M&A仲介会社の善管注意義務が問題となる場面

M&A仲介会社を通じて会社を譲渡いたしました。ところが、決済の後になって、買主が譲渡の直前に別の会社との間で係争を抱えていたことが判明いたしました。仲介会社はこの事実を把握していたようですが、こちらには一切知らされておりませんでした。仲介会社に問い合わせても「買主の情報は開示できない」と言われるばかりです。仲介会社に対して何らかの責任を問うことができるのかを知りたいというご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。M&A仲介会社との契約は、法的には準委任の性質を有するのが通例であり、仲介会社は善良な管理者の注意をもって業務を処理する義務を負います。もっとも、義務の具体的な内容は契約の定めと業務の性質によって決まり、あらゆる不都合が直ちに義務違反となるものではありません。責任を追及するためには、義務の内容の特定、違反の事実、損害の発生、因果関係を示す必要があります。本記事では、この枠組みを整理いたします。

なお、当事務所は、M&A仲介会社からのご紹介によるご依頼もお受けしており、仲介会社との間で良好な関係を築いております。本記事は、仲介会社一般に問題があるという趣旨のものではありません。多くの仲介会社は、買主候補の探索、条件の調整、日程の管理という実務上不可欠な役割を適切に果たしています。本記事は、限られた場面において法的な責任が問題となり得ることを、法的な枠組みに即して説明するものです。

第1節 契約の法的性質と義務の内容

 準委任としての性質

M&A仲介会社との契約は、業務の内容に照らして、準委任の性質を有するものと解されるのが通例です。委任に関する規定は、法律行為でない事務の委託について準用されます(民法第656条)。

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負います(民法第644条)。これが善管注意義務です。

また、受任者は、委任者の請求があるときはいつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならないとされています(民法第645条)。

 「仲介」と「助言」との違い

M&Aの実務においては、次の2つの形態が用いられています。

表1 仲介と助言の違い

項目 仲介の形態 一方の当事者に対する助言の形態
契約の相手方 売主と買主の双方 いずれか一方
立場 双方の間に立って取引の成立を図ります 依頼者の利益のために行動いたします
報酬 双方から受けるのが通例です 依頼者から受けます
情報の扱い 双方の情報を扱います 依頼者の情報を扱います
中小企業における利用 多く用いられています 一定の規模以上の取引で用いられます

いずれの形態であるかによって、期待される義務の内容が異なり得ます。まず、締結した契約がいずれの形態であるかを確認する必要があります。契約書の名称のみによって判断するのではなく、条項の内容によって判断いたします。

 義務の内容は契約の定めによります

善管注意義務の具体的な内容は、契約において合意された業務の範囲によって定まります。契約書に業務の内容が特定されていれば、その業務について善管注意義務を負うことになります。

したがって、責任を検討する出発点は、契約書における業務の範囲の定めです。「本件取引の成立に向けた助言及び仲介業務」といった抽象的な記載にとどまる場合には、義務の内容の特定に困難が伴います。

 行政上の指針の位置付け

中小企業のM&Aに関しては、国が策定した指針が公表されており、仲介会社の情報提供のあり方等について一定の考え方が示されています。また、支援を行う機関に関する登録の制度も設けられています。

もっとも、これらは法令ではなく行政上の指針及び制度です。したがって、指針に沿った対応がされなかったことが直ちに私法上の義務の違反となるものではありません。他方、業界における一般的な水準を示す一つの資料として、義務の内容を判断する際に参照されることはあり得ます。

第2節 問題となり得る場面

表2 善管注意義務が問題となり得る場面

場面 内容 検討する点
情報の不提供 相手方に関する重要な情報を伝えなかった 仲介会社の認識、情報の重要性、伝達の可否
誤った情報の提供 事実と異なる説明をした 説明の内容、根拠の有無
資料の誤り 作成した資料に誤りがあった 誤りの内容、確認の方法
一方への偏り 一方の当事者に有利な取扱いをした 契約の形態、具体的な行為
報酬に関する説明 報酬の算定方法を十分に説明しなかった 契約書の記載、説明の内容
専門家の関与 必要な専門家の関与を助言しなかった 業務の範囲、事案の性質
秘密の管理 情報が外部に漏れた 管理の方法、漏えいの経緯
手続の懈怠 必要な手続を怠った 業務の範囲に含まれるか

 情報の不提供が問題となる場面

仲介の形態においては、仲介会社は売主と買主の双方から情報を得る立場にあります。一方の当事者に関する重要な情報を、他方の当事者に伝えないまま取引を成立させた場合、義務の違反が問題となり得ます。

もっとも、次の点を検討する必要があります。

第一に、仲介会社が当該情報を認識していたかです。認識していなかった情報について伝達義務が生ずるものではありません。

第二に、当該情報が取引の判断に影響する重要なものであったかです。些細な事実についてまで伝達義務が生ずるものではありません。

第三に、秘密保持義務との関係です。仲介会社は、一方の当事者に対して秘密保持義務を負っている場合があります。この義務と情報の伝達との関係をどのように整理するかが問題となります。

