M&A仲介会社への損害賠償請求を検討する際の確認事項

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M&A仲介会社の対応に問題があったと感じた場合であっても、損害賠償請求が認められるためには、注意義務の内容の特定、違反の事実、損害及び因果関係のそれぞれについて裏付けが要ります。本記事では、売主の立場から、請求を検討する際の確認事項を整理いたします。

M&A仲介会社の説明と契約書の内容が食い違う場合の確認手順については別の記事で扱っています。あわせて御覧ください。

株式を譲り渡してから半年ほど経ったころに、買主から簿外の債務が見つかったとして代金の一部の返還を求められた。譲り受けた会社の売上が事前の説明とまるで違っていた。担当者が口頭で述べていた条件と、実際に調印した契約書の中身が食い違っていた。成約の後になってこうした事態に直面し、当時の資料を机の上に並べ直しておられる経営者の方は少なくありません。

そのときに最初に浮かぶのが、間に入っていたM&A仲介会社の責任を問えないか、という考えです。着手金、中間金及び成功報酬を合わせて数千万円を支払っていることも珍しくなく、それだけの費用を負担した相手が果たすべき役割を果たしていなかったのではないか、という思いが生じるのは自然なことです。

もっとも、率直に申し上げますと、M&A仲介会社に対する損害賠償の請求が認められるためには相応の要件を満たす必要があり、実際には容易でない場面も少なくありません。契約上どこまでが義務であったのか、その義務に違反する事実があったのか、いくらの損害が生じたのか、そしてその損害が義務違反によって生じたと言えるのか。この四つを順に詰めていく作業になります。本記事では、その順序に沿って、何を確認し、どの資料を集め、どのように見通しを立てるかを整理します。

Contents
  1. まずM&A仲介契約における義務の範囲を確定する
    1. 契約書の題名ではなく条項の中身を確認する
    2. M&A仲介型と片側助言型では義務の内容が変わる
    3. 業務の範囲の外とされている事項を切り分ける
  2. 善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務
    1. 善管注意義務の内容と、その限界
    2. 利益相反が問題となる場面
  3. 説明及び情報を提供する義務
    1. 報酬の体系についての説明
    2. 相手方に関する情報の提供
    3. 中小M&Aガイドラインの位置付け
  4. 責任を限定する条項の効力
    1. 置かれることの多い条項の型
    2. 効力が争われ得る場面
    3. 免責の条項があっても検討する価値が残る理由
  5. 損害と因果関係
    1. 損害の立て方
    2. 因果関係が最大の難所となる
    3. 過失相殺その他の減額の要素
  6. 集めるべき資料
  7. 交渉及び訴訟の見通し
    1. 交渉から始める場合の進め方
    2. 訴訟に進む場合の負担
    3. 期間の制限に注意する
  8. よくあるご質問
    1. M&A仲介会社が双方から報酬を受けていたこと自体を問題にできますか
    2. 契約書に情報の正確性について責任を負わないと書かれています。もう請求はできませんか
    3. 担当者が口頭で述べた内容と契約書の中身が違います。口頭の説明は証拠になりますか
    4. 買主から簿外の債務を理由に代金の返還を求められています。M&A仲介会社に請求できますか
    5. 成約から3年が経っています。まだ間に合いますか
    6. 訴訟をせずに解決できますか。費用はどの程度かかりますか
    7. M&A仲介会社ではなく、買主本人に請求すべき場合もありますか

まずM&A仲介契約における義務の範囲を確定する

請求を検討する出発点は、感情でも業界の慣行でもなく、締結したM&A仲介契約の条項です。どの義務に違反したのかを特定できなければ、その先の議論は進みません。まずは契約書の原本を探し出し、附属の覚書、報酬に関する別紙、及び後日に差し入れた確認書の類まで含めて、一式を手元にそろえてください。

契約書の題名ではなく条項の中身を確認する

契約書の題名は、M&A仲介契約書、アドバイザリー契約書、業務委託契約書など様々ですが、題名によって義務の範囲が決まるわけではありません。確認すべきは条項の中身です。具体的には、業務の範囲を定めた条項、報酬の額と発生の時期を定めた条項、責任の範囲を限定する条項、専任を定める条項、契約の期間と終了後の効力を定める条項の五つが中心になります。

業務の範囲を定めた条項には、多くの場合、譲渡先の候補の探索、交渉の日程の調整、資料の授受の取次ぎ、条件の調整の補助といった行為が列挙されています。ここに書かれていない行為は、原則として義務の内容に含まれません。逆に、ここに「企業価値の評価に関する助言」や「契約条件に関する助言」が書かれているのであれば、その部分については相応の水準の役務を期待してよいことになります。

