仲介会社が作成した資料に誤りがあった場合の責任

M&A仲介会社の紹介により会社を譲り受けました。仲介会社から交付された企業概要書には、主要な取引先との契約が長期にわたって継続する旨が記載されておりました。ところが、譲受け後に確認いたしましたところ、当該契約は既に更新されないことが決まっており、売主もこれを認識しておりました。仲介会社は「売主から受け取った情報をそのまま記載しただけである」と説明しております。仲介会社に責任を問うことはできるのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。仲介会社が作成した資料に誤りがあった場合の責任は、契約上の義務の違反又は不法行為として問題となります。仲介会社は、受領した情報をそのまま伝達したにすぎないと主張することが多いものですが、契約の内容、仲介会社が受領していた資料、記載の体裁によっては、責任が認められる余地があります。他方、売主に対する請求の方が要件を満たしやすいことが多く、まず売主に対する請求を検討することとなります。本記事では、検討の順序と主張の組み立てを整理いたします。

第1節 仲介会社の立場と契約の性質

 仲介と助言の区別

M&Aの支援を行う会社には、売主と買主の双方との間で契約を締結する仲介の形態と、いずれか一方との間で契約を締結して助言を行う形態とがあります。

いずれの形態であるかにより、負う義務の内容が異なります。まず、締結した契約の名称と内容を確認いたします。

 契約の法的な性質

M&A仲介会社との契約は、一般に、委任又は準委任の性質を有すると解されております。受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負うとされております(民法第644条)。

したがって、仲介会社は、契約において引き受けた事務について、善良な管理者の注意をもって処理する義務を負います。

 契約書における免責の定め

表1 仲介契約に置かれることが多い定め

定め 内容
情報の真実性に関する免責 提供する情報の正確性を保証しない旨
調査義務の否定 独自の調査を行う義務を負わない旨
助言の範囲の限定 法務、税務、会計の助言を行わない旨
責任の上限 賠償の額を受領した報酬の額等に限る旨
自己責任の確認 取引の判断は当事者が自ら行う旨

これらの定めがある場合には、責任の追及が制限されることがあります。もっとも、故意又は重大な過失がある場合にまで免責が及ぶかについては、議論があるところです。

第2節 誤りの性質を区分いたします

 三つの類型

資料の誤りは、次の三つに区分して検討いたします。

第一に、売主が虚偽の情報を提供し、仲介会社がそれをそのまま記載した場合です。第二に、仲介会社が受領していた資料と、作成した資料の記載とが食い違っている場合です。第三に、仲介会社が自ら判断を加えて記載し、その判断が誤っていた場合です。

 類型ごとの検討

表2 誤りの類型と責任の検討

類型 主たる責任の相手方 仲介会社の責任
売主による虚偽の情報 売主 認識し得た事情があるかを検討いたします
受領資料との食い違い 仲介会社 資料の対照により示すことができます
仲介会社の判断の誤り 仲介会社 判断の根拠と体裁により検討いたします

 最も主張しやすい類型

仲介会社が売主から受領していた資料と、作成した企業概要書の記載とが食い違っている場合には、資料を対照することにより誤りを示すことができます。この類型が、最も主張しやすいものです。

したがって、仲介会社が売主から受領していた資料の開示を求めることが、検討の出発点となります。

第3節 仲介会社の義務の内容

 伝達する情報の確認

仲介会社が、売主から受領した情報をそのまま伝達する立場にとどまるとしても、受領した資料と明らかに食い違う内容を記載することは、善良な管理者の注意をもって事務を処理したとはいえない余地があります。

 説明及び情報提供に関する義務

仲介会社は、当事者が取引の判断を行うために重要な事項について、説明し、又は情報を提供すべき義務を負う場合があります。この義務の範囲は、契約の内容、当事者の知識及び経験、取引の性質により定まると考えられます。

仲介の形態においては、売主と買主の双方から報酬を受けることとなりますので、いずれの当事者に対しても公平に情報を提供すべきであるという議論があります。

 資料の体裁

企業概要書において、記載が売主の説明によるものであることが明示されているか、注記が付されているかにより、仲介会社が自ら保証した内容であるかの評価が異なります。

「売主の説明に基づく」旨の注記がある場合には、仲介会社の責任は限定される方向に働きます。他方、注記がなく、仲介会社が自ら確認したかのような体裁である場合には、責任が認められる余地が高まります。

 監督官庁の指針等

M&Aの支援に関しては、行政において指針が策定され、また事業者の団体において自主規制の規律が定められております。これらは直接に私法上の義務を定めるものではありませんが、求められる注意の内容を検討する際の参考となる場合があります。

