表明保証違反の請求を弁護士に依頼するとき 通知の期限と、集めておくべき資料

会社を買い受けた後になって、売主から説明されていた内容と実際の状態が違っていたことに気づき、表明保証違反として請求すべきかどうかを迷っておられる買主の方からの御相談が増えております。本記事は、株式譲渡が完了した後に表明保証違反の疑いを持たれた買主の方、及び買主から表明保証違反を主張された売主の方が、弁護士に依頼することを検討しておられる場面を対象としています。取り上げるのは、いつまでに通知しなければならないのか、依頼の前にどの資料を集めておけばよいのか、そして損害の額をどのように組み立てるのか、という三つの事項です。

表明保証違反の請求は、他の紛争と決定的に違う点が一つあります。それは、請求できる期間が法律ではなく契約書によって定められているという点です。契約書に「効力発生日から1年以内に書面により通知しなければ請求することができない」と書いてあれば、その期間を過ぎた瞬間に、内容がどれほど正当であっても契約に基づく請求はできなくなります。

そして、この期間はしばしば1年から2年と短く定められています。買収した会社の異変に気づくのは、決算を一巡させた後、あるいは税務調査を受けた後であることが多く、気づいた時点で期限が目前に迫っているという事態が生じます。以下では、依頼を検討しておられる方に向けて、期限の数え方と、準備していただきたい資料を具体的に整理してまいります。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

弁護士への依頼という同じ主題であっても、何を主張の柱に据えるかによって準備すべき事項が異なりますので、次のとおり整理しております。

  • 表明保証違反を主張の柱に据える場面……本記事
  • 譲渡後の紛争全般について、相談の時期と進め方……M&Aトラブルを弁護士に依頼するとき 譲渡の後に紛争が生じた場合の相談の時期と進め方
  • 相手方が仲介会社である場面……M&A仲介会社との紛争を弁護士に依頼するとき 手数料の請求と善管注意義務の追及
Contents
  1. 異変に気づいた日から、最初の1週間ですべきこと
    1. 気づいた日そのものを記録に残してください
    2. 売主に問い合わせる前に、契約書の該当条項を読んでください
    3. 対象会社の内部にある資料を先に確保してください
  2. 通知の期限は、法律ではなく契約が決めています
    1. 期間の数え方には、民法の原則があてはまります
    2. 「書面により」「到達した時に」という要件を軽視しないでください
    3. 期間を過ぎた場合に残る法律上の手段があります
  3. 通知書に何を書くかで、その後の交渉の形が決まります
    1. どの条項に、どの事実が反するのかを特定します
    2. 損害の額が確定していなくても、通知はできます
    3. 書きすぎることにも危険があります
  4. 依頼の前に集めておいていただきたい資料
    1. 四つの区分に分けて整理してください
    2. 二点だけあれば、期限の判断はできます
    3. 手元にない資料を集める方法があります
  5. 損害の額をどのように組み立てるか
    1. 契約上の上限額と下限額が、実際の回収額を左右します
    2. 簿外債務型と、収益力の毀損型とでは、立証の重さが違います
    3. 株式の価値の減少をどのように見るかは、争いの中心になります
  6. 売主はなぜ「知らなかった」「開示していた」と述べるのか
    1. 第一に、開示別紙に書いてあったと述べます
    2. 第二に、買主も知っていたはずだと述べます
    3. 第三に、既に代金を費消しており支払える状態にないと述べます
  7. 売主として請求を受けた方が、最初に確認すべきこと
    1. 通知が契約の要求する方式と期間を満たしているか
    2. 主張されている事実が、表明保証の対象に含まれているか
    3. 損害の額が、下限額を超え、上限額の範囲内か
  8. いま確認していただきたいこと
  9. よくあるご質問
    1. 通知の期限まで残り1か月しかありません。いまから依頼して間に合いますか
    2. まだ損害の額が確定していません。それでも請求できますか
    3. 売主が既に会社を清算していたり、資産を移していたりする場合はどうなりますか
    4. 仲介会社が「表明保証保険があるから大丈夫」と説明していました
  10. おわりに
  11. 出典

異変に気づいた日から、最初の1週間ですべきこと

「これは表明保証に違反しているのではないか」と思われた日から、実は時計が動き始めています。最初の1週間で行っていただきたい作業が三つあります。

気づいた日そのものを記録に残してください

いつ、どのような資料を見て、何に気づいたのか。これを日付とともに書き留めてください。消滅時効の起算点、契約上の通知の要否、売主が「買主は知っていたはずだ」と反論してきた場合の反証。いずれの場面でも、この日付が意味を持ちます。後から思い出して作った記録より、その日に作った記録のほうが、はるかに強い力を持ちます。

