買収後に許認可の問題が発覚した場合の確認手順と売主への請求

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許認可の問題の判明に関するメインのページです。本ページは、M&Aで会社を譲り受けた後に許認可の欠落が判明した場面で、承継の扱いと失効の危険をご説明します。訴訟及び労働紛争は別のページをご参照ください。

訴訟又は労働紛争が判明した場面は買収後に訴訟や労働紛争が発覚した場合の確認手順と売主への請求を、契約書にない債務が見つかった場面は譲り受けた会社に契約書にない債務が見つかった場合の請求の道筋を、それぞれご覧ください。

買収の実行を終え、新しい体制で事業を回し始めた頃に、許認可をめぐる問題が表面化することがあります。担当者から「実は許可の更新をしていません」と打ち明けられる、行政庁の担当部署から立入りの予告が届く、取引先から「御社の登録番号が現在のものと違うようだ」と指摘される、といった形で発覚します。いずれの入口であっても、買主が直面するのは、明日以降その事業を続けてよいのかという、極めて実務的な問いです。

この場面で判断を誤りやすいのは、二つの問題が同時に押し寄せてくるためです。一つは、事業を継続できるかどうかという行政上の問題であり、もう一つは、その状態を売主に対して責任として問えるかという契約上の問題です。この二つは、確認すべき事実も、動くべき時間の単位も異なります。行政上の問題は日単位で動くのに対し、契約上の問題は表明保証の期間制限との関係で月単位の期限を持ちます。両者を混同して同時に走らせると、行政庁への説明の中で不用意に事実を認め、その内容が後の売主との交渉で自らの首を絞める、ということが起こります。

本稿では、中小企業のM&Aで会社又は事業を取得した買主の方を念頭に、許認可の問題が発覚した場面において、何を、どの順序で確認し、事業の継続と売主への請求とをどのように同時に判断するかを整理します。

Contents
  1. その事業に必要な許認可を特定する
    1. 現に行っている業務から逆算して洗い出す
    2. 許認可の一覧表を作る
    3. 証明書の原本を自分の目で確かめる
  2. 株式譲渡と事業譲渡とで承継の扱いが異なる
    1. 株式譲渡では会社そのものが変わらない
    2. 事業譲渡では原則として承継されない
    3. 株式譲渡でも届出や再審査を要する場合
  3. 失効及び取消しの危険をどう見るか
    1. 期間の満了による失効
    2. 人的要件及び物的要件の欠落
    3. 欠格事由及び処分の履歴
    4. 危険度の高い順に並べ替える
  4. 表明保証の条項との関係
    1. どの表明が働くかを確認する
    2. 買主が知っていたかどうか
    3. 期間制限、下限及び上限
    4. 特別補償の有無
  5. 営業を停止した場合の損害
    1. 停止の範囲を確定する
    2. 損害の費目を積み上げる
    3. 証拠を発生と同時に残す
  6. 行政庁への対応
    1. 自主的に申し出るかどうか
    2. 説明の準備と資料
    3. 是正計画を示す
    4. 供述と契約上の主張との整合
  7. 売主への請求
    1. まず通知を出す
    2. 請求の内容を組み立てる
    3. 回収の手当てを考える
    4. 和解による解決の形
  8. よくあるご質問
    1. 株式譲渡で会社を買いました。許認可を取り直す必要はありますか。
    2. 事業譲渡で事業を買いました。売主の許可のまま営業を続けてよいでしょうか。
    3. 不備を行政庁に自分から申し出るべきでしょうか。
    4. 買収から1年以上が過ぎています。売主に請求できますか。
    5. デュー・ディリジェンスで許認可を確認していませんでした。買主の落ち度になりますか。
    6. 専任の有資格者が退職してしまいました。すぐに営業を止めるべきでしょうか。
    7. 売主が「知らなかった」と言っています。それでも責任を追及できますか。

その事業に必要な許認可を特定する

最初に行うべきは、問題が指摘された許認可の周辺だけを見るのではなく、その会社が現に行っている事業の全体について、必要な許認可を洗い出す作業です。一つの許認可の不備が見つかる会社では、他にも同種の不備が潜んでいることが多く、部分的な対処を重ねると、後から次の問題が出てくるたびに行政庁と売主の双方に対する説明を繰り返すことになります。

