支配権の異動を理由に取引先から契約を解除された場合の検討

会社の株式を取得いたしましたところ、譲受けの直後に、主要な取引先から契約を解除する旨の通知が届きました。理由として「貴社の株主が変更されたことにより、当社との契約に定める解除の事由が生じた」と記載されております。当該取引先との取引は、対象会社の売上の相当部分を占めており、事業の継続に重大な影響が生じます。どのように対応すればよいのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。支配権の異動を理由とする解除は、契約にいわゆる支配権の異動に関する条項が置かれている場合に問題となります。この場合であっても、条項の要件を満たしているか、解除権の行使が制限される場面に当たらないかを検討する余地があります。また、長期にわたる継続的な取引については、解約が制限されるという議論があります。あわせて、売主に対する補償の請求も検討いたします。本記事では、検討の順序を整理いたします。

第1節 まず契約の条項を確認いたします

 支配権の異動に関する条項

継続的な取引に関する基本契約においては、一方の当事者の支配権に異動が生じた場合に、他方の当事者が契約を解除することができる旨の条項が置かれていることがあります。

この条項は、契約の相手方が誰の支配の下にあるかを重視する取引において置かれるものです。

 条項の内容

表1 条項において確認する事項

事項 確認の内容
要件となる事由 議決権の過半数の異動か、代表者の変更か
解除の可否 直ちに解除できるか、協議を要するか
事前の通知 異動の前に通知する義務があるか
同意の要否 相手方の事前の同意を要するか
予告の期間 解除に予告の期間が必要か
解除の効果 既存の発注の取扱い、精算の方法
違約金 違反した場合の金額の定め

 条項がない場合

支配権の異動に関する条項が置かれていない場合には、支配権の異動そのものを理由として解除することはできません。

この場合、取引先は、期間の満了による終了、又は他の解除の事由を主張することとなります。通知の内容を確認し、いずれの根拠によるものかを特定いたします。

 要件の充足

条項がある場合であっても、その要件を満たしているかを検討いたします。「議決権の過半数を有する株主の変更」とされている場合において、変更がこれに至らないときは、要件を満たさないこととなります。

第2節 通知及び同意の義務との関係

 事前の通知の義務

条項において、支配権の異動の前に通知する義務が定められている場合があります。この義務が履行されていない場合には、義務の違反となります。

もっとも、通知の義務の違反があったとしても、そのことのみで契約が解除されるとは限りません。条項の定め方によります。

 事前の同意

相手方の事前の同意を要する旨が定められている場合には、同意を得ないまま支配権を異動させたことが義務の違反となります。

この場合、取引先が同意を拒絶することに合理的な理由があるかが問題となり得ます。合理的な理由なく同意を拒絶することができない旨が定められている場合には、この点を主張することが考えられます。

 秘密保持との関係

M&Aの交渉においては、成立の前に取引先へ知らせることが困難な場合があります。他方、事前の通知又は同意を要する条項がある場合には、これに反することとなります。

デューデリジェンスにおいて、主要な取引先との契約における支配権の異動に関する条項を確認し、決済の前に対応を検討することが望まれます。

 決済の前の対応

条項がある場合には、決済の前に取引先に説明し、同意又は継続の確約を得ておくことが考えられます。これを決済の前提条件とすることもあります。

第3節 解除権の行使が制限される場面

 権利の濫用

権利の濫用は、これを許さないとされております(民法第1条第3項)。解除権の行使が、専ら相手方に損害を与える目的による場合や、著しく不当な目的による場合には、この主張が考えられます。

もっとも、この主張が認められる場面は限られております。

 信義誠実の原則

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならないとされております(民法第1条第2項)。長年にわたる取引関係、相手方が行った投資、解除により生じる影響の大きさを踏まえ、解除権の行使が制限されるとの主張が考えられます。

 継続的な契約の解消に関する議論

長期にわたる継続的な取引については、その解消に際して、やむを得ない事由を要する、又は相当の予告期間を要するという議論があり、これを認めた裁判例があります。

もっとも、契約に解除の事由が明記されている場合には、この議論によることは容易ではありません。

 優越的な地位に関する法令

取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、その地位を利用して不当に不利益を与える行為については、独占禁止法において規制が設けられております。

取引先が対象会社に対して優越的な地位にある場合には、この観点からの検討の余地があります。もっとも、これらの規制は直接に私法上の効力を定めるものではありません。

 真の理由の検討

支配権の異動は表向きの理由であり、実際には価格の引下げを求める、又は他の取引先に切り替えることが目的である場合があります。

この場合、真の理由を明らかにすることにより、交渉の余地が生じることがあります。

第4節 交渉による解決

 まず協議を求めます

法的な主張を行う前に、取引先との協議を求めることが実際的です。取引の継続を求める書面を送付し、面談の機会を求めます。

 取引先の懸念を把握いたします

取引先が解除を望む背景には、次のような懸念があることが考えられます。第一に、新たな支配株主が競合する事業を営んでいることです。第二に、技術又は情報が競合他社に流出することへの懸念です。第三に、品質及び供給の継続に対する不安です。第四に、担当者との関係が失われることへの懸念です。

