買収した会社の利益が説明より少なかった場合の検証と請求の進め方

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買収した会社の利益の相違に関するメインのページです。本ページは、M&Aで会社を譲り受けた後に利益が説明と食い違った場面で、正常な収益力の検証をご説明します。売上の相違は別のページをご参照ください。
売上の金額が説明と違っていた場面は買収した会社の売上が説明と違ったときの責任の範囲を、補償の請求そのものの枠組みはM&Aの補償請求とは?表明保証違反との関係や損害賠償との違いを徹底解説を、それぞれご覧ください。
買収の手続を終え、毎月の試算表が上がってくるようになりました。ところが、そこに並ぶ数字は、交渉の過程で示されていた利益の水準に届きません。売主から受け取った過去3期の決算書には、たしかに一定の営業利益が計上されていました。M&A仲介業者から示された企業概要書にも、同じ水準の数値が記載されていました。それにもかかわらず、引継ぎ後の実績はその半分にも満たない。中小企業の株式を取得された買主の方から、このようなご相談をいただくことは少なくありません。
この段階でまず必要なのは、怒りや不信をいったん脇に置いて、差異がどこから生じているのかを数字の上で切り分ける作業です。利益が少ないという事実だけでは、価格の算定の前提に誤りがあったとはいえません。買収した後に取引先が離れたのか、それとも買収した時点の決算書そのものが実態を映していなかったのか。この二つはまったく別の問題です。前者は買主が事業を引き受けた以上は自ら負担する事業上の危険であることが多く、後者は売主の責任を問い得る事柄です。
本記事では、原因の切り分けから始めて、正常な収益力の計算のやり直し、利払前・税引前・減価償却前利益の調整項目の検証、株式譲渡契約の表明保証の条項と価格の算定に用いた資料の照合、企業価値への影響の示し方、損害額の組み立て方、そして交渉の進め方までを順に述べます。中小企業のM&Aで実際に問題となる項目に即して、何を確認し、どの資料を求めるかを具体的に記載します。
利益が違っていた原因を切り分ける
最初の作業は、説明されていた利益と実際の利益との差額を金額で確定し、その差額を原因ごとに分解することです。ここを飛ばして請求の話に進むと、売主から「買収後の経営がうまくいかなかっただけではないか」と反論され、話が前に進みません。
買収後の業績の悪化と買収時点の数値の誤りを区別します
この区別は、請求が成り立つかどうかを左右する最も重要な分岐点です。判断の基準は時点です。すなわち、株式の譲渡を実行した日の時点で、その事実が既に発生していたか、又は発生することが確定していたか、そして売主がそれを知り、又は知り得たかという点で分けます。引継ぎの後に主要な取引先が取引量を減らした、中心となっていた社員が退職した、原材料の相場が変わったという事情は、原則として買収後の事業上の危険です。
ただし、譲渡の前に取引先から取引の縮小や打切りの意向が既に伝えられていたのに開示されなかった、あるいは中心となる社員が退職の意思を既に表明していたのに説明されなかったという場合には、話が変わります。これは業績の悪化の問題ではなく、重要な事実の不開示の問題です。取引先との往復の書面、社内の会議の記録、退職の届出の日付といった、時点を特定できる資料を集めることが要になります。
差異を類型に分けて整理します
実務では、差異を次の4つの類型に分けると整理がしやすくなります。それぞれ、責任の所在も、証明の方法も異なります。
- 期間の帰属の誤りによるもの。売上を実際より早い時期に計上していた、費用を翌期に繰り延べていたといった場合です。
- 継続しない収益や費用が調整されていなかったもの。単発の大口の受注、保険金の受取、補助金の交付などが利益に含まれたままになっていた場合です。
- オーナーに関する費用の調整が誤っていたもの。役員報酬や個人的な支出の戻し方が過大であった場合です。
- 買収した後に生じた事情によるもの。取引先の離反、人員の退職、市況の変動などです。
最初に取り寄せる資料を確定します
買主は既に会社を支配していますから、会社の帳簿や資料は自ら取り寄せることができます。次の資料を、過去3期から5期分そろえてください。総勘定元帳、勘定科目内訳明細書、法人税の申告書とその別表、毎月の試算表、役員報酬の支給の明細、同族の関係者に対する給与の台帳、不動産の賃貸借契約書、生命保険の契約の一覧、補助金の交付決定の通知、主要な取引先ごとの売上の推移、棚卸資産の受払の記録です。
あわせて、交渉の過程で受け取った資料も時系列で並べます。企業概要書、価格の算定の資料、質疑応答の記録、デュー・ディリジェンスの報告書とその基礎とされた資料、株式譲渡契約とその添付の別紙です。
