支払った手数料の返還を求められる場合

M&A仲介会社に依頼して会社を譲り渡し、成功報酬として相当額の手数料を支払いました。ところが、譲渡の後になって、仲介会社が買主の事情について重要な点を伝えていなかったこと、また買主からも報酬を受け取っていたことが判明いたしました。既に支払った手数料の返還を求めることはできるのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。既に支払った手数料の返還を求める道筋は、第一に契約の解除又は取消しによる原状回復、第二に債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として報酬相当額を請求する方法、第三に報酬の発生の要件を欠くとして不当利得の返還を求める方法の三つです。いずれによるかは、仲介会社の行為の性質と契約の定めにより異なります。本記事では、それぞれの根拠と、検討の手順を整理いたします。
第1節 まず契約と報酬の根拠を確認いたします
契約の性質
M&A仲介会社との契約は、一般に委任又は準委任の性質を有すると解されております。受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負うとされております(民法第644条)。
報酬の定め方
表1 仲介契約における報酬の定め方
| 種類 | 発生の時期 | 返還を求める際の視点 |
|---|---|---|
| 着手金 | 契約の締結時 | 役務の提供の有無 |
| 月額の報酬 | 毎月 | 提供された役務の内容 |
| 中間金 | 基本合意書の締結時 | 締結に至った経緯 |
| 成功報酬 | 最終契約の締結時又は決済時 | 成果の内容及び算定の基礎 |
成果に対する報酬か、事務の処理に対する報酬か
委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払う旨の合意がされている場合には、その成果の引渡しと同時に報酬を支払うべきものとされております(民法第648条の2第1項)。他方、事務の処理に対して報酬が支払われる場合には、履行の割合に応じた報酬を請求することができる場面が定められております(民法第648条第3項)。
成功報酬は、前者の性質を有するものとして定められていることが多いものです。したがって、成果が生じていない場合や、成果の内容が契約に定められたものと異なる場合には、報酬の発生そのものを争う余地があります。
算定の基礎
成功報酬の額は、譲渡価額又は移動する資産の額等を基礎として算定されるのが通例です。算定の基礎が契約の定めと異なっている場合には、その差額の返還を求めることが考えられます。
移動する資産の総額を基礎とする方式においては、負債の額が含まれることにより、譲渡価額を大きく上回る報酬となることがあります。契約における定義を確認いたします。
第2節 第一の道筋 契約の解除又は取消し
債務不履行による解除
仲介会社が契約上の義務を履行しない場合には、相当の期間を定めて催告した上で契約を解除することが考えられます(民法第541条)。債務の全部の履行が不能である場合等には、催告によらずに解除することができる場面が定められております(民法第542条)。
もっとも、既に譲渡が完了している場合には、履行が終了しているとして、解除が困難となることがあります。
解除の効果
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負うとされております(民法第545条第1項)。したがって、解除が認められる場合には、支払った報酬の返還を求めることができます。
また、金銭を返還するときは、その受領の時からの利息を付さなければならないとされております(民法第545条第2項)。
詐欺又は錯誤による取消し
仲介会社が事実を偽って契約を締結させた場合には、詐欺による取消しを主張することが考えられます(民法第96条第1項)。また、法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する場合には、錯誤による取消しを主張し得る場面があります(民法第95条第1項第2号、第2項)。
取消しがされた行為は、初めから無効であったものとみなされます(民法第121条)。無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負うとされております(民法第121条の2第1項)。
取消権の期間
取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅いたします。行為の時から20年を経過したときも同様とされております(民法第126条)。
第3節 第二の道筋 損害賠償として請求する方法
債務不履行に基づく請求
仲介会社が善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務に違反した場合には、これによって生じた損害の賠償を請求することができます(民法第415条第1項)。
この場合、支払った報酬の額を損害として主張することが考えられます。義務に違反した役務の対価として支払われた金銭であるという構成です。
義務違反として問題となり得る場面
表2 義務違反が問題となり得る場面
| 場面 | 内容 |
|---|---|
| 情報提供の不足 | 判断に重要な事項を伝えなかった場合 |
| 利益が相反する状況 | 双方から報酬を受ける形態における対応 |
| 不正確な資料の作成 | 受領した資料と食い違う記載をした場合 |
| 手続の懈怠 | 約した業務を行わなかった場合 |
| 他の候補者の秘匿 | より有利な条件の候補者を伝えなかった場合 |
| 不適切な助言 | 専門外の事項について確定的な助言をした場合 |
不法行為に基づく請求
仲介会社の行為が不法行為に当たる場合には、これに基づく損害賠償を請求することが考えられます(民法第709条)。担当者個人の行為について、仲介会社が使用者としての責任を負うことがあります(民法第715条第1項)。
この道筋の利点と難点
この道筋は、契約が終了した後であっても用いることができる点に利点があります。他方、義務の違反と、これにより生じた損害との間の因果関係を主張し、立証する必要があります。
報酬の額の全部が損害として認められるとは限らず、一部にとどまることもあります。
第4節 第三の道筋 報酬の発生の要件を欠く場合
成果が生じていない場合
成功報酬が、最終契約の締結又は決済を要件として発生する旨が定められている場合において、これらが生じていないにもかかわらず報酬が支払われていたときは、報酬の発生の要件を欠くこととなります。
