買収後に対象会社の税金の滞納が判明した場合の納付と売主への補償請求

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買収の後に判明した税金の滞納に関するメインのページです。本ページは、M&Aで会社を譲り受けた後に税目と滞納額を確定し補償を求める手順をご説明します。社会保険料の滞納は別のページをご参照ください。

社会保険料の滞納が判明した場面は買収後に対象会社の社会保険料の滞納が発覚した場合の対応と売主への請求を、売主として課税庁から請求を受けた場面は会社売却後に税金・社会保険料・旧債務の請求が届いた場合の対応を、それぞれご覧ください。

株式の譲渡が終わり、経営を引き継いで数週間が過ぎたころ、経理の机の引き出しから税務署名義の督促状が何通も出てきた、というご相談をいただくことがあります。開けてみると消費税の中間申告分が未納であったり、源泉所得税が数か月分まとめて納付されていなかったりします。前の代表者に連絡を取っても要領を得ず、経理を担当していた従業員に尋ねると、資金繰りが厳しい月は納付を後回しにしていたと打ち明けられる、という展開もよく見られます。

この場面で買主の方が最初に抱かれる不安は、自分がその税金を払わされるのではないか、という点です。結論から申し上げますと、株式を譲り受ける方式のM&Aにおいて、滞納した税金の納付義務を負うのは対象会社であって、買主の個人ではありません。買主は対象会社の株主になったにすぎず、株主が会社の税金を個人として肩代わりする義務は原則として生じません。もっとも、対象会社の資産価値は買主が対価を支払って取得したものですから、対象会社が滞納税額を支払えば、その分だけ買主が手にした価値は目減りします。実質的な損失は買主に及びます。

そこで問題は、対象会社としてどのように納付を進めるかという税務上の対応と、その負担を売主に転嫁できるかという契約上の請求と、二つに分かれます。この二つは根拠も相手方も期限も異なりますので、混同すると対応が遅れます。本稿では、滞納額の確定から、延滞税及び加算税の扱い、表明保証に基づく請求、納付と請求の順序、そして通知の期限までを順に整理いたします。

Contents
  1. 税目と滞納額を確定させる
    1. 納付義務を負うのは対象会社であることを確認します
    2. 納税証明書と督促状で未納額を網羅的に把握します
    3. 税目ごとに深刻さの度合いが異なります
  2. 延滞税及び加算税の取扱い
    1. 延滞税は日々増加します
    2. 加算税は申告の態様によって区分されます
    3. 負担を軽減できる場面があります
  3. デュー・ディリジェンスで開示されていた資料
    1. 開示された資料の範囲を確定させます
    2. 資料から読み取れたはずの事項かどうかを検討します
    3. 質問への回答内容を確認します
  4. 税務に関する表明保証の条項
    1. 典型的な文言と当てはめの手順
    2. 限定文言の有無を確認します
    3. 補償条項と特別補償の有無を確認します
  5. 納付と売主への請求はどちらを先にするか
    1. 納付を先行させる理由
    2. 納税の猶予及び換価の猶予の活用
    3. 納付を待たずに売主への通知は行います
  6. 損害額の算定
    1. 費目を積み上げます
    2. 既に価格に織り込まれた部分を控除します
    3. 税務上の効果と回収可能性を考慮します
  7. 通知の期限
    1. 存続期間と通知期限を確認します
    2. 通知に記載すべき事項
    3. 期限が迫っている場合の対応
  8. よくあるご質問
    1. 滞納していた税金を、買主である私が個人で払わなければならないのでしょうか
    2. 売主と話がつくまで納付を止めておくことはできますか
    3. 買収前のデュー・ディリジェンスで決算書を受け取っていました。滞納に気付くべきだったと言われないでしょうか
    4. 契約書に売主の知る限りという限定が付いています。請求は難しいでしょうか
    5. 滞納が判明したのが譲渡実行から1年半後です。もう請求できないのでしょうか
    6. 売主が代金を使い切っていた場合、どのように回収すればよいでしょうか

税目と滞納額を確定させる

最初に行うべきは、感情的な交渉に入る前に、滞納の全体像を数字で押さえる作業です。督促状が1通見つかったということは、他にも未納があると考えるのが自然です。税目ごとに未納の性質も、放置した場合の帰結も異なりますので、まずは網羅的に洗い出してください。