売主に問い合わせる前に、契約書の該当条項を読んでください

売主に「これはどういうことですか」と連絡を入れたくなるお気持ちは分かります。ただ、その前に契約書の表明保証条項と補償条項を読んでいただく必要があります。問い合わせの仕方によっては、後から「買主は当時これを問題視していなかった」と受け取られる余地を残します。また、売主に知られた時点で、売主の側で資産の整理が始まることもあります。

対象会社の内部にある資料を先に確保してください

買主が既に対象会社の株主となっている場合、対象会社の帳簿や契約書は買主の管理下にあります。しかし、譲渡前の経緯を知る従業員が退職してしまえば、資料の意味を説明できる人がいなくなります。譲渡の前後の稟議書、取締役会の議事録、主要な取引先との契約書、税務申告書の控えを、この段階で一箇所に集めておいてください。

通知の期限は、法律ではなく契約が決めています

表明保証違反に基づく補償請求について、民法にはこれを直接定めた条文がありません。期間の定めは、すべて契約書の中にあります。

期間の数え方には、民法の原則があてはまります

たとえば、効力発生日を令和8年4月1日と定め、「効力発生日から2年以内に書面により通知しなければ補償を請求することができない」と定めた契約を考えます。期間の初日は算入されませんので(民法第140条)、起算日は令和8年4月2日となります。2年後の応当日である令和10年4月2日の前日、すなわち令和10年4月1日の終了をもって期間は満了します(民法第141条、第143条第2項)。令和10年4月2日に通知を発しても、契約上の請求権はもう失われています。

「書面により」「到達した時に」という要件を軽視しないでください

多くの契約書は、通知の方法を書面と定め、あわせて通知の宛先と効力発生の時期を定めています。電子メールでの連絡が有効かどうか、期限の日に発送すれば足りるのか到達している必要があるのかは、契約書の文言によって決まります。期限の直前に慌てて連絡を入れた結果、方式を満たさない通知になっていた例は、実際に生じています。

期間を過ぎた場合に残る法律上の手段があります

契約上の期間を過ぎても、法律上の主張までが失われるわけではありません。売主が事実と異なることを知りながら述べていた場合には、詐欺による取消し(民法第96条第1項)や不法行為に基づく損害賠償請求(民法第724条)を検討します。売主も買主も事実を誤認していた場合には、錯誤による取消し(民法第95条第1項)が問題となります。なお、取消権は追認をすることができる時から5年、行為の時から20年で消滅します(民法第126条)。

売買の目的物の種類又は品質に関する契約不適合については、不適合を知った時から1年以内の通知が要求されています(民法第566条)。もっとも、株式譲渡において対象会社の債務や収益力の問題が「株式という目的物の種類又は品質」の不適合にあたるかについては、議論があります。この点を主張の柱に据えるかどうかは、事案ごとの判断となります。

通知書に何を書くかで、その後の交渉の形が決まります

期限内に通知をすればよいというものではありません。通知書の内容は、そのまま交渉の出発点になります。

どの条項に、どの事実が反するのかを特定します

「説明と違う」という書き方では、売主は何に答えればよいのか分かりません。表明保証条項のうちどの号に、いつ判明したどの事実が反するのかを、条項の番号を挙げて特定します。この特定が甘いと、後から主張を追加した際に「期限内に通知されていない」と反論される余地を残します。

損害の額が確定していなくても、通知はできます

簿外の債務が判明した場合でも、最終的な金額が確定するのは税務当局との折衝や訴訟が終わった後です。金額の確定を待っていては期限に間に合いません。多くの契約書は、通知の段階で概算又は判明している範囲の記載を求めるにとどめています。契約書の要求水準を確認したうえで、期限内に通知することを優先します。

書きすぎることにも危険があります

通知書に事実関係の評価や交渉上の要求を過剰に盛り込みますと、後の主張と食い違いが生じたときに、その食い違いそのものが攻撃の対象となります。何を書き、何を書かないかの判断は、弁護士に依頼していただく実質的な意味の一つです。

