M&Aトラブル事例:M&A買収した会社が不良債権を抱えていた場合

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M&Aの後に判明した不良債権に関するメインのページです。本ページは、譲り受けた会社の売掛金や貸付金が回収の困難な状態にあった場面での買主の対応をご説明します。業績の説明が食い違った場面は別のページをご参照ください。
▶ 譲り受けた会社に契約書にない債務が見つかった場合の請求の道筋
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会社を買収した後になって、対象会社の売掛金の中に回収が困難な不良債権が多数含まれていたことが判明し、想定していた事業価値との差に困惑しておられる買主の方は少なくありません。
不良債権の存在をあらかじめ把握しないまま買収を進めると、資産の評価が実態と乖離したままM&A代金が決定されてしまい、買収後になって損失を被る危険があります。
本記事では、M&A買収した対象会社が不良債権を抱えていた場合について説明いたします。
M&A買収した対象会社が不良債権を抱えていた場合
M&Aにより企業の買収を行ったが、買収後に対象会社が不良債権を抱えていたことが判明した場合、買主企業には何かとりうる策があるのでしょうか。
すなわち、M&Aの過程では対象会社の決算書等財務資料をデューデリジェンス(DD)するのが一般的ですが、財務資料のみから対象会社が不良債権を抱えているかを明確に判断することは困難といえます。したがって、買収した後に、例えば債権回収不能な貸付金が判明する等して不良債権の存在が発覚し、結果的に買主企業が損失を蒙る事態が生じることがあります。それでは、このような場合、買主企業は、売主企業に対して何らかの責任を問えるのでしょうか。
まずは、売主企業との間で締結した株式譲渡契約書等を確認して、買主企業が不足の損失を蒙った場合に、売主企業に対して補償又は損害賠償請求ができる規定があるか、またその内容を確認する必要があります。
例えば、東京高判平成8年12月18日金法1511号61頁では、M&Aにより企業買収を行った買主企業が買収後に対象会社が不良債権を抱えていたことが判明した事例において、当該買主企業及び売主企業との間の株式譲渡契約書に「第1項、売主は、対象会社の平成3年12月31日現在の貸借対照表記載の純資産が減少した場合には、その減少分だけ代金額を調整する。」、「同条第2項、売主は、前項の違反に起因して買主に損害が生じた場合、かかる損害について、買主に対し、これを補償する。」との規定が存在していたことから、これら規定の解釈が争われました。
すなわち、当該規定第1項には、「貸借対照表記載の純資産が減少した場合」には当該減少分の代金額の調整を行う旨及び買主の損害を補償すると規定されていますが、「不良債権」とは、形式的には貸借対照表上の純資産を減少させるものではなく、貸借対照表上に計上された債権は存在するが当該債権が回収不能となる状態ですので、不良債権の存在は、当該規定が定める「貸借対照表記載の純資産が減少した場合」には該当しないのではないか、との点が問題となりました。
この問題について、上記東京高裁判例は、当該規定の趣旨とは、売主企業が買主企業に対し「債権等が回収可能であることを保証し、その回収が不能な場合に買主企業に生じる損害を補償する旨を約したものと解するのが相当である」でとして、買収した対象会社が不良債権を抱えていた場合には、買主企業は売主企業に対し補償請求を行って責任を問うことができるとの判断を下しました。
「第1項、売主は、対象会社の平成3年12月31日現在の貸借対照表記載の純資産が減少した場合には、その減少分だけ代金額を調整する。」という条項、このような条項を、M&A実務上は、価格調整条項といいます。
しかし、このような価格調整条項がM&A契約書に入ることは多くはありません。おそらく、貴社のM&Aにおいてもこのような価格調整条項はM&A契約書に入ってこないことになります。そのようなとき、対象会社に不良債権が発覚した場合、貴社が売主に補償請求・損害賠償請求ができるかは、必ずしも明らかではありません。
裁判例としては、M&Aに際して、対象会社を、M&A契約書の表明保証の規定に基づいた補償責任を真っ向から認めた裁判例がありますが、表明保証が存在したとしても、注意をしてデューデリジェンス(DD)をすれば判明した事実については損害賠償を受けられないと判断したものもあり、また、M&Aに際して、デューデリジェンス(DD)を漫然と怠り調査しなかったような場合は、表明保証の規定が存在していても、その規定に基づいて救済されないことを判示したものもありますので、この点からも、やはり、M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)の重要性は高まっているものと言えます。
不良債権が判明する典型的な経緯
買収した対象会社が不良債権を抱えていたという事態は、多くの場合、買収の直後の月次の締めの段階で顕在化します。売掛金の年齢の分析を行ったところ、回収の期日を1年以上経過した債権が相当額残っていた、貸付金の相手方が既に事業を停止していた、という形で表面化します。
この類型が、簿外債務の類型と異なるのは、債権そのものは帳簿に計上されているという点です。すなわち、負債が隠されていたのではなく、資産が過大に評価されていたという構造です。したがって、争点は、資産の評価が適正であったかどうか、より具体的には、貸倒引当金が適正に計上されていたかどうかに集約されます。
