株式譲渡契約を解消する場合の要件と効果

会社の株式を取得いたしましたが、譲渡の前に受けた説明と事実とが大きく異なっておりました。主要な取引先との契約は既に終了しており、決算書に計上されていた売掛金の相当部分は回収の見込みがないものでした。補償を請求することも考えましたが、そもそもこの取引をなかったことにしたいと考えております。株式譲渡契約を解消することはできるのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。株式譲渡契約を解消する法的な道筋は、解除、取消し、無効の主張の3つです。いずれも要件が厳格であり、認められる場面は限られております。また、契約において解除を制限する定めが置かれていることが少なくありません。さらに、認められた場合であっても、既に経営が混ざった対象会社を元の状態に戻すことは容易ではありません。本記事では、各道筋の要件と効果、及び検討の順序を整理いたします。

第1節 まず契約の定めを確認いたします

 解除を制限する定め

株式譲渡契約においては、決済の完了後は契約を解除することができない旨が定められていることが少なくありません。この定めがある場合には、解除による解消は困難となります。

この場合、補償の請求が唯一の救済の方法として予定されていることになります。もっとも、詐欺又は錯誤による取消しについてまで排除する趣旨であるかは、条項の文言により検討する余地があります。

 補償を唯一の救済とする定め

契約に定められた補償を唯一の救済とする旨の条項が置かれていることがあります。この場合であっても、故意による不実の表示については、なお主張の余地が残ると解する見解があります。

 決済の前と後

決済の前の段階においては、契約に前提条件に関する条項が置かれているのが通例です。前提条件が満たされない場合には、決済を行わずに契約を終了させることができます。

決済の前と後とでは、採り得る手段が大きく異なります。事実と異なる事情に気付いた時期が、決済の前であるか後であるかを確認いたします。

第2節 第一の道筋 解除

 催告による解除

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めて催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は契約の解除をすることができるとされております。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでないとされております(民法第541条)。

 催告によらない解除

債務の全部の履行が不能であるとき、債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときなど、一定の場合には、催告をすることなく直ちに契約の解除をすることができるとされております(民法第542条第1項)。

 表明保証の違反と解除

表明保証の違反が、契約の解除の原因となる債務の不履行に当たるかについては、議論があります。表明保証は、一定の事実が真実であることを表明し、保証するものであり、その違反の効果は、契約に定められた補償によることが予定されているのが通例です。

したがって、表明保証の違反のみを理由として解除が認められるかは、契約の定めと違反の程度により検討することとなります。

 軽微性の判断

解除が認められるためには、不履行が軽微でないことが必要です。譲渡代金の額に対する損失の割合、事業の継続への影響、契約の目的を達成することができるかという点から判断されることとなります。

表1 解除の可否の判断において考慮される事情

事情 視点
違反の内容 契約の中核となる事項に関するものか
損失の額 譲渡代金の額に対する割合
事業への影響 事業を継続することができるか
売主の認識 故意によるものか、過失によるものか
買主の調査 調査により判明し得た事項か
契約の定め 解除を制限する条項の有無

第3節 第二の道筋 取消し

 詐欺による取消し

詐欺による意思表示は、取り消すことができるとされております(民法第96条第1項)。売主が、事実を偽り、又は告げるべき事実を告げずに買主を誤信させ、これにより契約を締結させた場合には、この主張が考えられます。

要件としては、売主に欺罔の行為があったこと、買主が錯誤に陥ったこと、これにより意思表示をしたこと、及び売主に故意があったことが必要となります。

 沈黙による詐欺

積極的に虚偽を述べた場合だけでなく、告げるべき事実を告げなかった場合にも、詐欺が成立し得ると解されております。売主が、買主の判断に重要な事実を認識しながら、これを秘匿した場合が該当し得ます。

もっとも、告げるべき義務があったかどうかは、事案により判断されます。

 錯誤による取消し

意思表示は、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤に基づくものであるときは、取り消すことができるとされております(民法第95条第1項)。

表示された動機に関する錯誤については、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、取り消すことができるとされております(民法第95条第2項)。株式譲渡契約においては、対象会社の状況に関する認識が問題となりますので、この規定によることが考えられます。

 錯誤による取消しの制限

錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、原則として取消しをすることができないとされております(民法第95条第3項)。デューデリジェンスにおいて容易に判明し得た事項については、この点が問題となります。

もっとも、相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったときなどには、なお取消しをすることができるとされております(同項各号)。

 期間の制限

取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅いたします。行為の時から20年を経過したときも同様とされております(民法第126条)。

第4節 第三の道筋 無効の主張

 公の秩序に反する場合

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とされております(民法第90条)。もっとも、株式譲渡契約についてこの規定が適用される場面は、限られております。

 通謀による虚偽の意思表示

相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とされております(民法第94条第1項)。当事者間に真実の合意がない場合に問題となります。

 手続の瑕疵

対象会社の株式に譲渡制限が付されている場合において、承認の手続が経られていないときは、会社に対する関係における効力が問題となります。もっとも、当事者間においては有効であると解されております。

また、売主の側において、事業の全部の譲渡等に該当するにもかかわらず株主総会の決議を経ていない場合等には、その効力が問題となり得ます(会社法第467条第1項)。

第5節 解消の効果と現実的な困難

 原状回復の義務

解除がされたときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負うとされております(民法第545条第1項)。金銭を返還するときは、受領の時からの利息を付さなければならないとされております(同条第2項)。金銭以外の物を返還するときは、受領の後に生じた果実をも返還しなければならないとされております(同条第3項)。

