買収後に対象会社の不動産や賃貸借契約の問題が判明した場合の対応

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不動産及び賃貸借契約の問題に関するメインのページです。本ページは、M&Aで会社を譲り受けた後に権利関係が判明した場面で、登記と契約の確認をご説明します。リース及び借入れの契約は別のページをご参照ください。

リース契約及び借入契約の問題が判明した場面は買収後にリース契約や借入契約の問題が判明した場合の対応を、許認可の問題が判明した場面は買収後に許認可の問題が発覚した場合の確認手順と売主への請求を、それぞれご覧ください。

買収の実行を終え、新しい体制で会社を動かし始めてから、事業の足元にある土地建物について問題が表面化することがあります。前の社長から「工場の土地は私の個人名義ですので、来月から賃料を見直させていただきます」と告げられる、賃貸人である資産管理会社から「株主が変わりましたので、契約は更新しません」という書面が届く、登記事項証明書を初めて自分で取り寄せてみたところ、本社の建物に見覚えのない根抵当権が設定されていた、といった形です。いずれの入口であっても、買主が直面する問いは同じであり、来月以降もこの場所で事業を続けられるのか、という一点に尽きます。

中小企業のM&Aでは、この問題は例外ではなく、むしろ標準的な論点です。事業に使っている土地建物が、対象会社ではなく、創業者個人又はその資産管理会社の所有となっており、対象会社はそこを借りているだけである、という構造が非常に多く見られるためです。株式を全部譲り受けても、この構造の下では、土地建物そのものは一切移転しません。会社の株主が入れ替わるだけであり、創業者個人や資産管理会社が持っている財産は、その手元に残ったままだからです。

本稿では、中小企業を買収した買主を念頭に、不動産の権利関係をどう確認するか、賃貸借の条件のどこを読むか、支配権の異動に関する条項がどのような意味を持つか、修繕及び原状回復の負担をどう見積もるか、そして売主に何を請求し得るかを、順を追って整理します。目的は、事業をこの場所で継続できるかどうかを、できるだけ早い段階で見極めることにあります。

Contents
  1. 不動産の権利関係を登記から確認する
    1. 使用している土地建物を一覧にする
    2. 登記事項証明書で所有者と担保を確かめる
    3. 創業者個人又は資産管理会社が所有している構造
    4. 未登記の建物及び増築の部分
  2. 賃貸借契約の内容を確認する
    1. 契約書が存在しない、又は古いままである場合
    2. 確認すべき条件
    3. 普通建物賃貸借か定期建物賃貸借か
    4. 賃料が相場と離れている場合
    5. 第三者に売却された場合に主張できるか
  3. 支配権の異動に関する条項の有無
    1. 株式譲渡と賃借権の関係
    2. 条項が見つかった場合の対応
    3. 事業譲渡及び会社分割による場合の違い
  4. 修繕及び原状回復の義務
    1. 修繕の負担が賃借人に寄せられていないか
    2. 原状回復の範囲を具体的に確かめる
    3. 土壌の汚染及び有害な建材
  5. 表明保証の条項との関係
    1. 不動産に関する典型的な表明保証
    2. 開示された事項は対象から外れる
    3. 補償の期間及び金額の制限
  6. 移転に要する費用と損害額
    1. 移転に要する費用を積み上げる
    2. 事業が止まることによる損害
    3. 賃料が増額される場合の評価
    4. 実行後の早い段階で試算する
  7. よくあるご質問
    1. 株式を全部取得しましたが、工場の土地建物は前の社長個人の名義でした。名義を移せますか
    2. 賃貸借契約書が見当たりません。何から始めればよいですか
    3. 前の社長から賃料を2倍にすると言われました。応じる必要がありますか
    4. 賃貸借契約に、株主が変わった場合は解除できると書かれていました。すぐに解除されますか
    5. 実行のときに何を決めておけばよかったのでしょうか
    6. 原状回復の費用が想定よりはるかに大きいことが分かりました。売主に請求できますか
    7. 本社の建物に根抵当権が設定されていました。競売になれば出て行くことになりますか

