚偽の申告をされ、実際には、相手方の会社が破たん状態であった場合に、売主に対して、損害賠償を請求できるでしょうか。

大阪地方裁判所平成4年9月17日判決は、虚偽の申告がされた事案ではありませんが、株式を購入したところ、実質的に相手方の会社が破たん状態となっており、まもなく破産をしたという事例について、売主である代表者らに対して損害賠償を請求した事案について判断がされたものです。

この事案は、関西で海上運送業を営む原告が関東進出のため、横浜の同業者である対象会社の発行済株式総数の約86%を取得することとし、対象会社の代表者らから株式を買い受けたところ、対象会社はまもなく倒産したという事案です。

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M&Aではすべてを説明する必要はない!

判決では、被告代表者は、株式の売買に際し、対象会社の経理及び営業の内容を記載した貸借対照表等を示して、株式の価格決定に影響するような主要部分につき説明し、原告は、対象会社の有する事業免許等に着目して独自の経営判断に基づき売買価格を決定したものであること、対象会社の倒産は、もともと経営状態が悪化していたことに加え、株式売買契約後に原告が売買契約を撤回して株式の買戻しを要求する決議をしたことが公になり、信用不安を招いたことが直接の原因であることを指摘し、対象会社代表者らの行為は詐欺に該当せず不法行為を構成しないという判断をしました。

そして、原告が、株式の価値(実質的には対象会社の純資産価値の実態)を正確に開示説明する信義則上の義務があったと主張したのに対して、裁判所は、「本件売買契約は、実質的には被告に対する原告の資本参加を企図して行われたもので、当時それぞれ対象会社と原告の代表者であった被告Y1とAとの間でその交渉が行われたものであるが、右は対等な企業間における交渉であって、原告がかかる資本参加を行うか否かについては原告において完全に選択の自由を有していたものである。してみれば、被告Y1において、対象会社の資産状況につき殊更に虚偽の事実を告げてはならないという意味での消極的な義務を負うことは格別、原告の主張するような積極的な開示説明義務を負うものと認めることはできない」と判断をしています。

したがって、ことさらに虚偽の事実を告げてはならないという義務を負っていますが、売主において不利益な事実等についても正確に開示しなければならない義務があるとまではいえないと判断をしていることになります。

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M&Aではデューデリジェンス(DD)が重要!

財務状況についてことさらに相手方から虚偽の事実を申告され、実質的に対象会社が破綻状態であることが判明した場合には、損害賠償請求ができるということにはなりますが、売主が全てを説明する必要はないというのが裁判所の判断ですので、買主候補企業としては、やはり、M&Aにおいては、しっかり、デューデリジェンス(DD)を行っておかなければならないということとなるものと思われます。

虚偽の説明を受けた場合に採り得る手段の全体像

財務状況について虚偽の説明を受け、買収した対象会社が実質的に破綻状態であったことが判明した場合、買主が採り得る手段は、大きく2つの方向に分かれます。1つは、株式譲渡契約そのものを解消し、支払った代金の返還を求める方向です。もう1つは、契約の効力は維持したうえで、表明保証の違反に基づく補償又は損害賠償として金銭の支払を求める方向です。

この2つは、要件も、立証の負担も、実現の可能性も大きく異なります。契約の解消は、代金の全額の回収に直結する反面、詐欺又は錯誤という重い要件を満たす必要があり、かつ、後に述べるとおり原状回復が事実上困難となる場面が少なくありません。これに対して、補償又は損害賠償による金銭的な解決は、契約書に定められた枠組みに沿って進めることができる反面、補償の上限額や請求の期間の制限を受けます。

実務上は、まず契約書の補償の条項を検討し、そこで十分な回復が見込めない場合に契約の解消を併せて検討するという順序をとることが多いところです。当事務所では、請求の趣旨を確定する前に、この2つの方向の見通しを比較して御説明しています。

まず確認する株式譲渡契約書の条項

主張の組立ては、契約書の文言から出発します。次の4種類の条項を最初に確認してください。

表明保証の条項

計算書類が一般に公正妥当と認められる会計の基準に従って作成され、対象会社の財政状態及び経営成績を正確に表示している旨の表明保証が置かれているかどうかを確認します。この表明保証があれば、財務状況に関する虚偽は、詐欺の立証を待たずに、契約の違反として構成することができます。あわせて、簿外債務が存在しない旨、及び偶発債務が存在しない旨の表明保証の有無も確認します。

