M&A仲介会社の情報提供義務の不足と売主が受ける不利益

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M&A仲介会社の情報の提供に関するメインのページです。本ページは、M&Aトラブルの背景として、売主へ伝えられるべき事項と不足の兆候をご説明します。双方に関与する仕組みは別のページをご参照ください。
双方に関与する仕組みそのものはM&A仲介会社が売主と買主の双方に関与する仕組みと留意点に、この形態に内在する構造的な利益相反と売主が採り得る自衛の手段はM&A仲介業者の利益相反の構造と売主の自衛の手段に、それぞれ整理しています。本記事は、売主に伝えるべき事項、これが伝えられないことにより生じる不利益、及び説明を求める方法を扱います。
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会社を譲渡した後になって、M&A仲介会社が買主からも報酬を受けていたことを知りました。契約書を読み返しますと、その旨の記載はあったものの、当時は意識しておりませんでした。交渉の過程を振り返りますと、価格についても条件についても、買主側の意向に沿った提案ばかりを受けていたように思われます。双方から報酬を受けること自体に問題はないのかを知りたいというご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。M&A仲介会社が売主と買主の双方から報酬を受ける形態それ自体が、直ちに違法となるものではありません。この形態は、中小企業のM&Aにおいて広く用いられており、相手方を効率的に探索するという実務上の役割を果たしています。もっとも、双方の間に立つ以上、いずれの側に対しても必要な情報を提供する必要があり、これを欠いた場合には善管注意義務の違反が問題となり得ます。本記事では、この形態の構造と、問題となり得る場面を整理いたします。
なお、当事務所は、M&A仲介会社からのご紹介によるご依頼もお受けしており、M&A仲介会社との間で良好な関係を築いております。本記事は、この形態を否定する趣旨のものではありません。
M&A仲介会社が売主に伝えるべき事項
売主と買主の双方から報酬を受ける形態それ自体は、直ちに違法となるものではありません。もっとも、双方の間に立つ以上、いずれの側に対しても、判断に必要な事項を伝える必要があります。売主の立場から申し上げますと、次の5つの事項は、いずれも譲渡の可否及び条件を決めるにあたって欠かすことのできないものです。
双方から報酬を受けること及びその額
第1に、買主からも報酬を受けるのかどうか、受けるとしてその額又は算定の方法がどのようなものであるかという点です。この点は、契約書の中に一般的な文言として記載されているにとどまることが少なくありません。しかし、売主にとっては、M&A仲介会社がいずれの側の利益にどの程度傾く動機を有しているかを測るための、最も基本的な材料となります。
したがいまして、契約書に記載があるという一事をもって説明を尽くしたと評価することは相当ではありません。買主側の報酬の体系がどのようなものであるかを、売主が理解し得る形で伝える必要があります。
買主側の担当の体制
第2に、売主側と買主側とを同一の担当者が担当しているのか、担当者を分けているのかという点です。担当者を分けている場合には、その間で情報の共有がどこまで行われているのか、上位の責任者が双方を統括しているのかという点も含みます。
この体制は、売主が提供した情報がどの範囲まで買主側に伝わるかを左右いたします。売主が交渉上の弱みに当たる事情を担当者に打ち明ける場面は少なくありませんので、その情報の行き先を知らないまま話を進めることには、相応の危険が伴います。
譲渡の価格の算定の根拠と前提
第3に、提示された譲渡の価格がどのような方法により算定され、どのような前提に立っているかという点です。純資産を基礎とする方法によるのか、利益に一定の倍率を乗じる方法によるのか、将来の収益を現在の価値に引き直す方法によるのかによって、結果は大きく異なります。
さらに、同じ方法を用いる場合でありましても、採用する倍率、除外する資産、及び見込む将来の利益の水準といった前提の置き方によって、金額は相当の幅をもって変動いたします。売主に伝えられるべきは、結論としての金額のみではなく、その金額を導いた前提です。前提が示されなければ、売主は妥当性を検討する術を持ちません。
打診した候補先の範囲と反応
第4に、どの範囲の候補先に打診し、それぞれからどのような反応があったかという点です。複数の候補先が関心を示しているのか、実質的に1社のみであるのかによって、売主が採り得る交渉の姿勢は全く異なります。
ここで問題となりますのは、他にも候補があるかのような説明を受けていたところ、実際には打診自体が限られていた、という場面です。この場合、売主は、本来であれば受け入れる必要のなかった条件を受け入れることになりかねません。
