仲介会社の担当者とのやり取りをどこまで記録に残すべきか

M&A仲介会社に会社の譲渡を依頼し、現在、候補者との交渉を進めております。担当者からは、電話や訪問により様々な説明を受けておりますが、書面はほとんど交わしておりません。後になって「聞いていない」「言っていない」という争いになることを心配しております。担当者とのやり取りを、どこまで記録に残しておくべきでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。仲介会社との紛争においては、説明の内容が争点となることが多く、記録の有無が結論を左右いたします。記録すべきものは、第一に報酬に関する説明、第二に候補者に関する情報、第三に依頼者が示した条件と回答、第四に助言の内容と根拠の4つです。難しい方法による必要はなく、面談の後に確認の電子メールを送るという習慣を持つことで、大半は足ります。本記事では、記録すべき事項と、その方法を整理いたします。
第1節 なぜ記録が必要なのか
争点となるのは説明の内容です
仲介会社との紛争においては、報酬が発生するか、説明がされていたか、どの候補者が紹介されたかといった点が争点となります。いずれも、当事者間のやり取りの内容が問題となります。
資料の偏り
仲介会社は、業務として案件を管理しておりますので、社内に記録を保有しているのが通例です。他方、依頼者の側は、記録を残していないことが少なくありません。
この偏りが、紛争が生じた際に依頼者に不利に働きます。
記録は交渉においても役立ちます
記録は、紛争となった場合の証拠としてのみならず、交渉の過程においても役立ちます。過去の説明との食い違いを指摘することができるためです。
仲介会社に対する牽制
やり取りが記録されていることが明らかであれば、説明の内容が慎重になることが期待されます。これ自体に意味があります。
第2節 記録すべき第一 報酬に関する説明
最も争いとなりやすい事項
報酬に関する事項は、最も争いとなりやすいものです。契約書に定めが置かれていても、その解釈をめぐって争いが生じます。
記録すべき内容
表1 報酬に関して記録すべき事項
| 事項 | 確認する内容 |
|---|---|
| 報酬の発生の要件 | いずれの時点で発生するか |
| 算定の基礎 | 譲渡価額か、移動する資産の総額か |
| 最低報酬 | 適用される場合と金額 |
| 破談の場合 | 既に支払った分の取扱い |
| 中途解約 | 解約金の有無と金額 |
| 契約終了後の成約 | テール条項の期間と対象 |
| 実費 | 報酬とは別に請求される費用 |
具体的な金額の確認
「想定される譲渡価額が○○円である場合、報酬はいくらになりますか」と具体的に照会し、回答を書面又は電子メールにより得ておくことが有効です。
算定の方法についての認識の相違が、この段階で明らかになることがあります。
契約の締結の前に確認いたします
契約を締結した後では、条項の修正を求めることが困難です。締結の前の段階で、疑問点を照会し、回答を記録に残しておくことが望まれます。
第3節 記録すべき第二 候補者に関する情報
紹介の事実
いずれの候補者が、いつ、どのように紹介されたかを記録いたします。契約の終了後に成約した場合の報酬に関する条項との関係で、重要となります。
既知の相手方
依頼者が契約の締結前から関係を有していた相手方については、その旨をあらかじめ書面により通知しておくことが望まれます。
仲介契約の締結に際して、既に接触している相手方を一覧として提出し、対象から除外する旨を定めることが考えられます。
候補者の状況に関する説明
候補者の事業の状況、資力、M&Aの目的、譲渡後の方針について、仲介会社から受けた説明を記録いたします。
後に説明と事実とが異なることが判明した場合には、この記録が主張の資料となります。
他の候補者の存在
他にどのような候補者があったか、なぜ当該候補者が選定されたかについても、記録いたします。より有利な条件の候補者が秘匿されていた場合には、責任が問題となり得るためです。
第4節 記録すべき第三 依頼者が示した条件
重視する事項を明示いたします
従業員の雇用の維持、屋号の存続、事業所の維持、取引先との関係の継続、譲渡後の関与といった、依頼者が重視する事項を、書面により明示しておきます。
書面にする意味
これらの事項は、口頭で伝えられるにとどまることが少なくありません。書面にしておくことにより、次の二つの意味を持ちます。
第一に、仲介会社がこれを候補者に伝えるべき義務の内容が明確となります。第二に、後に契約の解釈が問題となった場合に、依頼者が何を重視していたかを示す資料となります。
回答の記録
示した条件に対する仲介会社の回答も記録いたします。「その条件では候補者が見付からない」との回答があった場合には、その旨も記録しておきます。
条件の変更
交渉の過程で条件を変更する場合には、その経緯と理由を記録いたします。後に「なぜ譲歩したのか」が問題となることがあるためです。
第5節 記録すべき第四 助言の内容と根拠
助言の範囲
仲介会社は、法務、税務、会計に関する助言を行う立場にはないのが通例です。契約においても、これらの助言を行わない旨が定められていることが少なくありません。
それにもかかわらず、担当者が確定的な助言を行うことがあります。この場合には、その内容を記録しておきます。
根拠の照会
