保証債務及び係争が後から判明した場合の評価

会社の株式を取得いたしましたところ、対象会社が取引先の借入れについて連帯保証をしていたこと、及び従業員との間で係争が続いていたことが判明いたしました。いずれも株式譲渡契約の開示別紙には記載がありません。もっとも、主債務者は現在のところ返済を続けており、係争も判決には至っておりません。現実に支払が生じていない段階で、売主に対して補償を請求することができるのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。保証債務及び係争は、現実の支出が生じる前の段階では損害の額が確定しないため、補償の請求において額の評価が難しい類型です。他方、契約上の請求期間は進行いたしますので、額が確定していなくても期限内に通知を行う必要があります。実務上は、通知により権利を保全した上で、額の確定を待って請求するか、確定前の段階で一定の額により和解するかを選択することになります。本記事では、評価の考え方と手順を整理いたします。
第1節 この類型の特徴
現実化していない債務
保証債務は、主債務者が履行しない場合に初めて現実の負担となります。係争は、判決又は和解により初めて負担の額が定まります。いずれも、判明した時点では、将来において負担が生じる可能性があるにとどまります。
補償の請求における問題
表1 この類型において問題となる点
| 問題 | 内容 |
|---|---|
| 損害の発生時期 | 現実の支出がない段階で損害が生じているか |
| 損害の額 | 将来の負担をどのように評価するか |
| 請求期間との関係 | 額の確定を待つと期間を徒過するおそれ |
| 下限額の要件 | 一定額を超える損害に限る旨の定めとの関係 |
| 重複の回避 | 後に現実化した場合の請求との関係 |
まず通知を行います
いずれの問題も、通知を行った後に検討すれば足ります。契約上の請求期間は、額が確定していないことを理由として進行を止めるものではありません。判明した時点で、速やかに通知を行うことが第一となります。
第2節 保証債務が判明した場合
事実の確定
まず、保証の内容を確定いたします。保証契約書、主債務に関する契約書、担保の設定に関する書面、主債務者の返済の状況に関する資料を収集いたします。
表2 保証債務について確認する事項
| 項目 | 確認の内容 |
|---|---|
| 保証の種類 | 連帯保証か、通常の保証か |
| 極度額 | 根保証である場合の極度額の定め |
| 主債務の残額 | 現在の残額及び返済の予定 |
| 主債務者の状況 | 事業の状況及び返済の履行の状況 |
| 担保 | 物的担保及び他の保証人の有無 |
| 求償の見込み | 主債務者に対する求償が可能か |
| 締結の経緯 | 誰の判断により締結されたか |
保証の効力そのものの検討
保証契約は、書面でしなければ効力を生じないとされております(民法第446条第2項)。書面が存在しない場合には、保証の効力そのものを争う余地があります。
また、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする根保証契約であって、保証人が法人でないものは、極度額を定めなければ効力を生じないとされております(民法第465条の2第2項)。対象会社が法人である場合には、この規定は適用されませんが、保証の範囲の解釈が問題となり得ます。
さらに、多額の借財に該当する行為について取締役会の決議を経ていない場合の効力が問題となることがあります(会社法第362条第4項第2号)。決議の有無を、議事録により確認いたします。
損害の評価
保証債務が判明したことによる損害をどのように評価するかについては、次の考え方があります。
第一に、現実に保証債務を履行した時点で、その額を損害とする考え方です。最も争いが少ない一方、履行の時期が遠い場合には請求期間との関係が問題となります。
第二に、主債務者の状況に照らして負担が生じる蓋然性を評価し、その程度に応じた額を損害とする考え方です。もっとも、蓋然性の評価は困難であり、当事者間で見解が分かれます。
第三に、保証を解消するために要する費用を損害とする考え方です。金融機関に対して保証人の交替を求め、これに応じてもらうために担保の提供等が必要となる場合には、その費用を算定することが考えられます。
求償の可能性
保証債務を履行した場合には、主債務者に対して求償することができます(民法第459条第1項、第462条)。求償により回収できる見込みがある場合には、その分だけ損害が減少いたします。
したがって、主債務者の資力についても確認する必要があります。
第3節 係争が判明した場合
事実の確定
訴訟が係属している場合には、訴状、答弁書、準備書面、証拠、期日の経過を確認いたします。訴訟に至っていない場合には、相手方からの請求の書面、交渉の記録を確認いたします。
見通しの検討
表3 係争について検討する事項
| 項目 | 検討の内容 |
|---|---|
| 請求の内容 | 請求の趣旨及び請求の額 |
| 争点 | 事実に関する争点及び法律上の争点 |
| 証拠の状況 | 対象会社に有利な証拠の有無 |
| 手続の段階 | 訴訟の進行の程度 |
| 解決の見込み | 和解の可能性及び想定される水準 |
| 費用 | 訴訟の追行に要する費用 |
| 保険 | 賠償責任保険の適用の有無 |
損害の評価
係争についても、判決又は和解により負担の額が確定した時点でその額を損害とする考え方が基本となります。あわせて、訴訟の追行に要した費用についても、契約における損害の定義に含まれるかを確認いたします。
契約において、損害に弁護士費用を含む旨が定められている場合と、含まれない場合とがあります。この点は、契約の定義規定を確認いたします。
訴訟の追行と売主の関与
契約において、第三者からの請求について売主が関与できる手続が定められていることがあります。売主への通知、対応方針の協議、和解に際しての売主の同意といった手続です。
この手続を経ずに和解した場合、補償の請求が制限される旨の定めが置かれていることがあります。係争の処理を進める前に、契約の定めを確認する必要があります。
第4節 通知と請求の進め方
期限内の通知