法律上の原因なく他人の財産により利益を受けた者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負うとされております(民法第703条)。悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならないとされております(民法第704条)。
算定の誤り
報酬の額が契約に定められた算定の方法によっていない場合には、その差額について同様に返還を求めることが考えられます。
算定の基礎とされた金額、料率、最低報酬の適用の有無を、契約の定めと照合いたします。
二重に報酬を受けている場合
仲介会社が売主と買主の双方から報酬を受けていることは、仲介の形態においては当然に違法となるものではありません。もっとも、その旨が説明されていなかった場合や、一方に有利な取扱いがされていた場合には、義務の違反が問題となり得ます。
契約書にこの点が明記されているか、また実際にどのような説明がされていたかを確認いたします。
第5節 進め方
資料の収集
表3 収集すべき資料
| 資料 | 確認する事項 |
|---|---|
| 仲介契約書 | 報酬の発生の要件、算定の方法、免責の定め |
| 請求書及び領収書 | 支払った金額及び算定の内訳 |
| 企業概要書 | 記載の内容及び体裁 |
| 連絡の記録 | 説明の内容及び質問への回答 |
| 株式譲渡契約書 | 成立した取引の内容 |
| 他の候補者に関する資料 | 提示されていた条件 |
書面による請求
まず、返還を求める旨と、その根拠を記載した書面を送付いたします。内容証明郵便に配達証明を付すことにより、内容と到達の日を記録に残すことができます。
書面には、問題とする行為、契約上の根拠、返還を求める金額、回答の期限を記載いたします。
説明及び資料の求め
あわせて、仲介会社に対し、報酬の算定の根拠、買主から受領した報酬の有無及び額、他の候補者の有無について説明を求めます。回答の内容自体が、後の手続における資料となります。
時効
債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅いたします(民法第166条第1項第1号)。不法行為に基づく請求については、損害及び加害者を知った時から3年とされております(民法第724条第1号)。
いずれの構成によるかにより期間が異なりますので、時効の管理に留意する必要があります。
第6節 弁護士に相談する意味
支払った手数料の返還について弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、仲介契約における報酬の発生の要件と算定の方法を確認し、支払った額との整合を検証することです。第二に、仲介会社の行為の性質を検討し、解除、取消し、損害賠償、不当利得のいずれによるかを判断することです。第三に、返還を求める書面を作成し、説明及び資料の提出を求めることです。第四に、交渉が調わない場合の手続を進めることです。
手数料の額は少額でないことが通例であり、検討する実益がある一方、免責の定めや因果関係の立証といった難点もあります。まず契約の定めと支払の内訳を確認することが出発点となります。
具体的な主張の組み立ては、契約の内容、仲介会社の行為、取引の経過等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 既に支払った後でも返還を求められますか。
求める余地があります。契約の解除又は取消しによる原状回復、損害賠償としての請求、報酬の発生の要件を欠くことを理由とする不当利得の返還といった構成が考えられます。いずれによるかは、仲介会社の行為の性質と契約の定めにより異なります。
質問2 仲介会社が買主からも報酬を受けていました。これだけで返還を求められますか。
仲介の形態においては、双方から報酬を受けること自体が当然に違法となるものではありません。その旨の説明がされていなかった場合や、一方に有利な取扱いがされていた場合には、義務の違反が問題となり得ます。契約の記載と説明の状況を確認いたします。
質問3 報酬の額が譲渡価額を上回っています。
移動する資産の総額を基礎とする方式においては、負債の額が含まれることにより、譲渡価額を上回る報酬となることがあります。契約における算定の基礎の定義を確認し、その定めによっているかを検証いたします。
質問4 契約書に免責の定めがあります。
免責の定めがある場合には、責任の追及が制限されることがあります。もっとも、故意又は重大な過失がある場合にまで免責が及ぶかについては議論があります。定めの文言と行為の性質を踏まえて検討いたします。
質問5 いつまでに請求すればよいですか。
構成により期間が異なります。契約に基づく請求は権利を行使することができることを知った時から5年(民法第166条第1項第1号)、不法行為に基づく請求は損害及び加害者を知った時から3年(民法第724条第1号)とされております。早期に検討を始めることが望まれます。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&A仲介会社に支払った手数料の返還に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、仲介契約書、請求書及び領収書、企業概要書、仲介会社との連絡の記録、株式譲渡契約書をご用意いただけますと、検討が早く進みます。
弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第95条(錯誤)、第96条第1項(詐欺)、第121条(取消しの効果)、第121条の2第1項(原状回復の義務)、第126条(取消権の期間の制限)、第166条第1項(債権の消滅時効)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第541条(催告による解除)、第542条(催告によらない解除)、第545条第1項及び第2項(解除の効果)、第644条(受任者の注意義務)、第648条第3項(受任者の報酬)、第648条の2第1項(成果等に対する報酬)、第651条(委任の解除)、第703条(不当利得の返還義務)、第704条(悪意の受益者の返還義務)、第709条(不法行為)、第715条第1項(使用者等の責任)、第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
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