現に行っている業務から逆算して洗い出す

洗い出しの出発点は、定款の目的や会社案内の記載ではなく、直近1年間に実際に売上が立った業務です。売上の補助元帳を取引の内容ごとに分類し、それぞれについて「この行為を業として行うために、行政庁の許可、登録、免許、届出のいずれかが要るか」を確認します。中小企業では、本業に付随して始めた小さな業務が、本業とは別の許認可を要する行為に該当していることがあります。運送、産業廃棄物の取扱い、人材の派遣及び紹介、古物の売買、建設工事、食品の製造及び販売、賃貸不動産の媒介、金銭の貸付けなどは、付随的に行われていても独立した規制の対象となり得る典型です。

許認可の一覧表を作る

洗い出した結果は、一覧表の形にまとめます。項目としては、許認可の名称、根拠となる法令、所管する行政庁及び窓口、許可番号又は登録番号、名義人、取得日、有効期間の満了日、更新の申請期限、人的要件として配置を要する有資格者の氏名及びその資格の有効期限、直近の変更届出の日付、備考としての条件又は附款の有無を並べます。この一覧表は、以後の行政庁への説明でも、売主への請求でも、そのまま基礎資料になります。

証明書の原本を自分の目で確かめる

一覧表を作る過程では、許可証、登録証、通知書の原本を実際に手に取って確認します。コピーや事務所に掲示された標識だけを見て済ませると、期限が切れたものが掲示されたままになっている場合に見落とします。原本が見当たらない許認可については、所管する行政庁に対し、現在の登録の状況を照会することができます。多くの分野では登録簿が公開されており、名義人、番号、有効期間を外部から確認できますので、社内の資料と照らし合わせます。

株式譲渡と事業譲渡とで承継の扱いが異なる

許認可の問題を考えるうえで、まず押さえるべき分かれ目は、その取引が株式譲渡であったか、事業譲渡であったかです。この違いによって、許認可が手元に残っているのかどうかという出発点そのものが変わります。同じ「会社を買った」という言葉で語られていても、法的な帰結はまったく異なります。

株式譲渡では会社そのものが変わらない

株式譲渡は、会社の株主が入れ替わる取引です。許認可を受けている主体は会社という法人であり、その法人格は取引の前後で同一のまま存続します。したがって、許認可は原則としてそのまま維持され、取り直しは要りません。取引先との契約、従業員との雇用関係、賃貸借契約なども同様に会社に帰属したまま残ります。買主にとっては、これが株式譲渡を選ぶ実務上の大きな利点です。

もっとも、これは「何もしなくてよい」という意味ではありません。後述するとおり、株式譲渡であっても届出や再審査を要する場合があり、それを怠れば、原則として維持されるはずの許認可が危うくなります。

事業譲渡では原則として承継されない

これに対し、事業譲渡は、譲渡会社が有する資産、負債、契約その他の事業用の財産を個別に移す取引です。許認可は、その名宛人である法人又は個人に対して与えられたものですから、財産の移転に伴って自動的に移るものではありません。したがって、事業譲渡では、許認可は原則として承継されず、譲受人が自らの名義で新たに取得し直すことになります。

ここが実務上もっとも危険な落とし穴です。事業譲渡の実行日をもって譲受人が営業を始めたものの、許認可の申請が間に合っていない、あるいは申請すらしていない、という状態は、無許可又は無登録での営業に当たり得ます。分野によっては、譲渡人の許認可の地位を譲受人が引き継ぐことを認める特別の制度が置かれていることもありますが、その場合でも行政庁の認可や事前の届出を要するのが通常であり、当事者間の合意だけで移るわけではありません。自社の事業がその制度の対象に当たるかどうかは、必ず所管の行政庁に確認します。

株式譲渡でも届出や再審査を要する場合

株式譲渡において許認可が原則として維持されるといっても、次のような事項は、株主が変われば当然に生じる変化であり、多くの分野で行政庁への届出の対象とされています。買主としては、実行日から所定の期間内に届け出るべきものが漏れていないかを、必ず確認する必要があります。