不動産の権利関係を登記から確認する

最初に行うべきは、指摘を受けた一つの物件だけを見るのではなく、対象会社が現に事業で使っている土地建物の全部について、所有者が誰であるかを洗い出す作業です。一つの物件で不備が見つかる会社では、他の物件にも同じ問題が潜んでいることが通常であり、個別に対処を重ねると後から全体像を組み直すことになります。

使用している土地建物を一覧にする

出発点は、登記簿ではなく、事業の現場です。本社、工場、倉庫、営業所、店舗、駐車場、資材置場、社宅、看板の設置場所まで含めて列挙します。漏れを防ぐ資料としては、固定資産税の納税通知書に添付された課税明細書、火災保険の保険証券、並びに総勘定元帳の地代家賃及び賃借料の勘定が有用です。台帳に載っていない物件は、これらの記録から浮かび上がります。

登記事項証明書で所有者と担保を確かめる

列挙した物件について、法務局で登記事項証明書を取得します。これは誰でも手数料を納めれば取得でき、対象会社の協力がなくても入手できます。確認すべきは、権利部の甲区に記載された所有権の登記名義人及び持分、表題部の地目、地積及び床面積、乙区に記載された抵当権、根抵当権又は賃借権の登記、並びに差押え、仮差押え及び所有権移転の仮登記の有無です。

創業者個人又は資産管理会社が所有している構造

登記を確認すると、事業の中核となる土地建物の名義が、対象会社ではなく、創業者個人、その配偶者や子、又は創業者が支配する資産管理会社になっている例に高い頻度で行き当たります。背景は様々で、創業時に個人で土地を取得してそのまま会社に使わせてきた、相続税の負担を軽くするために資産管理会社を設けた、といった経緯によるものが多く、必ずしも買主を害する意図によるものではありません。

しかし買主にとっての帰結は重大です。株式を100パーセント取得しても、その土地建物は移転せず、賃貸人は売却後も売主側のままです。つまり、事業の存立に不可欠な場所の貸主が、たった今、多額の譲渡代金を受け取って会社を去った相手方である、という状態が生じます。この状態では、賃料の増額を求められる、更新を拒まれる、明渡しを求められるといった要求が、買主の経営を直接に左右し得ます。これを避けるために、本来は実行の時点で、不動産そのものを譲り受けるか、それが難しければ賃貸借の条件を書面で確定させておく必要があります。

未登記の建物及び増築の部分

中小企業の工場や倉庫では、増築した部分や附属の建物が登記されていない例が珍しくありません。固定資産税の課税明細書に載っているのに登記事項証明書に現れない建物があれば、未登記である可能性が高いといえます。未登記の建物は、所有権の帰属を外形から確認できず、担保に入れることも難しくなります。建築確認及び検査済証の有無も併せて確認します。

賃貸借契約の内容を確認する

所有者が第三者である以上、事業を続けられるかどうかは、賃貸借契約の内容によって決まります。重要なのは、契約書の有無ではなく、現に行われている取扱いと書面の内容とがどれだけ食い違っているかを把握することです。同族の会社と創業者個人との間の賃貸借は、書面の整備が最も後回しにされてきた領域です。

契約書が存在しない、又は古いままである場合

実務で頻繁に見られるのは、契約書そのものが作られていない例、及び会社の設立当初に作られた1枚の書面が、賃料も期間も現況と合わないまま残されている例です。書面がなくても賃貸借は成立しますが、賃料の額、期間、更新の方法、修繕及び原状回復の負担のいずれについても、後日の主張が食い違う原因になります。まず、直近3期分の総勘定元帳から実際の支払額と支払日を拾い、書面の内容と実際の取扱いとの差を一覧にします。