買主から示された条件の全体
第5に、買主から示された条件が、その全体において売主に伝えられているかという点です。価格は伝えられているものの、譲渡の後に売主が一定の期間にわたり経営に関与する義務、競業を避ける義務、表明した事実が異なっていた場合の補償の範囲、及び代金の一部を一定の期間留保する定めについては、詳しく伝えられていないことがあります。
これらの条件は、いずれも実質的に売主が受け取る金額を左右いたします。価格のみを取り出して伝えることは、条件の全体を伝えたことにはなりません。
情報が伝えられないことにより売主が受ける不利益
前節に掲げた事項が伝えられないまま取引が進みますと、売主には具体的な不利益が生じます。ここでは、実際に問題となり得る場面を4つに分けて整理いたします。いずれも、当事務所に寄せられるご相談において繰り返し現れるものです。
情報提供が不足した場合
M&A仲介会社は、準委任の受任者として、善良な管理者の注意をもって業務を処理する義務を負い(民法第644条、第656条)、また報告義務を負います(民法第645条)。双方の間に立つ以上、いずれの側に対しても、判断に必要な情報を提供する必要があります。
問題となり得る場面としては、次のものが挙げられます。
表2 情報提供が問題となり得る場面
| 場面 | 内容 |
|---|---|
| 相手方の状況 | 相手方の財務状況、係争、信用に関する重要な情報が伝えられなかった |
| 他の候補者 | 他に有利な条件を提示していた候補者の存在が伝えられなかった |
| 価格の水準 | 価格の算定の根拠が示されないまま合意に至った |
| 条件の意味 | 契約条項の意味及び当事者に与える影響が説明されなかった |
| 手続の選択 | 取引の手法の選択について選択肢が示されなかった |
| 報酬の構造 | 双方から報酬を受けることが十分に説明されなかった |
| 専門家の関与 | 弁護士等の関与の必要性が示されなかった |
秘密保持義務との関係
M&A仲介会社は、一方の当事者に対して秘密保持義務を負っている場合があります。したがって、一方から得た情報を他方に開示することが常に義務となるものではありません。
問題は、いずれの情報が秘密保持の対象であり、いずれの情報が取引の判断に必要なものとして提供されるべきであったかという点にあります。この線引きは容易ではなく、事案ごとの判断となります。
契約の締結の段階において、相手方に関する情報の提供の範囲を明確にしておくことが、後の紛争の予防につながります。
双方から報酬を受けることの説明
媒介契約書には、双方から報酬を受ける旨が記載されているのが通例です。もっとも、記載があることと、当事者がその意味を理解していたこととは別の事柄です。
この形態においては、M&A仲介会社が一方の当事者の代理人として交渉するものではないという点を、当事者が理解している必要があります。売主が「M&A仲介会社は自分の側に立って交渉してくれる」と理解していた場合、後に認識の相違が生ずることになります。
取引の成立に対する利益との関係
M&A仲介会社は取引が成立した場合に報酬を得ますので、取引を成立させることに利益を有します。この点は、業務の性質に由来するものであり、それ自体が問題となるものではありません。
問題となり得るのは、取引を成立させるために、当事者に対して必要な情報を提供しなかった場合、又は事実と異なる説明を行った場合です。
情報の不足がうかがわれる場合の兆候
情報の提供が不足しているかどうかは、その最中においては気付きにくいものです。しかし、後から振り返りますと、幾つかの兆候が現れていることが少なくありません。次の3つは、売主からご相談をいただく事案において繰り返し見受けられるものです。
提示される資料の粒度が急に粗くなる
当初は詳細な資料が提示されていたところ、交渉が進むにつれて、要点のみをまとめた1枚の書面や口頭の説明に置き換わっていく、という経過をたどることがあります。これは、条件の細部について売主の関心が及ぶことを避けようとする動きである可能性があります。
資料の粒度が変わったと感じましたら、その時点で、従前と同じ形式の資料を求めてください。求めに応じない理由が示されない場合には、その事実自体を記録に残しておくことが有益です。
質問に対する回答が口頭にとどまる
書面により質問したにもかかわらず、回答が電話又は面談の場での口頭にとどまり、書面による回答が得られないという状態が続く場合があります。口頭の回答は、後に内容が争われた際に、その存在自体を否定されることがあります。
この場合には、面談の直後に、こちらから回答の内容を要約した電子メールを送り、認識に相違があれば指摘を求める旨を添えてください。相違の指摘がないまま経過すれば、その要約は有力な資料となります。
決断を急がせる働きかけが増える
買主の側の事情、決算の時期、他の候補先の存在といった理由を挙げて、期限を区切った決断を求められる場面が増えることがあります。期限それ自体は取引において通常のことですが、その根拠が示されないまま繰り返される場合には、注意を要します。