助言を受けた場合には、その根拠を照会いたします。「その点はどのような資料に基づく判断でしょうか」と照会し、回答を記録いたします。
根拠が示されない場合には、その旨も記録に残します。
専門家への確認
仲介会社の助言に依拠せず、法務については弁護士に、税務については税理士に、会計については公認会計士に確認することが望まれます。
当事務所は、税務申告及び会計監査の業務を行うものではありません。これらについては、それぞれの専門家にご確認いただくこととなります。
急がされた場合
「今日中に返答しなければ話が流れる」といった説明を受けた場合には、その旨と時期を記録いたします。判断のための時間が与えられていなかったことを示す資料となります。
第6節 記録の方法
確認の電子メール
最も簡便で有効な方法は、面談又は電話の後に、その内容を要約した電子メールを送付することです。
「本日はありがとうございました。ご説明の内容を確認させていただきます。第一に、成功報酬は最終契約の締結時に発生し、譲渡価額を基礎として算定されるとのことでした。第二に、A社は御社からのご紹介であり、B社は当方が以前から取引のある会社であることを確認いたしました。第三に、従業員の雇用の維持を条件とすることをお伝えいたしました。認識に相違がございましたら、ご指摘ください。」
相手方が訂正しなかった場合には、その内容を承認したものと評価される余地があります。
面談の記録
面談については、日時、場所、出席者、説明の要旨を記録いたします。詳細である必要はなく、要点を残すことで足ります。
書面の保管
仲介会社から交付された書面は、すべて保管いたします。企業概要書、候補者の一覧、報告書、請求書、案内が該当いたします。
電子的に交付されたものについても、受領した状態のまま保存いたします。
録音
自らが当事者となっている会話を録音することは、一般に許されると解されております。もっとも、相手方との関係に影響を及ぼすことがありますので、その要否は事案により判断いたします。
保管の期間
報酬に関する紛争は、譲渡の後に生じることがあります。テール条項の期間が経過するまでは、少なくとも保管しておくことが望まれます。
第7節 弁護士に相談する意味
この点について弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、仲介契約の内容を確認し、記録しておくべき事項を特定することです。第二に、仲介会社に対する照会の書面を作成することです。第三に、交渉の過程における確認の方法について助言することです。第四に、紛争が生じた場合に、記録に基づいて主張を組み立てることです。
記録は、紛争が生じてから作成することができません。交渉の段階から習慣として残しておくことが、最も確実な備えとなります。
具体的な記録の方法及び照会の内容は、契約の内容、交渉の段階、仲介会社の対応等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 どこまで記録すればよいのですか。
報酬に関する説明、候補者に関する情報、依頼者が示した条件と回答、助言の内容と根拠の4つが中心となります。詳細である必要はなく、要点を残すことで足ります。
質問2 簡単な方法はありますか。
面談又は電話の後に、その内容を要約した電子メールを送付することです。相手方が訂正しなかった場合には、その内容を承認したものと評価される余地があります。
質問3 録音してもよいのですか。
自らが当事者となっている会話を録音することは、一般に許されると解されております。もっとも、相手方との関係に影響を及ぼすことがありますので、要否は事案により判断いたします。
質問4 既に取引のある相手方については何をすべきですか。
契約の締結前から関係を有していた相手方については、その旨を書面により通知しておくことが望まれます。仲介契約において、これらを対象から除外する旨を定めることが考えられます。
質問5 いつまで保管すればよいですか。
報酬に関する紛争は譲渡の後に生じることがあります。契約の終了後の一定期間内の成約について報酬が発生する旨の条項が置かれている場合には、その期間が経過するまでは保管しておくことが望まれます。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&A仲介会社との関係に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、仲介契約書、企業概要書、候補者の一覧、仲介会社からの報告書、これまでのやり取りの記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。契約の締結の前の段階でのご相談もお受けしております。
弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第1条第2項(信義誠実の原則)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第643条(委任)、第644条(受任者の注意義務)、第645条(受任者による報告)、第648条の2(成果等に対する報酬)、第651条(委任の解除)、第656条(準委任)、第709条(不法行為)
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