買収後に対象会社の社会保険料の滞納が発覚した場合の対応と売主への請求

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買収の後に判明した社会保険料の滞納に関するメインのページです。本ページは、M&Aで会社を譲り受けた後に未納の額と期間を確定し年金事務所へ対応する手順をご説明します。税金の滞納は別のページをご参照ください。

税金の滞納が判明した場面は買収後に対象会社の税金の滞納が判明した場合の納付と売主への補償請求を、未払の割増賃金が判明した場面は買収後に未払残業代が発覚した場合の再計算と売主への請求を、それぞれご覧ください。

買収の実行から数か月が経ち、対象会社の経理を自社の管理下に置いたところ、年金事務所からの督促状が机の引き出しから出てきた、あるいは月次の試算表に説明のつかない未払の法定福利費が積み上がっていることに気づく、という場面があります。前の経営者に尋ねても、資金繰りが苦しい時期に少し遅れただけだ、という説明にとどまり、いつの分がいくら滞っているのかがはっきりしません。

社会保険料の未納は、発覚した時点では小さく見えても、放置すると急速に膨らむ性質を持っています。延滞金が日々加算され、督促の期限を過ぎれば預金や売掛金が差し押さえられる可能性が生じます。差押えが取引先や金融機関の知るところとなれば、買収したばかりの会社の信用そのものが揺らぎます。さらに、加入させるべき従業員を加入させていなかった場合には、過去にさかのぼって被保険者資格を取得させられ、本来は従業員が負担すべき部分まで会社が事実上引き受けざるを得ない場面が生じ得ます。

本稿では、中小企業の株式を取得した買主の方を念頭に、未納の額と対象期間をどう確定するか、年金事務所にどう対応するか、労務及び社会保険に関する表明保証の条項と結び付けて売主にどこまで補償を求め得るかを整理します。結論は契約書の文言と個別の事情により異なります。

Contents
  1. 未納の額と対象の期間を確定させる
    1. 滞納と未加入とは、問題の性質が異なります
    2. まず取り寄せるべき資料
    3. 月ごとの内訳表を作る
  2. 年金事務所への対応
    1. 督促と滞納処分の流れ
    2. 猶予の制度を活用する
    3. 徴収権の時効について
    4. 遡及して加入させられる場合の従業員への対応
  3. デュー・ディリジェンスで確認できたか
    1. 労務に関する調査で通常確認する事項
    2. 売主に何を求め、何が返ってきたか
  4. 表明保証の条項との関係
    1. どの条項に触れるか
    2. 滞納の場合と未加入の場合とで、当てはめが異なります
    3. 買主が知っていた場合の扱い
  5. 追加の負担額をどう算定するか
    1. 過去に対応する負担
    2. 将来に対応する負担と、二重計上の回避
  6. 売主への補償の請求
    1. 期間の制限と通知の手続
    2. 下限額及び上限額の定め
    3. 回収を確保する手段と解決の道筋
  7. よくあるご質問
    1. 滞納が判明した場合、自分から年金事務所に連絡すべきでしょうか
    2. 延滞金はどの程度の負担になりますか
    3. 何年前の分までさかのぼって請求されるのでしょうか
    4. 未加入だった従業員の負担分を、後から本人の給与から差し引けますか
    5. 表明保証の条項に「重要な点において」との限定がある場合、少額の滞納でも請求できますか
    6. 売主が支払に応じない場合、未払の譲渡代金と相殺できますか
    7. デュー・ディリジェンスで気づけたはずだと言われた場合、請求は認められませんか

未納の額と対象の期間を確定させる

最初にすべきことは、抗議でも交渉でもなく、事実の確定です。社会保険料の問題は、加入はしているが納めていない「滞納」と、加入させるべき者を加入させていない「未加入」とに分かれ、どちらに当たるかによって金額の規模も、売主に対して言えることも変わります。ここを曖昧にしたまま売主に連絡すると、話がかみ合わないまま延滞金だけが積み上がります。

滞納と未加入とは、問題の性質が異なります

滞納は、適用事業所としての届出も被保険者の資格取得の手続も済んでいる状態で、毎月の納入告知に対する納付が遅れている事態です。納付すべき額は告知により確定していますので、争点は、いつまでにどうやって納めるか、延滞金がいくらになるか、という点に絞られます。会社は従業員の給与から本人負担分を控除していますので、その控除額を運転資金に流用していた、という資金繰りの問題として現れます。