正常な収益力を計算し直す
中小企業では、会社の損益と経営者個人の家計とが完全には分離していないことが通例です。そのため、決算書に表れた利益をそのまま用いても、その会社が事業として稼ぐ力を示したことにはなりません。オーナーが交替した後に、その会社が平常の状態でどれだけの利益を生むかを推計した数値を、実務では正常な収益力と呼びます。価格の算定は、この数値を基礎として行われるのが一般的です。
オーナーの役員報酬をどう調整するか
最も金額の大きい調整項目です。オーナーが年間3,000万円の役員報酬を受け取っていたとして、同じ規模、同じ業種の会社で後任の経営者を外部から雇う場合の報酬が年間1,200万円であれば、差額の1,800万円を利益に戻すという考え方をします。逆に、業績が苦しい時期に報酬を極端に抑え、その分を役員からの借入で埋めていた場合には、相当額まで引き上げる方向の調整が必要です。
確認すべきは、各期の役員報酬の推移、役員報酬を決めた株主総会及び取締役会の議事録、役員退職慰労金の支給の有無、役員に対する貸付金や役員からの借入金の残高の推移です。
オーナー個人の費用の会社負担を洗い出します
社用車として登録されているが実際には家族が使用している車両、ゴルフの会員権とその年会費、個人的な交際費、オーナー個人を受取人とする生命保険の保険料、自宅の水道光熱費や通信費、家族の旅行の費用といったものが、会社の費用に含まれていることがあります。これらは事業に必要な費用ではありませんから、除外して利益に戻します。
ただし、戻しすぎにも注意が必要です。取引先との会食のように、買収した後も事業のために必要な支出は残さなければなりません。交際費の相手先ごとの内訳、車両の使用の実態、保険契約の契約者と被保険者と受取人の関係を確認し、事業に必要な部分と個人的な部分とを分けてください。
同族の関係者に対する給与を検証します
実際には勤務していない配偶者や子に給与が支払われている例は珍しくありません。この場合、その給与は利益に戻します。他方で、見落とされやすいのが逆の場合です。オーナーの家族が経理や仕入の実務を実際に担っており、その方が譲渡とともに退職するのであれば、後任を雇うための人件費を新たに費用として見込まなければなりません。
出勤の記録、社会保険の加入の状況、担当していた業務の内容、引継ぎの有無を確認してください。家族への給与を一律に利益へ戻すという処理がされていた場合には、その根拠が示されているかを問うことができます。
オーナーが所有する不動産の賃料を引き直します
本社や工場、店舗の建物や土地がオーナー個人の所有であり、会社がそこに賃料を支払っているという構造は、中小企業では広く見られます。賃料が近隣の相場より低ければ、その分だけ会社の利益は実態より大きく見えています。相場の水準まで引き上げて計算し直す必要があります。逆に、相場より高い賃料を支払っていたのであれば、利益に戻す調整をします。
確認すべき資料は、賃貸借契約書、固定資産税の課税明細書、近隣の賃料の相場を示す資料です。あわせて、譲渡の後にその賃貸借契約がどうなるのかを確認してください。契約が終了して移転を要するのであれば、移転の費用と新たな賃料が、買収した後の損益に恒常的に加わります。
継続しない収益と費用を取り除きます
単発の大口の受注、固定資産の売却による利益、保険金や補助金や助成金の受取は、翌期以降も続くものではありませんから、収益から除きます。反対に、災害による損失、訴訟の和解金、単年度限りの特別な広告費といった費用は、利益に戻します。いずれも、繰り返し生じるものかどうかという観点で判断します。過去3期から5期の推移を並べ、特定の期だけ突出している科目を拾い上げてください。
利払前・税引前・減価償却前利益の調整項目を検証する
中小企業のM&Aでは、営業利益に減価償却費を加え、さらに前節で述べた調整を加減した数値を基礎として、これに一定の倍率を乗じることで事業の価値を算定する方法が広く用いられています。この基礎となる数値を、利払前・税引前・減価償却前利益といいます。利息の支払と税金と減価償却の影響を除いた、事業そのものの稼ぐ力を示す指標です。この数値が誤っていれば、価格の算定の前提が誤っていたことになります。
調整項目の一覧と根拠資料を突き合わせます
交渉の過程で示された算定の資料には、調整項目の一覧が付されているはずです。まず、その一覧の各項目について、金額の根拠となる帳簿上の記録を特定してください。総勘定元帳の該当する科目の金額と一致するか、一致しないのであればその差はどこから来るのかを確認します。根拠を示せない項目、帳簿と一致しない項目が、そのまま争点になります。
実現しない調整と重複した調整を探します