確認すべき条件

契約書がある場合、少なくとも次の事項を読み取り、物件ごとに横並びの表に整理してください。条件の不均衡や欠落が見えやすくなります。

  • 賃貸人及び賃借人の名義(賃借人が対象会社であるか、創業者個人であるか)
  • 目的物の表示が登記事項証明書の記載と一致しているか
  • 使用目的の定め、及び現在の使用がその範囲に収まっているか
  • 賃料の額、共益費、消費税の取扱い、及び賃料改定の条項
  • 期間、更新の方法、更新料の有無、並びに中途解約の可否及び予告の期間
  • 敷金、保証金及び建設協力金の額並びに返還の時期と方法
  • 修繕の負担の分担、及び造作その他の設備の所有関係
  • 転貸及び賃借権の譲渡の可否、並びに増改築の可否
  • 原状回復の範囲
  • 連帯保証人の有無(多くは前の社長個人であり、交代を求められます)

普通建物賃貸借か定期建物賃貸借か

この区別は事業の継続を左右します。普通の建物賃貸借であれば、期間が満了しても賃貸人が更新を拒むには正当の事由が必要であり、賃借人の保護が厚くなっています。これに対し、定期建物賃貸借は、期間の満了により更新されることなく終了します。定期建物賃貸借とするには、公正証書等の書面によって契約すること、及び契約に先立って更新がない旨を記載した書面を交付して説明することが必要とされており、いずれも借地借家法第38条に定めがあります。契約書の表題に「定期」とあっても、この手続が履践されていなければ普通の建物賃貸借として扱われる余地があります。有効な定期建物賃貸借で残りの期間が短い場合は、買収の直後から移転の準備を始めることになり得ます。

賃料が相場と離れている場合

同族の間の賃貸借では、賃料が近隣の相場から大きく離れていることがよくあります。相場より著しく低い場合、賃貸人となった売主側から、租税の負担を理由に増額を求められる余地があります。賃料の増減の請求については借地借家法第32条第1項に、借地の地代等については同法第11条に定めがあり、租税の増減その他の事情により不相当となったときは、当事者は将来に向かって額の増減を請求できるとされています。反対に、相場より著しく高い賃料が設定されていた場合は、買収後の損益計算に恒常的な負担として残りますので、株式の価格の算定に織り込まれていたかを確認します。

第三者に売却された場合に主張できるか

売主側が買収の後にその土地建物を第三者へ売却してしまう事態も想定しなければなりません。建物の賃貸借については、賃借人が建物の引渡しを受けていれば、その後にその建物の所有権を取得した者に対しても賃借権を主張できるとされており、借地借家法第31条に定めがあります。建物を所有する目的で土地を借りている場合も、その土地の上に賃借人が登記した建物を有していれば同様に主張でき、同法第10条第1項に定めがあります。この保護の前提として、賃借人が対象会社自身であることが必要ですので、この点も確かめます。

支配権の異動に関する条項の有無

買収の直後に賃貸人から解除や更新拒絶を告げられる場合、その根拠として持ち出されるのが、支配権の異動に関する条項です。これは、会社の株主や役員が交代したときに、相手方の事前の承諾を要する、又は相手方が契約を解除できるものとする定めをいいます。買収の実行前に発見すべき条項ですが、契約書の後半に他の一般条項と並べて置かれていることが多く、見落とされます。

株式譲渡と賃借権の関係

株式譲渡の場合、賃貸借契約の賃借人は対象会社のまま変わりません。賃借人が交代するわけではありませんので、賃借権の譲渡や転貸を賃貸人の承諾にかからせる民法第612条の問題は、原則として生じません。もっとも、これは法律上の原則にすぎず、当事者が契約で異なる定めを置いていれば、その定めに従って解除の可否が判断されます。契約書に支配権の異動に関する条項が置かれているかどうかが、実務上の分かれ目です。