M&A仲介型と片側助言型では義務の内容が変わる

一方の当事者のみと契約し、その当事者の利益のために動くファイナンシャル・アドバイザーと、譲渡側と譲受側の双方と契約するM&A仲介業者とでは、負う義務の内容が異なります。M&A仲介型の場合、双方の利益は価格や条件をめぐって本来的に対立していますので、一方の利益を最大化する義務までは通常負っていないと整理されます。

この違いを取り違えると、請求の組立てを誤ります。「もっと高く売れたはずだ」という主張は、片側助言型であれば義務の内容に関わり得ますが、M&A仲介型では正面から通りにくい主張です。M&A仲介型で問題にしやすいのは、双方に対して公平中立に手続を進めるべき立場にありながら、一方に著しく偏った働きかけをした、という類型です。

業務の範囲の外とされている事項を切り分ける

多くのM&A仲介契約には、財務、税務及び法務に関する専門的な調査や助言は業務に含まれない旨、並びに当事者から提供された資料の内容の真実性については責任を負わない旨の定めが置かれています。デュー・ディリジェンスは譲受側が選任した弁護士や公認会計士が行うのが通例であり、M&A仲介会社は資料の授受を取り次ぐ立場にとどまるという建て付けです。

したがって、対象会社の決算書に粉飾があったという事実だけでは、M&A仲介会社の義務違反には直ちに結び付きません。争点になり得るのは、その粉飾や簿外の債務の存在をM&A仲介会社が知っていた、又は容易に知り得たのに伝えなかった、という点です。ここを立てられるかどうかが、多くの事案での分岐点になります。

善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務

M&A仲介契約は、その多くが委任又はこれに準ずる契約として整理されます。受任者は、民法第644条により、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負います。報酬を得て反復継続的にM&Aの支援を行う事業者である以上、その業界において通常期待される水準の注意が求められます。

善管注意義務の内容と、その限界

ここで注意していただきたいのは、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務は、結果を保証する義務ではないという点です。良い相手が見つからなかった、想定より安い価格になった、成約後に対象会社の業績が落ちたといった結果それ自体は、義務違反を意味しません。問題にできるのは、その過程における具体的な行為又は不作為です。

実務上、義務違反として主張し得る余地があるのは、例えば次のような場面です。譲受側の資金の手当てに明らかな懸念を示す事情を把握していながら譲渡側に伝えなかった場合、複数の候補者から提示を受けていたのに一部の提示のみを伝えた場合、契約書の草案が交渉の過程で重要な点において変更されたのにその点を説明しないまま調印の場に臨ませた場合、秘密保持の管理を怠って対象会社の従業員や取引先に情報が漏れた場合などです。

利益相反が問題となる場面

M&A仲介型の構造には、双方から報酬を受け、かつ成約に至った場合にのみ成功報酬が発生するという点で、成約を急ぐ方向の誘因が内在しています。この構造それ自体が直ちに義務違反になるわけではありませんが、実際に一方に偏った言動があった場合には、その評価を厳しくする方向に働く事情となり得ます。

具体的には、譲受側が提示した条件について不利な点を伏せたまま受諾を強く促した、期限を切って熟慮の機会を与えなかった、他の弁護士や税理士への相談を思いとどまらせるような発言をした、といった事実です。抽象的に「利益相反があった」と述べるだけでは足りず、いつ、誰が、誰に対し、どのような言動をしたのかを特定する必要があります。

説明及び情報を提供する義務

受任者は、委任者の請求があるときは委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は経過及び結果を報告する義務を負います。民法第645条が定めるこの報告義務に加え、契約の締結に先立って重要な事項を説明すべき義務が、信義則上の義務として問題となる場面があります。M&A仲介会社に対する請求において、実際に最も多く争点となるのはこの類型です。

報酬の体系についての説明

報酬をめぐる説明は、争いになりやすい領域です。確認していただきたいのは、報酬の計算の基礎が譲渡代金なのか、それとも負債を含む移動総資産なのかという点、最低報酬額の定めの有無と金額、着手金や中間金が成約に至らなかった場合に返還されるのかどうか、そして契約の終了後一定の期間内に成約した場合にも報酬が発生するといういわゆるテール条項の有無です。

移動総資産を基礎とする方式では、負債の多い会社の場合、手取りの譲渡代金に比して報酬の額が著しく大きくなることがあります。この計算の方法について、提案の段階で具体的な数値を用いた説明がされていたかどうかは、記録に残る形で確認する価値があります。提案書、料金表、当時のメールを突き合わせてください。

