買収後に売掛金が回収できないと判明した場合の確認手順と売主への請求

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買収の後に判明した売掛金の回収の困難に関するメインのページです。本ページは、M&Aで会社を譲り受けた後に債権の実在と引当金を確かめる手順をご説明します。不良在庫が判明した場合は別のページをご参照ください。

不良在庫が判明した場面は買収後に不良在庫が大量に判明した場合の表明保証と価格調整の整理を、契約書にない債務が見つかった場面は譲り受けた会社に契約書にない債務が見つかった場合の請求の道筋を、それぞれご覧ください。

買収の実行から数か月が過ぎ、月次の資金繰りを確認していたところ、承継したはずの売掛金が一向に入金されないことに気づく、という場面があります。経理の担当者に尋ねると、請求書は送っているものの先方から何の反応もない、あるいは先方は既に事業をたたんでいるらしい、という答えが返ってきます。株式の譲渡代金は、多くの場合、直近の貸借対照表を出発点として算定されており、売掛金はそこに額面のまま資産として並んでいます。回収できない売掛金は、そのまま買主の損失に転化します。

この段階で買主の側に生じる疑問は、おおむね二つです。第一に、その売掛金はそもそも本当に存在していたのか。第二に、存在はしていたとして、売主は回収できないことを知りながら額面のまま資産に計上し続けていたのではないか、という疑問です。この二つは似て見えますが、主張の組み立ても、必要となる証拠も、請求できる金額の考え方も別のものになります。ここを混ぜたまま抗議を始めると、後から主張を組み替えることが難しくなり、交渉の主導権を失います。

本稿では、中小企業のM&Aで株式を取得した買主の方を念頭に、売掛金が回収できないと判明した場面で、何を、どの順序で確認し、どのように売主への請求に結び付けるかを整理します。

Contents
  1. 回収できない原因を切り分ける
    1. 架空の債権と、実在するが回収が困難な債権
    2. 買収の前に生じていた事情か、後に生じた事情か
    3. 切り分けのために最初に着手する作業
  2. 債権が実在していたか
    1. 取引の実在を裏づける資料をたどる
    2. 取引先への残高の確認
    3. 不自然な計上の兆候
  3. 貸倒引当金は適切に計上されていたか
    1. 中小企業の決算における引当金の実情
    2. 滞留の期間を年齢別に調べる
    3. 引当不足が示すもの
  4. デュー・ディリジェンスで開示されていた資料
    1. 開示された資料の一覧を復元する
    2. 質問回答書の記載を精査する
    3. 買主が知っていた事情の扱い
  5. 表明保証の条項との関係
    1. 架空の債権の場合に依拠する表明
    2. 回収が困難な債権の場合に依拠する表明
    3. 補償を制限する条項の確認
  6. 損害額の算定
    1. 架空の債権における考え方
    2. 回収が困難な債権における考え方
    3. 二重に計上しないこと
    4. 買主の側の回収の努力が問われる場合
  7. 売主への通知と請求
    1. 期間の制限を最初に確認する
    2. 通知書に記載する事項
    3. 資料の保全と交渉の進め方
  8. よくあるご質問
    1. 売掛金が回収できないというだけで、直ちに表明保証の違反になりますか
    2. 架空の債権であることは、どのように証明するのですか
    3. 貸倒引当金を計上していなかったこと自体が、売主の責任になりますか
    4. 買収の後、督促をほとんど行っていませんでした。請求はできなくなりますか
    5. 複数の取引先に対する債権が少額ずつ回収できません。補償の下限に届かない場合はどうなりますか
    6. 売主に請求できる期間は、いつまでですか
    7. 売主が譲渡代金を使ってしまっている可能性があります。何かできることはありますか

回収できない原因を切り分ける

最初に行うべきは、原因を冷静に切り分ける作業です。売掛金が入金されない理由には性質の異なる類型があり、どの類型に当たるかによって、売主に対して何を言えるかが決まります。ここを曖昧にしたまま「聞いていた話と違う」とだけ伝えても、「経営が変わったからでしょう」と返され、話が止まります。

架空の債権と、実在するが回収が困難な債権

もっとも重要な区別は、架空の売掛金、すなわち対応する取引そのものが存在しない債権と、取引は実在するものの相手方の資力の問題で回収が困難になっている債権との区別です。架空の債権は、資産の部に載っていること自体が誤りであり、財務諸表が正確であるという売主の表明保証に真正面から反します。買主は「存在しないものの代金を払わされた」と主張することになります。

