解除と取消しのいずれを主張するかの選び方

株式を取得いたしましたが、売主の説明と事実とが大きく異なっており、契約を解消したいと考えております。弁護士に相談いたしましたところ、契約の解除を主張する方法と、詐欺又は錯誤による取消しを主張する方法があると説明を受けました。両者はどのように違うのでしょうか。また、いずれを選ぶべきなのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。解除と取消しは、要件、効果、期間の制限、契約による制限の受け方において異なります。売主に故意がある場合には取消しが、契約上の義務の不履行がある場合には解除が、それぞれ主張しやすくなります。実務上は、いずれか一方を選ぶのではなく、双方を併せて主張することが通例です。本記事では、両者の相違と、選択の際に検討する要素を整理いたします。
第1節 解除と取消しの基本的な相違
着眼点の相違
解除は、契約が有効に成立したことを前提として、その後の債務の不履行を理由に、契約の効力を将来に向けて失わせる制度です。着眼点は、契約の締結後の当事者の行為にあります。
取消しは、契約の成立の過程に瑕疵があったことを理由として、その効力を否定する制度です。着眼点は、契約の締結の時点における意思の形成にあります。
一覧
表1 解除と取消しの相違
| 項目 | 解除 | 取消し |
|---|---|---|
| 着眼点 | 締結後の債務の不履行 | 締結の過程における瑕疵 |
| 主たる要件 | 債務の不履行が軽微でないこと | 詐欺又は重要な錯誤があること |
| 相手方の主観 | 原則として問いません | 詐欺の場合は故意を要します |
| 期間の制限 | 債権の消滅時効によります | 追認可能時から5年、行為時から20年 |
| 契約による制限 | 制限する定めが置かれることが多いものです | 制限が及ぶかは議論があります |
| 効果 | 原状回復の義務が生じます | 初めから無効であったものとみなされます |
第2節 解除の要件と特徴
催告による解除
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めて催告をし、その期間内に履行がないときは、契約の解除をすることができます。ただし、その期間を経過した時における不履行が、契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでないとされております(民法第541条)。
催告によらない解除
債務の全部の履行が不能であるとき、債務者が履行を拒絶する意思を明確に表示したとき、契約の目的を達することができないときなどには、催告をすることなく解除をすることができるとされております(民法第542条第1項)。
利点
解除は、売主の故意を要件といたしません。売主が事実を知らなかった場合であっても、債務の不履行があれば主張の余地があります。この点が、取消しと比べた利点です。
難点
第一に、株式譲渡契約においては、決済の完了後は解除することができない旨の定めが置かれていることが少なくありません。この定めがある場合には、解除による解消は困難となります。
第二に、表明保証の違反が、解除の原因となる債務の不履行に当たるかについては議論があります。表明保証の違反の効果は、契約に定められた補償によることが予定されているのが通例であるためです。
第三に、不履行が軽微でないことが必要です。損失の額が譲渡代金の額に対して小さい場合には、この要件を満たさないと判断される余地があります。
第3節 取消しの要件と特徴
詐欺による取消し
詐欺による意思表示は、取り消すことができるとされております(民法第96条第1項)。要件は、売主に欺罔の行為があったこと、買主が錯誤に陥ったこと、これにより意思表示をしたこと、及び売主に故意があったことです。
錯誤による取消し
意思表示は、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤に基づくものであるときは、取り消すことができるとされております(民法第95条第1項)。
表示された動機に関する錯誤については、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、取り消すことができるとされております(民法第95条第2項)。
利点
第一に、契約における解除を制限する定めが、取消しにまで及ぶかについては議論があり、なお主張の余地が残ります。とりわけ、売主に故意がある場合には、免責の定めの効力が制限されるとの議論があります。
第二に、期間の制限が、追認をすることができる時から5年、行為の時から20年とされており(民法第126条)、契約に定められた補償の請求期間よりも長いことが通例です。補償の請求期間を徒過した場合であっても、なお主張の余地が残ります。
難点
第一に、詐欺による取消しについては、売主の故意を主張し、立証する必要があります。売主が事実を認識していたことを示す資料が必要となり、その収集は容易ではありません。
第二に、錯誤による取消しについては、買主に重大な過失があった場合には原則として制限されます(民法第95条第3項)。デューデリジェンスを行っていた場合には、この点が問題となります。
もっとも、相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったときなどには、なお取消しをすることができるとされております(同項各号)。
第4節 選択において検討する要素
売主の認識
売主が事実を認識していたことを示す資料がある場合には、詐欺による取消しを主張する実益が大きくなります。対象会社に残された社内の記録、電子メール、会議の資料から、これが判明することがあります。
表2 売主の認識を示す資料
| 資料 | 示す事項 |
|---|---|
| 社内の会議の記録 | 問題が社内で認識されていたこと |
| 電子メールの往復 | 売主が報告を受けていたこと |
| 取引先との連絡 | 契約の終了が決まっていたこと |
| 顧問への相談の記録 | 問題について助言を求めていたこと |
| 質問への回答 | 事実と異なる回答をしたこと |
契約の定め