取消しの場合には、行為が初めから無効であったものとみなされ(民法第121条)、給付を受けた者は相手方を原状に復させる義務を負うとされております(民法第121条の2第1項)。

 株式の返還

買主は取得した株式を返還し、売主は受領した代金を返還することとなります。株式の返還は、株主名簿の名義書換により行われます。

 対象会社の変化

最大の困難は、対象会社が譲渡の当時と同一の状態にないことです。買主の下で、役員が交代し、従業員が入れ替わり、資産が処分され、新たな取引が開始され、資金が投入されていることがあります。

表2 原状回復において問題となる事項

事項 問題の内容
役員の交代 元に戻すかどうか、その手続
資産の処分 処分された資産の扱い
新たな借入れ 買主の関与により生じた債務の扱い
資金の投入 投入された資金の清算
従業員の異動 採用及び退職の扱い
取引先との関係 新たに開始又は終了した取引
企業の価値の変動 増減した価値の清算

 価額の償還

返還すべき物を返還することができない場合には、その価額を償還することとなります。株式そのものは返還できるとしても、対象会社の状態が変化していることによる価値の増減をどのように清算するかが、争点となります。

 実際の解決

以上の困難があるため、契約の解消が主張された事案においても、現実には金銭による解決に至ることが少なくありません。解消の主張は、交渉における立場を強めるための手段として機能する面があります。

第6節 検討の順序

 まず補償の請求の検討

契約に補償の条項が置かれている場合には、まずこれによる請求を検討いたします。要件が明確であり、認められる可能性が高いためです。

あわせて、契約上の請求期間内に通知を行います。解消の可否を検討している間に期間を徒過することは、避けなければなりません。

 解消の可否の検討

補償による回復では足りない場合、又は事業の継続そのものが困難である場合には、解消を検討いたします。契約における解除の制限の有無を確認した上で、いずれの道筋によるかを判断いたします。

 資料の収集

売主の説明の内容と、事実との相違を示す資料を収集いたします。企業概要書、質問への回答、面談の記録、デューデリジェンスにおける回答、開示別紙が該当いたします。

売主が事実を認識していたことを示す資料は、とりわけ重要です。対象会社に残された社内の記録から、これが判明することがあります。

 保全

代金の返還を求める場合には、売主の資力を確認し、必要に応じて保全の手続を検討いたします。

第7節 弁護士に相談する意味

株式譲渡契約の解消について弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、契約における解除の制限及び補償に関する条項を確認し、採り得る手段を特定することです。第二に、売主の説明と事実との相違を資料により整理することです。第三に、契約上の請求期間内に通知を行い、権利を保全することです。第四に、解除、取消し、無効のいずれによるかを判断し、主張を組み立てることです。第五に、原状回復の現実的な内容を検討し、金銭による解決の可能性を含めて方針を定めることです。

解消の主張は、要件が厳格であり、認められる場面は限られております。他方、主張すること自体が交渉における意味を持つ場合があります。方針の判断は、事業の継続の可否と、回復を求める金額の大きさを踏まえて行うこととなります。

具体的な主張の組み立ては、契約の定め、説明の内容、対象会社の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 説明と事実が違えば契約を解消できますか。

直ちに解消できるものではありません。解除、取消し、無効のいずれかの要件を満たす必要があり、いずれも要件は厳格です。また、契約に解除を制限する定めが置かれていることが少なくありません。

質問2 契約書に「決済後は解除できない」と書かれています。

この定めがある場合には、解除による解消は困難となります。もっとも、詐欺又は錯誤による取消しについてまで排除する趣旨であるかは、条項の文言により検討する余地があります。

質問3 既に会社の経営を進めています。それでも解消できますか。

解消が認められた場合であっても、対象会社を譲渡の当時の状態に戻すことは容易ではありません。この点が、現実には金銭による解決に至ることが多い理由です。

質問4 デューデリジェンスで調べられたはずだと言われました。

錯誤による取消しは、表意者に重大な過失があった場合には制限されます(民法第95条第3項)。もっとも、相手方が錯誤を知っていた場合等には、なお取消しをすることができるとされております。売主が事実を認識していたことを示す資料が重要となります。

質問5 まず何をすべきですか。

契約上の補償の請求期間内に通知を行うことです。解消の可否を検討している間に期間を徒過しますと、補償の請求もできなくなります。通知により権利を保全した上で、方針を検討いたします。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、株式譲渡契約の解消に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、株式譲渡契約書、開示別紙、企業概要書、デューデリジェンスの報告書及び質問への回答、面談の記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。契約上の請求期間が迫っている場合には、その旨をお申し出ください。

弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第90条(公序良俗)、第94条第1項(虚偽表示)、第95条(錯誤)、第96条(詐欺又は強迫)、第121条(取消しの効果)、第121条の2第1項(原状回復の義務)、第126条(取消権の期間の制限)、第166条第1項(債権の消滅時効)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第541条(催告による解除)、第542条(催告によらない解除)、第545条(解除の効果)、第709条(不法行為)

会社法 第136条以下(譲渡制限株式の承認の手続)、第467条第1項(事業譲渡等の承認)

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