M&Aで合意した役員退職慰労金を支払ってもらえない場合の対応

この記事の位置付け

合意した役員退職慰労金の未払に関するメインのページです。本ページは、譲渡の後に支給が滞った場面で、株主総会の決議と契約上の約束を確かめる手順をご説明します。支給の仕組みは別のページをご参照ください。

支給し得る金額の限度、功績倍率法及び税務上の取扱いといった支給の設計そのものはM&Aの際に支給できる役員退職慰労金で、役員報酬が支払われない場面は会社売却後の役員報酬を買主から支払ってもらえない場合の対処で、それぞれ述べております。

長年経営してきた会社の株式を譲渡し、代表取締役を退任した。交渉の過程では、株式の代金とは別に役員退職慰労金を支給するという話になっており、そのつもりで退任の手続にも応じた。ところが、実行の日から数か月が過ぎても振込みがない。対象会社の経理に尋ねますと「新しい株主から指示が出ていない」と言われ、買主に尋ねますと「それは会社が決めることだ」と言われる。中小企業のM&Aの後に、このようなご相談が寄せられることは少なくありません。

この場面で最も困惑されるのは、話が行き来するばかりで、誰が支払う立場なのかがはっきりしない点です。株式の譲渡代金は買主が支払うものですから、その延長で役員退職慰労金も買主が支払うものと受け止めておられる方が多くいらっしゃいます。しかし、役員退職慰労金は、役員が会社に対して職務を行ったことの対価として会社から受け取るものであり、支払義務を負うのは買主ではなく、ご自身が経営していた対象会社です。この切り分けをしておきませんと、請求書の宛先から誤ることになります。

他方で、買主に何も言えないわけでもありません。株式譲渡契約の中に、買主が対象会社に支給させることを約束した条項が置かれていることが多く、その場合には買主に対する請求が別の形で成り立ちます。本稿では、株式譲渡契約上の約束、株主総会の決議、及び役員退職慰労金規程という3つの書類を照合しながら、誰に対して何を請求するのかを確定し、回収に向けてどう動くかを整理します。

Contents
  1. M&Aにおける役員退職慰労金の位置付け
    1. 譲渡対価の一部を役員退職慰労金の形で支払う建て付け
    2. 支払義務を負うのは対象会社であって買主ではありません
    3. もっとも、買主に対する請求が成り立つ場合があります
    4. 照合すべき3つの書類
  2. 株主総会の決議があるか
    1. 決議がなければ具体的な請求権は発生しないのが原則です
    2. 一任決議の形をとっている場合
    3. 議事録をどのように入手するか
    4. 決議がされていなかった場合に採り得る道
  3. 株式譲渡契約における約束の内容
    1. 条項の主語を読む
    2. 実行の前提条件に組み込まれていたか
    3. 支給の時期、方法及び条件の定め
    4. 買主による保証、留保金及び相殺の条項
  4. 金額はどのように算定されているか
    1. 役員退職慰労金規程を確認する
    2. 規程がない場合、規程と合意額が異なる場合
    3. 税金の取扱いは請求額を確定するために必要な限度で
  5. 買主が支給を拒む理由と、その当否
    1. 株主総会の決議がないから会社としては支払えないという言い分
    2. 表明保証に違反があったので相殺するという言い分
    3. 業績が悪化した、資金繰りが厳しいという言い分
    4. 引継ぎが不十分であった、競業避止の約束に反しているという言い分
  6. 請求及び訴訟の進め方
    1. 資料をそろえる
    2. 相手方を確定して請求書を送る
    3. 時効に注意する
    4. 保全及び訴訟
  7. よくあるご質問
    1. 譲渡代金は全額受け取っています。それでも役員退職慰労金を請求できますか
    2. 買主に直接請求してよいでしょうか
    3. 株主総会の議事録が手元にありません。どうすれば確認できますか
    4. 株主総会の決議がされていないと言われました。もう請求できないのでしょうか
    5. 表明保証に違反があったので相殺すると言われました。応じるべきでしょうか
    6. 対象会社にお金がないと言われています。どうすればよいでしょうか

M&Aにおける役員退職慰労金の位置付け

まず、受け取るはずであった役員退職慰労金が、取引全体の中でどのような位置を占めているのかを確認します。中小企業のM&Aでは、役員退職慰労金が単なる功労への謝礼ではなく、対価の一部として組み込まれていることが少なくありません。