依頼の前に集めておいていただきたい資料

初回の御相談の場に何をお持ちいただくかで、その日にお伝えできる内容が変わります。

四つの区分に分けて整理してください

区分 具体的な資料 何を判断するために用いるか
契約に関するもの 株式譲渡契約書の全文と別紙、開示別紙、修正契約書、覚書 通知の期限、補償の上限額と下限額、除外事由の有無
開示の過程に関するもの デュー・ディリジェンスの資料一覧、質問と回答の記録、電子メール 買主が知っていたかどうか、売主が開示していたかどうか
損害に関するもの 追加で支払った金額の証憑、税務当局からの通知、弁済の記録 損害の額と、下限額を超えているかどうか
対象会社の内部のもの 決算書、税務申告書、取締役会議事録、主要な取引先との契約書 事実がいつ発生し、いつから存在していたか

二点だけあれば、期限の判断はできます

すべてを揃えてから相談しなければならないということはありません。契約書と、気づいた事実を示す資料の二つがあれば、期限の判断は可能です。残りは受任後に順次整えてまいります。

手元にない資料を集める方法があります

売主の側で対象会社の資料が手元にない場合には、訴訟手続の中で文書提出命令の申立て(民事訴訟法第220条)を検討することもできますし、受任した弁護士が所属弁護士会を通じて照会を申し出る方法もあります(弁護士法第23条の2第1項)。開示別紙やデュー・ディリジェンスの資料一覧が見当たらない場合には、仲介会社又は当時の担当者が保管していることもありますので、その所在も確認します。

損害の額をどのように組み立てるか

表明保証違反の請求で最も争いになるのは、違反の有無ではなく損害の額です。

契約上の上限額と下限額が、実際の回収額を左右します

多くの契約書には、補償の総額に上限を設ける条項と、1件あたり又は累計で一定額を超えなければ請求できないとする条項が置かれています。上限が譲渡代金の一定割合に設定されていれば、それを超える損害は契約上回収できません。依頼をお受けする前に、この二つの数値を確認することが不可欠です。上限額が低い場合には、契約に基づく請求ではなく、詐欺又は不法行為の構成を選ぶ判断もあり得ます。

簿外債務型と、収益力の毀損型とでは、立証の重さが違います

未払いの残業代、社会保険料の不足、税務上の否認といった簿外債務の類型では、実際に支出した金額が損害の額に直結しますので、立証は比較的容易です。これに対し、主要な取引先との契約が実際には継続の見込みがなかった、許認可に瑕疵があったといった収益力の毀損の類型では、株式の価値がどれだけ下がったのかを示す作業が必要となり、負担は格段に重くなります。

株式の価値の減少をどのように見るかは、争いの中心になります

非上場の株式には市場価格がありませんので、価値の減少額は評価によって示すほかありません。ここで参考として、税務上の評価の取扱いにも動きがあることを申し添えます。国税庁は令和8年4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催し、昭和39年に公表された財産評価基本通達の抜本的な見直しを検討しています。第5回(令和8年8月20日)では、類似業種比準方式を存置することは困難ではないかとされ、会社規模による区分を廃してインカムアプローチによる評価を主軸とすべきとの方向性が示されています。ただし、内容も時期も確定したものではありません。

また、税法上の評価と、損害賠償の場面で問われる株式の価値とは、目的も算定方法も異なります。財産評価基本通達は行政庁の内部の取扱いであって、裁判所を拘束するものではありません(国家行政組織法第14条第2項)。

売主はなぜ「知らなかった」「開示していた」と述べるのか

請求を受けた売主の反論は、おおむね次の三つの型に収まります。理由を知っておくと、準備すべき資料が見えてまいります。

第一に、開示別紙に書いてあったと述べます

表明保証条項には、通常「開示別紙に記載された事項を除き」という留保が付されています。売主は、問題となった事実が開示別紙又はデュー・ディリジェンスの提出資料に含まれていたと主張します。したがって、開示された資料の一覧と、その中に当該事実がどのように記載されていたかを、早い段階で確認しておく必要があります。

第二に、買主も知っていたはずだと述べます

デュー・ディリジェンスを実施していれば当然に気づいたはずだ、という反論です。契約書に、買主の認識を問わず補償の対象とする旨の定めがあるかどうかによって、この反論の重みは大きく変わります。

第三に、既に代金を費消しており支払える状態にないと述べます

これは法律上の反論ではありませんが、交渉の現実としては最も大きな壁になります。売主が複数である場合には、誰がどの割合で責任を負うのかも契約書で確認する必要があります。回収の見込みが乏しいときは、請求の範囲を絞って早期の和解を目指す判断もあり得ます。

