取引先が会社分割で事業を移した場合に債権者が採り得る手段

長年取引をしてまいりました会社に対して、多額の売掛金があります。ところが、当該会社が会社分割を行い、事業と主要な資産を新たに設立した会社に移してしまいました。当社の債権は、元の会社に残されたままです。元の会社には資産がほとんど残っておらず、回収の見込みが立ちません。取引先からは「法律に従った手続である」と説明されております。何か手段はないのでしょうか。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。会社分割により債権者が害された場合には、会社法に、承継した会社に対して直接に履行を請求することができる旨の規定が設けられております。あわせて、詐害行為取消権の行使、債権者異議手続の瑕疵に関する主張、商号を続用している場合の責任という手段が考えられます。いずれも期間の制限がありますので、速やかな検討が必要です。本記事では、採り得る手段を順に整理いたします。

第1節 会社分割の仕組みと問題の所在

 会社分割とは

会社分割は、会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、他の会社に承継させる組織再編の手続です。既存の会社に承継させる吸収分割と、新たに設立する会社に承継させる新設分割とがあります。

 債権者にとっての問題

会社分割においては、いずれの権利義務を承継させるかを、分割の計画又は契約により定めます。したがって、収益を生む事業と資産を新会社に移し、債務の一部を元の会社に残すことが、形式上は可能となります。

この場合、元の会社に残された債権者は、資産のない会社に対する債権のみを有することとなります。

 債権者異議手続

会社分割においては、一定の債権者について、異議を述べることができる手続が定められております(会社法第789条、第810条)。もっとも、分割後も元の会社に対して債務の履行を請求することができる債権者については、この手続の対象とされない場合があります。

このため、債権者が知らない間に分割が行われていることがあります。

 まず事実を確認いたします

表1 確認すべき事項

事項 確認の方法
分割の有無及び時期 登記事項証明書
新会社の概要 登記事項証明書(設立の時期、役員、目的)
承継された事業 公告、取引先への通知、対外的な表示
元の会社に残る資産 計算書類、登記された不動産
公告の有無 官報、電子公告
催告の有無 自社に対する通知の有無
役員の重複 両社の登記事項証明書の対照

第2節 第一の手段 承継した会社に対する直接の請求

 規定の内容

吸収分割会社が、吸収分割承継会社に承継されない債務の債権者を害することを知って吸収分割をした場合には、当該債権者は、吸収分割承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができるとされております(会社法第759条第4項)。

新設分割についても、同様の規定が設けられております(会社法第764条第4項)。

 要件

第一に、債権者が、承継されない債務の債権者であること、すなわち元の会社に残された債権者であることです。

第二に、分割会社が、当該債権者を害することを知って分割をしたことです。分割の前後における資産と負債の状況、分割の目的、時期から判断されることとなります。

第三に、吸収分割の場合には、承継会社が分割の効力が生じた時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでないとされております。

 請求することができる範囲

承継した財産の価額を限度として、債務の履行を請求することができます。承継された財産の価額を超える請求はできません。

承継された財産の価額は、分割の計画又は契約、分割の際の計算書類から確認いたします。

 期間の制限

この規定による請求をする権利は、債権者が請求をすることができることを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしない場合には、消滅するとされております。分割の効力が生じた日から20年を経過したときも、同様とされております(会社法第759条第6項、第764条第6項)。

この期間は短いものです。分割を知った段階で、速やかに請求を行う必要があります。

 利点

この規定による請求は、裁判所の手続を経ることなく、直接に承継会社に対して行うことができる点に利点があります。詐害行為取消権と比べて、手続の負担が小さいものです。

第3節 第二の手段 詐害行為取消権

 規定の内容

債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができるとされております(民法第424条第1項)。ただし、その行為によって利益を受けた者がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでないとされております。

 会社分割への適用

会社分割が、この規定による取消しの対象となるかについては議論がありましたが、対象となり得ると解されております。

もっとも、会社法に前記の規定が設けられたことにより、実務上は、まず会社法の規定による請求を検討することが多いものです。

 要件

債権者を害する行為であること、債務者が債権者を害することを知っていたこと、受益者も知っていたことが必要となります。また、被保全債権が行為の前の原因に基づいて生じたものであることを要します(民法第424条第3項)。

 期間の制限

詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することができません。行為の時から10年を経過したときも、同様とされております(民法第426条)。

 手続

この権利は、裁判所に請求することにより行使いたします。書面による請求のみでは足りません。この点が、会社法の規定による請求との相違です。

第4節 第三の手段 債権者異議手続の瑕疵

 手続の内容

会社分割においては、一定の債権者に対して、公告をし、かつ、知れている債権者には各別に催告をしなければならないとされております(会社法第789条第2項、第810条第2項)。

ただし、公告を官報のほか定款に定めた日刊新聞紙又は電子公告により行った場合には、各別の催告を要しないとされる場面があります(同条第3項)。

 催告を受けなかった債権者

各別の催告を要する場合において、催告を受けなかった債権者については、分割後も元の会社及び承継会社の双方に対して債務の履行を請求することができるとされる場面が定められております(会社法第759条第2項及び第3項、第764条第2項及び第3項)。

自社が知れている債権者であったにもかかわらず催告を受けていない場合には、この点を主張することが考えられます。

 確認すべき事項

公告がされた媒体、公告の日、自社に対する催告の有無、分割会社の定款における公告の方法を確認いたします。

官報については、過去の掲載を調べることができます。定款の定めについては、登記事項証明書により公告の方法を確認することができます。

 無効の訴え

会社分割の手続に重大な瑕疵がある場合には、その無効を訴えにより主張することが考えられます(会社法第828条第1項第9号及び第10号)。もっとも、提訴の期間が効力が生じた日から6箇月以内とされており、また提訴することができる者の範囲も限られております。

