表明保証に関する裁判例10 判決の判旨「事業の予測に関する表明保証違反の損害賠償請求」

〔事例6〕東京地方裁判所|平成19年(ワ)第13106号 損害賠償請求事件 平成24年1月27日 (襖事件)

本件は、原告が、被告との間で、被告が代表取締役を務めていた2社の全株式を譲り受ける旨の株式譲渡契約を締結しましたが、被告が利益・事業の予測、在庫・設備の状況(法令遵守条項)に関する表明保証に違反していたため損害を被ったと主張して、被告に対し、損害賠償及び補償条項に基づき、弁護士費用含む損害賠償を請求した事案です。

M&A取引の概要

原告:不動産管理・ブリース事業・不動産流通事業等を営む株式会社。

被告:平成17年12月14日当時、A’株式会社及び株式会社Bの代表取締役で、A’株式会社及び株式会社Bの全株式を保有していた。

A’株式会社:障子・襖の製造販売業等を営む株式会社。

平成19年1月22日、商号をA株式会社に変更。

株式会社B:A’の関連会社で、賃貸物件の空室工事・リフォーム工事業等を営む株式会社。

原告と被告は、平成17年12月14日、被告が保有するA’社の全株式2万を2億6,700万円で、同じく被告が保有するB社の全株式200株を5,950万円で、合計3憶6,650円で、原告に譲渡する株式譲渡契約を締結しました。

しかし、協議の結果、本件譲渡代金から4,000万円分を減額することに合意し、本件譲渡代金は、最終的に、2億8,650万円となりました。

原告は、株式譲渡契約締結前には、DDを行っていませんでした。

原告は、被告が同契約における利益・事業の予測・在庫・設備の状況に関する表明保証に違反していたため損害を被ったと主張して、補償条項に基づき、上記損害の賠償を求めた事案です。

請求の概要

被告は、原告に対し、1億8,938万9,389円を支払え。

(損害賠償額の内訳)

  • Hからの受注に関連する損害:合計1億6,363万4,915円
  • 不良在庫品合計額:1,241万5,734円
  • 工事費の合計:261万8,330円
  • 弁護士費用:1,072万410万円

結論の概要

1 被告は、原告に対し、1,653万4,064円を支払え。

(損害賠償額の内訳)

  • 不良在庫品合計額:1,241万5,734円
  • 工事費の合計:261万8,330円
  • 弁護士費用:150万円

2 原告のその余の請求を棄却する。

結論に至る論理の概要

争点①:業務の状況に関する表明保証違反の成否について

判示: 本件株式譲渡契約3条6項2号(継続的な利益計上が不可能となることが明らかな事由がないことの表明保証)違反の成否について判断する。

Gは,本件株式譲渡契約締結前の平成17年6月15日,A’のHからの受注価格について交渉するために,Hに対して本件単価表を提出したのであり,これによって,A’は,将来本件単価表に記載された価格で受注することをHに対して提案したことになる。本件単価表に記載された受注価格は,いずれも,A’が本件単価表作成前にFから受注したときの受注価格及び「お得意様」用の提示価格よりも低く,また,原告が見積もった原材料価格及び製造コストの合計額よりも低いものであった。

しかし、A’がHに提示した受注価格をもって,赤字を免れ得ない価格であり,将来の継続的な利益計上が不可能となることが明らかな事由にあたると認めるに足りない。なお,本件提案書中の将来の受注予測自体が本件株式譲渡契約上の表明保証の内容となっていないことは,契約書の文言上も明らかである。

したがって,被告が,A’がHに提示した受注価格を原告に開示しなかったことをもって,本件株式譲渡契約の締結日以降の3決算期末まで継続的な利益計上が不可能となることが明らかな事由がない(3条6項2号)との表明保証に違反したとは認められない。

Hに提示した受注価格が、A’の原材料の仕入れから販売までのビジネス・システムが本件株式譲渡契約締結後は機能しなくなり事業継続が不可能となる事由にあたると認めるに足りる証拠もない。

被告が業務の状況に関する表明保証に違反したとは認められない。

3) 原告と被告との間の株式譲渡契約の締結

ア 原告と被告は、平成17年12月14日、被告が保有するA’の発行済み株式2万株全部を2億6,700万円で、同じく被告が保有するBの発行済み株式200株全部を5,950万円で、それぞれ、原告に譲渡する旨の契約を締結した(A’の発行済み株式の譲渡契約を「本件株式譲渡契約」、Bの発行済み株式の譲渡契約を「B株式譲渡契約」といい、両者を併せて「本件各株式譲渡契約」という。

