M&A仲介会社の説明と契約書の内容が違うと感じたときの確認手順

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M&A仲介会社から受けた説明と、実際に示された契約書の条項とが食い違うと感じた場合には、記憶に頼らず、書面に即して差異を特定する作業が出発点となります。本記事では、売主の立場から、その確認の手順を整理いたします。

M&A仲介会社に対する損害賠償請求そのものの検討事項については別の記事で扱っています。あわせて御覧ください。

M&A仲介会社の担当者から何度も説明を受け、条件がおおむね固まったところで、契約書の案が送られてきた。印刷して読み進めていくと、どうも聞いていた話と違うように感じる。譲渡代金の受取り方が説明と違う気がする、従業員の処遇について聞いていた話が書かれていない、自分が負う責任が思っていたよりも重く書かれている。そうした違和感を抱えたまま、署名の期日だけが近づいてくる。中小企業のM&Aで、経営者が最も落ち着かない気持ちになる場面の一つです。

このとき、二つの方向に進みがちです。一つは、担当者を信頼して細かいことは言わずに署名してしまう方向です。もう一つは、話が違うと感情的に問い詰め、相手方や担当者との関係が険悪になる方向です。どちらも、経営者にとって望ましい結果につながりにくい進み方です。必要なことは、感情を交えずに、どの条項のどの文言が説明とどう違うのかを特定し、その点について書面で確認を求めることです。

本稿では、説明と書面とが食い違うように感じたときに、署名の前にとるべき手順を順を追って述べます。あわせて、契約書に置かれることの多い完全合意の条項という定めが、口頭の説明の扱いにどのような影響を与えるのかを説明します。この条項の存在によって、署名の前に書面で確認を求めておくことの重みが大きく変わります。

Contents
  1. 署名の前であれば、まだ何も確定していません
    1. 契約書の案は交渉の出発点です
    2. 質問することで話が壊れるわけではありません
    3. 基本合意書の段階と最終契約書の段階は別です
  2. どの条項のどの文言が説明と違うのかを特定します
    1. 契約書を印刷し、通しで読みます
    2. 3つの列からなる対照表を作ります
    3. 「聞いていない」と「聞いた話と違う」を分けます
    4. 説明の食い違いは意図的でないことが多いという前提に立ちます
  3. 口頭の説明はどこまで意味を持つか
    1. 完全合意の条項という定めがあります
    2. この条項が置かれると何が起きるか
    3. それでも口頭の説明が意味を持ち得る場面
    4. 記録が残っているかどうかで結論が変わります
  4. 書面で確認を求める方法
    1. 電子メールで条項を特定して尋ねます
    2. 返答が口頭で来たときは自分でまとめ直します
    3. 説明の内容を契約書そのものに反映させます
    4. 修正を求める事項に優先順位を付けます
  5. よくある食い違いの類型
    1. 譲渡代金の内訳と支払の時期に関する食い違い
    2. 経営者保証と貸付金の処理に関する食い違い
    3. 従業員の処遇と引継期間に関する食い違い
    4. 表明保証と補償の範囲に関する食い違い
    5. M&A仲介会社に支払う手数料に関する食い違い
  6. 署名してしまった後にできること
    1. まず時系列と資料を集めます
    2. クロージングの前か後かで対応が変わります
    3. 契約書の中に手当てを探します
    4. 錯誤や詐欺の主張は容易ではありません
    5. M&A仲介会社との関係を整理します
  7. よくあるご質問
    1. 担当者に質問をすると、話が壊れてしまわないでしょうか
    2. 完全合意の条項を削除してもらうことはできますか
    3. 電子メールのやり取りは証拠として役に立ちますか
    4. M&A仲介会社の担当者は、こちらの味方ではないのでしょうか
    5. 署名の期日が迫っていますが、延ばしてもらえるものでしょうか
    6. 弁護士に相談する場合、何を持参すればよいでしょうか

署名の前であれば、まだ何も確定していません

最初に確認しておきたいことは、契約書の案が届いた段階では、まだ何も確定していないという事実です。案は案であり、当事者が署名して初めて契約としての効力が生じます。届いた文書が製本され、条項番号が振られ、専門的な言い回しで書かれていると、動かしがたいもののように見えます。しかし、そこに書かれた文言は、これから当事者の間で詰めるべき交渉の材料にすぎません。

契約書の案は交渉の出発点です

中小企業のM&Aでは、株式譲渡契約の案を買主側の代理人が作成することが多く見られます。作成した側の立場が文言に反映されているのは、ある意味で当然のことです。売主として、そこに書かれた条件をすべて受け入れなければならない理由はありません。逆に、売主側が案を作成した場合には、買主が同じことを考えます。案が届いた段階でこちらから修正を求めることは、交渉の作法から外れた行為ではなく、通常の過程です。