急がされていると感じましたら、その理由を書面により示すよう求めてください。合理的な理由があるのであれば、示すことに支障はないはずです。
説明を求める具体的な方法
情報の提供が不足していると感じた場合、売主の側から説明を求めることができます。ここで大切なのは、感情を交えずに、求める事項を特定し、書面により、期限を付して求めるという形を採ることです。順を追って整理いたします。
契約の締結の段階で書面により定めておく
最も確実な方法は、M&A仲介契約を締結する段階で、報告すべき事項と頻度をあらかじめ定めておくことです。具体的には、打診した候補先の件数と反応を月に1度書面により報告すること、買主から示された条件は価格以外の事項を含めて書面により伝達すること、及び買主側からも報酬を受ける場合にはその算定の方法を書面により明らかにすること、といった内容です。
これらの定めを置くことは、M&A仲介会社にとって過大な負担となるものではありません。締結の段階で求めておきますと、後に説明を求める際にも、契約上の根拠を示すことができます。
取引の過程で書面により質問する
既に取引が進行している場合には、電子メールその他の書面により質問を送ります。この際、質問は箇条書きとし、1つの項目には1つの事項のみを記載してください。複数の事項を1つの文にまとめますと、回答の一部のみが返され、残りが答えられないまま流れてしまいます。
併せて、回答の期限を明示します。1週間程度の期限を付し、期限までに回答が難しい場合にはその旨と見込みの時期を知らせるよう求めておきますと、放置されにくくなります。
回答が得られない場合の申入れ
期限を過ぎても回答が得られない場合には、これまでの経過を時系列にまとめ、改めて書面により申し入れます。この書面には、いつ、どのような事項について、どのような方法で質問したかを日付とともに記載し、回答が得られていない事項を特定して記載します。
この段階では、担当者個人ではなく、会社の代表となる宛先を併せて宛先に加えてください。社内で共有されることにより、対応が改まることが少なくありません。それでもなお回答が得られない場合には、取引を進めること自体を留保する旨を伝えることも選択肢となります。
説明の内容を最終契約に反映させる
説明を得ましたら、その内容のうち、売主の判断の前提となった事項については、最終の契約書に反映させることを検討してください。たとえば、買主から示された条件の全体が書面のとおりであること、譲渡の後に売主が負う義務が書面に記載されたものに限られることを、契約書の中で確認しておく方法です。
説明を受けたにとどまる事項は、後に争いとなった際、その存在の立証から始める必要があります。契約書に取り込んでおきますと、この負担を負わずに済みます。
責任を追及する場合
説明を求めてもなお必要な情報が得られず、その結果として損害が生じた場合には、M&A仲介会社の責任を追及することが考えられます。ここでは、その枠組み、請求の根拠、及び資料の確保について整理いたします。
枠組み
情報提供が不足したことを理由として責任を追及する場合、次の事項を示す必要があります。
表4 立証すべき事項
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 義務の内容 | 当該情報を提供すべき義務があったこと |
| M&A仲介会社の認識 | M&A仲介会社が当該情報を認識していたこと |
| 情報の重要性 | 当該情報が判断に影響する重要なものであったこと |
| 秘密保持との関係 | 秘密保持義務により提供が制約されなかったこと |
| 違反の事実 | 提供されなかったこと |
| 損害の発生 | 現に損害が生じたこと |
| 因果関係 | 情報が提供されていれば異なる判断をしていたこと |
このうち、因果関係の立証が最も困難です。「当該情報を知っていれば、この条件では取引をしていなかった」ということを示す必要があります。
請求の根拠
債務不履行に基づく損害賠償(民法第415条第1項)、不法行為に基づく損害賠償(民法第709条)、使用者責任(民法第715条)が考えられます。消滅時効の期間及び起算点が異なりますので(民法第166条第1項、第724条)、いずれの構成によるかを検討いたします。
資料の確保
取引の経過に関する記録が資料となります。電子メール、面談の記録、M&A仲介会社から交付された資料、報告の書面が対象となります。取引の終了後は資料が散逸しやすくなりますので、問題を認識した時点で整理して保存することが必要です。
まとめ
M&A仲介会社が売主と買主の双方から報酬を受ける形態それ自体は、直ちに違法となるものではありません。問題となりますのは、双方の間に立ちながら、売主が判断するために必要な情報が伝えられない場合です。