納付義務を負うのは対象会社であることを確認します

株式譲渡の方式では、対象会社という法人格はそのまま存続し、株主が入れ替わるだけです。したがって、譲渡前の事業年度に生じた法人税も、譲渡前の課税期間の消費税も、納税義務者は対象会社のままです。買主が個人としてこれらの納税義務を承継することはありません。

もっとも、例外的に第三者が納付の責任を負う制度として、第二次納税義務と呼ばれる仕組みが国税徴収の法令に置かれています。たとえば事業の譲渡を受けた者が譲渡人と特殊な関係にある場合に、譲り受けた財産の価額を限度として責任を負うことがあります。また、売主である個人が自らの税を滞納しており、その者が保有していた同族会社の株式の換価が困難であるといった事情がある場合に、会社側が責任を問われる余地もあります。株式譲渡の一般的な事案でこれらが適用される場面は限られますが、事業譲渡の方式を採った場合や、売主個人にも滞納がある場合には、専門家に個別の検討を求めてください。

納税証明書と督促状で未納額を網羅的に把握します

滞納額を客観的に確定させる最も確実な資料は、税務署が発行する納税証明書です。未納の税額の有無を証明するもの、及び滞納処分を受けたことがないことを証明するものを取得すれば、国税についての未納の状況が公的な書面で分かります。法人の代表者として請求できますので、代表者交代の登記が完了しているかを先に確認してください。地方税については、都道府県税事務所及び市区町村役場に対して同様の証明を請求します。法人事業税、法人住民税、固定資産税、償却資産税、事業所税は所管が異なりますので、それぞれに当たる必要があります。

あわせて社内の資料も集めます。届いている督促状及び催告書、電子申告システムのメッセージボックスに保存された受信通知、金融機関の口座振替の不能通知、総勘定元帳の未払法人税等及び預り金の勘定、給与計算の記録と源泉所得税の納付書控えの突合、といった順で確認します。社会保険料は税ではありませんが、滞納があれば同様に延滞金が生じ、財産の差押えの対象となりますので、年金事務所からの通知の有無も併せて調べてください。

税目ごとに深刻さの度合いが異なります

同じ滞納でも、税目によって背景事情が異なります。法人税の未納は、資金繰りの悪化を示すことが多く、金額も大きくなりがちです。消費税の未納は、預かった税を運転資金に流用していた状態であり、事業の資金構造に問題があることを示します。とりわけ深刻なのが源泉所得税の未納です。従業員の給与から天引きした税を国に納めていない状態ですから、預り金の費消にあたり、納付が遅れた期間に応じて不納付加算税も課されます。滞納の理由を経理担当者から聞き取り、資金繰り由来か事務処理由来かを区別して記録に残してください。この区別は、後に売主の認識を問う際の重要な手がかりになります。

延滞税及び加算税の取扱い

滞納の問題が厄介なのは、放置している間にも金額が増え続ける点です。本税に付随して課される負担には、納付の遅れに対する延滞税と、申告の内容や態様に対する加算税とがあり、性質が異なります。売主への請求を組み立てる際にも、この区別が損害の説明に効いてきます。

延滞税は日々増加します

延滞税は、法定納期限の翌日から実際に納付する日までの期間に応じて、日割りで計算される利息に相当する負担です。割合は法律で定められた基準に応じて改定されますが、納期限から2か月を経過するまでの期間は比較的低い割合とされ、それを過ぎると割合が上がる仕組みが採られています。したがって、未納が長期化するほど負担は加速度的に重くなります。買主として交渉に時間をかけている間にも延滞税は積み上がりますので、金額の確定と納付の判断は速やかに行う必要があります。

加算税は申告の態様によって区分されます

加算税には複数の種類があります。申告はしたものの税額が過少であった場合の過少申告加算税、期限までに申告しなかった場合の無申告加算税、源泉徴収した税を期限までに納付しなかった場合の不納付加算税、そして事実の隠蔽又は仮装があった場合の重加算税です。重加算税は他の加算税に代えて課され、割合も高く設定されています。売主への請求という観点からは、重加算税が課されているかどうかが決定的に重要です。重加算税が課されたということは、税務当局が意図的な隠蔽又は仮装があったと判断したことを意味しますので、売主が滞納や過少申告の事実を知りながら開示しなかったという主張を根拠づける有力な材料になります。賦課決定通知書の写しを必ず保管してください。