  • 役員の変更の届出。旧経営陣が退任し、買主側の者が代表取締役や取締役に就任した場合の届出です。期限が定められている分野が多く、失念しやすい典型です。
  • 専任の有資格者の配置に関する届出。事業所ごとに一定の資格者を専任で置くことを要する分野では、その資格者が退任又は退職すれば、要件を欠く状態になります。
  • 本店の所在地、商号、事業所の名称及び所在地の変更の届出。買主のグループに合わせて商号や本店を移す場合に生じます。
  • 株主又は出資者の変更の届出。支配権を有する者の氏名や持株の割合を届け出るべきものとされている分野があります。
  • 支配権の変更に伴う承認又は再審査。分野によっては、実質的な支配者が変わることを、新規の許認可に準じて審査する扱いがされることがあります。

これらのうちどれが自社に当てはまるかは、業種と根拠法令によって異なりますので、網羅的に暗記するのではなく、先に作成した許認可の一覧表の1件ごとに、所管の行政庁の窓口又は公表されている手引きに当たって確認するという枠組みで臨みます。

失効及び取消しの危険をどう見るか

次に、判明した不備が、どの程度の危険を含むものかを評価します。同じ「許認可の問題」といっても、放置すれば自動的に効力を失うもの、行政庁の処分によって初めて効力を失うもの、事実上の運用で是正が認められるものがあり、対応の緊急度が異なります。

期間の満了による失効

もっとも単純で、かつ実際に多いのが、有効期間の満了です。更新の申請には期限が定められているのが通常で、その期限を過ぎると、たとえ事業の実態に問題がなくても効力が失われ、新規の取得と同じ手続を要することになります。新規の取得には審査の期間を要しますので、その間、当該業務を行えないという事態が生じ得ます。まず確認すべきは、一覧表に記載した満了日と、更新の申請書の控え及び行政庁の受付印の有無です。

人的要件及び物的要件の欠落

次に多いのが、要件を満たさなくなっている状態です。専任で配置すべき有資格者が退職している、その資格者が名義だけで実際には常勤していない、事業所として届け出た場所の面積や設備が要件を欠いている、といった類型です。買収を機に旧経営陣や古参の従業員が退職した場合、その者が唯一の有資格者であったために、実行日の翌日から要件を欠く状態になっていた、という例は珍しくありません。この場合、失効そのものではなく、是正を求める行政指導や業務の改善命令が先に来ることが多いものの、放置すれば取消しに向かいます。

欠格事由及び処分の履歴

さらに確認すべきは、欠格事由に触れる事情がないかという点です。役員に一定の前科や過去の処分の履歴がある場合、それ自体が許認可を維持できない理由になり得ます。買主側から新たに就任させた役員が、他の事業で処分を受けた経歴を持っていたために、買収後に問題が生じるという逆方向の事例もあります。あわせて、過去に受けた行政指導、警告、業務の停止命令の履歴を確認します。処分の履歴があると、次の違反に対する処分が重くなる扱いがされるのが一般的ですので、同じ不備でも危険度が上がります。

危険度の高い順に並べ替える

以上の確認を終えたら、不備を、事業への影響の大きさと処分の可能性の高さの二つの軸で並べ替えます。売上に占める割合が大きい業務に関わるもの、既に失効しているもの、行政庁が現に把握しているものから順に着手します。すべてを同時に処理しようとすると、どれも中途半端になります。

表明保証の条項との関係

行政上の対応と並行して、契約上の責任を検討します。多くの株式譲渡契約及び事業譲渡契約には、売主が買主に対して一定の事実を保証する表明保証の条項が置かれています。許認可の問題は、この条項と正面から関係します。

どの表明が働くかを確認する

契約書を開き、次の表明が置かれていないかを確認します。第一に、事業の遂行に必要な許認可をすべて有効に取得し維持しているという表明です。第二に、法令を遵守して事業を行っているという表明です。第三に、行政庁から調査、指導、処分を受けておらず、そのおそれもないという表明です。第四に、開示した資料が正確であり、重要な事実の記載漏れがないという表明です。許認可の不備は、これらのうち複数に同時に反することが通常であり、どの表明に反するかによって、立証すべき事実の中身が変わります。

