通知の期限を過ぎる前に売主へ伝えるべき内容

株式を取得した後に、契約書に記載のない債務が判明いたしました。株式譲渡契約書を確認いたしますと「決済日から1年以内に書面により通知した場合に限り補償を請求することができる」と定められており、期限まで残り2か月しかありません。債務の金額はまだ確定しておらず、調査にも時間を要しそうです。金額が分からないまま通知してよいものかが分かりません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。補償の請求に関する通知は、金額が確定していなくても、期限内に行う必要があります。多くの株式譲渡契約は、期間内の通知を補償請求の要件としており、期間を徒過すると請求そのものができなくなります。他方、通知の内容が不十分であるとして争われることもありますので、契約に定められた記載事項を満たした通知を作成する必要があります。本記事では、通知の期限、記載すべき事項、方法を整理いたします。

第1節 通知の期限

 契約における定めの構造

株式譲渡契約における補償に関する条項は、次のような構造を採るのが通例です。

「買主は、売主による本契約上の表明保証の違反により買主又は対象会社に損害が生じた場合には、売主に対し、当該損害の補償を請求することができる。ただし、当該請求は、決済日から1年以内に、その内容及び根拠を合理的な範囲で特定した書面により売主に通知した場合に限り行うことができる。」

このただし書が、通知の期限を定める部分です。ここに定められた期間を徒過すると、補償の請求ができなくなります。

 期間の類型

表1 補償の請求期間の一般的な定め方

対象 期間の定め方の例 趣旨
一般の表明保証 決済日から1年から2年程度 買主が事業を運営する中で通常発見できる期間
租税に関する事項 より長期の期間又は税務上の期間に対応する定め 税務調査の時期を考慮したものです
労務に関する事項 より長期の期間を定めることがあります 賃金請求権の時効を考慮したものです
基本的な事項 期間の制限を設けない例があります 株式の所有、契約の権限等
誓約の違反 別途の期間を定めることがあります 義務の性質によります

対象となる事項ごとに期間が異なる定めが置かれていることがありますので、判明した債務がいずれの区分に当たるかを確認いたします。

 期間の起算点

「決済日から」とされているのが通例です。「買主が違反を知った日から」とされている場合には、知った時期が争点となり得ますので、発見の経緯を記録しておく必要があります。

 期間の性質

契約に定められた請求期間は、契約上の権利行使の期間を画するものです。消滅時効とは別のものであり、時効の完成猶予に関する規定(民法第147条以下)が当然に適用されるものではありません。

したがって、協議を継続していたとしても、そのことのみによって期間が延長されるとは限りません。協議の継続により期間を延長する場合には、その旨を書面により合意しておく必要があります。

第2節 通知に記載すべき事項

 契約が求める記載事項

まず、契約が通知に何を求めているかを確認いたします。

表2 契約において求められる記載事項の例

定め方 求められる内容
「その内容を通知する」 事実関係の摘示
「その内容及び根拠を特定して通知する」 事実関係及び違反する表明保証の条項
「損害の額を記載して通知する」 金額の記載(見込額でよいかを検討いたします)
「合理的な範囲で特定して」 通知の時点で判明している範囲での特定
「関係資料を添付して」 資料の添付

「合理的な範囲で特定して」という定めであれば、通知の時点で判明している事実を記載すれば足りると解されるのが通例です。他方、「損害の額を記載して」と定められている場合には、見込額であってもこれを記載しておくことが安全です。

 記載すべき事項の整理

契約の定めにかかわらず、次の事項を記載しておくことが望まれます。

表3 通知に記載する事項

項目 記載する内容
契約の特定 契約の名称、締結日、当事者、対象株式
発見した事実 いつ、どのような経緯で、何が判明したか
事実の内容 債務の相手方、発生時期、根拠となる書面
違反する条項 表明保証のいずれの項目に違反するか
損害の見込額 判明している範囲での金額(未確定である旨を付記いたします)
追加の通知 調査の進捗に応じて追加して通知する旨
資料の求め 売主に対して求める説明及び資料
回答の期限 売主からの回答を求める期日

 金額が確定していない場合の記載

金額が確定していない場合には、その旨を明記した上で、判明している範囲での見込額を記載いたします。

「現時点において判明している未払額は金○○万円ですが、調査の結果により増額する可能性があります。金額が確定した段階で改めて通知いたします。本通知は、本件に関する補償請求権の全部について行うものであり、記載した金額に限定する趣旨ではありません。」

金額を限定する趣旨ではない旨を付記しておくことにより、後に金額が増加した場合の争いを避けることができます。

 複数の事項が判明した場合

複数の事項が判明した場合には、事項ごとに区分して記載いたします。まとめて記載した場合、特定が不十分であると争われる可能性があります。

また、期間の満了が近い時点で新たな事項が判明した場合には、当該事項についても速やかに通知を行います。

第3節 通知の方法

 書面による通知

契約において「書面により」とされている場合には、書面によることを要します。電子メールが書面に当たるかについては、契約における「書面」の定義によります。定義が置かれていない場合には争いとなり得ますので、内容証明郵便によることが安全です。

内容証明郵便は、記載した内容と発送の日付が記録されますので、後に通知の内容及び時期が争われた場合の証拠となります。配達証明を付すことにより、到達の事実も記録されます。