条項が見つかった場合の対応

条項が見つかった場合、まず、どのような事象が引き金となるのかを正確に読みます。「議決権の過半数の異動」なのか、「代表者の変更」なのかによって、該当するかどうかの判断が変わります。次に、その効果が、事前の承諾の取得義務にとどまるのか、通知義務にすぎないのか、無催告の解除権を与えるものなのかを確認します。既に実行を終えている場合は、賃貸人に事情を説明して承諾を求める書面を発し、併せて賃料その他の条件を維持する旨の確認書を取り交わすことを目指します。相手方が難色を示す場合でも、一方的に不利な条件を直ちに受け入れる必要はありません。

事業譲渡及び会社分割による場合の違い

買収の方式が株式譲渡ではなく事業譲渡であった場合は、賃借権は個別に移転させる必要があり、賃貸人の承諾を得なければ移転の効力を主張できないのが原則です。会社分割の方式による場合、権利義務は分割の計画又は契約の定めに従って包括的に承継されますので、承諾がなくても承継されると解されていますが、契約に組織再編を解除の事由とする定めがあれば、契約上の問題として残ります。いずれにせよ、契約書の文言を確認せずに方式を選ぶことはできません。なお、同種の条項は、銀行取引約定、リース契約、フランチャイズ契約、及び補助金の交付の決定にも置かれていることがありますので、不動産の問題が見つかった段階で契約書の全体を点検してください。

修繕及び原状回復の義務

賃貸借を継続できる場合であっても、負担の重さが後から判明することがあります。とりわけ工場、倉庫及び店舗では、修繕と原状回復の費用が数千万円の規模になることがあり、買収の価格の前提を覆すだけの影響を持ち得ます。

修繕の負担が賃借人に寄せられていないか

賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負うのが原則であり、民法第606条第1項に定めがあります。もっとも、これは当事者の合意で修正でき、事業用の物件では、屋根、外壁、給排水設備、受変電設備、空調設備を含めて賃借人の負担とする特約が置かれていることが少なくありません。同族の間の契約では、この点が曖昧なまま会社が費用を出してきた例も多く見られます。建物の築年数、直近の大規模修繕の時期、並びに屋根及び外壁の状態を確認し、今後5年間に見込まれる支出を試算してください。

原状回復の範囲を具体的に確かめる

賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷について、賃貸借の終了時に原状に復する義務を負い、通常の使用による損耗及び経年変化はその対象から除かれるとされています。この点は民法第621条に定めがあります。ただし、事業用の賃貸借では、特約により、通常損耗を含めて賃借人の負担とし、内装、間仕切り、看板、床の補強、増設した配管や電気設備の撤去まで求める定めが置かれているのが一般的です。工場では、フォークリフトの走行のために補強した床、増設した動力の配線、設置した排水設備の撤去が高額になりやすい項目です。中小企業では、この費用を引当金として計上していない例が大半ですので、賃貸借契約書と現地の状況から物件ごとに概算額を出し、合計を把握しておく必要があります。

土壌の汚染及び有害な建材

金属加工、めっき、印刷、クリーニング、自動車の整備、燃料の販売といった業種では、土壌や地下水の汚染、地下タンクの残置、及び吹き付けアスベストの残存が問題になり得ます。これらは、調査そのものに費用と時間を要し、除去が必要となれば費用は跳ね上がります。有害物質を使用する施設の廃止や土地の形質の変更に際して調査が求められる仕組みがあり、終了時に賃借人が負担を求められる場面もあります。過去の届出の写し及び自治体とのやり取りの記録を確認してください。

表明保証の条項との関係

ここまでで把握した問題について、売主に負担を求められるかどうかは、株式譲渡契約の表明保証の条項をどう読むかにかかります。表明保証とは、契約の当事者が、一定の事実が真実かつ正確であることを相手方に表明し保証する条項をいい、違反した場合には契約に定められた範囲で補償を求めることができるとされるのが通常です。