これに対し未加入は、適用事業所としての届出をしていない、又は、一定の労働時間を満たすパートタイムの従業員など加入させるべき者を被保険者としていない、という事態です。納付すべき額はまだ確定していません。年金事務所の調査を経て過去にさかのぼって資格取得届を提出させられ、その期間の保険料が新たに発生します。しかもその期間について会社は本人負担分を給与から控除していませんので、本人から遡って回収できない限り、会社が事業主負担分と本人負担分の双方を実質的に引き受けます。既に退職した従業員の分の回収は、現実には困難です。

さらに未加入の場合は、加入させた翌月以降、法定福利費が恒常的に増加します。この増加分は毎月現れ続けますので、株式の価値の算定そのものに影響します。滞納が過去の債務の問題であるのに対し、未加入は過去の債務と将来の費用構造の双方の問題である、という違いを押さえてください。

まず取り寄せるべき資料

事実の確定は書類を集めることから始まります。中小企業では、前の経営者の机や顧問の社会保険労務士の事務所に置かれたままのことが少なくありませんので、引継ぎの一環として早期に集めてください。

  • 保険料の納入告知額及び領収済額の通知書(毎月の請求額と実際の納付額との差が一目で分かります)
  • 督促状、催告書、財産差押予告書、及びこれらに対する会社の回答書
  • 年金事務所との折衝の記録、納付計画書、猶予の申請書及びその許可又は不許可の通知
  • 被保険者資格取得確認及び標準報酬決定通知書、算定基礎届、月額変更届、賞与支払届
  • 賃金台帳、出勤簿又は勤怠記録、雇用契約書、パートタイムの従業員の所定労働時間が分かる資料
  • 総勘定元帳のうち、法定福利費、預り金、未払費用及び仮払金の各勘定の推移
  • 労働保険の年度更新の申告書及び納付の記録(徴収の窓口が異なりますので別に確認します)

社内の資料で足りない場合、事業主として年金事務所に照会し、滞納額の内訳の提示を求めることができます。経営者が交代していても事業所そのものは同一ですので、代表者の変更の届出を済ませたうえで照会してください。

月ごとの内訳表を作る

集めた資料をもとに、月ごとに、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、子ども・子育て拠出金の別で、告知額、納付額、未納の残額、及び延滞金の見込額を並べた表を作ってください。この表が、以後の交渉と請求の共通の土台になります。

表を作る過程で、どの月から未納が始まったかが見えてきます。買収の実行日より前の月に対応する分と、実行日以後の分とを明確に線引きしてください。この線引きが、表明保証違反の範囲と価格調整の対象範囲とを画する基準になります。実行日をまたぐ月の扱いは、契約書に定めがなければ売主との間で早期に合意しておくことが望ましいところです。

年金事務所への対応

未納の事実が固まったら、次は行政庁への対応です。買収して間もない会社が前の経営者の時代の滞納を理由に預金を差し押さえられれば、資金繰りが直ちに行き詰まります。売主との交渉と行政庁への対応とは、並行して、しかし切り離して進めてください。売主が支払に応じるまで納付を待つ、という選択は現実的ではありません。

督促と滞納処分の流れ

保険料が納期限までに納付されない場合、まず督促状が送付され、そこに指定された期限までに納付がなければ滞納処分の段階に進みます。押さえておくべきは、社会保険料の滞納処分が国税の徴収の例により行われる、という点です。裁判所に訴えを提起して勝訴判決を得るといった手続を経ることなく、行政庁が自ら財産を差し押さえ、換価して充当することができます。

差押えの対象として実務上多いのは、金融機関の預金、取引先に対する売掛金、及び不動産です。売掛金が差し押さえられれば取引先に滞納が知られますので、事業への影響は金額以上のものになります。督促状を放置する危険は大きく、速やかに窓口に出向いて事情を説明することが、結果として最も損失の小さい対応になり得ます。

猶予の制度を活用する

一括での納付が困難な場合、財産の換価を猶予する制度や納付を猶予する制度の適用を求め得ます。申請により審査され、認められれば猶予期間中の差押えが避けられ、延滞金の一部が免除される取扱いもあります。申請には、財産の状況、収支の見込み、及び分割納付の計画を示す資料が必要です。経営体制が刷新され、新たな株主から資金の支援を受ける見込みがあることは有利に働き得ます。なお、猶予が認められても元本の債務が消えるわけではありません。

徴収権の時効について

保険料その他の徴収金を徴収する権利には時効の定めがあり、比較的短い期間で消滅します。もっとも、督促状が送付されると時効の進行が振り出しに戻る取扱いがありますので、督促を受けている期間の分について時効による消滅を期待することはできません。会社に届いた督促状の日付を確認し、どの期間の分について時効を主張し得るかを整理してください。

