M&A仲介業者から提示された基本合意書を売主として確認する手順

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基本合意書は、法的拘束力を持つ条項と持たない条項とが混在する書面であり、署名の前に条項ごとの性質を切り分けておく必要があります。本記事では、売主の立場から、M&A仲介業者より示された基本合意書を確認する手順を整理いたします。

基本合意書の締結後に取引を中止したい場合の対応については別の記事で扱っています。あわせて御覧ください。

買手候補が決まり、M&A仲介業者の担当者から「基本合意書の案です」と書面が送られてきた。分量は数枚から10枚程度で、条項番号が振られ、末尾に署名欄がある。担当者からは「これは最終契約ではないので、大枠の確認のための書面です」「今週中に署名をいただければ、次の段階に進めます」と説明を受けている。会社を譲り渡す決心をしてから初めて出てくる正式な書面であり、経営者としては、ここまで来たという安堵と、本当に署名してよいのかという不安が同時に押し寄せる場面です。

基本合意書は、たしかに最終契約ではありません。譲渡代金の全部について法的な拘束力を持たせないのが通例です。しかし、それは「何も決まらない書面」という意味ではありません。この書面には、独占交渉権という、これから数か月にわたって売主の行動を縛る約束が入ります。デューデリジェンス(買収監査。買手が売主の会社の内容を調査する手続です)への協力義務が入ります。場合によっては、違約金の条項が入ります。拘束力を持たせない部分と、確実に売主を縛る部分とが、同じ書面の中に混在しているのです。

本稿では、中小企業の株式譲渡を想定し、売主の立場から、基本合意書の案が届いてから署名するまでの間に何をどの順序で確認すべきかを、実務の手順として整理します。意向表明書という名称で届く場合も、確認すべき内容は基本的に同じですので、あわせて扱います。

Contents
  1. 基本合意書と意向表明書の違いを整理します
    1. 意向表明書は買手からの一方的な差入れが基本です
    2. 基本合意書は双方が署名する契約の形をとります
    3. 署名の相手方が誰であるかを確かめます
  2. 条項ごとに法的拘束力の有無を切り分けます
    1. 拘束力を持たせるのが通常の条項
    2. 拘束力を持たせないのが通常の条項
    3. 「誠実に協議する」という文言の読み方
  3. 独占交渉権の期間と範囲を確認します
    1. 期間は3か月以内を目安に検討します
    2. 自動更新の定めがないかを確かめます
    3. 禁止される行為の範囲を具体的に読みます
    4. 既に接触している買手候補の扱いを整理します
  4. 買収価格の記載がどのような性質のものかを見極めます
    1. 価格が下がり得る条件が書かれていないかを読みます
    2. 手取り額との差を試算しておきます
    3. 役員退職慰労金との組合せを確認します
    4. 譲渡代金の支払時期の記載を読みます
  5. デューデリジェンスへの協力義務の範囲を定めます
    1. 資料提出の範囲に限度を設けます
    2. 従業員への開示の統制を明記します
    3. 期間、場所及び方法を具体的に決めます
    4. 調査の結果に対する対応の義務を負わないようにします
  6. 秘密保持の対象と例外を確かめます
    1. 秘密の対象に取引の存在自体を含めます
    2. 開示できる相手方を列挙します
    3. 交渉が終了した場合の資料の扱いを決めます
  7. 費用の負担とM&A仲介会社への手数料を整理します
    1. 各自負担の原則を確認します
    2. M&A仲介会社への中間金の発生時点を確かめます
    3. 成功報酬の計算の基礎を読み直します
  8. 解除事由と違約金の条項を読み込みます
    1. 解除できる場合と手続を確かめます
    2. 違約金の条項は削除を求めることを検討します
    3. 最終契約が締結できなかった場合の費用の負担を確認します
  9. 署名までの実務の手順を組み立てます
    1. 受領した日から3日以内に自分で通読します
    2. 手元の関連書面を並べて突き合わせます
    3. 質問を書面にまとめて提出します
    4. 弁護士に相談する時期を誤らないようにします
    5. 他の株主及び親族の理解を得ておきます
  10. よくあるご質問
    1. 基本合意書に署名しないという選択はあり得ますか
    2. M&A仲介業者から示された案文に修正を求めてもよいのでしょうか
    3. 署名した後で、譲渡代金の金額を下げると言われました
    4. 独占交渉期間中に、別の買手から話が来た場合はどうすればよいですか
    5. 基本合意書に有効期間が書かれていない場合はどうなりますか
    6. デューデリジェンスで自社の問題点が見つかることが心配です
    7. 基本合意書に署名すると、もう後戻りはできないのでしょうか
    8. 弁護士に依頼すると、M&A仲介業者との関係が悪くなりませんか