これに対し、実在するが回収が困難な債権は、資産として計上されていること自体は誤りではありません。問題は評価の側面、すなわち回収可能性に見合った減額、すなわち貸倒引当金の計上がされていたかどうかに移ります。この場合の主張は「価値のないものを価値があるかのように評価していた」というものになり、争点は売主がいつの時点で回収不能を認識し、又は認識し得たかに絞られます。前者が事実の不存在をめぐる争いであるのに対し、後者は評価と認識をめぐる争いであり、証拠の集め方も異なります。

買収の前に生じていた事情か、後に生じた事情か

次に、回収不能の原因となった事情が、株式の譲渡実行日より前に既に生じていたのか、実行日より後に発生したのかを確定します。取引先が実行日の半年前から手形の決済を延ばしていたのであれば、それは売主の側にあった事情です。実行日の後に取引先の主要な販売先が撤退し、そこから資金繰りが悪化したのであれば、買主が引き受けるべき事業上の変動と評価される可能性が高くなります。

この切り分けは、取引先の登記事項証明書の変更履歴、官報の公告、信用調査会社の報告書の作成日付、当該取引先からの入金の履歴といった、日付の入った資料によって行います。担当者の口頭の説明だけでは、後の交渉で足元をすくわれます。

切り分けのために最初に着手する作業

まず売掛金の補助元帳を実行日時点で出力し、取引先別かつ発生月別に並べ替えます。そのうえで、入金が止まっている取引先を抽出し、最終の入金日、残高、最初に滞留が生じた月を一覧にします。この一覧が以後のすべての作業の土台になります。承継した経理の担当者が売主側の関係者である場合もありますので、抽出の作業を買主が指定した会計の専門家に行わせることも検討に値します。

債権が実在していたか

切り分けの第一段階として、当該売掛金に対応する取引が実在したのかを確かめます。架空の債権であることが立証できれば主張は格段に強くなりますので、この確認は最優先で行う価値があります。

取引の実在を裏づける資料をたどる

確認すべきは、注文書又は注文請書、出荷指図書、納品書の控え、運送業者の送り状の控え、検収書、請求書の控え、売上を計上した仕訳の伝票です。実在する取引であれば、これらが一本の流れとしてつながり、数量と単価と金額が整合します。架空の取引では、請求書と仕訳は存在するのに手前にある出荷や納品の記録だけが欠けている、日付の前後が逆転しているといった不整合が現れます。

製造業や卸売業であれば、在庫の受払簿との突合が有効です。売上が計上されているのに対応する在庫の払出しが記録されていなければ、その売上に商品の動きが伴っていなかったことになります。役務の提供を内容とする取引では、作業日報や工数の記録が同じ役割を果たします。

取引先への残高の確認

次に、取引先に対して残高確認の書面を送付します。買主の名義で、期日を切って、当該時点の債務の残高の回答を求める形式とします。回答が得られれば債権の存在の有力な裏づけになりますし、「そのような取引をした覚えはない」という回答であれば架空の債権である疑いが強まります。回答がまったく返ってこないこと自体も記録に残す意味があります。

ただし、残高確認の送付は取引先との関係を緊張させる行為でもあります。送付先の選定と文面には配慮が必要であり、滞留が長期にわたる先に限定する、決算の手続の一環と位置付けるといった工夫が考えられます。

不自然な計上の兆候

架空の債権が存在する会社には共通する兆候が見られます。期末月に売上が突出して増え翌期の初月に同額に近い返品又は値引きが計上されている、特定の取引先に対する売掛金だけが何期にもわたって同じ金額で残っている、取引先の所在地が代表者の関係先と一致している、といったものです。仕入と売上が同じ相手方との間で環を描いていれば、循環的な取引が疑われます。決定的な証拠ではありませんが、どこを深く調べるべきかの手がかりになります。

貸倒引当金は適切に計上されていたか

債権が実在する場合、争点は評価に移ります。回収が困難であることに見合った貸倒引当金が計上されていたか、という点です。中小企業の決算では、この引当金の計上が実態から離れていることが少なくありません。買主としては、その離れ具合が会計慣行の範囲にとどまるのか、売主が回収不能を知りながら資産を膨らませていたと評価し得るのかを見極めます。

中小企業の決算における引当金の実情

上場していない中小企業では、税務上の繰入限度額に合わせて引当金を計上する、あるいは損金に算入できないことを理由に一切計上しない、という処理が広く行われています。これ自体は珍しくなく、それだけで直ちに売主の責任を問えるわけではありません。しかし、株式譲渡契約に「財務諸表は一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って作成されている」といった表明保証が置かれている場合、実態から著しくかけ離れた評価はその表明保証に反すると評価される余地があります。