質問することで話が壊れるわけではありません

経営者から最も多く伺う懸念は、細かいことを言うと相手方の気持ちが冷めてしまうのではないか、というものです。ここまで時間と費用をかけてきた案件を、自分の質問で壊したくないという気持ちは自然なものです。しかし、条項の意味を尋ねることと、条件を大きく覆すこととは別のことです。「第何条のこの文言は、以前伺った説明とどのように対応するのかを教えてください」という尋ね方であれば、相手方の面目をつぶすことにはなりません。むしろ、内容を理解しないまま署名した当事者が後になって不満を述べることのほうが、案件にとっては大きな危険です。

基本合意書の段階と最終契約書の段階は別です

基本合意書に署名済みだから、もう条件は変えられないと考える方もいます。基本合意書は、独占交渉権や秘密保持のように一部の条項に法的な拘束力を持たせつつ、価格や取引条件そのものについては拘束力を持たせない形で作成されることが一般的です。ご自身の基本合意書の拘束力に関する条項をお読みください。そこに「価格その他の取引条件については法的拘束力を有しない」旨の定めがあれば、最終契約書の段階で条件を協議する余地は残されています。

どの条項のどの文言が説明と違うのかを特定します

違和感を有効な交渉材料に変えるためには、それを具体的な言葉に落とす作業が要ります。「なんとなく話が違う」という状態のままでは、相手方に伝えることも、専門家に相談することもできません。この作業に特別な知識は不要であり、経営者ご自身で進められます。

契約書を印刷し、通しで読みます

画面上で読むと、条項の間の関係が見えにくくなります。全文を印刷し、鉛筆を持って最初から最後まで読み通してください。1回目は理解できない箇所があっても止まらずに読み、2回目に印を付けます。付ける印は3種類で足ります。説明と違うと感じた箇所、意味が分からない箇所、聞いた覚えのない条件が書かれている箇所です。譲渡対象の資産の一覧や開示資料の一覧といった別紙にも、本文と食い違う内容が入り込んでいることがありますので、同じように読みます。

3つの列からなる対照表を作ります

印を付け終えたら、表計算のソフトでも手書きでも構いませんので、3つの列からなる表を作ります。左の列に条項番号と該当する文言をそのまま書き写し、中央の列に「自分が受けた説明はこうだった」という理解を書き、右の列に「したがってどう直してほしいのか」を書きます。この表ができれば、それがそのまま相手方への質問状の下書きになり、弁護士に相談する際の資料にもなります。表を作る過程で、実は説明と矛盾していなかったと気付く項目も出てきます。

「聞いていない」と「聞いた話と違う」を分けます

食い違いには、性質の異なる二つのものがあります。一つは、説明を受けた内容と契約書の文言とが正面から矛盾している場合です。もう一つは、契約書に書かれている事項について、そもそも説明を受けた記憶がないという場合です。前者は交渉で修正を求めるべき事項であり、後者はまず説明を求めるべき事項です。この二つを混ぜて伝えると、相手方には全体が非難として受け取られます。表の中で色を分けるなどして、区別しておくことをお勧めします。

説明の食い違いは意図的でないことが多いという前提に立ちます

実務上、説明と書面の食い違いの多くは、M&A仲介会社が意図的に事実を曲げたことから生じるのではありません。専門用語の理解に差があること、口頭の説明では条件の一部が省略されがちであること、交渉の過程で条件が変わったのに変更の説明が十分でなかったこと、この三つがおもな原因です。たとえば「役員退職慰労金を含めて総額いくら」という説明が、契約書では株式の譲渡代金と役員退職慰労金とに分かれて記載されているという場合、金額の合計は説明どおりでも、経営者には話が違うように見えます。相手方を疑ってかかるのではなく、まず理解の差を埋めるという姿勢で臨むほうが、結果として早く解決します。

口頭の説明はどこまで意味を持つか

ここが本稿で最も重要な部分です。担当者から受けた口頭の説明は、後から持ち出せば通用するのでしょうか。結論から述べますと、契約書に完全合意の条項が置かれている場合、口頭の説明を後から持ち出すことは相当に難しくなります。この点を理解しているかどうかで、署名前の行動が変わります。