これらの懸念に対して、具体的な措置を示すことにより、解決に至ることがあります。

 示し得る措置

表2 取引先に示し得る措置

懸念 示し得る措置
情報の流出 秘密保持に関する体制の説明、追加の合意
競合関係 担当する部門の分離、情報の遮断
品質及び供給 体制の維持に関する確約、責任者の継続
担当者との関係 担当者の継続、引継ぎの方法の説明
価格 一定期間の条件の維持
会社の方針 事業の継続に関する経営方針の説明

 予告期間の確保

解除そのものを避けることが困難な場合には、少なくとも相当の予告期間を確保することを求めます。代替の取引先を確保するための時間を得ることができます。

 段階的な縮小

取引を直ちに終了させるのではなく、段階的に縮小する形とすることを求めることも考えられます。

第5節 売主に対する請求

 表明保証との関係

株式譲渡契約においては、主要な取引先との契約に関する表明保証がされているのが通例です。契約の一覧が正確であること、解除の事由が生じていないこと、支配権の異動に関する条項の有無が対象とされます。

支配権の異動に関する条項の存在が開示されていなかった場合には、表明保証の違反が問題となります。

 開示別紙の確認

デューデリジェンスにおいて当該条項が確認され、開示別紙に記載されている場合には、補償の請求が制限されることがあります。記載の範囲を確認いたします。

 取引の継続に関する表明

主要な取引先が取引を終了する意向を示していない旨の表明保証がされている場合において、譲渡の前から意向が示されていたときは、その違反が問題となります。

 通知

解除の通知を受けた時点で、契約に定められた期間内に、売主に対する通知を行います。損失の額が確定していない場合であっても、まず通知を行います。

 損害の主張

取引先の離脱による損害としては、失われた利益、代替の取引先を確保するために要した費用、企業価値の減少が考えられます。いずれも立証は容易ではありません。

第6節 譲受けの前に備えておくこと

 契約の確認

デューデリジェンスにおいて、主要な取引先との契約における支配権の異動に関する条項の有無を確認いたします。この確認は、法務デューデリジェンスの中心的な項目の一つです。

 決済の前の対応

条項がある場合には、決済の前に取引先の同意を得ることを検討いたします。これを決済の前提条件とすることもあります。

他方、取引先に知らせることにより取引が不安定となる危険もありますので、時期と方法は慎重に判断する必要があります。

 契約における手当て

主要な取引先の離脱が生じた場合の取扱いを、株式譲渡契約に定めておくことが考えられます。代金の一部を留保する、一定期間内に離脱が生じた場合に減額する、違約金を定めるといった方法です。

 譲渡後の対応

決済の後、速やかに主要な取引先へ挨拶を行い、事業の継続に関する方針を説明することが望まれます。説明が行われない状態が続きますと、憶測により不安が拡大いたします。

第7節 弁護士に相談する意味

この類型について弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、取引先との契約における支配権の異動に関する条項を確認し、要件の充足を検討することです。第二に、解除権の行使が制限される場面に当たるかを検討することです。第三に、取引先に対する回答及び協議の申入れの書面を作成することです。第四に、株式譲渡契約における表明保証の違反を検討し、期間内に通知を行うことです。第五に、譲受けの前の段階においては、契約の確認と決済の条件について助言することです。

この類型においては、法的な主張よりも、取引先の懸念に応える交渉が有効であることが少なくありません。他方、売主に対する通知の期限は徒過しないよう管理する必要があります。

具体的な対応の方針は、契約の定め、取引の内容、取引先の懸念等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 株主が変わっただけで契約を解除できるのですか。

契約に支配権の異動に関する条項が置かれている場合には、その要件を満たすときに解除が問題となります。条項がない場合には、支配権の異動そのものを理由として解除することはできません。まず契約の条項を確認いたします。

質問2 条項はありますが、長年の取引先です。

長期にわたる継続的な取引については、その解消に際してやむを得ない事由又は相当の予告期間を要するという議論があります。もっとも、契約に解除の事由が明記されている場合には、この議論によることは容易ではありません。

質問3 事前に知らせるべきだったのでしょうか。

条項において事前の通知又は同意が求められている場合には、これに従う必要があります。他方、M&Aの交渉においては成立の前に知らせることが困難な場合もありますので、デューデリジェンスの段階で条項を確認し、決済の前に対応を検討することが望まれます。

質問4 売主に請求できますか。

主要な取引先との契約に関する表明保証がされている場合には、その違反として補償を請求することが考えられます。開示別紙の記載と、契約上の請求期間を確認する必要があります。

質問5 まず何をすべきですか。

取引先との協議を求めること、契約の条項を確認すること、売主に対する通知の期限を確認することの3つです。取引先の懸念に応える具体的な措置を示すことにより、解決に至ることがあります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、支配権の異動を理由とする取引先からの契約の解除に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、取引先との基本契約書、解除の通知、株式譲渡契約書及び開示別紙、デューデリジェンスの報告書、取引の実績に関する資料をご用意いただけますと、検討が早く進みます。

弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第1条第2項(信義誠実の原則)、第1条第3項(権利の濫用の禁止)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第540条(解除権の行使)、第541条(催告による解除)、第542条(催告によらない解除)、第545条(解除の効果)、第709条(不法行為)

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)、第19条(不公正な取引方法の禁止)

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