基本合意書と意向表明書の違いを整理します

最初に、手元にある書面が何であるかを確かめてください。M&A仲介業者から送られてくる書面には、「基本合意書」「基本合意契約書」「意向表明書」「趣意書」といった、いくつかの名称が使われます。名称によって法的な扱いが自動的に決まるわけではなく、中身に書かれた文言によって決まります。したがって、表題を見て安心せず、条項を読む必要があります。

意向表明書は買手からの一方的な差入れが基本です

意向表明書は、買手候補が売主に対して、「このような条件で買収を検討したい」という意思を示して差し入れる書面です。署名するのは買手側だけであり、売主は受領するにとどまる形が原則です。この形であれば、売主が何かを約束したことにはなりません。ただし、実務では、売主が受領の署名や記名押印をする欄が設けられていることがあります。その欄に署名すると、書面に書かれた独占交渉義務や秘密保持義務を売主も引き受けたと解される余地が生じますので、受領欄の位置付けをM&A仲介業者に確認してください。

基本合意書は双方が署名する契約の形をとります

基本合意書は、売主と買手の双方が署名し、又は記名押印して締結する書面です。契約の形をとる以上、そこに書かれた義務のうち法的拘束力を持たせた部分は、通常の契約と同じように相手方から履行を求められます。中小企業のM&Aでは、意向表明書を経ずに、いきなり基本合意書の案が示されることも珍しくありません。その場合には、この1通の書面で、価格の目線と手続の約束の両方が固まることになります。

署名の相手方が誰であるかを確かめます

署名欄の当事者の記載を見てください。買手が事業会社であれば、その会社名と代表者名が入ります。買手が投資ファンドである場合には、実際に株式を取得する会社がまだ設立されておらず、運営会社の名義で署名されることがあります。この場合、基本合意書上の義務を負う主体と、最終契約で株式を取得する主体とが異なることになりますので、最終契約の段階でどの会社が当事者になる予定なのかを、この段階で書面により確認しておくことが有益です。

条項ごとに法的拘束力の有無を切り分けます

基本合意書を読むうえで、最も重要な作業がこれです。基本合意書は、全体として拘束力があるかないかという単純な作りにはなっていません。「本合意書のうち、第何条から第何条までの規定は法的拘束力を有し、その余の規定は法的拘束力を有しない」という形の条項が、末尾近くに置かれているのが通例です。この条項を最初に探し、そこで拘束力を持つとされた条項の番号を書き出してください。

拘束力を持たせるのが通常の条項

実務上、法的拘束力を持たせるのが通常とされているのは、次の条項です。ここに挙げた条項については、署名した以上は履行を求められる前提で読む必要があります。

  • 独占交渉権に関する条項。売主が他の買手候補と交渉することを禁じる定めです。
  • 秘密保持に関する条項。取引の存在自体を含め、外部に漏らさない義務を定めます。
  • 費用の負担に関する条項。誰がどの費用を負担するかの定めです。
  • 有効期間及び解除に関する条項。いつまで効力を持ち、どうすれば終わらせられるかの定めです。
  • 準拠法及び管轄裁判所に関する条項。争いになった場合にどの裁判所で審理するかの定めです。