負担を軽減できる場面があります

延滞税及び加算税は必ず全額が課されるとは限りません。修正申告を税務調査の事前通知前に自主的に行った場合には、加算税が軽減され、又は課されないこととされている場合があります。後述する納税の猶予又は換価の猶予が認められた場合には、猶予期間中の延滞税の一部が免除される取扱いがあります。ただし、これらの取扱いは要件が細かく定められており、事案により結論は異なりますので、独自の判断で納付を遅らせることは避けてください。

デュー・ディリジェンスで開示されていた資料

売主に責任を問えるかどうかを左右する最大の要素は、買収前に何がどこまで開示されていたかです。滞納の事実が資料の中に現れていたのであれば、売主は開示済みであると反論してきます。したがって、請求の準備は、まず開示資料を洗い直す作業から始まります。

開示された資料の範囲を確定させます

資料の閲覧に用いた電子的な保管庫の索引を取り寄せ、開示された文書の一覧、各文書の登録日時、閲覧の記録を確保してください。運営を担当した業者が保存期間を定めている場合がありますので、早い段階で保全を求めることが肝要です。次に、税務に関する資料が具体的に何であったかを特定します。法人税及び消費税の確定申告書の控え、勘定科目内訳明細書、総勘定元帳、税務調査の指摘事項の記録、修正申告書、納税証明書などです。このうち納税証明書が開示されていたかどうかは重要な分岐点になります。未納がないことを示す証明書が開示され、それが虚偽であったのであれば、売主の責任は明確です。他方、納税証明書の提出を求めたのに提出されなかった、という経緯があるのであれば、買主側の調査の在り方も問われ得ます。

資料から読み取れたはずの事項かどうかを検討します

売主からは、開示した決算書に未払法人税等が計上されていたのだから知り得たはずだ、という反論が想定されます。ここで検討すべきは、その計上が滞納の存在を読み取れる形であったかどうかです。決算書における未払法人税等は、期末時点で確定した税額のうち未納付のものを示す科目であり、期限内に納付される前提で計上されているのが通常です。そこに期限を過ぎた滞納分が紛れていても、通常の読み方では区別できません。同様に、租税公課の勘定に延滞税や加算税が計上されていた場合には滞納を示唆する痕跡となりますが、他の費目に紛れて計上されていた場合には読み取りが困難です。総勘定元帳の摘要欄まで確認しなければ判明しなかったのか、それとも一覧表の表面から明らかであったのかを、実際の資料に即して整理してください。

質問への回答内容を確認します

資料そのものと同じくらい重要なのが、買収前に行った質問と回答の記録です。未納の公租公課の有無を質問し、ないという回答を得ていたのであれば、それは開示の不備を超えて、積極的な虚偽の回答にあたり得ます。電子メール、質問回答の一覧表、経営者への面談の議事録を時系列で並べ、質問の文言と回答の文言を対照させた表を作成してください。回答が曖昧であった箇所も、そのまま記録に残してください。

税務に関する表明保証の条項

売主への請求の法的な根拠は、多くの場合、株式譲渡契約に定められた表明保証の条項とこれに対応する補償の条項です。契約書を開き、税務に関する表明の文言を一字ずつ読む作業から始めてください。契約書の写しだけでなく、締結に至る過程で交わされた修正の履歴も手元に置くと、条項の意味を裏付けやすくなります。

典型的な文言と当てはめの手順

税務に関する表明保証は、対象会社が法令に従って適時に申告を行っていること、期限までに納付すべき公租公課を全て納付していること、税務当局から調査又は指摘を受けていないこと、といった内容で構成されるのが一般的です。滞納がある以上、納付に関する表明には違反があると考えられます。当てはめの手順としては、まず違反があると考える表明の項目を特定し、次に基準時を確認します。表明の効力が契約締結日のみに及ぶのか、譲渡実行日にも繰り返されるのかによって、対象となる期間が変わります。そのうえで、違反の事実を裏付ける資料、すなわち納税証明書や督促状を、条項の文言に対応させて整理します。

