中途解約金の定めの効力を争う視点

M&A仲介会社との契約を解約したいと考えております。担当者の対応に不満があり、紹介される候補者も当社の希望と合致いたしません。ところが、契約書を確認いたしますと「本契約を期間の途中で解約する場合には、解約金として金○○万円を支払う」との定めがありました。この定めに従って支払わなければならないのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。中途解約金の定めは、当然に無効となるものではありません。もっとも、委任の解除に関する規定との関係、賠償額の予定に関する規定との関係、金額の相当性、仲介会社の側の事情という4つの視点から、その効力又は金額を争う余地があります。まず契約の文言を確認し、解約金の性質を特定することが出発点となります。本記事では、争うための視点を整理いたします。

第1節 まず定めの性質を特定いたします

 三つの性質

中途解約金の定めは、その趣旨により次のように区分されます。

表1 中途解約金の性質

性質 内容 争い方の方向
賠償額の予定 解約により生じる損害をあらかじめ定めたもの 金額の相当性を争います
違約罰 契約に違反したことに対する制裁 違反の有無及び効力を争います
報酬の一部 既に提供された役務の対価 役務の内容と対価の均衡を争います

 文言の確認

「解約金」「違約金」「解約手数料」「精算金」といった名称が用いられます。名称のみによらず、契約の他の条項及び算定の方法から、性質を判断いたします。

金額が定額とされている場合、想定される報酬の額に一定の率を乗じた額とされている場合、残存する期間の月額報酬の合計額とされている場合があります。

 賠償額の予定に関する規定

当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができるとされております(民法第420条第1項)。違約金は、賠償額の予定と推定されます(同条第3項)。

賠償額の予定がされた場合には、現実に生じた損害の額を問わず、予定された額によることとなるのが原則です。したがって、金額そのものを争うためには、後述する視点によることとなります。

第2節 第一の視点 委任の解除に関する規定との関係

 いつでも解除することができます

委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができるとされております(民法第651条第1項)。M&A仲介会社との契約が委任又は準委任の性質を有する場合には、この規定が適用されます。

したがって、解約すること自体は妨げられません。争点は、解約に伴う金銭の支払の要否となります。

 損害賠償を要する場合

委任者が相手方に不利な時期に委任を解除したとき、又は委任者が受任者の利益をも目的とする委任を解除したときは、相手方の損害を賠償しなければならないとされております。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでないとされております(民法第651条第2項)。

したがって、やむを得ない事由がある場合には、損害を賠償する必要がないこととなります。

 やむを得ない事由

表2 やむを得ない事由となり得る事情

事情 内容
役務が提供されないこと 約した業務が行われていないこと
信頼関係の破壊 担当者の対応により信頼関係が失われたこと
利益が相反する対応 依頼者の利益に反する対応がされたこと
説明の不足 重要な事項について説明がされなかったこと
依頼者側の事情の変化 健康上の事情、事業の状況の変化等

これらの事情は、記録により裏付ける必要があります。解約に至るまでのやり取りを、書面又は電子メールにより整理いたします。

 規定と契約の定めとの関係

民法第651条第2項は、任意規定であると解されており、当事者の合意により異なる定めを置くことができます。したがって、契約に解約金の定めが置かれている場合には、その定めが優先するのが原則です。

もっとも、やむを得ない事由がある場合にまで解約金を支払わせる定めについては、その効力を争う余地があります。

第3節 第二の視点 金額の相当性

 公の秩序に反する場合

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とされております(民法第90条)。解約金の額が、生じ得る損害の額に照らして著しく高額である場合には、この規定により、全部又は一部の効力が否定される余地があります。

 検討する要素

金額の相当性は、次の要素により検討いたします。第一に、仲介会社が現実に提供した役務の内容と分量です。第二に、仲介会社が現実に支出した費用の額です。第三に、契約が継続していれば得られたであろう報酬の額と、その蓋然性です。第四に、解約に至った経緯です。

着手から間もない時期に解約する場合において、提供された役務がほとんどないにもかかわらず、成功報酬に相当する額の解約金が定められているときは、相当性を欠くとの主張が成り立ち得ます。

 役務の内容の確認

仲介会社が現実に行った業務を、時系列により整理いたします。企業概要書の作成、候補者の抽出、候補者への打診、面談の設定、資料の作成といった業務のうち、どこまでが行われたかを確認いたします。

候補者への打診が行われていない段階であれば、提供された役務は限られております。

 消費者契約法の適用の有無

消費者契約法においては、消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項について、一定の場合に無効とする規定が置かれております。もっとも、消費者とは、個人であって、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除くものとされております(消費者契約法第2条第1項)。

したがって、会社の譲渡に関する仲介契約については、この法律の適用がないのが通例です。個人が事業と無関係に契約した場合には、適用の余地を検討することとなります。

第4節 第三の視点 仲介会社の側の事情

 義務の違反がある場合

仲介会社に契約上の義務の違反がある場合には、依頼者の側から契約を解除することが考えられます(民法第541条、第542条)。この場合には、依頼者の任意の解約ではありませんので、中途解約金の定めが適用されないと主張する余地があります。