以下では、会計上の評価の枠組み、契約上の表明保証との関係、代金の調整の仕組みによる救済、及び損害の額の算定の順に述べます。
貸倒引当金の計上が適正であったかどうか
債権の区分と引当ての考え方
債権は、その回収の可能性に応じて区分し、区分ごとに引当ての方法を定めるのが、一般に公正妥当と認められる会計の基準の考え方です。実務上は、次の3つの区分が用いられます。
第1に、経営の状態に重大な問題が生じていない相手方に対する債権です。この区分については、過去の貸倒れの実績の率に基づいて、債権の全体について引当てを行います。
第2に、経営の破綻には至っていないものの、債務の弁済に重大な問題が生じている、又は生じる可能性の高い相手方に対する債権です。この区分については、担保及び保証によって回収が見込まれる額を控除した残額について、回収の可能性を個別に判断して引当てを行います。
第3に、経営が破綻し、又は実質的に破綻している相手方に対する債権です。この区分については、担保及び保証によって回収が見込まれる額を控除した残額の全額について引当てを行います。
会社計算規則第5条第4項は、取立てが不能のおそれのある債権について、事業年度の末日においてその取立てが不能と見込まれる額を控除しなければならない旨を定めています。区分に応じた引当てを怠り、名目上の債権の額をそのまま資産として計上していた場合には、この定めに反することとなります。
中小企業の会計に関する指針が示す取扱い
中小企業においては、中小企業の会計に関する指針に従って計算書類が作成されることが多くあります。同指針は、貸倒引当金について、法人税法に規定する法定の繰入れの率による繰入れの限度の額に相当する額を計上する取扱いを、その額が取立てが不能と見込まれる額を明らかに下回る場合を除いて許容しています。
したがって、対象会社が中小企業である場合には、税務上の取扱いによって引当てを行っていたこと自体を直ちに不当と評価することはできません。争点となるのは、取立てが不能と見込まれる額を明らかに下回っていたかどうか、すなわち、個別に評価すべき債権が存在していたにもかかわらず、一律の率による処理で済ませていたかどうかです。
法人税法上の繰入れの限度の額との違い
法人税法上の貸倒引当金の繰入れの限度の額は、損金に算入することができる額の上限を定めるものであって、資産の評価として正しい額を定めるものではありません。しかも、貸倒引当金の損金への算入は、中小法人等その他の一定の法人に限って認められています(法人税法第52条)。
したがって、税務上の申告が適正であったことは、計算書類上の資産の評価が適正であったことを意味しません。売主から、税務署の調査で指摘を受けていないという反論を受けることがありますが、この反論は、右に述べた区別によって整理することができます。
計算書類の正確性に関する表明保証との関係
株式譲渡契約に、計算書類が一般に公正妥当と認められる会計の基準に従って作成され、対象会社の財政状態及び経営成績を正確に表示している旨の表明保証が置かれている場合、引当ての不足は、この表明保証の違反として構成することができます。
ここで注意を要するのは、対象会社が中小企業の会計に関する指針に従って計算書類を作成していた場合、どの基準に従うことが表明されていたのかが争点となる点です。表明保証の条項が「一般に公正妥当と認められる会計の基準」とのみ述べている場合には、中小企業の会計に関する指針もこれに含まれると解される余地があり、税務上の取扱いによる引当てが直ちに違反とはならないことがあります。
これに対して、「対象会社が継続して採用してきた会計の方針に従い」との文言が加えられている場合には、従前の方針からの逸脱の有無が争点となります。契約書の文言を精密に読むことが、この類型では特に重要です。
あわせて、売掛金その他の債権が有効に存在し、かつ、抗弁又は相殺の対象となっていない旨の表明保証の有無を確認してください。この表明保証があれば、実在性の欠けた債権については、引当ての適否を論ずるまでもなく違反を主張することができます。
売掛金の実在性と回収可能性
実在性の確認
実在性とは、その債権が法律上有効に発生し、かつ、消滅していないことをいいます。買収の後は、次の手順で確認します。第1に、総勘定元帳の売掛金の残高と、得意先ごとの元帳の残高との一致を確かめます。第2に、主要な相手方に対して、残高の確認の書面を発送します。第3に、注文書、納品書、検収の書面及び請求書の連続性を確認します。
架空の売上げが計上されていた場合には、この過程で相手方から残高の相違の回答が返ってきます。この場合には、計算書類の正確性に関する表明保証の違反にとどまらず、詐欺による取消し(民法第96条第1項)の余地も生じます。
回収可能性の確認
回収可能性は、相手方の資力の問題です。相手方の信用の情報、直近の入金の状況、支払の期日の変更の履歴、及び手形の不渡りの有無を確認します。あわせて、消滅時効の完成の有無も確認してください。売掛金に係る債権は、権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときに時効によって消滅します(民法第166条第1項第1号)。
回収の期日を大きく経過した債権について、売主が回収の努力を全く行っていなかった場合には、その債権は買収の時点で既に価値を失っていたと評価される可能性が高くなります。
代金の調整の仕組みによる救済
運転資本の調整
