継続的な取引の解約が制限される場合

譲り受けた会社と20年以上にわたり取引を続けてきた仕入先から、突然、取引を終了する旨の通知が届きました。契約書には「当事者は3か月前の予告により本契約を解約することができる」と定められております。当社は、当該仕入先からの供給を前提として設備投資を行っており、代替の調達先を確保するには相当の期間を要します。契約の定めのとおりに終了させられてしまうのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。長期にわたる継続的な取引の解消については、契約に解約に関する定めが置かれている場合であっても、その行使が制限されるという議論があり、これを認めた裁判例があります。もっとも、認められる場面は限られており、また制限の内容は、解約そのものを認めないというよりも、相当の予告期間を要する、又は損害の賠償を要するという形で現れることが多いものです。本記事では、制限が問題となる場面と、対応の方法を整理いたします。
第1節 原則 契約の定めによります
契約自由の原則
契約の当事者は、契約の内容を自由に定めることができます。解約に関する定めが置かれている場合には、その定めに従って契約を終了させることができるのが原則です。
期間の定めがない場合
期間の定めがない継続的な契約については、各当事者がいつでも解約の申入れをすることができるのが原則です。契約に予告期間の定めがある場合には、その期間によります。
期間の定めがある場合
期間の定めがある契約については、期間の満了により終了いたします。更新に関する定めが置かれている場合には、その定めによります。
自動的に更新される旨が定められている場合において、相手方が更新を拒絶したときは、その拒絶の効力が問題となります。
まず契約を確認いたします
表1 確認すべき事項
| 事項 | 確認の内容 |
|---|---|
| 契約の期間 | 期間の定めの有無 |
| 更新 | 自動更新の定め、拒絶の方法と期限 |
| 解約 | 予告期間、方法、理由の要否 |
| 解除の事由 | 債務不履行その他の事由 |
| 終了後の措置 | 既存の発注、在庫、金型等の取扱い |
| 契約書の有無 | 書面によらない取引である場合の扱い |
契約書がない場合
長年の取引でありながら、契約書が作成されていないことがあります。この場合には、取引の慣行、注文書及び請書のやり取り、過去の取扱いから、契約の内容を認定することとなります。
第2節 解約が制限されるという議論
議論の内容
長期にわたり継続してきた取引については、一方の当事者が契約の定めに従って解約する場合であっても、やむを得ない事由を要する、又は相当の予告期間若しくは損失の補償を要するという議論があり、これを認めた裁判例があります。
根拠
この議論の根拠としては、信義誠実の原則(民法第1条第2項)及び権利の濫用の禁止(民法第1条第3項)が挙げられます。
長期の取引により、当事者は相手方との取引が継続することを前提として、設備投資、人員の配置、他の取引先との関係の整理を行っております。この期待を一方的に裏切ることが、信義に反すると評価される場面があるという考え方です。
考慮される事情
表2 制限の可否の判断において考慮される事情
| 事情 | 視点 |
|---|---|
| 取引の期間 | 何年にわたり継続してきたか |
| 依存の程度 | 売上又は仕入れに占める割合 |
| 専用の投資 | 当該取引のために行った設備投資等 |
| 相手方の関与 | 投資を相手方が求めていたか |
| 解約の理由 | 合理的な理由があるか |
| 予告の期間 | 代替を確保するために十分か |
| 契約書の有無 | 解約の定めが明記されているか |
| 交渉の経緯 | 改善の機会が与えられたか |
認められる場面は限られます
もっとも、この議論が認められる場面は限られております。契約に解約に関する定めが明記されており、これに従って予告がされている場合には、認められにくいものです。
とりわけ、当事者がいずれも事業者であり、対等な立場で契約を締結した場合には、契約の定めが尊重される傾向にあります。
制限の内容
制限が認められる場合であっても、解約そのものが無効となるとは限りません。予告期間を延長すべきであった、又は損害の賠償を要するという形で現れることが多いものです。
したがって、取引の継続を求めることよりも、時間を確保すること、損失の補償を求めることが、現実的な目標となります。
第3節 専用の投資が行われている場合
最も重要な要素
当該取引のためにのみ用いられる設備、金型、システムに投資している場合には、解約により当該投資が無駄となります。この点は、制限の可否の判断において重要な要素となります。
相手方の関与
投資が相手方の求めにより行われた場合や、相手方が投資の計画を認識していた場合には、その事情が考慮されます。
投資に関する協議の記録、相手方からの依頼の書面、投資の計画を共有した資料を収集いたします。
回収の状況
投資の回収がどの程度進んでいたかも考慮されます。投資から間もない時期の解約については、制限が認められやすくなります。
金型及び治具の取扱い
相手方が所有する金型等を用いて製造していた場合には、その返還の要否と時期についても協議が必要となります。契約における定めを確認いたします。
第4節 解約の理由の検討
理由が示されているか
解約の通知に理由が記載されているかを確認いたします。理由が示されていない場合には、その説明を求めることが考えられます。
合理的な理由がある場合
品質又は納期に関する問題、価格の競争力の低下、相手方の事業の縮小といった合理的な理由がある場合には、解約の制限は認められにくくなります。
他方、改善の機会が与えられていなかった場合には、その点を主張することが考えられます。
不当な目的による場合
価格の引下げに応じないことへの報復、他の取引に関する要求を受け入れないことへの制裁として解約がされた場合には、権利の濫用に当たるとの主張が考えられます。
優越的な地位に関する法令