限定文言の有無を確認します

実務上、表明保証には限定を付す文言が挿入されることが少なくありません。売主の知る限りという主観的な限定、重要な点においてという重要性の限定、一定金額を超えるものに限るという金額の限定です。知る限りという限定が付されている場合には、売主が滞納の事実を認識していたことを示す必要が生じます。もっとも、代表者として日々の資金繰りを差配していた売主が、消費税や源泉所得税の未納を認識していなかったという説明は、通常は説得力を持ちません。督促状の宛先、経理担当者との連絡記録、納付を後回しにする判断を行った経緯を、聞き取りと資料の双方から固めてください。

補償条項と特別補償の有無を確認します

表明保証に違反した場合の効果を定めるのが補償の条項です。補償の対象となる損害の範囲、請求できる金額の下限と上限、通知の方法、支払の期限が定められています。あわせて、税務事項について特別補償の条項が置かれていないかを確認してください。デュー・ディリジェンスで具体的な懸念が指摘された事項については、表明保証とは別に、金額の上限や期間の制限を緩和した特別の補償が定められることがあります。特別補償があれば、そちらを主たる根拠とする方が有利になる場合が多く見られます。

納付と売主への請求はどちらを先にするか

買主の方から最も多くいただくご質問が、売主が払うべきものを対象会社が先に払ってよいのか、という点です。心情としては当然のご懸念ですが、実務上は納付を先行させ、並行して売主に請求するという進め方が採られることが多くあります。理由は明確です。

納付を先行させる理由

第一に、納付を遅らせても納税義務は消えず、延滞税が日々増え続けます。交渉が数か月に及べば、その間の延滞税は買主側の負担として積み上がります。第二に、督促を受けた後に納付がなければ、税務当局は財産の差押えに進むことができます。差押えの対象となるのは、預金口座、売掛金、機械設備、不動産などです。売掛金が差し押さえられれば取引先に事情が知れ渡り、預金口座が押さえられれば給与や仕入代金の支払が止まります。買収した事業の信用そのものが損なわれ、回復には長い時間を要します。これらを考えあわせますと、まず対象会社として納付を済ませ、支出の事実を確定させたうえで、その金額を損害として売主に請求するという順序が合理的です。

納税の猶予及び換価の猶予の活用

とはいえ、滞納額が大きく、一括での納付が資金繰りを圧迫する場合もあります。その際に検討すべきが、納税の猶予及び換価の猶予という制度です。納税の猶予は、災害や事業の休廃止といった一定の事情がある場合、又は納付が困難と認められる場合に、原則として1年以内の期間に限って納付を待ってもらい、分割で納める仕組みです。換価の猶予は、既に差押えの対象となり得る状況において、財産の換価を直ちに行うと事業の継続又は生活の維持が困難になると認められる場合に、換価を待ってもらう仕組みです。換価の猶予には、税務当局の職権によるものと、納税者の申請によるものとがあり、申請によるものは納期限からおおむね6か月以内に申請する必要があるとされています。

いずれの制度も、申請書のほか、財産の状況や収支の見込みを記載した書面の提出を求められ、金額に応じて担保の提供を要する場合があります。認められれば、猶予期間中の延滞税の一部が免除される取扱いもあります。滞納が判明した段階で、税理士を通じて所轄の税務署の徴収の担当部門に事情を説明し、分割の可否を相談することが、差押えを回避する現実的な手立てとなります。買収直後で経営体制が変わったこと、納付の意思があることを、資金計画とともに説明してください。

納付を待たずに売主への通知は行います

納付を先行させるとしても、売主への通知まで先送りしてはなりません。後述するとおり、補償の請求には期限が定められているのが通常であり、納付が完了してから通知しようとすると期限を徒過する危険があります。滞納の事実を把握した段階で、金額が確定していなくとも、事実の発生を通知しておくことが安全です。また、納付する前に、滞納額と納付予定を売主に書面で知らせ、期限を切って支払を求めておけば、後に不当利得や事務管理の議論に立ち入る必要も薄れ、損害の発生を売主が認識していたことも記録に残ります。