 誤った情報の提供が問題となる場面

仲介会社が積極的に事実と異なる説明を行った場合には、義務の違反が問題となり得ます。もっとも、仲介会社が一方の当事者から得た情報をそのまま伝達した場合において、当該情報が誤っていたときに、仲介会社が責任を負うかは別の問題です。

情報の出所を明示して伝達した場合と、仲介会社自身の調査の結果として伝達した場合とでは、評価が異なり得ます。

 資料の誤りが問題となる場面

仲介会社が作成した企業概要書その他の資料に誤りがあった場合です。資料の作成にあたって、仲介会社がどの程度の確認を行うべきであったかが問題となります。

資料に「本資料は対象会社から提供された情報に基づいて作成したものであり、その正確性を保証するものではありません」といった記載が付されていることがあります。この記載の効力については、記載の内容、当事者の認識、事案の状況を踏まえた検討を要します。

 専門家の関与に関する助言

契約書の作成及び検討は法律事務に当たり得ますので、仲介会社の業務の範囲外とされているのが通例です。この場合、弁護士の関与を助言すべきであったかが問題となることがあります。

もっとも、これが法的な義務の内容に含まれるかは、契約の定めと事案の性質によります。

 「取引を成立させること」との関係

仲介会社は、取引を成立させることによって成功報酬を得る立場にあります。この点は、仲介会社の業務の性質に由来するものであり、それ自体が問題となるものではありません。

問題となり得るのは、取引を成立させるために、当事者に対して必要な情報を提供しなかった場合、又は事実と異なる説明を行った場合です。

第3節 責任を追及する場合の枠組み

 請求の根拠

表3 請求の根拠

根拠 内容 期間
債務不履行 善管注意義務又は報告義務の違反 民法第166条第1項
不法行為 故意又は過失による権利侵害 民法第724条
使用者責任 被用者の行為についての会社の責任 民法第715条、第724条
報酬の返還 契約の解除等に基づく返還 契約の定め、民法の規定

債務不履行と不法行為とでは、消滅時効の期間及び起算点が異なります。債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅いたします(民法第166条第1項)。不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、又は不法行為の時から20年を経過したときは、時効によって消滅いたします(民法第724条)。

 立証すべき事項

表4 立証すべき事項

事項 内容 資料
義務の内容 契約上いかなる業務を行うべきであったか 媒介契約書、提案書、説明資料
違反の事実 当該業務が適切に行われなかったこと 連絡の記録、資料、面談の記録
仲介会社の認識 伝達すべき情報を認識していたこと 電子メール、報告の記録
損害の発生 現に損害が生じたこと 支出の記録、契約の内容
因果関係 義務の違反により損害が生じたこと 判断の経緯を示す資料
損害の額 金額の算定 算定の根拠となる資料

このうち最も困難であるのが、因果関係の立証です。「仲介会社が当該情報を伝えていれば、この取引はしていなかった」あるいは「別の条件で取引をしていた」ということを示す必要があります。

 契約書における責任の限定

媒介契約書には、仲介会社の責任を限定する条項が置かれていることがあります。「乙は、本件取引の成立及び内容について一切の責任を負わない」「乙の責任は受領した報酬の額を限度とする」といった条項です。

これらの条項の効力については、条項の内容、当事者の属性、事案の状況を踏まえた検討を要します。契約の当事者が事業者である場合、消費者契約法の適用はありません。

 資料の確保

責任を追及する場合、当時の記録が資料となります。電子メール、面談の記録、仲介会社から交付された資料、報告の書面が対象となります。

取引の終了後は、これらの資料が散逸しやすくなります。問題を認識した時点で、資料を整理して保存することが必要です。

第4節 手続と実際の進め方

表5 手続の類型

手続 特徴 適する場面
協議 書面により事実関係の説明を求めます 事実関係の確認が先行する場合
民事調停 裁判所において話合いを行います 早期の解決を図る場合
訴訟 判決により権利関係を確定いたします 争点が大きい場合
報酬の支払の拒絶 未払の報酬について支払を拒みます 報酬が未払である場合

 まず事実関係の説明を求めます

責任を追及するか否かを判断する前に、事実関係を確認する必要があります。仲介会社に対して、書面により、経過の説明と資料の提供を求めることが出発点となります。

受任者は、委任が終了した後は遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならないとされています(民法第645条)。この規定に基づいて報告を求めることが考えられます。

 報酬が未払である場合

成功報酬が未払である段階で問題が判明した場合、報酬の支払を拒む余地があるかを検討いたします。この場合、報酬の発生要件が満たされているか、義務の違反により報酬請求権が制限されるかといった点が問題となります。

 報酬の返還を求める場合

既に支払った報酬の返還を求める場合には、契約の解除、又は損害賠償として報酬相当額を請求するという構成が考えられます。この点はMT27において詳述いたします。

 登録制度に関する情報の提供

中小企業のM&Aに関する支援機関の登録の制度において、相談の窓口が設けられている場合があります。これは行政上の制度であり、私法上の請求権を実現する手続ではありませんが、事実関係を伝える手段の一つとなることがあります。

