飲食店舗を承継できなかった買主の仲介会社への請求―東京地方裁判所令和4年2月24日判決

本記事が扱う場面と、扱わない場面

東京地方裁判所令和4年2月24日判決について、飲食店舗を承継できなかった買主が仲介会社の調査・説明義務違反を主張した事案を解説します。売主への表明保証違反の請求とは区別し、仲介契約の内容、仲介会社が認識していた情報及び買主の調査省略の判断を扱います。責任の一般的な枠組みは、M&A仲介会社の善管注意義務が問題となる場面をご覧ください。

複数の飲食店舗を買収したものの、一部の店舗を引き継げなかった場合、仲介会社にも損害賠償を請求できるのでしょうか。本件では、6店舗のうち2店舗を承継できなかった買主が、仲介会社及びその役員に1410万円の支払を求めました。裁判所は、仲介契約の内容と具体的な情報の認識・伝達を検討し、請求をいずれも棄却しました。

対象は東京地方裁判所令和4年2月24日判決(令和元年(ワ)第17790号)です。以下では、買主をA社、仲介会社をB社、売主をC社とし、B社の代表者をDさん、担当取締役をEさん、C社の代表者をFさんと表記します。承継できなかった二つの店舗は店舗①・店舗②とし、実名及び判例資料独自の匿名記号は用いません。

事業譲渡後に2店舗を承継できなかった経緯

賃借物件で営業する6店舗の買収

A社は飲食店舗を運営する子会社を持つ持株会社であり、C社が運営する6店舗の取得を進めました。各店舗は賃借物件で営業していたため、事業の承継には店舗を使用できることが重要でした。

C社は平成28年11月29日、B社に譲渡先の選定等を依頼しました。B社は、C社から開示された財務諸表や総勘定元帳等に基づき、会社概要、店舗別業績、譲渡条件等の説明資料を作成しました。その後、買主候補となったA社も、平成29年10月20日、B社とフィナンシャル・アドバイザリー契約を締結しました。

A社とC社は平成29年11月24日に事業譲渡契約を締結しました。A社はC社に譲渡代金6480万円(税込み)を支払い、B社には成功報酬1080万円(税込み)を支払いました。C社もB社に2160万円(税込み)を支払っています。B社が双方から受領した報酬は合計3240万円(税込み)でした。

賃料不払による解除と、賃貸人の同意の不取得

店舗①については、C社と賃貸人との間で、以後一度でも賃料を滞納すれば解除を可能とする内容の和解が平成28年7月11日に成立していました。その後も賃料不払が続き、賃貸人は平成29年11月8日に解除を通知しました。つまり、事業譲渡契約を締結した同月24日の時点で、既に解除通知がされていたことになります。

店舗②については賃貸人の同意が得られず、両店舗は同年12月をもって閉店しました。A社はこの2店舗を承継できず、C社から解決金3000万円の支払を受けました。ただし、本件訴訟は、その支払とは別にB社等の義務違反を問題としたものです。

請求した1410万円の内訳

A社は、リスクが適切に開示されていれば契約を締結しなかったと主張しました。損害としては譲渡代金等も挙げましたが、本件で請求したのは、仲介報酬1080万円、対応に要した労力・人員等の損害200万円及び弁護士費用130万円の合計1410万円です。

B社に対しては債務不履行、不法行為及び会社法350条、役員に対しては共同不法行為を根拠としました。裁判所は注意義務違反を認めなかったため、損害額等の残りの争点について判断するまでもなく請求を棄却しました。したがって、上記の損害額が裁判所によって認定されたものではありません。

仲介契約と事業譲渡契約の具体的な内容

「詳細調査」という記載からどこまでの業務を読み取れるか

A社とB社との契約では、組織再編に関する指導・助言、買収候補企業の選定、予備的連絡、企業の詳細調査、詳細条件の確認等が提供業務として挙げられていました。また、B社が対象候補先やその株主とも同様の契約を締結することを、A社があらかじめ承諾する内容もありました。