買主が知っていたかどうか

次に確認すべきは、買主の認識に関する条項です。契約によっては、買主がデュー・ディリジェンスで知り得た事項については売主が責任を負わない、という趣旨の定めが置かれています。逆に、買主の認識にかかわらず売主が責任を負うと定めている契約もあります。前者の定めがある場合、デュー・ディリジェンスの過程で当該許認可についてどのような資料が開示され、どのような質問と回答がやり取りされたかが決定的な意味を持ちます。質問への回答書、開示資料の一覧、電子的な資料室の閲覧の履歴を、日付の分かる形で保全します。

期間制限、下限及び上限

表明保証に基づく請求には、通常、期間の制限が設けられています。実行日から1年、あるいは18か月といった定めが一般的で、この期間内に所定の方式で通知しなければ請求できなくなります。加えて、1件当たりの金額の下限、累計額の下限、賠償の上限が定められていることも多く、これらの設計によっては、不備が小さく分散していると1件も請求できないという結果になり得ます。関連する複数の不備を一つの事由としてまとめられるかどうかは、条項の文言によって左右されますので、通知の前に検討します。

特別補償の有無

デュー・ディリジェンスの段階で許認可に懸念が示されていた場合、その事項について、表明保証とは別に、期間や金額の制限を受けない特別の補償の条項が置かれていることがあります。契約書の末尾や別紙に置かれていることが多く、見落としやすい部分です。該当する条項があれば、そちらの方が請求の要件として有利であることが少なくありません。

営業を停止した場合の損害

許認可の不備が判明した結果、当該業務を一時的に止めざるを得なくなることがあります。この停止に伴う損害をどう捉え、どう記録するかは、後の請求の成否を大きく左右します。損害は、発生した時点で費目ごとに記録しておかなければ、後から再構成することが難しくなります。

停止の範囲を確定する

まず、止めるべき業務の範囲を正確に定めます。会社の事業のうち、当該許認可を要する行為に限って止めれば足りるのか、それとも工程が一体であるために他の業務も連鎖して止まるのかを整理します。過剰に広く止めれば損害が不必要に拡大し、その分について「自らの判断で拡大させた損害である」と反論される余地を与えます。逆に、無許可の状態で継続すれば、違反の状態がさらに重くなります。どの範囲で止めるかは、行政庁の見解を確認したうえで、記録の残る形で意思決定します。

損害の費目を積み上げる

損害としては、次のようなものが考えられます。停止していた期間の逸失利益、すなわち止めなかったならば得られたはずの利益です。稼働がないまま支払い続けた人件費、賃料、リース料、保険料といった固定的な費用です。取引先に対して支払った違約金や、納期の遅延に伴う値引きです。許認可を取り直すために要した申請の費用、有資格者の採用又は外部への委託の費用、設備を要件に適合させるための工事の費用です。加えて、弁護士や行政書士に支払った費用も、契約上の定め方によっては請求の対象に含め得ます。

証拠を発生と同時に残す

これらの費目は、いずれも「止めた期間」と「止めたことによる差」を示す資料と結び付けて初めて金額になります。停止を決めた日の社内の決裁書、行政庁とのやり取りの記録、停止した業務に係る前年同期の売上と利益の推移、停止期間中に断らざるを得なかった受注の一覧、取引先からの通知書を、その都度、日付の分かる形で保存します。逸失利益については、停止の直前までの実績に基づく算定と、停止後に回復した水準との比較を示せるようにしておくと、説明の説得力が増します。

行政庁への対応

売主への請求よりも先に、行政庁への対応の方針を決めます。事業を継続できるかどうかは行政庁との関係で決まるものであり、ここを誤ると、後から契約上の主張がどれほど正しくても事業そのものが立ち行かなくなります。

自主的に申し出るかどうか

不備を自ら申し出るか、指摘を待つかは、慎重な判断を要します。一般に、自主的な申告と速やかな是正は、処分の程度を判断するうえで有利に働く事情として考慮されることが多いといえます。他方で、申告によって初めて行政庁が事実を把握し、調査が広がることもあります。判断の材料は、不備の性質、期間の長さ、利用者や取引先に与えた影響の有無、行政庁が既に把握している可能性の高さです。特に、利用者の安全や財産に影響し得る不備については、申告しない選択は現実的ではありません。