第5節 将来の紛争を防ぐために

 契約の段階における確認

媒介契約の締結の段階において、次の事項を明確にしておくことが、後の紛争の予防につながります。

表6 契約の段階で明確にする事項

事項 内容
契約の形態 仲介か、一方の当事者に対する助言か
業務の範囲 行う業務と行わない業務の特定
情報の提供 相手方に関する情報の提供の範囲
報告 報告の頻度と内容
報酬 算定の基礎、料率、発生時期
責任 責任を限定する条項の有無と内容
専門家の関与 弁護士、税理士、公認会計士の関与の要否

 取引の過程における記録

やり取りを記録として残しておくことが重要です。口頭での説明については、その内容を電子メールにより確認する方法があります。この点はMT28において詳述いたします。

 第2の意見を求めること

進行中の案件について、仲介会社以外の専門家の意見を求めることも考えられます。専任専属の媒介契約が締結されている場合であっても、弁護士に対して契約書の検討を依頼することは、仲介業務とは性質を異にいたします。

 仲介会社に対する請求と相手方に対する請求との関係

取引に問題が生じた場合、請求の相手方となり得るのは、仲介会社のほか、取引の相手方(売主又は買主)です。両者に対する請求は、根拠も要件も異なります。

たとえば、対象会社に簿外債務が判明した場合、取引の相手方に対しては表明保証違反に基づく補償を請求し、仲介会社に対しては情報提供に関する義務の違反を主張するという構成が考えられます。もっとも、同一の損害について二重に回収することはできません。

いずれに対して請求するかは、契約の定め、相手方の資力、立証の難易を踏まえて判断いたします。取引の相手方に対する契約上の請求の方が、要件が明確である場合が多いといえます。

 仲介会社との関係を維持しながら解決を図る場合

責任の追及が唯一の解決の方法であるとは限りません。事実関係の説明を受け、報酬の一部について協議するという形で解決に至る場合もあります。当事者が今後も同じ業界において事業を継続する場合には、この点も考慮の対象となります。

第6節 弁護士に相談する意味

仲介会社の責任が問題となる局面において弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、媒介契約書を確認し、契約の形態と業務の範囲を特定することです。第二に、取引の経過を時系列に沿って整理し、いかなる時点でいかなる情報が誰に伝えられていたかを明らかにすることです。第三に、義務の内容、違反の事実、損害、因果関係のそれぞれについて、主張と資料を整えることです。第四に、責任を限定する条項の効力を検討することです。

この類型の紛争においては、義務の内容の特定と因果関係の立証が中心の課題となります。取引の経過に関する記録が、その基礎となります。

具体的な進め方は、契約の内容、取引の経過、資料の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 仲介会社が双方から報酬を受けていました。これは問題ですか。

双方から報酬を受ける形態それ自体が直ちに違法となるものではありません。問題となり得るのは、いずれの側に対しても十分な情報が提供されなかった場合です。この点はMT25において詳述いたします。

質問2 仲介会社が買主の情報を教えてくれませんでした。

仲介会社は、買主に対して秘密保持義務を負っていることがあります。したがって、情報を開示しなかったこと自体が直ちに義務の違反となるものではありません。開示されなかった情報の内容と重要性、契約における情報提供に関する定めを確認いたします。

質問3 企業概要書に誤りがありました。責任を問えますか。

誤りの内容、仲介会社が行うべき確認の程度、資料に付された注記の内容を踏まえた検討を要します。誤りにより損害が生じたことと、因果関係を示す必要があります。

質問4 媒介契約書に「一切の責任を負わない」と書かれています。

このような条項の効力については、条項の内容、当事者の属性、事案の状況を踏まえた検討を要します。条項があることのみをもって、およそ責任を追及できないというものではありません。

質問5 取引が終わってから何年も経っています。まだ請求できますか。

債務不履行に基づく請求と不法行為に基づく請求とでは、消滅時効の期間及び起算点が異なります(民法第166条第1項、第724条)。いつの時点で何を知ったかによって判断が変わりますので、事実関係を確認した上で検討いたします。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、M&A仲介会社の責任が問題となる事案について、ご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、媒介契約書、企業概要書その他の交付された資料、仲介会社とのやり取りの記録、株式譲渡契約書、報酬に関する請求書及び領収書をご用意いただけますと、検討が早く進みます。

結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第166条第1項(債権の消滅時効)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第416条(損害賠償の範囲)、第643条(委任)、第644条(受任者の注意義務)、第645条(報告義務)、第648条(報酬)、第651条(委任の解除)、第656条(準委任)、第709条(不法行為)、第715条(使用者等の責任)、第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

弁護士法 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

その他 中小企業のM&Aに関する国の指針及び支援機関に係る登録の制度は、法令ではなく行政上の指針及び制度です。

関連するご案内

M&A仲介会社の対応に納得できずお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。

あわせてお読みください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

このページの位置付けと、関連するページ

本ページは、M&A仲介会社の責任に関する解説の中核となるページです。個別の論点は、次の各ページに整理しています。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。