譲渡対価の一部を役員退職慰労金の形で支払う建て付け

例えば、株式の評価額が2億円と算定された案件で、株式の譲渡代金を1億6000万円とし、残りの4000万円を退任する代表取締役への役員退職慰労金として対象会社から支給する、という組み方があります。役員退職慰労金として受け取る部分は退職所得として扱われ得ること、支給する会社の側では一定の要件のもとで損金に算入し得ることなど、税務上の理由からこうした設計が採られます。したがって、役員退職慰労金が支払われないという事態は、感覚としては合意した対価の一部が支払われていない事態にほかなりません。

支払義務を負うのは対象会社であって買主ではありません

役員退職慰労金は、取締役が職務の執行の対価として会社から受ける財産上の利益にあたり、会社法第361条第1項にいう報酬等に含まれるものとして扱われています。支払う主体は、ご自身が取締役として在任していた対象会社です。買主は株式を取得して株主になった者にすぎず、株主であるというだけで会社の債務を負うわけではありません。内容証明郵便を買主の代表者宛てにだけ送り、後になって「当社は債務者ではない」と反論されて振り出しに戻る例が実際にあります。

もっとも、買主に対する請求が成り立つ場合があります

買主が支払義務者でないことと、買主に何も請求できないこととは別です。株式譲渡契約に、「買主は、クロージング後速やかに、対象会社をして、売主に対し役員退職慰労金を支給させる」といった条項が置かれている場合、買主は、自らの契約上の義務として、対象会社に支給させる結果を実現する債務を負っています。これを果たさないことは買主自身の債務不履行であり、民法第415条第1項に基づく損害賠償を請求し得ます。損害の額は、原則として支給されるはずであった金額に相当する額として主張します。つまり、対象会社に対しては役員退職慰労金そのものの支払を、買主に対しては契約違反による損害賠償を求めるという、性質の異なる2本の請求を立てる形です。

照合すべき3つの書類

誰に何を請求するかを決めるために、株式譲渡契約書とその附属書類、対象会社の株主総会議事録及び取締役会議事録、役員退職慰労金規程の3つを並べて突き合わせます。株式譲渡契約に金額が書かれていても株主総会の決議がなければ対象会社への請求は立ちにくく、決議があっても契約に買主の義務が書かれていなければ買主への請求は立ちにくい、という関係にあります。3つのうちどれが欠けているかによって、進むべき道筋が変わりますので、まずは手元の資料を集め、欠けているものを特定してください。

株主総会の決議があるか

対象会社に対する請求ができるかどうかは、株主総会の決議の有無でほぼ決まります。ここが分水嶺ですので、真っ先に確認してください。

決議がなければ具体的な請求権は発生しないのが原則です

取締役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めるものとされています。会社法第361条第1項がこれを定めており、役員退職慰労金もこの報酬等に含まれます。したがって、決議を経ていない段階では、支給するという話し合いがあったとしても、対象会社に対する具体的な金銭債権としてはまだ成立していないと扱われるのが原則です。これは裁判上も広く受け入れられた考え方です。買主が「株主総会で決めていないのだから会社は払えない」と述べるのは、その限りでは形式的に誤りではありません。ただし問題はそこで終わらず、決議を成立させる義務を誰が負っていたのかという次の論点に移ります。なお、監査役であった方については、会社法第387条第1項が定款又は株主総会の決議によることを定めています。

一任決議の形をとっている場合

実務では、株主総会において「退任する取締役に対し、当社所定の役員退職慰労金規程に従い相当額の範囲内で退職慰労金を贈呈することとし、その具体的な金額、支給の時期及び方法は取締役会に一任する」という形の決議を行う例が多くあります。この形であっても、支給の基準となる規程が存在し、それに従って定めるのであれば、決議として有効に扱われるのが一般的な理解です。次に、取締役会議事録、又は取締役会から代表取締役へ再度一任がされた場合の決定書を確認し、具体的な金額が定まっているかどうかをたどります。

議事録をどのように入手するか

株主総会議事録は本店に備え置くべきものとされ、株主及び債権者は閲覧又は謄写を請求し得ます。会社法第318条がこれを定めており、役員退職慰労金の支払を求める立場は、対象会社に対する債権者としての請求という位置付けになります。請求は口頭ではなく書面で行い、対象とする総会の開催日、来社する日時、謄写を求める旨を明記してください。取締役会議事録については閲覧に裁判所の許可を要する場合がありますので、まずは任意の開示を求め、応じない場合には訴訟の中で文書提出命令の申立てを検討します。もっとも実際には、クロージング当日に署名した書類一式の写しが手元に残っていることが多くあります。