損害額の算定

補償を請求する際には、損害の額を積算した明細を示す必要があります。感覚的に滞納額を並べるだけでは足りず、費目ごとに根拠資料を対応させた一覧を作成してください。

費目を積み上げます

損害の中核は、対象会社が納付した本税の額です。これに、法定納期限から納付日までの延滞税、賦課決定を受けた各種の加算税を加えます。地方税については延滞金及び不申告加算金等が同様に対象となります。さらに、修正申告の作成を税理士に依頼した費用、税務当局との折衝を依頼した費用、滞納の調査と請求の準備のために弁護士に支払った費用が加わり得ます。ただし、専門家費用が補償の対象に含まれるかは契約条項の定め方によりますので、補償の対象となる損害の定義を必ず確認してください。合理的な範囲の第三者費用を含むと定められている例が多く見られます。

既に価格に織り込まれた部分を控除します

算定にあたって最も注意を要するのが、二重に填補を受けることになっていないかという点です。買収時の株式価値の算定において、未払税金が負債として控除され、その分だけ譲渡代金が減額されていたのであれば、当該金額は既に買主が受けた利益として調整済みです。同じ金額を改めて損害として請求することは認められにくくなります。価値算定の基礎資料、有利子負債に準ずるものとして扱った項目の一覧、価格交渉の過程で作成された調整表を取り寄せ、どの範囲が織り込み済みかを特定してください。対象会社の決算書に未払法人税等として計上されていた金額のうち、価格算定で控除された部分は損害から除き、計上されていなかった部分や、計上額を超える延滞税及び加算税を損害として構成するのが基本的な考え方です。

税務上の効果と回収可能性を考慮します

売主から受け取る補償金は、対象会社が受領するか買主が受領するかによって課税関係が変わり得ます。契約上、補償金を代金の減額として扱う旨の定めが置かれていることもあります。損害の実質を正確に把握するためには、税理士に依頼して税引後の影響を試算しておくことが望まれます。あわせて、売主の資力も現実的に見ておく必要があります。売主が個人であり、受領した代金を既に費消している場合には、金額の正しさを立証できても回収に至らない事態も起こり得ます。預けられた代金の残高、後払いの未払分、連帯保証の有無を確認し、相殺又は支払留保の余地があるかを検討してください。

通知の期限

どれほど請求の内容が正当であっても、契約で定められた期限を過ぎれば主張できなくなります。滞納が判明した際に真っ先に確認すべきは、実は契約書の期限に関する条項です。ここを見落として権利を失う例が、現実に起きています。

存続期間と通知期限を確認します

期限は二段構えになっているのが通常です。一つは表明保証の存続期間であり、譲渡実行日から一定の期間に限って効力を有すると定められます。中小企業のM&Aでは1年から2年程度とされることが多く見られます。もう一つは、違反を知ってから通知するまでの期限であり、知った日から30日以内、60日以内といった短い期間が定められることがあります。両方の期限を満たさなければ請求できませんので、契約書の該当箇所を抜き出し、日付を計算して手帳に記入してください。

もっとも、税務に関する表明保証については、他の事項より長い存続期間が定められている例が少なくありません。税務当局が課税処分を行うことができる期間や、税務調査が行われる時期を考慮し、5年、あるいは偽りその他不正の行為があった場合を念頭に7年と定められることもあります。まずは税務に関する特則の有無を確認し、次に一般条項の期間を確認するという順序で読んでください。加えて、売主の詐欺又は故意による不実の表明があった場合には期間の制限を適用しないという例外が置かれていることもあり、重加算税が課された事案ではこの例外の適用を検討する余地があります。

通知に記載すべき事項

通知の内容についても契約に定めが置かれているのが通常です。違反した表明保証の条項の特定、違反の事実の概要、損害の見積額、根拠資料の添付といった要素が求められます。金額が未確定の段階では、判明している範囲の金額を記載したうえで、調査中であり確定後に追加して通知する旨を明記してください。方法についても、書面によること、指定された宛先に送付すること、電子メールでは足りないことが定められている場合があります。配達証明付きの内容証明郵便で送付し、送達の記録を残すことをお勧めいたします。