拘束力を持たせないのが通常の条項

これに対し、譲渡価格、譲渡の対象となる株式の数、譲渡実行の予定日、役員及び従業員の処遇、譲渡後の売主の関与といった取引条件の中身については、法的拘束力を持たせないのが通例です。デューデリジェンスの結果によって条件を見直す必要が生じるため、この段階で固定することが双方にとって適切でないからです。ご自身の書面を読み、これらの条項が拘束力のない側に振り分けられているかを確認してください。もし取引条件までが拘束力を持つ側に入っている場合には、なぜそうしているのかを尋ね、原則どおりの振り分けに直すよう求めることが考えられます。

「誠実に協議する」という文言の読み方

多くの基本合意書に、「両当事者は、最終契約の締結に向けて誠実に協議する」という趣旨の条項が置かれます。この文言は、一定の条件で最終契約を締結する義務を意味するものではないと理解されるのが一般的です。もっとも、誠実に協議する義務が全く無意味というわけでもありません。合理的な理由なく一方的に交渉を打ち切った当事者について、相手方が支出した費用の賠償責任が問題となった事例が過去にありますので、交渉を離脱する場合には、その理由を記録に残しておくことが安全です。

独占交渉権の期間と範囲を確認します

売主にとって、基本合意書で最も重い負担となるのが独占交渉権の条項です。これは、一定期間、この買手候補以外の相手と交渉してはならないという約束です。買手側から見れば、これから数百万円から数千万円の費用をかけてデューデリジェンスを行う以上、その間に他の買手に持っていかれては困るという当然の要請です。しかし売主から見れば、この期間中は、より良い条件を示す買手が現れても応じられないということを意味します。

期間は3か月以内を目安に検討します

期間の定め方は案件により異なりますが、中小企業の株式譲渡であれば、2か月から3か月程度が一つの目安です。デューデリジェンスの実施に1か月前後、その結果を踏まえた条件の再交渉と最終契約書の作成に1か月前後を見込む計算です。案として示された期間が6か月や1年である場合には、なぜその期間が必要なのかを説明してもらってください。事業に許認可の承継が絡む場合や、金融機関からの借入れの承継に時間を要する場合など、合理的な理由があるならば長期の設定にも意味があります。理由が示されないまま長期の独占を求められている場合には、短縮を申し入れることが考えられます。

自動更新の定めがないかを確かめます

期間の条項の後半に、「期間満了の何日前までにいずれの当事者からも申出がない場合には、同一の条件でさらに何か月間延長されるものとする」という趣旨の定めが置かれていることがあります。この定めがあると、売主が失念している間に独占が延び続けます。自動更新の定めは削除を求め、延長が必要になった場合には、その都度、書面による合意で延長する形に改めることが望ましいところです。削除に応じてもらえない場合には、更新の回数の上限を設けることや、更新の際に売主の書面による同意を要する形にすることを求めてください。

禁止される行為の範囲を具体的に読みます

独占交渉権の条項では、何が禁じられているのかを具体的に確認する必要があります。「他の第三者と接触してはならない」という広い書き方になっている場合、既存の取引先との通常の商談まで含まれると読まれかねません。禁止の対象は、株式の譲渡その他の資本提携に関する勧誘、申込み、協議及び情報提供に限定してもらい、通常の営業活動が含まれないことを明記してもらうことが適切です。また、売主自身だけでなく、役員、従業員、他の株主、顧問税理士といった関係者の行為まで売主が責任を負う書き方になっていないかも確認してください。

既に接触している買手候補の扱いを整理します

売主が複数の買手候補と並行して話を進めていた場合、独占交渉権を設定する時点で、他の候補との話を止める必要が生じます。ここで注意が要るのは、他のM&A仲介業者を通じて紹介を受けていた候補がいる場合です。そのM&A仲介業者との契約に専任の定めがあるかどうか、他の候補に断りを入れる際に何を伝えてよいかを、独占交渉権を引き受ける前に整理してください。断り方によっては、秘密保持義務との関係で問題が生じることがあります。

