決算書に載っていない買掛金が出てきた場合の初動

会社の株式を取得いたしました後、経理を確認しておりましたところ、決算書に計上されていない買掛金が複数見付かりました。取引先からは「前の社長の了解を得ていた」と説明されておりますが、対象会社の帳簿には記載がありません。金額は決して小さくなく、支払を求められております。まず何をすればよいのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。この場合の初動は、第一に売主に対する通知の期限を確認して権利を保全すること、第二に債務の存否そのものを検証すること、第三に取引先に対する対応を定めることの3つです。中でも、契約上の請求期間は短いことが少なくありませんので、事実の調査を待たずに、まず通知を行うことが重要です。本記事では、着手すべき事項を順に整理いたします。

第1節 初動の3つの柱

 優先順位

表1 初動において行う事項

順序 事項 理由
第1 契約上の請求期間の確認 期間を徒過すると請求できなくなります
第2 売主に対する通知 額が確定していなくても行います
第3 債務の存否の検証 そもそも支払を要しない場合があります
第4 取引先への対応の方針 直ちに支払わないことが基本です
第5 同種の債務の洗い出し 他にも存在する可能性があります

 まず期間を確認いたします

株式譲渡契約における補償の請求期間を確認いたします。決済日から1年から2年程度とされているのが通例です。

期間が既に迫っている場合には、他の作業に先立って通知を行います。

 調査を待たないこと

債務の存否や金額の調査には時間を要します。調査の完了を待って通知を行おうといたしますと、期間を徒過するおそれがあります。

額が確定していない場合であっても、判明している範囲で通知を行い、確定後に改めて通知する旨を付記いたします。

第2節 売主に対する通知

 記載すべき事項

通知には、契約の特定、発見した事実、事実の内容、違反する条項、損害の見込額、追加して通知する旨、売主に求める説明及び資料、回答の期限を記載いたします。

 金額が確定していない場合

「現時点において判明している未計上の買掛金は金○○万円ですが、調査の結果により増額する可能性があります。金額が確定した段階で改めて通知いたします。本通知は、本件に関する補償請求権の全部について行うものであり、記載した金額に限定する趣旨ではありません。」

 方法

契約に定められた方法によります。定めがない場合には、内容証明郵便に配達証明を付して送付することが考えられます。内容と到達の日を記録に残すためです。

 売主への照会

あわせて、売主に対し、当該取引の経緯、了解の有無、他に同種の取引がないかについて説明を求めます。回答の内容自体が、後の手続における資料となります。

第3節 債務の存否の検証

 まず存否を検討いたします

取引先が請求しているからといって、対象会社が当然に支払義務を負うものではありません。まず、債務が法的に有効に成立しているかを検証いたします。

 確認すべき事項

表2 債務の存否の検証において確認する事項

項目 確認の内容
契約書の有無 取引の根拠となる書面が存在するか
注文及び納品の記録 現実に給付がされているか
検収の記録 対象会社が受領を確認しているか
権限の有無 発注した者に権限があったか
会社法上の手続 多額の取引について必要な決議を経ているか
利益が相反する取引 前の経営者の関係する会社との取引か
消滅時効 時効が完成していないか
相殺の可否 対象会社が有する債権はないか

 現実の給付があったか

納品書、受領書、検収の記録、在庫の記録、業務の記録から、現実に給付が行われたかを確認いたします。給付がされていない場合には、支払を要しません。

帳簿に計上されていない取引については、給付そのものが行われていない可能性も考慮する必要があります。

 権限のない者による発注

発注した者に代表権又は代理権がなかった場合には、対象会社が責任を負わない余地があります。もっとも、相手方が権限があると信じたことについて正当な理由がある場合には、責任を負うことがあります(民法第109条、第110条、会社法第354条)。

 利益が相反する取引

前の経営者又はその関係者が支配する会社との取引である場合には、取締役の利益が相反する取引に関する規制が適用される場面があります(会社法第356条第1項第2号及び第3号、第365条第1項)。

必要な承認を経ていない場合には、その効力を争う余地があります。

 消滅時効

古い取引に関する債務については、消滅時効が完成している可能性があります。債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅いたします(民法第166条第1項第1号)。