相手方に関する情報の提供

譲渡側にとって、譲受側がどのような資金でどのように代金を支払うのか、譲受け後に役員及び従業員をどう処遇する方針なのか、既に他の会社を譲り受けて問題を起こしていないか、といった事項は重大な関心事です。M&A仲介会社がこれらについて把握していた情報を伝えなかった場合には、説明義務の違反として構成する余地があります。

多くの事案は、積極的に虚偽を述べた型ではなく、「言わなかった」型です。そのため、M&A仲介会社が当該情報を保有していたこと、又は通常の業務の中で当然に知り得たことを、こちらの側から示す必要があります。担当者とのやり取りの記録、送付を受けた資料の一覧、社内の検討の経過をうかがわせる文書が手掛かりになります。

中小M&Aガイドラインの位置付け

中小企業庁は、中小企業のM&Aに関する支援機関の行動の指針として、中小M&Aガイドラインを策定しています。また、支援機関の登録に関する制度も設けられています。これらは法令そのものではありませんので、これに沿わない行為があったからといって直ちに違法と評価されるわけではありません。

もっとも、その業界において求められる注意の水準を示す資料として、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務の内容を具体化する場面で参照され得ます。契約の締結に先立つ重要事項の説明、専任の期間の在り方、テール条項の範囲、契約の終了に関する取扱いなどについて、指針の内容と実際の対応とを対照してみることには意味があります。

責任を限定する条項の効力

義務違反を構成できたとしても、次に立ちはだかるのが責任を限定する条項です。M&A仲介契約には、ほぼ例外なくこの種の条項が置かれています。請求の見通しを立てる際には、早い段階でこの条項を読み込み、どの範囲まで争えるのかを見定めておく必要があります。

置かれることの多い条項の型

典型的なものとして、次の五つの型があります。第一に、賠償の額を受領した報酬の額を上限とする型。第二に、逸失利益や間接的な損害を賠償の範囲から除く型。第三に、当事者から提供された情報の正確性及び完全性について責任を負わない型。第四に、成約から一定の期間が経過した後は請求できないとする期間の制限の型。第五に、相手方当事者の債務不履行について責任を負わない型です。

これらのうち、実務上とりわけ効いてくるのは第一の型と第三の型です。賠償の上限が報酬の額に画されている場合、回収し得る金額の上限が最初から見えていることになりますので、費用と時間を投じるだけの実益があるかどうかを冷静に判断する材料になります。

効力が争われ得る場面

これらの条項は、事業者間で締結された契約の条項ですので、消費者の保護を目的とする法律による無効の主張は、通常は難しいと考えられます。株主が個人であっても、会社の株式の譲渡という事業に関わる取引の当事者として契約している以上、消費者としての保護を及ぼすことには困難が伴います。

他方で、故意又は重大な過失によって生じた損害についてまで一切の責任を免れるという部分については、その効力が否定される余地があると解されています。つまり、単なる不注意の水準にとどまる主張では免責の壁を越えにくく、知りながら伝えなかった、あるいは著しく不注意であったという水準の事実を立てられるかどうかが、分かれ目になります。

免責の条項があっても検討する価値が残る理由

免責の条項があるからといって、直ちに諦める必要はありません。損害賠償の請求とは別に、役務が提供されていないことを理由とする報酬の返還の請求を組み立てる余地がありますし、責任限定の条項が対象としている損害の範囲が限定的に書かれていて、問題としている損害がその範囲から外れている場合もあります。条項の文言を一字ずつ読む価値があります。

損害と因果関係

義務違反を構成でき、免責の壁も越えられそうだとなった場合に、最後に残るのが損害と因果関係です。実際には、この二つでつまずく事案が最も多いところです。いくらの損害が生じたのかを金額として示し、それがM&A仲介会社の義務違反によって生じたことを示さなければなりません。

損害の立て方

主張し得る損害としては、次のようなものが考えられます。支払った報酬の額そのもの。買主に返還した代金や支払った和解金の額。適切な説明を受けていれば締結しなかった契約のために支出した費用。事後の紛争の対応に要した調査の費用及び弁護士の費用の一部。これらは金額の裏付けを付けやすい類型です。

これに対して、「本来であればもっと高く売れたはずだ」という差額を損害とする構成は、難易度が上がります。その価格で譲り受ける相手が現に存在したこと、又はその価格で成立し得たことを示さなければならず、企業価値の評価は幅を伴うものであるため、立証は容易ではありません。他の候補者から具体的な金額の提示を書面で受けていた、といった事情がある場合に限って現実味を帯びます。