これらは判決が認定した契約内容の要旨です。契約書の名称がフィナンシャル・アドバイザリー契約であり、業務に「詳細調査」が含まれていても、どのような専門的調査までB社が引き受けたのかは、別途解釈する必要がありました。

契約書には最低成功報酬2000万円等の記載がありましたが、株式譲渡以外の方法による取引について別途合意する規定もありました。本件では、A社とB社は最終的に成功報酬を1000万円(税別)と合意しています。契約書の一般的な報酬規定と、個別に合意・支払をした報酬を区別する必要があります。

売主による店舗使用権限の表明保証

事業譲渡契約10条8号について、判決本文には次の表明保証が記載されています。引用中の「剤残(原文ママ)」は判決資料の記載をそのまま示したものです。

「譲渡対象財産を全て所有し(共有の権利を含む。)、又はかかる資産を適法に使用する権利を有していること。譲渡対象剤残(原文ママ)は、本件事業譲渡後、買主が対象事業を円滑に営むために、必要かつ十分なものであること。また、譲渡対象財産に隠れた瑕疵がないこと」

同契約19条では、表明保証が真実でない、又は不正確であることに起因する買主の損害について、譲渡価額を上限とする損害賠償又は補償が定められていました。さらに、A社の希望により譲渡日を早期に設定し、売主の事前準備が十分でない事情を踏まえ、譲渡後の義務履行が困難又は時間を要する場合等について、売主の責任を一部制限する特約もありました。

これらは売主と買主との間の危険の分配に関する契約内容です。表明保証条項があることだけで仲介会社の責任が消滅するわけではありませんが、売主の契約上の責任と、仲介会社の業務上の責任を混同しないことが重要です。

裁判所は仲介会社の業務をどのように解釈したか

裁判所は、B社がもともと売主側の仲介業者であり、A社もこれを認識して契約を締結したこと、双方からの受託が契約上予定されていたこと、取引の目的が買収対象事業の移転の実現であったことを検討しました。そのうえで、本件契約を仲介契約と捉え、B社には対象事業の概要を明らかにし、当事者の要望の調整や契約締結の過程を円滑に進める義務があるとしました。

他方、裁判所は、デューデリジェンスに該当する程度の調査まではB社の業務に含まれないと判断しました。専門的調査を含むのであれば、その方法や程度が、より詳細に契約で定められるべきであることなどが理由です。

B社に求められたのは、一般的に必要な財務資料等の開示を受けて買主に示し、当事者の意向を踏まえて調査体制・手順を整え、開示の過程で具体的に知った問題となる事情を伝えることでした。判決は、次のように述べています。

「被告会社が開示の過程において具体的に知ることとなった買収の実現における問題となる事情を伝達するべき義務にとどまるものというべきである。」

また、一方当事者からの意向を直ちに一言一句そのまま伝える義務ではなく、仲介目的の実現のため、伝達内容・方法・時期について合理的な裁量があるとしました。これは重要な情報を自由に隠してよいという意味ではありません。具体的な認識と伝達内容が、以下のとおり個別に検討されています。

賃料滞納と店舗承継リスクの説明義務

認識していた支払遅延と、知らなかった重大な不払を区別した

B社側は、総勘定元帳上、賃料を支払った形跡がない月があることを確認し、Fさんに支払状況を尋ねていました。Fさんは、5日又は2週間程度遅れることはあるものの、重大な遅延はないと説明しました。

裁判所は、B社側の認識はその程度にとどまり、契約解除につながる重大な賃料不払を認識していたとは認めませんでした。また、説明資料には賃料が遅れてまとめて支払われた状況が記載され、A社も資料を受領・確認していました。B社側が認識していた程度の遅延は伝達していたとの供述も信用できると判断しました。