取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、その地位を利用して不当に不利益を与える行為については、独占禁止法において規制が設けられております。また、下請取引については、別途の法令による規制が設けられております。
これらは直接に私法上の効力を定めるものではありませんが、行政に対する申告を検討することができる場合があります。
第5節 対応の進め方
まず協議を求めます
解約の通知を受けた場合には、まず協議を求めます。書面により、取引の継続を求める旨、少なくとも予告期間の延長を求める旨を伝えます。
直ちに法的な主張を前面に出すことは、関係を悪化させ、かえって解決を遠ざけることがあります。
求める内容
現実的な目標としては、次のものが考えられます。第一に、予告期間の延長です。第二に、段階的な縮小です。第三に、既存の発注の履行です。第四に、専用の設備及び在庫の買取りです。第五に、金銭による補償です。
資料の整理
取引の期間、取引の額の推移、依存の程度、行った投資の内容と額、投資に関する協議の記録を整理いたします。これらが、交渉及び手続における基礎となります。
代替の確保
並行して、代替の調達先又は販売先の確保を進めます。交渉が調わない場合に備える必要があるためです。
法的な手続
協議が調わない場合には、地位の確認を求める手続、又は損害の賠償を求める手続を検討いたします。もっとも、取引の継続を命ずる判断を得ることは容易ではありません。
第6節 平時における備え
契約書の整備
長年の取引でありながら契約書が作成されていない場合には、これを整備いたします。期間、更新、解約の予告期間、終了後の措置を明記いたします。
予告期間の設定
専用の投資を行う場合には、その回収に要する期間を踏まえた予告期間を定めることが望まれます。また、投資の回収が完了する前に解約された場合の補償についても定めておくことが考えられます。
依存の程度の管理
特定の取引先への依存の程度が高い状態は、それ自体が経営上の危険です。取引先の分散を進めることが、最も確実な備えとなります。
M&Aにおける確認
会社を取得する場合には、デューデリジェンスにおいて、主要な取引先への依存の程度、契約の期間及び解約の定め、専用の投資の状況を確認いたします。
依存の程度が高い場合には、株式譲渡契約において、取引先の離脱が生じた場合の取扱いを定めておくことが望まれます。
第7節 弁護士に相談する意味
この類型について弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、契約における期間、更新、解約に関する定めを確認することです。第二に、取引の期間、依存の程度、専用の投資の状況を整理し、解約の制限に関する主張が成り立つかを検討することです。第三に、協議を求める書面を作成し、予告期間の延長又は補償を求めることです。第四に、協議が調わない場合の手続を検討することです。第五に、平時においては、契約の整備について助言することです。
この類型においては、取引の継続そのものを実現することは容易ではありません。現実的には、時間を確保すること、損失の補償を得ることが目標となります。通知を受けた段階で、速やかに協議に入ることが重要です。
具体的な主張の組み立ては、契約の定め、取引の経緯、投資の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 契約書に3か月前の予告と書いてあれば、それに従うほかないのですか。
原則としてはそのとおりです。もっとも、長期にわたる継続的な取引については、解約が制限されるという議論があり、これを認めた裁判例があります。取引の期間、依存の程度、専用の投資の状況により、主張の余地を検討いたします。
質問2 どのような場合に制限が認められますか。
取引の期間が長いこと、依存の程度が高いこと、当該取引のための専用の投資を行っていること、その投資が相手方の求めによるものであること、解約に合理的な理由がないことが、制限が認められる方向に働きます。
質問3 取引を続けさせることはできますか。
取引の継続を命ずる判断を得ることは容易ではありません。制限が認められる場合であっても、予告期間の延長又は損害の賠償という形で現れることが多いものです。時間を確保すること、損失の補償を得ることが現実的な目標となります。
質問4 契約書がありません。
取引の慣行、注文書及び請書のやり取り、過去の取扱いから、契約の内容を認定することとなります。契約書がないことは、解約の定めが明記されていないことを意味しますので、この点では主張の余地が広がる面があります。
質問5 まず何をすべきですか。
書面により協議を求めることです。あわせて、取引の期間、取引の額の推移、行った投資の内容と額、投資に関する協議の記録を整理いたします。並行して、代替の調達先又は販売先の確保を進めることが必要です。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、継続的な取引の解約に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、取引に関する基本契約書、解約の通知、取引の額の推移が分かる資料、専用の設備及び投資に関する資料、相手方とのやり取りの記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。
弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第1条第2項(信義誠実の原則)、第1条第3項(権利の濫用の禁止)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第416条(損害賠償の範囲)、第540条(解除権の行使)、第541条(催告による解除)、第542条(催告によらない解除)、第709条(不法行為)
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)、第19条(不公正な取引方法の禁止)
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