買収価格の記載がどのような性質のものかを見極めます

基本合意書に記載される価格は、多くの場合、確定額ではありません。「株式の譲渡価格は、金○円を目安とする」「本デューデリジェンスの結果を踏まえて協議のうえ決定する」といった書き方がされます。売主としては、この金額が最終的な受取額とどう違うのかを、署名の前に理解しておく必要があります。ここを誤解したまま進むと、最終契約の段階で「話が違う」という事態になります。

価格が下がり得る条件が書かれていないかを読みます

価格の条項の周辺に、「デューデリジェンスの結果、本合意書締結時に買主が前提とした事実と異なる事実が判明した場合には、買主は譲渡価格の見直しを求めることができる」という趣旨の定めが置かれることが一般的です。これ自体は買手の立場からすれば合理的な定めです。売主として確認すべきは、価格を下げる方向の見直しだけが書かれ、上げる方向の見直しが書かれていないという非対称がないか、そして見直しの根拠が「買主が必要と認めた場合」といった買手の主観に委ねられていないか、という点です。根拠は「重要な事実が判明した場合」のように客観的な表現にしてもらうことが望まれます。

手取り額との差を試算しておきます

基本合意書に書かれた金額は、株式の譲渡代金の総額であることが通常です。売主個人が実際に手にする金額は、ここから複数の項目を差し引いた後の金額になります。次の項目を書き出し、おおよその金額を把握してください。

  • 株式の譲渡益に対する所得税、復興特別所得税及び住民税。個人が非上場株式を譲渡した場合の税負担です。
  • M&A仲介業者に支払う成功報酬。基準となる金額の取り方によって大きく変わります。
  • 弁護士、公認会計士、税理士に支払う報酬。
  • 他に株主がいる場合、その株主に配分される金額。
  • 売主が会社に対して負っている借入金がある場合の返済額。

役員退職慰労金との組合せを確認します

中小企業のM&Aでは、譲渡代金の一部を役員退職慰労金として支払う形が採られることがあります。株式の譲渡代金として受け取る場合と、役員退職慰労金として受け取る場合とでは、税の取扱いが異なります。基本合意書の段階でこの構成が書かれている場合には、金額の内訳がどうなっているのか、役員退職慰労金の支給を株主総会の決議に係らしめる必要があるかを確認してください。また、この構成を採ると会社の資金から支払われることになりますので、資金の手当てについても触れられているかを見ます。

譲渡代金の支払時期の記載を読みます

譲渡代金を一括で受け取るのか、一部を後払いとするのかは、売主にとって極めて重要な事項です。基本合意書に「譲渡代金の一部は、譲渡実行後○年間の業績に応じて支払う」といった趣旨の記載がある場合、その部分は受け取れない可能性を含む金額です。この記載があるならば、対象となる金額の割合、業績の判定方法、判定に用いる計算書類を誰が作成するのかを、この段階で尋ねておいてください。

デューデリジェンスへの協力義務の範囲を定めます

基本合意書に署名すると、次はデューデリジェンスの段階に進みます。買手側の弁護士、公認会計士、税理士が、売主の会社の法務、財務、税務、労務の状況を調査します。基本合意書には、売主がこの調査に協力する義務が書かれるのが通例です。この協力義務の範囲が広すぎると、売主の負担が過大になり、また会社の日常業務にも支障が生じます。

資料提出の範囲に限度を設けます

協力義務の条項が「買主が要請する一切の資料を提出する」という書き方になっている場合、範囲に限度がありません。実務では、「本取引の検討に合理的に必要な範囲で」という限定を付し、提出する資料の一覧を別紙として添付するか、又は買手から書面による依頼一覧を受け取ってから対応する形にすることが望まれます。また、売主の会社が保有する資料であっても、取引先との契約に守秘義務の定めがあるために開示できないものがあります。その場合に売主が義務違反を問われないよう、開示できない資料についての取扱いを定めておくことが有益です。