決議がされていなかった場合に採り得る道

調べた結果、決議が存在しないと判明する場合があります。第一に、対象会社に対して株主総会の招集と決議を求める方法がありますが、現在の株主は買主ですので、決議が成立するかどうかは買主の意思次第です。第二に、株式譲渡契約に買主が決議を成立させる義務を負う旨の定めがあれば、その履行を求め、応じない場合には不履行として損害賠償を求める方法です。第三に、支給を免れる目的で意図的に決議を行わない場合、契約上の義務違反として構成する方法です。実際上は第二の道が中心になります。

株式譲渡契約における約束の内容

決議が整っていない場合の主戦場は、株式譲渡契約の文言です。前提条件を定めた条項、実行後の義務を定めた条項、補償を定めた条項の3か所に分散していることがあります。

条項の主語を読む

最も重要なのは、その条項の主語が誰かという点です。「買主は、対象会社をして、売主に対し役員退職慰労金として金○○円を支給させるものとする」とあれば、義務を負うのは買主です。他方、「対象会社は、売主に対し役員退職慰労金として金○○円を支給する」とあれば、文言上は対象会社が義務を負う形ですが、対象会社がその契約の当事者になっているかどうかを確認しなければなりません。株式譲渡契約は売主と買主の2者間の契約として作られることが多く、対象会社は当事者でないのが通常です。契約書末尾の署名押印欄を見て、対象会社が当事者として、あるいは連帯債務者や利害関係人として署名押印しているかを確かめてください。

実行の前提条件に組み込まれていたか

「クロージング日までに、対象会社において、売主に対する役員退職慰労金の支給を承認する株主総会の決議が行われていること」が、株式譲渡の実行の前提条件として定められている例があります。この定め方であった場合、実行がされている以上、決議は当日までに行われているのが通常であり、議事録が既に作成されている可能性が高くなります。逆に、支給が実行後に果たすべき義務として定められていた場合には、期限の定めに従って履行を求める構成になります。

支給の時期、方法及び条件の定め

一括払か分割払か、支払期限はいつか、分割の場合に1回でも遅滞すれば残額を一括して請求し得る旨の定めがあるかを確認します。注意を要するのは「対象会社の資金繰りの状況に応じて」といった条件が付されている場合です。この文言があると請求の難度が上がりますので、有無を先に確認し、あった場合には条件が満たされていることを示す資料、例えば直近の決算書や試算表の入手を早い段階から考えておく必要があります。

買主による保証、留保金及び相殺の条項

買主が対象会社の支払を連帯して保証している場合には、買主に対して保証債務の履行を直接求め得ます。この定めの有無で回収の見通しは大きく変わります。さらに、売主が買主に対して負う補償債務と支払うべき金銭とを相殺し得る旨の条項が置かれている場合、後述する表明保証違反の主張と結び付けて相殺を持ち出されやすくなります。条項の有無と、その相殺が及ぶ範囲を、あらかじめ読んでおいてください。

金額はどのように算定されているか

請求する以上、金額を確定しなければなりません。ここでは、支給し得る金額の上限をどう設計するかという問題ではなく、既に合意された金額がいくらであり、それをどの書類で証明するかという観点だけを扱います。

役員退職慰労金規程を確認する

役員退職慰労金規程は、一般に、退任時の月額報酬の額に、在任年数と役位ごとに定められた倍率を乗じて算定する方式をとっています。確認すべきは、算式そのものよりも、その規程がいつ制定され、いつ改定され、誰に適用されるものとされているかという点です。M&Aの話が始まった後に規程を新設し、又は改定している案件では、その制定又は改定を承認した手続が適法に行われているかどうかが争われることがあります。

規程がない場合、規程と合意額が異なる場合

中小企業では、そもそも役員退職慰労金規程を備えていない会社も多くあります。その場合、算定の根拠となるのは、株式譲渡契約に書かれた金額そのもの、又は株主総会で決議された金額です。他方、規程に従って計算した額と契約で合意した額とが食い違うこともあります。当事者が金額を明示して合意した以上、合意額が基準になると考えるのが自然ですが、買主から「規程の水準を超える部分には根拠がない」と争われる余地は残ります。これに備え、金額がどのように決まったかを示す資料、すなわち交渉過程のメール、M&A仲介業者が作成した提案資料や対価の内訳表、面談の議事メモを保存しておいてください。