売主として請求を受けた方が、最初に確認すべきこと

請求を受けた側にも、確認によって結論が変わる事項があります。

通知が契約の要求する方式と期間を満たしているか

期限を1日でも過ぎた通知、契約が求める方式によらない通知であれば、契約上の請求は成り立ちません。まずここを確認します。

主張されている事実が、表明保証の対象に含まれているか

表明保証条項は、対象となる事項を限定して列挙するのが通常です。列挙されていない事項について「当然に含まれる」という主張は成り立ちません。また、重要性の限定が付されている場合には、その基準を超えているかどうかが争点になります。

損害の額が、下限額を超え、上限額の範囲内か

請求された金額をそのまま前提にする必要はありません。下限額に達していない請求、上限額を超える部分の請求は、契約上支払う義務がありません。これらを確認しないまま支払いに応じますと、本来支払う必要のない金額を支払うことになります。

いま確認していただきたいこと

  • 株式譲渡契約書を開き、効力発生日と、補償の請求について定めた通知の期間を確認し、期限が具体的に何年何月何日であるかを書き出してください。
  • 同じ契約書の中から、補償の上限額と下限額を定めた条項を探し、その数値を書き出してください。
  • デュー・ディリジェンスの際に受領した資料の一覧と、開示別紙を探し出してください。問題となった事実が記載されていないかを確認してください。
  • 異変に気づいた日、そのきっかけとなった資料を、日付とともに書き留めてください。
  • 対象会社の元役員又は元従業員で、譲渡前の経緯を知る方がいる場合には、退職や連絡先の変更が生じる前に、話を聞ける状態を確保してください。

よくあるご質問

通知の期限まで残り1か月しかありません。いまから依頼して間に合いますか

間に合わせるべき事案です。期限内にすべきことは、契約が要求する方式による通知を、要求される内容とともに到達させることに尽きます。損害の額の精査や証拠の完成は、通知の後に進めることができます。残り期間が短い場合には、その日のうちに契約書を拝見して、通知書の起案に着手します。期限が迫っているという理由で相談を先送りすることだけは、避けていただきたいと考えます。

まだ損害の額が確定していません。それでも請求できますか

できます。税務調査が進行中である、訴訟の相手方との交渉が続いているといった事情で金額が固まらない場合でも、契約上の通知は先に行います。むしろ、金額の確定を待って期限を徒過してしまうことのほうが、はるかに大きな損失です。通知の段階でどの程度の特定が必要かは契約書の文言によりますので、そこを確認したうえで書面を作成します。

売主が既に会社を清算していたり、資産を移していたりする場合はどうなりますか

売主が法人であり、請求の前後に会社分割によって事業を別会社に移していた場合には、承継されなかった債務の債権者は、承継会社又は設立会社に対して、承継した財産の価額を限度として履行を請求することができます(会社法第759条第4項、第764条第4項)。この責任は、会社分割がされたことを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしなければ消滅します(同法第759条第6項、第764条第6項)。財産の移転を疑わせる事情があるときは、詐害行為取消請求(民法第424条第1項)も検討します。

仲介会社が「表明保証保険があるから大丈夫」と説明していました

保険が付されている場合には、保険契約の内容そのものを確認する必要があります。免責の範囲、通知の期限、保険会社への報告義務は、株式譲渡契約書とは別に定められています。保険会社への通知が遅れたことを理由に支払いが拒まれる例もありますので、保険証券と約款を早い段階でお持ちください。

おわりに

表明保証違反の請求は、「正しいことを言えば通る」という性質の紛争ではありません。期限を守り、条項を特定し、資料で裏付けるという三つの作業を、順序どおりに進めた側が有利になります。逆に言えば、この三つを整えることさえできれば、相手方の抵抗があっても道筋は立ちます。

気づいてから時間が経ってしまった、契約書の内容をよく覚えていない、どこから手を付ければよいか分からないという状態でも構いません。契約書と手元の資料をお持ちになって、御相談ください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

表明保証違反の請求及び防御に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

出典

  • 民法第95条第1項(錯誤による取消し)
  • 民法第96条第1項(詐欺又は強迫による意思表示の取消し)
  • 民法第126条(取消権の期間の制限)
  • 民法第140条(期間の初日不算入)、第141条(期間の満了)、第143条第2項(暦による期間の計算)
  • 民法第166条第1項第1号、第2号(債権の消滅時効)
  • 民法第424条第1項(詐害行為取消請求)
  • 民法第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
  • 民法第724条第1号、第2号(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
  • 会社法第759条第4項、第6項、第764条第4項、第6項(残存債権者の履行請求及びその期間の制限)
  • 民事訴訟法第220条(文書提出義務)
  • 弁護士法第23条の2第1項(弁護士会照会の申出)
  • 国家行政組織法第14条第2項(訓令及び通達)
  • 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)

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