従業員への開示の統制を明記します

中小企業のM&Aで最も神経を使うのが、従業員に知られるかどうかです。デューデリジェンスの過程で、買手側の担当者が会社を訪問し、経理担当者や工場長に質問をする場面が生じます。そこから話が漏れると、従業員の動揺や退職につながりかねません。基本合意書に、次の趣旨の定めを入れることを求めてください。会社への訪問は事前に売主の承諾を得た日時に限ること、従業員への直接の質問は売主が同席する場でのみ行うこと、訪問時の名目について売主と事前に打ち合わせることです。

期間、場所及び方法を具体的に決めます

デューデリジェンスの実施期間を定めておかないと、調査が延々と続き、独占交渉期間が消化されていきます。「基本合意書の締結後○週間以内に実施する」という定めを置いてもらってください。資料の提供方法についても、電子的な資料共有の仕組みを用いるのか、会社の会議室で閲覧に供するのかを決めておきます。電子的に提供する場合には、提供した資料の一覧を記録に残しておくことが、後日、何を開示したかが争点となったときに役立ちます。

調査の結果に対する対応の義務を負わないようにします

協力義務の条項に続けて、「デューデリジェンスで指摘された事項について、売主は自らの費用で是正する」という趣旨の定めが置かれていることがあります。この定めがあると、指摘の内容次第で売主が予期しない負担を負います。是正するかどうか、費用を誰が負担するかは、指摘の内容を見てから協議すべき事柄です。基本合意書の段階では、是正義務までを引き受けず、「判明した事項の取扱いについては誠実に協議する」という定めにとどめることが望まれます。

秘密保持の対象と例外を確かめます

秘密保持の条項は、法的拘束力を持たせる条項の一つです。売主と買手の双方が義務を負う形になっているのが通常ですが、義務の内容が売主に偏っていないかを確認してください。特に、既に別途締結した秘密保持契約がある場合には、その内容と基本合意書の秘密保持条項との関係を整理する必要があります。

秘密の対象に取引の存在自体を含めます

秘密保持の対象は、開示された資料や情報だけでなく、「本取引について協議が行われている事実」そのものを含める形にしてください。中小企業では、会社を譲り渡す話が進んでいるという事実が金融機関や取引先に伝わるだけで、与信の見直しや取引の縮小につながる場合があります。買手側の社内で本件が話題になり、業界内に伝わるという経路も現実に存在しますので、買手側で情報に触れる者の範囲を限定してもらうことが有益です。

開示できる相手方を列挙します

秘密保持の例外として、開示が認められる相手方を条項に列挙してもらいます。売主側では、弁護士、公認会計士、税理士といった専門家、他の株主、そして金融機関に対する説明が必要になる場面が考えられます。買手側では、買手の親会社、資金の借入先の金融機関、投資家に対する開示が求められることがあります。列挙がないまま「必要な範囲で開示できる」とだけ書かれている場合には、どこまで広がるかが分かりませんので、具体的に書き出してもらってください。

交渉が終了した場合の資料の扱いを決めます

交渉が成立せずに終わった場合、買手側に渡した資料をどうするかを定めておく必要があります。「返還又は破棄し、その旨を書面により通知する」という定めが標準的です。電子的に提供した資料については、複製がどこまで残るかを実際に管理することが難しいため、破棄の対象に電子的な複製を明示的に含めてもらってください。また、秘密保持義務が交渉終了後も何年間存続するかについて、期間の定めがあるかを確認します。

費用の負担とM&A仲介会社への手数料を整理します

費用の条項は、法的拘束力を持たせる条項に含まれます。短い条項であることが多いため読み飛ばされがちですが、金額の大きさによっては売主の手取り額に相当の影響を与えます。基本合意書に書かれた費用の条項と、M&A仲介会社との間で締結した契約書の報酬条項とを、並べて読んでください。