買収した後には発生しないという理由で控除された費用が、実際には発生し続けている場合があります。典型的なのは、オーナーの役員報酬を全額利益に戻したにもかかわらず、前オーナーが顧問として残り、これに近い水準の顧問料が支払われている場合です。この場合、その顧問料の分だけ調整は実現していません。
重複した調整にも注意が必要です。同じ支出を、オーナーに関する費用の調整と、継続しない費用の調整との両方で戻していることがあります。生命保険料や交際費で起こりやすい誤りです。
会計の方針と計上の時期を確認します
売上の計上の基準が譲渡の直前の期に変更されていないか、期末の直前に大量の出荷がされていないか、返品を前提とした出荷が売上に含まれていないかを確認します。判別の方法としては、期末の月と翌期の最初の月の売上を対比し、翌期の返品や値引きの状況を調べることが有効です。
費用の側では、貸倒引当金や賞与引当金が計上されていない、修繕の費用を資産として計上して減価償却に振り替えている、棚卸資産の評価損を計上していないといった処理が、利益を大きく見せる原因になります。棚卸資産については、滞留しているものや陳腐化したものが帳簿上の価額のまま残っていないかを、実地の棚卸の結果と照らして確認してください。
表明保証の条項と価格の算定に用いた資料
数値の検証と並行して、株式譲渡契約の条項を読み直します。数値が誤っていたとしても、それを売主の責任として問えるかどうかは、契約にどう書かれているかによって決まるからです。契約書だけでなく、その別紙、基本合意書、意向表明書、そして交渉の過程でやり取りされた書面を、時系列で並べて確認してください。
計算書類に関する表明保証を読み直します
多くの株式譲渡契約には、各事業年度の計算書類が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って作成され、会社の財政状態及び経営成績を正確に表示している旨の条項が置かれています。ここで注意すべきは、中小企業の案件では、この基準が「中小企業の会計に関する指針」や「従来から継続して採用してきた会計処理の基準」といった形に限定されていることがある点です。
限定が付されている場合、従来からその処理をしてきたのであれば違反にならないという反論が想定されます。他方で、譲渡の直前の期にだけ処理を変えていたのであれば、継続性を欠きますから、この限定はかえって買主に有利に働きます。条項の文言を一字ずつ確認し、どの範囲の数値が保証されているのかを特定してください。
提供された資料の正確性と網羅性に関する条項を確認します
デュー・ディリジェンスの過程で買主に提供された資料が、重要な点において真実かつ正確であり、誤解を生じさせる不正確な記載を含まない旨の条項が置かれていることがあります。この条項があれば、計算書類そのものに誤りがなくとも、算定の基礎として示された資料に誤りがあった場合に、違反を主張し得ます。
この主張のためには、どの資料がいつ提供されたかを示す必要があります。電子的な資料の共有の記録、質疑応答の書面、電子メールの送受信の記録を保存してください。
価格の算定の前提が契約のどこに現れているかを探します
譲渡代金の条項には金額しか書かれておらず、算定の根拠が契約書に現れていないことが多くあります。その場合には、契約に至るまでの書面をたどります。意向表明書や基本合意書に、利払前・税引前・減価償却前利益の何倍という記載や、前提となる数値の記載があれば、それが価格の算定の前提を示す資料になります。M&A仲介会社を介したやり取りの記録も同様です。
補償の制限と買主の認識に関する規定を確認します
補償の条項には、通常、制限が付されています。補償の上限を譲渡代金の一定の割合とするもの、1件あたりの金額が一定額に満たない請求を認めないもの、請求の累計額が一定額に達するまでは請求できないもの、請求ができる期間を実行の日から1年又は2年とするものです。まず、自らの請求がこれらの制限に抵触しないかを確認してください。
あわせて、買主が既に知っていた事項については補償を請求できないという規定の有無を確認します。この規定がある場合、デュー・ディリジェンスの報告書に指摘のあった事項については、売主から反論を受けます。逆に、報告書に記載がなく、かつ買主が追加の資料を求めたのに開示されなかった事項であれば、買主に有利な事情となります。
企業価値への影響をどう示すか
数値の誤りを指摘するだけでは、いくらの請求になるのかが示せません。誤りが価格にどう跳ね返るのかを、当初の算定と同じ方法で計算して示す必要があります。ここで用いる算定の方法は、買主が新たに選んだ方法ではなく、交渉の当時に実際に用いられた方法でなければなりません。
倍率を用いた算定における影響を計算します