 義務の違反となり得る事情

約した業務が行われていないこと、報告が行われていないこと、依頼者の指示に反する対応がされたこと、利益が相反する状況において適切な対応がされなかったことが挙げられます。

受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告しなければならないとされております(民法第645条)。報告を求めたにもかかわらず応じなかった場合には、この義務の違反となり得ます。

 損害賠償請求権との相殺

仲介会社に義務の違反があり、これにより損害が生じている場合には、その損害賠償請求権をもって、解約金の支払債務と相殺することが考えられます(民法第505条第1項)。

 優越的な地位に関する法令

取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、その地位を利用して不当に不利益を与える行為については、独占禁止法において規制が設けられております。行政において、M&Aの支援に関する取引についても指針等が示されております。

これらは直接に私法上の効力を定めるものではありませんが、定めの相当性を検討する際の参考となる場合があります。

第5節 第四の視点 定めの成立の過程

 説明の有無

契約の締結に際して、解約金に関する定めについて説明がされていたかを確認いたします。説明がされないまま、定型的な書式により締結された場合には、その事情が考慮される余地があります。

 定型約款に関する規定

定型約款による契約については、相手方の権利を制限し、又は義務を加重する条項であって、信義誠実の原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなすとされております(民法第548条の2第2項)。

仲介契約が定型約款に当たるかについては、取引の性質及び個別の交渉の有無により検討する必要があります。個別に交渉して締結された契約については、この規定によることは困難です。

 交渉の余地の有無

契約の締結に際して、条項の修正を求めることができたかどうかも、検討の要素となります。修正の求めを拒絶されていた場合には、その経過を記録により示すことが考えられます。

第6節 進め方

 解約の意思表示

まず、解約の意思表示を書面により行います。書面には、解約する旨、その理由、解約金の支払には応じられない旨とその理由を記載いたします。

解約金の支払に応じられない旨を記載しないまま解約いたしますと、後に定めを承認していたと評価される余地があります。

 説明及び資料の求め

仲介会社に対し、これまでに行った業務の内容、支出した費用の額、解約金の算定の根拠について、説明と資料の提出を求めます。回答の内容自体が、相当性を検討する資料となります。

 協議

協議においては、提供された役務の内容と解約金の額との均衡を中心に主張いたします。一定の額により合意することも、現実的な解決となります。

 テール条項の確認

解約の後の一定期間内に、仲介会社が紹介した相手方との間で取引が成立した場合には報酬が発生する旨の条項が置かれていることがあります。解約に際しては、この条項の内容と適用の範囲を確認しておく必要があります。

 支払を求められた場合

仲介会社から支払を求める訴訟が提起された場合には、これまでに述べた視点から主張することとなります。提供された役務の内容に関する資料が、重要な証拠となります。

第7節 弁護士に相談する意味

中途解約金の定めについて弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、契約の文言から解約金の性質を特定することです。第二に、やむを得ない事由の有無を検討し、記録により裏付けることです。第三に、仲介会社が提供した役務の内容と解約金の額との均衡を検証することです。第四に、仲介会社の側に義務の違反がないかを検討することです。第五に、解約の書面を作成し、その後の協議を進めることです。

解約金の定めは、契約書に置かれていることを理由として、そのまま支払われることが少なくありません。もっとも、定めの効力及び金額については、検討の余地があります。解約を検討する段階で、まず契約を確認することが望まれます。

具体的な検討及び主張の組み立ては、契約の内容、提供された役務、解約に至る経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 契約書に書いてある以上、支払うほかないのではありませんか。

定めが置かれていることのみによって結論が定まるものではありません。やむを得ない事由の有無、金額の相当性、仲介会社の側の事情という視点から検討する余地があります。まず契約の文言を確認いたします。

質問2 担当者の対応が悪いことは理由になりますか。

信頼関係が失われたと評価される事情がある場合には、やむを得ない事由に当たると主張する余地があります。具体的なやり取りを記録により示すことが重要となります。

質問3 まだ候補者を紹介されていません。

提供された役務が限られている場合には、解約金の額との均衡を欠くとの主張が成り立ちやすくなります。仲介会社に対し、これまでに行った業務の内容の説明を求めることが考えられます。

質問4 解約すると、その後に自分で相手方を見付けても報酬を請求されますか。

テール条項が置かれている場合には、一定の期間内に仲介会社が紹介した相手方との間で取引が成立したときに、報酬が発生することがあります。対象となる相手方の範囲と期間を確認する必要があります。

質問5 まず支払ってから争うことはできますか。

支払いますと、定めを承認したものと評価される余地があります。やむを得ず支払う場合には、争う権利を留保する旨を書面により明記しておく必要があります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&A仲介契約の解約及び解約金に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、仲介契約書、締結時に交付された資料、これまでのやり取りの記録、仲介会社から受領した報告書をご用意いただけますと、検討が早く進みます。

弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第90条(公序良俗)、第420条(賠償額の予定)、第505条第1項(相殺)、第541条(催告による解除)、第542条(催告によらない解除)、第548条の2第2項(定型約款)、第643条(委任)、第644条(受任者の注意義務)、第645条(受任者による報告)、第650条第1項(受任者による費用の償還請求)、第651条(委任の解除)、第656条(準委任)

消費者契約法 第2条第1項(消費者の定義)

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