表明保証に関する裁判例10  判決の判旨「消防法違反の表明保証違反と補償されるべき損害の範囲」 

〔事例8〕 東京地方裁判所|平成24年(ワ)第22058号 損害補償請求事件 平成27年6月22日

表明保証違反による損害の内容やその範囲が問題となったケース。

M&A取引の概要

原告:集積回路を含む各種半導体製品の開発・設計・製造及び販売等を業とする会社。

被告:電気機械器具の製造及び販売等を業とする会社。

被告の全額出資子会社であるA株式会社がある。

平成21年2月4日、原告は被告に対し、被告の全額出資子会社であるAの全株式について株式譲渡契約を締結し、平成21年4月1日から平成22年10月1日までの間に合計78億6,612万6,255円を支払い、Aの発行済み株式全てを取得しました。

「本件表明保証条項」

(9条12項1号)

被告及び本件関係会社(A他8社)が現在行っている事業を行うために必要な行政当局の許認可、免許及びその他類似の承認は、全て被告及び本件関係会社によりそれぞれ適法に取得されており、かつ有効である。

(18条1項)

被告は、被告の表明保証の違反が発生又は判明した場合、これに起因して原告に発生した損害(第三者からの請求の結果生じたものか否かを問わない。また、合理的な弁護士費用を含み、これに限定されない)を原告に対して補償する。

ところが、同契約に基づいて原告が引渡しを受けた半導体製造工場のクリーンルームには、消防法に違反する数量の危険物が貯蔵され、行政当局の許可を受けていませんでした。

そこで原告は、同法違反の状態を解消するために、少量危険物貯蔵所又は取扱所として、条例上の技術上の基準を満たす、薬液の自動供給システム(消防法に違反しない数量の危険物で可能)に関する工事(本件システム化工事)を含む改修工事を行った上で、表明保証違反に起因する補償条項に基づき、改修工事費用等の補償を被告に請求しました。

これに対し被告は,上記改修工事のうち、薬液の自動供給システムに関する工事は、表明保証違反の是正のために必要な範囲を超えており、その他の工事も工事費用自体が不相当に過大であるなどと主張していました。

請求の概要

被告は原告に対し、3億4,446万7,079円及びこれに対する平成24年8月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(損害賠償額の内訳)

  • 改修工事費用:合計3億4万9,890円,
  • 設備エンジニア等人件費:合計1,310万2,000円
  • 弁護士費用:3,131万5,189円

結論の概要

1 被告は原告に対し、1億5,276万500円及びこれに対する平成24年8月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(損害賠償額の内訳)

  • 本件システム化以外の工事に係る費用:合計7,130万9,700円(消費税込)
  • 手運び供給による方法を採用した場合のコスト:初年度1年分の合計6,233万円
  • 弁護士費用:1,388万円

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用はこれを20分し、その11を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

裁判所は、本件工場の設備等は、消防法で要求されている政令で定める技術上の基準を満たしておらず、本件表明保証条項に違反し、原告が消防法違反状態を解消するために要する費用は、その違反に起因した損害と認めたものの、原告が行った本件システム化(自動供給・廃液システム)については、必要かつ合理的ではないとし、同システム以外の工事費と手運び供給を採用した場合の1年分のコスト及び相当額の人件費と弁護士費用を認容しました。

結論に至る論理の概要

争点①原告の実施した本件システム化工事が本件表明保証条項の範囲に含まれるか否かについて

判示:本件において、手運び供給による方法ではなく、自動供給・廃液システムを採用することが必要かつ合理的といえる特段の事情は認められないから、本件システム化工事に係る費用は、本件表明保証条項の範囲には含まれるとはいえない。

争点②原告の実施した本件システム化以外の工事の価格が適正であるか否かについて

判示:被告が原告に対し、本件表明保証条項に基づき補償すべき本件システム化以外の工事に係る費用は、「危険物倉庫設計費」に係る工事費52万5,000円、「少量危険物貯蔵所新設工事費」1,874万2,500円及び「自動消火システムその他費」5,204万2,200円、合計7,130万9,700円(消費税込)であると認められる。

争点③本件システム化工事が表明保証の範囲に含まれない場合において、被告が負担すべきコスト等の金額について

判示:手運び供給による方法を採用した場合に原告に生じるコストは、初年度1年分の合計6,233万円(少量危険物貯蔵庫の設置費用1,785万円・装置改造費3,189万2,000円・薬液費増加分374万4,000円及び人件費増加分884万4,000円)について、被告は、本件表明保証条項に基づき補償をすべき義務を負うものと認めるのが相当である。

争点④本件改修工事に関わった原告の設備エンジニア等の人件費、弁護士費用が表明保証の範囲に含まれるか否かについて

判示:人件費については、「原告の主張する本件改修工事費用総額3億4万9,890円に対する、被告の補償すべき手運び供給を採用した場合の工事費用の合計額1億2,105万1,700円の占める割合が約40%であるから、本件表明保証の範囲に含まれる手運び供給の方法を採用した場合の工事に係る人件費は、原告が主張する本件改修工事に係る人件費1,310万2,000円の40%に相当する524万800円の限度で、表明保証の範囲に含まれるものと認めるのが相当である。」

弁護士費用については、「原告ないしBが、平成24年1月11日まで、被告に本件改修工事の内容等を伝えなかったという事情を考慮しても、表明保証の範囲や本件システム化以外の工事金額の妥当性等が争われた本件訴訟の内容や経過等に鑑みれば、原告による弁護士費用の支出は、本件表明保証違反に起因して原告に生じた損害というべきであり、また、その合理的な金額は、被告が補償すべき合計額1億3,888万500円の約1割に相当する1,388万円と認めるのが相当である。」

「したがって、被告が原告に対して補償すべき額は、合計1億5,276万500円となる。

以上によれば、原告の請求は、1億5,276万500円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。」