解除を制限する定めが置かれている場合には、取消しの主張の比重が高まります。逆に、そのような定めがない場合には、解除の主張が採りやすくなります。
時期
契約上の補償の請求期間を徒過している場合には、取消しの主張が主たる手段となります。取消権の期間は、契約上の請求期間よりも長いのが通例であるためです。
デューデリジェンスの状況
詳細なデューデリジェンスを行っていた場合には、錯誤による取消しについて重大な過失が問題となります。他方、売主が資料の開示を拒み、又は虚偽の回答をしていた場合には、この点の主張が可能となります。
求める結果
契約の解消そのものを求めるのか、金銭による回復で足りるのかにより、主張の組み立てが異なります。金銭による回復で足りる場合には、補償の請求又は不法行為に基づく損害賠償の請求を中心とすることが考えられます。
第5節 併せて主張する
実務上の取扱い
実務上は、解除、取消し、補償の請求、不法行為に基づく損害賠償を、併せて主張することが通例です。いずれか一方に限定する必要はありません。
主張の順序としては、主たる主張と、予備的な主張とを整理して示すこととなります。
主張の整合
もっとも、主張の間に矛盾が生じないよう留意する必要があります。契約が有効であることを前提とする補償の請求と、契約の効力を否定する取消しの主張とは、論理的には両立いたしません。
この場合、主位的に取消しを主張し、予備的に補償を請求するという形で整理いたします。
通知の記載
売主に対する最初の通知の段階では、いずれの主張によるかを確定する必要はありません。事実関係を摘示し、法的な主張については留保する旨を記載することが考えられます。
他方、契約上の補償の請求期間を保全するためには、補償の請求に関する通知としての要件を満たしておく必要があります。
解消の効果の困難
解除であれ取消しであれ、効果として原状回復が求められます。既に経営が混ざった対象会社を元の状態に戻すことは容易ではありません。この点は、いずれの構成によっても共通の問題です。
このため、現実には金銭による解決に至ることが少なくありません。解消の主張は、交渉における立場を強める手段として機能する面があります。
第6節 弁護士に相談する意味
解除と取消しの選択について弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、契約における解除の制限及び補償に関する条項を確認することです。第二に、売主の認識を示す資料を収集し、詐欺の主張が成り立つかを検討することです。第三に、デューデリジェンスの経過を整理し、錯誤の主張における重大な過失の点を検討することです。第四に、主位的な主張と予備的な主張を整理し、矛盾のない構成とすることです。第五に、契約上の請求期間を保全する通知を行うことです。
いずれの主張によるかは、資料の状況により定まる面が大きいものです。まず、売主の説明と事実との相違を示す資料と、売主の認識を示す資料を収集することが出発点となります。
具体的な主張の組み立ては、契約の定め、資料の状況、対象会社の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 解除と取消しのいずれか一方しか主張できないのですか。
いずれか一方に限定する必要はありません。実務上は、双方を併せて主張することが通例です。もっとも、契約が有効であることを前提とする補償の請求とは論理的に両立いたしませんので、主位的な主張と予備的な主張として整理いたします。
質問2 契約書に「決済後は解除できない」と書かれています。取消しもできませんか。
解除を制限する定めが、詐欺又は錯誤による取消しにまで及ぶかについては議論があります。とりわけ売主に故意がある場合には、なお主張の余地が残ると解する見解があります。条項の文言を確認した上で検討いたします。
質問3 補償の請求期間を過ぎてしまいました。
契約上の補償の請求はできなくなるのが通例です。もっとも、取消権の期間は、追認をすることができる時から5年、行為の時から20年とされております(民法第126条)。また、不法行為に基づく損害賠償の請求も検討の対象となります。
質問4 デューデリジェンスを行っていました。不利になりますか。
錯誤による取消しについては、重大な過失があった場合には原則として制限されます(民法第95条第3項)。もっとも、売主が資料の開示を拒み、又は虚偽の回答をしていた場合には、なお主張の余地があります。
質問5 解消が認められたら、代金は戻ってくるのですか。
原状回復として、代金の返還を求めることとなります。もっとも、対象会社の状態が譲渡の当時と異なることによる清算が問題となり、また売主の資力の問題もあります。現実には金銭による解決に至ることが少なくありません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、株式譲渡契約の解除及び取消しに関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
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ご相談の際に、株式譲渡契約書、開示別紙、企業概要書、デューデリジェンスにおける質問と回答、面談の記録、対象会社の社内の記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。
弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第95条(錯誤)、第96条(詐欺又は強迫)、第121条(取消しの効果)、第121条の2第1項(原状回復の義務)、第122条(取り消すことができる行為の追認)、第126条(取消権の期間の制限)、第166条第1項(債権の消滅時効)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第541条(催告による解除)、第542条(催告によらない解除)、第545条(解除の効果)、第709条(不法行為)、第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
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