例えば、正常な収益力を1億円とし、これに5倍を乗じて事業の価値を5億円と算定し、そこから有利子負債を控除して株式の価格を決めたという場合を考えます。検証の結果、正常な収益力が7,000万円であったとすれば、同じ倍率を用いる限り、事業の価値は3億5,000万円となり、1億5,000万円の差が生じます。この計算の過程を、当初の算定の資料と同じ様式で並べて示すことが、最も説得力を持ちます。
継続する差異か一度限りの差異かを分けます
ここを混同すると、請求が過大になり交渉が止まります。架空の売上、恒常的に必要な費用の未計上、実際には削減できない費用を削減できるとした調整は、毎期繰り返される差異ですから、倍率を乗じて評価します。他方で、ある期にだけ生じた費用の計上漏れや、既に発生していた未払の債務は、その金額そのものが影響額です。倍率を乗じてはなりません。
負債の側の問題と重ねて主張しないよう整理します
未払の残業代、未計上の賞与、簿外のリース債務、退職給付に係る債務の不足といった項目は、収益力の問題ではなく、負債の問題です。これらは、価格から控除されるべき負債として、金額そのものを主張します。ところが、同じ項目を費用の未計上として収益力の差異にも数え、さらに負債としても数えてしまう誤りが生じがちです。
損害額の組み立て方
請求の根拠には、契約に基づくものと、法律の一般の規定に基づくものとがあります。実務では、まず契約に基づく補償を主位に置き、これが認められない場合に備えて他の構成を予備的に置くという組み立てをすることが一般的です。
契約に基づく補償として構成します
株式譲渡契約に表明保証の違反に関する補償の条項があれば、これが基本の構成になります。契約に要件が書かれているため、売主に故意や過失があったことまで主張しなくてよいと解されることが多く、買主にとって扱いやすい構成です。主張すべきは、どの条項のどの部分に違反があるか、その違反によりいくらの損害が生じたか、そして補償の制限に抵触しないことです。
差額を損害として構成します
実際に支払った代金と、真実の数値を前提としていれば支払ったであろう代金との差額を損害として主張する構成です。売主が契約上の義務に違反したとして債務不履行による損害賠償を求める方法(民法第415条第1項)、虚偽の説明により損害を被ったとして不法行為に基づく賠償を求める方法(民法第709条)があります。
さらに、重要な事項について事実と異なる説明を受けたことにより契約を締結したという場合には、詐欺を理由とする取消し(民法第96条第1項)や、錯誤を理由とする取消し(民法第95条)を主張する余地もあります。もっとも、取消しが認められると株式を返還して代金の返還を受けることになり、既に事業を運営してきた買主にとって現実的でないことが多いため、実際には金銭の請求を中心に組み立てることになります。
立証のための資料をそろえます
そろえるべきは、当初の価格の算定の資料、その基礎とされた計算書類、検証後の数値による再計算、両者の差額、そして差額が生じた原因ごとの内訳です。会計の専門家に依頼して、正常な収益力の再計算に関する意見書を作成してもらうことが有効です。加えて、売主が数値の誤りを認識していたことをうかがわせる資料、例えば修正前の試算表、社内の電子メール、税務の顧問とのやり取りの記録が得られれば、交渉の力は大きく変わります。
交渉の進め方
検証の結果がまとまったら、売主に対する働きかけに移ります。ここで重要なのは順序と期限です。順序を誤ると事実関係の確定が遅れ、期限を落とすと請求そのものができなくなります。中小企業のM&Aでは、売主が個人であり、前オーナーとして会社に残っている場合も多いため、進め方には配慮を要します。
通知の期限を最初に確認します
何よりも先に、株式譲渡契約に定められた補償の請求ができる期間を確認してください。実行の日から1年又は2年と定められていることが多く、既に相当の期間が経過している場合があります。あわせて、その期間内に請求の通知を出せば足りるのか、それとも訴えの提起まで要するのかを、条項の文言から確認します。この点は契約により異なります。
期限が迫っている場合には、検証が完了していなくても、判明している事実と、追加の請求を留保する旨を記載した通知を先に発してください。通知の到達を証明できる方法で発することが必要です。
最初の通知に何を書くか
記載すべきは、指摘する事実の特定、違反したと考える条項、差異の金額とその算定の過程、根拠とした資料の一覧、そして回答を求める期限です。感情的な非難や、売主の人格に触れる表現は書かないでください。
交渉の順序を守ります
第一に事実関係の確定、第二に企業価値への影響の評価、第三に金額の調整という順序で進めます。金額から入ると、双方が根拠の乏しい数字を出し合うことになり、平行線に陥ります。事実については、争いのない部分と争いのある部分を書面で仕分けし、争いのある部分に絞って資料を交換すると効率的です。