因果関係が最大の難所となる

因果関係の主張は、大きく二つの型に分かれます。一つは、適切な説明を受けていればそもそも契約しなかった、という型です。もう一つは、説明を受けていれば別の条件で契約していた、という型です。前者は比較的組み立てやすい一方、後者は相手方がその条件に応じたかどうかという仮定を含みますので、立証の負担が重くなります。

また、損害の主たる原因が対象会社の粉飾や相手方当事者の債務不履行にある場合、M&A仲介会社の関与の程度は限定的と評価されやすくなります。この場合、請求の順序としては、まず相手方当事者に対する表明保証の違反に基づく請求や契約の解除を検討し、そこで回収できない部分についてM&A仲介会社への請求を組み立てる、という組み方が現実的です。

過失相殺その他の減額の要素

民法第418条は、債権者に過失があったときは、裁判所がこれを考慮して賠償の額を定める旨を規定しています。デュー・ディリジェンスを費用を惜しんで省略した、契約書を読まないまま調印した、自ら選んだ税理士や弁護士に相談する機会があったのにしなかった、といった事情は、賠償の額を減じる方向に働き得ます。

この点は、請求をする側にとって不都合な事実ではありますが、見通しを誤らないために、あらかじめ正面から評価しておくべきものです。相手方は必ずこの主張をしてきますので、こちらの側で先に洗い出しておくことで、交渉の場で不意を突かれずに済みます。

集めるべき資料

請求の可否を判断するためには、記憶ではなく資料が必要です。とりわけ電子メールは、担当者の退職や端末の入替え、メールの保存期間の設定によって失われることがありますので、検討を始めた時点で速やかに保全してください。関係する時期のメールをまとめて書き出し、別の媒体に保存しておくことをお勧めします。

次の表は、確認しておきたい資料と、そこで何を見るのかを整理したものです。すべてがそろわない場合でも、欠けている点を把握しておくこと自体に意味があります。

区分 集める資料 確認する事項
契約関係 M&A仲介契約書、覚書、報酬に関する別紙、秘密保持契約書 業務の範囲、報酬の計算の方法、責任限定の条項、専任及びテール条項、管轄の定め
提案の段階 提案書、料金の説明の資料、他の候補者に関する説明の資料 報酬の額の説明の有無と内容、想定価格の説明、相手方に関する当初の説明
交渉の経過 電子メール、面談の記録、打合せの議事録、通信アプリの履歴 誰が何をいつ述べたか、伝達された情報と伝達されなかった情報
相手方の情報 企業概要書、意向表明書、基本合意書、相手方の決算書 説明された内容と実際との差異、資金の手当ての説明
調査の段階 デュー・ディリジェンスの報告書、資料の開示の一覧、質問と回答の記録 指摘事項の有無、開示されなかった資料、質問への回答の内容
最終契約 株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、その草案及び修正の履歴 草案からの変更点、変更の説明の有無、表明保証の範囲
損害の裏付け 報酬の請求書と振込みの記録、返還した代金の記録、和解書、費用の領収書 実際に支出した金額、支出の時期、支出と義務違反との結び付き
成約後の経過 買主からの通知書、対象会社の決算書、簿外の債務に関する資料 問題が判明した時期、判明の経緯、時効の起算点に関わる事情

資料を集める際には、時系列の一覧表を作ることをお勧めします。年月日、出来事、関係した人物、根拠となる資料の名称を横に並べた表です。この表を作る過程で、説明があったはずの場面に記録が存在しないという空白が見えてくることがあり、それ自体が主張の手掛かりになります。

交渉及び訴訟の見通し

資料をそろえ、義務違反の構成が立ったとしても、直ちに訴訟を起こすことが最善とは限りません。回収し得る金額の上限、要する費用と期間、対象会社や取引先への影響を並べたうえで、どの段階まで進めるかを段階的に決めていくのが現実的な進め方です。

交渉から始める場合の進め方

まずは、事実関係と法的な評価を整理した通知書を送付し、協議を求めるのが通常の入口です。この段階で、こちらが把握している事実を具体的に示すことができるかどうかが、その後の展開を大きく左右します。抽象的な非難にとどまる通知は、定型的な反論を招くだけで終わりやすいところです。

M&A仲介会社が業務に関する賠償責任の保険に加入している場合には、協議の窓口が保険会社側の担当者や代理人となることがあります。この場合、支払の可否は保険の約款の解釈にも左右されますので、こちらの主張を、約款上の対象に当てはまる形で構成しておくことが、実際の解決に近づく道になります。落としどころとしては、受領した報酬の一部の返還という形が取られることが多くあります。