説明の準備と資料

行政庁に説明する際は、事実を時系列に整理した書面を用意します。いつからいつまで、どの要件を欠いていたのか、その原因は何か、その間の業務の件数と内容はどうであったか、現在どこまで是正が進んでいるか、を数字で示します。ここで重要なのは、原因の説明として「前の経営者が対応していなかった」とだけ述べないことです。行政庁が見ているのは、現在の会社が要件を満たす体制を持つかどうかであり、責任の所在をめぐる当事者間の事情は、処分の判断において決定的な要素にはなりにくいためです。

是正計画を示す

あわせて、いつまでに、誰が、何をして要件を満たすのかを記した是正の計画を示します。有資格者の採用又は社内での資格取得、設備の改修、社内の管理台帳の整備と点検の周期、責任者の明示といった内容を、期日を入れて具体的に書きます。買収を機に管理体制を作り直す、という説明ができれば、再発の防止に向けた姿勢として受け止められる余地があります。ただし、示した期日を守れなければ逆効果になりますので、実行できる範囲で立てます。

供述と契約上の主張との整合

行政庁に提出した書面の内容は、売主との交渉や訴訟でも用いられ得ます。「引継ぎの際に説明を受けていた」といった記載を安易に書けば、買主が不備を知っていたという主張の根拠にされかねません。逆に、売主に責任を転嫁する記載を強調しすぎれば、行政庁からは是正の意思が乏しいと受け取られます。両方の場面を見据えて、事実のみを正確に、評価を交えずに記述するのが安全です。

売主への請求

行政上の対応の見通しが立った段階で、売主への請求に移ります。ただし、表明保証の通知期限が迫っている場合には、行政上の対応の結論を待たずに、まず通知だけを先に出す必要があります。

まず通知を出す

多くの契約は、請求の要件として、期間内に、書面で、事由の内容と根拠となる条項を特定して通知することを求めています。この時点で損害額が確定していなくても構わないのが通常ですので、確定を待って期限を徒過することのないようにします。通知には、判明した事実、違反すると考える表明保証の条項、現時点で見込まれる損害の項目、追って金額を通知する旨を記載し、配達証明付きの内容証明郵便など、到達を証明できる方法で送付します。契約に通知の宛先や方法の定めがあれば、それに従います。

請求の内容を組み立てる

請求の中身としては、表明保証の違反に基づく補償が中心になります。事案によっては、売主が不備を知りながら開示しなかったといえる場合に、詐欺又は不法行為の構成を併せて主張する余地もあります。後者は、期間制限や賠償の上限の適用を受けない可能性がある一方、売主の認識を立証する負担が重くなります。どちらを主軸に置くかは、資料の状況によって決めます。売主が代表者として自ら更新の手続に関与していた形跡、行政庁からの過去の指導文書、社内で不備を認識していたことを示す稟議書や電子メールが残っていれば、認識の立証が現実的になります。

回収の手当てを考える

請求が認められても、売主に支払う資力がなければ回収できません。譲渡代金の一部が第三者に預託されている場合や、分割払いの残代金がある場合には、その部分について、契約に定められた相殺や留保の手続を検討します。売主が個人であり代金を既に費消しているおそれがあるときは、財産の保全を先に検討することもあり得ます。もっとも、保全の手続には担保の提供を要するのが通常で、要件も厳格ですから、費用と時間に見合うかを事前に見極めます。

和解による解決の形

実際には、代金の一部の返還、是正に要する費用の負担、有資格者の確保についての協力、一定期間の顧問としての関与といった組合せで和解に至ることが少なくありません。特に、売主側の人的な資源が是正に不可欠である場合には、金銭のみを追及するよりも、協力を得る内容を含める方が事業の継続にとって有利になることがあります。何を最優先とするのかを、交渉に入る前に決めておきます。