この定めは未加入の場合にも意味を持ちます。遡及して加入させられる期間は徴収権の時効の範囲に限られるのが通常の取扱いですので、長年にわたり未加入であっても、遡って課される期間は相当に短い範囲にとどまり得ます。もっとも、最終的には行政庁の判断によります。

遡及して加入させられる場合の従業員への対応

調査により未加入が判明した場合、会社は遡って資格取得届を提出し、その期間の保険料を納付します。会社はその期間の給与から本人負担分を控除していませんので、後から請求するとしても、給与からの控除には労働基準法上の制約があり、本人の同意なく一方的に差し引くことはできません。在職者については分割での精算を協議する余地がありますが、退職者については会社の負担として処理せざるを得ない場面が多く見られます。事実関係と今後の取扱いを整理した書面を用意し、対象となる従業員に個別に説明する機会を設けてください。

デュー・ディリジェンスで確認できたか

売主に補償を求める場面では、必ずといってよいほど、デュー・ディリジェンスで確認できたはずだ、という反論が返ってきます。この反論の説得力は、何を求め、何が開示され、そこから何が読み取れたかによって決まります。売主に連絡する前に、買収の過程で自らが何をしたかを記録として固めておいてください。

労務に関する調査で通常確認する事項

中小企業のM&Aにおける労務及び社会保険の調査では、一般に、被保険者の資格取得の状況と従業員名簿との突合、標準報酬月額と賃金台帳との整合、パートタイムの従業員の労働時間と加入基準との関係、及び保険料の納付の状況が確認の対象となります。納付の状況については、納入告知額と領収済額の通知書の直近数年分を求めるのが確実です。この書類には請求額と納付額の双方が記載されますので、滞納があれば差額として現れます。

実務上、滞納が見落とされる典型的な原因は、決算書と総勘定元帳だけを見て行政庁からの通知書を求めなかった点にあります。未払費用として計上されていれば形式的には正しく注記もされませんので、金額の異常さに気づかない限り見過ごされます。逆に未払費用や預り金の残高が月々の保険料の水準に比して不自然に大きい場合は、滞納を疑う手がかりになります。

売主に何を求め、何が返ってきたか

調査の過程で、買主又はその依頼した専門家が社会保険料の納付の状況について質問を発していたかを確認してください。質問書、回答書、開示資料の一覧、電子的な資料共有の場の記録、面談の議事録が証拠になります。質問をしたにもかかわらず滞納がない旨の回答があった、あるいは滞納を示す資料が開示されなかった、という経過が残っていれば、売主の反論に対する有力な反証になります。逆に督促状が開示されていた場合には、買主が知り得たと評価される余地が生じます。資料共有の場の記録は一定の期間を経過すると閲覧できなくなることがありますので、保全を急いでください。

表明保証の条項との関係

事実が固まったら、契約書の条項に当てはめる作業に移ります。株式譲渡契約の表明保証の条項は、見出しだけで判断せず、文言を逐語的に読んでください。同じ「社会保険」という語が現れていても、届出をしているという趣旨の条項と、保険料を支払済みであるという趣旨の条項とでは、意味するところが異なります。

どの条項に触れるか

未納が関係し得る表明保証の条項は、通常、複数あります。第一に公租公課に関する条項です。「支払期限の到来した公租公課及び社会保険料をすべて支払っており、滞納がない」という趣旨の文言が置かれていれば、滞納はこれに正面から反します。第二に労務に関する条項です。「社会保険及び労働保険の適用に関する法令を遵守し、加入させるべき者を加入させている」という趣旨の文言があれば、未加入がこれに反します。

第三に財務諸表に関する条項であり、滞納の額が未払費用として計上されていなければ、財務諸表が会計の基準に従って作成されているという表明保証に反し得ます。第四に行政庁との関係に関する条項であり、是正の指導や処分を受けていない旨の文言があれば、督促や調査の予告を受けていた事実がこれに反し得ます。第五に簿外債務に関する条項です。該当し得る条項をすべて洗い出したうえで、主張の順序を組み立ててください。

滞納の場合と未加入の場合とで、当てはめが異なります

滞納の場合、違反の対象となる事実は明確です。買収の実行日の時点で支払期限が到来していた保険料が未払であった、という一点であり、金額も納入告知により客観的に定まります。争点は違反の有無ではなく、延滞金や対応に要した費用まで補償の対象に含まれるか、という金額の範囲に移りやすい傾向があります。