滞留の期間を年齢別に調べる

具体的には、実行日時点の売掛金の残高を、発生からの経過期間ごとに区分した表を作成します。3か月以内、3か月超6か月以内、6か月超1年以内、1年超といった区分が一般的です。通常の回収の期間が翌月末である会社で、1年を超えて残る残高が相当額あるならば、回収の見込みが乏しい債権が滞留していたことを示します。

あわせて、その滞留がいつから始まったのかを過去の決算書の売掛金の明細と比較して確認します。同じ取引先に対する同じ金額の残高が3期にわたって動いていなければ、売主が回収不能を認識していなかったとは考えにくいという評価につながります。

引当不足が示すもの

引当金の不足は、それ自体が損害というより、譲渡代金の算定の前提が誤っていたことを示す事実です。純資産を基礎に代金を算定した案件では、引当不足の額がそのまま純資産の過大計上の額に対応します。営業利益に倍率を乗じて算定した案件では、貸倒れの損失が過去の利益に反映されていなかった分だけ算定の基礎となる利益が水増しされており、影響が拡大する場合もあります。算定の資料も揃えておいてください。

デュー・ディリジェンスで開示されていた資料

売主に責任を追及する場面では、必ず「その事情は開示していた」「買主は知っていたはずだ」という反論が返ってきます。請求を組み立てる前に、デュー・ディリジェンスの過程で何が開示され、何が開示されなかったかを、こちら側で先に確定させておく必要があります。

開示された資料の一覧を復元する

資料の共有に用いた電子的な保管庫の記録、あるいは受領した資料の一覧表を取り寄せ、売掛金に関して何が提出されていたかを確認します。売掛金の補助元帳、年齢別の残高の表、取引先ごとの回収の条件の一覧、滞留債権に関する説明の書面の有無が要点です。総勘定元帳の残高だけが示され取引先別の内訳が示されていなかったのであれば、買主が個別の滞留を把握することは困難であり、その事情は買主に有利に働きます。

質問回答書の記載を精査する

デュー・ディリジェンスの過程では、通常、買主が質問を書面で発し、売主が書面で回答します。「回収に懸念のある債権はありますか」「過去3期において貸倒れとして処理した債権はありますか」といった質問に売主が「該当なし」と回答していたのであれば、その回答書は極めて重要な証拠になります。回答書が株式譲渡契約に開示資料として組み込まれているかどうかで扱いが変わりますので、契約書の定義の条項を確認してください。

買主が知っていた事情の扱い

株式譲渡契約には、開示された事項については表明保証の違反を主張できない旨の条項が置かれていることが通例です。さらに、買主がデュー・ディリジェンスにおいて知り、又は知り得た事項を補償の対象としない趣旨の条項が置かれている場合もあります。後者がある場合、売主は「年齢別の表を渡したのだから滞留は分かったはずだ」と主張してきます。渡された資料からどこまで読み取れたのか、取引先の資力の悪化までは読み取れなかったことを説明できるようにしておいてください。開示は、断片的な数値を渡すことではなく、買主が評価できる程度に事情を示すことを要すると考える余地があります。

表明保証の条項との関係

ここまでの確認を踏まえ、株式譲渡契約のどの条項に違反があるのかを特定します。表明保証とは、契約の当事者が一定の事項が真実かつ正確であることを相手方に表明し保証する条項をいい、違反があった場合には補償の条項に従って金銭の支払を求めることができます。どの表明に依拠するかによって、必要な立証も売主の反論も変わります。

架空の債権の場合に依拠する表明

債権が実在しない場合には、まず財務諸表の正確性に関する表明が問題になります。存在しない資産が計上されていた以上、貸借対照表は当該会社の財政状態を正しく表示していなかったことになります。あわせて、帳簿及び記録が正確に作成されているという趣旨の表明も検討の対象になります。この類型では、売主が回収不能を知っていたかどうかは、表明保証の違反の成否そのものには影響しません。事実として存在しなかったこと、それ自体が違反だからです。売主の認識は、損害の範囲や、悪意の場合に補償の上限を外す条項の適用の場面で意味を持ちます。

回収が困難な債権の場合に依拠する表明

これに対し、債権が実在するが回収が困難である場合には、依拠する表明はより限定されます。財務諸表が企業会計の基準に従って作成されているという表明、資産の評価に関する表明、「開示されたもののほかに回収に重大な懸念のある債権は存在しない」といった個別の表明が正面から適用されます。この類型では、売主が実行日の時点で回収不能を認識し、又は認識し得たことが実質的な争点になり、年齢別の表、過去の決算書、督促の記録といった時系列を示す資料が主張の中心になります。