売主に伝えられるべき事項は、双方から報酬を受けることとその額、買主側の担当の体制、譲渡の価格の算定の根拠と前提、打診した候補先の範囲と反応、及び買主から示された条件の全体の5つです。いずれも、契約書に一般的な文言が置かれていることをもって説明が尽くされたと評価すべきものではありません。
これらが伝えられないまま取引が進みますと、売主は、本来であれば受け入れる必要のなかった条件を受け入れ、又は他の選択肢を検討する機会を失うことになります。資料の粒度が急に粗くなること、質問に対する回答が口頭にとどまること、及び決断を急がせる働きかけが増えることは、いずれも情報の不足がうかがわれる兆候です。
説明を求める際には、求める事項を1つずつ特定し、書面により、期限を付して行ってください。得られた説明のうち判断の前提となった事項は、最終の契約書に反映させておきますと、後の立証の負担を負わずに済みます。
説明を求めてもなお必要な情報が得られず、これにより損害が生じた場合には、善管注意義務の違反として責任を追及することが考えられます。判断に迷われる段階でありましても、早い時期にご相談いただく方が、採り得る手段は多く残されています。
弁護士に相談する意味
この形態に関して弁護士が行う業務は、局面によって異なります。
契約の締結の段階においては、媒介契約書の内容を確認し、契約の形態、報酬の構造、情報の提供の範囲を明確にすることです。取引の過程においては、契約書の検討を行い、当事者が判断するために必要な情報を整理することです。取引の終了後においては、取引の経過を整理し、義務の内容と違反の有無を検討することです。
この形態においては、M&A仲介会社が一方の当事者の代理人として交渉するものではないという構造があります。したがって、契約書の検討及び法的な判断については、別途、当事者の側で専門家を確保することに意味があります。これはM&A仲介会社の役割を否定するものではなく、役割を分担するという趣旨です。
具体的な進め方は、契約の内容、取引の経過、資料の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 双方から報酬を受けることは違法ではないのですか。
直ちに違法となるものではありません。M&Aの仲介について、双方から報酬を受けることを直接に規制する法令は設けられていません。問題となり得るのは、いずれの側に対しても必要な情報が提供されなかった場合です。
質問2 M&A仲介会社は自分の味方ではないのですか。
仲介の形態においては、M&A仲介会社は双方の間に立って取引の成立を図る立場にあり、一方の当事者の代理人として交渉するものではありません。この点を理解した上で、必要な情報を能動的に求めることが重要です。
質問3 相手方がいくら報酬を支払っているのかを知ることはできますか。
契約に定めがない限り、当然に知ることができるものではありません。契約の締結の段階において、この点を確認しておくことが考えられます。
質問4 M&A仲介会社に契約書の検討を頼んでもよいですか。
契約書の作成及び検討は法律事務に当たり得ますので、M&A仲介会社の業務の範囲外とされているのが通例です。契約書の検討については、弁護士に依頼することになります。
質問5 既に取引が終わっています。今から責任を追及できますか。
事実関係と消滅時効の状況によります。まず、媒介契約書と取引の経過を確認し、義務の内容と違反の有無を検討いたします。資料が散逸する前に整理しておくことをお勧めいたします。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&A仲介会社との関係に関するご相談を、売主側及び買主側の双方からお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、媒介契約書、交付された資料、M&A仲介会社とのやり取りの記録、株式譲渡契約書、報酬に関する書面をご用意いただけますと、検討が早く進みます。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第166条第1項(債権の消滅時効)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第416条(損害賠償の範囲)、第643条(委任)、第644条(受任者の注意義務)、第645条(報告義務)、第648条(報酬)、第651条(委任の解除)、第656条(準委任)、第709条(不法行為)、第715条(使用者等の責任)、第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
弁護士法 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
その他 中小企業のM&Aに関する国の指針は、法令ではなく行政上の指針です。
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