完全合意の条項という定めがあります

株式譲渡契約の末尾に近い部分、雑則や一般条項と題された箇所に、次のような趣旨の条項が置かれていることが多くあります。「本契約は、本契約の目的事項に関する当事者間の合意の全部を構成し、本契約締結前における当事者間の口頭又は書面による合意、表明、了解その他一切の意思表示に優先し、これらに取って代わる」という定めです。これが完全合意の条項です。ご自身の契約書案を開き、この趣旨の条項があるかどうかを確認してください。表題が「完全合意」となっていない場合もありますので、末尾付近の条項を一つずつお読みいただく必要があります。

この条項が置かれると何が起きるか

この条項があると、契約書に書かれていない口頭の説明は、当事者間の合意の内容ではないと扱われることになります。後日、「担当者からこう説明されたのだから、そういう合意だったはずだ」と主張しようとしても、契約書自体に「書面に書かれたものが合意の全部である」と定めた以上、その主張は通りにくくなります。当事者双方が事業者であり、契約書を読む機会があったという事情も、この判断を後押しします。消費者を保護するための法律の枠組みは、事業者どうしの取引には及びません。

それでも口頭の説明が意味を持ち得る場面

完全合意の条項があれば口頭の説明が一切無意味になるかというと、そこまで極端でもありません。相手方が事実と異なることを積極的に告げ、そのために誤った認識に基づいて契約したという場合には、民法の詐欺に関する定め、あるいは錯誤に関する定めに基づいて契約の効力を争う余地が残ります。また、契約の成立前の交渉過程における説明義務の違反を理由として、損害の賠償を求める主張がされることもあります。ただし、いずれも主張する側が事実を証明する必要があり、認められる範囲は事案によって大きく異なります。争いになれば時間と費用がかかります。

記録が残っているかどうかで結論が変わります

上記のような主張を試みる場合であっても、結局は証拠の問題に帰着します。担当者から交付された提案書、条件を整理した一覧表、電子メールでのやり取り、面談の際に取ったご自身の手控え、これらが残っているかどうかが分かれ目になります。口頭のやり取りしか存在しない場合、記憶の食い違いとして処理されてしまう可能性が高いといえます。だからこそ、署名の前に、書面で確認を求めておくことが決定的に重要になります。

書面で確認を求める方法

違和感を特定し、口頭の説明が後から使いにくいことを理解したら、次は書面で確認を求める段階です。難しい文書を作る必要はありません。電子メールで足ります。要点は、条項番号を挙げること、自分の理解を書くこと、書面での回答を求めること、この三つです。

電子メールで条項を特定して尋ねます

宛先は、M&A仲介会社の担当者で構いません。相手方当事者に直接送るかどうかは、案件の進み方によりますので、まずは窓口となっている担当者に送るのが穏当です。文面は、たとえば次のような形になります。「お送りいただいた株式譲渡契約書案について、確認させていただきたい点が3点あります。第1に、第何条の譲渡代金に関する定めですが、以前のご説明では役員退職慰労金を含めた総額として伺っておりました。この条項の金額はどちらを指すものか、ご教示ください」。感情を交えず、事実と条項番号だけを書くことが要点です。件名に日付を入れておくと、後から探しやすくなります。

返答が口頭で来たときは自分でまとめ直します

電子メールで尋ねても、担当者から電話で回答が来ることがあります。この場合、電話を切った後に、「先ほどお電話で伺った内容を確認させていただきます。第何条については、こういう趣旨であるとのことでした。相違があればご指摘ください」という電子メールを送ってください。相手方から訂正がなければ、そのやり取りが記録として残ります。この一手間が、後日の争いの有無を大きく左右します。

説明の内容を契約書そのものに反映させます

回答を得て、説明が正しかったことが確認できたとしても、そこで終わりにしないでください。完全合意の条項がある以上、契約書に書かれていない事項は合意の内容として扱われません。したがって、確認できた内容は契約書に落とし込む必要があります。方法は主として三つあります。第1に、当該条項の文言そのものを修正する方法です。第2に、別紙を作成し、対象となる資産や従業員の処遇を具体的に列挙して契約書の一部とする方法です。第3に、売主又は買主の表明保証の条項に一項目を加え、確認した事実を表明の対象とする方法です。どの方法が適するかは条件の性質によりますので、修正の案を作る段階では弁護士の関与を求めることをお勧めします。

修正を求める事項に優先順位を付けます

すべての違和感を契約書に反映させようとすると、交渉が長期化します。優先順位の目安として、金銭の授受に関わる事項、署名後に自分が負う義務に関わる事項、期限の定めのある事項、この三つを上位に置いてください。実務上どちらでも結果が変わらない表現の違いは、後回しにして差し支えありません。

