破談となった案件について成功報酬を請求された場合の検討

M&A仲介会社に会社の譲渡を依頼し、基本合意書の締結まで進みました。ところが、デューデリジェンスの過程で買主の姿勢に不信を抱き、最終契約の締結には至らず、交渉は終了いたしました。その後、仲介会社から成功報酬の請求書が届きました。取引は成立しておりませんのに、報酬を支払わなければならないのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。成功報酬は、契約に定められた発生の要件を満たして初めて発生いたします。したがって、まず契約における報酬の発生の要件を確認し、これを満たしているかを検証することが出発点となります。取引が成立していない場合であっても、仲介会社から、基本合意書の締結により中間金が発生する、破談は依頼者の責めによるものであるといった主張がされることがあります。本記事では、これらの主張の当否を検討する視点を整理いたします。

第1節 まず報酬の発生の要件を確認いたします

 条項の特定

仲介契約における報酬に関する条項を確認いたします。多くの契約においては、報酬の種類ごとに発生の時期が定められております。

表1 報酬の種類と発生の要件の定め方

種類 発生の要件の定め方の例
着手金 本契約の締結時
月額の報酬 毎月末日
中間金 基本合意書又は意向表明書の受領時
成功報酬 最終契約の締結時、又は決済の完了時

 成功報酬の発生の要件

成功報酬の発生の要件が「最終契約の締結」とされている場合には、最終契約が締結されていない以上、報酬は発生いたしません。「決済の完了」とされている場合も同様です。

この場合、仲介会社の請求は、契約上の根拠を欠くこととなります。まず、この点を確認いたします。

 要件が曖昧である場合

「取引が成立したとき」「M&Aが実行されたとき」といった表現にとどまる場合には、その意味が問題となります。契約の他の条項、報酬の算定の方法、交渉の経過から、いずれの時点を指すものであるかを検討いたします。

算定の基礎が「譲渡価額」とされている場合には、譲渡価額が確定する最終契約の締結を前提としていると解する余地があります。

 中間金の性質

基本合意書の締結により中間金が発生する旨が定められている場合には、その支払を免れることは困難であるのが通例です。他方、中間金が成功報酬の一部前払である旨が定められている場合には、取引が成立しなかったときの取扱いを確認いたします。

返還しない旨が明記されている場合と、記載がない場合とで、検討が異なります。

第2節 仲介会社の主張とその検討

 条件の成就を妨げたとの主張

仲介会社から、依頼者が正当な理由なく交渉を打ち切ったことにより報酬の発生の条件が成就しなかったのであるから、条件が成就したものとみなされるべきである、との主張がされることがあります。

条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができるとされております(民法第130条第1項)。

 この主張の検討

この主張が認められるためには、故意に条件の成就を妨げたといえることが必要です。交渉を打ち切ったことに合理的な理由がある場合には、故意による妨害には当たらないと解する余地があります。

表2 交渉を打ち切る合理的な理由となり得る事情

事情 内容
買主の資力への疑義 代金の支払能力に不安が生じたこと
条件の変更 基本合意の内容から不利益に変更されたこと
買主の信用に関する事情 買主又はその関係者に関する懸念が生じたこと
従業員の処遇 雇用の維持に関する方針が異なったこと
デューデリジェンスの結果 買主の要求が過大であったこと
手続の不備 買主が必要な手続を履践しなかったこと

これらの事情は、記録により裏付ける必要があります。交渉の経過に関する電子メール、議事録、書面を整理いたします。

 商法上の報酬請求権の主張

商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができるとされております(商法第512条)。仲介会社から、この規定を根拠とする主張がされることがあります。

もっとも、契約において報酬の発生の要件が明確に定められている場合には、当事者の合意が優先すると解するのが自然です。契約が報酬の発生の要件を定めているにもかかわらず、これを満たさない場合に別途の報酬請求権を認めることは、合意の趣旨に反する余地があります。

 履行の割合に応じた報酬の主張

委任事務の処理に対して報酬が支払われる場合において、委任が履行の中途で終了したときは、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるとされております(民法第648条第3項)。

他方、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払う旨の合意がされている場合については、別に規定が置かれております(民法第648条の2)。成功報酬が成果に対する報酬として定められている場合には、これらの規定の適用関係を検討することとなります。

 実費の請求

受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用の償還を請求することができるとされております(民法第650条第1項)。

報酬とは別に、現実に支出した費用の償還を求められることがあります。この請求については、支出の内容と必要性を確認いたします。

第3節 破談の経緯を整理いたします

 誰の判断により終了したか

交渉が終了した経緯を、時系列により整理いたします。買主から撤回の申出があったのか、依頼者が打ち切ったのか、双方が合意して終了したのかにより、検討が異なります。

買主から撤回の申出があった場合には、条件の成就を妨げたとの主張は成り立ちにくいものです。

 仲介会社の関与

破談に至る過程における仲介会社の対応も検討の対象となります。仲介会社が必要な情報を伝えなかったこと、買主の状況を確認していなかったことが破談の原因となっている場合には、仲介会社の側の事情が考慮される余地があります。

 記録の整理

表3 整理すべき記録

記録 示す事項
仲介契約書 報酬の発生の要件及び解約に関する定め
基本合意書 法的拘束力の有無及び独占交渉の定め
電子メールの往復 交渉の経過及び各当事者の姿勢
面談の記録 説明の内容及び懸念の表明
デューデリジェンスの資料 買主の指摘の内容
終了に関する通知 終了の時期及び理由

第4節 基本合意書の性質を確認いたします

 法的拘束力の有無

基本合意書は、法的拘束力を有しない旨が明記されているのが通例です。もっとも、独占交渉に関する条項、秘密保持に関する条項、費用の負担に関する条項については、拘束力を有する旨が定められていることがあります。