未加入の場合はやや複雑です。実行日の時点では行政庁からの指摘も納入告知もなく、債務の額は確定していません。これに対し買主としては、加入させるべき者を加入させていなかったという法令の遵守に関する表明保証それ自体の違反を主張することになります。この構成であれば、実行日の時点で法令に適合していなかったという事実は動きませんので、その後の調査の有無にかかわらず違反を主張できます。未加入の事案で労務及び法令遵守の条項を主たる根拠とすべき理由が、ここにあります。

買主が知っていた場合の扱い

契約書には、買主が違反の事実を知っていた場合に補償を請求できるかについて定めが置かれていることがあります。買主の認識にかかわらず請求できる旨の定めがあれば、気づき得たはずだという反論は通りにくくなります。また、開示事項を表明保証の例外とする別紙に滞納が記載されていれば、その範囲では違反を主張できません。ただし記載が概括的で金額や期間が特定されていない場合には、解釈の余地が残ります。

追加の負担額をどう算定するか

売主に具体的な金額を提示する段階では、算定の根拠が問われます。未納の元本を並べるだけでは交渉の材料として弱く、実際の損失を取りこぼすことにもなります。項目を分けて積み上げ、それぞれの根拠となる資料を対応させておいてください。

過去に対応する負担

まず、買収の実行日より前の期間に対応する保険料の元本です。滞納の場合は納入告知により確定していますので、月ごとの内訳表がそのまま根拠になります。未加入の場合は、対象となる従業員ごとに標準報酬月額を推計し、遡及の対象となる期間を乗じて算出します。

次に延滞金です。延滞金は、納期限の翌日から一定の期間までは比較的低い割合とされ、その期間を過ぎると高い割合に切り替わる仕組みで、近年は特例により実際に適用される割合が引き下げられています。具体的な割合は年により異なりますので、年金事務所が算定した金額を確認してください。滞納が長期にわたる場合、延滞金が元本の相当な割合に達することもありますので、必ず別項目として計上します。

さらに未加入の事案では、本来は従業員が負担すべき部分のうち会社が実質的に引き受けざるを得なくなった金額を、独立の項目として計上します。加えて、行政庁への対応や社会保険労務士及び弁護士への依頼に要した費用も、補償の条項が費用を対象に含めていれば請求の対象となり得ます。

将来に対応する負担と、二重計上の回避

未加入の事案では将来に向けた法定福利費の増加が生じます。これは、会社の収益力が買収の際に前提としていた水準より低かった、という評価につながります。株式の価値を利益の倍率により算定していた場合には、年間の増加額に倍率を乗じた金額が価値の毀損として観念され得ます。もっとも、補償の条項が現実に発生した損害に限る趣旨である場合、将来の費用の増加を直ちに請求できるかには議論があります。過去分を確定的な請求として立て、将来分は交渉における減額の材料として位置付ける組み立てもあります。

算定にあたって注意すべきは二重の計上です。譲渡代金が実行日の貸借対照表を基準に純有利子負債を控除する方式で算定されていた場合、未払の社会保険料が既に控除されていた可能性があり、同じ金額を重ねて請求することはできません。価格の算定書と実行日の貸借対照表の各勘定を突き合わせ、どこまでが既に価格に反映されているかを確認してください。また、補償額から税務上の便益を控除する旨の定めの有無も確認します。

売主への補償の請求

金額の算定ができたら、契約書の定める手続に従って請求します。手続を誤ると、実体的には理由のある請求であっても、通知の遅れや形式の不備を理由に争われます。感情的な連絡を先行させず、契約書の条項の順序に沿って進めてください。

期間の制限と通知の手続

まず確認すべきは、補償を請求できる期間の制限です。表明保証違反に基づく請求には、実行日から一定の期間内に通知することを要するという定めが置かれているのが通例です。この期間は、行政庁の調査の終了を待っていると経過してしまう長さであることが少なくありません。金額が未確定であっても、まずは期間内に通知を発してください。

通知の方法についても、書面によること、配達を証明できる方法によることといった定めが置かれていることがあります。定めがあればそのとおりに行い、記録を残してください。通知には、違反したと考える表明保証の条項、その根拠となる事実、現時点で判明している金額と算定の根拠、及び金額が確定次第追加して請求する旨を記載しておくのが実務的です。

下限額及び上限額の定め

補償の条項には、一定の金額に達しない請求は行えないという下限の定めや、補償の総額に上限を設ける定めが置かれていることがあります。社会保険料の未納は、他の表明保証違反と併せて主張することで合計額の要件を満たす場合がありますので、判明している違反を一覧にして検討してください。