和解と解除通知を知った時期

裁判所は、B社側が和解及び解除通知の存在をFさんから初めて知らされたのは、事業譲渡契約後の平成29年11月30日であったと認定しました。そのため、契約締結前にこれらの事実を伝達しなかったことを、義務違反とは認めませんでした。

店舗の賃貸借契約が客観的に危険な状態にあったことと、仲介会社がその具体的な事実をいつ認識していたかは、別の問題として検討されています。

建替えによる退去の話はなぜ義務違反につながらなかったか

Fさんは契約前、店舗①について、建物が老朽化しているため建替えが検討されている一方、特定の業態に変えるなら退去しなくてよいという話をB社側にしていました。Dさんは、建物の老朽化と業態変更で対応が変わる説明に違和感を持ち、真実かどうか疑っていました。

裁判所は、その疑問には合理的な理由があり、実際には既に賃料不払による解除通知がされていたことなどから、老朽化による建替えの話は存在しなかったと認定しました。C社自身が店舗①を対象に含め、適法な使用権限を表明保証して契約したことも考慮しています。

担当者はこの話をA社に伝えたと供述しましたが、伝達を示す客観的資料はありませんでした。それでも裁判所は、仮にこの不確かな話を明確に伝達しなかったとしても、合理的裁量の逸脱には当たらないと判断しました。「全て説明済みだったから請求が棄却された」とまとめることも正確ではありません。

追加調査、高額報酬及び中立性に関する判断

買主が調査を省略して取引を急いだ事情

A社は、飲食店の収益が高まる12月の年末商戦に間に合わせるため、基本合意書の締結とデューデリジェンスを省略し、早く契約したいと希望していました。裁判所は、B社側が具体的な解除原因等を認識していなかったこと、契約上の業務範囲に加え、この取引経緯も考慮して、主張された追加調査義務の違反を認めませんでした。

買主が調査を省略すると仲介会社が常に免責されるという判断ではありません。本件では、義務の範囲、実際に把握していた情報及び買主の意向を併せて検討しています。

報酬額だけから高度な注意義務を認めなかった

A社は、取引規模に比べて報酬が高額であることも主張しました。裁判所は、報酬合計3240万円は売主・買主双方から受託した結果であり、A社が支払ったのは1080万円であると整理しました。そして、本件の証拠からは、その受領が契約書の文言を離れた高度の注意義務を基礎付ける事情までは認められないとしました。

売主に対する義務違反と、買主に対する義務違反

裁判所は、双方から受託するB社には、中立性を保ちながら取引目的に沿って行動すべき義務があるとしました。他方、売主に対する義務違反が、そのまま買主に対する義務違反となるわけではないとしています。

A社は提示した買収額がC社に低く伝えられたとも主張しました。しかし、A社の金額提示は仲介報酬を含む予算であり、報酬額が確定する前には、C社に提示する最終的な譲渡代金とはならないと判断されました。裁判所は、重要事項の虚偽説明・積極的秘匿や、一方を利して他方を害した事実を認めませんでした。

仲介会社の責任を検討する際の着眼点

本件の結論は、店舗を承継できなかったという結果だけでは、仲介会社の義務違反を認められないというものです。契約で引き受けた調査内容、仲介会社に渡された資料、問題を知った時期、具体的な説明、取引を急いだ経緯を確認する必要があります。

売主からの代金返還・補償と仲介会社への損害賠償は、相手方も根拠も異なります。店舗を使えない場合の譲渡契約上の問題は、店舗を引き渡した後に賃借人の地位を移せなくなったら、事業譲渡代金を返還すべきかもご参照ください。本件では、原告が主張した義務違反自体が認められず、仲介報酬等の損害賠償請求が棄却されています。

このページの位置付けと、関連するページ

本ページは、店舗承継が実現しなかった事案における仲介会社の調査・説明義務を扱います。仲介責任の一般論や、売主との譲渡契約に基づく請求とは役割を分けています。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、平成23年には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ております。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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