補償を制限する条項の確認

補償の条項には、通常、いくつかの制限が付されています。1件あたり一定額を超える損害でなければ請求できないという下限の定め、損害の合計が一定額に達して初めて請求できるという定め、補償の総額の上限、請求ができる期間の制限です。売掛金の回収不能は、取引先ごとに見ると金額が小さく、下限に届かないことがあります。この場合、複数の取引先に対する債権の回収不能を、一つの表明保証の違反から生じた一連の事象として合算できるかが問題になりますので、契約書に「同一の原因から生じた損害は合算する」という趣旨の定めがあるかを確認してください。

損害額の算定

請求の金額をどう立てるかは、交渉の帰趨を大きく左右します。過大な請求は売主に交渉に応じない口実を与え、訴訟に移行した場合には敗訴部分に対応する費用の負担を招きます。類型に応じた算定の考え方を整理しておきます。

架空の債権における考え方

架空の債権の場合、もっとも単純な考え方は、当該債権の額面をそのまま損害とするものです。存在しない資産の分だけ純資産が過大に評価され、その分だけ譲渡代金が過大になったという説明であり、純資産を基礎に代金を算定した案件ではこの説明が通ります。もっとも、架空の売上に対応して納付された法人税等が還付され得る場合には、その分の調整を要します。代金を利益の倍率によって算定した案件では額面を超える損害を主張し得る場合もありますが、算定の過程を示す資料が必要です。

回収が困難な債権における考え方

実在するが回収が困難な債権の場合、損害は額面の全額ではありません。実行日の時点でその債権にどの程度の価値があったかが出発点であり、適正に貸倒引当金を計上していれば減額されていたはずの金額が損害の中核をなします。取引先が既に破産手続に入り配当の見込みが皆無であれば額面に近い金額になりますが、分割での弁済が続く先であれば回収の見込みの分を控除します。回収のために支出した弁護士の費用を損害に含められるかは、補償の条項の文言によります。

二重に計上しないこと

実務でしばしば生じる誤りは、同じ損失を複数の名目で計上してしまうことです。貸倒引当金の不足額を請求しながら同じ債権について額面の全額を別に計上する、といった形です。算定の表を作成し、どの債権について、どの根拠で、いくらを請求しているかを1件ごとに明示できるようにしておきます。

買主の側の回収の努力が問われる場合

ここで注意を要するのが、買収の後における買主の側の回収の努力です。実在する債権について回収が困難になった場合、売主からは、買主が承継後に何もしなかったから回収できなくなったのだという反論が必ず出ます。督促の書面を一度も送っていない、担当者の交代で取引先との連絡が途絶えた、消滅時効の完成を漫然と見過ごした、取引先が破産手続に入ったのに債権の届出をしなかった、といった事情があれば、この反論には相応の説得力が生じます。損害の額の算定において買主の側の事情が考慮され、請求できる金額が減じられる可能性は否定できません。

そこで、回収不能に気づいた時点から、通常の債権者として行うべき回収の手続を淡々と履行し、記録を残すことが重要です。内容証明郵便による督促、取引先との面談の記録、分割弁済の合意書の取り交わし、必要に応じた支払督促の申立てや訴訟の提起、取引先が法的な整理に入った場合の債権の届出といった手続です。これらは債権の回収のために行うものですが、同時に、売主に対する請求において回収の努力を尽くしたと述べる材料にもなります。架空の債権については回収の対象自体が存在しませんので、この反論は基本的に成り立ちません。

売主への通知と請求

事実の確認と損害の算定が一定の水準に達したら、売主への通知に進みます。手順を誤るとこれまでの作業が無駄になりかねませんので、順序と期限に注意してください。

期間の制限を最初に確認する

株式譲渡契約には、表明保証の違反に基づく請求について、実行日から1年ないし2年といった期間の制限が定められていることが通例です。この期間内に通知を発しなければ請求権自体が失われる旨の定めになっていることが多く、期間の経過は致命的です。売掛金の回収不能は気づくまでに時間がかかる類型ですので、この期限の確認は最優先で行ってください。調査が完了していなくとも、期限が迫っているのであれば、判明している事実と暫定の金額を記載した通知を先に発し、追って詳細を補充する旨を付記する方法が考えられます。