期限が迫っている場合の対応

滞納の全容が判明する前に期限が到来しそうな場合は、まず通知を先行させてください。詳細が未確定であることを理由に通知を遅らせると、期限の徒過という取り返しのつかない結果を招きます。あわせて、売主との間で期間の延長について合意する方法もあります。交渉が継続している状況であれば、期間を延長する旨の覚書を交わすことに売主が応じる場合もあります。合意が得られない場合には、期限内に訴訟又は調停の申立てを行うことも選択肢となります。いずれの手段を採るにしても、期限の何日前に判断するかをあらかじめ決めておくことが実務的です。

よくあるご質問

以下は、買収後に対象会社の税金の滞納が判明した買主の方から多くいただくご質問です。

滞納していた税金を、買主である私が個人で払わなければならないのでしょうか

株式を譲り受ける方式のM&Aであれば、納付義務を負うのは対象会社であり、株主である買主の個人が肩代わりする義務は原則として生じません。税務署からの書面が代表者である買主宛てに届いても、それは会社の代表者として受領しているにすぎない場合が大半です。ただし、買主が個人として連帯保証を行っている場合や、事業譲渡の方式を採った場合には別途の検討を要しますので、書面の名宛人と課税期間を確認したうえで、税理士又は弁護士にご相談ください。

売主と話がつくまで納付を止めておくことはできますか

お気持ちは理解できますが、お勧めできません。納付を止めている間も延滞税は日々増え、督促の後には預金や売掛金の差押えに進み得ます。取引先に差押えが知られれば信用にも影響します。資金繰りが厳しい場合は、納付を放棄するのではなく、納税の猶予又は換価の猶予の申請を検討し、税務署の徴収の担当部門に分割納付を相談する方が現実的です。納付と並行して売主に通知を行えば、権利を失うこともありません。

買収前のデュー・ディリジェンスで決算書を受け取っていました。滞納に気付くべきだったと言われないでしょうか

決算書に未払法人税等が計上されていたとしても、それは期末時点で確定した税額の未納付分を示すにすぎず、通常は期限内に納付される前提で読まれます。滞納の事実がそこから当然に読み取れるとは限りません。争点となるのは、開示された資料の表面から滞納が判明する状態であったかどうかです。総勘定元帳の摘要欄まで確認しなければ分からなかったのか、一覧表から明らかであったのかを、実際の資料に即して整理してください。あわせて、未納の公租公課の有無を質問した記録があれば、その回答の内容が重要になります。

契約書に売主の知る限りという限定が付いています。請求は難しいでしょうか

知る限りという限定がある場合、売主が滞納の事実を認識していたことを示す必要が生じます。ただし、消費税や源泉所得税の未納は資金繰りの判断に直結しますので、代表者として日々の支払を差配していた売主が知らなかったという説明は、通常は説得力を持ちません。督促状の宛先、経理担当者との連絡記録、納付を後回しにした経緯の聞き取りを積み重ねれば、認識を裏付けられる場合が多いといえます。重加算税が課されている事案では、隠蔽又は仮装の認定が有力な材料となります。

滞納が判明したのが譲渡実行から1年半後です。もう請求できないのでしょうか

諦める前に契約書を確認してください。税務に関する表明保証については、一般の事項より長い存続期間が定められている例が少なくありません。5年、あるいは不正の行為があった場合を念頭に7年と定められていることもあります。また、売主の詐欺又は故意による不実の表明があった場合には期間制限を適用しないという例外が置かれていることもあります。期間内であることが確認できたら、違反を知った日からの通知期限が別に定められていないかを確認し、直ちに通知を発してください。

売主が代金を使い切っていた場合、どのように回収すればよいでしょうか

まず、代金の一部が第三者に預けられていないか、後払いの部分が残っていないかを確認してください。残高があれば、その支払を留保し、又は相殺する余地があります。次に、売主が引き続き役員又は顧問として関与している場合には、その報酬との調整を交渉する方法もあります。これらがない場合には、売主個人の資産に対する保全の手続を検討することになりますが、要件と費用の見込みを踏まえた判断が必要です。事案により結論は異なりますので、早い段階で弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

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