補償の条項

補償を請求することができる期間、補償の上限額、1件当たりの下限額、及び累積の免責額を確認します。実質的な破綻状態が問題となる事案では、損害の額が補償の上限額を超えることが通例ですので、上限額の定めが救済の限界を画することになります。詐欺に当たる場合には上限額を適用しない旨の除外の定めが置かれていることもありますので、その有無は必ず確認してください。

解除に関する条項

株式譲渡の実行の後は解除をすることができない旨の条項が置かれていることが多くあります。この条項がある場合、契約に基づく解除の主張は封じられますので、契約の解消は取消しの主張によることとなります。

完全合意条項及び救済を限定する条項

完全合意条項は、契約書に記載されていない事項について当事者が合意していないことを確認する条項です。救済を限定する条項は、契約の違反に関する救済を補償の条項に限る条項です。いずれも、契約書の外での説明を根拠とする主張を制約する方向に働きます。もっとも、詐欺に当たる行為についてまで救済を制限する趣旨とは解されないのが通例です。

契約そのものを解消する場合の法律上の根拠

詐欺による取消し

民法第96条第1項は、詐欺による意思表示は取り消すことができる旨を定めています。売主が、対象会社の財務状況について事実と異なる内容を積極的に告げ、これによって買主が誤信し、その誤信に基づいて株式譲渡契約を締結したという経過を主張し、立証することとなります。

ここで重要となるのは、説明が結果として誤っていたというだけでは足りず、売主が事実と異なることを認識しながら告げたことを示す必要がある点です。実質的な破綻状態は、売主が最もよく認識し得る事情ですので、資金繰り表、金融機関との交渉の記録、税務の顧問との往復の書面など、売主の認識を示す資料の確保が結論を左右します。

錯誤による取消し

民法第95条は、表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤があり、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときは、意思表示を取り消すことができる旨を定めています。財務の状況を前提として代金の額を定めた旨が契約書や基本合意書に表れている場合には、この表示の要件を満たしやすくなります。

ただし、錯誤が買主の重大な過失によるものであるときは、原則として取消しをすることができません(民法第95条第3項)。デュー・デリジェンス(DD)を実施しながら、通常であれば発見することができたはずの事情を看過した場合には、この点が争点となります。もっとも、売主が錯誤を知りながら告げなかった場合には、買主に重大な過失があるときでも取消しが認められます(同項第1号)。

債務不履行による解除

民法第541条は催告による解除を、第542条は催告によらない解除を定めています。株式譲渡契約における売主の中心的な債務は株式の引渡しですので、対象会社の財務の状況が説明と異なることが直ちに債務の不履行となるわけではありません。表明保証の違反を契約上の債務の不履行と位置付けることができるかは、契約書の文言によります。前に述べた実行の後の解除の制限がある場合には、この構成を採ることはできません。

表明保証の違反による補償との選択

取消し又は解除と、契約上の補償の請求とは、両立しません。契約の効力を否定しながら契約上の補償を求めることはできないからです。したがって、いずれの構成を主たる請求とし、いずれを予備的な請求とするかを、訴えの提起の前に決めておく必要があります。当事務所では、回収の実現の可能性を基準として、この選択を御案内しています。

契約を解消した場合の原状回復の難しさ

民法第545条第1項は、解除により当事者が原状回復の義務を負う旨を定めています。取消しの場合も、民法第121条の2により、給付を受けた者は原状に復させる義務を負います。

もっとも、株式譲渡の場合、原状回復は容易ではありません。買主は株式を返還し、売主は代金を返還することになりますが、買収の後に買主が対象会社へ資金を投入し、役員を交代させ、取引先との関係を組み替えている場合、返還される株式は、買収の時点の株式とは経済的な内容を異にします。対象会社が既に破産手続又は特別清算の手続に入っている場合には、返還すべき株式の価値そのものが失われていることもあります。

また、売主が受領した代金を既に費消している場合には、代金の返還を命ずる判決を得ても、現実の回収に至らないことがあります。契約の解消を選択する場合には、判決を得た後の回収の見込みを、資産の状況の調査によって事前に確認しておくことが重要です。