イ本件株式譲渡契約には、要旨以下のとおりの内容の条項がある。

原告は、被告に対し、A’の発行済み株式2万株の譲渡代金を、平成17年12月14日、同月26日及び平成18年1月23日の3回に分割して、各8,900万円ずつ支払う(2条2項)。

被告は、本件株式譲渡契約の締結日及び譲渡日である平成17年12月14日において、原告に対し、次の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する(3条)。

a A’は、本件株式譲渡契約の契約書別紙資産負債一覧表に記載されている負債を除き、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って財務諸表に反映することが要求される性質の資産又は義務で、A’に悪影響を及ぼすものを負担していない(3条5項2号)。

b A’の事業活動に必要な車両、設備、機械及び備品その他の資産は全て良好に整備され、かつ良好な稼働状況にある(3条5項4号)。

c A’において、本件株式譲渡契約の締結日である平成17年12月14日以降の3決算期末まで継続的な利益計上が不可能となることが明らかな事由は存在しない(3条6項2号)。

d A’の商品調達から販売までのビジネス・システムが、本件株式の買収後も機能し、事業継続を不可能にする事由は存在しない(3条6項3号)。

被告が、前記(イ)において表明し保証した事項が、真実又は正確でなかったことが判明した場合、その他被告が本件株式譲渡契約に違反した場合は、同契約締結後5年以内に請求されたものに限り、被告は原告に対し、それによって原告が被る損害(弁護士費用を含む。)を補償する責任を負う(5条1項)。

ウB株式譲渡契約には、譲渡代金の支払について、要旨以下のとおりの内容の条項がある。

原告は、被告に対し、Bの発行済み株式200株の譲渡代金を3回に分割して、平成17年12月14日及び同月26日に各1,980万円ずつ、平成18年1月23日に1,990万円を支払う(2条2項)。

 

争点②:在庫の状況に関する表明保証違反について

判示:在庫品は商品価値のないものであるといえるが、被告は、原告に対してこの事実を開示していなかったから、本件株式譲渡契約の、A’に悪影響を及ぼす資産がなく、同社の事業活動に必要な資産は全て良好に整備され、かつ良好な稼働状況にあるとの表明保証に違反したと認められる。

 

争点③:設備の状況に関する表明保証違反の成否について

判示:消防署が指摘した事実に照らせば、自動火災報知設備等の違反は工場設置当時からあったことが推認され、これらの事実が本件株式譲渡契約締結後に生じたものであることを伺わせる証拠はないから、本件株式譲渡契約締結当時、A’所有の工場に、消防法、火災予防条例及び建築基準法に違反する不備があったと認めることができる。

よって、上記事実は、本件株式譲渡契約の、A’の事業活動に必要な資産は全て良好に整備されているとの表明保証に違反したと認められる。

 

争点④:譲渡代金の減額合意による免責の成否について

判示: 原告は、被告に対し、本件各株式譲渡契約の各譲渡代金の3回目の支払日である平成18年1月23日の前に、本件各株式譲渡契約の各譲渡代金合計額(「本件譲渡代金」)3億2,650万円から、8,282万1,693円を減額するよう求め、原告と被告は、協議の結果、本件譲渡代金から4,000万円分を減額することに合意した。これによって、本件譲渡代金は、最終的に、2億8,650万円となった

この点、原告が被告に対し、本件各株式譲渡契約の各譲渡代金合計額を減額するよう申し入れる際に、被告に対して提出した「A’株式会社・株式会社Bの買取価格の評価」と題する書面には、本件訴訟において表明保証違反が問題となっているHからの受注価格、商品価値のない在庫品及びA’が所有する工場の設備の不備を指摘して各譲渡代金合計額の減額を申し入れる記載はない。したがって、本件株式譲渡契約における譲渡代金の問題をすべて解決したとまでは認められないから、原告の被告に対する損害賠償請求を妨げる事由にはならない。

 

争点⑤:損害額について

判示:在庫の状況に関する表明保証違反による損害:不良在庫品合計額1,241万5,734円の損害を被ったと認められる。

設備の状況に関する表明保証違反による損害:工事費の合計261万8,330円の支出を余儀なくされ、同額の損害を被ったと認められる。