第4節 取引先への対応

 直ちに支払わないこと

支払いますと、債務の存在を認めたものと評価される余地があります。検証を経るまでは、支払を留保することが基本です。

 書面による回答

取引先に対しては、事実関係を確認している旨を書面により回答いたします。あわせて、契約書、注文書、納品書、検収の記録の提出を求めます。

取引先が資料を提出できない場合には、債務の存在について疑義が生じます。

 取引関係への配慮

当該取引先との取引を継続する必要がある場合には、対応に配慮が必要です。もっとも、根拠が明らかでない請求に応じることは、他の同種の請求を招く原因となります。

事実関係の確認を求める趣旨である旨を明確にし、取引そのものを否定するものではないことを伝えることが考えられます。

 支払う場合の留保

取引関係の維持のためにやむを得ず支払う場合には、売主に対する補償の請求を留保する旨を明記した上で行います。また、契約において、売主の同意を要する旨の定めが置かれていないかを確認いたします。

第5節 同種の債務の洗い出し

 他にも存在する可能性

一件が判明した場合、同種の債務が他にも存在する可能性があります。帳簿に計上されない取引が行われていた背景を確認する必要があります。

 調査の方法

取引先の一覧と帳簿の記載を対照する、過去の入出金の記録を確認する、倉庫及び在庫の実地の確認を行う、従業員から聴取するといった方法が考えられます。

経理を担当していた従業員が対象会社に残っている場合には、その者からの聴取が有効です。

 まとめて通知いたします

調査により他の債務が判明した場合には、それぞれについて売主に通知いたします。事項ごとに区分して記載する必要があります。まとめて記載した場合、特定が不十分であると争われる可能性があります。

 下限額の定めとの関係

契約において、一定の額を超える損害についてのみ補償を請求できる旨が定められている場合には、個別の債務の額と、合計の額のいずれによるかを確認いたします。

一件ごとの額が小さくても、合計により要件を満たす定めとなっていることがあります。

第6節 弁護士に相談する意味

この類型について弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、契約上の請求期間を確認し、期限内に要件を満たす通知を作成することです。第二に、判明した債務の法的な存否を検証し、支払を要するかを判断することです。第三に、取引先に対する回答の書面を作成し、資料の提出を求めることです。第四に、同種の債務の調査について助言することです。第五に、売主との協議を進めることです。

この類型においては、通知の期限を徒過しないことが第一です。調査の完了を待たずに、まず通知を行うという順序で進めることが重要です。

なお、会計処理及び税務に関する事項は、公認会計士又は税理士の業務に属します。当事務所は、これらの業務を行うものではなく、必要に応じてこれらの専門家と連携して検討いたします。

具体的な検証及び対応の方針は、取引の内容、資料の状況、契約の定め等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 まず何をすべきですか。

契約上の補償の請求期間を確認し、期限内に売主へ通知を行うことです。金額が確定していない場合であっても、判明している範囲で通知を行い、確定後に改めて通知する旨を付記いたします。

質問2 取引先に支払わなければなりませんか。

直ちに支払う必要はありません。まず、債務が法的に有効に成立しているかを検証いたします。契約書、注文書、納品書、検収の記録の提出を求め、現実に給付がされたかを確認いたします。

質問3 前の社長が了解していたと言われました。

前の経営者の了解があったとしても、それが対象会社を拘束する行為であったかを検討いたします。権限の有無、会社法上必要な手続の有無、利益が相反する取引に当たるかを確認いたします。

質問4 金額がまだ分かりません。通知できますか。

できます。金額が未確定である旨を明記した上で、判明している範囲での見込額を記載いたします。あわせて、記載した金額に限定する趣旨ではない旨を付記しておきます。

質問5 他にもあるかもしれません。

一件が判明した場合、同種の債務が他にも存在する可能性があります。取引先の一覧と帳簿の対照、過去の入出金の記録の確認、従業員からの聴取により調査いたします。判明した場合には、それぞれについて売主に通知いたします。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、譲受け後に判明した簿外の債務に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、株式譲渡契約書、開示別紙、取引先からの請求の書面、対象会社の帳簿及び計算書類、取引に関する記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。契約上の請求期間が迫っている場合には、その旨をお申し出ください。

弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第109条(代理権授与の表示による表見代理)、第110条(権限外の行為の表見代理)、第166条第1項(債権の消滅時効)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第505条第1項(相殺)

会社法 第354条(表見代表取締役)、第356条第1項(競業及び利益相反取引の制限)、第362条第4項(重要な業務執行の決定)、第365条第1項(取締役会設置会社における承認)、第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)

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