税金の取扱いは請求額を確定するために必要な限度で

役員退職慰労金は原則として退職所得として扱われ、支給する対象会社は源泉徴収の義務を負います。請求は税引前の総額で行うのが通常で、実際に振り込まれるのは源泉徴収後の金額です。訴訟においても総額を請求し、支払の段階で会社が源泉徴収を行う取扱いが一般的です。なお、支給額が損金に算入されるかどうかや、役位別の倍率が相当な水準かどうかという議論は、本来は支給を設計する段階の問題です。本稿の場面では、買主がそれらを理由に減額を求めてきた場合に、その主張の当否を検討する材料として意味を持つにとどまります。

買主が支給を拒む理由と、その当否

買主が支給を拒む際に述べる理由は、実務上ある程度型が決まっています。いずれについても、相手方の主張の根拠となる条項名と数字を書面で示すよう求めることが出発点になります。

株主総会の決議がないから会社としては支払えないという言い分

決議がなければ具体的な請求権が発生していないという点は、形式的には誤りではありません。しかし、株式譲渡契約において買主が決議を成立させる義務を負っていた場合、決議が存在しないのは買主が義務を果たさなかった結果です。自ら決議を成立させなかった者が、決議の不存在を理由に支払を免れるという結論は、契約の趣旨に反します。この場合には、対象会社に対する請求ではなく、買主に対する債務不履行に基づく損害賠償請求として組み立て直すことになります。

表明保証に違反があったので相殺するという言い分

クロージング後に簿外の債務や係争が見つかったとして、補償請求権との相殺を主張される例があります。相殺が効力を生じるには、相手方が主張する債権が現実に存在し、その額が確定していることが必要です。違反の疑いがある、調査中であるという段階では、相殺の効果は生じません。相手方に対しては、どの表明保証条項に、どの事実が違反し、その結果いくらの損害が生じたのかを書面で明示するよう求めてください。あわせて、補償条項に定められた請求可能期間、1件あたりの下限額、補償の上限額を確認します。期間が経過していれば、その主張自体が成り立たない場合もあります。

業績が悪化した、資金繰りが厳しいという言い分

会社の業績や資金繰りは、支払義務が存在するかどうかとは関係のない事情です。支払能力の問題であって、支払義務の問題ではありません。ただし、現実に回収できるかどうかには直結しますので、この言い分が出た場合は、むしろ急いで動く理由になります。対象会社の預金口座、不動産、売掛金といった資産の把握を進め、後述する保全の手続を検討する段階に入ります。分割払の和解に応じる場合でも、公正証書の作成や連帯保証の付加を求めることを検討してください。

引継ぎが不十分であった、競業避止の約束に反しているという言い分

これらは、役員退職慰労金の支払義務とは別個の、売主側の義務違反の主張です。仮にその主張が正しいとしても、それだけで役員退職慰労金の支払義務が当然に消滅するわけではありません。相手方が同時履行の抗弁や相殺として持ち出す場合には、どの条項を根拠とし、どのような損害が生じたのかを明らかにするよう求めます。

請求及び訴訟の進め方

方針が定まったら、手順に従って進めます。感情的なやり取りを重ねるより、資料をそろえ、相手方を確定し、期限を切って書面で請求するほうが、結果として早く動きます。

資料をそろえる

次の資料を集めてください。

  • 株式譲渡契約書及びその附属書類、別紙、開示書面の一式
  • 基本合意書、意向表明書など、交渉の経過を示す書面
  • 株主総会議事録、取締役会議事録及び株主総会の招集通知
  • 役員退職慰労金規程及びその改定の履歴
  • 辞任届の写し及び登記事項証明書
  • 源泉徴収票、報酬決定に関する書面、支払明細
  • M&A仲介業者又はファイナンシャル・アドバイザーが作成した提案資料及び対価の内訳表
  • 買主及び対象会社との交渉のメール、通知書、面談の記録
  • 対象会社の直近の決算書及び試算表

手元にないものは、対象会社に対する書面での開示請求と、登記所での証明書の取得によって補います。

相手方を確定して請求書を送る

対象会社に対しては、株主総会の決議と規程に基づく役員退職慰労金の支払を求めます。買主に対しては、株式譲渡契約上の義務の履行、すなわち対象会社に支給させることを求め、あわせて、これに応じない場合には債務不履行による損害賠償を求める旨を記載します。両者に対して同時に内容証明郵便を送り、支払期限を明示してください。書面には、根拠となる条項、決議の日付、金額の算定根拠を具体的に記載します。催告には、その時から6か月を経過するまでの間、時効の完成を猶予する効果がありますが、その期間内に訴えの提起などの手続をとらなければ猶予の効果は失われます。