各自負担の原則を確認します

基本合意書に関する費用は、各当事者が自らの費用を負担するという定めが原則です。売主が依頼した弁護士の報酬は売主が負担し、買手が依頼した公認会計士の報酬は買手が負担します。ここで注意が要るのは、デューデリジェンスの費用の扱いです。買手が実施する調査の費用は買手が負担するのが通常ですが、条項の書き方によっては、売主が資料の作成のために外部に委託した費用まで売主の負担とされる場合があります。負担すべき費用の範囲を、自らが依頼した専門家の報酬に限定してもらうことが望ましいところです。

M&A仲介会社への中間金の発生時点を確かめます

M&A仲介会社との契約には、基本合意書の締結の時点で中間金が発生するという定めが置かれていることがあります。金額は、成功報酬の一定割合とされることが多く、案件が成立しなかった場合にも返還されない扱いになっているのが通例です。基本合意書に署名する前に、ご自身とM&A仲介会社との契約書を読み返し、この署名によっていくらの支払義務が生じるのかを確認してください。金額を把握しないまま署名し、後日の請求で驚くという事態は避けられます。

成功報酬の計算の基礎を読み直します

M&A仲介会社の成功報酬は、譲渡代金の額に一定の料率を乗じて計算されることが一般的です。ここで、計算の基礎となる金額が何であるかによって、報酬額は大きく変わります。株式の譲渡代金の額を基礎とする方式と、譲渡代金に会社の負債の額を加えた金額を基礎とする方式とがあり、後者の場合、借入金の多い会社では報酬額が譲渡代金に比して相当に大きくなります。また、最低報酬額の定めがある場合、譲渡代金が小さい案件では、料率にかかわらずその金額が請求されます。基本合意書の価格の記載を見た段階で、その金額を前提に報酬額を試算しておいてください。

解除事由と違約金の条項を読み込みます

基本合意書のうち、売主にとって最も危険が潜むのが、解除と違約金に関する条項です。ここに厳しい定めが置かれていると、交渉から離脱する自由が事実上失われます。中小企業のM&Aでは、デューデリジェンスの過程で買手の姿勢が変わり、売主として続ける意味を見いだせなくなる場面が現実に生じます。そのときに離脱できるかどうかが、この条項で決まります。

解除できる場合と手続を確かめます

まず、いつ効力が終わるのかを見ます。有効期間の満了、最終契約の締結、当事者の書面による合意、そして解除の意思表示という4つが、終了の典型的な原因です。解除については、相手方に義務違反があった場合に加えて、一定の予告期間をおけば理由を問わず解除できるという定めが置かれているかを確認してください。この定めがない場合、売主は義務違反を主張しない限り離脱できないことになります。予告期間をおいた解除の定めを設けるよう求めることが考えられます。

違約金の条項は削除を求めることを検討します

独占交渉義務や秘密保持義務に違反した場合に、一定額の違約金を支払うという条項が置かれることがあります。金額が定められていると、実際の損害の有無や大小にかかわらず、その金額の請求を受ける可能性が生じます。基本合意書のように取引条件が確定していない段階の書面で、高額の違約金を定めることの合理性には疑問があります。この条項については、削除を求めることが第一の対応です。削除に応じてもらえない場合には、違約金の対象となる義務違反を故意による重大なものに限定すること、金額を実損害の賠償に改めること、上限額を設けることを求めてください。

最終契約が締結できなかった場合の費用の負担を確認します

交渉が不成立に終わった場合に、買手が支出したデューデリジェンスの費用を売主が負担するという定めが置かれていないかを確認してください。この種の定めがあると、条件が折り合わずに交渉を打ち切ることが、そのまま数百万円の支払につながります。原則は各自負担であり、売主に義務違反がない限り買手の費用を負担する理由はありません。この定めが入っている場合には、削除を求めるか、少なくとも売主の重大な義務違反により交渉が破談となった場合に限定してもらってください。