訴訟に進む場合の負担

訴訟に進む場合、判決までに1年から2年程度を要することは珍しくありません。訴えの提起にあたっては請求する金額に応じた印紙代が必要となり、弁護士の費用も別に生じます。責任限定の条項によって回収の上限が報酬の額に画されている事案では、この費用と回収見込額との対比を最初に行ってください。

また、契約書に専属的な合意管轄の定めが置かれていることが多く、相手方の本店の所在地を管轄する裁判所が指定されている場合には、遠方への出張の負担が加わります。契約書に仲裁による解決の定めが置かれている場合には、そもそも訴訟の提起自体が制限されますので、条項の確認は早い段階で行う必要があります。

期間の制限に注意する

債務不履行に基づく損害賠償の請求権は、民法第166条第1項により、権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年で時効により消滅します。不法行為に基づく請求権については、民法第724条により、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年という期間が定められています。

これに加えて、M&A仲介契約に、成約から一定の期間内に請求しなければならないという独自の期間の定めが置かれていることがあります。この定めは法律上の時効よりも短いことが通例ですので、まずこの条項を確認してください。期間が迫っている場合には、相手方に対する催告や訴えの提起によって、期間の経過を止める手当てを先に検討することになります。

よくあるご質問

ここでは、成約後のトラブルについてご相談をお受けする際に、経営者の方から実際に多く寄せられるご質問を取り上げ、考え方の道筋をお示しします。いずれも事案の内容によって結論は異なりますので、実際の判断にあたっては、契約書と資料を前提とした個別の検討が必要になります。

M&A仲介会社が双方から報酬を受けていたこと自体を問題にできますか

双方と契約して双方から報酬を受ける形態は、M&A仲介型として広く行われているものであり、その形態であること自体が直ちに義務違反になるとは言いにくいところです。問題にし得るのは、その立場にありながら一方に著しく偏った具体的な言動があった場合です。日時、担当者、発言の内容、それを裏付ける記録を特定できるかどうかが鍵になります。

契約書に情報の正確性について責任を負わないと書かれています。もう請求はできませんか

その条項があることで難易度は上がりますが、直ちに断念すべきとは限りません。故意又は重大な過失による損害についてまで免責する部分については、効力が否定される余地があると解されています。したがって、知りながら伝えなかったという水準の事実を立てられるかを検討することになります。また、責任限定の条項が対象としていない損害が別に生じていないかも確認する価値があります。

担当者が口頭で述べた内容と契約書の中身が違います。口頭の説明は証拠になりますか

口頭の説明も証拠になり得ますが、記録がなければ「言った、言わない」の水準にとどまり、認定は容易ではありません。面談の後に送られたお礼のメール、日程の連絡に添えられた要約、こちらから確認のために送った質問とその回答など、口頭の内容を裏付ける書面の断片を探してください。手帳や日誌への当時の書き込みも、記載の時期が特定できれば意味を持ちます。

買主から簿外の債務を理由に代金の返還を求められています。M&A仲介会社に請求できますか

まず確認すべきは、その簿外の債務の存在をM&A仲介会社が知っていた、又は容易に知り得たかという点です。資料の授受を取り次ぐ立場にとどまり、調査は買主側のデュー・ディリジェンスに委ねられていたのであれば、M&A仲介会社の責任を問うことは難しくなります。他方、質問への回答の過程でM&A仲介会社が関与していた形跡があれば、その内容を精査する意味があります。

成約から3年が経っています。まだ間に合いますか

債務不履行に基づく請求については、権利を行使することができることを知った時から5年という期間が定められていますので、成約から3年という一事で当然に手遅れになるわけではありません。ただし、M&A仲介契約に独自の短い期間の定めが置かれている場合がありますので、まず契約書の該当条項をご確認ください。期間が迫っている場合には、先に期間の経過を止める手当てを検討します。

訴訟をせずに解決できますか。費用はどの程度かかりますか

実際には、通知書の送付とその後の協議によって、受領した報酬の一部の返還という形で解決に至る事案も相応にあります。訴訟に進んだ場合には、印紙代と弁護士の費用に加え、1年から2年程度の期間を要することが多くあります。責任限定の条項によって回収の上限が定まっている事案では、この対比を最初に行い、どこまで進めるかを段階的に決めていくことをお勧めします。

M&A仲介会社ではなく、買主本人に請求すべき場合もありますか

そのような場合は少なくありません。対象会社の状況について虚偽の説明があった、約束された代金が支払われない、譲渡後の従業員の処遇に関する合意が守られていないといった事案では、株式譲渡契約における表明保証の条項や債務不履行の規定に基づいて、相手方当事者に直接請求する方が筋の通った構成になります。両方の可能性を並べて検討することが、回収の実現に近づく道になります。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。