 通知の宛先

契約に通知に関する条項(宛先、送付先、担当者)が置かれている場合には、これに従います。売主が複数である場合には、全員に対して通知を行う必要があります。

売主が転居している場合には、住民票の写し等により現住所を調査した上で送付いたします。到達しなかった場合の扱いについて契約に定めがある場合には、その定めを確認いたします。

 通知の時期

期限の直前に通知を行うことは避けるべきです。到達しなかった場合の再送の時間を確保する必要があるためです。また、契約において「到達した日」を基準とする定めが置かれている場合には、発送の日ではなく到達の日が基準となります。

第4節 通知を行った後の進め方

 調査の継続

通知を行った後、債務の内容及び金額の調査を継続いたします。調査すべき事項としては、債務の法的な成否、金額、発生の時期、対象会社が現に負担することとなるかが挙げられます。

判明した債務が、そもそも法的に有効に成立していない場合があります。まず債務の存否を検討することが、損害を減らすことにつながります。

 損失の軽減

契約において、買主が損害の拡大を防ぐ義務を負う旨の定めが置かれていることがあります。判明した債務について、その拡大を防ぐための措置を採る必要があります。措置の内容と費用は、記録しておきます。

 第三者からの請求への対応

第三者から対象会社に対して請求がされている場合、契約において、その対応について売主が関与できる手続が定められていることがあります。売主への通知、対応方針の協議、和解に際しての売主の同意といった手続です。

この手続を経ずに和解した場合、補償の請求が制限される定めが置かれていることがあります。第三者との交渉を進める前に、契約の定めを確認する必要があります。

 売主との協議

売主から回答があった場合には、その内容を検討いたします。売主が事実を争う場合、開示別紙への記載を主張する場合、限定の要件を満たさないと主張する場合が考えられます。

協議が長期に及ぶ場合には、契約上の請求期間との関係を確認いたします。期間内に通知を行っていれば、その後の協議によって権利が失われるものではないのが通例ですが、契約の定めを確認する必要があります。

 消滅時効

契約上の請求期間内に通知を行った場合であっても、補償請求権について消滅時効が進行いたします。債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅いたします(民法第166条第1項)。協議が長期に及ぶ場合には、時効の完成猶予についても検討する必要があります。

協議を行う旨の合意が書面によってされたときは、一定の期間、時効は完成しないとされています(民法第151条)。この制度を用いることも考えられます。

 通知を行うことによる影響

通知を行うことにより、売主との関係が悪化することを懸念されることがあります。とりわけ、売主が譲渡後も顧問等として対象会社に関与している場合には、その懸念が生じやすいものです。

もっとも、通知は権利を保全するための手続であり、直ちに責任を追及する趣旨のものではありません。通知の書面において、事実関係の確認と協議を求める趣旨である旨を付記することにより、無用な対立を避けることが考えられます。

他方、期限を徒過すれば権利そのものが失われます。関係への配慮を理由として通知を行わないという選択は、適切ではありません。

第5節 弁護士に相談する意味

補償の通知に関して弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、契約書の補償条項を確認し、請求期間、通知の要件、記載すべき事項を特定することです。第二に、通知の書面を作成し、後に特定が不十分であると争われないようにすることです。第三に、判明した債務の法的な性質を検討し、対象会社が負担すべき債務であるかを確認することです。第四に、通知後の協議の進め方と、時効の管理を行うことです。

通知は、形式的な手続に見えますが、これを怠ると請求そのものができなくなります。期限が迫っている場合には、まず通知を行い、内容の詳細は後から補うという順序で進めることになります。

具体的な請求の進め方は、債務の内容、契約の定め、売主の対応等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 金額が分からないまま通知してよいのですか。

期限を徒過するよりも、判明している範囲で通知を行う方が適切です。金額が未確定である旨と、確定後に改めて通知する旨を付記いたします。契約が金額の記載を求めている場合には、見込額を記載いたします。

質問2 電子メールで通知してもよいですか。

契約における「書面」の定義によります。定義が置かれていない場合には争いとなり得ますので、内容証明郵便によることをお勧めいたします。電子メールで先に連絡した上で、書面を送付する方法もあります。

質問3 売主と話合いを続けています。期限は延びますか。

当然には延びません。契約に定められた請求期間は、協議の継続によって当然に延長されるものではありません。期間内に通知を行った上で協議を継続するか、期間を延長する旨を書面により合意する必要があります。

質問4 期限を過ぎてしまいました。もう請求できませんか。

契約上の補償の請求はできなくなるのが通例です。もっとも、不法行為に基づく請求(民法第709条)、詐欺又は錯誤による取消し(民法第96条、第95条)といった主張の余地が残る場合があります。事実関係を確認した上で検討いたします。

質問5 通知した後、いつまでに訴訟を提起すればよいですか。

契約に別段の定めがない限り、通知により補償請求権の行使の要件を満たした後は、消滅時効の期間内に権利を行使することになります(民法第166条第1項)。協議が長期に及ぶ場合には、時効の完成猶予について検討いたします。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、株式譲渡契約に基づく補償の請求に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、株式譲渡契約書、開示別紙、判明した事実に関する資料、売主とのやり取りの記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。期限が迫っている場合には、その旨をお申し出ください。

結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第95条(錯誤)、第96条第1項(詐欺)、第126条(取消権の期間の制限)、第147条以下(時効の完成猶予及び更新)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権の消滅時効)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第709条(不法行為)、第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

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