上限については譲渡代金の一定割合とされているのが一般的です。もっとも、売主に故意又は重大な過失があった場合には上限を適用しないという例外が定められていることもあります。滞納の事実を認識しながら表明保証をしていたという事情が立証できれば、この例外の適用を主張し得ます。督促状の受領の記録や社会保険労務士との連絡の記録が、売主の認識を示す資料になり得ます。

回収を確保する手段と解決の道筋

補償の請求が認められても、売主に支払う資力がなければ意味がありません。譲渡代金の一部が留保され、又は第三者に預託されている場合には、契約書の定めに従ってそこから充当することを求めるのが最も確実です。代金の一部が分割払いとされている場合には、未払の代金と補償の債務との相殺が可能かを契約書の定めに照らして確認してください。

実務上、社会保険料の未納をめぐる紛争は訴訟に至らずに解決することも多い類型です。過去分の元本と延滞金については売主が負担し、将来の費用の増加については買主が引き受ける、といった線引きで合意に至る例も見られます。いずれにせよ、年金事務所への納付は並行して進める必要があり、交渉の結論を待って納付を止めることは、延滞金を増やすだけの結果になり得ます。

よくあるご質問

社会保険料の滞納が買収の後に判明した場面について、買主の方から実際にお受けすることの多いお尋ねを整理いたしました。いずれも一般的な考え方であり、具体的な結論は未納の原因、対象となる期間及び株式譲渡契約の文言によって異なります。

滞納が判明した場合、自分から年金事務所に連絡すべきでしょうか

連絡することをお勧めします。既に督促状が届いている以上、行政庁は滞納を把握しています。むしろ、経営者が交代したこと、資金の管理体制を改めたこと、及び納付の計画を示すことで、猶予の制度の適用や分割納付の協議が進みやすくなります。連絡の前に、月ごとの内訳表と当面の資金繰りの見通しを整えておいてください。

延滞金はどの程度の負担になりますか

延滞金は、納期限の翌日から一定の期間までは比較的低い割合とされ、その期間を過ぎると高い割合に切り替わる仕組みで計算されます。近年は特例により実際の割合が引き下げられていますが、それでも金融機関からの借入れの利率と比べて低いとはいえません。正確な額は年金事務所に内訳の提示を求めて確認してください。

何年前の分までさかのぼって請求されるのでしょうか

保険料を徴収する権利には時効の定めがあり、比較的短い期間で消滅しますので、際限なくさかのぼって請求されるものではありません。ただし、督促を受けている期間の分については時効の進行が振り出しに戻る取扱いがあり、消滅を期待することはできません。未加入の事案で遡って加入させられる期間もこの時効の範囲に対応するのが通常ですが、最終的には行政庁の判断によります。

未加入だった従業員の負担分を、後から本人の給与から差し引けますか

本人の同意なく一方的に控除することはできません。賃金は全額を支払うことが原則とされており、控除には法令上の根拠又は労使間の協定などの手当てが必要です。在職者については、事情を説明したうえで分割による精算に同意を得る方法が考えられますが、応じてもらえるとは限りません。既に退職した従業員については請求自体が現実には困難であり、会社の負担として処理せざるを得ない場面が多く見られます。

表明保証の条項に「重要な点において」との限定がある場合、少額の滞納でも請求できますか

この限定が付されている場合、少額の滞納については重要性を欠くとして争われる余地があります。もっとも、重要性の判断は金額の絶対額だけでなく、会社の規模、利益の水準、及び差押えなどの事業への影響も踏まえて行われます。また、公租公課に関する条項にはこの限定が付されていないことも多く、条項ごとに文言が異なります。限定の付されていない条項を根拠とできないかを確認してください。

売主が支払に応じない場合、未払の譲渡代金と相殺できますか

契約書の定めによります。補償の債務と未払の代金との相殺を明示的に認める条項があれば、それに従って行うことができます。逆に相殺を禁じる条項が置かれていることもあり、その場合に一方的に相殺すると、こちらが債務不履行を問われる可能性があります。定めがない場合に一般の法理により相殺し得ることもありますが、争いになりやすい部分ですので、実行の前に契約書の全体を確認してください。

デュー・ディリジェンスで気づけたはずだと言われた場合、請求は認められませんか

直ちに認められなくなるわけではありません。まず、契約書に買主の認識にかかわらず補償を請求できる旨の定めがあれば、この反論は通りにくくなります。質問をしたにもかかわらず滞納がない旨の回答があった、あるいは通知書の類が開示されなかった、という経過が残っていれば、買主が知り得たとはいえないと主張する余地があります。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、平成23年には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ております。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。