解決の方法としては、金銭の支払のほかに、売主に残っている債権との相殺が現実的な選択肢になります。役員退職慰労金の未払分、会社から売主への貸付金、分割で支払うこととされた譲渡代金の残額があれば、これらとの調整により実質的な解決を図ることができます。前オーナーが顧問として在籍している場合には、顧問料の水準や契約の期間の見直しも調整の材料になります。
まとまらない場合の手続を検討します
協議が調わない場合には、裁判所の調停、契約に仲裁の条項があれば仲裁、いずれもなければ訴訟という順に検討します。株式譲渡契約に管轄の合意があるかを確認してください。売主が受領した代金を費消してしまう懸念が具体的にある場合には、財産の保全の手続を検討することもありますが、担保として一定の金銭を提供する必要があり、要件も厳格ですので、事案により採り得るかどうかは異なります。
よくあるご質問
以下は、買収した会社の利益が説明されていた水準に届かなかったという場面で、買主の方から多く頂くご質問です。
買収の後に主要な取引先が取引を打ち切りました。売主に請求できますか
原則としては、買収した後に生じた事情ですので、買主が負担する事業上の危険と扱われます。ただし、譲渡の実行の前に取引先から取引の縮小や打切りの意向が既に示されていたにもかかわらず開示されなかったのであれば、重要な事実の不開示として責任を問い得る余地があります。取引先との往復の書面や社内の会議の記録から、意向が示された時期を特定することが出発点になります。
デュー・ディリジェンスを依頼した専門家が見落としていた場合、売主に請求できなくなりますか
直ちに請求ができなくなるわけではありません。買主が既に知っていた事項について補償を請求できないという規定がある場合でも、それは現に認識していた事項に関する規定であり、専門家が資料の提供を受けられなかった事項や、売主の説明が事実と異なっていたために発見できなかった事項までを含むとは限りません。報告書の記載と、資料の請求に対する売主の回答の状況を照らして判断することになります。
決算書は税理士が作成したものであり、売主本人は知らなかったと言っています
表明保証の条項に基づく補償の請求では、売主が知っていたかどうかを問わない構成とされていることが多く、その場合には知らなかったという主張だけでは反論として足りません。ただし、条項に売主の知る限りにおいてという限定が付されている場合には、認識の有無が争点になります。契約の文言を確認したうえで、どの構成で請求するかを決める必要があります。
補償の上限が譲渡代金の10パーセントと定められています。それを超える請求はできませんか
契約に定めた上限は原則として効力を持ちますが、多くの契約では、売主に詐欺又は故意による違反があった場合には上限を適用しないという例外が置かれています。まず、その例外の有無を確認してください。例外がない場合でも、契約に基づく補償とは別に、法律の一般の規定に基づく請求を検討する余地はありますが、上限の定めがこれらにも及ぶと解されるかは契約の書き方により異なります。
正常な収益力の再計算は誰に依頼すればよいですか
会社の顧問の税理士とは別に、企業の価値の評価の経験がある公認会計士に依頼することが望まれます。買収の際に財務のデュー・ディリジェンスを担当した専門家がいる場合には、当初の算定資料の前提を最もよく理解していますので、まずその方に検証を依頼することが効率的です。あわせて、法的な構成については弁護士と並行して検討し、意見書の記載が請求の構成と食い違わないようにしてください。
前オーナーが顧問として在籍しています。関係を壊さずに進める方法はありますか
事実関係の確認という形から入る方法があります。数値の差異について、非難ではなく質問として説明を求め、資料の提示を依頼するという段取りです。この過程で、前オーナー自身も認識していなかった処理が明らかになることもあります。もっとも、請求の期間が定められている以上、協議が長引く場合には期限内に通知を発しておく必要がありますので、期限の管理は別に行ってください。
請求ができる期間はいつまでですか
まず株式譲渡契約に定められた請求の期間が基準になります。実行の日から1年又は2年とされていることが多く、この期間を経過すると契約に基づく補償の請求はできなくなるのが通常です。契約に定めのない請求については法律の定める消滅時効によりますが、いずれにしても、差異に気付いた時点で速やかに検証に着手し、期限を確認することが不可欠です。
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。