時効に注意する

債権は、権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅します。民法第166条第1項第1号がこれを定めています。起算点は、支給の時期についての定めがあればその期限が到来した時と考えるのが基本です。決議がされていない事案では起算点そのものが争いになり得ますので、退任から年数が経過している場合は早めに手続に移ってください。相手方と話合いを続けている間も時効は進行します。

保全及び訴訟

対象会社の資産が流出するおそれがあるときは、訴訟に先立って仮差押えを申し立てることが考えられます。民事保全法第20条第1項が仮差押命令について定めています。訴訟では、対象会社と買主を共同の被告として、対象会社には決議に基づく役員退職慰労金の支払を、買主には株式譲渡契約違反による損害賠償を求める形が考えられます。決議が存在しない事案では、対象会社に対する請求は認められにくく、買主に対する請求が中心になります。事案により結論は異なりますので、資料をそろえたうえで見通しを立てることになります。

よくあるご質問

以下は、会社を売却された後に役員退職慰労金の支払を受けられない元経営者の方から、実際にお寄せいただくことの多いお尋ねです。個別の結論は、株式譲渡契約の文言、株主総会の決議の有無及び事実関係によって異なりますので、一般的な考え方としてお読みください。

譲渡代金は全額受け取っています。それでも役員退職慰労金を請求できますか

請求し得ます。株式の譲渡代金は、株式という財産を買主に移転したことの対価であり、支払う相手は買主です。これに対して役員退職慰労金は、取締役として職務を執行したことの対価として対象会社から受け取るものであり、当事者も根拠も異なります。代金を受け取ったことによって役員退職慰労金の請求権が消えるわけではありません。ただし、株式譲渡契約に、代金の受領をもって一切の債権債務が清算されたものとする趣旨の条項が置かれている場合には、その対象範囲が争点になりますので、契約書末尾付近の清算条項の文言を確認してください。

買主に直接請求してよいでしょうか

買主だけに請求するのは避けたほうが安全です。役員退職慰労金そのものの支払義務を負うのは対象会社ですので、まず対象会社を相手方として請求します。そのうえで、株式譲渡契約に買主が支給させる義務を負う旨の定めがあれば、買主に対しても、その義務の履行と、応じない場合の損害賠償を求める書面を同時に送ります。買主が支払を連帯保証している場合には、買主に対して保証債務の履行を直接求め得ます。

株主総会の議事録が手元にありません。どうすれば確認できますか

株主総会議事録は本店に備え置くべきものとされ、株主及び債権者は閲覧又は謄写を請求し得ます。会社法第318条がこれを定めていますので、対象会社に対し、対象とする総会の開催日と来社を希望する日時を明記した書面で請求してください。あわせて、クロージング当日に交わした書類一式の写し、顧問税理士事務所や司法書士事務所の控え、M&A仲介業者が保管する取引記録にも当たってください。

株主総会の決議がされていないと言われました。もう請求できないのでしょうか

対象会社に対する請求という形では難しくなりますが、それで終わりというわけではありません。株式譲渡契約において、買主が支給に協力し、又は決議を成立させる義務を負っていた場合、決議が存在しないのは買主がその義務を果たさなかった結果です。この場合には、買主に対し、契約上の義務の不履行による損害賠償を求める構成が考えられます。損害の額は、支給されるはずであった金額に相当する額として主張します。まず株式譲渡契約の条項を精査し、買主に何を約束させていたかを確定してください。

表明保証に違反があったので相殺すると言われました。応じるべきでしょうか

直ちに応じる必要はありません。相殺が効力を生じるには、相手方が主張する債権が現に存在し、その額が確定していることが必要です。調査中である、違反の疑いがあるという段階では相殺の効果は生じません。相手方に対しては、どの条項に、どの事実が違反し、いくらの損害が生じたのかを、根拠資料とともに書面で示すよう求めてください。あわせて、補償条項に定められた請求可能期間、1件あたりの下限額、補償の上限額を確認します。

対象会社にお金がないと言われています。どうすればよいでしょうか

支払能力の問題と支払義務の有無の問題とは別ですので、まずは請求権の存否を確定させます。そのうえで、現実の回収に向けて対象会社の資産の把握を進めます。資産が流出するおそれがあるときは、仮差押えの申立てを検討します。買主に対する請求が成り立つ事案であれば、資力のある買主に対する請求を組み合わせることで、回収の可能性を高め得ます。事案によって結論は異なりますので、資料をそろえたうえでご相談ください。

具体的なご相談をお考えの皆様へ

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