株式譲渡契約には、実行の日における運転資本の額を基準の額と比較し、差額を代金に加減する条項が置かれることがあります。売掛金は運転資本の主要な構成要素ですので、この条項がある場合には、引当ての不足を運転資本の減少として処理し、代金の減額という形で回復を図ることができます。
この経路は、表明保証の違反の主張と比べて、争点が会計上の数値の当否に絞られるため、解決までの期間が短くなる利点があります。契約書に調整の条項がある場合には、まずその期間及び手続を確認してください。調整の申出の期間は、実行の日から60日又は90日といった短い期間に限られていることが通例です。
特別補償
デュー・デリジェンス(DD)の過程で回収に懸念のある債権が把握されていた場合には、その債権を特定したうえで、一定の期日までに回収されなかった額を売主が補償する旨の特別の補償の条項が置かれることがあります。この条項がある場合には、補償の上限額や免責の額の適用を受けずに、全額の回復を求めることができる定めとなっていることが多いところです。
代金の一部の留保及び後払の仕組み
代金の一部を一定の期間留保し、又は将来の業績に応じて追加の代金を支払う仕組みが採られている場合には、留保された額との相殺、又は追加の代金の支払の停止によって、実質的な回復を図ることができます。相殺を禁ずる条項の有無を確認してください。
損害の額をどのように算定するか
損害の額について、引当ての不足の額そのものを主張することが考えられますが、これに対しては、株式の価値の下落の額こそが損害であるという反論がされます。代金の算定が純資産の額を基礎としていた場合には、引当ての不足の額と株式の価値の下落の額とが概ね一致しますので、この反論は当たりません。
これに対して、代金の算定が将来のキャッシュ・フローを基礎とする方法(DCF法。ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)や、利益の額に一定の倍率を乗ずる方法によっていた場合には、引当ての不足の額がそのまま株式の価値の下落の額とはなりません。この場合には、引当ての不足が将来の収益の見通しにどのように影響するかを、評価の専門家の意見によって示す必要があります。
あわせて、契約書における損害の定義を確認してください。間接の損害、逸失した利益、及び第三者からの請求によらない損害を除外する定めが置かれている場合には、請求することができる範囲が限定されます。
立証の方法と期間の制限
立証の中心は、買収の時点において当該債権の回収が困難であったこと、及びそれが対象会社の資料から認識し得たことの2点です。次の資料を保全してください。
第1に、買収の直前の期の得意先ごとの元帳、売掛金の年齢の分析の表、及び貸倒引当金の計算の明細です。第2に、相手方ごとの入金の履歴及び督促の記録です。第3に、対象会社の経理の担当者及び税務の顧問との往復の記録です。第4に、デュー・デリジェンス(DD)の過程における質問と回答の記録です。
期間の制限については、代金の調整の申出の期間が最も短く、実行の日から数十日にとどまることがあります。次に短いのが契約上の補償の期間であり、実行の日から1年から2年程度とされている例が多くあります。したがって、不良債権の存在が判明した場合には、まず調整の条項の期間を確認することが最優先となります。
よくあるご質問
税務の申告が適正であれば引当ては適正といえますか
いえません。法人税法上の繰入れの限度の額は損金に算入することができる額の上限を定めるものであり、資産の評価として正しい額を定めるものではありません。取立てが不能と見込まれる額を明らかに下回る引当てにとどまっていた場合には、計算書類の正確性が問題となります。
デュー・デリジェンス(DD)で売掛金の年齢の分析まで求めるべきでしたか
売掛金が資産の主要な部分を占める事業においては、年齢の分析と主要な相手方の信用の調査は、通常の調査の範囲に含まれます。これを行っていなかった場合、買主の側の事情として考慮されることがあります。もっとも、売主が資料の開示を拒んでいた場合には、その事情が優先して評価されます。
回収できた分は損害から控除されますか
控除されます。補償の条項には、第三者からの回収その他の利益を控除する旨の定めが置かれていることが通例です。したがって、請求の前に、督促及び回収の努力を行い、その結果を踏まえて損害の額を確定することが適切です。
まとめ
不良債権の類型は、負債が隠されていた事案ではなく、資産が過大に評価されていた事案です。したがって、争点は貸倒引当金の計上の適否に集約されます。債権の区分に応じた引当てが行われていたか、中小企業の会計に関する指針の許容する範囲を超えて取立てが不能と見込まれる額を下回っていなかったか、という順に検討します。
契約上の経路としては、計算書類の正確性に関する表明保証の違反、債権の実在性に関する表明保証の違反、運転資本の調整、及び特別の補償の4つがあります。このうち代金の調整は、期間が極めて短い反面、争点が数値に絞られるため、解決が早い経路です。
損害の額については、代金の算定の方法によって、引当ての不足の額と株式の価値の下落の額とが一致しない場合があります。契約書における損害の定義とあわせて、早い段階で見通しを立てることが重要です。
積極的に虚偽の説明を受けた場合の取扱いは虚偽の説明を受けた場合に関する解説で、経営の悪化を説明されなかった場合の取扱いは経営悪化を説明しなかった場合に関する解説で、簿外債務が判明した場合の取扱いは簿外債務の請求に関する解説で、それぞれ扱っています。あわせてご覧ください。
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