よくあるご質問

買収の後に許認可の問題が発覚した場面について、買主の方からよくお受けするご質問と、その考え方の筋道を整理します。個別の結論は業種と契約書の文言によって異なりますので、あくまで確認の出発点としてご覧ください。

株式譲渡で会社を買いました。許認可を取り直す必要はありますか。

株式譲渡では会社という法人格が変わりませんので、許認可は原則としてそのまま維持され、取り直しは要らないのが通常です。ただし、役員が変わったこと、専任の有資格者が入れ替わったこと、本店や商号を変更したこと、支配権を有する者が変わったことについて、届出を要する分野が多くあります。分野によっては、支配権の変更を新規の申請に準じて審査する扱いがされることもあります。許認可の1件ごとに、所管の行政庁の手引きで届出の要否と期限を確認してください。

事業譲渡で事業を買いました。売主の許可のまま営業を続けてよいでしょうか。

原則として認められません。許認可は名宛人である法人又は個人に与えられたものであり、事業用の財産の移転に伴って自動的に移るものではないためです。譲受人が自らの名義で取得し直すのが原則です。分野によっては地位の引継ぎを認める制度が置かれていることもありますが、その場合も行政庁の認可や事前の届出を要するのが通常です。既に営業を始めてしまっている場合は、直ちに当該業務の取扱いを所管の行政庁に確認してください。

不備を行政庁に自分から申し出るべきでしょうか。

事案によります。一般には、自主的な申告と速やかな是正は、処分の程度を判断するうえで有利な事情として考慮されることが多いといえます。他方で、申告によって調査の範囲が広がる可能性もあります。判断にあたっては、不備の期間の長さ、利用者や取引先への影響の有無、行政庁が既に把握している可能性を考慮します。利用者の安全や財産に関わる不備については、申告しない選択は現実的ではありません。

買収から1年以上が過ぎています。売主に請求できますか。

表明保証に基づく請求には、実行日から1年、18か月といった通知の期間が定められているのが通常で、これを過ぎると請求が制限されます。まず契約書の当該条項の文言と起算日を確認してください。期間を過ぎている場合でも、売主が不備を知りながら開示しなかったといえる事案では、その種の場合を期間制限の対象から除く定めが置かれていることがあり、また詐欺や不法行為の構成による請求の余地も残り得ます。いずれも売主の認識の立証が鍵になりますので、資料の保全を先に行ってください。

デュー・ディリジェンスで許認可を確認していませんでした。買主の落ち度になりますか。

契約の定め方によります。買主が知り得た事項について売主が責任を負わないとする条項がある場合、確認しなかったことをどう評価するかが争点になり得ます。一方で、そのような条項がない契約や、買主の認識にかかわらず売主が責任を負うと定めた契約も存在します。まず契約書の文言を確認し、あわせて、デュー・ディリジェンスの過程で売主に対して行った質問と回答、開示された資料の一覧を確認してください。質問に対して事実と異なる回答がされていたのであれば、確認の程度にかかわらず売主の責任を問い得る場合があります。

専任の有資格者が退職してしまいました。すぐに営業を止めるべきでしょうか。

まず、当該資格者の配置が要件とされている業務の範囲を特定してください。会社の事業全体ではなく、特定の事業所や特定の業務に限って要件とされていることが多いためです。そのうえで、要件を欠いた状態で行える業務の範囲について、所管の行政庁に確認します。分野によっては、一定の期間内に後任を配置すれば足りるとされていることもあります。過剰に広く止めれば損害が不必要に拡大しますので、範囲の確定を先に行ってください。

売主が「知らなかった」と言っています。それでも責任を追及できますか。

表明保証は、原則として、売主の認識の有無にかかわらず、保証した事実が真実でなかったこと自体を理由に責任を生じさせる仕組みです。したがって、知らなかったという説明だけで責任を免れるとは限りません。ただし、契約によっては「売主の知る限り」という限定が表明に付されていることがあり、その場合は売主の認識が要件となります。契約書の当該表明にこの限定が付いているかどうかを、条項ごとに確認してください。限定が付いている場合には、更新の手続に売主が関与していた形跡や、行政庁からの過去の文書といった、認識を推認させる資料の有無が重要になります。

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