第4節 請求の根拠と手順

 契約上の義務の違反

仲介契約に基づく義務に違反した場合には、債務不履行に基づく損害賠償を請求することが考えられます(民法第415条第1項)。

この場合、契約の内容から仲介会社が負う義務を特定し、その違反を主張することとなります。

 不法行為

仲介会社が、誤りを認識しながら、又は著しい不注意により誤った記載をした場合には、不法行為に基づく損害賠償を請求することが考えられます(民法第709条)。

担当者個人の行為について、仲介会社が使用者としての責任を負うことがあります(民法第715条第1項)。

 まず売主に対する請求を検討いたします

売主が虚偽の情報を提供していた場合には、株式譲渡契約における表明保証の違反として補償を請求することが考えられます。この請求は、仲介会社に対する請求と比べて、要件を満たしやすいのが通例です。

契約上の請求期間が定められている場合には、期限内に通知を行う必要があります。仲介会社に対する請求の検討を優先させて、売主に対する通知の期限を徒過することは避けなければなりません。

 資料の収集

表3 収集すべき資料

資料 示す事項
仲介契約書 仲介会社が引き受けた事務の範囲及び免責の定め
企業概要書 誤った記載の内容及び体裁
仲介会社との連絡の記録 説明の内容及び質問への回答
売主から仲介会社への提供資料 記載との食い違いの有無
デューデリジェンスの報告書 調査により判明していた事項
株式譲渡契約書及び開示別紙 表明保証及び開示の内容

 損害の主張

誤った情報により生じた損害を主張いたします。誤りがなければ支払わなかったであろう金額、誤りにより対象会社に生じた損失、これらの対応に要した費用が考えられます。

もっとも、誤りがなければどのような条件で取引したかは、仮定に基づく判断となりますので、損害の額の主張は容易ではありません。

第5節 買主が備えておくこと

 企業概要書に依拠しないこと

企業概要書は、取引の検討を開始するための資料であり、その内容が確認されたものであるとは限りません。重要な事項については、デューデリジェンスにより自ら確認する必要があります。

 表明保証への反映

企業概要書に記載された重要な事項については、株式譲渡契約における表明保証の対象とすることを求めます。表明保証の対象とされていれば、誤りがあった場合の請求の根拠が明確となります。

 照会の記録

仲介会社又は売主に対して行った照会と、これに対する回答は、書面又は電子メールにより記録に残します。口頭での説明にとどめますと、後に内容が争われます。

 仲介契約の内容の確認

仲介契約を締結する際には、免責及び責任の上限に関する定めを確認いたします。これらの定めの範囲について、交渉の余地がある場合があります。

第6節 弁護士に相談する意味

この類型について弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、仲介契約の内容から仲介会社が引き受けた事務の範囲と免責の定めを特定することです。第二に、誤りの性質を区分し、売主に対する請求と仲介会社に対する請求のいずれを主とするかを判断することです。第三に、売主に対する通知の期限を管理することです。第四に、仲介会社が売主から受領していた資料の開示を求めることです。第五に、損害の主張を組み立てることです。

この類型においては、売主に対する請求と仲介会社に対する請求とを併せて検討することが有効です。もっとも、契約上の請求期間の管理を誤らないことが、まず第一となります。

具体的な主張の組み立ては、契約の内容、資料の状況、取引の経過等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 仲介会社は「売主の情報をそのまま載せただけ」と言っています。

仲介会社が売主から受領していた資料と、作成した資料の記載とが食い違っている場合には、この説明は成り立ちません。まず、仲介会社が受領していた資料の開示を求めることが考えられます。

質問2 仲介契約に免責の定めがあります。責任を問えませんか。

免責の定めがある場合には、責任の追及が制限されることがあります。もっとも、故意又は重大な過失がある場合にまで免責が及ぶかについては議論があります。定めの文言と、誤りの性質を踏まえて検討いたします。

質問3 売主と仲介会社のいずれに請求すべきですか。

売主に対する表明保証の違反に基づく請求の方が、要件を満たしやすいのが通例です。まず売主に対する請求を検討し、あわせて仲介会社に対する請求の可否を検討することとなります。

質問4 デューデリジェンスで確認できたはずだと言われました。

調査により容易に判明し得た事項については、買主の側の事情が考慮されることがあります。他方、調査の対象とされていなかった事項や、意図的に秘匿されていた事項については、その主張は成り立ちにくいものです。

質問5 損害の額はどのように主張しますか。

誤りがなければ支払わなかったであろう金額、誤りにより対象会社に生じた損失、対応に要した費用が考えられます。仮定に基づく判断を含みますので、資料により裏付けることが重要となります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&A仲介会社が作成した資料の誤りに関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、仲介契約書、企業概要書、仲介会社との連絡の記録、株式譲渡契約書及び開示別紙、デューデリジェンスの報告書をご用意いただけますと、検討が早く進みます。

弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第1条第2項(信義誠実の原則)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第643条(委任)、第644条(受任者の注意義務)、第656条(準委任)、第709条(不法行為)、第715条第1項(使用者等の責任)、第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

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