不動産に関する典型的な表明保証

不動産については、次のような内容の表明保証が置かれることが多く、まず自らの契約書にどこまで書かれているかを確かめます。

  • 別紙に記載した不動産が、対象会社が事業に使用する不動産の全部であること
  • 対象会社が所有する不動産について、所有権を有し、担保権その他の負担が存在しないこと
  • 賃貸借契約が有効に存続しており、解除の事由が生じていないこと
  • 賃料その他の債務の支払を怠っていないこと
  • 建築基準法及び消防法その他の法令に適合していること
  • 境界について紛争がなく、越境の状態が存在しないこと

開示された事項は対象から外れる

多くの契約書には、開示の別紙に記載された事項を表明保証の対象から除外する条項が置かれています。デュー・ディリジェンスの過程で登記事項証明書や賃貸借契約書が提出されていた場合、売主は開示済みであると主張してきます。別紙に明示されていた事項と、大量の資料に紛れていた記載とでは扱いが異なり得ますので、受領した資料の一覧、質問と回答の記録、及びそれぞれの日付を整理してください。

補償の期間及び金額の制限

補償の請求には、通常、実行の日から1年、1年6か月又は2年といった期間の制限が置かれ、これを過ぎると請求できなくなります。また、1件当たりの金額の下限、累計額の下限、及び補償の上限額が定められていることが一般的です。損害の額が固まっていない段階であっても、請求の意思と判明した事実を記載した通知を先に発することはできますので、期間の残りが少ない場合は通知を優先してください。

移転に要する費用と損害額

賃貸借を継続できない場合、又は継続の条件が著しく不利になる場合には、移転を検討することになります。売主との交渉に臨むにせよ、移転を決断するにせよ、金額を具体的に積み上げておかなければ判断も交渉もできません。

移転に要する費用を積み上げる

移転の費用は、想像されているより広い範囲に及びます。少なくとも次の項目を、見積書又は過去の実績に基づいて積算してください。

  • 新たな物件の保証金、敷金、前払賃料及び不動産の媒介の手数料
  • 設計及び内装工事、電気容量の増設、給排水及び空調の工事
  • 機械設備の解体、運搬、据付け及び試運転に要する費用
  • 電話、通信回線及び基幹システムの移設に要する費用
  • 本店移転の登記、並びに営業所や工場に係る許認可及び届出の変更
  • 旧物件の原状回復工事及び残置物の処分
  • 従業員の通勤の負担の増加への対応
  • 取引先への通知及び印刷物の刷り直し

事業が止まることによる損害

移転に伴って生産や営業が停止する期間があれば、その間に得られたはずの利益が失われます。金額は、停止する日数に、1日当たりの売上高から変動費を差し引いた額を乗じて概算します。加えて、納期の遅延による違約金、失注、及び顧客の離反が生じ得ます。これらは立証が容易ではありませんので、停止の期間、受注の状況及び取引先とのやり取りを、その都度記録に残してください。

賃料が増額される場合の評価

移転せずに増額を受け入れる場合は、増額の幅に、事業を継続する予定の年数を乗じた額が、実質的な追加の負担となります。厳密には将来の支払を現在の価値に引き直して評価しますが、交渉の場面では、増額の年額と想定年数を示して比較すれば足りることが多いといえます。この試算により、移転の費用と増額の負担とを同じ土俵で比べられ、どちらを選ぶかの判断がしやすくなります。

実行後の早い段階で試算する

これらの試算は、問題が発覚した直後に着手してください。表明保証に基づく請求には期間の制限があり、賃貸人との交渉も、更新の時期や解除の通知期間との関係で猶予が限られます。金額の裏付けのない主張は交渉力を持ちませんので、概算であっても根拠の示せる数字を早く用意することが有利に働きます。

よくあるご質問

実際に多く寄せられる問いを整理します。個々の事案では契約書の文言と物件の状況によって結論が変わりますので、一般的な考え方としてお読みください。

株式を全部取得しましたが、工場の土地建物は前の社長個人の名義でした。名義を移せますか

株式の取得によって自動的に移ることはありません。名義を移すには、所有者である前の社長個人との間で改めて売買又は贈与の契約を締結し、移転登記の申請をする必要があります。相手方に応じる義務があるかどうかは、株式譲渡契約に不動産の譲渡に関する定めが置かれていたかによります。定めがない場合は新たな交渉になりますので、不動産の評価額、担保の残高、及び売主側の譲渡所得に係る税の負担を踏まえて条件を組み立てます。

