経営が混ざった後に原状回復ができるのか

株式を取得してから1年余りが経過いたしました。この間に、役員を入れ替え、当社から人員を派遣し、新たな取引先との取引を開始し、設備にも資金を投入してまいりました。ところが、譲渡の際の説明と事実とが異なることが判明し、契約の解消を検討しております。もっとも、対象会社は既に譲渡の当時とは大きく異なる状態です。原状回復ができるのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。株式そのものを返還することは可能ですが、対象会社を譲渡の当時の状態に戻すことは、事実上できません。このため、契約の解消が認められる場合であっても、原状回復は、株式と代金の返還を基本とし、その間の価値の変動を金銭により清算する形とならざるを得ません。この清算の内容が定まらないことが、解消による解決を困難にしております。本記事では、原状回復の内容と、現実的な解決の方法を整理いたします。
第1節 原状回復に関する規定
解除の場合
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負うとされております(民法第545条第1項)。金銭を返還するときは、その受領の時からの利息を付さなければならないとされております(同条第2項)。金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならないとされております(同条第3項)。
取消しの場合
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなされます(民法第121条)。無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負うとされております(民法第121条の2第1項)。
返還することができない場合
返還すべき物を返還することができない場合には、その価額を償還すべきものと解されております。株式については、名義書換により返還することが可能ですが、その価値が譲渡の当時と異なる点が問題となります。
第2節 何が返還されるのか
基本の構造
買主は取得した株式を売主に返還し、売主は受領した代金を買主に返還いたします。株式の返還は、株主名簿の名義書換によって行われます。
売主が返還する代金には、受領の時からの利息を付すこととなります。買主が対象会社から受領した剰余金の配当については、果実として返還の対象となり得ます。
問題は株式の内容です
返還される株式は、譲渡の当時と同一の株式ですが、その株式が表章する対象会社の状態は、大きく変化しております。この点が、この類型における最大の問題です。
表1 譲渡後に生じる変化
| 項目 | 変化の内容 |
|---|---|
| 役員 | 買主が選任した役員に交代しております |
| 従業員 | 採用及び退職により構成が変わっております |
| 資産 | 処分及び取得により内容が変わっております |
| 負債 | 新たな借入れ及び返済がされております |
| 取引先 | 開始及び終了により関係が変わっております |
| 資本 | 増資又は資金の投入がされていることがあります |
| 事業の内容 | 買主の方針により変更されていることがあります |
第3節 価値の変動をどのように清算するか
二つの方向
価値の変動には、二つの方向があります。第一に、買主の投入により価値が増加した場合です。第二に、買主の運営により価値が減少した場合です。
価値が増加した場合
買主が資金を投入し、事業を改善したことにより対象会社の価値が増加した場合には、買主は、その増加分に相当する額の償還を求めることが考えられます。
法律上の原因なく他人の財産又は労務により利益を受けた者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負うとされております(民法第703条)。この規定によることが考えられます。
もっとも、増加した価値をどのように算定するかは、容易ではありません。買主の投入によるものか、市場の状況によるものかの区別も困難です。
価値が減少した場合
買主の運営により対象会社の価値が減少した場合には、売主から、その減少分に相当する額の支払を求められることが考えられます。
他方、価値の減少が、売主が秘匿していた事情によるものである場合には、その責任は売主にあると主張することとなります。減少の原因を区分することが、争点となります。
算定の困難
表2 清算において問題となる事項
| 事項 | 問題の内容 |
|---|---|
| 基準となる時点 | 譲渡時、解消時のいずれの価値によるか |
| 変動の原因 | 買主の行為によるものか、他の要因によるものか |
| 投入した資金 | 回収されたものと未回収のものの区分 |
| 処分された資産 | 処分の対価が対象会社に残っているか |
| 新たに生じた債務 | 誰が負担すべきか |
| 従業員の異動 | 金銭により評価することが困難です |
合意による解決
以上の困難があるため、清算の内容は、当事者間の合意により定めざるを得ないことが少なくありません。裁判所の判断を仰ぐ場合であっても、和解により解決することが多いものです。
第4節 現実的な解決の方法
金銭による解決
最も現実的な解決は、契約を解消せず、金銭による回復を求める方法です。すなわち、契約に定められた補償の請求、又は不法行為に基づく損害賠償の請求によることです。
この方法によれば、対象会社の状態を戻す必要がなく、買主は事業を継続することができます。
代金の減額に相当する合意
売主との間で、代金の一部を返還する旨の合意をすることが考えられます。実質的には、代金の減額と同一の結果となります。