よくある食い違いの類型

ご相談を伺っていますと、説明と契約書の食い違いには一定の型があります。あらかじめ知っておけば、契約書を読むときに確認すべき箇所が絞られます。以下に、中小企業のM&Aで頻出する類型を挙げます。

譲渡代金の内訳と支払の時期に関する食い違い

最も多い類型です。総額としては説明どおりでも、株式の譲渡代金と役員退職慰労金との内訳が説明と異なる場合、手取りの金額が変わります。また、代金の一部を一定期間留保する定めや、譲渡後の業績に応じて追加の代金を支払う定めが置かれている場合、契約の時点で確実に受け取れる金額は説明された総額よりも小さくなります。契約書を読む際には、金額そのものだけでなく、いつ、どのような条件で支払われるのかを条文から追ってください。

経営者保証と貸付金の処理に関する食い違い

金融機関に対する経営者としての個人保証について、「譲渡後に外れます」という説明を受けていたにもかかわらず、契約書には買主が金融機関と協議する努力をする旨しか書かれていない、という食い違いがよく起こります。個人保証を外すには金融機関の同意が必要であり、買主だけで決められることではないためです。ここは、保証が外れることをクロージングの前提条件とするのか、努力義務にとどめるのかによって、経営者が負うことになる危険の大きさが変わります。会社から経営者への貸付金や、経営者から会社への貸付金の処理についても、同じように確認が必要です。

従業員の処遇と引継期間に関する食い違い

従業員の雇用を維持するという説明を受けていたのに、契約書にはその旨の定めがない、という例も多く見られます。また、譲渡後に前の経営者が会社に残る期間について、「半年程度」と聞いていたのに、契約書では2年間の役職員としての在任や、競業を避ける義務の期間が5年と定められていた、という食い違いも生じます。在任の期間と報酬、競業を避ける義務の範囲と期間、これらは条文を読めば確認できる事項です。

表明保証と補償の範囲に関する食い違い

「形式的なものですから」と説明された表明保証の条項が、実際には売主が広範な責任を負う内容になっている場合があります。表明保証とは、契約の時点で一定の事実が真実であることを相手方に対して保証する定めであり、これに違反すると補償の義務が生じます。責任を負う期間の上限、金額の上限、いくら以上の損害から補償の対象とするかという下限、これらの定めの有無を確認してください。これらの定めがない契約書は、売主にとって責任の範囲が見えにくいものになります。

M&A仲介会社に支払う手数料に関する食い違い

M&A仲介会社との間の契約に関する食い違いもあります。手数料の算定の基礎となる金額が、株式の譲渡代金なのか、負債を含めた企業価値なのかによって、支払う金額は大きく変わります。また、案件が成立しなかった場合の取扱い、独占的に依頼する期間、契約を終了した後も一定期間は手数料の支払義務が残るという定めの有無も、確認すべき事項です。この契約は最終契約書よりも前に結ぶものですので、早い段階で目を通しておく必要があります。

署名してしまった後にできること

すでに署名を終えた後で食い違いに気付いた、という段階でご相談をいただくこともあります。署名前と比べて選択の幅は狭くなりますが、できることが皆無というわけではありません。段階に応じて対応が変わりますので、まず現在の状況を整理することから始めます。

まず時系列と資料を集めます

最初にすべきことは、資料の収集です。契約書の全文と別紙、案の各版、担当者から受け取った提案書や条件の一覧表、電子メールの全部、面談の際の手控え、これらを日付順に並べてください。どの時点でどのような説明を受け、どの時点で契約書の文言が変わったのかを一覧にすると、争点が見えてきます。電子メールは、削除していなければ数年前のものでも残っていることが多く、有力な資料になります。

クロージングの前か後かで対応が変わります

株式譲渡契約に署名しても、代金の支払と株式の引渡しを行うクロージングは、後日に設定されていることが一般的です。この間に食い違いに気付いた場合には、クロージングの前提条件が満たされているかを確認するという方法があります。前提条件が満たされていなければ、クロージングを行う義務は生じません。また、この期間中に契約の内容を変更する覚書を交わすことも、相手方が応じるのであれば可能です。クロージングを終えた後は、契約の解除や無効の主張は事実上難しくなり、金銭による解決を求める方向が中心となります。

契約書の中に手当てを探します

契約書自体に、救済の手がかりが含まれていることがあります。表明保証の条項に、説明を受けた事実と対応する項目が入っていれば、その違反を理由として補償を求める余地があります。買主の側であれば、売主が開示した資料と実際の状況が異なる場合の定めが使えることもあります。また、譲渡後に一定の行為をする旨の約束が条項として置かれていれば、その履行を求めることができます。まずは契約書を精読し、使える条項があるかどうかを探すことが先です。