賃貸借契約書が見当たりません。何から始めればよいですか

書面がなくても賃貸借は成立していますので、直ちに使用できなくなるわけではありません。まず、総勘定元帳と預金通帳から、いつからいくらを誰に支払ってきたかを確定し、固定資産税の課税明細書と登記事項証明書で目的物と所有者を特定します。その上で、賃貸人に対し、現在の取扱いを前提とした契約書の締結を申し入れ、期間、賃料、更新の方法、修繕の負担及び原状回復の範囲を明記した書面を、こちらから案として提示します。

前の社長から賃料を2倍にすると言われました。応じる必要がありますか

一方的な通知だけで賃料が変わるわけではありません。賃料の増額の請求は、租税の負担の増加や近隣の相場との比較において現在の額が不相当となっていることを前提としますので、まず近隣の同種の物件の相場を調べ、増額の根拠の提示を求めてください。協議が調わない場合、賃貸人は調停や訴訟によることになり、その間、賃借人は相当と認める額を支払っていれば足りるとされています。ただし、支払を止めてしまうと債務不履行を理由とする解除の主張を招きますので、支払自体は継続してください。

賃貸借契約に、株主が変わった場合は解除できると書かれていました。すぐに解除されますか

条項があることと、実際に解除が認められることとは別の問題です。まず、引き金となる事象に本件が該当するかを文言に即して検討し、次に、賃貸人が現に解除の意思表示をしているのか、条件の見直しを求める材料としているのかを見極めます。長年にわたり賃料の支払に問題がなく、賃貸人に実質的な不利益が生じていない場合には、解除の主張が権利の濫用に当たると反論できる余地もあります。もっとも、争いになれば時間と費用を要しますので、承諾料や賃料の見直しを含めた合意による解決も検討してください。

実行のときに何を決めておけばよかったのでしょうか

事業に使う土地建物が売主側の所有である場合、選択肢は二つです。一つは、株式の譲渡と同時に不動産も譲り受けることであり、最も確実な方法です。もう一つは、不動産は売主側に残したまま、実行と同時に、賃貸借契約を締結し直すことです。その際には、期間を10年から20年といった長期に定めること、期間中の賃料を固定するか改定の上限を定めること、賃貸人からの中途解約と更新拒絶を制限すること、賃貸人が第三者に売却する場合には買主に先に買い取る機会を与えること、及び支配権の異動を解除の事由としないことを、書面で明確にしておく必要があります。

原状回復の費用が想定よりはるかに大きいことが分かりました。売主に請求できますか

株式譲渡契約に、負債や偶発的な債務の不存在に関する表明保証、又は賃貸借契約に関する表明保証が置かれていれば、その違反として補償を求め得ます。もっとも、原状回復の負担は契約書に書かれている以上、デュー・ディリジェンスで確認できたはずだと反論されることが多く、開示の状況が結論を左右します。契約書の該当条項、開示の別紙、及び資料の受領の記録を整理し、補償の請求の期間内に通知を発してください。

本社の建物に根抵当権が設定されていました。競売になれば出て行くことになりますか

直ちにそうなるわけではありませんが、注意を要する状態です。建物の賃貸借は、引渡しを受けていれば新たな所有者にも主張できるのが原則ですが、抵当権の登記が賃貸借より先にされている場合には、競売による買受人に賃借権を主張できず、明渡しまでの猶予が与えられるにとどまります。まず、根抵当権の被担保債権の残高と債務者を金融機関に確認し、返済が滞る見込みがあるかを把握してください。その上で、抵当権者の同意を得て賃借権を優先させる手続の可否や、建物を買い取ることの可否を検討します。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。