基本合意書に法的拘束力がない場合には、これに基づく取引の成立を前提とする報酬の請求は、根拠を欠くこととなります。

 誠実交渉に関する定め

基本合意書において、誠実に交渉する旨が定められている場合があります。この定めに拘束力があるとしても、交渉を成立させる義務まで負うものではないと解するのが通例です。

もっとも、合理的な理由なく一方的に交渉を打ち切った場合には、この定めに違反するとの主張がされる余地があります。

 仲介会社との関係

基本合意書は、依頼者と買主との間の書面であり、仲介会社との間の書面ではありません。したがって、基本合意書の締結が仲介契約における報酬の発生の要件とされていない限り、その締結のみによって成功報酬が発生するものではありません。

第5節 テール条項の確認

 テール条項とは

仲介契約においては、契約が終了した後の一定期間内に、仲介会社が紹介した相手方との間で取引が成立した場合には、報酬が発生する旨の条項が置かれていることがあります。

破談となった時点では報酬が発生しなくても、その後に同一の相手方との間で取引が成立した場合には、この条項により報酬が発生することがあります。

 確認すべき事項

期間の長さ、対象となる相手方の範囲、相手方の関係者を含むかどうか、取引の形態を問わないかどうかを確認いたします。

この条項がある場合には、破談の後に同一の相手方と再度交渉する際に、その影響を検討する必要があります。

 他の候補者との取引

仲介会社が紹介していない相手方との間で取引が成立した場合には、この条項は適用されないのが通例です。紹介の事実の有無が争点となることがありますので、紹介を受けた候補者の一覧を記録しておくことが望まれます。

第6節 対応の進め方

 直ちに支払わないこと

請求書が届いた場合であっても、直ちに支払うことは適切ではありません。支払いますと、報酬の発生を認めたものと評価される余地があります。

まず、契約における報酬の発生の要件を確認し、これを満たしているかを検証いたします。

 書面による回答

検証の結果、報酬が発生していないと判断される場合には、その旨を書面により回答いたします。回答には、契約の条項を摘示し、要件を満たしていない理由を記載いたします。

あわせて、仲介会社に対し、請求の根拠となる条項と、要件を満たすとする理由の説明を求めます。

 一部について理由がある場合

中間金や実費については、支払を要すると判断される場合があります。この場合には、その範囲を明らかにした上で協議いたします。争う部分と認める部分とを区別することが、解決を早めることにつながります。

 訴訟となった場合

協議が調わない場合には、仲介会社から報酬の支払を求める訴訟が提起されることがあります。この場合、契約における報酬の発生の要件を満たしていないことが、主たる主張となります。

あわせて、仲介会社の対応に問題があった場合には、これを理由とする反論又は反対の請求を検討いたします。

 和解

争いが長期に及ぶことを避けるため、一定の額により和解することも考えられます。和解に際しては、清算に関する条項を置き、テール条項の効力についても明確にしておくことが望まれます。

第7節 弁護士に相談する意味

破談となった案件について報酬を請求された場合に弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、仲介契約における報酬の発生の要件を特定し、これを満たしているかを検証することです。第二に、破談の経緯を記録により整理し、条件の成就を妨げたとの主張に対する反論を組み立てることです。第三に、書面により回答し、仲介会社に対して請求の根拠の説明を求めることです。第四に、中間金及び実費について支払を要する範囲を検討することです。第五に、テール条項の内容を確認し、その後の取引への影響を検討することです。

この類型においては、契約の文言が結論を大きく左右いたします。請求を受けた時点で、直ちに契約を確認することが重要です。

具体的な検討及び反論の組み立ては、契約の内容、交渉の経過、仲介会社の対応等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 取引が成立していないのに報酬を支払う必要がありますか。

契約における報酬の発生の要件によります。要件が「最終契約の締結」又は「決済の完了」とされている場合には、これらが生じていない以上、成功報酬は発生いたしません。まず契約の条項を確認いたします。

質問2 こちらから交渉を打ち切りました。不利になりますか。

打切りに合理的な理由がある場合には、故意に条件の成就を妨げたとはいえないと解する余地があります。買主の資力への疑義、条件の不利益な変更、デューデリジェンスの結果といった事情を、記録により示すことが重要となります。

質問3 基本合意書を締結しています。これで報酬が発生しますか。

仲介契約において、基本合意書の締結が中間金の発生の要件とされている場合には、その支払を要することがあります。他方、成功報酬の発生の要件が最終契約の締結とされている場合には、基本合意書の締結のみによって成功報酬が発生するものではありません。

質問4 請求書が届きました。とりあえず支払った方がよいですか。

支払いますと、報酬の発生を認めたものと評価される余地があります。まず契約の条項を確認し、要件を満たしているかを検証した上で対応することが適切です。

質問5 破談の後に別の相手方と交渉してもよいですか。

テール条項の内容を確認する必要があります。仲介会社が紹介していない相手方との取引には適用されないのが通例ですが、対象となる相手方の範囲と期間を確認した上で進めることが望まれます。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&A仲介会社からの報酬の請求に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、仲介契約書、請求書、基本合意書、交渉の経過に関する電子メール及び記録、終了に関する通知をご用意いただけますと、検討が早く進みます。支払の期限が迫っている場合には、その旨をお申し出ください。

弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第130条第1項(条件の成就の妨害)、第166条第1項(債権の消滅時効)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第643条(委任)、第644条(受任者の注意義務)、第648条第3項(受任者の報酬)、第648条の2(成果等に対する報酬)、第650条第1項(受任者による費用の償還請求)、第651条(委任の解除)、第656条(準委任)

商法 第512条(報酬請求権)

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