錯誤や詐欺の主張は容易ではありません

契約の効力そのものを争う方法として、民法の錯誤に関する定めや詐欺に関する定めに基づく取消しの主張があります。もっとも、これらが認められるためには、単に説明と違ったというだけでは足りず、認識に誤りがあったこと、その誤りが契約をするかどうかの判断にとって重要であったこと、相手方が事実と異なることを告げたことなどを、主張する側が証拠によって示す必要があります。完全合意の条項がある場合には、契約書に書かれていない説明を根拠とする主張はさらに通りにくくなります。事案によって結論は異なりますので、資料を持参して弁護士に相談し、見込みを検討した上で方針を決めることが現実的です。

M&A仲介会社との関係を整理します

説明を行った当事者がM&A仲介会社であった場合、その会社との間の契約に基づく責任を検討することもあります。ただし、M&A仲介会社は売主と買主の双方に関与する立場に立つことが多く、一方の当事者の代理人として交渉する立場とは異なります。感情的な非難ではなく、契約書と記録に基づいて整理することが、結果として建設的な解決につながります。

よくあるご質問

以下では、説明と契約書の内容が違うと感じた場面について、経営者の方から実際によく寄せられるご質問にお答えします。個別の事情によって結論は変わり得ますので、ご自身の案件については、契約書と経過の資料をそろえた上でご相談ください。

担当者に質問をすると、話が壊れてしまわないでしょうか

条項の意味を尋ねることで案件が壊れることは、通常は考えにくいところです。相手方も、内容を理解しないまま署名した当事者が後から不満を述べる事態を避けたいと考えています。ただし、尋ね方には配慮が要ります。「話が違う」という抗議の形ではなく、「第何条のこの文言について、以前伺った説明との対応を教えてください」という確認の形にしてください。質問の数が多い場合は、優先順位の高いものから3点程度に絞って伝えると、やり取りが進みやすくなります。

完全合意の条項を削除してもらうことはできますか

交渉の対象にはなり得ますが、削除に応じてもらえないことが多いのが実情です。この条項は、契約書に書かれた内容だけで権利義務を確定させ、後日の争いを避けるという目的で置かれているものであり、相手方にとっても意味のある定めだからです。したがって、削除を求めるよりも、契約書に書かれていないと困る事項を洗い出し、それを条項や別紙として契約書の中に入れてもらうほうが、現実的で確実な対応となります。

電子メールのやり取りは証拠として役に立ちますか

役に立ちます。契約書に完全合意の条項がある場合、電子メールに書かれた説明がそのまま合意の内容になるわけではありませんが、どのような説明がされたのかという事実を示す資料としては有用です。特に、相手方から送られてきた文書や、こちらの理解を書いて送り、相手方が訂正しなかったやり取りは意味を持ちます。案件が動いている間は、電子メールを削除せず、案件ごとにまとめて保存しておくことをお勧めします。

M&A仲介会社の担当者は、こちらの味方ではないのでしょうか

味方か敵かという捉え方は、実態に合いません。M&A仲介会社は、売主と買主の双方と契約を結び、両者が合意できる着地点を探す立場に立つことが一般的です。この立場は、相手方を見つけて話をまとめるという点で大きな価値を持ちますが、一方の当事者のためだけに条件を争う立場とは異なります。したがって、自分の側の利益に関わる条項については、別に弁護士などの助言を得るという役割分担が適しています。

署名の期日が迫っていますが、延ばしてもらえるものでしょうか

理由を示して申し入れれば、応じてもらえる場合があります。「内容を確認したいので1週間いただきたい」という申入れは、通常の交渉の範囲内です。期日が動かせない事情がある場合には、確認したい事項を絞り、その点だけを覚書や別紙で手当てするという方法もあります。いずれにしても、理解しないまま署名することは避けるべきです。署名の後で修正を求めるほうが、はるかに大きな労力を要します。

弁護士に相談する場合、何を持参すればよいでしょうか

契約書の案の全文と別紙、基本合意書、M&A仲介会社との間の契約書、担当者から受け取った提案書や条件の一覧表、主要な電子メールの写し、そしてご自身が作成した対照表をお持ちください。対照表があると、どこが争点なのかがすぐに把握でき、限られた時間を有効に使えます。また、譲渡代金の希望額、譲渡後にどこまで会社に関わる意向があるか、従業員の処遇についての考えといった、ご自身の優先順位もあわせてお伝えいただけると、修正の案を作りやすくなります。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、平成23年には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ております。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。