署名までの実務の手順を組み立てます

ここまで述べた確認事項を、限られた時間の中でどう進めるかを整理します。基本合意書の案が届いてから署名までに確保したい期間は、おおむね1週間から2週間です。M&A仲介業者から数日以内の署名を求められることがありますが、内容を確認したいという理由を示して期間の確保を申し入れることは、交渉の作法から外れた行為ではありません。

受領した日から3日以内に自分で通読します

まず、経営者ご自身が全文を印刷して読んでください。専門的な言い回しで理解できない箇所があっても構いません。読みながら、意味の分からない箇所、聞いていた説明と違うと感じた箇所、自分が何かを約束させられていると感じた箇所の3種類に印を付けます。この作業を経ておくと、その後の専門家への相談や担当者への質問が、格段に具体的なものになります。あわせて、拘束力の有無を定めた条項を探し、拘束力を持つ条項の番号を書き出してください。

手元の関連書面を並べて突き合わせます

基本合意書だけを読んでも、判断できない事項があります。次の書面を手元に集め、内容の食い違いがないかを確かめてください。M&A仲介会社との間の契約書、既に締結した秘密保持契約、買手候補から受け取った提案書や条件の一覧表、担当者との間の主要な電子メールです。特に、提案書に書かれていた条件と基本合意書の条項とが異なっている場合には、その理由を尋ねる必要があります。

質問を書面にまとめて提出します

疑問点は、口頭ではなく書面又は電子メールで提出してください。口頭のやり取りは記録に残らず、後日、言った言わないの問題になります。質問は、条項の番号を引用し、「第○条の『買主が必要と認めた場合』とは、具体的にどのような場合を指しますか」という形で、一問一答の形にまとめます。数が多い場合には、優先順位の高いものから示すと、回答が得られやすくなります。回答は保存しておいてください。

弁護士に相談する時期を誤らないようにします

基本合意書について弁護士に相談する適切な時期は、署名の前です。署名した後では、独占交渉義務も違約金の条項も既に効力を生じており、できることが限られます。相談の際には、基本合意書の案、M&A仲介会社との契約書、買手からの提案書、ご自身が付けた印のある写しをお持ちください。あわせて、譲渡代金の希望額、譲渡後に会社に関わる意向の有無、従業員の処遇についてのお考えといった優先順位をお伝えいただけると、どの条項を優先して交渉すべきかの判断が的確になります。

他の株主及び親族の理解を得ておきます

中小企業では、株式が経営者以外の親族や旧役員に分散していることが多く見られます。基本合意書に署名する時点で全員の同意を取り付ける必要は必ずしもありませんが、最終的には株式を集約する必要が生じます。誰がどれだけの株式を保有しているかを株主名簿で確認し、譲渡に応じてもらえるかの見通しを立ててください。買手側から見ても、株式を集められるかどうかは取引の成否に直結する事項ですので、この段階で状況を把握しておくことが、後の交渉の混乱を減らします。

よくあるご質問

ここでは、基本合意書の案を受け取った売主の方から実際にお尋ねいただくことの多い事項について、順にお答えします。個々の案件によって適切な対応は異なりますので、一般的な考え方としてお読みください。

基本合意書に署名しないという選択はあり得ますか

あり得ます。基本合意書を締結せずに、秘密保持契約だけを結んでデューデリジェンスに進む進め方も実務に存在します。ただし、買手側は費用をかけて調査を行う以上、独占交渉の約束を求めるのが通常であり、これを断ると買手が離脱する可能性はあります。署名しないという選択よりも、独占交渉の期間を短くする、違約金の条項を削る、といった形で内容を調整するほうが、現実的な進め方となる場合が多いところです。