この合意に際しては、清算の範囲を明確にいたします。将来において新たな事実が判明した場合の取扱いについても、定めておく必要があります。
解消を主張する意味
もっとも、契約の解消を主張すること自体には意味があります。売主にとっては、対象会社を再び引き取ることが望ましくない場合が多く、これを避けるために金銭による解決に応じる契機となるためです。
したがって、解消の主張は、交渉における立場を強める手段として機能する面があります。
事業の継続が困難である場合
対象会社の事業を継続することが困難であり、かつ売主に資力がある場合には、なお解消を求める実益があります。この場合には、清算の内容についてあらかじめ検討し、具体的な提案を示すことが有効です。
時期の要素
譲渡から解消の主張までの期間が短いほど、対象会社の変化が小さく、原状回復が現実的となります。事実と異なる事情に気付いた場合には、速やかに検討を始めることが望まれます。
第5節 解消を前提とする場合の実務上の配慮
現状の記録
解消を検討する場合には、その時点における対象会社の状態を記録しておきます。計算書類、資産の一覧、従業員の名簿、取引先の一覧が該当いたします。
この記録が、清算における基礎となります。
新たな行為の抑制
解消を主張する以上、その後に対象会社の状態を大きく変える行為は、抑制することが望まれます。新たな資金の投入、重要な資産の処分、長期の契約の締結は、清算をさらに複雑にいたします。
役員の地位
解消がされた場合には、買主が選任した役員の処遇が問題となります。役員を解任する場合には、正当な理由がないときに損害の賠償を請求されることがあります(会社法第339条第2項)。
また、株主総会の決議によって選任及び解任が行われますので、株式の返還の時期との関係を整理しておく必要があります。
従業員への影響
解消により支配権が再び移転することは、従業員に不安を与えます。従業員の離職が生じますと、対象会社の価値がさらに減少し、清算がより困難となります。
この点も、解消による解決が現実的でない理由の一つです。
第6節 弁護士に相談する意味
原状回復の可否について弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、契約の解消が認められる見込みを検討することです。第二に、対象会社の現在の状態と譲渡の当時の状態との相違を整理し、清算の内容を見積もることです。第三に、解消による解決と金銭による解決とを比較し、方針を判断することです。第四に、契約上の補償の請求期間を保全することです。第五に、交渉又は訴訟において、清算の内容に関する主張を組み立てることです。
解消の可否の判断においては、法律上の要件を満たすかという点だけでなく、解消が現実に実行可能であるかという点が重要となります。多くの事案においては、金銭による解決が選択されることとなります。
具体的な清算の内容及び方針の判断は、対象会社の状況、投入した資金の額、売主の資力等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 会社を元の状態に戻す必要がありますか。
対象会社を譲渡の当時の状態に戻すことは、事実上できません。原状回復は、株式と代金の返還を基本とし、その間の価値の変動を金銭により清算する形とならざるを得ません。
質問2 投入した資金は返してもらえますか。
買主の投入により対象会社の価値が増加した場合には、その増加分に相当する額の償還を求めることが考えられます。もっとも、増加した価値の算定は容易ではなく、当事者間の合意により定めざるを得ないことが少なくありません。
質問3 解消を主張しても意味がないのですか。
意味はあります。売主にとっては、対象会社を再び引き取ることが望ましくない場合が多く、これを避けるために金銭による解決に応じる契機となります。交渉における立場を強める手段として機能する面があります。
質問4 どの時点の価値を基準とするのですか。
この点自体が争点となります。譲渡時の価値によるか、解消時の価値によるか、変動の原因をどのように区分するかについて、当事者間で見解が分かれるのが通例です。
質問5 解消を検討する場合、まず何をすべきですか。
契約上の補償の請求期間内に通知を行い、権利を保全することです。あわせて、現在の対象会社の状態を記録しておきます。また、解消を主張する以上、その後に対象会社の状態を大きく変える行為は抑制することが望まれます。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、株式譲渡契約の解消及び原状回復に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、株式譲渡契約書、開示別紙、譲渡時及び現在の計算書類、投入した資金に関する記録、役員及び従業員の異動に関する資料をご用意いただけますと、検討が早く進みます。
弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第121条(取消しの効果)、第121条の2第1項(原状回復の義務)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第545条(解除の効果)、第703条(不当利得の返還義務)、第704条(悪意の受益者の返還義務)、第709条(不法行為)
会社法 第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)、第133条(株主名簿記載事項の記載又は記録の請求)、第339条第2項(解任された役員の損害賠償請求)
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