通知書に記載する事項

通知書には、少なくとも次の事項を記載します。第一に、株式譲渡契約のどの条項の表明保証に違反があると考えるかを、条項の番号を挙げて特定します。第二に、違反の内容となる事実を、取引先ごとに、債権の発生の時期、金額、滞留の状況とともに記載します。第三に、現時点で把握している損害の額と算定の根拠を示します。第四に、補償の条項に基づく支払を求める旨と回答の期限を明記します。抽象的に「表明保証に違反しています」とだけ述べる通知では、期間の制限との関係で有効な通知と認められない可能性があります。送付は内容証明郵便に配達証明を付す方法によります。

資料の保全と交渉の進め方

通知に先立ち、証拠の保全を済ませてください。会計のデータ、電子メールの記録、担当者からの聴取の記録は時間の経過とともに失われます。会社法上、会計帳簿及び事業に関する重要な資料は帳簿の閉鎖の時から10年間の保存が求められていますが、統合の過程で散逸することがありますので、実行日時点の状態を複製して保管しておくことが安全です。

売主が創業家であり、買収の後も顧問や従業員として会社に残っている場合、通知の発出は関係の悪化を伴います。事業への影響や従業員に与える動揺を踏まえ、通知の時期と伝え方を検討します。もっとも、関係への配慮から通知を先送りしているうちに期間の制限が経過してしまう例が少なくありませんので、期限との兼ね合いを常に意識してください。架空の債権が組織的に作出されていた場合には、表明保証の違反にとどまらず、詐欺による契約の取消しや不法行為に基づく損害賠償の構成も検討の対象になりますが、いずれを採るかは証拠の状況と回収の実効性を踏まえて判断すべき事柄です。

よくあるご質問

買収の後に売掛金の回収不能が判明した場面で、買主の方からお受けすることの多いご質問を整理します。個別の結論は契約書の文言と資料の状況により変わります。

売掛金が回収できないというだけで、直ちに表明保証の違反になりますか

直ちに違反になるとは限りません。買収の後に取引先の経営が悪化して回収できなくなった場合には、買主が引き受けた事業上の変動と評価される余地があります。違反を主張するには、実行日の時点で既に債権が存在しなかったこと、又は既に回収が困難であったのに相応の減額がされていなかったことを資料によって示す必要があります。

架空の債権であることは、どのように証明するのですか

取引の流れを裏づける資料が存在しないことを積み上げる方法によります。注文書、出荷や納品の記録、運送の記録、在庫の受払、検収の記録を順にたどり、請求書と仕訳だけが存在して手前の記録が欠けている状態を示します。あわせて残高確認の書面を送付し、その回答又は無回答を記録に残してください。

貸倒引当金を計上していなかったこと自体が、売主の責任になりますか

それだけで責任が生じるとは限りません。中小企業では税務上の取扱いに合わせて引当金を計上しない実務が広く行われており、表明保証の文言に会計の指針に関する限定が付されている場合もあります。契約書の文言を確認したうえで、実態からの乖離が慣行の範囲を超えているかを検討します。

買収の後、督促をほとんど行っていませんでした。請求はできなくなりますか

直ちに請求ができなくなるわけではありませんが、売主から、買主が回収の努力を怠ったために回収不能に至ったという反論を受け、損害の額が減じられる可能性があります。気づいた時点からは、督促、面談の記録の作成、必要に応じた法的手続の申立てを行い、その経過を記録に残してください。なお、債権が架空であった場合には、回収の努力の有無は基本的に問題になりません。

複数の取引先に対する債権が少額ずつ回収できません。補償の下限に届かない場合はどうなりますか

株式譲渡契約に、同一の原因から生じた損害を合算する旨の定めがあるかを確認してください。定めがあれば、財務諸表の不正確性という一つの違反から生じた損害として合算し得ます。定めがない場合でも、個別の債権ごとの請求ではなく、資産の過大計上という単一の事実に基づく請求として構成することにより、下限の適用を回避できる余地があります。

売主に請求できる期間は、いつまでですか

まず株式譲渡契約に定められた期間の制限が優先します。実行日から1年ないし2年とされていることが多く、この期間内に所定の方式で通知を発する必要があり、経過すると契約上の補償の請求はできなくなるのが通例です。もっとも、売主に故意による不実の表明があった場合には期間や上限の制限を適用しない旨の定めが置かれていることもありますので、該当の条項を確認してください。

売主が譲渡代金を使ってしまっている可能性があります。何かできることはありますか

請求権を得ても、相手方に資力がなければ回収に至りません。売主が所有する不動産の登記事項証明書を取得して担保の設定の状況を確認するといった調査を行い、必要に応じて仮差押えなどの保全の手続を検討します。保全の手続には担保の提供と疎明を要しますので、通知の準備と並行して早い段階から検討することが望まれます。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。