売主個人及び役員の責任を追及する場合

売主が対象会社の役員を兼ねていた場合、買主は、次の3つの請求を検討することができます。

第1に、売主個人に対する不法行為に基づく損害賠償の請求です(民法第709条)。虚偽の説明が違法な欺罔の行為に当たる場合には、契約上の補償の上限額の制約を受けずに損害の賠償を求める余地があります。

第2に、対象会社が旧役員に対して有する損害賠償請求権の行使です。役員がその任務を怠って対象会社に損害を与えた場合、その役員は対象会社に対して損害を賠償する責任を負います(会社法第423条第1項)。買収の後は買主が対象会社の株主となりますので、対象会社をして請求をさせることが可能です。

第3に、株主として責任追及等の訴えを提起する方法です(会社法第847条)。公開会社でない株式会社においては6箇月の株式の保有の期間の要件は適用されませんので(同条第2項)、買収の直後であっても提起することができます。

立証の方法と証拠の確保

この類型の事案では、売主の認識を示す資料が決め手となります。買収の後、対象会社の資料は買主の管理の下にありますので、次の資料を早期に保全してください。

第1に、対象会社の会計帳簿、総勘定元帳、資金繰り表及び月次の試算表です。説明された財務の状況と実際の数値との差異を、時期を追って示すために用います。

第2に、金融機関との交渉の記録です。返済の条件の変更の申入れの書面、経営改善計画書、金融機関との面談の記録などがあれば、実質的な破綻の状態が売主の認識の下にあったことを示す有力な資料となります。

第3に、デュー・デリジェンス(DD)の過程で売主から提出された開示資料の一覧、質問と回答の記録、及び電子メールの往復です。買主が何を尋ね、これに対して売主が何を答えたかは、欺罔の有無の判断に直結します。

第4に、対象会社の従業員及び元役員の陳述です。ただし、買収の後に買主の指揮命令に服する立場となった者の陳述は、その信用性を争われることがありますので、客観的な資料との整合を確かめたうえで用います。

いつまでに手を打つ必要があるか

取消権は、追認をすることができる時から5年間、行為の時から20年間で消滅します(民法第126条)。契約上の補償の請求については、契約書に定められた期間の制限が優先し、実務上は、実行の日から1年から2年程度とされている例が多くあります。不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年間、不法行為の時から20年間で消滅します(民法第724条)。

最も短いものは契約上の補償の期間ですので、まず契約書の期間を確認し、その満了が近い場合には、期間の内に通知を行うことを最優先としてください。

よくある御質問

デュー・デリジェンス(DD)を実施していた場合でも請求することができますか

実施していたこと自体は妨げにはなりません。もっとも、通常のデュー・デリジェンス(DD)において発見することができた事情については、買主の重大な過失の有無が問題となり得ます。実施した調査の範囲、依頼した専門家の職種、及び売主から開示を拒まれた資料の有無を整理しておくことが有用です。

代金の一部が未払です。支払を拒むことはできますか

未払の代金がある場合、補償の請求権を自働債権とする相殺(民法第505条)や、支払の留保の主張を検討することができます。契約書に相殺を禁ずる条項が置かれていることもありますので、条項の確認が必要です。

対象会社が破産した場合でも請求することができますか

対象会社の破産と、売主に対する請求とは別の問題です。ただし、損害の額の算定においては、破産手続の中で確定した債権の額が重要な資料となりますので、破産管財人との連絡を絶やさないようにしてください。

まとめ

財務状況について虚偽の説明を受けた場合には、契約の解消と、金銭による回復という2つの方向があります。契約書の表明保証、補償、解除及び救済の限定に関する条項を確認したうえで、詐欺による取消し(民法第96条)、錯誤による取消し(民法第95条)、表明保証の違反に基づく補償、並びに売主個人及び役員に対する責任の追及の中から、回収の実現の可能性を基準として組み立てることとなります。契約の解消は、原状回復が事実上困難となる場面がありますので、判決の後の回収の見込みを含めて検討してください。

期間の制限のうち最も短いものは契約上の補償の期間です。事実が判明した直後に、資料の保全と通知の要否の判断を行うことが、結果を大きく左右します。

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