第5節 第四の手段 商号を続用している場合

 事業譲渡に関する規定

事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うとされております(会社法第22条第1項)。

 会社分割への適用

この規定が会社分割の場合にも類推して適用されるかについては議論がありますが、これを認めた裁判例があります。新会社が元の会社と同一又は類似の商号を用いている場合には、この主張を検討することが考えられます。

 商号が異なる場合

商号が異なる場合であっても、屋号、店舗の名称、取引上の表示が同一であり、取引の相手方が同一の事業主体であると誤認するおそれがある場合には、なお主張の余地があるとの議論があります。

 債務を引き受ける旨の広告

事業を譲り受けた会社が、譲渡会社の債務を引き受ける旨の広告をした場合には、債権者は、その譲受会社に対して弁済の請求をすることができるとされております(会社法第23条第1項)。

新会社が取引先に対して「従前の取引を引き継ぐ」旨の通知を行っている場合には、その内容を確認いたします。

第6節 進め方

 速やかな着手

いずれの手段についても、期間の制限があります。とりわけ、会社法の規定による請求は、知った時から2年とされております。分割を知った段階で、速やかに検討を始める必要があります。

 書面による請求

まず、新会社に対して、書面により履行を請求いたします。書面には、債権の内容、根拠となる規定、請求する金額、支払の期限を記載いたします。

内容証明郵便に配達証明を付すことにより、請求の内容と時期を記録に残すことができます。会社法の規定による請求については、期間内に請求したことを示す資料となります。

 保全

新会社が承継した財産をさらに処分するおそれがある場合には、仮差押えを検討いたします(民事保全法第20条第1項)。

 元の会社に対する請求

元の会社に対する請求も、併せて行います。元の会社に残された資産がある場合には、これに対する執行を検討いたします。

 役員に対する責任の追及

分割を主導した役員について、第三者に対する責任が問題となり得ます(会社法第429条第1項)。もっとも、任務懈怠並びに悪意又は重大な過失を主張し、立証する必要があり、容易ではありません。

 倒産手続との関係

元の会社について破産手続等が開始された場合には、管財人により否認権が行使されることがあります。この場合には、個別の債権者による請求との関係を整理する必要があります。

第7節 平時における備え

 取引先の状況の把握

取引先の登記事項証明書を定期的に確認することにより、組織再編の動きを早期に把握することができます。目的の変更、役員の異動、本店の移転も、兆候となることがあります。

 契約における定め

継続的な取引に関する基本契約において、組織再編を行う場合の事前の通知、支配権の異動があった場合の取扱い、期限の利益の喪失に関する定めを置いておくことが考えられます。

 担保の確保

債権の額が大きい場合には、担保の設定又は保証を求めることを検討いたします。担保が設定されている場合には、会社分割による影響を受けにくくなります。

第8節 弁護士に相談する意味

この類型について弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、登記事項証明書等により分割の事実と内容を確認することです。第二に、会社法の規定による直接の請求の要件を検討し、期間内に請求を行うことです。第三に、公告及び催告の状況を確認し、債権者異議手続の瑕疵に関する主張を検討することです。第四に、商号の続用に関する責任の有無を検討することです。第五に、保全の手続及び訴訟を進めることです。

この類型においては、期間の制限が短いことが最大の課題です。分割の事実を知った段階で、速やかに請求を行うことが重要です。

具体的な手段の選択及び主張の組み立ては、分割の内容、承継された財産の状況、公告及び催告の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 会社分割は法律に従った手続なのだから仕方がないのですか。

そうではありません。債権者を害することを知って分割をした場合には、承継した会社に対して、承継した財産の価額を限度として直接に履行を請求することができる旨の規定が設けられております(会社法第759条第4項、第764条第4項)。

質問2 いつまでに請求すればよいですか。

会社法の規定による請求をする権利は、請求をすることができることを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしない場合には、消滅するとされております。分割を知った段階で速やかに請求を行う必要があります。

質問3 公告を見ていませんでした。

各別の催告を要する場合において、知れている債権者であるにもかかわらず催告を受けていないときは、分割後も双方の会社に対して履行を請求することができるとされる場面があります。公告の方法と催告の有無を確認いたします。

質問4 新会社の名前が元の会社とよく似ています。

商号を続用している場合の責任に関する規定が、会社分割にも類推して適用されるかについては議論がありますが、これを認めた裁判例があります。商号の同一性の程度と、取引の相手方の誤認のおそれを検討いたします。

質問5 どこまで請求できますか。

会社法の規定による請求は、承継した財産の価額を限度といたします。承継された財産の価額は、分割の計画又は契約、分割の際の計算書類から確認いたします。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、会社分割による債務逃れへの対応に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、取引に関する契約書、請求書及び納品の記録、取引先及び新会社の登記事項証明書、取引先からの通知、公告に関する資料をご用意いただけますと、検討が早く進みます。分割を知った時期が分かる資料もお持ちください。

弁護士費用は、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

会社法 第22条第1項(譲受会社による商号の続用)、第23条第1項(債務の引受けの広告)、第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)、第759条第2項から第6項まで(吸収分割の効果)、第764条第2項から第6項まで(新設分割の効果)、第789条(吸収分割における債権者の異議)、第810条(新設分割における債権者の異議)、第828条第1項第9号及び第10号(会社分割の無効の訴え)

民法 第166条第1項(債権の消滅時効)、第424条(詐害行為取消請求)、第426条(詐害行為取消権の期間の制限)

民事保全法 第20条第1項(仮差押命令の要件)

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