M&A仲介業者から示された案文に修正を求めてもよいのでしょうか

差し支えありません。基本合意書の案は交渉の出発点であり、そのまま受け入れなければならない性質のものではありません。M&A仲介業者が用意する書式は、多数の案件で使えるように作られた一般的なものであり、個別の事情が反映されていないのが通常です。修正を求める際には、なぜその修正が必要かの理由を添えると、買手側の理解が得られやすくなります。理由を示さずに削除だけを求めると、交渉が長引く傾向があります。

署名した後で、譲渡代金の金額を下げると言われました

基本合意書の価格の条項に法的拘束力を持たせていない場合、買手が最終契約の段階で異なる金額を提示すること自体は、契約違反にはあたりません。確認すべきは、価格の見直しを求める理由です。デューデリジェンスで具体的にどのような事実が判明し、それが企業価値の評価にどう影響するのかについて、書面による説明を求めてください。説明の内容が抽象的である場合や、既に開示済みの事項を理由としている場合には、その点を指摘して再考を求める余地があります。

独占交渉期間中に、別の買手から話が来た場合はどうすればよいですか

独占交渉権の条項に違反する行為をしないことが原則です。まず、条項が禁じている行為の範囲を確認してください。多くの条項は、売主から他の候補に働きかけることや、他の候補と協議することを禁じています。先方から一方的に連絡が来たこと自体は、通常は違反にあたりません。連絡を受けた場合には、協議に入らず、独占交渉期間が満了する時期を理由として応答を留保するという対応が考えられます。判断に迷う場合には、対応する前に弁護士に相談してください。

基本合意書に有効期間が書かれていない場合はどうなりますか

有効期間の定めがない場合、独占交渉義務がいつまで続くのかが不明確になり、売主にとって不利な状態が続きます。この場合には、有効期間の条項を設けるよう求めてください。求めても定められない場合には、少なくとも一定の予告期間をおいて解除できる旨の条項を入れてもらうことが必要です。期間の定めも解除の定めもない書面に署名することは避けるべきです。

デューデリジェンスで自社の問題点が見つかることが心配です

中小企業のM&Aでは、未払いの残業代、契約書の不備、株主名簿と実際の株主の不一致、名義株の存在といった事項が発見されることは珍しくありません。重要なのは、これらを隠さないことです。デューデリジェンスで買手が発見した場合よりも、売主から先に開示した場合のほうが、価格への影響も交渉の雰囲気も穏当に収まる傾向があります。隠していた事実が後から判明すると、表明保証に違反したとして最終契約の締結後に責任を追及される可能性が生じます。基本合意書に署名する前に、懸念のある事項を書き出し、開示の方法について弁護士と相談しておくことをお勧めします。

基本合意書に署名すると、もう後戻りはできないのでしょうか

そのようなことはありません。基本合意書は最終契約の締結を義務付けるものではないのが通常であり、条件が折り合わなければ交渉を終えることができます。ただし、独占交渉期間中は他の買手と交渉できず、その期間は時間の損失となります。また、違約金の条項や買手の費用を負担する条項が入っている場合には、離脱に金銭的な負担が伴う可能性があります。後戻りできるかどうかは、まさにこの2つの条項をどう定めたかで決まりますので、署名の前にその点を確認しておくことが要になります。

弁護士に依頼すると、M&A仲介業者との関係が悪くなりませんか

そのような懸念をお持ちの方は少なくありませんが、実際には、売主側に弁護士が付いていることで手続が整理され、案件が円滑に進む場合が多いところです。M&A仲介業者は売主と買手の双方と契約を結び、両者が合意できる着地点を探す立場に立つのが一般的であり、一方の当事者のためだけに条項を争う立場とは異なります。したがって、条項の交渉を弁護士が担い、相手方の探索と全体の進行をM&A仲介業者が担うという役割分担は、双方にとって無理のない形です。弁護士法人M&A総合法律事務所では、基本合意書の案の検討から最終契約の締結までを通じて、売主の立場からの助言を行っています。

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