契約に定められた請求期間内に、書面により通知を行います。額が確定していない場合には、その旨を明記した上で、判明している範囲での見込額を記載いたします。
また、記載した金額に請求を限定する趣旨ではない旨を付記しておきます。後に額が増加した場合の争いを避けるためです。
保証債務についての記載
「対象会社は、〇〇株式会社の△△銀行に対する借入金債務について連帯保証をしております。本件保証は、本契約の開示別紙に記載されておりません。現時点において主債務者の返済は継続しておりますが、対象会社が将来において保証債務を履行する可能性があります。本通知は、本件保証に関する補償請求権の全部について行うものであり、現時点の見込額に限定する趣旨ではありません。」
係争についての記載
係争についても、事案の内容、請求の額、現在の手続の段階を記載した上で、判決又は和解により額が確定した段階で改めて通知する旨を付記いたします。
下限額の定めとの関係
契約において、一定の額を超える損害についてのみ補償を請求できる旨が定められていることがあります。額が確定していない段階では、この要件を満たすかが明らかでない場合があります。
この場合であっても、通知は行っておきます。要件を満たさないことが後に判明したとしても、通知を行ったことによる不利益は生じないのが通例です。
第5節 解決の方法
確定を待つ方法
通知により権利を保全した上で、保証債務の履行又は係争の解決を待って、確定した額を請求する方法です。額が明確となる利点がありますが、解決までに長期を要すること、その間に売主の資力が変動することが難点となります。
一定の額により和解する方法
額が確定する前の段階で、見込みに基づく一定の額により売主との間で和解する方法です。早期に解決できる利点がありますが、後に負担が想定を超えた場合にも追加の請求ができなくなります。
和解に際しては、対象とする事項の範囲を明確にいたします。他の事項に関する請求まで放棄する内容となっていないかを確認する必要があります。
将来の負担に応じた支払を定める方法
現実に負担が生じた場合に、その額を売主が支払う旨を合意する方法です。額の評価をめぐる争いを避けることができます。他方、支払の時期が将来となりますので、売主の資力を確保する手当てが必要となります。
保証の解消を求める方法
保証債務については、金銭の支払に代えて、売主が保証人となることや、金融機関との交渉により対象会社を保証人から外すことを求めることが考えられます。事業の実態に即した解決となる場合があります。
第6節 弁護士に相談する意味
この類型について弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、保証及び係争の内容を確定し、その効力及び見通しを検討することです。第二に、契約上の請求期間内に、額が確定していない事項についても要件を満たす通知を作成することです。第三に、損害の評価の方法について、契約の定義規定に即して主張を組み立てることです。第四に、第三者からの請求に関する手続の定めを確認し、売主への通知及び協議を適切に行うことです。第五に、確定を待つか和解するかの方針を、売主の資力を踏まえて検討することです。
この類型は、額が確定していないことを理由に対応を先送りしがちですが、請求期間は進行いたします。判明した時点で通知を行うことが最も重要です。
具体的な評価の方法及び交渉の進め方は、保証及び係争の内容、契約の定め、売主の資力等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 まだ支払っていないのに請求できますか。
現実の支出がない段階では、損害が発生していないとの反論がされることがあります。もっとも、契約上の請求期間は進行いたしますので、額が確定していなくても期限内に通知を行う必要があります。請求の時期と通知の時期は、区別して考えます。
質問2 保証債務の額をどのように見積もればよいですか。
主債務の残額、主債務者の返済の状況、担保の有無、求償の見込みを踏まえて検討いたします。確定的な評価は困難ですので、通知においては見込額である旨を明記した上で記載いたします。
質問3 係争について売主に知らせる必要がありますか。
契約において、第三者からの請求について売主に通知し、対応方針を協議する手続が定められていることがあります。この手続を経ずに和解した場合、補償が制限される定めが置かれていることがありますので、契約の定めを確認する必要があります。
質問4 保証の効力そのものを争えますか。
保証契約は書面でしなければ効力を生じないとされております(民法第446条第2項)。書面が存在しない場合や、会社法上必要な手続が経られていない場合には、効力を争う余地があります。事実関係を確認した上で検討いたします。
質問5 和解して解決した後に、想定を超える負担が生じた場合はどうなりますか。
和解の内容によります。対象とした事項について一切の請求を放棄する内容であれば、追加の請求は困難となるのが通例です。和解に際しては、対象とする事項の範囲と、将来の負担の扱いを明確に定める必要があります。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、譲受け後に判明した保証債務及び係争に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、株式譲渡契約書、開示別紙、保証契約書、係争に関する書面、対象会社の計算書類をご用意いただけますと、検討が早く進みます。契約上の請求期間が迫っている場合には、その旨をお申し出ください。
弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第446条(保証人の責任等)、第459条第1項(委託を受けた保証人の求償権)、第462条(委託を受けない保証人の求償権)、第465条の2(個人根保証契約の極度額)、第166条第1項(債権の消滅時効)
会社法 第362条第4項第2号(多額の借財)、第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
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